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act.5

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act.5



律儀に攻撃の開始を告げるシアナを、エレは鼻で笑う。
踏み込んだ。
――その時、頭上からざばあんと水流が降り注いできて、シアナは我に返った。

「喧嘩はよくありませんよ、頭を冷やしなさい。二人共」

いさめる様に声をかけたのは、第四騎士隊長のリジュ・ゴールドバークスだった。

緊迫した雰囲気とは場違いなほどに朗らかな笑顔を向けられて、困惑した。
……見るとエレも水を盛大に被っている。
リジュの指先からは透明な光が放たれ、一筋の道を作り上げていた。騎士隊の中で、まともに魔術を扱えるのは彼一人である。
「ごめんなさい。腕力だと間に合わないなって思ったので魔術を使ってしまいました。……寒くないですか」
「……大丈夫よ。騒いで悪かったわ」
「いえいえ。それにしても……二人とも、本当に、猿と犬の仲ですねえ。うっふっふっ」
リジュを一瞥して、エレはぷいと顔を背ける。
「ふん。……気が剃れた。俺は帰るぞ」
不機嫌そうに言い残すと、つかつかとそのまま立ち去ってしまった。

「……怪我はありませんか?」
「ないわ。……むしろあるとしたらエレの方ね。結構強めに顔面殴っちゃったから。……手当てしてあげて」
「あらあら。そうですか。わかりました。多分嫌がると思いますけどね。ふふ」
気まずそうにシアナは声をひそめる。
「それとこの件だけど……」
表情を推し量り、意図を汲み取ったのか、リジュは笑顔を浮かべたまま頷いた。

「はい。わかってます。公言したりしませんから――これ以上エレ君の悪評が広まるのは本意ではありませんし」
「悪評? 何で? 私が殴ったのに」
「シアナさんの素行とエレ君の素行の差ですね。普段から貴方は騎士として恥じない働きをしていますから。
喧嘩になった時、どちらに非があるとすればそれはエレ君の方だと思われるんですよ」
ああ、そういうことか、とシアナは納得した。エレは文句なく強いが、反面良くない噂を立てられることもしばしばだ。


病的なまでに戦闘狂で、好戦的なエレは、任務は確実に遂行するが過剰になりすぎるきらいがある。
魔物退治に向かえば標的でない魔物まで惨殺する、盗賊退治に向かえば、近隣の村まで巻き込んで戦いを始め被害を広げる……。
行ってきた行いのせいといえばそうなのだが、とかくエレの風評の八割方はよくない噂で出来ているといってもいい。
それを皮肉って付けられたあだ名は、悪魔の騎士。悪魔とは勿論エレのことだ。

「騎士隊長の悪評は騎士隊全体の悪評です。……それはよくないことですからね」
「そうね……まああいつに何を言っても無駄だろうとは思うけど。あの性格じゃね」
「手厳しいですね。……まあその通りなんですけど……。そこまで悪い子じゃないと思うんですけどねえ」
リジュの言葉には同意しかねたので黙っていた。すると、リジュは思いもよらない質問を投げかけてきた。
「シアナさんは、エレ君のことがお嫌いですか?」
「嫌い。凄く嫌い」
断固としてシアナは繰り返す。
「に、二度念を押して言うほど嫌いなんですね」
「はっきりいって、あの野蛮人を好きになる要素はゼロね」
「そうですか……」
「何でそんなことを聞くの?」

「いえ、エレ君、貴方と接している時は楽しそうなので、仲良くなっていただければ少しはエレ君も大人しくなるのではないかと
思いまして」

「……楽しそう?」
突き刺すような目つきで、向かい合ったエレを思い出す。戦いの興奮に狂乱した相貌。……あれが、楽しそうというのだろうか?
「無理にとは言いません。でももし、少しでも気が向いたら、仲良くしてあげてください。彼、友達いないみたいで心配なんですよねえ」
「リジュが友達になってあげれば?」
「いーや、挑戦したんですけど、僕嫌われてるみたいでバッサリでした。ふふふ」
「…………そう。まあ考えとくわ。あいつの性格が変わったら考えないこともない」
そんな日は一生こないだろうとシアナは思った。……そう、相性だ。あいつと自分じゃ、火と水ほどに相性が悪い。
永遠に交わることのない関係。いがみあうしかない関係。……不思議だ。それは、龍と自分の関係によく似ていた。
「それではこれで失礼します。あ、床は部下に掃除させときますからご心配なく」
「了解」
そういえば、あいつも悪魔と呼ばれるんだな。……そう、龍も、この国においては悪魔だ。
「同じか……」

ならばいつか、あいつとも殺しあう時がくるのだろうか?
本気で刃の先を向け合い、命を奪いあうような瞬間が。
「それは疲れるから御免ね」
でもきっとその日は来るだろう。あいつが私と戦い合いたがっている限り、その時は必ず訪れる。……それは予感ではなく直感だった。
エレは、戦い合いたいのではなく、私を殺したがっているのだから。

シアナは寄宿舎に向けて歩き出した。


訓練や職務時を覗き、基本的に騎士は城内にある寄宿舎で生活をしている。
寄宿舎の一階には食堂があり、朝昼晩とそこで食事をする者が多かった。
食堂に入る。夕飯時だった為、相変わらず人が多く混雑している。
シアナはすぐに配給を受け取って席に着いた。
今日の夕食は若鶏のクリーム煮とパンだった。添えられたポテトとニンジンが彩りを添える。
じっくり煮込まれた鳥はきつね色に仕上がっており、クリームの濃厚な匂いが食欲を誘った。
(美味しそう……)
今まで空腹でたまらなかったのだ。エレと喧嘩したおかげで余計に体力を消耗した気がする。
その分、目いっぱい味わわせてもらおう。
シアナは手を合わせた。
「いただきます」

もくもくと料理を口に運び、食べ進めていると、遠くの席から聞き逃せない会話が聞こえてきた。
「あ、あれシアナ隊長じゃないか? 第三隊長の」
「本当だ、今日も龍殺しに行ってたらしいぜ」
「はー。あれで俺より十以上年下だぜ?なんかさあ、生まれから違うって感じだよな」
「だよなあ」
わっと笑い声が湧く。

「美人だよなー。むさい男の集団の中に咲いた一輪の花ってか。おれも第三隊に配属されたかったぜ」
(び、美人……!!)
内心どきりとする。気恥ずかしさで喉が渇く。平静を装ったまま水を飲み干した。
騎士達の噂話はまだ続いていた。
「ばか言えよ。お前が第三隊みたいなエリート集団に入れるかっての」
「そりゃそうだ」
「でもま、あれだよな。こんな女っ気のない場所だから、女ってだけで嫌でも補正かかっちまうよな」
「それは言えてるな、ハハ」
「龍殺しか、……いくら美人でも、あんな強くちゃなあ。恋人には遠慮したいぜ」
「お前が相手にされるかよ」
「違いねえ。ぶはははっ」
賞賛されているのかけなされているのかよく分からない。
騎士達はシアナが聞いてるとは思ってもいないのだろう、そんなたわいない会話に興じている。

(…………)
気にせず鶏肉を頬張る。
立場上、噂されることには慣れていた。嫌な噂も、善い噂も、その真偽は問わず。
有名になり人の上に立つということは、嫌でも人の好奇を集めることになる。
これも仕事の内だ、と割り切った。

「そうだ。十四のサムがトトカルチョやってるってよ」
十四、とは第十四騎士隊のことだろう。そしてトトカルチョは所謂、賭博だ。隊内での賭博は決して容認されてはない。
厳しく罰する規則はないが、自粛するようにとのならわしがある。一人の騎士は嬉しそうに小声で話し始める。
とはいえ、シアナには丸聞こえだったが……。

「おーっ。今度はどんな内容だ?」
「全隊長の人気投票の結果だってさ」
「俺もう賭けだぜ。リジュ隊長にな」
「馬鹿だなあ。どう考えても人気があるのはシアナ隊長に決まってるだろ?騎士隊唯一の女性だぜ?」
「大穴狙いでファーガス隊長だな俺は。なんてったって十倍だぜ!!」

(はーっ……呆れたわ……)
まあしょうがないか……ここには娯楽もないし、たまには息抜きも必要なのだろう。
シアナは騎士の職務に関しては厳しいが、任務外まで極端に厳しくする気はなかった。
とはいえ規則は規則である。次に目についたら注意くらいはしておこう。
「じゃあエレ隊長はどうだ?」
ぴくり、と耳が反応した。
「ああ、エレ隊長ね……うーん。なんつーか。カリスマあるよな。かっこいいし」
「他の隊の中には熱狂的な奴がいるみたいだけど」
「ファンってことか?へー。一部には人気ありそうなんだよなあ。凡庸性はなさそうだけど」
「クーフ隊長はどうだ?」
「クーフ隊長かあ。どうだろうな」
その後も延々と、誰が人気があるだとか、ないだとかいう話題が続いていた。席を立って食器を片付ける。



「ご馳走様。美味しかったわ」
食堂の料理担当、ウィナに声を掛けると、嬉しそうに「それはよかったです」と微笑んだ。
「こう歳を取ると楽しみが少なくなってきていけませんね。それでも
若いものが私の作った料理を美味しそうに食べる所を見るのは何よりの楽しみなんですよ」
「ふうん。じゃあここは天職ね」
「ええ、ええ。総長さんには雇っていただいて感謝しております」
「会ったらウィナが感謝してたって伝えとくわ。じゃあね」

自分の部屋に帰って、私服に着替え、ベッドに横になる。
白いワンピースから伸びた足。覗き見える太腿に刻まれた刻印を、そっと撫でる。
「…………龍殺し、か」
いつからそう呼ばれるようになったのか、もう覚えていない。
ただ最初に龍を殺した出来事は、今でも克明に思い出せる。

爆ぜる火と、燃える町。赤一色に染められた世界を、眺めていた。
誰かの悲鳴。泣き叫ぶ赤ん坊の泣き声。鳴り止まない怒号。打ち鳴らされる鐘。

もう永遠に取り戻すことの出来ない、過去の記憶。
「嫌な事思い出しちゃった……」
腕で視界を塞いで目を閉じる。忌まわしい思い出から逃れるように、シアナは目を閉じて睡魔に身を委ねた。











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