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NEMESIS 第8話 回想~クラウス・ブライト、セフィリア・ブライト

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NEMESIS 第8話 回想~クラウス・ブライト、セフィリア・ブライト


ある晴れた日の昼下がり、クラウスとセフィリアは聖ニコライ孤児院にいた。赤ちゃんが捨てられていたあの日、8人全員、セフィリアを含めると
9人全員で孤児院を何らかの形でバックアップしていくことをシオンが提案し、残る8人もそれに同調した。
話し合いの結果、シオンは孤児院の子供たちの医療費の全額免除、シュヴァルツは資金援助、アスナはブクリエのケーキを全品半額、
フィオは周辺の孤児院周辺の警備強化、セオドールはブルー・スカイハイの無料ライブと作詞作曲に興味がある子供たちのための、作詞作曲講座や
古今東西の様々な楽器を使った音楽教室を実施、クラウス、セフィリア、ベルクト、アリーヤも何かできることは必ずあるはずと模索しつつ、
2週間に一度の9人による劇に参加していた。今日はその第一回目公演の日である・孤児院には10歳にも満たない幼児や大学生とその年齢層はピンキリなので、
万人を飽きさせない演目を選ぶ必要があった。そこで白羽の矢を立てたのが、「3150万秒と、少し」である。そのあらすじはというと、次のようなものである。

高校3年生の冬、卒業も間近だということで主人公の2人の少女、アスカとオトハは友人たちや学校の教師たちとスキー旅行に出かけることになった。
だが、楽しいはずのその旅行の最中起きた雪崩にバスが飲み込まれ、アスカとオトハを残して友人たちは全てこの世から去ってしまう。
家族や医者の言葉がむなしく響き、ショックと絶望、喪失感からオトハが街外れにある岬の灯台に行こうと言い出した。その岬から落ちた人はほとんど生きては帰れない。
そんな時、アスカはオトハにある提案をするのである。

「一年だけ、一年だけ待ってくれないかな?やりたいことがあるの。オトハと二人で一年間やりたいことが。それが終わったら一年後にここに来よう」

かくして、アスカの作ったやることリストに従い、二人の「生きる」が始まるのだった―というものである。

配役は、年が近いという理由でアスカをフィオ、オトハをセフィリアが演じることとなった。フィオは自警団の仕事の傍ら練習に参加していたので
うまく演じられるか不安要素はぬぐえなかったのだが、当の彼女はその持前の呑み込みの速さでセリフや動きなどの振付をどんどんマスターしていった。
そして劇は孤児院のホールにて開かれることとなり、滞りなく進み最後には子供たちの拍手喝采とともに幕を閉じた。
そして劇も終わり、9人はそれぞれ孤児院の子供たちや職員たちと交流の時間を持つ。まずアスナは、ローゼ、クララといったブクリエのケーキを楽しみに
している子供たちから今後どんなケーキが食べたいか意見を拝聴しているところだった。こんなケーキが食べたいという子供たちの要望に対して
丁寧にノートにメモを取り、ペンを握る右手を顎に当てて考え込む。どうやらこの段階ですでにレシピなどの構想を練っているようだった。

「うんわかった。試作品ができたらみんなのところに一番に持ってくるからね」

フィオは孤児院の元気な子供たちと庭にて鉄砲ごっこに興じていた。BB弾が目に入らないようにゴーグルを着用させるという配慮をするフィオだったが、
数で圧倒してくる子供たちの集中砲火を受けて逃げ惑っていた。

「いたっ、ちょっと君たちそれは反則だって、あいたっ!」

セオドールはと言うと、モニカやドラギーチといったハイスクールに通うティーンエイジャーの子供たちからサインを求められていた。
彼はスラムを拠点としながらも閉鎖都市全体を通して絶大な人気を誇るロックバンド、ブルー・スカイハイのボーカルであり、3日後には
この孤児院で初の無料ライブを控えていた。ブルー・スカイハイのスケジュール上、ライブよりも先に告死天使たちによる劇のほうが先に公演されることになったのだ。
よって、セオドールが孤児院に来るのはこれが初めてであり、先ほどの劇に出演した時にはどよめきと歓声が巻き起こったものだった。
サインと言っても彼が来ることなど子供たちには事前に知らされておらず、セオドールは彼らの着ている衣服の上に油性マジックでサインを施してゆく。

彼らの人気の秘密はその奏でる楽曲もさることながらファンをとても大事にすることだった。スラムで行うライブの後にはメンバー全員で観客と握手を
交わしてゆくことなど当たり前。さらにファンレターはメンバー6人全員で手分けして返事を書き、その最後にはメンバー全員の直筆のサインが入るという
凝りようであった。そんなセオドールとブルー・スカイハイについて語るのはまた後日。
シオンはやはり孤児院で育ったという黒人の大男、ポープと何か話をしている。

「ポープさん、私の見立てではどうやらあなたは喉と肺を悪くしているようだが…治す気はないか?手術をすればあなたの喉も肺も健康を取り戻せるのだが」
「オゥ、本当デスカ?ソレナラ是非オ願イシタイデス」

シュヴァルツはというとチューダーと何かお互い通じるところがあったらしく意気投合し、通信機器の話で盛り上がっていた。ベルクトはミシェルにからかわれていた。

「あら、かわいい坊や。お姉さんが大人の魅力をたっぷり教えてあげましょうか?」

妖艶な口調で語りかけ、ベルクトの肩に腕を回すミシェルだが、未成年をたぶらかすんじゃないとゲオルグに止められた。
一方、ベルクトはと言うと苦笑いを浮かべていた。アリーヤはイレアナと世間話をしている。

「いつもあの子供たちの世話で大変だろう。赤子から学生まで様々な年齢の子供の面倒をみるというのは」
「あらあら、私だってこの孤児院で育った身だし、あの子たちの笑顔や生き生きとした姿を見ていれば少しくらいの苦労はすぐに吹き飛ぶから」

そして、クラウスとセフィリアは…ゲオルグと話していた。子供たちがブクリエのケーキを楽しむあの部屋のテーブルについてアスナが持ってきたケーキと
シオンが持ってきた紅茶を淹れてティータイムの傍ら様々な話をしている。クラウスとセフィリアが初めてゲオルグと出会ったときに託した赤ちゃんが
この孤児院で元気に暮らしていることを先ほど確認し、このゲオルグという男が誠実かつ信頼できる人物だということをクラウスとセフィリアは知った。

「ゲオルグさん、約束を守ってくださってありがとうございます」
「気にするな。君たちの友人たちには世話になっているからこれくらいのことは当然だ」

セフィリアが感謝の言葉を述べて、ゲオルグがそれに答える。セフィリアもクラウスも衣装から着替えていたが、セフィリアは孤児院に来る時は
常にクラウスからもらったあの白いコートを身に纏うことにしている。シオンがそう思うようにセフィリアにとっても孤児院の子供たちは大切な存在。
この殺伐としたスラムにおいて聖ニコライ孤児院だけがそこから隔絶された空間であり、多くの人間が住んでいてもさながら一つの家族のような雰囲気を醸し出している。
そんな存在と触れ合うのに継ぎ接ぎだらけのぼろぼろの服を着ていく訳にはいかず、故にこの純白のコートを身に纏うようにしているのだ。
一方、クラウスはと言うと…あの告死天使の黒装束を身に纏っていた。赤ちゃんを引き渡したあの日以来クラウスとセフィリアは何度か聖ニコライ孤児院に
出入りする機会があったのだが、ゲオルグはどうやら告死天使の存在を信じてはいないようだった。あの時アリーヤが広げた8人の直筆のサインが入った
誓約書をゲオルグとアレックスにも目の当たりにしたというのに。そこで、クラウスとセフィリアは今日一つずつの決めごとを持ってこの孤児院にやってきた。
まずクラウスは、自分が告死天使だということをゲオルグに信じてもらうことだった。だが、それはこの孤児院に二度と足を踏み入れられなくなるという可能性も
孕んでいた。自分は貴族を3人、聖ヘスティア学院の女生徒たち6人、計9人もの命を奪った殺人鬼だ。それがたとえ自分が生まれ育ったスラムを守るため、
傷つけられた仲間の敵を討つためとはいえ、人の命を奪ったという事実に変わりはない。だが、目の前の誠実かつ心優しいこの男に対してこれ以上
自らの素性を隠すことなどできなかったのだ。明るい笑顔でゲオルグと言葉を交わすセフィリアとは対照的に神妙な面持ちを浮かべてクラウスは切り出した。

「あの、ゲオルグさん。今日は一つお話したいことがあるんです。今僕が着ているこの服、あなたと初めて会ったときにも身に纏っていましたが、
 実はこの服こそがあなたがその存在を疑う告死天使が身に纏う装束なんです。僕だけじゃなく、セフィリアを除いた全員が告死天使のメンバーです」
そしてクラウスはこの装束が黒い理由は、夜間迷彩としてだけではなく、犠牲者に対する喪服としての意味合いも含めていることを語る。
これで告白は終わった。クラウスは固唾を飲んでゲオルグの答えを待つ。ゲオルグがたとえ二度と目の前に現れるなという言葉を口にしてもこれなら後悔はない。
だが、次にゲオルグの口から出た言葉は意外なものだった。

「クラウス君…君が何者であろうがそんなことは関係ない。ただこの二週間、君たちと接した子供たちは口をそろえてまた来てほしいと言っていた。
 君たちは俺たちにできないことができる。だから、これからも孤児院に来てくれるとありがたい」
「ゲオルグさん…ありがとうございます…」

クラウスの告白に対するゲオルグの解答を得た瞬間、彼は目頭を押さえてゲオルグに頭を下げた。セフィリアから白いハンカチを手渡され、クラウスは目を拭う。
そして、ハンカチをセフィリアに返すと、それを合図と言わんばかりに今度はセフィリアがゲオルグに切りだすのだった。

「ゲオルグさん、私もあなたに聴いていただきたい話があるんです。私と…クラウス兄さんの過去についてです」

セフィリアの思いがけない言葉にクラウスは驚きの表情を浮かべて彼女のほうを向くが、その瞳には不退転の強い決意が宿っていた。
彼女のそんな瞳にクラウスはふっとひとつ鼻で息をついてゆっくりと頷いた。それを皮切りとし、セフィリアは語り出す。

クラウス・ブライトとセフィリア・ブライトがともにこの世に生を受けたのは今から20年前。当時このスラムで小さな酒屋を営んでいた父・カルロスと
その酒屋の一番の常連客だった母・アリシアとの間に生まれる。アリシアは25年前、14歳のときにに初めてカルロスの酒屋を訪れたのだが、
当時彼女はスラムのバーで下働きをしていてよくこの酒屋に買い付けにきていたのだ。週に3回ほど通ううちに彼女はカルロスの穏やかな人柄と容姿に触れて、
だんだんと彼に惹かれていった。カルロスもアリシアの美しい容姿、ブロンドの髪、そして何よりその心優しい性格に触れ、彼女に惹かれていくのだった。
そして21年前、4年間の交際を経て晴れて二人は結ばれることとなった。その新婚初夜、二人は身体を交わらせた。そうしてアリシアが18歳のときに身籠ったのが、
クラウスとセフィリアである。ただ、2人を身籠ったアリシアは産まれた後の2人を育てるために仕事を続けた。カルロスもそんなアリシアを心配しながら
彼女とともに2人を育てるために今まで以上に仕事に励むのだった。そして、アリシアのお腹が膨れて目立ってきたころ、産休としてアリシアは休みを取った。
スラムの病院に入院したアリシアにカルロスは仕事の傍ら付き添い、2人は幸福の真っただ中にいた。

「君のお腹、だいぶ大きくなってきたね。産まれてくる二人の子供にはなんて名前をつけようか?」
「二人で決めましょう。男の子にはあなたが、女の子には私が名前を付けるのはどうかしら?」
「いいね。じゃあ僕は、そうだね…クラウス、なんてどうかな?クラウス・ブライト」
「いい名前ね。それじゃあ私は…セフィリア。セフィリア・ブライト」

こうして産まれてくる二人の名前はクラウスとセフィリアに決まり、そして二人が身体を交わらせてからおよそ10カ月が経ったころ、
ついにクラウスとセフィリアがこの世界に産み落とされる日がやってきた。双子と言うことで難産が予想されたが、神様が助けてくれたのだろう。
医師の予想とは裏腹にすとんと産み落とされるのだった。その出産に立ち会ったカルロスは産まれたばかりの2人を腕に抱いてこの世界でもっとも幸福
であるかのような、そんな笑顔を持ってアリシアに見せる。出産の疲労で疲れ切った表情を浮かべるアリシアも、カルロスの腕の中で産声を上げる
クラウスとセフィリアの姿に微笑を浮かべるのだった。だが、運命は最後の最後に残酷な結末を用意していた。
幸せいっぱいという表情を浮かべる2人とは裏腹に焦った表情を浮かべる医師。その理由は、アリシアの胎盤がいつまでたっても娩出されないことにあった。
通常、赤ちゃんが産まれた後お母さんのお腹の中で赤ちゃんのベッドの役割を果たす胎盤は外に自然に娩出されるのだが、
何らかの理由で胎盤の絨毛組織が子宮の筋層に侵入していた場合、胎盤が子宮から剥がれずに、医師が直接剥がさない限り出産の進行が不可能になる。
これを癒着胎盤という。幸せに水を差すようで悪いのですが…と前置きをしたうえで医師がカルロスとアリシアにそれを説明する。

「治せるんですよね。ならすぐに治してください」

確かに医師の手を加えれば胎盤を剥がすことはできる。だが、癒着胎盤の問題はこの先にある。胎盤を剥がすときに大量の出血を伴い、それを原因として
最悪の場合、失血死の可能性もある。それをカルロスとアリシアに説明する医師。そして、医師は説明を終えてある書類を彼に手渡した。
それは…誓約書だった。万が一、アリシアが死ぬようなことになっても自警団当局の捜査の結果医療ミスが見つからなかった場合、
医師を提訴することはしないという内容であった。手術にはどうしても必然的リスクは付きまとうのだが、そこにまで重箱の隅をつつくかのように
やれ提訴だやれ裁判だなどと吹っかけてくる輩が後を絶たず、医師不足の原因の要因の一つになってしまっているという現実がある。
それを防ぐために、医師はあらかじめ家族にこのような誓約書を用意し、サインを求めるのだ。医師がこの書類の趣旨を説明し、それに納得しサインするカルロス。
その書類を金庫に保管するようにと看護師に手渡して、医師は胎盤を剥がす手術に入る。まずアリシアに麻酔を投与して眠らせ、
それを確認した後帝王切開で彼女の腹部を開き、子宮に張り付く胎盤を剥がそうと試みる医師。慎重に剥がしていき、ようやく胎盤を完全に娩出することができたのだが
やはり大出血がおこる。すかさず止血に移行する医師だったが、出血は収まらない。この場合、子宮そのものを摘出する必要があり、出血によって失われた血を
補うために輸血を行いながら、彼女の腹部から子宮は摘出された。血圧も安定し、アリシアは分娩室を後にし、病室のベッドにその身を横たえた。
しかし、医師から麻酔の効力が切れて覚醒するであろうと告げられた時間を過ぎてもアリシアは目覚めなかった。カルロスは麻酔の過多投与を疑ったが、
手術チームの麻酔科医が指示して書記に書かせたカルテに記載された麻酔の量は正常なものであり、過多投与は考えられなかったのだが、
結局その後アリシアが目を覚ますことはなかった。その悲しみの矛先も、カルロスが書いた誓約書、ならびにカルテが医療ミスではないことを証明している以上
医師たちに向けることも出来ずにカルロスは悲しみに打ちひしがれた。だが、カルロスには生きる希望がしっかりと残されていたのだ。
眠りに就いたアリシアが残した、クラウスとセフィリアである。二人が産まれてからおよそ2週間、カルロスは病院から二人を引き取り、
自宅を兼ねた酒屋で育てることとなった。といってもカルロスは育児など当然したこともなく、最初のうちは育児書を見ながら悪戦苦闘の日々を送ることになる。
しかし、カルロスはそれでも虐待や育児放棄など決してすることなく極めて献身的に2人を育てた。その姿は酒を買いに来る客からも好意的に映り、
酒屋の売り上げも安定し二人の養育費には事欠かなかった。しかし、二人が物心ついたころ、カルロスはクラウスとセフィリアから当然の疑問を投げかけられる。

「お父さん、なんで僕達にはお母さんがいないの?」
「うん、友達は暗くなってくるとお母さんが迎えに来るけど私たちにはいないから」

カルロスは少し悩んだ末に、二人の疑問に対してこう切り返した。

「お母さんはね、クラウスとセフィリアが生まれてすぐに遠いところにいっちゃたんだ。二人をよろしくって言い残してね。多分もう戻って来ないだろうな…」
周りの友人たちに母親がいるのに自分たちにはいないという悲しさ、寂しさを抱えながらもその母親の分の愛情を注いでくれるカルロスの言うことを
二人は素直に聞いた。そして二人が小学校に入学し、カルロスの負担も軽くなりこれまで育児で疲れていた身体、精神をようやく休められることとなった。
一方、クラウスとセフィリアは学校の計らいで6年間常に同じクラスとなった。最初の3年間こそ周囲と仲良く過ごせていたものの、
4年生となり、だんだんと大人に向けての成長のプロセスの中で心が成長していくのだが同時に不安定になりがちな時期でもある。
そんな中で、「性」に興味を持ち始めた男子、女性としての「美しさ」をまだ幼いながらに意識し始めた女子からセフィリアは興味と嫉妬の対象となり、
毎日のようにからかいやいじめの対象となった。しかし、そんな妹を常に守りつづけたのが、クラウスだった。
男子からのからかいに対しては、当時ボクシング、キックボクシング、空手、ムエタイ、テコンドーなどあらゆる立ち技格闘技を織り交ぜた総合格闘技
「R(リング)-1」のミドル級チャンピオン、アルバート・サワー選手を模倣したキックで応戦、嫉妬から浴びせられる女子たちからの心ない言葉に対しては、
閉鎖都市で毎年11月の初頭に開催される「ディア・デ・ムエルトス」というフェスティバルの出し物の一つである、
バカみたいに笑う骸骨(エスケレト)を模倣しながら、彼女たち以上の暴言を浴びせた。そのため、逆に泣いてしまう女子が続出し、担任教師からしばしば
叱責を受けたが、クラウスのこの行動が見事に功を奏して一月足らずでセフィリアに対するからかいやいじめはなくなった。
これら一連のクラウスの行動が8年後アスナから「サディスティッククラウス」と呼ばれドン引きされた行動の前身であった。
だが家ではそんなクラウスの行動もセフィリアはカルロスに誇らしげに語るのだった。

「お父さん、今日もお兄ちゃんが助けてくれたの。すごくかっこよかった」
「偉いなクラウス。よし、今日は二人の大好きなカレーを作ろうか」

それから2年がたち、二人は6年生になった。不安定だった周囲の少年少女の心も落ち着きを見せ始め、二人はその後トラブルに巻き込まれることなく
無事に小学校卒業の日を迎えることになる。体育館で開かれた卒業式にて卒業証書を受け取り、一月後に待ち受ける中学校入学の日を心待ちにしながら
二人は帰路に就いた。しかし、その道の中で事件が起こるのだった。当時、スラムでもきっての武闘派として名を馳せていた高校生の不良グループ3人と
運悪く鉢合わせしてしまったのだ。治安の悪いこのスラムで名を馳せるだけあり、3人とも筋肉隆々とした身体つきに見るものを圧倒させる威圧感ある
出で立ちとなっていた。当時から同学年の男子からは憧れ、女子からは羨望の眼差しで見つめられるほど綺麗だったセフィリアをその不良3人が放っておく
はずもなく、2人は襲われてしまうのだった。
クラウスは当然のようにセフィリアを守ろうとするが相手は体格が自分とは2回りも違う筋肉隆々とした高校生。勝てるわけもなく一蹴され、
取り押さえられてしまうのだった。それでも必死にもがいて抵抗するクラウスを地面にうつ伏せに押さえつける不良。
そして、下卑た笑いを浮かべてクラウスにタバコ臭い吐息とともに言い放つのだった。

「ヘッヘッへ。お前の可愛い大事な妹は俺たちがたっぷり可愛がってやるからなぁ」

取り押さえられながらもその眼前で残る二人の不良に組敷かれながらも必死に抵抗するセフィリアをなんとか助けようとクラウスはもがいた。
しかし、その抵抗に腹を立てた不良に後頭部を思い切り殴られて気絶してしまう。朦朧とする意識の中、クラウスは何故か自分の背が軽くなったのを感じた。
だがそれも薄れゆく意識の中での錯覚か何かだろうと認識し、そしてクラウスの意識は深い闇へと落ちて行った。
その闇の最中、彼は夢を見た。場所は自宅だろうか。いつも父親とセフィリアの三人で食卓を囲むリビングで、そのテーブルに就いているのだが、
今自分の眼前にいるのはセフィリアでもカルロスでもなく、真っ黒な服、そうたとえるなら喪服に身を包んだ20歳くらいの青年だった。
その青年がクラウスに語りかける。

「クラウス君、君はついさっきそうしたようにこれからも大切な人を守りたいかい?」
青年がなぜ自分の名を知っているのかは分からないがクラウスはその問いに頷いてYESという意思表示を彼に見せた。すると青年はニコっと笑顔を見せてまた口を開いた。

「それなら君が目覚めたあと最初に現れる老人についていくといい。きっと君にその力を授けてくれるだろうさ。そしてこれは僕からの贈り物。
君が大切な人を守りたい、助けたいと思ったときに使うといいよ。ただし、決して自分のためには使っちゃいけないよ?」

と言ってその青年はクラウスに何かを手渡した、のだがそこで目が覚めてしまった。目を覚まし身体を起こすとそこにいたのは、
見慣れない2人の少女と白髪頭の老人がいた。場所はどこだろう。クラウスはあたりを見回した。ここは…僕の家?
クラウスは自宅の寝室のベッドに寝かされていたのだ。そして、隣のベッドに目を向けると、
ところどころ破れ下着が見えてしまっている服を纏ったセフィリアが目を閉じて横たわっていた。彼女もクラウスと同じようにあの直後、気を失ったのだ。

「すいません。危ないところを助けていただいて。それにしてもあなたたちは一体何者なんですか?」
「ほほほ、自己紹介がまだだったようじゃな。儂はケビン・ケールズ。この廃民街に本社を構えるCIケールズ社の創業者じゃよ。そしてこの2人が…」
「アリーヤ・シュトラッサーだ。歳は17。ケビン様の一番弟子だ。そしてこの銀髪の娘が…」
「シオン・エスタルク。16歳。君にのしかかっていたゲスを払ったのは私だ。君のような誇り高き少年にあのようなゲスがいつまでも乗っていていい訳はないだろう?」

クラウスが気を失う直前感じた背中が軽くなったような感覚。あれは錯覚ではなかったのである。シオンによると不良がクラウスを殴りつけたその直後、
彼の顔面に強烈な回し蹴りを叩き込み、一撃のもとにKOしたというのだ。セフィリアを組敷いていた残る二人の不良はというと、
ケビンとアリーヤが背後から頸部めがけて手刀を繰り出して一撃のもとに気絶させた。そして、クラウスの通学カバンに記されていた彼の住所を元に
クラウスとセフィリアを彼らの自宅まで運んできたという訳だ。ケビンたちがたどり着いた時カルロスは店頭で店番をしていたのだが、
見慣れない老人とどこかの学校の制服を身に纏う2人の少女に抱えられたわが子の姿を見て、事態がよく飲み込めずに混乱していたが、
ケビンが彼に一から事情を説明し、ようやくカルロスは事態を把握することができた。そして愛する息子と娘を救ってくれたケビンとアリーヤ、
シオンに深く頭を下げるのだった。その後カルロスは3人を家の中へと案内し、気を失ったままのクラウスとセフィリアをベッドの上へと横たえた。

「息子と娘のそばにいてやりたいのですがこれから配達がありまして…申し訳ないのですが2人のそばについてやってくださいませんか?」
「大丈夫じゃよ。乗りかかった船じゃ、2人は儂らが見守っておるから安心して仕事に行ってくるとよい」

よって今カルロスは配達中であり、部屋の中にカルロスの姿が見えないのはそれが理由であった。クラウスが少し口ごもりながらも再び口を開く。

「あの、助けてもらったお礼…しないといけませんよね…僕はなにをすればいいのでしょうか?」

そのクラウスの問いにケビンはただ微笑み、クラウスに鼻先と鼻先とが触れ合うほど顔を近づける。そして彼の瞳を覗き込み、言った。

「クラウス君…と言ったかの。よい瞳をしておるな。唐突で悪いのじゃが、儂のもとで修業する気はないかの?
 さすれば先刻の暴漢に襲われてもおぬし自身、あるいはおぬしの大切な人を守れるようになるでの」

ケビンのその提案にクラウスは考えこむ。このお爺さんは優しそうだが修業は大変そうだ。僕にその修業は耐えきれるのだろうか。正直自信はない。
しかし、ここでクラウスは先ほどの夢に出てきた青年の言葉を思い出す。そうだ、僕は大切な人を守りたい。セフィリアを二度とこんな目にあわせちゃいけない。
そのためには僕自身が強くならなくちゃいけない。ならば、答えは決まっている。



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