Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・「白狐と青年」 > 第19話
襲撃者1
道場から、子供達が鍛錬に精を出す声が聞こえてくる。
その声を背にしながら道場近くの雑木林でキッコは宙に浮いた≪魔素≫の輝きを帯びた札と会話をしていた。
札は式契約を結んでいる明日名と共に平賀の助言を受けながら作り上げた通信用の術符であり、連絡相手は、
「――というわけでの明日名よ、信太の森の中に現れた、ひいては和泉に現れておる異形共に対しては我と彰彦の双方ともがおそらくそうであろう、と判断を下した」
『そうか、ということはやはりあそこの生き残りが居たと言う事でいいのかい?』
「あそこの生き残りというよりもその上役、そもそもの指示を下していた者が糸を引いていると見たほうがよさそうだの」
キッコの意見に通信相手の明日名は吟味するような間を数秒置き、
『……キッコ、君の討伐が第二次掃討作戦時に決定されたことも勘案するとこれは大阪政府、その中の異形排斥派が関わっている可能性が高い』
「かもしれんの」
『平賀博士がいろいろと動いてくれているけどなかなか動きを掴むのは大変らしい。そっちも無茶をしないように』
「さて、まあ程々にやるかの」
いまいち真剣味の感じられない解答に苦笑する気配がある。明日名はその気配のままにキッコへと問いかけた。
『今井君はどうだい? 故郷に帰って生活を満喫しているかな?』
「そう満喫はしておらんようだの」
キッコはふん、と鼻で笑い、
「アレも妙な所で考え込むからいかんの、とっとと話せば楽になるだろうものを――なんだ明日名?」
符からは笑うのをこらえるような喉を震わせる音がしている。キッコが符を通して何か術を送ってやろうかと思っていると『すまない』と声がし、
『君はやっぱり面倒見がいいな』
「おだてても何も褒美は出んぞ?」
『うん』と符からは頷きが返り、
『……もう十分俺はもらっているよ。感謝してもしたりないくらいだ』
仕切り直すような一息が入り、笑みの気配が消えた。
『坂上君達はまだ君達が和泉に行った理由を』
「知らぬな。適当にごまかしておるからの」
『そうか、大変だね。今井君も、坂上君も』
「さもありなん」
そう答え、キッコは通話を切った。
その声を背にしながら道場近くの雑木林でキッコは宙に浮いた≪魔素≫の輝きを帯びた札と会話をしていた。
札は式契約を結んでいる明日名と共に平賀の助言を受けながら作り上げた通信用の術符であり、連絡相手は、
「――というわけでの明日名よ、信太の森の中に現れた、ひいては和泉に現れておる異形共に対しては我と彰彦の双方ともがおそらくそうであろう、と判断を下した」
『そうか、ということはやはりあそこの生き残りが居たと言う事でいいのかい?』
「あそこの生き残りというよりもその上役、そもそもの指示を下していた者が糸を引いていると見たほうがよさそうだの」
キッコの意見に通信相手の明日名は吟味するような間を数秒置き、
『……キッコ、君の討伐が第二次掃討作戦時に決定されたことも勘案するとこれは大阪政府、その中の異形排斥派が関わっている可能性が高い』
「かもしれんの」
『平賀博士がいろいろと動いてくれているけどなかなか動きを掴むのは大変らしい。そっちも無茶をしないように』
「さて、まあ程々にやるかの」
いまいち真剣味の感じられない解答に苦笑する気配がある。明日名はその気配のままにキッコへと問いかけた。
『今井君はどうだい? 故郷に帰って生活を満喫しているかな?』
「そう満喫はしておらんようだの」
キッコはふん、と鼻で笑い、
「アレも妙な所で考え込むからいかんの、とっとと話せば楽になるだろうものを――なんだ明日名?」
符からは笑うのをこらえるような喉を震わせる音がしている。キッコが符を通して何か術を送ってやろうかと思っていると『すまない』と声がし、
『君はやっぱり面倒見がいいな』
「おだてても何も褒美は出んぞ?」
『うん』と符からは頷きが返り、
『……もう十分俺はもらっているよ。感謝してもしたりないくらいだ』
仕切り直すような一息が入り、笑みの気配が消えた。
『坂上君達はまだ君達が和泉に行った理由を』
「知らぬな。適当にごまかしておるからの」
『そうか、大変だね。今井君も、坂上君も』
「さもありなん」
そう答え、キッコは通話を切った。
●
大阪都心、異形の襲来からその身を守りきり、やっと復興も一段落つこうかという前文明の気配をある程度残す街都。
その中央付近に陣取る巨大なビルの最上階、その内部の最奥にある広く薄暗い部屋に大阪圏自治政府の定期会議に参会していた眼光鋭い初老の男の姿があった。
彼は卓上に置いてある電話ではなく、軍用の無線機を前に言葉を発していた。
内容は大阪圏内全体から見ても前文明の多くを捨て、新たな成長をしようとしている田舎町についての事で、
「ほう、坂上匠と信太主が共闘を?」
『は、おそらく以前起きた事件の時、事情を互いに知らせ合ったのではないのかと。信太主はこれまで人の姿に化けていたものと思われます』
無線機から聞こえる男の発言に初老の男は嘲笑する。
「今更信太主が本来討伐対象になる程人に害を及ぼす異形ではないと気付いたか……いや、一度殺し合って尚、共闘している事を評価すべきなのだろうな」
そう言って無線機の向こうの男に続きを促した。
『和泉へと異形を幾度かけしかけていますが不審に思われない程度の手出しでは武装隊に止められ、検体のデータの収集はほとんどできておりません』
「有能だな」
『和泉内に攻め込まない限りは実験体の成果は測定できないかと』
「かまわん、ならば和泉をそちらにある全兵力で潰してしまえ」
『かまわないので?』
意外、という声音で発された言葉に初老の男は頷く。
「元々破棄した代物だ、潰れるならばそれで構わん」
『は、了解しました』
それを最後に無線機からの声は途切れた。初老の男は通信機を鋭い目で見やり、
「あの狐め、やはり生き延びて、私に牙を剥いたか」
苛立ちまぎれに発された言葉。それを受けてか、通信の間中部屋の隅で黙々と控えていた、やはり以前の会議でも姿を見せていた男が口を開いた。
大男だ。身長は2メートルをこえているだろう。
初老の男へと大男は表情同様、感情の感じられない声をかける。
その中央付近に陣取る巨大なビルの最上階、その内部の最奥にある広く薄暗い部屋に大阪圏自治政府の定期会議に参会していた眼光鋭い初老の男の姿があった。
彼は卓上に置いてある電話ではなく、軍用の無線機を前に言葉を発していた。
内容は大阪圏内全体から見ても前文明の多くを捨て、新たな成長をしようとしている田舎町についての事で、
「ほう、坂上匠と信太主が共闘を?」
『は、おそらく以前起きた事件の時、事情を互いに知らせ合ったのではないのかと。信太主はこれまで人の姿に化けていたものと思われます』
無線機から聞こえる男の発言に初老の男は嘲笑する。
「今更信太主が本来討伐対象になる程人に害を及ぼす異形ではないと気付いたか……いや、一度殺し合って尚、共闘している事を評価すべきなのだろうな」
そう言って無線機の向こうの男に続きを促した。
『和泉へと異形を幾度かけしかけていますが不審に思われない程度の手出しでは武装隊に止められ、検体のデータの収集はほとんどできておりません』
「有能だな」
『和泉内に攻め込まない限りは実験体の成果は測定できないかと』
「かまわん、ならば和泉をそちらにある全兵力で潰してしまえ」
『かまわないので?』
意外、という声音で発された言葉に初老の男は頷く。
「元々破棄した代物だ、潰れるならばそれで構わん」
『は、了解しました』
それを最後に無線機からの声は途切れた。初老の男は通信機を鋭い目で見やり、
「あの狐め、やはり生き延びて、私に牙を剥いたか」
苛立ちまぎれに発された言葉。それを受けてか、通信の間中部屋の隅で黙々と控えていた、やはり以前の会議でも姿を見せていた男が口を開いた。
大男だ。身長は2メートルをこえているだろう。
初老の男へと大男は表情同様、感情の感じられない声をかける。
「通光(みちみつ)様、和泉の件、本当によろしいのですか? アレは偶然の産物のようなもの、無為に潰すにはいささか惜しいのでは?」
通光と呼ばれた初老はぞんざいに手を振って答える。
「構わん、アレの保護人の坂上匠、その後見人はかの平賀博士だ。あまり正面から敵に回したくはない。アレにいくら価値があってもな」
「しかし和泉を潰してしまうというのは少々派手過ぎでは? それこそ平賀博士を敵に回す事になる可能性も」
「朝川よ、和泉が潰れても、潰れなかったとしても考えはある。結果を待て。奴らが仕事を果たすかどうかをな」
そうとだけ言って通光は朝川を下がらせた。
通光と呼ばれた初老はぞんざいに手を振って答える。
「構わん、アレの保護人の坂上匠、その後見人はかの平賀博士だ。あまり正面から敵に回したくはない。アレにいくら価値があってもな」
「しかし和泉を潰してしまうというのは少々派手過ぎでは? それこそ平賀博士を敵に回す事になる可能性も」
「朝川よ、和泉が潰れても、潰れなかったとしても考えはある。結果を待て。奴らが仕事を果たすかどうかをな」
そうとだけ言って通光は朝川を下がらせた。
●
昼を過ぎ、道場では芳恵が子供達に勉強を教えているのか先程まで聞こえていた修練の喧騒は途絶えていた。
村の方々では納涼祭の準備に櫓を組んでいたり太鼓や囃子の練習音が聞こえる。
匠は離れの縁側で茶を待ちながら彰彦と共にそれらの音に耳を澄ませていた。
なんとはなしに、という体で匠が口を開く。
「一応平賀のじいさんのところから連絡はとっていたくせに、なんで何年もこっちに戻ってこなかったんだ?」
「なんだよいきなり」
彰彦と信昭、それに芳恵はキッコと彰彦が共に和泉へとやって来てからのここ数日、互いに相手の事を気にはしつつも不干渉状態だ。
「いやな、クズハが気にしてたんだ。お前がここに戻ってきたいと思ってるんなら何かしたいってな」
当然俺も、それに多分師範も……。
そう思いながらの発言に彰彦は「え」と声を上げた。
「うわ、やっちまったなー」
バツが悪そうに頭を掻き、
「クズハちゃんに気を使わせちまってたか?」
「まあそうだろうな。お前、ここ数日和泉に戻って来てからというもの、道場の仕事は結局何も手伝わずに武装隊のとこでバイトまがいの事してるだけじゃないか。
『せっかく戻って来てるのにそれではもったいないです』とかクズハが言ってたぞ」
「どうでもいいけどお前クズハちゃんの声真似下手だな……」
村の方々では納涼祭の準備に櫓を組んでいたり太鼓や囃子の練習音が聞こえる。
匠は離れの縁側で茶を待ちながら彰彦と共にそれらの音に耳を澄ませていた。
なんとはなしに、という体で匠が口を開く。
「一応平賀のじいさんのところから連絡はとっていたくせに、なんで何年もこっちに戻ってこなかったんだ?」
「なんだよいきなり」
彰彦と信昭、それに芳恵はキッコと彰彦が共に和泉へとやって来てからのここ数日、互いに相手の事を気にはしつつも不干渉状態だ。
「いやな、クズハが気にしてたんだ。お前がここに戻ってきたいと思ってるんなら何かしたいってな」
当然俺も、それに多分師範も……。
そう思いながらの発言に彰彦は「え」と声を上げた。
「うわ、やっちまったなー」
バツが悪そうに頭を掻き、
「クズハちゃんに気を使わせちまってたか?」
「まあそうだろうな。お前、ここ数日和泉に戻って来てからというもの、道場の仕事は結局何も手伝わずに武装隊のとこでバイトまがいの事してるだけじゃないか。
『せっかく戻って来てるのにそれではもったいないです』とかクズハが言ってたぞ」
「どうでもいいけどお前クズハちゃんの声真似下手だな……」
彰彦は軽口を叩きつつ少し迷う表情を見せ、
「アレだ。探し物があったんだよ」
「探し物?」
「そ」
秘密、か。
彰彦の語調にそれ以上踏み込まれたくないという気配を感じて匠は口を閉ざした。彰彦は沈黙を埋めるように、
「ところでキッコさんどこ行ってんだ? クズハちゃんと一緒にかいがいしく茶の準備ってことは」
はぐらかされた。と思い、しかし匠は「はは」と乾いた笑いを一つして答える。
「あると思うか?」
いや、そりゃねえわな。と彰彦も半笑いで首を振った。
「キッコはここ数日、自由気ままに町を闊歩してるさ」
そう、信じられないくらいに堂々とそこら辺を歩き回っている。
「正体ばれないかとかもう気が気でなくてな……」
「……俺は直接的には知らないけどよ、あの人敵対してたんだよな。ここと」
彰彦が呆れ顔で言う。匠は苦笑で、
「ここ、和泉というよりは政府の武装隊とだな。和泉の住民がキッコに襲われたという話は聞かない」
「本人が言ってた通りなのか、マッチョな野郎は口に合わんとか言ってたのは聞いたことあんだがな」
「マッチョは不味いのか」
どうでもいい知識が増えた。
じゃあ淑やかな女なら美味いんだろうかと思っていると、不意に離れの庭へと誰かが踏みこんでくる足音が聞こえた。
誰だ……?
子供達は道場の方で勉強中の筈だ。クズハならお茶の準備をしに行っているため庭で足音がするのはおかしい。
キッコだろうか。そう思っていると意外なことに現れたのは一人の男だった。
男は匠達に気付くと手を軽く上げてきたので匠も会釈して、
「どうしました?」
「やあ、なにやら話し声が聞こえたので」
「はあ……」
匠は警戒心を表情ににじませた。
男の格好は多分に異様だった。和泉の番兵のものとは違う戦闘服を身に纏い、額には大きな傷痕がある。
更に相手に質問を繰り出そうとした匠だが、それより早く彰彦が動いた。
「――っ!」
ジャケットの裏から抜いた拳銃を二丁、両方とも男に向けたのだ。
「どうした?」
異常ともいえる彰彦の反応に声をかけつつ匠も柱に立てかけていた墓標を握り意識を戦闘用へと切り替える。
「盛大な出迎えだな」
男に向けられている銃口を恐れる様子は見られない。そのことに匠は更に警戒を高め、
「なあ、今井中尉?」
男は彰彦を見て悪意に表情を歪めた。
「生きてやがったか……隊長」
彰彦の唸り声が憎々しげに響いた。
「アレだ。探し物があったんだよ」
「探し物?」
「そ」
秘密、か。
彰彦の語調にそれ以上踏み込まれたくないという気配を感じて匠は口を閉ざした。彰彦は沈黙を埋めるように、
「ところでキッコさんどこ行ってんだ? クズハちゃんと一緒にかいがいしく茶の準備ってことは」
はぐらかされた。と思い、しかし匠は「はは」と乾いた笑いを一つして答える。
「あると思うか?」
いや、そりゃねえわな。と彰彦も半笑いで首を振った。
「キッコはここ数日、自由気ままに町を闊歩してるさ」
そう、信じられないくらいに堂々とそこら辺を歩き回っている。
「正体ばれないかとかもう気が気でなくてな……」
「……俺は直接的には知らないけどよ、あの人敵対してたんだよな。ここと」
彰彦が呆れ顔で言う。匠は苦笑で、
「ここ、和泉というよりは政府の武装隊とだな。和泉の住民がキッコに襲われたという話は聞かない」
「本人が言ってた通りなのか、マッチョな野郎は口に合わんとか言ってたのは聞いたことあんだがな」
「マッチョは不味いのか」
どうでもいい知識が増えた。
じゃあ淑やかな女なら美味いんだろうかと思っていると、不意に離れの庭へと誰かが踏みこんでくる足音が聞こえた。
誰だ……?
子供達は道場の方で勉強中の筈だ。クズハならお茶の準備をしに行っているため庭で足音がするのはおかしい。
キッコだろうか。そう思っていると意外なことに現れたのは一人の男だった。
男は匠達に気付くと手を軽く上げてきたので匠も会釈して、
「どうしました?」
「やあ、なにやら話し声が聞こえたので」
「はあ……」
匠は警戒心を表情ににじませた。
男の格好は多分に異様だった。和泉の番兵のものとは違う戦闘服を身に纏い、額には大きな傷痕がある。
更に相手に質問を繰り出そうとした匠だが、それより早く彰彦が動いた。
「――っ!」
ジャケットの裏から抜いた拳銃を二丁、両方とも男に向けたのだ。
「どうした?」
異常ともいえる彰彦の反応に声をかけつつ匠も柱に立てかけていた墓標を握り意識を戦闘用へと切り替える。
「盛大な出迎えだな」
男に向けられている銃口を恐れる様子は見られない。そのことに匠は更に警戒を高め、
「なあ、今井中尉?」
男は彰彦を見て悪意に表情を歪めた。
「生きてやがったか……隊長」
彰彦の唸り声が憎々しげに響いた。