創作発表板@wiki

集落と両道の戦士たち

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
Top > 創発発のキャラクター総合 > 白亜記 > 集落と両道の戦士たち

集落と両道の戦士たち


最近どうにも落ち着きが無くなった。自分でもそう思っている。
たびたび他の人間にどうしたのかと聞かれたが私はわからないと答えていた。
ただなんとなく落ち着かない。性格が変わったのかな。そう言って笑った。
本当の理由は知っている。
「クソ……いつになったら来るんだ」
森を歩きながら適当な木に八つ当たりをする。力を入れすぎたのか音を立てて木は倒れた。
舞い上がる砂埃を防ぎながら森の奥へと進む。
ハルトシュラーの呼び出しが来ないのだ。
寄生関係なく呼べと言ったのに前回の校舎上の戦い以降一度も呼ばれていない。
目の端で何かが動いた。得物を剣に変え、飛び掛る。
三十秒後にはあたりは血だらけになってばらばらになった何かの残骸が散らばってた。
少しだけ気分が晴れた。でもまだ足りない。まだまだ足りない。
いつからだったか。得物を振り回していないとなんとなく落ち着かなくなった。
体を動かしたくてうずうずしているのだろうと思った私は野良仕事を終えた後
森に来て得物の新しい使い方について研究した。
おかげで腕を組んだまま木を掘って、彫刻を作るなんていう器用なことが出来るようになった。
そのうちその衝動は得物で何かを斬らないと落ち着かないに変わっていた。
今では野良仕事の時と食事と睡眠時以外はほとんど町には近づかず森に入って気晴らしをしている。
最初は血まみれで帰ってきた私を見てみんなは驚いていたが、次第に返り血を
浴びないように相手を殺す方法を編み出したのでそういうこともなくなった。
それでも得物には血が付いているのでみんなも何かしら気づいているのかもしれない。
私は自分の手を見る。
誰かを守るために、自らが生きるために私は剣術を学んだはずだ。
なのになぜ私はこんなにも意味も無く死体を積み重ねているのだろうか。

「お前は私と最初に会ったときのことを覚えているか?」
私が気分よく椅子に座っているとそんなことをハルトシュラーが言った。
あれはいつだっただろうか。確か町が壊滅させられたすぐ後ぐらいだったはずだ。
「今から二年……もうちょい前か。確か夏の盛りを過ぎた頃だったと思うが」
「時期はどうでもいい。あの時お前が言っていた言葉だ」
頭を捻る。初めて無限桃花をぶっ殺しておしまいだったはずだが何か言っただろうか。
「覚えていないな。それがどうかしたのか?」
「……いや、あの時に比べたらずいぶんと戦いなれたものだな」
部屋の中を見渡す。いくつもの死体がごろごろ転がっている。
この部屋だけではない。外に出ればその数倍の死体が横たわっているのだ。
「得物の扱いがうまくなったからな。
 実戦する機会がなかったからずっと試してみたかったんだよ」
私は楽しげに笑うがハルトシュラーはおもしろくなさそうな顔をしている。
今回の相手はどこかの山奥にある集落まるまるひとつだった。
ハルトシュラーが何ゆえにこの集落を私にやらせたのかは知らないがここの人間は
どいつも得物と魔術の心得があってなかなか楽しかった。
不意打ちであったことがあまり気に入らないが集団戦というのは経験が少ないのでいい経験になる。
が、それを生かせるかどうかは目の前にいる奴次第だ。
「今回はずいぶんと間が開いたな」
「前に一度言ったはずだ。間隔が開くと」
「だからその穴埋めをするために寄生されてようがされてまいがどうでもいいと言ったじゃないか」
「私は忙しいのだ。そんなに戦いたければお前の世界の戦争相手と戦えばよかろう」
「それはもう言った」
落ち着きがなくなってきた頃、私は夕食の時に戦争の前線まで行ってみたいと言ったことがある。
しかし三人から人手が足りなくなって困るだの野外調査が任せられなくなるだの行くまでの金がないだの
ぐうの音も出なくなるほど言われたので諦めることにした。
「なら諦めるんだな」
「せめて四ヶ月に一回くらいは来てくれ。落ち着かなくて仕方ないんだ」
それまで部屋の中のものをいじりながら聞いていたハルトシュラーがこちらに寄ってきた。
かなり真剣な目をしている。
「いつからだ?」
「ええっと……はっきりといつからとはわからないが最近のはずだ。
 最初は得物振り回しているだけで済んだんだがだんだん何かを斬らないと落ち着かなくなって……」
ハルトシュラーが私を見ている。心の奥底まで見られるかのような目つきだ。
どのくらいだろうか。どちらも何も喋らず見つめ合っていたがふとハルトシュラーが視線を外した。
「お前の体が世界と合ってないために異常が発生したかそれともただの中毒か」
「世界と合っていない? どういう意味だ?」
「ん……いや、もしかしたら異世界に来すぎて体の異常が起きてるかと思ったんだ。
 おそらくは中毒だろう。一ヶ月に一回くらいは戦闘を行えるように手筈を整えよう」
「ああ、ありがとう。しかしさっきは忙しいと言っていたのに急にどうしたんだ」
ハルトシュラーの目線が再び私に注がれる。さっきとは違って悲しげな目つきだ。
「放って置けばお前は確実に同居人を殺す」
言葉が出なかった。悪い冗談だと思ったら自然に笑いがこぼれた。
「さすがにそんなことはしないだろ」
「そうなるとお前にどんな影響があるかもわからん。
 今までの相手より確実に見劣りする相手だが我慢しろ」
彼女はそれを前提に話していた。私の現状だって知っているのだ。
その上で私があの三人を殺す可能性があると。そう言い切っている。
ぐにゃりと視界が歪む。視界が真っ暗になり、気づいたらベッドの上にいた。
上体を起こして手を見る。今は落ち着いている。人を斬った感覚がまだ残っていた。
「ソーニャさん、朝ごはん出来ましたよ」
声に反応して顔を上げるとコユキが立っていた。
「ああ、わかった。顔洗ったら行こう」
「珍しく起きたばっかですか。……顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
「ああ。大丈夫。大丈夫だ」
自分でも血の気が失せているのがわかる。ほんの一瞬考えてしまったのだ。
今まで殺してきた相手とここの三人が何が違うのかと。
ハルトシュラーにあんなことを言われたから意識してしまったのだ。
私はなるべく目を合わせないように洗面所へと向かった。



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

目安箱バナー