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無限桃花~無限地獄は我が内に~

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eroticman

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無限桃花~無限地獄は我が内に~


 ビルの谷間に一台のバンが入って行く。白いバンの窓は鉄板で覆われ、後部の様子は見えない。
 バンは巧みなハンドル捌きで人気の無い路地裏へ侵入し、後部のドアが勢いよく開く。中からはボディアーマーとMP5で武装した男達が飛び出した。
 まるでハリウッド映画のワンシーンのようだったが、ここは紛れも無く日本だ。

「要救助者発見!こっちだ!」

 一人が叫んだ。彼らは直ぐさまその場へ集まり、周囲に銃口を向けつつ倒れている男の様子を伺う。

「黒丸隊員を発見。意識不明。ケガも酷い。何にやられたんだ‥‥」

『了解。すぐに指定病院へ運べ。警察に見られたら後で面倒だ。周囲の警戒も怠るな。まだ寄生が居るかもしれん』

「A小隊、了解」

 彼らは『ヤタガラス』の特殊作戦部隊。黒丸達エージェントとは違う、直接的な戦闘及び情報収拾を目的とした連中だ。
 その装備はSATと似ているが、使用する武器は対寄生の物へ換えられている。訓練はアメリカ陸軍のストライカー部隊と共同で行っている。陸上自衛隊の対テロ特殊部隊と偽ってだ。

 黒丸はバンへと慎重に運ばれ、周囲は警戒する隊員に護られる
その内の一人の隊員が、恐るべき物を発見した。
 地面にぽっかり開けられた地下への入口。コンクリートの壁につけられた巨大な傷。

「怪獣が通った後だな‥‥‥」

 隊員の一人が呟いた。ここに居たのは寄生一匹と、少女一人だ。しかもこの傷痕を残したのは、無限桃花という少女だと、無線で聞いていた。

「これなら寄生相手でも心配は要らないな」

 彼は楽観した。これほどまでの戦闘能力を持ってすれば、寄生など物の数ではない。きっと彼女なら、奴らを撃退するだろう。
 彼は再び周囲に目をやり、警戒を強める。後ろに居た隊員が彼の肩を無言で叩き、黒丸が車へ収容されたと伝える。
 それを合図に、彼らはバンへと乗り込み、その場を離れた。

 残されたのは、黒い稲妻が炸裂した痕だけだった。

ーーー地下世界。
 とてつもなく広い空間には、魔物と少女。それだけが存在していた。

 無限桃花は倒れていた。天叢雲剣の力は強大であり、それを振るう者もまた、人間より遥かに強大な力を持つ魔物だった。

 桃花から滲み出る黒い影は、桃花から取った村正をもって人の形をなしていく。桃花の意識はさらに混濁し、目の前で何が起こっているのか理解出来ずにいた。
 ただ、昔の出来事が思いだされる。あの日、無限桃花が刀を手にし、彼方が釣れ去られたあの時。

 そうだ‥‥似ているあの時と‥‥

 桃花は思い出した。彼方から出る黒い影。それもまた人の形だった。
 では、自分から出るこの影は‥‥‥一体‥‥?

(いかんなぁ桃花。もう見てられん)

「あなたは‥‥誰?」

(怒りや憎しみ、悲しみ等、負の感情に任せ力を振るえばそれは修羅道へ通ずる。すなわち闇へと落ちやすい。父の言葉を忘れたか?)

 桃花の意識はさらに薄れる。まるで肉体から魂が抜けたように‥‥‥

(本来であれば私が外へ出るなどイカン事や。しゃあけど仕方ないわ。このままだと死ぬか、再び闇の天神になる。悪世巣の時みたいにな。アレはいかんな。私がすんでで止めたからいいものを)

「あなたは‥‥‥誰なの?なんで父さんの事を‥‥」

(知っとるも何も無い。お前が知ってる事は私が知ってる事や。)

「あなたは‥‥」

(本当なら無限当主なら古文書で私の事や『奴』の事も知ってるハズなんだが‥‥‥知らないなら仕方ない。それよりもっと大切なモンをあの時失ってしまったさかいな‥‥)

「誰なの‥‥‥‥‥?」

(無理せんで寝なさい。知りたい事あったら自分の魂に問い掛けなさい。桃花が知っとる事は私が知っとる事やけど、私が知っとる事で桃花がまだ知らない事もある。
覚えとき。無限の魂はお前に宿ってる。心では認めたくなくとも、お前の魂は宿命を知っとる。妹が‥‥彼方が『奴』だという事も)


 桃花の影は語り、桃花は意識を失う。性格に言えば、肉と霊から魂が分離したのだ。
 彼方が『奴』である事を、桃花は最初から知っていた。桃花の影はたしかにそう語った。

 眠りに付いた桃花の戦闘服は消え去り、影へと帰る。そこに眠っているのは、ただの可愛いらしい女の子だ。

(すまんな‥‥‥こんな娘にまで苦労かけるわ。代わりにあの大猿は私が始末したる)

 黒い影は村正を猿参へ向け、稲妻を辺りに撒き散らした。それは宝剣を持つ猿参ですら、恐れおののく程に。


「貴様‥‥もしやあの時の陰陽師か‥‥?」

(なんや、私の事知っとるなんてえらい長生きな妖や。ふむ‥‥‥‥石川の猿鬼か。聞いた事はあったがまさか東京で会うとはな。やはり時の都には妖が集まるんかな)

「何故貴様が‥‥あの時、闇の天神と共に死んだのでは無いのか?!」

(なるほどな‥‥天皇は上手い事隠してくれたみたいやね。あの時は苦労した。さっさと死ねりゃ良かったがそうもイカンかったしな。何せいずれ奴が蘇ると解った以上は何か仕込んどかんとな)


 影は語る。飄々とした口調で。影糾の正体すら知っていた猿参は、彼の存在もまた知っていた。

(闇の天神は‥‥‥やはり蘇った。私の読みは正解や。千年の時を越え、ようやくあいつを本当に退治出来る)

「貴様が‥‥‥無限の天神なのか?」

(そりゃ違う。天神の力‥‥『奴』の力を受け継いだのは桃花だけや。仕込んだのは私やけど。
私は桃花に正しくそれを使うよう教えるだけや。今回は特別なんやで?

アイツもまさか自分の力が他の奴にまで受け継がれるとは露ほども思わんかったろうな)

「貴様‥‥‥無限め‥‥‥」

(無限か‥‥懐かしいな。その名前。でも今は無限桃花や。私は消えるべき存在。桃花の魂の隅っこでいい。さて、お喋りはもう止めや。気の毒やけど猿鬼さん、『奴』に憑かれた以上は斬らねばいかんわ)

(強くて運がよけりゃ『奴』の呪いだけ消えるかも知れんね。あの妖狐みたいに。でも、猿鬼さん。アンタはそこまでの妖ではないわ)

 黒い影は村正を振りかざす。そして村正から現れたのは、桃花とは比べもに成らないほど巨大な黒い龍。

(天神は闇に落ち、その力は暗黒の物となった‥‥桃花はそれを受け継ぐ。しかし力の善悪はその性質やなく使う者が決める事や。桃花には何度言ったか解らんけどな)

(さて、終わりや。その天叢雲剣は後で皇室に返却しておくから。心配せんといて)

「何を‥‥!貴様ごとき魂のかけら、打ち砕いてくれるわ!」

(『奴』と会ったなら知っとるやろ?かけらでもお前なんか屁でも無いわ。桃花が目覚めたらきっと凄い事になる。彼方のように‥‥‥‥)

 黒い龍は猿参を飲み込む。一瞬で。
 影糾に寄生された猿鬼に耐え得る術は無い。それは天神が自らの呪いを、寄生を打ち消す為に培った力だから。

 猿参は消える。宝剣を残して。





「‥‥‥では続いて本日のスポーツ、武外さんお願いします。」
「はい新立さん‥‥‥」


 テレビのスポーツニュースが聞こえてくる。この番組でスポーツの話題をやる時間は決まっている。今はだいたい夜の10時40分といった所か。

「‥‥今日はハルトシュラーズのキョン投手が初のブルペン入りをし、45球、変化球を交えながら‥‥‥」


 心地いい。暖かいマットの感触に包まれ、夢うつつのままテレビのニュースを聞いていた。
 いつもならそろそろ寝る時間に近い。しかし今日はもう寝ていた。記憶が曖昧だが、あまりの心地良さに意識は未だ目覚めを許さない。

「なんで私寝てるのかな‥‥?」

 桃花は今日の出来事を、眠りにつく前までの記憶を探る。

「今日はちょっと遅く起きて、たしか駅前のレコードショップ行って‥‥そうだ。そのあと理子さんから電話あったんだ‥‥そして‥‥‥」

「そうだ、黒丸さん!!!」

「‥‥ん~~?‥‥あ、起きましたか?桃花さん?」



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