無限桃花~地獄より~
車が揺れる。雪の積もる地面は既にアスファルトのように硬く引き締まり、タイヤが深く埋もれる事はないが、地面の凹凸はダイレクトに車体へ伝わってきた。
サーフを運転する老人はその地面にかなり苛ついていた。飛んで行ければ楽だが、連れ合いの少女の事を考えるとそうはいかない。老体でこんな車を引っ張るのも一苦労だ。
しかし、その余りの悪路に遂に堪忍袋の緒が切れた。
サーフを運転する老人はその地面にかなり苛ついていた。飛んで行ければ楽だが、連れ合いの少女の事を考えるとそうはいかない。老体でこんな車を引っ張るのも一苦労だ。
しかし、その余りの悪路に遂に堪忍袋の緒が切れた。
「もう嫌だ。なんで車なんですか?飛んで行けばすぐに着く。わざわざ車を盗んでまで来たのに、これじゃ自分から面倒な事してるような物ですよ」
「だって外見てよ。雪よ、雪。二月は1番寒いってのに飛んでいったら凍えちゃうよ。アナタは大丈夫かも知れないけど私はムリ!」
「そりゃ私は平気ですが‥‥‥」
彼方と婆盆はある霊場へ向かっていた。かつて封印され、霊域へと集められた者達を蘇らせる為に。
「しかしまぁ‥‥こんな所に封印されてはたまりませんね。行くだけでもこれだ。山開きしてイタコや僧侶が集まったら面倒だ」
「だから今行くんでしょ?アナタが言い出した事なんだからちゃんと行きなさい。だいたい私は雪融けてからのほうがいいって言ったのに。誰が居ても別に関係ないじゃん」
彼方は助手席で脚をばたつかせながら言った。買い溜めしたお菓子を頬張りながら婆盆と会話する姿はいたって普通の女の子だ。
この女の子が本当にあの『お方』の生まれ変わりなのだろうか?婆盆はふとそんな事すら考えた。
それほどまでに彼方は、愛らしい笑顔を振り撒くただの女の子に見える。
この女の子が本当にあの『お方』の生まれ変わりなのだろうか?婆盆はふとそんな事すら考えた。
それほどまでに彼方は、愛らしい笑顔を振り撒くただの女の子に見える。
「‥‥どれだけお菓子買ってきたんですか」
「冬越せるくらい♪」
「やれやれ‥‥」
婆盆は溜息をつく。人としてはあの『お方』のように育つよう願っていたが、どうにも奔放な性格になってしまった。
姉の桃花は割としっかり者と聞いていた。やはり姉妹は距離をとっても姉妹なのか、下の娘は自由に育つ物のようだ。
姉の桃花は割としっかり者と聞いていた。やはり姉妹は距離をとっても姉妹なのか、下の娘は自由に育つ物のようだ。
これも、二人の魂がお互いを感じあっているせいだろう。
桃花と彼方は、普通では有り得ない千年の繋がりがあるのだから。
桃花と彼方は、普通では有り得ない千年の繋がりがあるのだから。
「シートに食べカス付けないで下さい」
「盗難車なんだから細かい事言わないでよ」
彼方達は、雪道を進む。全ては霊域に封印されし『闇の軍隊』を再び解き放つ為に。
桃花へ差し向けた刺客も、すべてはこの為の時間稼ぎに過ぎなかった。
彼方は感じていたのだ。桃花の中の魂が、かつての記憶を呼び起こす。猿鬼ごときでは敵わないが、練刀よりは持つはずだ。
目的地につくまで持てばいい。猿参は彼方にとって、『奴』にとってその程度の存在だった。
桃花へ差し向けた刺客も、すべてはこの為の時間稼ぎに過ぎなかった。
彼方は感じていたのだ。桃花の中の魂が、かつての記憶を呼び起こす。猿鬼ごときでは敵わないが、練刀よりは持つはずだ。
目的地につくまで持てばいい。猿参は彼方にとって、『奴』にとってその程度の存在だった。
「しかし何でわざわざこんな所に集めたんでしょうか?京に封印しておけば陰陽師や政権の監視も効くでしょうに」
「ふん‥‥連中が考えそうな事よね。奴らは死者の霊がどうなろうと知ったこっちゃないんだ。日本中から霊魂が集まるここに封印して、その死者の霊の力で封印を維持してるのよ。
おびただしい数の霊が集まれば凄い霊力になる。彼らを束縛して封印の一部としてるの。
おかげで霊に捕われた魂は転生も出来ない‥‥これだから権力者ってキライ。自分さえ良ければいいんだから。支配者の責任って物も連中には関係ないのよ」
おびただしい数の霊が集まれば凄い霊力になる。彼らを束縛して封印の一部としてるの。
おかげで霊に捕われた魂は転生も出来ない‥‥これだから権力者ってキライ。自分さえ良ければいいんだから。支配者の責任って物も連中には関係ないのよ」
彼方は語る。かつての記憶の中から。
やがて目的地は見えてくる。雪に埋もれた巨大な門。
下界とは違う霊域の気配が包み込み、辺りの霊が叫んでいるのが聞こえるようだった。
下界とは違う霊域の気配が包み込み、辺りの霊が叫んでいるのが聞こえるようだった。
恐山 伽羅陀山菩提寺。
彼方と婆盆はその門を目指していた。
彼方と婆盆はその門を目指していた。
「さてと彼方。ここからは歩きです」
「イヤです」
「嫌って‥‥車じゃいけないですよ」
「寒すぎ。もうちょっと車で入って行ってよ。どうせ誰も居ないじゃない」
「車じゃとても‥‥‥仕方ない子ですねぇ全く」
婆盆は彼方を残し車を降り、門へと歩く。そしてその姿を徐々に天狗のそれへと変え、手にした葉扇子を振りかざす。
風が巻き起こる。
それは今まで降っていた雪の流れを変え、やがて突風は刃となり地面を斬り伏せる。
そして雪の地面は舗装されたように平らになり、門への道が出来上がる。
婆盆はさらに門へと歩みを進め、その前に立った。すると‥‥
それは今まで降っていた雪の流れを変え、やがて突風は刃となり地面を斬り伏せる。
そして雪の地面は舗装されたように平らになり、門への道が出来上がる。
婆盆はさらに門へと歩みを進め、その前に立った。すると‥‥
『妖よ。それ以上歩を進めてはならぬ。ここは霊場。お主のような魂の来る所では無い』
「ほう?何奴か?ここの守護をする者か」
『妖が何故参った。ここにはお主のような者にとって無用の地。さぁ、早々に立ち去れ。ここは死者を弔う場所ぞ」
「そうは行かぬ。私とて用もなく赴いたのではないのだ。何故ならば‥‥‥‥」
婆盆は言った。だが、その言葉は彼方によって遮られる。いつの間にか車を降り門まで来ていた彼方は、怒りを込めた声で言い放った。
「‥‥‥死者を‥弔う場所?訂正しなさい。死者を辱める場所だと」
『お主は人か?何故、妖と人が一緒に‥‥‥』
「死者を解き放て!」
「死者を解き放て!」
彼方は叫ぶ。同時に黒い稲妻がほと走る。
「‥‥守護ですら間違った教えを信じてる。時の権力者が間違った事をしたからだ。ここは霊場なんかじゃない。ただの牢獄よ。死者の叫びが聞こえないの?彼らはここで物として扱われてる」
『その稲妻‥‥‥そんな馬鹿な。無限によって封印されたはずでは?』
「違う。封印されたんじゃない。私が取り憑いたの」
黒い稲妻は門を砕く。彼方はそこを潜り、霊場へと侵入する。
同時に、剣と槍で武装した明王が現れ彼方の前へ立ち塞がる。
同時に、剣と槍で武装した明王が現れ彼方の前へ立ち塞がる。
『闇の子よ!これ以上は進ませる訳には行かぬ!』
「黙りなさい三下。あなたはキライ。だから消えてもらう」
彼方の稲妻は易々と明王を砕き、明王その場へと崩れてゆく。天界の武神でさえ、もはや彼方の敵では無かった。
「さぁ、行くよ婆盆」
「心得た。主よ」
「主って辞めて。彼方でいいってば」
「あの明王はどうするおつもりか?」
「アレはキライ。そのまま消えていい。新たな四天王ももういらないし。それにこの場所にはもっと強いのが眠ってるしね」
「ふむ‥‥奴は正義も悪もない、ただの力の化身。暴れる以外何もできまい」
「いいじゃないそれで。その為に昔寄生したんだから」
彼方は歩を進め、本尊を見つける。延命自蔵菩薩。この恐山の封印の要。これを打倒すれば、第一の封印は解かれ、無数の霊魂が解き放たれる。そして、それは簡単だった。
彼方はただ本尊を黒い刀で両断した。本尊としての菩薩像は、ただの仏像に過ぎなかった。そして
彼方はただ本尊を黒い刀で両断した。本尊としての菩薩像は、ただの仏像に過ぎなかった。そして
「婆盆見て!ははは!凄い数!」
「これは‥‥!何という事か。やはり人とは妖より恐ろしい‥‥!」
彼方と婆盆は空を見上げる。雪に混じり現れたのは、数十万にも及ぶ霊魂達。人も妖も関係無く、すべては封印の一部として、千年にも渡り幽閉されていたのだ。
彼らは叫んだ。歓喜の声をもって彼方の名を叫んでいた。おお、天神様。天神様が助けてくれた、と。
彼らは叫んだ。歓喜の声をもって彼方の名を叫んでいた。おお、天神様。天神様が助けてくれた、と。
「クスクスクス‥‥これで封印の効力は弱くなる」
「あとは縛鎖を解き我等の軍を呼び起こすのみ。彼らは再びこの国に矢を放つ」
「さぁ婆盆、儀式の準備を。そして‥‥戦争へ備えましょう」
無数の霊魂に囲まれた彼方は、宇曽利湖に向け歩き出す。そこには眠っている。闇へ落ちた天神が地獄で作り上げた邪悪の軍勢。
彼方はそれを現世へ蘇らせようとしていた。
「‥‥‥やっぱり近くまで車で行こう?寒い」
「もう運転は嫌ですよ‥‥‥」
彼方はそれを現世へ蘇らせようとしていた。
「‥‥‥やっぱり近くまで車で行こう?寒い」
「もう運転は嫌ですよ‥‥‥」