レンジャーズ~潮風と地下~
カモメが鳴いている。波は一見穏やかだが、断崖にぶつかり激しく水しぶきを上げていた。
潮風が吹き、その香りが辺りに漂う。日差しは柔らかい。思わず眠ってしまいそうな程に。
人々は自然の明かりを求めてここに集まる。穴蔵暮らしの中では珍しい、穏やかな場所だからだ。
人工的に造られた大きな岩のアーチが長く続き、一部は完全に自然と同化している。アーチの奥に隠されたいくつかの扉だけが、自然とは正反対の人工的な雰囲気をかろうじて保っていた。
今日は穏やかだった。珍しく休日と呼べる日だった。
潮風が吹き、その香りが辺りに漂う。日差しは柔らかい。思わず眠ってしまいそうな程に。
人々は自然の明かりを求めてここに集まる。穴蔵暮らしの中では珍しい、穏やかな場所だからだ。
人工的に造られた大きな岩のアーチが長く続き、一部は完全に自然と同化している。アーチの奥に隠されたいくつかの扉だけが、自然とは正反対の人工的な雰囲気をかろうじて保っていた。
今日は穏やかだった。珍しく休日と呼べる日だった。
「ここに居たんだ陽斗」
女性の声が聞こえる。行き交う人々の中から陽斗はそれを捜し、そして見つける。
黒いショートヘアの、よく見知った女性。
名前は――御堂呉葉。
黒いショートヘアの、よく見知った女性。
名前は――御堂呉葉。
「……たまには一人になりたいんだ。いつも集団行動だからな」
「私が一緒の時もその『集団行動』なの?」
「それはだな……」
「私が一緒の時もその『集団行動』なの?」
「それはだな……」
陽斗は返答に困る。一人になりたかったのは本当だが。
そうこうしている内に彼女はすぐそばまで来ていた。そしてベンチに座る陽斗の横に座ると、ちょっとイラだった様子で愚痴とも取れる事を言う。
そうこうしている内に彼女はすぐそばまで来ていた。そしてベンチに座る陽斗の横に座ると、ちょっとイラだった様子で愚痴とも取れる事を言う。
「勝手だよね。せっかく暇になったんなら誘ってくれてもよかったじゃん」
「悪かったよ。次は声かけるさ」
「フン。信用ならないなキミは」
「悪かったよ。次は声かけるさ」
「フン。信用ならないなキミは」
呉葉が頬を膨らまして抗議をしてくる。こうなったら多少面倒だ。この前は遠く離れた別のシェルターで製造されるアクアビットとか言う高い酒をねだられ、それでようやく機嫌を取り戻してくれた。
模造の酒とは言え、いい材料を生産しているそのシェルターのアクアビットは評判がいい。
一度行ってみたいものだ。陽斗はひそかにそう思っている。
模造の酒とは言え、いい材料を生産しているそのシェルターのアクアビットは評判がいい。
一度行ってみたいものだ。陽斗はひそかにそう思っている。
「機嫌直せよ」
「イヤです」
「意地っ張りな女だなお前は」
「当たり前じゃん。こんな貴重な日にさ。一人でフラフラしてさ」
「イヤです」
「意地っ張りな女だなお前は」
「当たり前じゃん。こんな貴重な日にさ。一人でフラフラしてさ」
「フラフラって。お前だって一人になりたい時くらいあんだろ」
「無いよ」
「ウソつけよ」
「あるワケないじゃん。……いっつも一人なんだよ?」
「無いよ」
「ウソつけよ」
「あるワケないじゃん。……いっつも一人なんだよ?」
いつも一人。突き刺さる言葉だった。
「アンタはいいよね。戦闘戦闘また戦闘で。暇なんて無いでしょ? 不安になる暇もないでしょ?」
「……悪かったよ」
「何が『悪かった』よ! 人の気も知らないで!」
「だからってお前……」
「不安なんだよ? 一回出てったらもう帰って来ないんじゃ無いかって。……もう会えないかもって。だから……」
不安。それは陽斗も同じだ。出撃の度に思う。もう帰って来れないのではないかと。
「……悪かったよ」
「何が『悪かった』よ! 人の気も知らないで!」
「だからってお前……」
「不安なんだよ? 一回出てったらもう帰って来ないんじゃ無いかって。……もう会えないかもって。だから……」
不安。それは陽斗も同じだ。出撃の度に思う。もう帰って来れないのではないかと。
「だから、一緒になれる時は一緒に居てほしい。お願いだから、……もう勝手にどこかに行ったりしないで」
陽斗は「解った」としか言えなかった。
いつ死ぬかも解らない立場の陽斗にとって、それもウソになりえるのだが。
いつ死ぬかも解らない立場の陽斗にとって、それもウソになりえるのだが。
「中に入ろう。寒くなってきた」
「……うん」
「……うん」
二人は、無機質な扉から地下の街へと入って行った。
※ ※ ※
シェルター01。東部地下都市。それがこの街の名前。
都市というには言い過ぎだろう。人口は官民合わせて六万人ほどだ。
世界崩壊後、最初に造られたシェルター。それがここだ。張り巡らされた地下鉄や治水施設等を改造し、さらに今なお人の力で拡張を続けている。
岩のアーチがかかった海に面する断崖はかつては陸地だったらしいが、今は大きくえぐられている。
人々は人類絶滅の危機などどこ吹く風と言った感で非常に活気がある。
街の中央にある市場ではジャガイモやそれから作られた酒。海で取れる魚や貴重な家畜の肉等の食料品から、個人用のラジオや服、さらにはコンドームに至るまで様々売られている。
その巨大な市場の周囲には居住区が設けられ、そこで生活する人々はさらに地下農場や畜産施設、さらには軍需工場でそれぞれ職務にあたっている。
この街に経済の概念を持ち込んだ指導者達は割と優秀だと言えるだろう。それは人々に活力を与える結果となっている。
都市というには言い過ぎだろう。人口は官民合わせて六万人ほどだ。
世界崩壊後、最初に造られたシェルター。それがここだ。張り巡らされた地下鉄や治水施設等を改造し、さらに今なお人の力で拡張を続けている。
岩のアーチがかかった海に面する断崖はかつては陸地だったらしいが、今は大きくえぐられている。
人々は人類絶滅の危機などどこ吹く風と言った感で非常に活気がある。
街の中央にある市場ではジャガイモやそれから作られた酒。海で取れる魚や貴重な家畜の肉等の食料品から、個人用のラジオや服、さらにはコンドームに至るまで様々売られている。
その巨大な市場の周囲には居住区が設けられ、そこで生活する人々はさらに地下農場や畜産施設、さらには軍需工場でそれぞれ職務にあたっている。
この街に経済の概念を持ち込んだ指導者達は割と優秀だと言えるだろう。それは人々に活力を与える結果となっている。
そして一番外側の区画はすべてヤタガラスが陣取っている。もっとも地上に近い所にある彼らの第一任務は街の防衛だ。
武装した兵士が二十四時間うろ付き、レーダー管制施設では常に目を光らせるオペレーターが居る。
外に飛び出した滑走路と格納庫。それと地上と地下を直接結ぶシェルターの正面入口はヤタガラスの管理下に置かれている。
特徴的なのは、他のシェルターでも自警団のような組織はあるが、はっきりと寄生との戦闘に備えて、かつ自ら攻め込む能力を持つ『軍』を持つのは、このシェルターだけという事だろう。
軍部司令官である黒丸昌は、かなり攻撃的な性格らしい。レジスタンスの結成と特殊部隊の編成をうたったのは彼一人だったのだから。
外に出る事は出来るが、遠くへの旅は厳しく制限されている。いつ寄生に襲撃されるかも解らない上に、もし尾行されでもしたらこの場所を知られる事に成り兼ねない。
寄生を探知する携行センサーに加え、何人かの護衛を連れた少人数のキャラバンを編成し、ようやく旅に出れる。
なのでこの街では『輸入品』の値段は非常に高い。すべてが自給自足の中でのもの珍しさも値段を吊り上げるのに一役買っているだろう。
武装した兵士が二十四時間うろ付き、レーダー管制施設では常に目を光らせるオペレーターが居る。
外に飛び出した滑走路と格納庫。それと地上と地下を直接結ぶシェルターの正面入口はヤタガラスの管理下に置かれている。
特徴的なのは、他のシェルターでも自警団のような組織はあるが、はっきりと寄生との戦闘に備えて、かつ自ら攻め込む能力を持つ『軍』を持つのは、このシェルターだけという事だろう。
軍部司令官である黒丸昌は、かなり攻撃的な性格らしい。レジスタンスの結成と特殊部隊の編成をうたったのは彼一人だったのだから。
外に出る事は出来るが、遠くへの旅は厳しく制限されている。いつ寄生に襲撃されるかも解らない上に、もし尾行されでもしたらこの場所を知られる事に成り兼ねない。
寄生を探知する携行センサーに加え、何人かの護衛を連れた少人数のキャラバンを編成し、ようやく旅に出れる。
なのでこの街では『輸入品』の値段は非常に高い。すべてが自給自足の中でのもの珍しさも値段を吊り上げるのに一役買っているだろう。
二人は中央市場の中をブラついている。
陽斗はせっかくの休日に職場である外側区画に行くつもりはないが、呉葉の方は中央市場の一角で働いているくせに楽しそうだ。ここは官と民の差だろうか。それとも二人で居る事が楽しいのか。
適当に入った店でガラスのアクセサリーをねだられる。
先程の膨れっ面を思い出して渋々買うが、おかげで陽斗の財布はそれなりのダメージを受ける。軍部に所属する陽斗は公共での優遇サービスがあるが給料自体は高くない。
やたらに職人の手仕事が施されたガラス細工のペンダントはなかなかの値段だった。
陽斗はせっかくの休日に職場である外側区画に行くつもりはないが、呉葉の方は中央市場の一角で働いているくせに楽しそうだ。ここは官と民の差だろうか。それとも二人で居る事が楽しいのか。
適当に入った店でガラスのアクセサリーをねだられる。
先程の膨れっ面を思い出して渋々買うが、おかげで陽斗の財布はそれなりのダメージを受ける。軍部に所属する陽斗は公共での優遇サービスがあるが給料自体は高くない。
やたらに職人の手仕事が施されたガラス細工のペンダントはなかなかの値段だった。
「ふふ 似合う?」
はいはいと陽斗は曖昧な返事をしておく。それでも呉葉の機嫌は直っていたようだ。
「ねぇ、どこかでお昼ご飯食べよ」
そういえば、と陽斗は支給品の腕時計を見る。時刻は十二時半を過ぎた頃。
考えると朝食も食べずに海を見に行っていた事を思い出す。
考えると朝食も食べずに海を見に行っていた事を思い出す。
「だな。俺も腹減ったし。そこら辺で済ますか」
「よし、すぐ行こう!」
「よし、すぐ行こう!」
普段は部隊単位で用意される食事を食べている陽斗にとって、外食というのは数少ない楽しみでもある。
支給される食事は栄養はあるし、味も悪くないがやはりつまらない物が多い。サバイバル訓練では虫まで食わされた。
真っ当に食事を楽しむ機会は滅多に無い。
支給される食事は栄養はあるし、味も悪くないがやはりつまらない物が多い。サバイバル訓練では虫まで食わされた。
真っ当に食事を楽しむ機会は滅多に無い。
「ちょっと行ってみたい店あるんだけどぉ?」
「どこ?」
「いつか行きたいって思ってトコなんだけどさ」
「いいよ。そこに行こう」
「どこ?」
「いつか行きたいって思ってトコなんだけどさ」
「いいよ。そこに行こう」
※ ※ ※
中年の男性とその娘が、仲よく隣同士の席に座っている。
父の方がウエイターに注文を告げ、ウエイターは威勢よく返事をして厨房へそれを伝えに行く。
娘の方はまだ納得していないといった様子でまだメニューを見続けている。
父の方がウエイターに注文を告げ、ウエイターは威勢よく返事をして厨房へそれを伝えに行く。
娘の方はまだ納得していないといった様子でまだメニューを見続けている。
店は非常に混雑している。狭い客席はほぼ満席に近い。運よく座れた彼ら親子は四人席のテーブルを二人で占用していた。他の客に少しだけ申し訳ない。
世界崩壊前から料理人だという店主の料理を求めて、客足が途絶える事はない。今日も今日とて、次々と来店しては混雑ぶりに驚いていた。
世界崩壊前から料理人だという店主の料理を求めて、客足が途絶える事はない。今日も今日とて、次々と来店しては混雑ぶりに驚いていた。
店員が料理より先に焼酎と娘の炭酸飲料を運んでくる。ジャガ芋から作られた焼酎は独特の香りを放っていた。
「飲み過ぎないでよ」
娘の方が炭酸飲料を飲みながら小言を漏らす。
父のほうはそれを聞き流し、グラスに氷を入れそれに焼酎を注ぎ、一口含む。
過疎グリーン――小橋松栄にとっては至福の時だった。
アルコールがじっくり喉を焼く感覚を楽しみながら、娘と一緒に過ごす事。これ以上安心出来る時間は無い。
父のほうはそれを聞き流し、グラスに氷を入れそれに焼酎を注ぎ、一口含む。
過疎グリーン――小橋松栄にとっては至福の時だった。
アルコールがじっくり喉を焼く感覚を楽しみながら、娘と一緒に過ごす事。これ以上安心出来る時間は無い。
「お父さん聞いてる? そのお酒強いんでしょ?」
「ああ。確か……。三十%以上はあったな。昔の焼酎はもっと低かったんだけどなぁ」
「そんなモンよく飲めるわね。意味わかんない」
「まだ子供だな」
「な……。実際未成年です!」
「そんなモンよく飲めるわね。意味わかんない」
「まだ子供だな」
「な……。実際未成年です!」
娘のカナは大声で突っ掛かる。今年で十七歳になるはずのカナだが、見た目はそれよりかなり幼く見える。
反対に性格はしっかりしているが、見た目のコンプレックスを抱えている故に『子供』という言葉にはちょっぴり過剰に反応してしまうのだ。
反対に性格はしっかりしているが、見た目のコンプレックスを抱えている故に『子供』という言葉にはちょっぴり過剰に反応してしまうのだ。
「まぁそのうち酒の旨さがわかるようになるよ」
「解りたくもありませんッ!」
「そういう奴に限ってハマるのさ」
「解りたくもありませんッ!」
「そういう奴に限ってハマるのさ」
グラスを一つ空けた頃、注文した料理が運ばれてくる。
すぐそこの海で捕れるスズキの刺身やイワシのつみれがテーブルに並ぶ。地下農場で作られた大根の煮物が湯気を立て、食欲を刺激する。普段の食事にウンザリしていた松栄はすっかり魅せられていた。
しかしカナのほうは、店の入口でうろつく二人組の方に目が言っていた。
見覚えがある顔が居たのだ。
すぐそこの海で捕れるスズキの刺身やイワシのつみれがテーブルに並ぶ。地下農場で作られた大根の煮物が湯気を立て、食欲を刺激する。普段の食事にウンザリしていた松栄はすっかり魅せられていた。
しかしカナのほうは、店の入口でうろつく二人組の方に目が言っていた。
見覚えがある顔が居たのだ。
「お父さん、あの人……」
「ん?」
「ん?」
カナが指差す先、そこにいたのは松栄もよく知っている人物。
「陽斗さんじゃない。……女連れだ。彼女いたんだ」
「席が無いんだな」
「おーい! 陽斗さぁーん!」
「おいおいお前……」
「席が無いんだな」
「おーい! 陽斗さぁーん!」
「おいおいお前……」
その声に陽斗はすぐに反応する。くるりと振り返り、驚いた様子で松栄親子を見る。
「えぇ? 何してるんだカナちゃん。と、松栄さんまで」
「何してるんだって食事だよ。しかしこの街はやはり狭いな」
「どうせ空いた席なくて困ってたんでしょ。相席でよければ、空いてるよ。……そこの女の人がよければだけど」
「何してるんだって食事だよ。しかしこの街はやはり狭いな」
「どうせ空いた席なくて困ってたんでしょ。相席でよければ、空いてるよ。……そこの女の人がよければだけど」
カナは呉葉の方をチラリと見る。一方の呉葉の視線は既に卓上の焼酎に向かっていた。
「……酒のみ女め」
「うっさい。ところで、どちら様?」
「ああ、俺の同僚だよ。松栄さんと、娘さんのカナちゃんだ」
「うっさい。ところで、どちら様?」
「ああ、俺の同僚だよ。松栄さんと、娘さんのカナちゃんだ」
松栄はニッコリ微笑んで「はじめまして」と挨拶する。
呉葉も同様に簡単に自己紹介し、結局はカナの誘いに乗る運びとなった。
呉葉も同様に簡単に自己紹介し、結局はカナの誘いに乗る運びとなった。
※ ※ ※
「へぇー。じゃあ松栄サン元戦闘機乗りなんだぁ~」
「そう。F-15って奴にね。最近はまた違うが。しかし五十になってまたジェット乗れるとは思わなかったよ」
「五十!? 松栄サン五十!? 若ッ! オッサンの風貌じゃねー!!」
「それは嬉しいお言葉だね」
「そう。F-15って奴にね。最近はまた違うが。しかし五十になってまたジェット乗れるとは思わなかったよ」
「五十!? 松栄サン五十!? 若ッ! オッサンの風貌じゃねー!!」
「それは嬉しいお言葉だね」
すっかり出来上がった呉葉が松栄に激しく絡んで行く。
松栄も相当飲んでるはずだが酔ったような気配は無い。異常な酒の強さだ。
酒を飲まない陽斗はカナと同じ炭酸飲料を飲みながら肝を潰す思いでそれを見ている。また潰れた呉葉を部屋まで引きずっていく事になりそうだった。
松栄も相当飲んでるはずだが酔ったような気配は無い。異常な酒の強さだ。
酒を飲まない陽斗はカナと同じ炭酸飲料を飲みながら肝を潰す思いでそれを見ている。また潰れた呉葉を部屋まで引きずっていく事になりそうだった。
「……飲ん兵衛だね。身体に悪いよコレ……」
唯一の素面仲間のカナがボソッっと言う。ごもっともな話だ。
「いつもだ。気にするな」
「いつもなの? 大変ね」
「まったくだよ……」
「いつもなの? 大変ね」
「まったくだよ……」
カナはクスクス笑い、つられて陽斗も笑い出す。
横の絡み上戸はロックで焼酎を煽りながら、まだベラベラ喋っていたが、呂律が回らなくなってきたのでそろそろ打ち止めだろう。
横の絡み上戸はロックで焼酎を煽りながら、まだベラベラ喋っていたが、呂律が回らなくなってきたのでそろそろ打ち止めだろう。
「おいぃ~~。ほまえはぁ……たまには飲め……ウッ……! 飲めぇ~」
「俺は飲まない。知ってるだろ?」
「連れんねぇ~。それで……ウィッ……。それでよく私の男やってられんねぇ~」
「はいはい」
「ぬわーにがはいはいだ! だいたいお前は……」
「俺は飲まない。知ってるだろ?」
「連れんねぇ~。それで……ウィッ……。それでよく私の男やってられんねぇ~」
「はいはい」
「ぬわーにがはいはいだ! だいたいお前は……」
ドサッ
「どうやら打ち止めだな」
「えっ? いいの? 失神してるけど……?」
「これもいつもだよ。さてと、ここらでおいとまするか」
「……これがいつも……だと?」
「そうだよ。じゃ、松栄さん。俺はこれで」
「えっ? いいの? 失神してるけど……?」
「これもいつもだよ。さてと、ここらでおいとまするか」
「……これがいつも……だと?」
「そうだよ。じゃ、松栄さん。俺はこれで」
松栄はグラスを傾けながら軽く手を振る。相変わらず酔いは回っていない様子だった。
陽斗はお荷物と貸した呉葉を担いでレジに向かい四人分の代金を支払う。迷惑料のつもりらしい。
そのまま外へ出て、呉葉の部屋がある居住区へと向かって行く。
陽斗はお荷物と貸した呉葉を担いでレジに向かい四人分の代金を支払う。迷惑料のつもりらしい。
そのまま外へ出て、呉葉の部屋がある居住区へと向かって行く。
※ ※ ※
「ほら水だ。この酔っ払い」
「ううぅぅ……」
「……飲み過ぎだぞ。大丈夫か? いつもの事だが」
「ううぅぅ……」
「……飲み過ぎだぞ。大丈夫か? いつもの事だが」
呉葉はコップの水を一気に飲み干し、まだ足りないと言った様子でコップを陽斗に差し出す。やれやれと一言漏らした後に陽斗はキッチンに向かい、蛇口を捻って水をコップに注いだ。
「う~ん。水……」
「いい加減にしろよ。ホラ」
「今日はお守りが居るからしこたま飲めたぞ」
「俺の事かよ……」
「他に誰が居る? でないと昼間からここまで深酒しないっての」
「呂律が戻ってる……。水飲んだだけで割と回復すんのなお前」
「うははは。凄いだろ」
「いい加減にしろよ。ホラ」
「今日はお守りが居るからしこたま飲めたぞ」
「俺の事かよ……」
「他に誰が居る? でないと昼間からここまで深酒しないっての」
「呂律が戻ってる……。水飲んだだけで割と回復すんのなお前」
「うははは。凄いだろ」
その発言を陽斗は呆れた様子で見ていた。二杯目の水を飲み干した呉葉からコップを受け取りキッチンへ戻そうとした時、呉葉が腕をぐいと引っ張る。
「どうした?」
「行くな……」
「行くな? どこへ?」
「どこへも。ここに居ろ」
「お前まだ酔って――」
「行くな……」
「行くな? どこへ?」
「どこへも。ここに居ろ」
「お前まだ酔って――」
呉葉が陽斗の首にぶら下がるように抱き着く。
そのまま腰が床に付き、陽斗が手にしたコップが床に転がっていく。
そのまま腰が床に付き、陽斗が手にしたコップが床に転がっていく。
「おい……。今日はそんな気分じゃ……」
「松栄サンいい人だったね」
「え? ああ。あの人はな」
「奥さんは居ないの? 娘さんだけしか居なかったけど」
「……死んだんだ。キャラバンに参加して、襲われたらしい」
「そうなんだ……」
「松栄サンいい人だったね」
「え? ああ。あの人はな」
「奥さんは居ないの? 娘さんだけしか居なかったけど」
「……死んだんだ。キャラバンに参加して、襲われたらしい」
「そうなんだ……」
呉葉の腕が震えている。手は陽斗の襟首を握りしめていた。
「カナちゃんどう思ったろ? 今もどう思ってるのかな?
今度はお父さんが帰って来なかったら、とか。考えたりするのかな?」
「多分な」
「……私は耐えられない。そんな事考えたくもない」
「……そうか」
「明日の朝まではどこにも行かなくていいんでしょ?」
「ああ。呼び出しがなければ、だけど」
「だったら、朝までここに居て。このまま、また離れ離れになっちゃうまで……」
今度はお父さんが帰って来なかったら、とか。考えたりするのかな?」
「多分な」
「……私は耐えられない。そんな事考えたくもない」
「……そうか」
「明日の朝まではどこにも行かなくていいんでしょ?」
「ああ。呼び出しがなければ、だけど」
「だったら、朝までここに居て。このまま、また離れ離れになっちゃうまで……」