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ゴミ箱の中の子供達 第20話
閉鎖都市内のとあるハイスクールの一角。ちょうど昼の号令が鳴り終えたばかりの学生食堂は人であふれていた。
つい先ほど本日の日替わりヌードルであるカルボナーラを受け取ったマリアンは人でごった返す食堂を見渡し空席を
探していた。ふと壁際のテーブルに空きがあることに気がついた。そこは照明が届ききらないのかどこか薄暗く、
壁の白さも相まって寒々しい印象を受け、あまり座りたいと思えるような席ではなかったのだが、この満席近い
食堂で別の席を見つけるのは望むべくもない。マリアンは仕方なくその寒々しい席に足を向けるのだった。
つい先ほど本日の日替わりヌードルであるカルボナーラを受け取ったマリアンは人でごった返す食堂を見渡し空席を
探していた。ふと壁際のテーブルに空きがあることに気がついた。そこは照明が届ききらないのかどこか薄暗く、
壁の白さも相まって寒々しい印象を受け、あまり座りたいと思えるような席ではなかったのだが、この満席近い
食堂で別の席を見つけるのは望むべくもない。マリアンは仕方なくその寒々しい席に足を向けるのだった。
「この席空いてますか?」
空席の前に到着したマリアンは、礼儀として隣の席の男に声をかけた。黙々とベイクドビーンズをつついていた彼は
スプーンを止めて答える。空いてますよ。そのまま顔を上げた彼はマリアンの顔を見て声を漏らした。あ――。2つの
声が重なる。マリアンもまた男の顔を見て声を漏らしていた。
スプーンを止めて答える。空いてますよ。そのまま顔を上げた彼はマリアンの顔を見て声を漏らした。あ――。2つの
声が重なる。マリアンもまた男の顔を見て声を漏らしていた。
「マリアン」
「ドラギーチ」
「ドラギーチ」
また、2人の声が重なった。見知った兄弟の姿にマリアンは緊張を解くような息を吐いて手にしたトレーを机に置いた。
そのまま椅子に腰を下ろしたマリアンはフォークを手に取るとトレーに盛られたスパゲッティの塊にフォークを突き刺す。
くるくるとフォークを回しスパゲッティを絡めて取っていると、出し抜けに横から声をかけられた。
そのまま椅子に腰を下ろしたマリアンはフォークを手に取るとトレーに盛られたスパゲッティの塊にフォークを突き刺す。
くるくるとフォークを回しスパゲッティを絡めて取っていると、出し抜けに横から声をかけられた。
「モニカを知らないか」
マリアンが顔を上げると、ドラギーチがこちらをじっと見つめていた。繊細そうな青い瞳がマリアンを捕らえて離さない。
「学校に来てないみたいだけど」
ドラギーチはそう続けた。彼がモニカを気にするその真意を察していながらも、マリアンは事も無げに答えた。
「サボりよ。いまごろゲオルグお兄ちゃんと2人でお昼でも食べてるんじゃない」
そのまま顔を戻すとフォークを持ち上げてパクリ。カルボナーラを口に含んで咀嚼する。噛めば噛むほど口に広がる
油分多目の安っぽい味。もっとも、学生食堂なのだから仕方あるまい。その貧相な味を諦めて嚥下したところで、
マリアンは先ほどの言葉の反応が返ってこないことに気がついた。ちらりとマリアンは横目でドラギーチの様子を伺う。
ドラギーチは随分と沈んだ様子でベイクドビーンズの下のジャケットポテトをスプーンで切り裂いては潰していた。
どうやら想像以上にショックを受けているようだ。
油分多目の安っぽい味。もっとも、学生食堂なのだから仕方あるまい。その貧相な味を諦めて嚥下したところで、
マリアンは先ほどの言葉の反応が返ってこないことに気がついた。ちらりとマリアンは横目でドラギーチの様子を伺う。
ドラギーチは随分と沈んだ様子でベイクドビーンズの下のジャケットポテトをスプーンで切り裂いては潰していた。
どうやら想像以上にショックを受けているようだ。
「なによ、そんなに悔しい?」
マリアンの言葉にドラギーチはジャケットポテトに視線を向けたまま、ようやく口を開いた。
「なんで、あんなやつと」
口から吐き出されたのは、余りにも情けない恨み言。彼からあふれる嫉妬の感情にマリアンはやれやれと息を吐いた。
「あんなやつって言うけど、お兄ちゃんはそんなに悪い人じゃないじゃない」
仕事のほうは黒い噂しか聞かない。だが、それでも彼個人は孤児院の兄弟のためによくしてくれている。その部分は
見習うべきではないのか。最後の雑観は飲み干してマリアンは言うのだが、嫉妬でまみれたこの男には火に油だったようだ。
マリアンの言葉に彼は目をむいた。
見習うべきではないのか。最後の雑観は飲み干してマリアンは言うのだが、嫉妬でまみれたこの男には火に油だったようだ。
マリアンの言葉に彼は目をむいた。
「でも、あいつは――」
――犯罪者じゃないか。激高したドラギーチの言葉の続きを察したマリアンは慌てて彼の口を塞いだ。
「はいはいストーップ。分かったから、言いたいことは分かったから、とりあえず落ち着いて。ね」
マリアンの有無を言わさぬ行為に気圧されたのか、ドラギーチは逡巡した後、弱々しく頷いた。その首の動きを確認して、
マリアンはドラギーチの口から手を離す。ドラギーチはわざとらしく口から息を吐き、マリアンは掌の湿り気を払うように手を
振った。
マリアンはドラギーチの口から手を離す。ドラギーチはわざとらしく口から息を吐き、マリアンは掌の湿り気を払うように手を
振った。
「まー、お兄ちゃんの問題も分からないでもないけど、でもそーやって僻んでるあんた、しょーじき言ってみっともないわよ」
マリアンの言葉を聞いているのかドラギーチは返事を返すことなくまたジャケットポテトを潰し始めた。こういう態度を
見ていると無性に腹が立ってくる。もう放っておこうか。マリアンは思うのだが、もう少し自分は慈悲深くても良いのではないか
と思い直し、言葉を続けた。
見ていると無性に腹が立ってくる。もう放っておこうか。マリアンは思うのだが、もう少し自分は慈悲深くても良いのではないか
と思い直し、言葉を続けた。
「まったく、あんたは、お兄ちゃんからモニカを奪ってやる、って思うくらいの根性は無いわけ?」
「奪うって、どうやって?」
「奪うって、どうやって?」
芋に目を向けたままドラギーチはぼそりと呟く。神経を逆なでする態度に変わりないが、話に乗ってきただけよしとするか。
マリアンは大げさにため息をついてから言い始めた。
マリアンは大げさにため息をついてから言い始めた。
「どうって簡単なことじゃない。お兄ちゃんよりも魅力的な男になればいいだけでしょ」
マリアンの言葉にドラギーチは芋を潰す手を止めて……こんどはスプーンの先でぐりぐりし始めた。こうでもしないと彼は
物を考えられないのだろうか。ドラギーチに対する嫌悪感がそろそろ最高潮に達し始めたマリアンはまた大きなため息をつくと
自分のフォークをカルボナーラに突き刺した。麺を巻き取って、そのまま口へ。いざこの安いスパゲッティーを噛み締めようと
したところで、ようやくドラギーチがささやく様に言った。
物を考えられないのだろうか。ドラギーチに対する嫌悪感がそろそろ最高潮に達し始めたマリアンはまた大きなため息をつくと
自分のフォークをカルボナーラに突き刺した。麺を巻き取って、そのまま口へ。いざこの安いスパゲッティーを噛み締めようと
したところで、ようやくドラギーチがささやく様に言った。
「モニカはどんな男が好みだろうか」
視線を向けるとドラギーチはスプーンを動かす手を止めてこちらを見ていた。とりあえず片手を挙げて、パスタを飲み干す。
しかる後マリアンは話し始めた。
しかる後マリアンは話し始めた。
「モニカはお兄ちゃんのこんなところが好きって言ってたわね」
かつて就寝前にモニカが語った兄の魅力あふるるところを思い出す。あれは確か――
「強くて、いざというとき守ってくれそうなところ、ね」
シャツの上からでも分かる鍛え抜かれた肉体に、無愛想な表情から来る安定感と安心感。普段の孤児院に対する行動から
あふれる誠意に満ちた人柄は、いざというときに身を挺すことをいとわないと感じさせる。そうモニカは熱っぽく語っていた。
あふれる誠意に満ちた人柄は、いざというときに身を挺すことをいとわないと感じさせる。そうモニカは熱っぽく語っていた。
「強くて……」
ドラギーチはマリアンの言葉を途中まで呟いて沈み込んだ。この線の細いナード面した男にタフネスを求めるのは酷かもしれない。
マリアンは励ますようにドラギーチの肩を叩いた。
マリアンは励ますようにドラギーチの肩を叩いた。
「あんたも少しは体鍛えなさいよ」
そしてこのなよなよした性格も矯正されれば言うことなしだ。そんなマリアンの願いを知ってか知らずか、ドラギーチはいくらか
逡巡した後答えた。
逡巡した後答えた。
「頑張ってみる。ありがとう」
「いいってことよ」
「いいってことよ」
モニカの言うとおりドラギーチはまだまだ未熟だ。だからこれを機に成長してくれればいい。そうすれば自分も安心してモニカを
任せられる。マリアンはそう思いながらカルボナーラにフォークを突き刺した。
任せられる。マリアンはそう思いながらカルボナーラにフォークを突き刺した。
孤児院に戻るとモニカがベッドの上でクッションに顔を埋めていた。何か悪いことでも会ったらしい。鞄を己の机に降ろした
マリアンはモニカの脇に腰掛ける。ベッドの梁が新たな加重にぎしと音を立てた。
マリアンはモニカの脇に腰掛ける。ベッドの梁が新たな加重にぎしと音を立てた。
「どーしたの。サボりをこっ酷く叱られたりでもしたの?」
クッションの中でモニカがもそもそと首を振る。
「怒られたけど、それじゃない」
「じゃ、どーしたのよ」
「じゃ、どーしたのよ」
答えは返ってこない。もっともモニカとは18年の付き合いになるのだから、大体のことは心得ている。今モニカは言葉を
捜しているのだ。これは時間がかかりそうだ。マリアンはモニカの返答を待つ間、何が起こったのかあれこれ考えてみることにした。
兄が、モニカに幻滅されるような失態でも起こしたのだろうか。いや、それならモニカはクッションに顔を埋めてまで悩まないだろう。
クッションを抱いて座って、お兄ちゃんのこと好きじゃなくなった、とか呟くに違いない。ならば兄に手酷く振られたか。いや、
それなら答えに詰まらずすぐに。振られちゃった、と言うだろう。となればなにか考えさせられるような事件があったのだろう。
推論できるのはここまでだ。後はモニカが言わなければ分からない。思考を終了しモニカの言葉を待つことに専念しよう。
程なく、クッションでいくらかこもった声がマリアンの耳に入った。
捜しているのだ。これは時間がかかりそうだ。マリアンはモニカの返答を待つ間、何が起こったのかあれこれ考えてみることにした。
兄が、モニカに幻滅されるような失態でも起こしたのだろうか。いや、それならモニカはクッションに顔を埋めてまで悩まないだろう。
クッションを抱いて座って、お兄ちゃんのこと好きじゃなくなった、とか呟くに違いない。ならば兄に手酷く振られたか。いや、
それなら答えに詰まらずすぐに。振られちゃった、と言うだろう。となればなにか考えさせられるような事件があったのだろう。
推論できるのはここまでだ。後はモニカが言わなければ分からない。思考を終了しモニカの言葉を待つことに専念しよう。
程なく、クッションでいくらかこもった声がマリアンの耳に入った。
「あたし、お兄ちゃんのことが分からなくなってきた」
おそらく、このデートで知らぬ兄の一面を見たのだろう。夜毎に兄について語っていたモニカにとっては、確かにそれは
一大事かもしれない。しかし、それがいったい何なのかはまだ言及されていない。
一大事かもしれない。しかし、それがいったい何なのかはまだ言及されていない。
「とりあえず、何があったか、から話してくれない?」
「うん」
「うん」
クッションから体を持ち上げて、モニカは姿勢を正す。ベッドの上に座りなおしてから、モニカは語り始めた。