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BL-2-036

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「正義の行方」


36 :正義の行方:2010/09/26(日) 12:08:17 ID:fPnM/Q/l

あんまり需要が無さそうだけど、書いちゃったので、投下

 ・ファンタジーもの
 ・竜騎士×少年
 ・萌え成分少なし
 ・全年齢板の許容範囲に止めてはいますが、残酷描写少々、慰みもの描写もごく微小にあり

そんなの全然OKだぜ! って方はどうぞ


37 :正義の行方:2010/09/26(日) 12:11:30 ID:fPnM/Q/l

「下衆な真似はするな」

その短い言葉とともに、一瞬にしてその男の首は飛んだ。
この蒼い空の上空から、男の背後へと、今、瞬く間に降下してきた、一人の竜騎士の剣によって、首を撥ね
られたのだ。
その瞬間、小さな少年を抱きしめていた、貴族と思しきその男の身体は、血飛沫を上げながら、仰向けに
仰け反るようにして倒れていった。

「う……うあぁあぁあ!!」

少年を抱きしめていた、その貴族の男の取り巻きとして、一緒に連れ立って来ていた数人の男達も、竜騎
士の青年の尋常ならざる怒りを帯びた瞳の気迫に押され、勝ち目などないことを瞬時に悟って、その場から
逃げ出していく。


「済まない、大丈夫か」

竜騎士の青年は、その場に両膝をついたまま、茫然としていた、金色の髪の小さな少年に歩み寄ると、そ
の背中へとふわりと外套をかけた。
それから、その少年の傍らに片膝をついて座ると、あまりに凄惨な光景を目の前にして、碧い瞳を見開いた
まま、その場から動けなくなっていた、少年の整った面ざしの前へと、自らの手をかざし、その瞳を覆うよう
にして、視界を遮ってから言った。

「済まなかった、これは、もう、お前が見なくても良いものだから」
「っ、あぁあぁあ……」

金髪碧眼の少年は、その竜騎士の声を聞くと、彼の腕にしがみつくようにしながら、泣いていた。
無理も無い。恐らくこの少年は、これまでに耐えがたい、屈辱と凌辱にまみれた日々を送ってきたのだろう。
竜騎士の腕の中で泣いていた、その少年は、衣服を何も身につけていなかった。
その身体に身につけていたのは、首元にある頑丈な首輪と、そこからつながれて、彼の胸元の辺りにまで
下がっている鎖だけだ。


ここは、とある貴族の宮殿の片隅に位置する小さな―それでも、世間一般の常識からすれば、かなり広大
な箱庭のように整備された庭園の一角だった。
竜騎士の青年は、先の戦で大きな功績を上げたこの貴族の宮殿に、警備と視察を兼ねて訪れるように、と
いう主君からの命を受けて、この地を訪れていたのだ。

彼は、先程、この箱庭の上空で自らが騎乗していた飛竜の翼の合間から、偶然見かけたその光景を目に
した瞬間、自らの内側に湧き上がる激しい怒りのために、我を忘れていた。
それは、ある意味、自分が幾度となく行った、他人の命を狩るという行為よりも、酷いものだったからだ。


彼が上空から偶然見かけた少年には、首輪と、それをつなぐ鎖以外には身に纏うものは一切無かった。
そして、その少年の小さな背中には、取り囲まれた数人の男達から、度々、大きな暴力を受けていること
が、この上空から見ても明らかに解る程の傷跡がいくつも見て取れた。

更に―少年が縋りつくように懇願していた、一際立派な服を着ていた貴族の男は、少年を優しく抱きしめな
がらも、その顔に、誰が見ても背筋が凍りつく程に、残忍としか言いようの無い、笑みを浮かべていた。
そんな様子を上空からほんの少し、目にしただけで、この少年が、それまでに受けてきた仕打ちを理解する
には、充分だった。

こんな年端もいかない、小さな子供が―ある意味、貴族として最高の趣向を凝らしたこの庭園―そう、箱庭
の中で、慰みものとして、飼育されるようにして、囲われているのだ。
こんなにもひどい真似を許しておける筈など、絶対にない。
そう思った瞬間に、青年の心は、ただ純粋な怒りだに満ちていた。


その自らの気持ちに呼応させるように、青年は自らが騎乗している飛竜に対して、その場所へと一気に降
下するように、手綱をさばきながら、素早く指示を出した。
そうして、騎乗していた飛竜が下降体制に入ったのと同時に、その飛竜の背中から、自らの身体を乗り出
すようにすると、庭園に向かって、しなやかな身のこなしで、飛び降りる。
彼は、飛竜よりも早い速度で地上へと真っ直ぐに降下し、一足早く庭園に到着すると、それと同時に貴族
の男の首を何の躊躇い無く、自らの剣で一気に撥ねていた。

彼は、先程の自らのこの行いが、今、自分の手元で泣いている、この華奢で、可憐な雰囲気さえ合わせ持
つ少年に対して、更なる衝撃を与える結果となってしまったことを、改めて詫びるために、少年の身体の向
きを変えるようにして、抱き抱え直してから、再び声をかけた。

「本当に済まなかった、私は、レオン・デュランダール。 ガリアの竜騎士だ。
君に危害を加えていた奴らはもう居ないから、安心していい」


「……りゅう……きし……」

少年は、そう名乗った青年の腕の中で、涙に泣きぬれたその顔のまま、見上げるようにして、自らに微笑み
かけてくれた青年の顔を見つめていた。
その青年は、改めて見ると、青年というにはまだ早い、17、8歳位の年頃の少年だった。
彼は、短く整えられた銀色の髪と、蒼い空を映したような精悍な眼差しの瞳が印象的な、竜騎士として相応
しい人目を引く、美しい容姿をしていた。

だがそれは、今年13歳になる、自分のこの痩せた身体とは、異なるなんと逞しい体躯だろうか。
金髪碧眼の少年は、そう思いながら、レオンと名乗ったその少年をぼんやりと見つめていた。
彼は、騎士としてはそれ程筋骨隆々とした身体付きだった訳ではないが、それでも、細く、華奢な自分の身
体を易々と抱きあげていたのだ。


「……レ……オン……」
「うん、そうだよ、私は、レオンって、いうんだ。君の名前は?」
「僕は……ディア・マリ・スイール」

金髪の少年は、自らに残っている気力を振り絞るようにして、レオンにそう告げた。
レオンは、その声を聞いて、自らの腕の中の金髪の少年に向かって再び微笑みかけると、先程、レオンが
着地した後に、ほんの少し遅れて、この庭園に到着していた大きな飛竜の鞍の上へと少年を運び上げた。

「ディア、悪いけれど、少し先を急ぐよ。このまま此処にいる訳には、いかないからね」

レオンはそう言うと、ふわりと跳ぶようにして、飛竜の上へと、自らも軽やかに騎乗すると、先に騎乗させて
いたディアの華奢な身体を優しく包み込むように支えてから、手元の手綱を引いた。


「フェイ、頼むよ、急いでここを出よう」

自らが最も信頼するパートナーである飛竜の名を呼び、レオンがいつものように軽く手綱を引くと、その合図
に従って、フェイと呼ばれた飛竜は、二人を乗せたまま、大きな翼を拡げ、瞬く間に空へと浮かびあがった。
そして、辺りを流れる風の気流に乗ってくるりと旋回すると、フェイは主であるレオンの命に従い、帰路を辿
り始める。
その大きな飛竜の上で、二人は、それぞれに廻る想いを馳せていた。

ディアは、自分とは対照的な逞しさを兼ね備えた、この銀色の髪の美しい、蒼く強いまなざしを持つ少年
が、今までの地獄のような日々から、その勇敢な行いで、救いだしてくれたことに、心から感謝していた。
それと同時に―まだ所々で、途切れていきそうになる自らの意識の中で、彼の名前をもう一度思い出そうと
していた。


― レオン・デュランダール ―

そしてそれが―恐らくは、自らが王子として、つい1年程前まで暮らしていた小さな国と、その国を治めてい
た父である国王を滅ぼした強大な力を持つ、隣国の皇太子の名であったことを、自らの記憶から消し去ろう
と努めていた。

一方のレオンも、今は立場の違いから、滅多に会うことも叶わなくなった、大切な親友―エル・ユーグ・ディ
アスの面ざしに似た、この少年の名前―それが、自らと自分自身の父王の手によって、滅亡に追いやられ
た小国の王子と同じものであることに気付いていた。
その小国の王を打ち取ったのは、レオンが初めて上げた、誇るべき武勲だったのだから、忘れる筈など無
かった。


― ディア・マリ・スイール ―

その際に、戦火を逃れながらも、行方が知れなくなっていた、その小国の唯一人の王子は、まだ年端がい
かない年齢ながらも、金髪碧眼の整った容姿を兼ね備えた、大変聡明な少年だったと聞いている。

レオンは、自らの脳裏によぎったその記憶を振り切るように、思い直す。
自分は、あの場面に遭遇していたら、例えそれが誰であれ、あの酷い境遇から救い出すために、その相手に
立ち向かっていっただろう。


だから、何をどう考えても同じだ。
今は、ただ、彼、ディアの身の上をしっかりと救うことだけを考えるべきなのだと―。

二人の少年のそれぞれの想いの交錯は、今、ここから始まったばかりだ。

そして、それこそが、これから始まる大きな変革の兆しへとつながっていくのだ。
その出来事は、また別の物語として語り継がれていく―。

 -END-

とあるSSにインスパイアされて、主人公の性別を変えて書いたらこんな風に
結局あんまり二人が幸せになっていない気もしますが、まあ、幸せになってほしいものです



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