Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・「白狐と青年」 > 第27話
盤面の動き
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裁判所から出た匠とクズハは、明日名と共に行政区にとっていた宿へと向かった。
震災以前から残っているという古さが目立ち始めた、しかし来歴が古いが故に様々な客を迎えてきた実績があり、異形にも比較的寛容な安ホテルにとった匠たちの部屋。そこに追加の宿泊手続きを行いながら、明日名は自分が法廷内に飛び込んできた理由を話した。
「君たちが行政区からの呼び出しを受けて和泉を出たって聞いたからね。つい先日の異形の大襲撃の事もある。ロクな事にはなっていないだろうと思っていたけど……どうやら行って正解だったみたいだ」
「本当に、タイミングも助かった」
匠のため息交じりの言葉に明日名はどうやらそのようだね、と頷いて難しそうな顔をする。
「審問官もまともだったし、場がのっぴきならない程に荒れる事もなかった。それに一応法廷内への侵入は許可してもらったけど、今回の事を命じたのはおそらく登藤通光だろう」
明日名の口に上った人名についてクズハが訊ねる。
「さっきも聞いた名前ですけど、登藤……通光さんというのはどんな方なんですか?」
「ん、異形排斥派の首魁だ。元々研究者としても政治家としても有能な人で、第一次掃討作戦の頃には大阪圏で指揮を執ってこの地を守った人間のうちの一人だよ」
そして、と目を細める。
「平賀博士や俺が今探りを入れている人物だ」
「あの……探りを入れているというのは……」
クズハの問いに明日名は頷いた。
「和泉に今井君や舟山のような一部異形化した人間、それに多くの理性ごと完全に異形化した人間を送りこんだ犯人ではないかと俺たちが疑っているという事だよ」
「異形排斥派の偉い人を……ですか?」
「異形排斥派の偉い人だから、だよ。そのような地位にあって様々な情報を得ていたからこそ、これまで平賀博士が諸所の情報から怪しげな実験を潰す為に手を打つその前に証拠や施設を処分する事に成功していたのだろうと俺や博士は予想している」
異形排斥派の首魁のような大物が出張って来るかもしれないと聞いた匠は眉を詰めて唸る。
「とは言っても、状況的に見れば平賀博士が手を打つより早く動く事ができた人間は彼以外にも居るし、通光が実際に何かをしているという証拠を掴む事は出来ていない。今日の件だって審問の内容が多少強引な事以外は別段怪しいところは無いし、俺が法廷に入る許可も出してくれている。――決め手が無いんだ」
明日名は嘆息する。
「通光が怪しかったとして、その目的がどこにあるのかは分かっているんですか?」
「人間の強化か、何か新しい術なり武器の開発の為か……いくつか候補はあるけど、これも正確なところは分からないな」
匠の問いに曖昧な笑みを浮かべて明日名はけど、と言葉を繋げる。
「キッコから聞いた和泉に現れたという異形化した人間の言い分からしてクズハ、君が彼等にとって特別な意味を持つ存在らしいという事は憶えておいた方がいい」
「私が……?」
「そうだ。そしてこの行政区への呼び出しは坂上君以外に君も指名しての事だ。通光がそうでなくても大阪圏のどこかに黒幕がいる可能性は高いんだ。何か連中が仕掛けて来ると思っておいた方がいいね」
たしかにそうだ。舟山はクズハを全身移植の唯一の成功例と言っていたし、クズハを狙って彼等は動いていたとも聞いた。
そう思い出して匠も同意する。
「あの審問官からまだしばらく行政区で待機しているようにとの指示は受けて、俺たちは結局ここに留めおかれる事になりました。何が起こるかは分からないし、警戒は解かないようにします。
ところで平賀のじいさんはどうしてますか? キッコの件で信太の森の異形たちも含めて潔白を強引に承認させようとしていたという話は和泉の番兵たちから聞いたんですけど」
明日名は「ちょっと面倒なことになっているね」と言って匠たちが宛がわれている部屋の扉を開けた。
内装には経年による劣化が目立つがまだまだ現役の部屋の片隅、墓標を中心として積まれている二人分の荷物の山へと荷物を放り投げて続きを話す。
「平賀博士は口八丁でキッコの隠匿の件は言い逃れたんだけど、やっぱりなにもお咎めなしというわけにもいかなかったんだ。平賀は今自由に動くことはできない状態にある。しばらく研究区に謹慎だ」
「じいさんも大変だ」
研究区内なら何らかの不便をあの老人が感じる事はないだろうと思いながら匠は呟く。
「……もし黒幕が居た場合、今のこのタイミングは狙い目という事か……」
「あるいは、こうして君たちをこの行政区へと招いた事が既にそのタイミングを利用されているのかもしれない。全てはまだ判断できないけど、気を付けてほしい。最悪、行政区そのものが敵になる可能性もあると理解しておいてもらいたい」
そう明日名は付言する。
たしかに、今回匠たちを呼び出したのは行政区全体という事にはなっているが、審問の場の様子から考えて主導権を握っていたのは異形排斥派だろう。
いつの間にか整えられていきつつあるように思われる状況に、匠は重苦しいものを感じる。
クズハも明日名も似たような事を考えているのか表情が硬い。
匠は殊更大きく息を吐き出して明るい声を上げた。
「先の見えない話は終わりだ。何か食べよう。こっちに来てからすぐにあんな問答させられて疲れた……腹が減ったよ」
震災以前から残っているという古さが目立ち始めた、しかし来歴が古いが故に様々な客を迎えてきた実績があり、異形にも比較的寛容な安ホテルにとった匠たちの部屋。そこに追加の宿泊手続きを行いながら、明日名は自分が法廷内に飛び込んできた理由を話した。
「君たちが行政区からの呼び出しを受けて和泉を出たって聞いたからね。つい先日の異形の大襲撃の事もある。ロクな事にはなっていないだろうと思っていたけど……どうやら行って正解だったみたいだ」
「本当に、タイミングも助かった」
匠のため息交じりの言葉に明日名はどうやらそのようだね、と頷いて難しそうな顔をする。
「審問官もまともだったし、場がのっぴきならない程に荒れる事もなかった。それに一応法廷内への侵入は許可してもらったけど、今回の事を命じたのはおそらく登藤通光だろう」
明日名の口に上った人名についてクズハが訊ねる。
「さっきも聞いた名前ですけど、登藤……通光さんというのはどんな方なんですか?」
「ん、異形排斥派の首魁だ。元々研究者としても政治家としても有能な人で、第一次掃討作戦の頃には大阪圏で指揮を執ってこの地を守った人間のうちの一人だよ」
そして、と目を細める。
「平賀博士や俺が今探りを入れている人物だ」
「あの……探りを入れているというのは……」
クズハの問いに明日名は頷いた。
「和泉に今井君や舟山のような一部異形化した人間、それに多くの理性ごと完全に異形化した人間を送りこんだ犯人ではないかと俺たちが疑っているという事だよ」
「異形排斥派の偉い人を……ですか?」
「異形排斥派の偉い人だから、だよ。そのような地位にあって様々な情報を得ていたからこそ、これまで平賀博士が諸所の情報から怪しげな実験を潰す為に手を打つその前に証拠や施設を処分する事に成功していたのだろうと俺や博士は予想している」
異形排斥派の首魁のような大物が出張って来るかもしれないと聞いた匠は眉を詰めて唸る。
「とは言っても、状況的に見れば平賀博士が手を打つより早く動く事ができた人間は彼以外にも居るし、通光が実際に何かをしているという証拠を掴む事は出来ていない。今日の件だって審問の内容が多少強引な事以外は別段怪しいところは無いし、俺が法廷に入る許可も出してくれている。――決め手が無いんだ」
明日名は嘆息する。
「通光が怪しかったとして、その目的がどこにあるのかは分かっているんですか?」
「人間の強化か、何か新しい術なり武器の開発の為か……いくつか候補はあるけど、これも正確なところは分からないな」
匠の問いに曖昧な笑みを浮かべて明日名はけど、と言葉を繋げる。
「キッコから聞いた和泉に現れたという異形化した人間の言い分からしてクズハ、君が彼等にとって特別な意味を持つ存在らしいという事は憶えておいた方がいい」
「私が……?」
「そうだ。そしてこの行政区への呼び出しは坂上君以外に君も指名しての事だ。通光がそうでなくても大阪圏のどこかに黒幕がいる可能性は高いんだ。何か連中が仕掛けて来ると思っておいた方がいいね」
たしかにそうだ。舟山はクズハを全身移植の唯一の成功例と言っていたし、クズハを狙って彼等は動いていたとも聞いた。
そう思い出して匠も同意する。
「あの審問官からまだしばらく行政区で待機しているようにとの指示は受けて、俺たちは結局ここに留めおかれる事になりました。何が起こるかは分からないし、警戒は解かないようにします。
ところで平賀のじいさんはどうしてますか? キッコの件で信太の森の異形たちも含めて潔白を強引に承認させようとしていたという話は和泉の番兵たちから聞いたんですけど」
明日名は「ちょっと面倒なことになっているね」と言って匠たちが宛がわれている部屋の扉を開けた。
内装には経年による劣化が目立つがまだまだ現役の部屋の片隅、墓標を中心として積まれている二人分の荷物の山へと荷物を放り投げて続きを話す。
「平賀博士は口八丁でキッコの隠匿の件は言い逃れたんだけど、やっぱりなにもお咎めなしというわけにもいかなかったんだ。平賀は今自由に動くことはできない状態にある。しばらく研究区に謹慎だ」
「じいさんも大変だ」
研究区内なら何らかの不便をあの老人が感じる事はないだろうと思いながら匠は呟く。
「……もし黒幕が居た場合、今のこのタイミングは狙い目という事か……」
「あるいは、こうして君たちをこの行政区へと招いた事が既にそのタイミングを利用されているのかもしれない。全てはまだ判断できないけど、気を付けてほしい。最悪、行政区そのものが敵になる可能性もあると理解しておいてもらいたい」
そう明日名は付言する。
たしかに、今回匠たちを呼び出したのは行政区全体という事にはなっているが、審問の場の様子から考えて主導権を握っていたのは異形排斥派だろう。
いつの間にか整えられていきつつあるように思われる状況に、匠は重苦しいものを感じる。
クズハも明日名も似たような事を考えているのか表情が硬い。
匠は殊更大きく息を吐き出して明るい声を上げた。
「先の見えない話は終わりだ。何か食べよう。こっちに来てからすぐにあんな問答させられて疲れた……腹が減ったよ」