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~ウロボロス~【薙辻村・1】

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無限彼方大人編~ウロボロス~【薙辻村・1】


投稿日時:2010/10/26(火) 01:16:57


 天神。天の運行を司る神。別名、雷神。
 無限彼方。無限一族本家唯一の生き残りであり、魔道に堕ちた天神の力を宿す、闇の天神。
 寄生。闇の天神が編み出した秘術の事。己の力を植え付け、意のままに操る。そして、無限彼方のかつての姿でもある。彼方が生み出した寄生を祓うには、寄生の力が必要である。
 恐るべき力を宿し、かつての宿敵である無限の天神、つまりは無限桃花すら我が身へと宿した彼方は、人間では最強と言える。だが、忘れてはいけない事実もある。彼女が宿す天神の力は、絶対無敵では無いのだ。
 天神に匹敵する神、或はそれ以上の存在もまた、確実に存在するのである。


 第一話:【薙辻村・1】


 無限彼方がそこへ来た理由は、ある一報を受けたからだ。

「寄生が出た。それも、倒せなかった。」

 これはつまり、新種の寄生ではなく古いタイプの寄生。つまりは「彼方の寄生」の生き残りが現れたという事である。最近現れた寄生は全て人間が持つ武器で撃退出来る。だが、古いタイプには通用しない。
 倒すには寄生の力が必要である。つまり、彼方の出番になる。
 彼方はそこへ一人で来た。頼れる相棒であり育ての親である、千年以上生きている妖怪、婆盆・無縁天狗は、そこへは入れなかった。彼は縦横無尽にどこへでも行くが、霊的に護られた場所へはおいそれとは入れない。相克である。
 強力な結界や守護神の居る地域では、妖には超えられない場所があるのだ。
 それは日本各地どころか、世界中に存在する。この日本では、有名な三種の神器を奉る熱田神宮や伊勢神宮等。さらに、死してなお意思を持つ怨霊を奉る場所も、妖には負担が大きいのである。
 彼方はれっきとした人間である。日本最大の怨霊に数えられる、天神・菅原道尊の転生として生まれては居るが、今は関係ない。その力のみ宿している。

「まだ着かないの?」
「この山道じゃねぇ。でもあと少しだよ」
「あと少しってさっきも言ったよねオッサン?」

 彼方はタクシーの運転手へ文句を言ってみた。
 目的地から最寄の駅に着き、そこからタクシーを拾って既に三時間以上経っていた。途中の舗装された道路は順調であったが、山道に入ってからは曲がりくねった道をとろとろと進んでいたのだ。

 彼方は現在、北関東のとある村を目指している。
 薙辻村。
 山奥にあるその村は、まさに田舎の古い村である。村人は農業や酪農を生業にしており、一見すると平和そのものである。実際にそこでは、ここ数年窃盗すら起きていない。
 ところが、ある日突然寄生の反応が現れたのだ。すぐさま調査員が送り込まれたが、「寄生が出た。武器で倒せなかった」との報告を最後に行方をくらませた。そして、第二の調査員として彼方が派遣されたのだ。
 もし報告の通りならば、他の調査員は寄生に対して無力である。足手まといになると言い、彼方は一人で出向く事にした。また、目立つ訳にも行かないので、それは許可されたのだ。寄生の存在は極秘中の極秘なのである。
 また、彼方の意外な知識と、さらにもう一つそこへ出向く理由があった。


「お嬢さんなんでまたあんな村に? 何にもないよあそこ」
「お祭を見に来たの」
「祭? ああ、そういやそうだなぁ。そんな季節かぁ。でもあれ祭って言うより儀式でしょ?」
「お祭りってのは元々は神様に祈りを捧げる儀式の事。奉りが転じて、祭になった。つまり、元は神聖な儀式なの」
「へぇ。そういやどっかで聞いた事あるなぁ。まぁあの村の祭は騒いで遊ぶって感じじゃないもんねぇ。せいぜいオヤジが集まって酒飲むくらいさ」
「日本各地に特有の祭はあるけど、どれも基本は同じよ。五穀豊饒を祈願して、土地神に捧げ物をして宥めるの。疫災を起こさないで下さいって。つまり、神様が怖いからご機嫌をとる物が大半なの。奇祭とか言われる奴はそれが多いわ」
「お嬢さん詳しいねぇ。どこで勉強したんだい? そういうの調べてる学生さん?」
「ちょっと訳アリでね」

 携帯電話が鳴った。相手は彼方に無駄な知識を植え込んだ張本人である。
 彼方は携帯を開き、ストラップの猫とも犬とも狸ともつかぬ謎の生物の人形を指でいじりながら電話を取った。相手は少々バツが悪そうだった。彼方も少し腹が立っていたので、強めの口調で応えた。

「どうしたこのバカ天狗」
《ひ……酷いですね。いくら私が行けなかったからって……》
「アンタが居れば色々と楽だったのに。バケモンにしか出来ない事だってあるんだから」
《バケ……。どうしてそんな子に育ったんだ……》

 電話の相手は、彼方の育ての親であり相棒でもある。婆盆・無縁天狗。

「で、解ったの? あの村で何を奉ってるか?」
《まったく解りません》
「この役立たず……」
《そんな事言いますがね。この国じゃそもそも謎な事が多過ぎて解らない事だらけなんです。人も言葉も神々もルーツが明らかではない国なんてそうそうないですよ》
「言い訳すんな」
《わかってますよ。これから古いツテを当たってみます。といっても私達ですら基本解らないんですから、期待しないで下さいよ》
《千年以上生きてるんでしょ。私にいろいろ教えてくれたクセに肝心な事は解らないって……。ムダに生きてきたの?」
《だから謎だらけの国なんですって。それに私なんて千年ちょっとしか生きてないんですから。古い神々なんてまったくはてさて?》
「でもそれが今も信仰の対象になってる訳だよね?」
《ええ。たとえどれほど古くとも、人々が思う限りは生き続けます。逆に言えば、生きている限り信仰が続く可能性も》
「古き神……」
《本当に古代神が寄生されたと?》
「わかんない。でも、確かめなきゃ」
《もし寄生だとしても小物でしょ? とても単独で神に取り憑けるとは……」
「解ってる。でも行かなきゃ行けない」
《なぜです?》
「呼ばれてるからよ」

 それが、彼方が薙辻村を目指したもう一つの理由であった。


※ ※ ※


 タクシーは砂利道を通り、辺りは暗くなりはじめる。
 タイヤに巻き込まれた小石が弾けとび、車体にカンカンと当たる音が間断なく聞こえてくる。運転手が苦虫を噛むような顔をしていた。
 そこを越えると、山道とは少し違う、一直線の道が見えてきた。轍が続く、真っ直ぐな道。

「ようやく着いたよ。あとは真っ直ぐ行けば見えてくるよ。まったく、なんでこんな不便なんだか」

 運転手がため息混じりに言う。たしかに今居る道は、曲がりくねった先程とは違い、生活感のある道路であった。
 道の横には畑があった。軽トラックが路肩に停まっている。荷台は深緑のシートで覆われ中は見えないが、農作業に使うトラックだとは分かる。

 民家が見えた頃には、辺りは真っ暗闇に包まれた。古い家も多いが、割と最近立てられたと見える家もあった。農家特有の巨大な小屋が多数ある。さらに奥へいくと、養豚場や牛小屋もあるという。
 街灯など無く、静かな村だというのが、彼方の最初の印象であった。

 タクシーに指定した場所はこの村にある唯一の宿である。宿と言っても本格的な経営とは程遠い物だ。村の地主が広い屋敷を解放し、訪れた旅人に寝床を提供している。
 この村ではそこが唯一の宿泊施設であり、当然、彼方もそこに泊まる事になる。夕方には着くと連絡は入れておいたが、辺りは真っ暗闇。少し失敗したかなと思ったがどうする事も出来ない。時刻は夜の九時を回っていた。
 案の定、宿に着いた時、地主である中年の男性は心配そうな顔で彼方を出迎えた。

「いやいや、いつ来るかと思ってましたよ。山道で事故でもあったんじゃないかと……」
「すみません。思ったより道が険しくて時間かかってしまいました。連絡出来れば良かったんですけど……」
「途中からじゃ携帯電話は通じなくなりますからね。山奥なんで電波なんて届きませんよ。まぁ固定電話は通じるので困りませんが」

 中年の男性。この村の地主である日村辰也は、少々ふっくらした体格と顔でにこっと笑いながら言った。いい人そうだと彼方は思った。実際に、この男性はこの時間にルーズな来客を笑顔で迎えてくれたのだ。
 いくらかの代金は支払うとはいえ、実質自分の家に客を泊めて食事や風呂まで世話してくれるのだ。世話好きなのは間違いないだろう。

「お疲れでしょう。お部屋はこちらです」

 辰也に案内されて、彼方は自分が寝泊まりする部屋へと向かい、手荷物を置く。何時間も車のシートに座っていたので、すっかり移動だけで疲れてしまった。これは精神からくる疲れである。
 ただ黙って居るよりは、身体を動かしていたほうが彼方は調子がいい。体力自体は誰よりもあるのだ。
 宿に着き、荷物を置いて、次にする事はたいがい決まっている。


※ ※ ※


「芋うめぇえええええ!」

 絶叫である。空腹の彼方に出された食事は割と豪勢だったのだ。
 疲れなど吹き飛んだ。若い女性とは思えぬ豪快さで、どんぶりを鷲掴みにして飯をかっ食らった。空腹だったのだ。

「豚汁うめぇええええ!」
「よく食べるねぇ……」
「天ぷらうめぇえええ!」
「落ち着いて……」

 彼方の食べっぷりに辰也は唖然としたが、どこかにこやかに見えた。
 出された食事は全て、この村の物だ。地元の物を褒められているように感じたのだろうか。実際に、彼方は無我夢中である。
 しばしそれを眺めたあと、彼方が落ち着いたのを確認してから、辰也はようやく彼方にまともに話し掛ける事が出来た。

「いやはや……。見た目に騙されては行けないねぇ。こんな食べっぷりがいい人は初めて見たよ」
「おひたしがうまい……」
「それは何よりだ。ナギ様も喜ぶだろうね。……そうだ。そのナギ様の祭を見に来たんだよね?」

 辰也は言った。ナギ様とは、この村に奉られている土着の神である。日本中にある、正体不明の神の一つで、そして非常に長い間、この村では信仰されてきたのだ。
 村の名前、薙辻村とは、このナギ様が通る道の村という意味である。ナギとは古代日本語で蛇の事であり、それをヒントにここへは来れない婆盆に調べさせたが、結局は正体不明であった。
 そしてその正体不明の神は、寄生を通じて彼方に言ったのだ。
 ここへ来いと。

「ナギ様は年に一回、この村を通り抜けるとされている。その時期に祭を行い、供物を捧げ、祈願する。それがナギ祭」

 辰也は説明してくれたが、やはりそれは祭の歴史であり、ナギ様の歴史では無い。長い歴史と伝説は残っているが、長い時間を経て、大事な部分は失われて行ったのだ。真実は、恐らく辰也自身にも解らないだろう。

 そして、そのまま夜は更けていった。





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