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影武器姉妹 海編

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影武器姉妹 海編

投稿日時:2011/08/07(日) 23:18:25.75


クーラーのきいた室内で、昼食に祖母から送られてきたそうめんを二人で食べていた時のこと。
何事か突然彼方が立ち上がり、声高らかに宣言した。
「そうだ海に行こう!」
桃花は特に驚く様子もなく、麺をずずーっとすすりながら、
「どうしたの? いきなり。」
と訊く。
「いや、何か天の声が……。」
「ふぅん。まあ気を付けて行ってらっしゃい。」
「何言ってるの、姉さんも行くのよ。」
「へ?」
箸が止まる。
「ごちそうさま! さ、さっそく準備準備!」
「ちょ、ちょっと彼方!」

というわけで、海。
「うーん、やっぱり地味。」
桃花の競泳水着姿にダメ出しする彼方。
「そう言う彼方は子供っぽい。」
売り言葉に買い言葉。桃花も彼方の水着にケチをつけてみる。
確かに、ピンクのフリフリの水着に身を包んだ彼方は、年齢より一回りか二回りか幼く見えた。

「疲れたーっ!」
一時間ほど遊んだ末、彼方は砂浜に大の字に寝っ転がって叫んだ。
「ジュース買ってこよっか?」
「うん、お願い。」
そんな二人の様子を伺う怪しい二つの影があることを、彼女たちはまだ知らなかった。

「はいよ、マンゴー二つ!」
「ありがとうございます。」
十人ほどの行列に並んでようやく手に入れたマンゴージュース。
それを両手に持って片方をストローでちゅうちゅう吸いながら彼方の所に戻ろうとした、その時だった。
「ねえねえ、そこの君。」
二人組の男が桃花の目の前に立っていた。
「私、ですか?」
「君以外に誰がいるのさ。」
「俺ら男二人で寂しくてさあ。一緒に遊ばない?」
「……人を待たせてるんで。」
「妹さんでしょ? 大じょ……ごふっ!」
視界の端から飛び込んできたものが、会話中の男の頬にクリーンヒットした。
それは、いつの間にかやってきた彼方の見事な飛び膝蹴りだった。
「ふと……もも……。」
幸せそうな断末魔を残して男はその場に倒れた。
「姉さん! こういう奴らは相手せずにすぐ逃げなきゃ駄目でしょ!」
「いや、あの、そうしようとしてた所だったんだけど……。」
自分を無視した姉妹の会話に、もう一人の男が果敢に割り込む。
「あのねえお嬢ちゃん、俺らはお姉さんと大事な話があってね。」
「何か勘違いなさってるようですが、私、高校生ですけど。」
「マジ? そんなぺった」
男がその言葉を言い切ることは無かった。

二人は人気の無いエリアまで逃げるように走ってきた。
「何も……走らなくても……。」
「あんたが……あんな……目立つことするからでしょ。」
腰を下ろして息を整える。
「でも、ここ空いてるし泳ぎやすそう。」
切り替えの早い彼方であった。

そんなこんなでその場所で泳いでいた二人。
その時、唐突に桃花は足に絡まる何かを感じた。
「ちょっと彼方! 足引っ張らないでって……あれ?」
振り返って見ると彼方との距離は五メートル以上。どう見ても手の届く範囲ではない。
悪寒。と同時に、桃花は海の中に引きずり込まれた。
「姉さん!」
彼方の声も水しぶきにかき消された。

敵の正体は感覚で分かる。寄生に違いない。
だが何に寄生しているのかが分からない。
手探りで探してみても足を掴んだ者は見つからなかった。
そうしていると今度は左肩に寄生の感触。
慌てて影の剣を作り出し振る……が、手応えが無い。
(うそっ!?)
訳の分からないまま、肩ひもがひとりでに持ち上がるのを感じる。
(まさか……この寄生……海水そのものに寄生してる?)
パチンッ!
(きゃあっ!)
桃花が寄生の秘密に気付いたと同時に、肩ひもは寄生の力に耐えきれなくなり、あっけなく千切れた。
(こんなの、今の私じゃ勝てっこない!)
水は斬れない。
桃花は肩を押さえながら急浮上し、彼方に呼びかける。
「彼方! ここ危ないから帰るよ!」
「え……うん。」

陸に上がり、桃花は誓った。
「今度こそ絶対、絶対祓ってやるぅ!」
涙目のまま、彼方に慰められながら、桃花は海岸を後にした。


ところで、桃花は必死で気付かなかったようだが、よく考えてみると寄生からの追撃が無かったのは不思議である。
その理由についてだが、実はあの時、浜辺を望む崖の上から「鶏のような化物」が海をにらみつけていたとか。


おわり

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