Top > 【シェア】みんなで世界を創るスレ【クロス】 > 異形世界・「白狐と青年」 > 第23話
襲撃者5
●
「あっちー……」
そんな事を呟きながら両手を振るって火の粉を払った彰彦は、少々異臭が鼻につくが両腕は既に回復を始めている事を確認し、そして自身の身体が焼けていないという事は無事に後方の二人を護れたということだろうと考えて一つ息を吐いた。
「彰彦……お前」
「彰彦兄ちゃん?」
後ろからの声に自分は上手くやれたと彰彦は頷いた。そして二人に見られてしまっただろう腕について何と説明した事かと思い、
「あー、まあそういうこったな。ちょっと両腕おかしくしちまってな。俺がこっちに戻ってこなかったのも……まあ、そういうわけだ」
軽い調子で言ってやった、と彰彦は思う。
その、実の所ぎこちないその言葉に、
「どういうわけだ、ドラ息子」
さっぱりわからんと不満げに信昭が返した。
彰彦は「ああもう……!」と苦々しく思いながら、
「こんな腕で道場は継げねえだろうが! 俺は人間として大阪に登録されてんのに何故かこんな腕持ってんだぜ? 武装隊も表向きクビ扱いだしな」
怪しいったらねぇ。と言って自嘲気味に笑い、
「それこそ俺が帰らずに匠辺りを後継にでも据えたほうがいろいろと人の受けがいいだろうよ」
目の前、匠が二人相手に奮戦している。手助けに行かなければ。そう思って行動しようとしていると信昭がまた声をかけてきた。
「待てドラ息子」
「待たねぇ、匠がヤバい。親父もとっとと良平連れてお袋のとこ行けよ」
「待てつってんだろうがドラ息子――彰彦!」
最後の一言と共に彰彦は殴られた。グーで。
「――ってぇえ! なにしやがる!? ちったぁ手加減しろよ!」
思わず振り返って文句を言うと信昭は腕を組んで、
「うるさい、お前が和泉に帰ってこなかった理由はそれか、一体何考えてやがる!」
「はぁ?」
喧嘩腰で疑問詞を放つと信昭はいいか、と前置きして説教を始めた。
「ここは、和泉っていう土地はな、災害が起きて異形が現れたその時から信太の森っていう曰くある森と隣合わせにあった、いわば異形との付き合いが濃い土地の一つだ。第一次掃討作戦が決定される前から異形とまみえたこともあるし、第二次掃討作戦の時は森に向かって封印作業しに行くっていう武装隊が屯した事もあった。そんな過去があっても今じゃあ異形ともそれなりに折り合いつけてやってる。そりゃ全面的に異形と対立したらこんなちっせえ町だ、きっと生き残れねえだろうから日和ろうっていう保身的な考えも、安倍や平賀の路線が平和的で楽だって言う理想論も、匠やクズハちゃんのような例を身近で見ているからっていう無責任な安心もあるだろうがな」
それでも、
「この土地に住む人間は結局は人も人じゃねえもんも仲良くしようってんで纏まってんだ。なんでそれを和泉生まれのお前が信じられねえ」
彰彦とてその事は分かっている。その証拠としてのクズハや〝鬼が島〟の従業員の存在だ。
「けど、ここら辺の元締めの大阪政府の総意は違う」
異形は排斥しようという考えが主流で融和路線は少数派だ。だからこそ匠が武装隊を追い出され、クズハが平賀の研究区に居られなくなった。
「俺が道場を継げばこの腕のせいで変なイチャモンつけられるかもしれないだろうが。そしたらガキ共の将来はどうなる? ここの役割を忘れたか親父、基礎的なとはいえ、教育機関でもあるんだぞ?」
ここで学んだ事をより極めたいと思う子供が目指す進路を、この土地の道場出身だからと、そんな理由で潰されるのは我慢ならない。
だから戻る気は無い。そう言うと信昭は良平の頭を撫でながら平然と言った。
「それなら大阪以外に行きゃいいし、それが出来ねえなら大阪中央政府とお前が交渉なり殴り合いなりすりゃいい」
「そう簡単に……っ!」
「平賀博士のとこにいたんだろ? ならそこら辺の折衝もなんとなく分かんだろうよ」
「無茶を――」
言うなという言葉は途中で遮られた。
「なんなら大阪全体の異形に対する考え方を変えちまえ」
笑ってうそぶく信昭に彰彦は文句の一つも言おうとして、
「なあ良平、あれ、どう思う?」
信昭が彰彦の腕を指さした。成り行きを呆然と見守っていた良平は数瞬遅れて反応し、
「彰彦兄ちゃん」
「……なんだ?」
腕を心持ち隠すようにして答える彰彦に良平は言った。
「その腕かっこいい……よ?」
「――な」
こちらの懊悩を知らない無遠慮な言葉だ。そう思う一方であからさまな拒絶が来なかったことに彰彦は安堵を感じた。
「ほらな、まあこんな感じなんだ。だから、まあ色々あるがとりあえず帰ってこいよ、彰彦」
したり顔で言う信昭に彰彦は数秒眉間に皺を寄せて悩んだ後ため息ついて、
「……なあ良平」
「なに?」
「これ……イカスか?」
「うん、今度皆で塗装しようよ!」
「あー、それは勘弁してくれ、やるなら匠のあの棒にな」
苦笑で返して良平の頭に手を置き、信昭に言う。
「今はとっとと逃げてろよ親父、ちょっとあいつらの相手しなきゃなんねえからさ」
「ああ」
今度は素直に頷いて信昭は良平を抱えてこの場から離れていく。
去り際、小さな声で訊ねてきた。
「考えは変わったか?」
「考え過ぎてたって事は分かった」
「そんだけわかりゃ十分だ」
笑って離れていく信昭の気配を背で見送って、彰彦は両頬を叩いて気合いを入れた。
銃は無い。武器になりそうなものも周囲には無い。一番使いやすくて使い慣れた武器は、
この腕……。
簡単に忌避感は消えない。しかし、
受け容れるのも悪くないかもしれねえな。
クズハはあの小さな身に厳しい現実を背負って、不安定ではあるが生活している。
俺が元々思ってたのよりもっとハードな、んでもって似たような境遇を持っているあの子が受け容れている事から大人な俺がずっと逃げてるのはかっこ悪りいな、うん。
拳を握って力を込める、≪魔素≫に反応して腕の外殻が硬度を増していく。傷は既に修復を終えている。
それらを確認して彰彦は眉を立て、敵を見据えた。
――よしっ、
「行くか!」
そんな事を呟きながら両手を振るって火の粉を払った彰彦は、少々異臭が鼻につくが両腕は既に回復を始めている事を確認し、そして自身の身体が焼けていないという事は無事に後方の二人を護れたということだろうと考えて一つ息を吐いた。
「彰彦……お前」
「彰彦兄ちゃん?」
後ろからの声に自分は上手くやれたと彰彦は頷いた。そして二人に見られてしまっただろう腕について何と説明した事かと思い、
「あー、まあそういうこったな。ちょっと両腕おかしくしちまってな。俺がこっちに戻ってこなかったのも……まあ、そういうわけだ」
軽い調子で言ってやった、と彰彦は思う。
その、実の所ぎこちないその言葉に、
「どういうわけだ、ドラ息子」
さっぱりわからんと不満げに信昭が返した。
彰彦は「ああもう……!」と苦々しく思いながら、
「こんな腕で道場は継げねえだろうが! 俺は人間として大阪に登録されてんのに何故かこんな腕持ってんだぜ? 武装隊も表向きクビ扱いだしな」
怪しいったらねぇ。と言って自嘲気味に笑い、
「それこそ俺が帰らずに匠辺りを後継にでも据えたほうがいろいろと人の受けがいいだろうよ」
目の前、匠が二人相手に奮戦している。手助けに行かなければ。そう思って行動しようとしていると信昭がまた声をかけてきた。
「待てドラ息子」
「待たねぇ、匠がヤバい。親父もとっとと良平連れてお袋のとこ行けよ」
「待てつってんだろうがドラ息子――彰彦!」
最後の一言と共に彰彦は殴られた。グーで。
「――ってぇえ! なにしやがる!? ちったぁ手加減しろよ!」
思わず振り返って文句を言うと信昭は腕を組んで、
「うるさい、お前が和泉に帰ってこなかった理由はそれか、一体何考えてやがる!」
「はぁ?」
喧嘩腰で疑問詞を放つと信昭はいいか、と前置きして説教を始めた。
「ここは、和泉っていう土地はな、災害が起きて異形が現れたその時から信太の森っていう曰くある森と隣合わせにあった、いわば異形との付き合いが濃い土地の一つだ。第一次掃討作戦が決定される前から異形とまみえたこともあるし、第二次掃討作戦の時は森に向かって封印作業しに行くっていう武装隊が屯した事もあった。そんな過去があっても今じゃあ異形ともそれなりに折り合いつけてやってる。そりゃ全面的に異形と対立したらこんなちっせえ町だ、きっと生き残れねえだろうから日和ろうっていう保身的な考えも、安倍や平賀の路線が平和的で楽だって言う理想論も、匠やクズハちゃんのような例を身近で見ているからっていう無責任な安心もあるだろうがな」
それでも、
「この土地に住む人間は結局は人も人じゃねえもんも仲良くしようってんで纏まってんだ。なんでそれを和泉生まれのお前が信じられねえ」
彰彦とてその事は分かっている。その証拠としてのクズハや〝鬼が島〟の従業員の存在だ。
「けど、ここら辺の元締めの大阪政府の総意は違う」
異形は排斥しようという考えが主流で融和路線は少数派だ。だからこそ匠が武装隊を追い出され、クズハが平賀の研究区に居られなくなった。
「俺が道場を継げばこの腕のせいで変なイチャモンつけられるかもしれないだろうが。そしたらガキ共の将来はどうなる? ここの役割を忘れたか親父、基礎的なとはいえ、教育機関でもあるんだぞ?」
ここで学んだ事をより極めたいと思う子供が目指す進路を、この土地の道場出身だからと、そんな理由で潰されるのは我慢ならない。
だから戻る気は無い。そう言うと信昭は良平の頭を撫でながら平然と言った。
「それなら大阪以外に行きゃいいし、それが出来ねえなら大阪中央政府とお前が交渉なり殴り合いなりすりゃいい」
「そう簡単に……っ!」
「平賀博士のとこにいたんだろ? ならそこら辺の折衝もなんとなく分かんだろうよ」
「無茶を――」
言うなという言葉は途中で遮られた。
「なんなら大阪全体の異形に対する考え方を変えちまえ」
笑ってうそぶく信昭に彰彦は文句の一つも言おうとして、
「なあ良平、あれ、どう思う?」
信昭が彰彦の腕を指さした。成り行きを呆然と見守っていた良平は数瞬遅れて反応し、
「彰彦兄ちゃん」
「……なんだ?」
腕を心持ち隠すようにして答える彰彦に良平は言った。
「その腕かっこいい……よ?」
「――な」
こちらの懊悩を知らない無遠慮な言葉だ。そう思う一方であからさまな拒絶が来なかったことに彰彦は安堵を感じた。
「ほらな、まあこんな感じなんだ。だから、まあ色々あるがとりあえず帰ってこいよ、彰彦」
したり顔で言う信昭に彰彦は数秒眉間に皺を寄せて悩んだ後ため息ついて、
「……なあ良平」
「なに?」
「これ……イカスか?」
「うん、今度皆で塗装しようよ!」
「あー、それは勘弁してくれ、やるなら匠のあの棒にな」
苦笑で返して良平の頭に手を置き、信昭に言う。
「今はとっとと逃げてろよ親父、ちょっとあいつらの相手しなきゃなんねえからさ」
「ああ」
今度は素直に頷いて信昭は良平を抱えてこの場から離れていく。
去り際、小さな声で訊ねてきた。
「考えは変わったか?」
「考え過ぎてたって事は分かった」
「そんだけわかりゃ十分だ」
笑って離れていく信昭の気配を背で見送って、彰彦は両頬を叩いて気合いを入れた。
銃は無い。武器になりそうなものも周囲には無い。一番使いやすくて使い慣れた武器は、
この腕……。
簡単に忌避感は消えない。しかし、
受け容れるのも悪くないかもしれねえな。
クズハはあの小さな身に厳しい現実を背負って、不安定ではあるが生活している。
俺が元々思ってたのよりもっとハードな、んでもって似たような境遇を持っているあの子が受け容れている事から大人な俺がずっと逃げてるのはかっこ悪りいな、うん。
拳を握って力を込める、≪魔素≫に反応して腕の外殻が硬度を増していく。傷は既に修復を終えている。
それらを確認して彰彦は眉を立て、敵を見据えた。
――よしっ、
「行くか!」
●
信昭と良平が遠く離れたのを知覚しながら彰彦は匠の元へと走り込む。
匠は平岩と舟山相手にうまく立ち回ってくれているようだがこちらに彼等の攻撃が来ないように立ち回っていたせいか傷の数が増えている。
それでもあれだけ攻撃手段が歪な二人相手にここまでやってるんだから呆れる。
天分の才か第二次掃討作戦の経験のためか。学生時代に格闘の体捌き教えた時もすぐに吸収した事を思い出して適応力が高いのだろうと当時思った事を再確認する。
と、匠へと集中していた平岩がこちらの接近に気付いた。
彼は後方に跳んで距離を置き、舟山に手振りで下がるように示して炎を吐き出した。
「匠、道つけろ! ――ぶち抜く!」
「――っ」
言いつけると応えるように匠が炎に向かって墓標の先に幅数メートルの扇状の刃を精製して大上段から振り下ろした。同時に刃が自壊、≪魔素≫の飛沫と共に炎が左右に割れる。
彰彦は仕切り直しの為に一度身を引こうとした匠の右肩を掴んで押しとどめた。
「彰彦?」
発された疑問におう、と答えて掴んだ肩を支点に身を匠の前に放りだす。そこには注文どおり、炎が割れて平岩まで一直線の道が見えた。
その道を駆けながら彰彦は腕と足に改めて意識を向ける。
足先に集中した≪魔素≫に移動では無く攻撃の意志を込めて地面を強く踏みつける。
震脚の勢いを殺さずに次の一歩を踏む。それで速度をトップスピードに持って行って数歩を駆ける。
両腕には白い外殻を映えさせる青白い≪魔素≫が纏わりついている。拳を握る。
人の手指の形からは外れ、硬く、鋭角的な造形になっている手は、しかし人が握り込むような拳の形を作り上げる。
最後の一歩、力強い震脚は強く強く地面を穿ち、
「あああぁっ!」
気合いの叫びと共に放たれた拳は平岩が咄嗟に防御に掲げた小銃をへし折ってそれを構えていた左腕を肩からもぎ取った。
「が、――っ!?」
驚きに表情を歪める平岩は乾いた声音で反撃の炎を吐き出そうとして、
「もらった!」
匠が伸ばした長い槍の穂先のような刃に額を貫かれて永遠に炎に噴射は阻止された。
匠は平岩と舟山相手にうまく立ち回ってくれているようだがこちらに彼等の攻撃が来ないように立ち回っていたせいか傷の数が増えている。
それでもあれだけ攻撃手段が歪な二人相手にここまでやってるんだから呆れる。
天分の才か第二次掃討作戦の経験のためか。学生時代に格闘の体捌き教えた時もすぐに吸収した事を思い出して適応力が高いのだろうと当時思った事を再確認する。
と、匠へと集中していた平岩がこちらの接近に気付いた。
彼は後方に跳んで距離を置き、舟山に手振りで下がるように示して炎を吐き出した。
「匠、道つけろ! ――ぶち抜く!」
「――っ」
言いつけると応えるように匠が炎に向かって墓標の先に幅数メートルの扇状の刃を精製して大上段から振り下ろした。同時に刃が自壊、≪魔素≫の飛沫と共に炎が左右に割れる。
彰彦は仕切り直しの為に一度身を引こうとした匠の右肩を掴んで押しとどめた。
「彰彦?」
発された疑問におう、と答えて掴んだ肩を支点に身を匠の前に放りだす。そこには注文どおり、炎が割れて平岩まで一直線の道が見えた。
その道を駆けながら彰彦は腕と足に改めて意識を向ける。
足先に集中した≪魔素≫に移動では無く攻撃の意志を込めて地面を強く踏みつける。
震脚の勢いを殺さずに次の一歩を踏む。それで速度をトップスピードに持って行って数歩を駆ける。
両腕には白い外殻を映えさせる青白い≪魔素≫が纏わりついている。拳を握る。
人の手指の形からは外れ、硬く、鋭角的な造形になっている手は、しかし人が握り込むような拳の形を作り上げる。
最後の一歩、力強い震脚は強く強く地面を穿ち、
「あああぁっ!」
気合いの叫びと共に放たれた拳は平岩が咄嗟に防御に掲げた小銃をへし折ってそれを構えていた左腕を肩からもぎ取った。
「が、――っ!?」
驚きに表情を歪める平岩は乾いた声音で反撃の炎を吐き出そうとして、
「もらった!」
匠が伸ばした長い槍の穂先のような刃に額を貫かれて永遠に炎に噴射は阻止された。
●
刃を砕くと頭部を割られた平岩の身体は地面に倒れ伏して血を流し始めた。
平岩が動かない事を確認してから匠は彰彦へと向き直る。
反撃で手痛い一撃を食らいそうだったはずの彰彦は気にした風もない顔で船山を睨みつけている。
「彰彦、遅い」
「真打ちは満を持して登場するんだよ」
その様子は晴れ晴れとしたもので、晒されている腕を見るに、
「ふっきれたのか?」
「どうだろうな?」
声には笑みの色がある。だから大丈夫なのだろうと匠は頷き、船山へ向けて構えをとる。
「中尉」
舟山の声、彼は倒された平岩を見て、そのもがれた腕の傷跡に目を向けた。
「どうだ? 異形の腕の感触は」
「腕の形状的に殴りやすいなあ……けど、やっぱり好きにゃなれねえよ」
そう言って彰彦は身に力を溜めて上半身をやや前に傾けた。いつでも飛び出して相手に向かっていける姿勢だ。
合わせるように匠も墓標を前傾姿勢で構える。
舟山も対抗するように魔法を両手に作りながら問いかけを続ける。
「その腕は有用だろう?」
「ああまったくだ」
「俺の所に戻って来ると良い、まだお前には手を加えることが出来る」
「は、冗談、これ以上隊長の実験動物になる気はねえよ!」
彰彦が力強く一歩を踏んだ。二歩目を踏む前に匠も動く。
「この腕に初めて感謝だな! おかげで部下や仲間の弔い合戦がしやすい!」
腕を振りかぶって近付く彰彦に舟山が吼えた。
「では子狐より先にここで死ね、中尉!」
衝撃波が撃ちだされる。
彰彦は衝撃波の先端に右の拳をぶち込んだ。空気の破裂する音と共に彰彦の体に裂傷が生まれる。
「っの野郎!」
「突っ込みすぎだ馬鹿!」
突進を止められた彰彦へと舟山の腕が伸びていく。握られていたナイフに匠は墓標の本体部分を打ち付けて防いだ。
金属音と共にナイフの刃が欠ける。
匠は舟山の片腕を蹴り上げ、身を回して斧状に形成した刃で手首から切り落とす。もう片方の腕は既に彰彦が腕に捕らえている。
「その腕! 蛇みたいで気持ち悪ぃからとっととぶった切ってやるよ!」
そう言って両手で腕の半ばを絞りあげ、
「匠!」
「いくぞ!」
斧の斬撃がもう片方の腕を両断した。距離を取ろうとする舟山へ匠が牽制に刃を伸ばして彰彦がその隙に追いすがる。
舟山の回復した腕が伸び、彰彦へ突っ込む。身を捻った彰彦の脇腹が抉られるが足は止まらない。
「隊長、あんたに殺された俺の部下や仲間に地獄で詫び入れて来い!」
彰彦が必殺の間合いに入った。
舟山は間に合わないと分かっている魔法を組みながら叫んだ。
「ならば中尉、貴様はせいぜい現世で苦しむといい!」
返事に換えて彰彦の貫手が舟山の腹を貫いた。
平岩が動かない事を確認してから匠は彰彦へと向き直る。
反撃で手痛い一撃を食らいそうだったはずの彰彦は気にした風もない顔で船山を睨みつけている。
「彰彦、遅い」
「真打ちは満を持して登場するんだよ」
その様子は晴れ晴れとしたもので、晒されている腕を見るに、
「ふっきれたのか?」
「どうだろうな?」
声には笑みの色がある。だから大丈夫なのだろうと匠は頷き、船山へ向けて構えをとる。
「中尉」
舟山の声、彼は倒された平岩を見て、そのもがれた腕の傷跡に目を向けた。
「どうだ? 異形の腕の感触は」
「腕の形状的に殴りやすいなあ……けど、やっぱり好きにゃなれねえよ」
そう言って彰彦は身に力を溜めて上半身をやや前に傾けた。いつでも飛び出して相手に向かっていける姿勢だ。
合わせるように匠も墓標を前傾姿勢で構える。
舟山も対抗するように魔法を両手に作りながら問いかけを続ける。
「その腕は有用だろう?」
「ああまったくだ」
「俺の所に戻って来ると良い、まだお前には手を加えることが出来る」
「は、冗談、これ以上隊長の実験動物になる気はねえよ!」
彰彦が力強く一歩を踏んだ。二歩目を踏む前に匠も動く。
「この腕に初めて感謝だな! おかげで部下や仲間の弔い合戦がしやすい!」
腕を振りかぶって近付く彰彦に舟山が吼えた。
「では子狐より先にここで死ね、中尉!」
衝撃波が撃ちだされる。
彰彦は衝撃波の先端に右の拳をぶち込んだ。空気の破裂する音と共に彰彦の体に裂傷が生まれる。
「っの野郎!」
「突っ込みすぎだ馬鹿!」
突進を止められた彰彦へと舟山の腕が伸びていく。握られていたナイフに匠は墓標の本体部分を打ち付けて防いだ。
金属音と共にナイフの刃が欠ける。
匠は舟山の片腕を蹴り上げ、身を回して斧状に形成した刃で手首から切り落とす。もう片方の腕は既に彰彦が腕に捕らえている。
「その腕! 蛇みたいで気持ち悪ぃからとっととぶった切ってやるよ!」
そう言って両手で腕の半ばを絞りあげ、
「匠!」
「いくぞ!」
斧の斬撃がもう片方の腕を両断した。距離を取ろうとする舟山へ匠が牽制に刃を伸ばして彰彦がその隙に追いすがる。
舟山の回復した腕が伸び、彰彦へ突っ込む。身を捻った彰彦の脇腹が抉られるが足は止まらない。
「隊長、あんたに殺された俺の部下や仲間に地獄で詫び入れて来い!」
彰彦が必殺の間合いに入った。
舟山は間に合わないと分かっている魔法を組みながら叫んだ。
「ならば中尉、貴様はせいぜい現世で苦しむといい!」
返事に換えて彰彦の貫手が舟山の腹を貫いた。
●
信太の森、その中にある一本の木の上で和泉へと侵攻している異形の群れの流れを監視していた男へとキッコは炎弾を放った。
木の上の人物は炎を避けて地面に飛び降りる。
「居場所がばれたか……音はほとんど出ていない筈なんだが」
古い軍服の男の言葉にキッコは大狐の姿のままで答える。
「森の中で聞いたのと同じ響きがあったわ。人の耳には聞こえんようだがの」
「そうか、下手を打った」
「異形の器官でも移植されたのかの?」
キッコの問いに男はああ、と答えながら自分の喉を指で叩いた。
「俺は喉が獣の本能に直接訴えるモノになっている」
「それであの、人のなれの果てを指揮しておったのだな」
和泉の外周部で行われている戦闘を指して言った言葉を男は肯定し、諦めたような口調で呟く。
「うまくばれないようにやってきたつもりなんだがな」
「一度森で我に音を聞かせたのは失策だの」
以前信太の森で聞いた音とも声ともつかぬ響き、それを知覚した瞬間に異形達は動きを変えていた。そして今回もその響きが戦場に聞こえていた。
一連の異形達の不可解な統率性の原因はこの響きだろうと思い追ってきたキッコの判断はどうやら正しかったようだ。
「そのようだ」
そう言って男は口を開けて空気を震わせる。音としてではなく響きとして認識される空気の振動にキッコは耳を上下に動かし、
「耳障りだの」
男は尚も響きを喉から発していたがやがて諦めたように口を閉じた。キッコへと訊ねる。
「護衛用に森にいくらか用意していた異形は?」
「ここを誰の森と思うておるか、既に全員滅ぼされただろうて」
キッコの答えに男はそうか、と頷いて座り込んだ。
「この森と和泉の不和を狙っていたんだがなあ」
「残念だったの」
キッコは炎を宙に浮かべた。
その光景を見ながら男は力無く笑う。
「俺を殺せば今和泉を攻めている異形共は元々人間で会った事など忘れ去った獣の群れだ、倒すのはたやすくなるが、それにしても数が多いぞ?」
「クズハがおるでな、問題ない」
「そうか……一つ、殺される前に教えてやろう」
「なんだ?」
「この件を収めても全てが終わるということは無い」
「……憶えておこう」
木の上の人物は炎を避けて地面に飛び降りる。
「居場所がばれたか……音はほとんど出ていない筈なんだが」
古い軍服の男の言葉にキッコは大狐の姿のままで答える。
「森の中で聞いたのと同じ響きがあったわ。人の耳には聞こえんようだがの」
「そうか、下手を打った」
「異形の器官でも移植されたのかの?」
キッコの問いに男はああ、と答えながら自分の喉を指で叩いた。
「俺は喉が獣の本能に直接訴えるモノになっている」
「それであの、人のなれの果てを指揮しておったのだな」
和泉の外周部で行われている戦闘を指して言った言葉を男は肯定し、諦めたような口調で呟く。
「うまくばれないようにやってきたつもりなんだがな」
「一度森で我に音を聞かせたのは失策だの」
以前信太の森で聞いた音とも声ともつかぬ響き、それを知覚した瞬間に異形達は動きを変えていた。そして今回もその響きが戦場に聞こえていた。
一連の異形達の不可解な統率性の原因はこの響きだろうと思い追ってきたキッコの判断はどうやら正しかったようだ。
「そのようだ」
そう言って男は口を開けて空気を震わせる。音としてではなく響きとして認識される空気の振動にキッコは耳を上下に動かし、
「耳障りだの」
男は尚も響きを喉から発していたがやがて諦めたように口を閉じた。キッコへと訊ねる。
「護衛用に森にいくらか用意していた異形は?」
「ここを誰の森と思うておるか、既に全員滅ぼされただろうて」
キッコの答えに男はそうか、と頷いて座り込んだ。
「この森と和泉の不和を狙っていたんだがなあ」
「残念だったの」
キッコは炎を宙に浮かべた。
その光景を見ながら男は力無く笑う。
「俺を殺せば今和泉を攻めている異形共は元々人間で会った事など忘れ去った獣の群れだ、倒すのはたやすくなるが、それにしても数が多いぞ?」
「クズハがおるでな、問題ない」
「そうか……一つ、殺される前に教えてやろう」
「なんだ?」
「この件を収めても全てが終わるということは無い」
「……憶えておこう」
●
男の居た場所に燻ぶっている炎を眺めていたキッコへとカタバミは声をかけた。
「主様」
「カタバミか」
「は、こちらは森に居た妖魔を全て屠りました」
「御苦労……人に与するのはやはり嫌かの?」
「オレはあまり好きませんね、奴らは封印処理などと言って森を荒らしに来た」
そう答えて鼻息を一つ吹いたカタバミを窘めるように女の声が降ってきた。
「そのおかげでこの森に落ち着きが戻ったのもまた事実ですがね」
「ヨモギか、御苦労だったの」
いえ、と答え、ヨモギはカタバミの横へと歩み出た。
遠く、和泉の方を見て、
「主様、あちらの人間達の方は放っておいてよろしいので?」
「構わぬさ、人間たちやクズハが片をつけよう」
「彼女が、ですか?」
「人に主様の血肉が混じっているという話ですが、どうもオレにはあの娘があの数相手に立ちまわれるようには見えません」
ヨモギの疑わしそうな声にカタバミも腑に落ちないとばかりに言う。キッコは眷族二匹に笑いかける。
「見ておるといい、あれは大きな力を持っていて、その使い方をこの世で指折りの奇人に教わっておるのだ」
「主様」
「カタバミか」
「は、こちらは森に居た妖魔を全て屠りました」
「御苦労……人に与するのはやはり嫌かの?」
「オレはあまり好きませんね、奴らは封印処理などと言って森を荒らしに来た」
そう答えて鼻息を一つ吹いたカタバミを窘めるように女の声が降ってきた。
「そのおかげでこの森に落ち着きが戻ったのもまた事実ですがね」
「ヨモギか、御苦労だったの」
いえ、と答え、ヨモギはカタバミの横へと歩み出た。
遠く、和泉の方を見て、
「主様、あちらの人間達の方は放っておいてよろしいので?」
「構わぬさ、人間たちやクズハが片をつけよう」
「彼女が、ですか?」
「人に主様の血肉が混じっているという話ですが、どうもオレにはあの娘があの数相手に立ちまわれるようには見えません」
ヨモギの疑わしそうな声にカタバミも腑に落ちないとばかりに言う。キッコは眷族二匹に笑いかける。
「見ておるといい、あれは大きな力を持っていて、その使い方をこの世で指折りの奇人に教わっておるのだ」
●
クズハが陣を次々に空中に描いては自身の背後に浮かべている間に異形達の動きは目に見えて大きく変わっていた。統率性が無くなり、異形同士で食い合いを始めるものや遮二無二突っ込んでくるものが多く出てきたのだ。
「これはキッコがうまくやったってことだな」
「はい……隊長さん、もう少し異形の皆さんを中央に集めてください」
返答と共に指示が出される。
「第三、第四小隊、それぞれ異形共が散らばらねえようにしていくぞ! 砲撃開始!」
異形の群れに対して左右両端から砲撃が加えられた。
砲撃は無秩序に動き出した異形達の行動範囲を無理矢理規定していく。
「これでいいか?」
「はい、前にいる皆さんを下げてください」
門谷に答え、クズハは魔法の仕上げに入った。
周囲に浮かべた複数の陣から光の帯が出現する。それらは空中を漂い、クズハの体を取り巻いた。全ての陣から現れた光の帯はクズハへと集まる。
幾重にも比礼を纏い、桾帯を巻き飾ったかのようになったクズハは≪魔素≫を、攻撃の為の燃料を各陣へと供給する。陣はそれぞれの内部に記された紋に従って≪魔素≫を他の陣へと性質を変えつつ流していく。全ての陣へといき渡った≪魔素≫は再びクズハへと還り、またクズハから陣へと送り込まれていく。
それをもってクズハを核とした一個の魔法兵器が完成した。
全ての陣に間違いが無い事を自分に還ってきた≪魔素≫から読み取る。後はクズハの意志一つで魔法が発動する。
クズハは砲撃によって集められた異形達を視界に収めた。
「……せめて安らかに」
言葉と共にクズハの周囲に浮かんだ陣に流れる≪魔素≫全てが一際強く魔法独特の光を放ち、
「――てっ!」
命令一下、全ての陣から大量の火矢が放たれた。
火矢は射手が視界を介して定めた範囲を忠実に焼きつくしていく。
矢が範囲内の異形と地面を無差別に穿ち、しかる後に小さな爆発と共に焼いてゆく。
「すげえ……」
武装隊の誰かが呟いた言葉は連重する穿ちと爆発にかき消された。
「これはキッコがうまくやったってことだな」
「はい……隊長さん、もう少し異形の皆さんを中央に集めてください」
返答と共に指示が出される。
「第三、第四小隊、それぞれ異形共が散らばらねえようにしていくぞ! 砲撃開始!」
異形の群れに対して左右両端から砲撃が加えられた。
砲撃は無秩序に動き出した異形達の行動範囲を無理矢理規定していく。
「これでいいか?」
「はい、前にいる皆さんを下げてください」
門谷に答え、クズハは魔法の仕上げに入った。
周囲に浮かべた複数の陣から光の帯が出現する。それらは空中を漂い、クズハの体を取り巻いた。全ての陣から現れた光の帯はクズハへと集まる。
幾重にも比礼を纏い、桾帯を巻き飾ったかのようになったクズハは≪魔素≫を、攻撃の為の燃料を各陣へと供給する。陣はそれぞれの内部に記された紋に従って≪魔素≫を他の陣へと性質を変えつつ流していく。全ての陣へといき渡った≪魔素≫は再びクズハへと還り、またクズハから陣へと送り込まれていく。
それをもってクズハを核とした一個の魔法兵器が完成した。
全ての陣に間違いが無い事を自分に還ってきた≪魔素≫から読み取る。後はクズハの意志一つで魔法が発動する。
クズハは砲撃によって集められた異形達を視界に収めた。
「……せめて安らかに」
言葉と共にクズハの周囲に浮かんだ陣に流れる≪魔素≫全てが一際強く魔法独特の光を放ち、
「――てっ!」
命令一下、全ての陣から大量の火矢が放たれた。
火矢は射手が視界を介して定めた範囲を忠実に焼きつくしていく。
矢が範囲内の異形と地面を無差別に穿ち、しかる後に小さな爆発と共に焼いてゆく。
「すげえ……」
武装隊の誰かが呟いた言葉は連重する穿ちと爆発にかき消された。
●
異形が焼き討たれた。撃ち漏らしを番兵が数班に分かれて追っていくのを見ながらクズハは深く息を吐いた。
上手く、やれました……。
役に立てただろうか。そう思いながらその場に座り込む。
「大丈夫か?」
「はい……ちょっと気疲れしてしまって」
理由はどうあれあの異形達は元々は自分と同じような境遇にあったらしい人間だ。それらを撃つことに何も感じなかったわけではないらしい、体力面ではまだ大丈夫そうだが気力の面で疲れがある。
「よくやってくれた。とりあえず危急の事態は去ったな」
「はい」
「これから俺は残務で死にそうになるが」
彼には今回の件の報告やキッコの事等、こなさなければならない業務がある。門谷はそれでも人心地ついたことに首に手を当てて骨を鳴らして息を吐く。
「隊長! 匠さんたちがやってきましたよー!」
「やれやれ、あっちは一体何があったんだか……」
壁の上で作業していた番兵の声に手振りで分かったと答えた門谷と共にクズハは壁の方を見る。彰彦と匠が壁を跳び下りてこちらに来る。
番兵達が彰彦の腕を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐにもう慣れっこだとばかりにお疲れさんと挨拶を交わして、興味津々に腕を覗き見る番兵達に彰彦が囲まれた。
匠はそれを放っておいてこちらに歩んでくる。彼は少し困ったような顔で戦場だった方を見て、
「クズハ、遅れてすまない。おつかれさま」
労いの言葉に顔が自然に笑みの形になるのをクズハは自覚した。
役に立てたと、そう安堵を抱いてクズハは頷いた。
「はい!」
上手く、やれました……。
役に立てただろうか。そう思いながらその場に座り込む。
「大丈夫か?」
「はい……ちょっと気疲れしてしまって」
理由はどうあれあの異形達は元々は自分と同じような境遇にあったらしい人間だ。それらを撃つことに何も感じなかったわけではないらしい、体力面ではまだ大丈夫そうだが気力の面で疲れがある。
「よくやってくれた。とりあえず危急の事態は去ったな」
「はい」
「これから俺は残務で死にそうになるが」
彼には今回の件の報告やキッコの事等、こなさなければならない業務がある。門谷はそれでも人心地ついたことに首に手を当てて骨を鳴らして息を吐く。
「隊長! 匠さんたちがやってきましたよー!」
「やれやれ、あっちは一体何があったんだか……」
壁の上で作業していた番兵の声に手振りで分かったと答えた門谷と共にクズハは壁の方を見る。彰彦と匠が壁を跳び下りてこちらに来る。
番兵達が彰彦の腕を見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐにもう慣れっこだとばかりにお疲れさんと挨拶を交わして、興味津々に腕を覗き見る番兵達に彰彦が囲まれた。
匠はそれを放っておいてこちらに歩んでくる。彼は少し困ったような顔で戦場だった方を見て、
「クズハ、遅れてすまない。おつかれさま」
労いの言葉に顔が自然に笑みの形になるのをクズハは自覚した。
役に立てたと、そう安堵を抱いてクズハは頷いた。
「はい!」