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ややえちゃんはお化けだぞ! 第11話
「本当に貰えちゃったんだ、すごいなあ……」
ほんのりと薄暗くなってきた地獄の空に顔を上げると、宮殿を取り囲むようにして提灯が
灯された。静寂に包まれた祭りを思わせる庭園は、穏やかながらも厳粛な雰囲気を漂わせ
ている。
夜々重のつぶやきは静かに空に消え、遠くどこかから聞こえた鹿威しの音に顔を戻した。
見回してみてもそれらしいものは見当たらなかったが、長い間その響きを受け止めてきた
のだろう枯山水は、ゆったりとした波紋を広げていた。
灯された。静寂に包まれた祭りを思わせる庭園は、穏やかながらも厳粛な雰囲気を漂わせ
ている。
夜々重のつぶやきは静かに空に消え、遠くどこかから聞こえた鹿威しの音に顔を戻した。
見回してみてもそれらしいものは見当たらなかったが、長い間その響きを受け止めてきた
のだろう枯山水は、ゆったりとした波紋を広げていた。
「ま、とにかくこれで後は帰るだけだ」
「そう思うとちょっと寂しいね」
「……かもな」
「そう思うとちょっと寂しいね」
「……かもな」
現状、俺たちにとって地獄というのはそれほど居心地の悪い場所ではない。
不気味に見えた宮殿からはこうして風情すら感じられるし、殿下や侍女長だって見てくれ
はどうあれ、今では奇妙な友情めいた気持ちまで抱いている。
それは彼らからしてみれば失礼な話かもしれないが、素直に言葉にしてみればそうとしか
言えない感情だった。
不気味に見えた宮殿からはこうして風情すら感じられるし、殿下や侍女長だって見てくれ
はどうあれ、今では奇妙な友情めいた気持ちまで抱いている。
それは彼らからしてみれば失礼な話かもしれないが、素直に言葉にしてみればそうとしか
言えない感情だった。
かすかに水が流れる音、間を持って再び鳴る鹿威し。
やがて魂言堂の木戸が開かれ、小脇に紙束を抱えた殿下と侍女長が出てきた。
やがて魂言堂の木戸が開かれ、小脇に紙束を抱えた殿下と侍女長が出てきた。
「早く帰った方がいいんだろう? 送ってやるぞ」
「ああ、いや。なにもそこまで」
「ああ、いや。なにもそこまで」
立ち上がり埃を払う俺に一瞥をくれると、殿下は空いていた手を腰にあて、呆れたような
目線を夜々重へと動かす。
目線を夜々重へと動かす。
「あのな、お前ら無許可なんだぞ? 地獄ってのはそんなに気軽に出たり入ったりできる
もんじゃないんだ。そもそも一体どうやって帰るつもりだったんだ?」
もんじゃないんだ。そもそも一体どうやって帰るつもりだったんだ?」
そういえば――と、ここに着いてから空を飛ぶことができなくなっていたことを思い出す。
入るときにくぐったゲヘナゲートも遥か上空にあったはずで、言われる通りこのままでは
帰ることができないのだ。
そんな殿下の問い掛けに、夜々重はうつむきながらもそっと目を上げる。
入るときにくぐったゲヘナゲートも遥か上空にあったはずで、言われる通りこのままでは
帰ることができないのだ。
そんな殿下の問い掛けに、夜々重はうつむきながらもそっと目を上げる。
「それは、その……」
「オレがこう出ることも計算のうちか? 喰えん女め」
「オレがこう出ることも計算のうちか? 喰えん女め」
言い捨て、追い抜き際に見えた表情は、うっすらとした笑みを帯びていた。
卍 卍 卍
遠く厳かにたたずむ本殿は、果てしなく連なる提灯の明かりを浴び、美麗な輪郭を夜の闇
に際立たせている。
おそらく人の身にあっては決して望めないだろうその光景に心を奪われながらも、相変わ
らず歩幅に合わない敷石を渡っていると、足を止めた夜々重が後ろから袖を引いた。
に際立たせている。
おそらく人の身にあっては決して望めないだろうその光景に心を奪われながらも、相変わ
らず歩幅に合わない敷石を渡っていると、足を止めた夜々重が後ろから袖を引いた。
「ねえ、来るときあんなのあったっけ?」
続く敷石の先、門の側には派手な装飾のテント小屋が立っていた。
確かにそんなものがあった記憶はなく、好奇心に歩を早めると、小屋を支えるパイプには
女の子のものらしい可愛い文字で「冥土の土産」と札が貼られていた。
確かにそんなものがあった記憶はなく、好奇心に歩を早めると、小屋を支えるパイプには
女の子のものらしい可愛い文字で「冥土の土産」と札が貼られていた。
「いらっしゃいませー、冥土の土産屋にようこそニャー」
「おすすめは夜魔族変身セットですニャー」
「おすすめは夜魔族変身セットですニャー」
テントの奥には侍女長によく似た猫女が二人並んで立っていて、それぞれ三毛猫とブチ猫
を思わせる柄が入ったジャージの上、爛々とした瞳の中に怪しげな光を宿している。
並べられたワゴンの中にはおびただしい数のぬいぐるみや、得体の知れない不気味なアク
セサリが詰め込まれていた。
を思わせる柄が入ったジャージの上、爛々とした瞳の中に怪しげな光を宿している。
並べられたワゴンの中にはおびただしい数のぬいぐるみや、得体の知れない不気味なアク
セサリが詰め込まれていた。
「ニャーお前ら」
と、不意に背後から俺たちを包み込むように華奢な腕が肩に回され、振り向くと侍女長の
荒いだ鼻息が頬を撫でた。
荒いだ鼻息が頬を撫でた。
「ここへ来たのも何かの縁、客人をもてなすのが侍女の役目ニャれど、絞りとるのもまた
務め。渡る世間に鬼はニャし、されど地獄は金次第。お前ら思い出買うてけニャ……」
務め。渡る世間に鬼はニャし、されど地獄は金次第。お前ら思い出買うてけニャ……」
腹黒い台詞をストレートに放つ侍女長に一瞬たじろぐも、値札はどれも意外と良心価格で
あり、二つ三つ買って帰るのも悪くない。とはいえ、せっかくが殿下送ってくれるという
ところで時間を掛けるのもなんだし、と目をやれば、殿下はいつの間にか側の石に座って
携帯ゲームに興じていた。
あり、二つ三つ買って帰るのも悪くない。とはいえ、せっかくが殿下送ってくれるという
ところで時間を掛けるのもなんだし、と目をやれば、殿下はいつの間にか側の石に座って
携帯ゲームに興じていた。
「侍女隊フィギュア全6種類もコンプリート可能ニャー」
「入れたら二度と出せない侍女長貯金箱もあるニャー」
「ああ、お構いなく」
「入れたら二度と出せない侍女長貯金箱もあるニャー」
「ああ、お構いなく」
わけの分からない侍女グッズを薦めてくる二人を制しながら、夜々重はというと既に口を
半開きにしながらワゴンを漁っており、ひとつ取り出しては何事かをぶつぶつ言いながら
戻し、やがて小さなキーホルダーを俺の目の前にぶら下げた。
それはどこの観光地にでも売っていそうな安っぽいデザインで、短い紐に赤い玉がくくり
つけられているだけのものだった。
半開きにしながらワゴンを漁っており、ひとつ取り出しては何事かをぶつぶつ言いながら
戻し、やがて小さなキーホルダーを俺の目の前にぶら下げた。
それはどこの観光地にでも売っていそうな安っぽいデザインで、短い紐に赤い玉がくくり
つけられているだけのものだった。
「お洒落ソウルキーホルダーだって」
「なんだよそれ……」
「なんだよそれ……」
ちっともお洒落でない外観と名称にうっかり反応すると、二人の侍女が間髪を入れず説明
を入れてくる。
を入れてくる。
「人の魂には様々な色と形がありましてニャ、自分の魂と同じものを付けるのが、地獄で
大流行なんですニャー」
「おやおや、これはお二人とも珍しい魂色をしていらっしゃるニャ、これはちょっと高く
なるけどSクラスニャ」
大流行なんですニャー」
「おやおや、これはお二人とも珍しい魂色をしていらっしゃるニャ、これはちょっと高く
なるけどSクラスニャ」
ブチ侍女がそう言いながら、テントの奥から小さな箱を取り出してきた。
演技じみたやりとりを見る限り、どう考えてもうさんくさいのだが、開かれた箱を覗いて
みると、濃紺の星形キーホルダーが2つ入っていた。
演技じみたやりとりを見る限り、どう考えてもうさんくさいのだが、開かれた箱を覗いて
みると、濃紺の星形キーホルダーが2つ入っていた。
「あれ、同じなんですか?」
夜々重が首をかしげながら質問をする。
「これはもう奇跡と呼んでもいいですニャ!」
「二人が強い絆で結ばれているという証拠ニャ!」
「二人が強い絆で結ばれているという証拠ニャ!」
キャッチ紛いの説明に、夜々重は頬を紅くしながら口元を押さえ、輝く瞳を俺に向けた。
「私これ欲しい!」
「マジでか……」
「500円ニャ!」
「税込で510円ニャ!」
「じゃあ二つください!」
「マジでか……」
「500円ニャ!」
「税込で510円ニャ!」
「じゃあ二つください!」
即答する夜々重、ハイタッチを決める侍女たちを前に、俺は大げさにため息をつきながら、
仕方なく財布を開いて、残り少ない金を渡す。
仕方なく財布を開いて、残り少ない金を渡す。
「別に俺が欲しい訳じゃねえんだからな」
「こいつ……ニャんだっけ、あれ」
「ツンデレニャ!」
「ちげーよ!」
「こいつ……ニャんだっけ、あれ」
「ツンデレニャ!」
「ちげーよ!」
ひそひそと嫌らしい目を向ける侍女たちに一言反論しつつも、自分を鑑みるになるほど、
ツンデレというのはこうした過程をもって生成されていくのか、と納得してみた。
ツンデレというのはこうした過程をもって生成されていくのか、と納得してみた。
「おそろいだね」
「あ、ああ。しょうがねえな」
「あ、ああ。しょうがねえな」
手渡されたキーホルダーに気恥しさを感じつつも、そうしたやりとりを続けながら過ぎて
いく時間は不思議と心地よいもので、侍女コンビニのニヤニヤした笑顔にすら、修学旅行
最終日の土産屋を思わせる哀愁を感じる。
いく時間は不思議と心地よいもので、侍女コンビニのニヤニヤした笑顔にすら、修学旅行
最終日の土産屋を思わせる哀愁を感じる。
「まいどニャー」
「またくるニャー」
「またくるニャー」
卍 卍 卍
笑顔を絶やさずにキーホルダーをくるくると回す夜々重を連れ、殿下のところまで戻った
とき、また遠くで鹿威しの音が響いた。
足を止めてもう一度辺りを見回してみたが、やはり見つからない。何気なく殿下にそれを
訪ねてみると、携帯ゲーム機をぱたんと閉じて怪訝な顔を俺に向ける。
とき、また遠くで鹿威しの音が響いた。
足を止めてもう一度辺りを見回してみたが、やはり見つからない。何気なく殿下にそれを
訪ねてみると、携帯ゲーム機をぱたんと閉じて怪訝な顔を俺に向ける。
「鹿威し? そんなもんここにはないぞ」
「いや、でも確かに。なあ夜々重も聞こえてただろ?」
「え?」
「鹿威しだよ、ししおどし」
「あ、もしかして……」
「いや、でも確かに。なあ夜々重も聞こえてただろ?」
「え?」
「鹿威しだよ、ししおどし」
「あ、もしかして……」
そこまで言いかけた夜々重は突然思い立ったように巾着袋を漁ると、あの木製の携帯電話
を取り出して、何やら操作をしはじめた。
を取り出して、何やら操作をしはじめた。
「これ着信音なの」
「お前、それ大分前から鳴ってたぞ」
「お前、それ大分前から鳴ってたぞ」
何故そんな環境音に近いものを着信音にしていたのかは分からないが、そういうとぼけた
ところがこいつらしくもあるのだろうと口元を緩めると、夜々重が青ざめた顔を上げた。
ところがこいつらしくもあるのだろうと口元を緩めると、夜々重が青ざめた顔を上げた。
「ハナちゃんからだ、すごいメールの数……」
その震えた声は穏やかだった俺の心に微かなヒビを穿ち、たったひとつ残されていた不安
要素をじわじわと滲ませはじめた。
即ち、蘇るべき俺の身体に何か起きたのでは――と。
要素をじわじわと滲ませはじめた。
即ち、蘇るべき俺の身体に何か起きたのでは――と。
いやいや、まさかそんな。きっとハナちゃんもこっちが心配になってメールを入れてきた
のだろう、と無理にかぶりを振ってみたが、ぽつりと続けられた言葉は油断しきっていた
俺を、再びどん底へと叩き落とすものだった。
のだろう、と無理にかぶりを振ってみたが、ぽつりと続けられた言葉は油断しきっていた
俺を、再びどん底へと叩き落とすものだった。
「死体、バレちゃったって……大騒ぎになってるみたい」