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白狐と青年 第1話

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白狐と青年 第1話




 和泉、大阪に近しいそこは災害以降、大阪を中心とする自治都市群の内の一つとして機能していた。

 陽光が眩しい、そう自然に感じられる晴天の中、青い空の下で人が百人程は入りそうな道場の外部鍛錬場に十数人からなる道着姿の少年たちと一人のジーンズにTシャツ姿の青年がいた。
 少年たちが立っている地面は踏み固められて雑草の一つも生えていない。
 彼らは皆手に竹刀を握っており、息を合わせて鋭い足運びと共に竹刀を振っている。
 どうやらこの踏み固められた地面は彼らの普段からの鍛錬の成果らしい。
 少年たちが竹刀を振るう中、それを監督するように見ていた青年は一つ頷くと、
「よし、やめ!」
 よく通る声が張り上げられ、少年たちの動きが止まる。
 青年は自分の前に集まってきた少年たちをひと通り眺め、
「≪魔素≫の扱いが上手くなってきたな。今日はここまで、年少組は整地、年長組は竹刀を片付けてくるよーに!」
『はーい!』
 元気よく答える少年たちを見ながら青年はふう、と深呼吸。
 肩をほぐすように腕を回していると、道場の方から初老の男性がやって来た。
 白髪混じりの頭髪に精悍な顔つき、道着の上からでも分かる鍛え抜かれた身体。
 初老を確認し、青年は声をかけた。
「師範」
 師範と呼ばれたその初老はおお、と体格に良く似合う大ぶりな手の振りでもって青年に答える。
「すまんな、匠」
「いや、まあ居候させてもらってる身だし、用心棒業務も最近暇だし、これくらいなら」
 匠と呼ばれた青年がそう答えると、
「用事棒業務なんてものは建前だろう」
 少年たちには聞こえないように低く抑えられた声で師範は言う。
「……」
「大阪自治組織の腰抜け共に追い出された勇士、坂上匠。番兵はよく噂しとるが?」
 無言の匠に師範は事実を確認するかのように言う。
 匠は一つ息を吐き、
「いや、自治組織にとってみれば処置は当然のことだったと思うし、俺が彼らの立場なら間違いなく同じことをするからなー」
 それに都市群自体からは追い出されずに済んだし。
 そう言って笑う。
「だがなぁ、やり方が気に食わん」
「初めて俺がここに来た時、師範もあの子に襲いかかったじゃないか」
 皆異形は怖い。つまりはそういうこと。
 そう言う匠に師範は気まずそうに頭をボリボリかき、
「自治会から通達があったのだ、『第二次掃討作戦の戦地で拾われた異形が来るから気を抜くな』とな。それで一応様子見のつもりだったのだが……」
「それでいきなり女の子に拳を向けるんだな」
 匠の言葉に師範も苦笑い。
「それでまさか異形を連れた若造の方と闘う羽目になるとは思わなんだがな」
 そう言う師範に、ん。と匠も頷く。
「俺もまさかおっさんと殴り合いになってあの子に止められるまで延々とやり合う羽目になるとは思わなかった」
 うん。ともう一つ頷き、師範の方に半目を向け、
「大人げない奴め」
「なんだと若造?」
 数秒互いに半目で睨みあい、笑う。
「まあその縁でこうして居候させてもらってるわけだし。――感謝してるよ」
 そうかい。と手をひらひら振る師範。その時、焦りを帯びた声が辺りに響いた。
「異形が出たぞー!」
 匠はピクリと反応すると整地をしている少年のうちの一人に声をかける。
「良平、トンボ借りるぞ!」
「え? う、うん」
 良平と呼ばれた十歳程の少年が答えきる前に鉄製のトンボを一本ひったくり、声の聞こえた方へと走り出した。
「おい、匠! お前武器は!?」
「今は平賀のじいさんとこだ!」
「大丈夫か?」
 訊いてくる師範の声に匠は数秒考え、
「――たぶん!」
 言い捨てて駆けた。



 道場の敷地から出て所々ひび割れたアスファルトの舗装路を走り二分ほど、高さ五メートル程度の壁が延々と続いているのが見えた。騒ぎはその壁の向こうを中心に起こっているようだ。
 開門とかしてくれるわけ……ないよな。
 思い、壁の手前で跳躍。壁の上に立つ。
「獣型、8、9……10匹か」
 既に異形との戦闘は始まっていた。下手な牛よりも大きな、そして細身の、犬にも似た四足の黒い獣と戦っているのは五人の男たちで、
「和泉の番兵さんか。俺も一応、建前とはいってもここの用心棒だしなー。応援が来るまで手助けしようか」
 飛び下り、近くの獣にトンボの角を叩きつけた。
 ギャン、という悲鳴が響き、トンボの角に頭を割られた獣はそのまま血を傷口から溢れさせて倒れ伏す。
「匠さん!」
「どうも!」
 匠に気付いて声をかけてきた番兵と軽い挨拶を交わす。
 機関銃から弾をばらまいていた番兵がマガジンを交換がてら情報を与えて来る。
「中の食料が目当てのようです!」
 匠はトンボを振るってもう一匹を銃の射線上に殴り飛ばして、
「くれてやるわけにはいかんな」
 言って、先端に振動刃を備え付けた槍を持つ番兵と共に獣を更に一匹討ち取る。
「残り一匹!」
 番兵が声を上げる。匠がその最後の一匹に視線を向けると、
 獣の口が開かれていた。中には≪魔素≫の光が輝いており、
「危なっ!」
 口の直線上にいた番兵を蹴り飛ばす。
 同時に獣の口内から光が吐き出された。狙いは番兵を蹴り飛ばして位置を番兵が居た位置へとずらしていた匠だ。
「っの!」
 匠はとっさに手に持ったトンボをぶん投げる。
 トンボはあっさりと光に呑みこまれた。
「根性ねえなぁ!」
 芳しくない成果に大声で抗議し、両手でガードの構えを作る。
 動作と共に身体に流れる≪魔素≫が腕に集まり、淡く腕が輝く。
 これでなんとか……っ!
 思って身構えていると、後方から炎が飛来してきた。それは獣が吐き出した光ごと獣をも焼き、消し炭にした。
「――っと、」
 匠が構えを解いて後方に振り向くと、人影が壁から飛び下りてくる所だった。
 人影は女性のものだった。見た目は十代前半といった所だろうか。先程放ったのだろう炎の余波に火の粉を舞わせたその女性は、しかし普通の人間ではなかった。
 長い銀髪、人のそれよりも高い位置から生えた獣の耳、狩衣から覗く銀毛の尻尾。
 ソレは間違いなく人以外のモノ――異形だった。
「クズハ……」
 彼女は歩いてくると匠に詰め寄り、キッ、と匠を見上げた。
「なんで武器も無いのに異形に挑んだんですか!?」
 そう責め立てる。
 匠はあー、とかうー、とか言って目をあちらこちらに逸らしている。
 少女――クズハは何事か匠に説教をし始めた。その様子を番兵たちは異形の死骸の片付けをしながら横目に見ている。その光景を見る彼らの目は微笑ましいものでも見ているかのようで、先程の異形に向けていたものとは大きく違っていた。
「ほんとに……危なかったんですよ?」
 最後に、心配で心配で仕方ないというような、そんな風情で訴えかけたクズハにやっと視線を向けて匠は、
「ああ、すまない」
 頭を撫でるとクズハの尻尾が力なく垂れ、眉尻が下がり、
「……いいです」
 無事だったんですから。
 そう言うとクズハは番兵たちに向かって頭を下げた。番兵たちは手を挙げて答え、
「匠さん、助かりました。クズハちゃんもお疲れ様~」
「あ、皆さんもお疲れ様です」
 気の抜けたような声を上げる番兵に同じように労いの言葉をかけるクズハ。気を抜くなよー、と番兵に向かって匠が言う。その番兵はうーい、という返事の後「あ、匠さん」、と言ってきた。
「ん?」
 振り向いた匠に番兵は手持ちの槍で空中に円を描きながら、
「平賀博士がその内ウチの隊長と一緒に直した武器を持って来るって言ってましたよ」
「了解」
 答えた匠はあ、と言って振り向く。
「トンボ、一本持って来るように平賀のじいさんに言っといてくれ。――無くなっちまったからな。師範に怒られる」
 そう言って今度はしっかりと壁の一部に設けられた門から、隣に異形――白狐のクズハを当然のように連れたまま、都市へと入っていった。

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