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温泉会へご招待 ~『温泉界ヲ制圧セヨ!!その2』~

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温泉界へご招待 ~『温泉界ヲ制圧セヨ!!その2』~




(……しかし、奇妙な所だねぇ……)

のしのしと温泉界を歩く鬼は慈仙洞嵐角。天野翔太捕縛の為、この世界に乗り込んで来た地獄の女鬼である。
事前の調査では『視姦獣』天野翔太は、二人の全裸ロリに匿われて温泉界に潜伏している筈なのだが、遥か彼方まで朦々と湯気立ち込める果てしない浴場に、不埒な三人の姿はついぞ見当たらない。

(……一体どこまで続くんだか……)

鬼の弱点である菖蒲の湯から身を守る為、全身に蝦蟇の油を塗ってきたのも悪かった。サラシに褌一丁の軽装にも関わらず、逞しい彼女の身体からは玉のような汗が流れている。いつもひんやりと涼しい慈仙洞が恋しかった。

(……ああ暑い。それこそ一風呂浴びたいところだね……)

等間隔で壁に並ぶ『浴槽内にタオルを漬けないで下さい』の文字。なんともふざけた世界だが油断は出来ない。確かに千丈髪怜角は生意気で気に食わない新人獄卒だが、決して無能な鬼ではないのだ。
ここまで来て視姦獣を取り逃がした彼女の失敗こそ、若さ故の油断によるもの。監督者として同じ轍を踏む訳にはいかない。

「ん!?」

変わりばえのしない風景のなか、ようやく小さな異変を見つけた嵐角はキッと眉を上げる。かなり遠くだが整然と並ぶタイルの地表に、ポツリと佇む小屋らしきものが確かに見える。
どことなく縁日の屋台めいたその小屋に用心しつつ駆け寄った嵐角の耳に、哀れっぽい男の泣き声が聞こえてきた。

「……さあい……誰か、助けてくださあい……」

小屋に掛かった安っぽい看板には『ピラミッドエステ』なる謎の言葉。首を捻りながらも嵐角はいかがわしい象形文字の描かれた暖簾をくぐる。粗末な部屋のなかは、看板通りエステサロンと思しき造りだ。


「……ああっ、どなたか存じませんが助けて下さいっ!! 死んでしまいます!!」

まるで場末の見せ物小屋のような下品な照明の下、必死に助けを求めている一人の男。ミイラのごとく包帯でグルグル巻きにされたその人物は、寝椅子の上でバタバタと苦しげにもがいている。

「……あんた誰?」

少なくとも、嵐角の追っている『視姦獣』ではなさそうだ。辛うじて包帯から覗く目鼻は掘りの深いアラブ系のもの……どことなく軽薄な印象だがなかなかの美男子だった。

「……わ、私はペテンカーメンという由緒正しいエジプト魔族です。悪い奴にこうして縛られて、明日あたり温泉の釜に投げ込まれるのです」

やはり温泉界というのは物騒な場所のようだ。だが嵐角の目的は天野翔太の捕獲、あまり訳の判らぬ無駄足を踏んでいる訳にもいかない。

「……あんた、天野翔太って奴を知らないかい? 奴を捕まえるのに協力すれば助けてやらない事もないよ?」

「知ってます知ってます。太陽神ラーにかけて死ぬほど知ってます!!」

ペテンカーメンの反応は迅速だった。まるで口から生まれたような奴だ、と嵐角が呆れる程の流暢さで、彼は一息に芝居がかった台詞をまくし立てた。

「……天野翔太というのは私をこんな目に合わせた卑劣な悪者です。この温泉界の恐るべき支配者……湯乃香の子分のひとりです!!」

どことなく胡散臭い。そういえば嵐角の友人に、たちの悪いエジプト男に引っかかってひどい目にあった女官がいた。それから昨年、北米魔界を大混乱させた一連のスフィンクス詐欺……

「……エジプトねぇ……あんたまさか、私を騙そうとしてないだろうね!? この慈仙洞嵐角さまを!!」

「とととんでもない!!
この包帯を解いてくれたら、すぐに天野翔太の居場所に案内します。本当です!!」

「……」


「そもそも私がここで良心的エステを開業したとたん、天野翔太とその一味が言いがかりをつけて暴れ込んで来たのです。奴らを懲らしめるなら是非お手伝いをさせて下さい!!」

腕力には絶対の自信がある嵐角は、疑わしげな視線をミイラのごときペテンカーメンに注ぎなからも、ため息をついて彼の包帯を解き始める。こんな優男ひとり、怪しい素振りなど見せたら叩きのめせば済む事だ。

「……しかし、貴女は美しい方だ。どうです、ご用が片付いたらご一緒にホトケ焼きでも?」

やはり嵐角の苦手とする軟派な人種のようだ。調子よく喋り続けるペテンカーメンを無視して包帯を外し終えた嵐角は、乱暴に襟首を掴んで彼を立たせた。

「さ、天野翔太のところへ案内するんだよ!! そしたらどこへでも消えちまいな!!」

「ち、ちょっとだけ休ませて下さい!! 身体の節々が強張って……」

弱々しく座り込んだペテンカーメンはガサゴソ商売道具を引っ掻き回し、苛立つ嵐角を尻目に探し出した香らしきものをモクモクと焚き始めた。
たちまちエキゾチックな甘ったるい香りが狭い小屋に充満し、短気な嵐角の怒りを限界まで掻き立てる。

「あんた!! いい加減……に……し……?」

「ま、イライラしちゃいけません。この香の効能は関節痛の緩和に全身のリラックス……」

呂律の回らぬ自らの怒号に驚いた嵐角は、激しい睡魔に愕然と頭を振る。しかし妖しい紫煙を睨む彼女の瞳は、すぐにぼんやりと焦点を失っていった。

「てめ……え……」

危なっかしく揺れる彼女の巨躯がどさり、と寝椅子に倒れこんだとき、ペテンカーメンはニヤリと笑って言葉を結んだ。

「……そして、安らかな睡眠を速やかにもたらします……」

しどけなく横たわる嵐角の身体はいささか規格外の大きさだが、均整のとれたプロポーションと成熟した女の色香に満ちている。しなやかにくびれた腰に、豊満で形よい尻。
しばし好色な眼差しで彼女の肢体をじっくり眺めたペテンカーメンと名乗る男は、やがて舌なめずりしながら嬉しげに呟く。

「……うふふ、またツキが戻ってきたぞ。温泉界はこのヒモホテップ様が頂いてやる。だが、その前に……」

床の包帯を拾った彼は、慣れた手つきで嵐角の身体を、破廉恥極まりない姿勢に縛り上げていった……

続く




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