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act.25

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act.25



シアナは襲い来る龍騎兵を薙ぎ倒しながら、一心不乱に敵を打ち倒していく。
身に負った痛みを忘れ、剣を操り、戦場を駆ける。
空を舞う兵はシアナ目掛けて弓矢を構える。
びゅっ、と風を切り裂いて矢は放たれた。目標目指し一直線に飛来し、シアナに迫る。
それを、
「Ισχυρεζανεμου」
呪文と共に発動した烈風が押し流す。矢は羽のようにふわふわと頼りなげに打ち捨てられた。
気付くと、傍には第四騎士隊長の姿があった。

「リジュ……!」
「気をつけてくださいね」
戦場でにっこりと微笑むリジュ。その笑顔も普段と変わらずで――つくづく豪胆な性格だと感心してしまう。
いや、それとも自ら平常を心がけているのだろうか。
彼は魔術を使い、味方を援護する役割を担っていた。
それも地上の敵を相手にしながら同時に魔術行使を行っているというのだから、恐れ入る。
シアナは心の中で感謝を言うと、次の敵へと狙いを定めた。
朝焼けが交戦を照らす。
そうして戦が何時間も行われ、
両方の隊と兵が疲弊してきた頃だった。
――黒き巨龍が姿を現したのは。

蒼黒龍。

龍種の中でももっとも凶悪、凶暴と言われ滅多に見ることがない希少種だ。
能力でいえば龍の中でもトップクラスとして君臨する。
ぬらぬらと艶めく鱗から尾まで、暗澹とした黒で覆われその姿全てが凶々しいまでの死を想像させる。
先鋭的な体躯はそれ自体がひとつの刃の如く。
歩く姿は、強大な処刑人が鎌を持ち悠然と跋扈している様そのものだった。
……まさに死神。
鎌が一度振られれば、生き残れる者はいない。
シアナは図鑑に添えられた絵でしか見たことがない姿を目の当たりにし、息を飲む。
龍殺しでも見たことがない程に、数少ない龍。捕まえ、飼いならすのにどれほどの犠牲があったことか。……それを投入してくるとは。
ゴルィニシチェは全勢力を持ってフレンズベルを圧倒し支配下にしようとしているらしい。

「面白いじゃない……相手になってやるわ、皆、下がれ!! こいつは私が殺す!!」
総員が龍殺しの為に道を空ける。
シアナが剣を持ち、刻印を発動させようとした瞬間――
ゴルィニシチェ兵の中から、龍に向かって歩いてくる人間があった。

龍と同じ髪の色を持つ兵。肩ほどまで伸びた髪が、マントと共にふわりとなびく。
恐れもせず龍に触れ、撫でる。龍は心地よさそうに咽喉を鳴らす。
人を食らう龍を相手にあのように接するとは、とても信じられない光景だった。
手を龍に添えたまま、シアナを見やる。
「……初めてお目にかかる。龍殺しのシアナ・シトレウムスとお見受けするが間違いはないか」
その声は知性的で落ち着いており、意図を感じさせないような強固さを含んでいた。

「間違いないわ。貴方は誰? 敵の総大将さんかしら」
「そうだな。……名こそ違うが当たっている。私はゴルィニシチェの将軍だ。名はノクト・ドルク」
「ノクト……」
耳にしたことがあった。ゴルィニシチェの将軍に最近若くして着任したという、やり手の将軍。
そのノクトと、まさかこうして敵同士として対面することになるとは夢にも思わなかった。
闇夜に似た瞳がシアナを映している。
見ていると、ずるずると飲み込まれそうだ。
シアナは眼光鋭いまま、刃を向ける。

「狙いは……我が国の領土か」
「それに答えてどうなる? 答えたところで――我らが殺しあうことに変わりはない」
「やる気十分じゃない。こんな龍まで引き連れてきちゃって……」
「これが一番容易く、迅速にフレンズベルを落とせる方法だったのでな。……さて龍殺し、どうする? 我が蒼黒龍を殺してみせるか」
「――……」

挑発か、誘引か。その淡々とした表情からは、読みとることが出来ない。
シアナはノクトを目の前に、力の解放を躊躇っていた。
背後で、悲鳴があがる。

空から襲われ、怪我を負った兵が腕を抱えていた。天を仰ぐ。
シアナは信じられない人物をそこに見た。
「……貴様、ファーガス!!」

あの第二十四騎士隊長のファーガスが、よりにもよってゴルィニシチェの兵に混じりこちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。
空を翔る龍に乗り、双つの剣を構え悠々とこちらを見下ろす。
あの蛇のような、いやらしい笑みを浮かべながら――!!

「いやあ、シアナ隊長、久しぶりですねえ」
「何故そこにお前がいる!! これはどういうことだ!! 
私達を裏切ったのか?!」
激昂し叫びたてるシアナ。
蛇はちっちっ、と指を顔の前で左右させる。

「何を言っているんですか? 
私はもう貴方達の味方なんかじゃありませんよ。
ゴルィニシチェ軍に入ったんですから」
「な……!!」

「おわかり頂けましたか? そういうことなので何も問題はありません。ヒヒヒ。あるべき所に収まっただけです」

こいつ、ゴルィニシチェの兵になったのか。
国に。王に立てた誓いも、忠誠も、全て――偽りに返すということか。
剣を掲げ、この剣は国を守る為としてふるうことを誓ったはず。それも嘘にしてしまうというのか。
あれら全てが演技だった。そういうことか。
……許せない。
二十四隊の隊長が敵にいると発覚した。仲間にもその情報は迅速に伝わる。動揺が広がった。
何と卑怯な。シアナは拳を震わせた。
「こンの……腐れ外道が!! 降りて来い、堕ちた蛇!! 私がお前の相手になってやる」
「口汚いですねえ……」
「黙れ!! お前はもう騎士でもなんでもない!! 」
ファーガスは龍を巧みに操り、シアナの頭上で旋回する。
すうっと冷えた相貌に成り代わり、凍て付いた視線をシアナに向けて口を開いた。
「黙るのはそっちだお前に黙れと言われる筋合いなんかねえんだよ。クソアマが」
「な、」
「大体もうお前の言うことなんて聞かなくてもよくなったわけだしなあ。思う存分やらせてもらうぜ。
お前の相手なんかするワケねえだろ。殺されたらたまったもんじゃねえ。お前は、本分らしく龍とでも遊んでな!! ヒャハハハハ!!」
こいつ――こいつこいつこいつ。何て口を。
目の前が怒りで白く霞む。
ファーガスはシアナから逃げるように、空へ舞い戻る。



「……私を忘れてもらっては困るな」
ノクトの声に、冷静さを呼び覚まされた。
苛立ちを堪え、黒き龍と将軍へ踵を返す。
「悪かったわ、待たせたわね」
「敵相手に随分殊勝なことだ。いつもそうなのか」
「殊勝なんじゃない、騎士だもの――礼儀正しいだけよ」
「そうか……それはいい心がけだ」
表向きは穏やかな会話を交わす、敵軍の将軍と騎士。
それは飾りで、秘めやかな牽制であると、双方が理解している。その上での会話だ。
それで、どうするのだとノクトが暗に問いている。

「そうね、もう残された道なんてひとつしかなかったんだわ……」
私にはいつも、これしかない。
剣を持ち、戦うことしか出来ない。
でも、それしか出来ないのなら。
――ただ、それだけを、やるしかないではないか。
戦って生き、戦って死ぬ。
例え誰にも賞賛されずとも、戦い続けることこそが騎士の領分。

なればこそだ。

力の解放。渦を巻く光が、シアナの中から湧き上がり剣へと導かれる。
ズクン、と強い疼痛が刻印から溢れてきて、シアナを苛む。
ぐっと歯を食いしばる。
白き光は、龍を殺す力の源泉は、シアナを内部から抉り――取り込もうとしていた。
負けるものか。ここで自身の力に飲まれるほど、ヤワな人生を送ってきたつもりはない。
どれほどの痛みを受けようが、耐えてみせる。そして力に変えてみせる。
痛みを与えるというのなら全て受け止めよう。痛みが力になるというのなら、
それこそが我が力。……刻印よ、私に力を貸せ!
剣は煌く。美しいまでの軌跡を描いて龍へと迫る……!!
刹那、――無が、空間を凌駕した。
















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