創作発表板@wiki

白狐と青年 第7話

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集

白狐と青年 第7話



            ●


 ≪魔素≫が匠の周囲の地面に集中し、魔法が編まれようとする。
匠は地面を棒の端に形成した≪魔素≫の刃で砕き、魔法を成すために集中していた≪魔素≫を霧散させた。
 クズハが手を掲げると、彼女の頭上に人の胴体程もある氷柱が現れ、浮かぶ。
 手の一振りで氷柱が宙を疾った。
 匠は棒に≪魔素≫を注ぎ込み、握りこんでいる部分以外から幅数メートルの太く厚い刃を形成、地面に突き刺し盾にした。
 氷の砕ける砕音をやり過ごし、呼びかける。
「クズハ!」
 匠の声無視するように再びクズハは頭上に氷柱を現した。
「やはり、人は器用なものよ」
 クズハの背後から信太主は複雑に編まれては様々な効果を生み出す魔法を見、感心したような声を上げた。
 更に魔法を現していくクズハとそれを防ぎながらクズハを止める機会を計っている匠、先程から、この構図に動きは無かった。
 ……何をやっているんだろう。
 クズハは勝手に動作する身体に全てを任せながらそんなことを思っていた。
 今匠さんに攻撃を加えている魔法、この力を扱えるようになるために努力したのは何のためだったろうか?
 それは、
 武装隊として戦う事を生業にしている匠さんに置いて行かれないように、戦う時でも役に立つようになって傍に置いてもらえるように。そのために私は魔法を習った。
 そして私は今何をしているんだろう?
 力があっても、私はいつもあなたの傍には居させてもらえなかったから。
だから、力づくで匠さんを傍にとどめ置いておこうと、それがいいと私の身体を操ってるひとも言っていて……。
「ち、が……う」
「……うん?」
 クズハの発した小さな声に、信太主はちらりと視線を向けた。
 見ると、信太主が命じるままにクズハが放っている魔法、その≪魔素≫の集中に乱れが生じていた。
「ほう」
 信太主はそれを見て愉しげに笑う。
「そう、身体の制御を我などに取られるな……抗え」
 そう言った信太主の視線の先、間断なく襲ってくる魔法を防いでいる匠は、それをしながらも信太主を見返していた。
 狙いはクズハではなくその背後でクズハを操り、戦いを見ているお前だと、その目が言っている。
「操られていたことを見抜いたことといい、クズハに一切刃を向けようとしないことといい、まあ及第点かのう……」
 呟き、
「のう、若造」
「……なんだ?」
 刃を振るいながら答える匠に信太主はうむ、と頷き、言葉を作る。
「クズハは不安だったのだそうだ」
 匠は怪訝な顔で信太主を見た。
「どういう……?」
「いつ捨てられるのかと、不安だったのだそうだぞ」
 重ねるように信太主は言葉を作る。
「何故、そんなことをクズハが思うのかと言う顔だの」
 呆れたようなため息が信太主の口から零れる。
「若造、お前はクズハが何故魔法なぞ身に付けたのか、分かっておるか?」


            ●


 私は傍に居続けたくて、平賀さんに頼んで魔法を教えてもらった。
匠さんは「そんな力、クズハにはいらないと思うけどな」と言ってくれていたけど、それでも魔法を学んで、
これで役に立てるんだと思っていたら、匠さんは相変わらず私を戦闘から遠ざけた。
 それは魔法を扱えるようになった異形を危険だと判断したからで、匠さんは私に襲われるのを警戒して……。
「違う……ううん」
 違えば良い。とかぶりを振る。
 私は、魔法を学んだ理由を言わなかった。「傍に置いてもらいたい」からと、そのことを言えなかった。
 私のせいで匠さんが居場所を追い出されてしまったのにこれ以上迷惑をかけるかもしれない私が傍に居てもいいかなどと、訊けるわけがなかった。
 戦いを生業にしている匠さんの傍に居るには力が必要だと思ったから。ただそう思って私は魔法を身に付けた。必要な時に使われる匠さんの力であれば良かった。
 けど、
 あの時に、何の力も持たない私が傍に居たいと言ったらどうなったんだろう? 平賀さんの所に預けられただろうか? それとも……。
 答えは今となっては分かりはしない。
 しかし、
 ――その問いかけを今クズハがすることはできるのう。
 身体を操っている声が言う。そう、問いかけは今でもできる。ただ訊くことならば、今のクズハでもできる。
 今更、ですよね……。
 思い、しかしクズハは言葉を放った。
「――――匠さん」
 上擦った声が口をついて出た。操られていた身体がクズハの意思のままに動く。そのことに少しの戸惑いを感じていると、自分の声に匠が顔を上げるのが視界に映った。
 無視をされていない。そのことにほっとして、
「……私は」
 周囲で身体が勝手に組み上げていた魔法を解き、魔法を編もうとしていた≪魔素≫を体内へと還元していく。
「おお、成った! 我の肉を凌駕しおったわ!」
 クズハを操っていた信太主の声が、愉快そうな色を含んで背後で笑う。
 その言葉の意味もよく分からぬまま、クズハはただ匠にのみ集中した。
「私は、匠さんの傍に居たいんです!」
 叫ぶと同時、還元された≪魔素≫が爆発した。
 制御を失って暴走した≪魔素≫が強烈な衝撃波となって信太の森の一角を駆け抜けて行く。
 土埃が舞いあがり、周囲の木々が根元から倒される。
 それら数瞬の爆発が収まった時、クズハは立ちすくんでいた。
 もう身体は自由に動かすことができる。操っていた者の声も聞こえない。
ただ、自分が引き起こした爆発による土埃の向こうに目を凝らし、立っていた。
 土埃が静まり始める。その向こうから、手に分厚い刃を形成した棒を提げた匠が歩いてきた。
 匠はクズハの目の前に立つと、クズハの様子を見て、爆発を防ぎきった刃を分解し、≪魔素≫へと戻しながら周囲を見回した。
「信太主は、逃げたか」
 悔しそうに言った匠は次いでクズハに視線を移す。眉を浅く立て、
「家出娘め、迎えに来たぞ」
 軽くチョップを振り下ろした。
「…………ぁ」
 弱いその一撃に、しかしクズハはその場にへたり込んだ。
「ご、ごめんなさ――」
 匠を刺したことか、居場所を奪ってしまったことか、先程の出過ぎた願いか、一体何に対する謝罪なのかクズハ本人にも分からないまま発されようとした謝罪は、
「お仕置きはまあ後でするとして」
 困ったような顔でクズハの頭に乗せられた匠の掌に遮られた。
「不安にさせるようなことをして悪かった。……ごめんな、俺が上手く接せないせいで」
 そのまま頭を撫でられる。その感触を心地良いと思いながらクズハは首を振った。
「い、いえ……わた、私が……悪くて……」
 涙が出て来て言葉にならない。もどかしく思っていると「あーあー無理するな」と匠が声をかけた。
「それに悪いのは信太のクソ狐だ」
 苛立たしげに第二次掃討作戦時の呼称で信太主を呼ぶ匠に、
「あの人はそんなに悪くないと、思い……ます…………」
 自信なさげにクズハが信太主の弁護をした。匠は目を丸くし、髪を掻きつつ、 
「まあ、森に現れた異形は信太主と組んでいたわけでもないようだったし、アレの言葉を全て信じるわけじゃないが、
クズハが俺の傍に居たいとかそんなことの為にわざわざ魔法まで習った事を教えてくれたしなあ」
 ぶつぶつと呟いた後、
「まあいいや、異形の封印が解けてるわけでもないようだし、帰ろう」
 クズハに手を差し出した。
「……え?」
 その手を、匠を、クズハは思わず見上げた。
「どうした?」
「いいんですか?」
「何が?」
 首を傾げる匠。
「あの、自治街に帰っても、いいんですか?」
 あんなことをしたのに。そう発される言葉は匠に笑い飛ばされた。
「クズハは何もしてない。そういうことになってるから問題ない。
 ってか連れて帰んないと反抗期で家出な設定上捜索隊とか組まれそうなんだ」
 だから急いで帰ろう。そう言って差し出された手におずおずと手を伸ばし、クズハは涙に掠れる声で言った。
「ありがとう、ございます」


            ●


 人の身よりも巨大な金毛の狐が、遠くに青年と、それと手を繋いだ銀髪の少女を見て満足気に言った。
「成ったぞ。流石といった所か。まあ、あれで完全だろうて」
 年若い女性の声音で流暢に飛びだす人語は落ち着いていつつも妙に偉そうだ。
 その声に応える声があった。
「御苦労様。少しやり過ぎな感は否めないけどな」
 男の声、年の頃は二十代後半だろうか。こちらも満足げに言って大狐――信太主をたしなめていた。
「うるさい。我自身が手を出さぬのならば個人的な怨みも少しは晴らしても良いと言うのが約束だっただろう」
 まあそうだが、と男は言って二人から信太主へと視線を移した。
「じゃあ、平賀博士の所に行って治療を頼もうか。彼らに会う時に所々怪我してたんじゃあ格好がつかないからな」
 そう言って男が指摘する信太主の体は数カ所が爆発の余波で傷付いていた。
「まさかあそこまで感情を爆発させた上に本当に爆発がおこるなどとは考えなかったのだ」
「けっ」と吐き出された言葉に男は「はいはい」と頷き、懐から一枚の符を取りだした。
「じゃあとりあえず休んでおけ」
「む、式というのはいまいち慣れんものなのだがの」
 そう言いつつ信太主が符に触れると、符から≪魔素≫が放出され、いくつかの円陣を描いた。
 円陣は信太主を何重かに囲み、その身体は符の中へと吸い込まれる。
 それらが終わった後、男は符を懐に戻し、一仕事終えたため息を吐いた。
「世話が焼ける」
 笑みと共に呟かれた言葉は森に溶けて消えた。
+ タグ編集
  • タグ:
  • シェアードワールド
  • 異形世界
ウィキ募集バナー