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白狐と青年 第9話
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匠とクズハはひび割れたアスファルトが続く旧街道を歩いていた。
視界には彼らと同じように道を歩いて行く人間がそこここに見受けられる。
車が走っていないわけでもないがその数はまばらだ。
大阪圏の都市を車で回るのならば前時代に高速道路として使われていた道を使う方が効率が良い為だろう。
外部からの燃料供給を絶たれた日本は代替物として≪魔素≫を研究、使用し始めた。
最近では太陽光と≪魔素≫からエネルギーを取りだして走る車も作成され、以前ほど燃料問題にも悩まされなくなっている。
「いっぱい頼まれてしまいましたね」
クズハが金属棒の両端に大量の荷物をぶら下げ、担い運んでいる匠を見て言う。
「くそ、皆チャンスだとばかりに……」
渋い顔で匠。彼が今運んでいる大量の荷物は平賀の研究区へと家族が行っている者の頼みで運んでいる品物だ。
救護室を目覚めたその日の内にさっさと出た匠は和泉の自治街で居候させてもらっている道場へと赴いた。
そこでクズハは家出したという情報が浸透しているのか確認しようとして、
実は今回の家出騒動は匠の光源氏計画の一端であったという妙な噂がまことしやかに囁かれているという事実を突きつけられた。
「なんかその途中で信太の狐と遭遇して丁々発止の大決戦だったんだってな?」
師範のその言葉に門谷は一体どのような偽情報を流したのだろうと匠は頭を抱えたものだった。
その噂の妙な部分を否定するのに無駄に時間を使い、本題である用心棒業務廃業と平賀の研究区へと行く旨を告げた時には日が暮れていた。
翌日、借りていた部屋の掃除を終え、出発するに際して道場主夫妻にも頼まれごとをされた。
曰く、
「『息子に会ったらよろしく殴っておいてくれ』、か」
師範たちの息子は匠の友人でもある。第二次掃討作戦で匠が信太の森封印戦へと参加してから音信不通だったのだがどうやら平賀の研究区で現在暮らしているらしい。
パシリの憂さ晴らしにこれで殴って良いものだろうかと荷物を運ぶ天秤棒と化している金属棒を少し強く握り込む。
と、隣を歩くクズハが居心地悪げにしているのに気づいた。
彼女は身を心なし縮こませ、匠の背後に回り、心持ち周囲から体を隠すようにしている。
匠は周りの人間に視線を向けた。先程までは特に反応を示していなかった周囲の人々だが、少し反応の違う人が散見されるようになっていた。
クズハの耳や尾を指さす人間や、彼女を遠巻きに眺め、警戒する人間が現れ始めたのだ。
……しょうがないか。匠はそう思いながら周囲の人間に軽くガンをくれる。
ここは大阪圏の中心部に入りかける道中だ。人里で暮らす異形がそろそろ珍しくもなる。
第一次掃討作戦が行われる前までは大都市にも異形たちが跋扈していた。現在では大阪圏の中心部などの大都市ではほとんど異形を見る事もない。
しかし稀に人の社会へと侵入している異形を見た時、当時の恐怖が蘇ったかのように皆警戒しだす。
これが京の方にまで行けば都会でも普通に異形が居るんだけどな。
京の中心付近では安倍の勢力が強く、異形との共存を標榜しているためかクズハくらい人間に外見が近い異形やそれ以外の異形もよく街中で見かけた。
中央政府が正常に機能しなくなってからこっち、各都市で様々な特徴が出来ている。異形への対応の違いもその特徴の一つだろう。
「クズハ」
匠はひと通りガンをくれ終わると荷物の中から雨避け用のフード付きの長衣を渡す。
「あ、ありがとうございます」
クズハは耳と尻尾を目立たぬようにその中へと収めると、ほっとしたように小さく息を吐いた。
それを見て苦笑していると、「そこの二人」と拡声器で男の声に呼びかけられた。
声の方向へと視線を向ける。異形が街道に現れないかを監視している関門の番兵が匠たちの所へ向かって小走りに寄って来ているのが見えた。
彼の腕には大阪中央政府所属の武装隊であることを示す腕章が巻きつけられている。
「どうかしましたか?」
足を止めて返事をすると武装隊の男は手に持った端末でなにやら確認しながらクズハを見て、
「クズハ、だな。平賀博士のお墨付きならば大丈夫だろうが信太の森で第二次掃討作戦の折に行方が知れなくなった狐の異形がまた確認されたという話があった。現在狐型の異形に皆敏感だ」
情報はもう回っているらしい。流石だと思うがこれで通交禁止にでもされたらどうしたものか。
「制度でな。悪いがお前がそっちの異形を監視しているという事を周囲に知らせてもらう」
武装隊の男の言葉に取りえず通交は出来そうだと匠は内心胸を撫で下ろす。
「監視している事を知らせると言うと?」
「これを着けてもらう」
そう言って武装隊の男が取り出したのは首輪、そしてそれに繋がった鎖だった。
……趣味的だ。
一応は着けられる側の事も考えられてはいるようで腕輪も手錠のようなものよりもう少しソフトなイメージを抱かせる造りだ。具体的には輪の部分が花輪のようになっている。
なんとなく思う。これを作ったのは自分の養父である平賀だと。
「平賀博士が作った物だ。なんでも異形を徒に冷遇してはならんということで作られたスタイリッシュ首輪だそうだ」
ああ、やっぱり……。
制度自体は嫌いだけどもう決まってしまったのならということで出来るだけ身に着ける者に害が無いような代物を開発したんだろうな。
平賀はそう言う人間だ。ただそこに己の奇態な趣味を持ちこむせいで奇人扱いされるのだが。
ここでごねてもしょうがない。匠は首輪を受け取るとクズハの首へと繋いだ。
「すまん」
正直このような、あたかもクズハを奴隷のように見せる首輪をつけるのには抵抗がある。
「いえ、私はこういうのも嫌いじゃないですから」
フードの下のクズハの顔はあっけらかんとしたものだった。
視界には彼らと同じように道を歩いて行く人間がそこここに見受けられる。
車が走っていないわけでもないがその数はまばらだ。
大阪圏の都市を車で回るのならば前時代に高速道路として使われていた道を使う方が効率が良い為だろう。
外部からの燃料供給を絶たれた日本は代替物として≪魔素≫を研究、使用し始めた。
最近では太陽光と≪魔素≫からエネルギーを取りだして走る車も作成され、以前ほど燃料問題にも悩まされなくなっている。
「いっぱい頼まれてしまいましたね」
クズハが金属棒の両端に大量の荷物をぶら下げ、担い運んでいる匠を見て言う。
「くそ、皆チャンスだとばかりに……」
渋い顔で匠。彼が今運んでいる大量の荷物は平賀の研究区へと家族が行っている者の頼みで運んでいる品物だ。
救護室を目覚めたその日の内にさっさと出た匠は和泉の自治街で居候させてもらっている道場へと赴いた。
そこでクズハは家出したという情報が浸透しているのか確認しようとして、
実は今回の家出騒動は匠の光源氏計画の一端であったという妙な噂がまことしやかに囁かれているという事実を突きつけられた。
「なんかその途中で信太の狐と遭遇して丁々発止の大決戦だったんだってな?」
師範のその言葉に門谷は一体どのような偽情報を流したのだろうと匠は頭を抱えたものだった。
その噂の妙な部分を否定するのに無駄に時間を使い、本題である用心棒業務廃業と平賀の研究区へと行く旨を告げた時には日が暮れていた。
翌日、借りていた部屋の掃除を終え、出発するに際して道場主夫妻にも頼まれごとをされた。
曰く、
「『息子に会ったらよろしく殴っておいてくれ』、か」
師範たちの息子は匠の友人でもある。第二次掃討作戦で匠が信太の森封印戦へと参加してから音信不通だったのだがどうやら平賀の研究区で現在暮らしているらしい。
パシリの憂さ晴らしにこれで殴って良いものだろうかと荷物を運ぶ天秤棒と化している金属棒を少し強く握り込む。
と、隣を歩くクズハが居心地悪げにしているのに気づいた。
彼女は身を心なし縮こませ、匠の背後に回り、心持ち周囲から体を隠すようにしている。
匠は周りの人間に視線を向けた。先程までは特に反応を示していなかった周囲の人々だが、少し反応の違う人が散見されるようになっていた。
クズハの耳や尾を指さす人間や、彼女を遠巻きに眺め、警戒する人間が現れ始めたのだ。
……しょうがないか。匠はそう思いながら周囲の人間に軽くガンをくれる。
ここは大阪圏の中心部に入りかける道中だ。人里で暮らす異形がそろそろ珍しくもなる。
第一次掃討作戦が行われる前までは大都市にも異形たちが跋扈していた。現在では大阪圏の中心部などの大都市ではほとんど異形を見る事もない。
しかし稀に人の社会へと侵入している異形を見た時、当時の恐怖が蘇ったかのように皆警戒しだす。
これが京の方にまで行けば都会でも普通に異形が居るんだけどな。
京の中心付近では安倍の勢力が強く、異形との共存を標榜しているためかクズハくらい人間に外見が近い異形やそれ以外の異形もよく街中で見かけた。
中央政府が正常に機能しなくなってからこっち、各都市で様々な特徴が出来ている。異形への対応の違いもその特徴の一つだろう。
「クズハ」
匠はひと通りガンをくれ終わると荷物の中から雨避け用のフード付きの長衣を渡す。
「あ、ありがとうございます」
クズハは耳と尻尾を目立たぬようにその中へと収めると、ほっとしたように小さく息を吐いた。
それを見て苦笑していると、「そこの二人」と拡声器で男の声に呼びかけられた。
声の方向へと視線を向ける。異形が街道に現れないかを監視している関門の番兵が匠たちの所へ向かって小走りに寄って来ているのが見えた。
彼の腕には大阪中央政府所属の武装隊であることを示す腕章が巻きつけられている。
「どうかしましたか?」
足を止めて返事をすると武装隊の男は手に持った端末でなにやら確認しながらクズハを見て、
「クズハ、だな。平賀博士のお墨付きならば大丈夫だろうが信太の森で第二次掃討作戦の折に行方が知れなくなった狐の異形がまた確認されたという話があった。現在狐型の異形に皆敏感だ」
情報はもう回っているらしい。流石だと思うがこれで通交禁止にでもされたらどうしたものか。
「制度でな。悪いがお前がそっちの異形を監視しているという事を周囲に知らせてもらう」
武装隊の男の言葉に取りえず通交は出来そうだと匠は内心胸を撫で下ろす。
「監視している事を知らせると言うと?」
「これを着けてもらう」
そう言って武装隊の男が取り出したのは首輪、そしてそれに繋がった鎖だった。
……趣味的だ。
一応は着けられる側の事も考えられてはいるようで腕輪も手錠のようなものよりもう少しソフトなイメージを抱かせる造りだ。具体的には輪の部分が花輪のようになっている。
なんとなく思う。これを作ったのは自分の養父である平賀だと。
「平賀博士が作った物だ。なんでも異形を徒に冷遇してはならんということで作られたスタイリッシュ首輪だそうだ」
ああ、やっぱり……。
制度自体は嫌いだけどもう決まってしまったのならということで出来るだけ身に着ける者に害が無いような代物を開発したんだろうな。
平賀はそう言う人間だ。ただそこに己の奇態な趣味を持ちこむせいで奇人扱いされるのだが。
ここでごねてもしょうがない。匠は首輪を受け取るとクズハの首へと繋いだ。
「すまん」
正直このような、あたかもクズハを奴隷のように見せる首輪をつけるのには抵抗がある。
「いえ、私はこういうのも嫌いじゃないですから」
フードの下のクズハの顔はあっけらかんとしたものだった。