創作発表板@wiki

ANARCHY FOREVER FOREVER ANARCHY 第1話

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

ANARCHY FOREVER FOREVER ANARCHY 第1話




埃っぽい寝床で目を覚ました我堂は、枕元の瓶に少し残っていた焼酎を呷ると、回廊を歩いて薄暗い城の大広間に出た。どこからか異形のものらしい大鼾が聞こえてくる。

(… 腹が…減ったな…)

つるりと剃り上げた頭には禍々しい入れ墨。細身の長身を黒革の装甲服でぴったりと包んだ彼は、人というよりまるで異形の化身に見えた。蘆屋我堂。冷たく無表情なその顔は、古めかしい名にそぐわずまだ若々しい。

「…お目覚めかの、我堂どの?」

我堂が無人の広間を徘徊し、昨夜の酒宴の散らかった残り物を腹に詰め込んでいると、よく通る女の声がした。熊野山中にそびえるこの城の主、『キヨヒメ』のおっとりとした声だ。

「…食ったらまた寝るさ…」

忽然と背後に現れたキヨヒメを振り返り、気だるそうに我堂は答える。紀州熊野一帯を牛耳るこの女妖は年経た蛇の異形。彼女を抱くとき、我堂は出来るだけそののたうつ本性のことを考えないようにしている。

「… それはそれは。ではお休みになる前に、ほんの少し妾の話を聞いて給れ…」

ちろちろと赤い舌を覗かせながら、妖艶な異形は我堂に『命令』を伝える。図々しさには自信のある我堂だったが、長らくキヨヒメの城には居候の身、この油断ならぬ女に無駄飯喰らいを背負いこんだ、と思われるのも癪な話だ…


蘆屋我堂を良く言う者はいないだろう。悪名高い魔法科学の大家、蘆屋一族の放蕩息子にして追放者。彼は魔素という未知の力を体系化し、この閉ざされた島国に新たな秩序と支配を打ち立てようと画策する蘆屋一族が大嫌いだ。
蘆屋だけではない。せっかく訪れたこの素晴らしい世の中でみみっちく計略を巡らし、鬱陶しい『文明』などというものを再構築しようとする全ての組織を彼は激しく憎んでいるのだ。

異形たちと血を流し合い、貪りあう恍惚。そこには小綺麗な理想も壮大な野心もない。ただ喰らい、犯す一匹の獣としての生をひたすら欲する蘆屋我堂は、当然ながら文明圏にその居場所を得られなかった。
幾多の騒ぎを起こして復興が進む関西中心部を追われた彼は、腐れ縁の異形たちと親交を深めながら南下し、今は異形の勢力が強い紀州熊野で、実力者キヨヒメの食客として自堕落な酒池肉林の日々を送っているのだった。


「… 異形を狩る者たちが居る…」

蛇らしく強い酒を好むキヨヒメは召使いに運ばせた杯を舐めながら、黙々と冷えた獣肉を頬張る我堂に告げた。

「… 我堂どのは異国の船が黒潮に乗って密かに我が国を訪れ、生け捕りにした異形を母国へと連れ去る、という話を御存知か?」

「…異人さんと行っちゃうのは、『赤い靴履いてた女の子』じゃなかったか?」

「ふざけるでない。妾の姪っ子が攫われたと言うても、まだ戯れ言を申すか?」

黄金色に輝くキヨヒメの瞳が、スッと縦に細く伸びる。短気な彼女の牙に掛からぬ為には聞き上手でなければならないことを、この城の住人たちはみんな良く知っている。
「…妾は山家の育ち故、人間のこと、特に異国人のことなど甚だ疎い。我堂どのならばその類の相手は得意であろう? ほれ、蛇の道は蛇』という奴じゃ…」

下手な冗談だ。しかし確かに我堂がまだ街にいた頃ならありふれた話だった。鎖国以来、半ば都市伝説のような『黒船』の噂。国内で起こる行方不明事件は、いつもこの怪しげな風説と重ねて語られる…

「…そうだな。たまには潮風も悪くないな。もしかしたら、海にも可愛い異形がいるかも知れん…」

我堂の素直な返答にキヨヒメは目を細める。姪っ子とやらの詳しい風貌、キヨヒメが握っている誘拐者の情報を聞きながらさっそく歩き出した我堂は、大広間の出口に転がっている異形の死体に気付いた。逞しい…狐の異形だった。夥しく血を吐いて息絶えている。

「…なんだ? こいつは…」

「我が姉妹なる信太の主よりの使者じゃ。我堂どのを捜し訪ねてきたが…紀州の酒が口に合わなかったらしいの…」

キヨヒメは再び目を細めてククッ、と笑う。我堂はこの死体が信太主が差し向けた自分への刺客だったと気付いた。以前信太森の異形と大阪圏武装隊が争ったとき、どさくさ紛れに闘いへ割り込んだ我堂は、信太主の傷ついた小間使いたちを犯したことがあるのだ。
慈悲深く重傷者は見逃してやり、軽傷の者も傷に障らぬよう優しく犯してやったのに、どうも信太主は未だそのことを根に持っているらしい。とんでもなく執念深い狐だ…

「…ま、なんだ。俺は誤解されやすい人間だからな。じゃ、善は急げだ…」

「宜しく頼む。そなたが居らぬのは誠に心淋しいが、良い知らせを待っておる…」

愛用の黒い金属棒を担ぎ、慌ただしく城をあとにした我堂は熊野の森に充満する濃密な魔素を深々と呼吸し、霧に霞む鬱蒼たる緑をしばし目に焼き付けた。
ちょうどキヨヒメとも潮時かな、と思っていた矢先だ。信太主に小角一派、それに『再生機関』…数え切れぬ仇敵たちもそろそろここを嗅ぎ付ける頃でもある。長居は無用だった。

(…海か…この時期の白浜は綺麗だろうな…)

この国が突然姿を変えてから、薄暗かった大阪圏の空でさえ毎日、鮮やかに澄んだ青さを湛えている。そう、我堂が暴れ回るのに相応しい、美しく広大な舞台は今日も燦然と輝いているのだ。
このまま姿をくらまそうかと思っていたが、生まれついての気紛れは彼を執拗に潮風の匂いへと誘った。異国の黒船。異形を攫う者たち…これも我堂の心を踊らせてくれそうな相手だ。

(…ま、見物だけでもして来るか…)

我堂が景気付けに馴染んだ武器で空を斬ると、漆黒の棒はブン、と嬉しげな唸りを草深い熊野山中に響かせた。


続く


[]]
[[]]
+ タグ編集
  • タグ:
  • シェアードワールド
  • 異形世界
ウィキ募集バナー