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ややえちゃんはお化けだぞ! 第10話

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ややえちゃんはお化けだぞ! 第10話




「人は皆運命という大きな流れの中にあり、短い生涯の中でわずかに流れを変えることは
できても、決してそこから出ることはできん。この閻魔帳にはそうした運命の一部、人間
の犯した罪と末期が記録されている」

鋭い眼光をもって放たれる言葉はもはや子供のそれではなく、人を裁く閻魔という名に
ふさわしい威圧感を有していた。

「オレはあの女を追い出した後で、念のためにお前の過去に目を通した。平々凡々として
はいるがそれなりに誠実な、実につまらん人生だ。ついでに溜息もついてやった、こいつ
は蘇らせるに値しないとな」

目の前でひらひらと動くジャパニコ閻魔帳の前、俺は未だ自分がどういう状況におかれて
いるのかを把握できずにいる。

「しかし、しかしだ。お前の記録の最後に妙な一文が記されていることに気がついたのさ、
オレは目を疑ったね。一体何が書いてあったと思う?」
「分かるわけないだろ……」
「それじゃあ自分の目で確かめてみろ」

そう言うと殿下は開いたページに折り目をつけ、机の上を滑らせてよこした。
見ると確かに俺の罪とも呼べるか分からないような行いがいくつか書かれており、最後に
は今日の日付の下、ただ一言でこう締めくくられていた。



《午後0時13分 交通事故により死亡》



「どうだ、面白いだろう?」

眉をしかめて見せると、殿下は軽く舌打ちをしながら呆れたようにふんぞり返った。

「本来の運命では今日の正午、お前は交通事故で死んでいる筈だったのだ」

閻魔帳を机に戻しかけたところで、手が止まる。

「……なんだって?」
「分からないか? あの女と会わなかったら、お前は今日ここに書かれている通り死んで
いたんだ。運命によってもたらされる死は如何なる存在でも抗うことはできん。ところが
アイツはそれが訪れる前に偶然を装った呪いでお前を殺害した――」

殿下はそこで言葉を切り、床に落ちた閻魔帳を拾うと埃をはたいて丁寧に閉じた。
その落ち着いた動作に、おぼろげながらもようやく話が分かってきた気がする。

「申請が受理されれば蘇る可能性があるからな。死をもって死を制す、実に見事な計画だ。
さらに付け加えるなら、数多くいる閻魔一族の中でもオレを狙ってきたのがまた悩ましい。
親父や他の連中じゃ一笑に付された挙句、即刻却下されるのがオチだろうに」

殿下がちらりと目線を動かした先では、侍女長が退屈そうにあくびをしている。
いつの間にか短くなっていた蝋燭の炎が、小さな音をたてて強く揺らいだ。

「しかしオレは今こうしてお前を生き返らせることに興味を持っちまっている。もしそこ
まで計算してのことなら、あの女ただ者じゃないぞ」
「でも、どうして夜々重はそんなことを……」
「さっきも言ったがこれはあの女の罪滅しだ。何故お前だったのかということならオレは
知らん、それこそお前自身が確かめればいい。どちらにせよお前は救われたのさ」
「……なんで」
「くどい」

揺れる感情を決するかのように、殿下は机の上に置かれていた木槌を振り上げ、降ろす。
固く短い音が堂中を駆け巡った。

「ではこれをもって大賀美夜々重による呪詛は過失による事故とみなし、閻魔一族の名に
おいて、その呪いの解除を許可する!」

驚愕と困惑、絶望と覚悟の果て――

「桐島祐樹。運命から外れたお前の未来、見せてもらおうじゃないか」

ついに差し向けられた一枚の紙切れを受け取る。
そこには仰々しい筆文字で書かれた「解呪許可」の文字と「認」の印。
もちろん全てが理解できたわけではない。それでも子供にしか見えない殿下と、ウトウト
し始めた侍女長に対し、これまでに感じたことのないほどの感謝の気持ちをもって、深く
頭を下げた。

「すまん、恩にきる。この借りはいつか必ず返させてもらう」
「大逸れたことをぬかすな、それはあの女に言ってやれ」

その言葉を聞いて、ここに入る前に見た夜々重の悲しそうな顔が蘇った。
椅子を倒す勢いで立ち上がると、殿下は腕をひねって伸びをする。

「ま、お前も何百年か生きてみれば、あの女と釣り合うようになるんじゃねーの?」
「俺は人間なんだ、そんなに長く生きちゃいられないさ」
「……そいつはどうかな」

不適な笑いを含んだ言葉はもはや意味をなさず、俺はただ夜々重に結果を伝えたいという
一心で魂言堂の扉を押し開いた――



卍 卍 卍



相変わらず赤暗い空の下、石段で膝を抱えてうつむく夜々重の姿があった。
後ろ手に扉を閉めると、それに気づいたのか一度小さく肩を震わせ、より深く顔を埋め
ながら掠れた声を漏らす。

「……ごめんね、ダメだったでしょ」

俺は答えず、続きを待った。

「私もね、私なりに頑張ってはみたの。でもやっぱり閻魔様には通用しなかった。言い
たくないことも全部言わされて……笑われて、怒られて――」

夜々重は想像以上に落ち込んでいたようで、それからしばらく感情的な台詞が続いた。
嗚咽に揺れる未練の鈴に、俺はそっと手を伸ばす。

「いいよもう。顔上げろよ」
「やだよ、またバカってなじるんでしょ?」
「んなこと言わねーから」
「言うに決まってるよ! 私のせいだって! そうやって私のこと」

ようやく顔を上げ、その泣きはらした赤い目に、俺は申請書を突きつけてやった。

「……え?」

素っ頓狂な声でも出すかと思ったのだが、いまいち反応が悪い。
驚きのあまり心臓発作でも起こしたかと覗いてみると、顔をしかめながらぼろぼろと涙を
流していた。

「いやいや、ちょっと大げさだろ」
「大げさなんかじゃないよ! 先に言ってよ!」
「むしろ泣いて喜ぶのは俺のほうじゃないか?」
「私が泣いたっていいじゃん!」
「まあ、悪くはないけどよ」
「でも……でも本当に」

夜々重は両手で涙を拭き取りながら、詰まる喉を落ち着けるように大きく深呼吸をすると、

「よかった……」

微笑み閉じられた瞼から、一筋の涙が頬をこぼれた。



卍 卍 卍



度重なる危機と苦難の末、俺が辿りついたもの。
そこへ導いたのは夜々重が過去に犯した罪への同情でもないし、殿下をもって言わしめる
ほどの賛美でもない。
それはただ、こうして向けられる笑顔に悪意がなかったという、たったひとつの事実だった。

しかしその事実だけが今、申請書を貰うという当初の目的すらぼやかすほどに、俺の心を
満たしている。

つまり多分俺は――夜々重のことが好きなのだ。


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