倉刀の敗戦処理大作戦
ごく当たり前の環境でごく平凡な人格を形成出来た方なら、今日が何の日なのか、既にお分かりの事と思います。
そう、三月十四日はホワイトデー。
丁度一ヶ月前のバレンタインデーに素敵な贈り物を貰った幸せ者が、その相手に感謝を込めたお返しをする日です。
おっと、これは皆さんには愚問でしたね。ハハッ失敬失敬。
そう、三月十四日はホワイトデー。
丁度一ヶ月前のバレンタインデーに素敵な贈り物を貰った幸せ者が、その相手に感謝を込めたお返しをする日です。
おっと、これは皆さんには愚問でしたね。ハハッ失敬失敬。
「……はぁ」
という訳で。
今日はチョコレートをくれた相手へのお返しを、箱庭の町の商店街まで買いに行く倉刀なんですが……。
なーんか表情が暗いですよ? 道の隅っこで背中を丸めて、とぼとぼふらふら歩いてるし。
倉刀、一体どうしたの?
今日はチョコレートをくれた相手へのお返しを、箱庭の町の商店街まで買いに行く倉刀なんですが……。
なーんか表情が暗いですよ? 道の隅っこで背中を丸めて、とぼとぼふらふら歩いてるし。
倉刀、一体どうしたの?
「暗くも、なりますよ。だってお返しの相手って」
「はぁ……。ホワイトデーというより、むしろ敗戦処理だよこれ……。
せめて、ゆゆるちゃんかジークリンデちゃんが、もっと早く箱庭に来てくれてたらなぁ」
せめて、ゆゆるちゃんかジークリンデちゃんが、もっと早く箱庭に来てくれてたらなぁ」
あー。
もしそうならひょっとして、ちゃんとした女の子からチョコを貰える目がまだ少しはあったかもしれませんね。
…………。
いや、実はいまかなり気を使いました。
自分でもかなり嘘臭かったです。
試しにちょっとシミュレートしてみましょうか。
もしそうならひょっとして、ちゃんとした女の子からチョコを貰える目がまだ少しはあったかもしれませんね。
…………。
いや、実はいまかなり気を使いました。
自分でもかなり嘘臭かったです。
試しにちょっとシミュレートしてみましょうか。
『やぁ、ゆゆるちゃん。今日は何の日か知ってるかな?』
『???』
『今日はね、女の子が、男の子に、チョコレートを上げる日なんだよ』
『んー。じゃーこれ、あげるます』
『わあ、美味しそうなトリュフチョコだね。とっても不思議な色をしているし』
『とくべつせい、だよ?』
『それじゃ早速、いただきまーす』
『???』
『今日はね、女の子が、男の子に、チョコレートを上げる日なんだよ』
『んー。じゃーこれ、あげるます』
『わあ、美味しそうなトリュフチョコだね。とっても不思議な色をしているし』
『とくべつせい、だよ?』
『それじゃ早速、いただきまーす』
ちょ!? 待って!! 多分それ食べちゃダメー!!?
「わぁっ!? ど、どうしたんですか、唐突に?」
ハッ! い、いえ、ただのシミュレート。シミュレートなのですから、お気になさらずに。
そうですね。気を取り直して今度は、ジークリンデちゃんの方を想像してみましょうか。
そうですね。気を取り直して今度は、ジークリンデちゃんの方を想像してみましょうか。
『やぁ、ジークリンデちゃん。今日は何の日か知ってるかな?』
『知ってるわ。聖ワーレンティヌスの祭日でしょ?』
『うん、そうなんだけど。この国ではね、女の子が、男の子にチョコレートをあげる習慣があるんだ』
『? 知らなかったわ。面白いのね
でもね、ジークフリードはチョコは苦手なの。だから、いつも代わりにわたしが食べてあげてるのよ』
『……そうなんだ。それじゃ、今回は僕に』
『あとね、ショートケーキに乗ってるイチゴや、モンブランの栗も食べられないのよ』
『……へ、へえ。それは可哀相だね』
『全くだわ! あんなに美味しいものばかり食べられないなんて、ジークフリードは本当に可哀相ね!』
『…………』
『知ってるわ。聖ワーレンティヌスの祭日でしょ?』
『うん、そうなんだけど。この国ではね、女の子が、男の子にチョコレートをあげる習慣があるんだ』
『? 知らなかったわ。面白いのね
でもね、ジークフリードはチョコは苦手なの。だから、いつも代わりにわたしが食べてあげてるのよ』
『……そうなんだ。それじゃ、今回は僕に』
『あとね、ショートケーキに乗ってるイチゴや、モンブランの栗も食べられないのよ』
『……へ、へえ。それは可哀相だね』
『全くだわ! あんなに美味しいものばかり食べられないなんて、ジークフリードは本当に可哀相ね!』
『…………』
「お……おおっ、う、うううっ……!」
涙など、とうに枯れはてていたものとばかり思っていた。
だが、受けた衝撃が涙腺を刺激し、とめどなく目から溢れる雫が頬を伝っていく。
……どれ程の時間、倉刀は涙を流し続けていただろうか。
それすらも定かではなくなる程溢れ続けていた倉刀の涙がピタリと止まった。
倉刀は乱暴に手で涙を拭うと、
だが、受けた衝撃が涙腺を刺激し、とめどなく目から溢れる雫が頬を伝っていく。
……どれ程の時間、倉刀は涙を流し続けていただろうか。
それすらも定かではなくなる程溢れ続けていた倉刀の涙がピタリと止まった。
倉刀は乱暴に手で涙を拭うと、
「……ふ……ふふふふっ……!」
両手を大きく広げ、
「ふははははははははは――ッ!!」
高らかに笑った。
その表情は、先ほどまでのものとは明らかに違っていた。
女に逃げられた、負け犬のものとは――!
切り立った崖の端に立ち、倉刀は吼えた。
女に逃げられた、負け犬のものとは――!
切り立った崖の端に立ち、倉刀は吼えた。
「命をかけた演技が無駄になったな。この僕が貰えるチョコなど――存在しないッ!」
その自信はどこから来るのだろうか。
「どうやら、これはこの倉刀を愚弄するための茶番のようだな。ならば……わざわざ付き合う必要もない」
それは――
「この箱庭にいる人間を全て、倉斗鳳凰拳の餌食にしてくれるわ! そうなれば、“ホワイトデー”どころではないだろうからな!」
――誰にもわからない。
「ふははははははははは――――ッ!!」
ごめん、誤爆。
「∑(゚Д゚;エーッ!! な、なんだよ急にーっ!!」
倉刀ごめん。
「それかなり無理があるだろーっ!! 番号もちゃんと振ってあるしーっ!!」
いや、まぁ。
気にせずお返しを買いに行こうぜっ!
気にせずお返しを買いに行こうぜっ!
「くっ! ……僕はとても傷ついたんだからなっ!」
ごめんよう。
えっと、キレながらツッコむ倉刀もちょっと可愛かったよ? ほら、よし子みたいで。
えっと、キレながらツッコむ倉刀もちょっと可愛かったよ? ほら、よし子みたいで。
「嬉しくないっ! あとこれは別によし子ちゃんに他意があるわけじゃないっ!」
……あーあ、怒らせちゃった。でもよし子へのフォローを欠かさない辺り、なかなか大したやつです。
倉刀は肩を怒らせながら商店街の道をずんずんと進んで行きます。時々、道端の石ころを蹴っ飛ばしたりして。
ちょっとからかっただけでこの反応ですもの。そういうところもピュアだねえ。管理人のいい餌食だねえ。
倉刀は肩を怒らせながら商店街の道をずんずんと進んで行きます。時々、道端の石ころを蹴っ飛ばしたりして。
ちょっとからかっただけでこの反応ですもの。そういうところもピュアだねえ。管理人のいい餌食だねえ。
「余計なお世話です!!」
あれまあ。
ところで倉刀、お返しは一体なに買うつもりなの?
ところで倉刀、お返しは一体なに買うつもりなの?
「……なるべく、”余計な誤解”を与えない物です。
はぁ、何がいいんでしょうね。こういう時」
はぁ、何がいいんでしょうね。こういう時」
どうなんでしょうね。何も与えないのがベストな気もしますが。
少なくともこうして倉刀が悩んでる事をネタに、ご飯が三食美味しく食べられちゃう管理人だと思います。
少なくともこうして倉刀が悩んでる事をネタに、ご飯が三食美味しく食べられちゃう管理人だと思います。
「……もしかして、あの人って……かなりの」
それ以上は言いっこなしです。一応、あれでも同居人の一人なんですよ?
んー。やっすい割れ煎でも買うのが良いんじゃないですかね? もうバリンバリンに割れてるやつ。
んー。やっすい割れ煎でも買うのが良いんじゃないですかね? もうバリンバリンに割れてるやつ。
「あぁ……その手があるな……って、あれ?」
とかなんとかやってたら倉刀が突然立ち止まります。どうしたの?
「……いえ。特にいま関係のない事なんですが。
そういえば近頃、へげぞさんを見ないなぁと」
そういえば近頃、へげぞさんを見ないなぁと」
……ああ、あーあーあー。
そうですそうです。何か流れがまともだと思ったんですよ。アイツどうしたんだろ?
そうですそうです。何か流れがまともだと思ったんですよ。アイツどうしたんだろ?
「最後に見たの、いつでしたっけ?」
…………。
あ、おつかい編からだ!
あ、おつかい編からだ!
「…………」
…………。
…………。
「……すっかり」
忘れてたね。
忘れてたね。