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capter1 「怨嗟の魔王」 SIDE B

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匿名ユーザー

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西暦2450年。
世界は謎の勢力からの襲撃を受けていた。
名称は不明、何処から現れたかも不明。
故にアンノウンと呼称されたそれは地球に脅威として襲い掛かってきた。
世界統一政府はそれに対して、直轄の政府軍の鋼機部隊を抗戦を行うことになる。
だが、戦力差は圧倒的でアンノウンの用いた獣を模した機械兵器、政府軍による便座上の呼称、鋼獣(メタルビースト)は瞬く間に政府軍の鋼機部隊を蹂躙していった。
そしてその大きな激戦区となったのは世界統一政府に参加した第七機関統治担当区域、旧名日本であった。




人一人が入るのがやっとな小さな部屋。
そこには心もとない赤い消灯が一つだけ灯っていて、うっすらとその部屋を照らしていた。
部屋の中心には椅子あり、その椅子の周りは様々な機器が充満している。
秋常譲二はその椅子に腰掛けた。
譲二はキーボードとゴーグルを席の横から引き出し、ゴーグルを着け、キーボードに入力を始める。
小さな部屋でキーボードのキーを打つ音だけが静かに鳴り響く。
譲二の視界にはゴーグル越しに大量の文字列が展開されていく。
それと同時に周囲の機械が動き出す音が鳴る。
Start preparation completion。
ゴーグルに起動準備完了の合図が出る。
譲二はそれを確認した後、キーボードのエンターキを叩いた。
部屋が起動を開始する。ゴーグルに移る風景は暗転し、その後、違う風景を映し出した。
周りは金属の壁で覆われていて、目の前には蒼白の大きな全身甲冑のようなものが存在している。
世界政府の特殊部隊に正式採用された新型人型機械兵器、鋼機(メタルアーマー)S-21 アインツヴァイン、譲二が今、乗っているモノと同じ機体だ。
譲二が首を回すのと同時に風景も譲二の乗る鋼機の頭部にあるカメラも譲二の首の方向と同じ方向に向ける。
譲二はペダルをゆっくりと踏み込み、レバーを握った。
ゴーグル越しに見える光景が動き出す、少しづつ、少しづつ、前方の蒼白の機体が近づいていく…。
譲二はレバーを操作しながら腰を右に捻った。
それに同調するように譲二の乗る鋼機は体の向きを変える。
そして、ペダルを踏み込み前進させた。
順調に機体の立ち上げに成功したことに譲二は安堵の息をついた。
そうして発信ゲートの前まで歩を進めた後、譲二は鋼機を90度方向転換させゲート隣にブースターユニットに向けて後進する。
ガチンという接着音。
モニターにブースターユニットへの接続が完了したとの報告が入る。
譲二はレバーを操作し、発信ゲートを開いた。
ゲートの向こうに青空が広がるのがモニター越しに見える。
その風景を見た後、譲二は深呼吸をした。
「やるしかないんだ…。」
その決意を言い聞かすように譲二は呟いた。
鋼機の歩を進める。
キーボードでブースターに火を入れるよう入力を加える。
その時、電子音が鳴り響いた。
ゴーグルに強制介入という表示と共に部屋にスピーカー越しに声が流される。
「秋常譲二、なんのつもりだ?」
女の声だった。その声は若さを感じさせるが威圧的な重みもある。
「納得できないからです。」
譲二の物言いに女はそれをふん、と鼻で笑った。
「納得できない?納得などお前に必要ない話だ。」
威圧するような物言い、譲二はそれに抗うように弁する。
「命令違反に対する罰なら後でいくらでも受けます、ですが、今、あの鋼獣(メタルビースト)を逃すのは正しい判断とは思えません。このアインツヴァインが何の為に開発されたのか、お忘れなのですか!!」
少しの間の沈黙。そして少しのため息の後に、女は前と変わらぬ口調で言う。
「確かにそのS-21アインツヴァインは素晴らしい機体だ。ディールダインを用いるという理想の現実化、それは秋常譲二、お前がいなければ出来はしなかっただろう。だが、あの鋼獣はそれでも勝てるかどうか怪しいのだ。
我々は確実な勝利を手にする為にはなんとしてもあのブラックファントムを手に入れねばならん。」
「だから、被害にあうであろう人々を見捨てるというのですか!」
それは悲鳴だった。
確かにあのブラックファントムの力は驚異的といえた…あれを手に入れる事ができれば――
だが、この機体はそんな事のために開発したのでは無い筈だ…この機体は…。
「そうだ――見捨てる。」
少し間を置いた後、女は冷徹に言い放つ。
「そうですか…ならば、もう話す事はありません。」
「この、ば―――」
譲二はスピーカーを切った。
起動干渉のプログラムには自作のプロテクトによって起動干渉を受けないようになっている。
実質的に今、『彼ら』はこの譲二の乗るアインツヴァインを止める術などは無い。
「なんで、皆それで納得できるんだ…。」
譲二は呟く。あまりに悲しかった。そういう命令だからと納得してしまえる彼らが…。
ブースターを点火する。
そうして譲二の乗ったアインツヴァインは空中に身を乗り出した…。

突風で機体が揺れる。
譲二はすぐさま、姿勢制御プログラムを飛行モードに切り替えた。
ブースターユニットの後翼が動き始める。
風にあわせてもっとも良い方向へと翼の向きを変えて始めているのだ。
譲二は、それを確認した後、ゴーグルを外して、一つのディスクを傍らにおいてあった小物入れから取り出した。
ディスクを譲二から見て向かいにあるディスクトレイに挿入し、再びゴーグルをかけなおした。
ゴーグルにはNow loadingという読み込み中の表示が出る。
やがて、読み込みが終了したという表示が現れ、モニターに座標が表示された。
『彼ら』が計画通りに事を行おうとしていたのならば、『奴』はそんなに遠くにはいないという譲二の読みは当たっていた。
距離にしておよそ15km程度、これならば5分もあれば追いつける。
目標に向けて機体の進路を取り、機体を加速させる。体に軽くGがかかるが、すぐにそれに体は慣れた。
S-20型までの鋼機ならば、ここで多大なGを搭乗者にかけていた事は予想に硬くない。
それを新しく搭載された重力制御システムがこの程度で済むように軽減しているのだ。このようなシステムを積むような容量を確保できたのも一重にディールダインの恩恵といえるだろう。
譲二は座標近くの地図の情報をゴーグルに映させるようにキーボードを操作する。
そして、映ったその光景に譲二は下唇を噛んだ。
このままの進行ルートだと『奴』は間違いなく一つの街の上空を通る事になる。
『奴ら』は必ず、通りかかった街を襲撃していた。大なり小なり構わずにだ。
やっぱりじゃないか…と譲二は心の中で毒づく。
その時、電子音が鳴った。座標の近くに知らせる音を示している。
譲二はゴーグルを操作し、カメラをズームして『奴』を探す―――いた。
狼のようなシルエットをしているが背中に二つの翼を生やしているのが特徴的だった。
『彼ら』が『天狼』と呼称している、鋼獣の一種だ。S-20型鋼機20機で構成された大部隊をたった一機で壊滅させた悪夢の元凶。
複数確認されている鋼獣の中でも危険ランクA-に指定されているモノだ。
キーボードを操作し、音声認識に切り替える。
音声認識はキーボード操作で行う事のパターンをいくつか機体にキーワードで設定しておくといったものだ。
戦闘中にキーボードを打ち込む余裕が無いだろうという事からの挙動の短縮プログラムというべきものといえる。
そうした作業を終えたあと、譲二はごくりと唾を飲んだ。
腕が震えているのが分かる。怖いのだ。自分がどれほどの敵を相手にしようとしているのかを理解し、今更怖がっている。
譲二はそれを落ち着ける為に何度も深呼吸を繰り返した。
「やるしかない…やるしかないんだ…やるしかない…やるしか―――」
呪詛のように何度も繰り返す。恐怖に逃げ出しそうになる自身を何度も説得する。
そうして10秒ほどの時間が流れた、天狼はすでにアインツヴァインのアサルトライフルの射程内にいる。
まだ『奴』はこちらの事に気づいていない。今ならば…そう今ならば、先制を取れる――――否、早まるな。
今すぐにも攻撃を仕掛けそうになっていた自身を必死に繋ぎ止める。
今ここで戦いを始めるのはあまりにも無策だ。ブースターユニットでこの機体は飛行しているものの、ブースターユニットは小回りが効くように設計されているわけではない。
あくまでその目的地に鋼機を送り込む事を目的として開発された代物だ。故に空中で小回りが効く天狼に戦闘を仕掛ければただでさえ、不利な戦いがまったく勝てないものとなってしまう。
そう、勝つためにはなんとかして地上戦に持ち込まなければならない。
譲二はその考えにたどり着いた事で自身がまだ冷静さを失っていない事に気づき安堵する。
だが、どうすれば、地上戦に持ち込める。
譲二は考える。まずはあの翼をどうにかしなければならない。そうでなければ地上戦になんとか持ち込めても、また空を飛ばれて結局はこちらが不利になってしまう。
だが、この機体に装備されているアサルトライフルの弾が、1、2発当たった所であの翼を破壊する事は不可能だろう。
天狼の装甲がそれぐらいの攻撃ではまったくダメージが与えられない事は熟知している。ならば…グレネードランチャーへの切り替えか…いや、それでは外した場合、下にある街への被害へと―――
様々な方向へ思考を巡らせる。勝つために…。
その時だった、鋼獣が急に降下を始めたのだ。譲二の頭に自身に気づかれたのかという考えが巡る。だが、それがそうでは無い事がわかったのはそれから数秒もかからなかった。
譲二は背筋に寒気が走るのを感じる。
天狼は自身の下にある街を襲撃するために降下を開始したのだ。

焦り。
その感情が譲二を支配し始める。今すぐに攻撃しなければ――いや、それでは流れ弾が街に当たってしまう。
ならば、どうすればいい、どうすれば――――
譲二は自身の足を握り拳で叩いた。
そうしてまとまらなくなりそうな自分の思考を痛みで引き戻す。
落ち着かなければ、今取れる最善とは何だ…秋常譲二…お前は一体、今、何が出来る?
譲二は素早くレバーを操作し、機体を天狼に向けた。
そうして天狼に向けてブーストユニットで全速力で加速する。
「ぐっ……。」
ブーストユニットに積載された燃料を全て使うフルブースト、重力制御が利かなくなり始め、譲二の体に大きなGがかかり始める。
他に手は思いつかなかった。
もっと時間があればこれよりも良い手段を思いつけたかもしれない。
だが、今、思いつくのはこれだけだ、迷えば迷うほど状況は悪くなる…だから今はこの方法が最善だと信じてやるしかない。
大きな衝撃が機体全体に走る。
譲二の乗るアインツヴァインが街に降下をし始めた天狼に激突した事を証明する衝撃だ。
そのまま譲二はレバーを操作し、アインツヴァインの腕で天狼を抱え込む。
そしてそのまま、フルブーストをし続ける。ブーストユニットの限界を超えた事を示す警告音がなる。
それはこのまま行けば、ブーストユニットの爆発を招く事を示唆しているものだ。
だが、そんな事は知った事か…今はなんとしてもあの街へと降下するこいつの軌道を街からそらさなくては…。
機械と機械がこすれるような音、天狼が咆哮する。自身を抱えこんでいるこの蒼白の機体を振りほどこうとしているのだ。
だが、まだ離すわけにはいかない。
譲二は襲い掛かる衝撃とGの中、必死に状況を確認する。
重要なのはタイミングだ。チャンスは一度きり、それを逃せば、自分はこいつと心中する事になってしまう。
まだだ、焦るな…落ち着け…あと少し…あと…今だ!
「ぜ――づぞ――くがいじ――ょ!!」
喋るのもままならない状況の中、譲二は腹から精一杯の声を出す。
これで機体が反応しなければ、このまま心中する事が決まってしまう。譲二は神に祈った。
Connected release
ゴーグルに、接続解除のコードが現れる。
それと同時に背部に振動が伝わった。
譲二は素早くペダルを踏み込み、機体の肩部にあるブースターを上向きに噴射させた。
接続が解除されたブーストユニットが機体から外れ、その一瞬の間に譲二の乗るアインツヴァインは逆噴射をかけ、天狼から離れる。
機体の重みから解放されたブーストユニットは天狼の体にそのまま突っ込みさらに加速を続ける。
「…うぐ…。」
急な方向転換に慣性の法則による重力制御でも殺しきれないほどの強力な反動が譲二を襲った。
譲二は体の中から逆流してきた黒味かがった赤い液体を口から吐き出す。
譲二はそれに構わず、レバーを操作する。アインツヴァインはバックパックからパラシュートを散開させた。
完全な減速は間に合わないのは明らかだったが、それでも多少の着地時の衝撃を和らげる事ぐらいは出来るだろう。
背部のスラスターはさきほどの無茶な加速で反応が無いため、減速には使えない。
アインツヴァインはそうして街の近くにあった山岳地帯に着地した。
着地と共に大きな衝撃音。
譲二はそれを足だけで受けずに、足面や腕に受け流す事で出来るだけ機体に与える衝撃を受け流した。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
譲二はすぐさま機体の状態を確認する。
いくら受け流したとは言え、かなりのダメージを機体に与えた事は予想に硬くなかった。運が悪ければもう動かない可能性すらある。
機体のコンディションを確認していく内に譲二は目から涙を流した。
動くのだ…それも着地の時損傷した左腕以外はほとんど問題なく。
自分がこの機体を作り上げた事は間違いではなかったと譲二は感動する。
ああ、そうだ、この機体は凄い機体だ、あらゆる夢、あらゆる願いが込められている。
この機体とならば、絶対に負けない。
それは譲二の中で絶対の自信となる。譲二は先ほど血反吐を吐いた事すら忘れ、機体を立ち上がらせた。
そうして周囲を見渡す。近くで黒い煙が上がっているのが見えた。そしてそれが天狼が墜落した場所だと譲二は確信した。

「はぁ……はぁ……あそこ…か…。」
譲二はペダルを踏み込み、機体をその黒煙に向けて進ませる。
アインツヴァインから切り離されたブーストユニットはそのまま天狼にぶつかりそのまま加速を続け、機体という重りを失ったブーストユニットは天狼の機体ごと山岳に突っ込み爆発したのだ。
最大加速で機体ごと天狼に突っ込ませ軌道を変更させ、ブーストユニットを切り離し、そのままアインツヴァイン本体は両肩のブーストを使い脱出、そして切り離されたブーストユニットと天狼を加速させ地表への激突とそのブーストユニットの爆発によるダメージを与える。
これが譲二が咄嗟の瞬間に閃いた唯一の攻撃手段だった。
この策は苦しくも成功を収める事に成功した。相手が鋼機ならば、全壊しているかどうかは見るまでも無い事だ。
だが、譲二はアインツヴァインの歩を進めた。
破壊したのを確認する為ではない。あの程度であの鋼獣を倒せるとなどと思っていない。
ダメージは与える事に成功したとは思うが、あの程度で倒せるような相手であるのならば20体の鋼機を1体で圧倒できるわけが無い。
譲二は確信している、この先にはまだ『奴』が『天狼』がいるのだと…。
黒煙まであと200mまで近づいた時、その確信は現実に変わった。金属と金属がこすれるような音、天狼の咆哮だ。
音がした方向にズームをかける…いた、間違いない。
天狼はあれだけの決死の攻撃の中でも、そこに存在しているのだ。
だが、ダメージを与えられなかったわけでは無い。天狼の大きなシルエットであった双翼が破壊されており、中にあった機械をむき出しになっていた。
譲二は墜落時の衝撃を翼を防護に回す事で和らげたのだと理解する。
だが、そのお陰で天狼の翼は使いモノにならない。つまりはもう天狼は空を飛べない。
目的は成功したのだ。天狼から空を奪い、地上戦に持ち込ませるという最初の目的を…。
つまりはここからが本番だ。
狙うのはただ、一点、天狼の胸元の装甲の奥にあるコアのみ。数々の敗戦の中で手に入れた、鋼獣の弱点を破壊する。
理由は未だ不明だが、そのコアさえ破壊すれば、鋼獣は行動不能になる。
天狼のコアは胸元の装甲の奥にある事が、既に確認されていた。
天狼が紅の瞳でこちらを睨みつけてくる。
こちらを見つけたのだろう。その形相は機械ながらも怒りに震えた獣のように見える。
着地のときに受けたダメージでアインツヴァインの左腕はもう用はなさない。
故に左腕の肘を右手で曲げL字のような形にさせ、関節部分を全てロックし、まだ動く左肩のみで左腕を動かせるようにした。
そうして譲二はアイツヴァインの腰に装備されているアサルトライフルを取り出し天狼に向けて構えた。
天狼はアインツヴァインを確認して大きく吼え、その四足で疾風のように譲二の乗るアインツヴァインに向けて駆け襲い掛かる。
譲二はレバーにあるトリガーを引き、アインツヴァインにアサルトライフルを発砲させた。
嵐のような銃撃音が響くと同時に40mmの弾丸の雨が天狼を襲う。
だが、その銃撃に天狼はまったく止まる気配が無い。まったくダメージを与えられていないのだ。
譲二は、その事実をそんな事は知っている!と心の中で一蹴する。
この程度の銃撃で鋼獣にかすり傷すら作ることすら出来ないのは交戦データを見ていれば誰にだってわかる。
重要なのは距離だ。相手が自分の距離に誘い出されているという事を感じづかせない程度の距離が必要だ。
その為の攻撃、必死な抵抗に見せかけた攻撃を仕掛けているのだ。
天狼との距離100m。
まだ、早いと焦る気持ちを譲二は必死につなぎ止める。
距離80m。
譲二は目に見える景色が急に霞み始めるのを感じた。さきほどの吐血の影響だろうか…。
距離60m。
ゴーグルに表示される距離の表示がぼやけ始める。譲二はその中でアインツヴァインにアサルトライフルのもう一つのトリガーに指をかけさせる。
距離40m。
視界が歪む。セカイが少しづつ形を失いドロドロに溶けていく。
だが、その中で譲二はその中でアサルトライフルの二つ目をトリガーを引かせた。
アサルトライフルの銃口の下部にあった大きな銃口からグレネード弾が発射される。
命中と共に爆発。
その時、視界には赤い何かが広がり始めるのを譲二は見た。

譲二はすぐさまアインツヴァインを走らせる。
最初で最後のチャンス。機体も自分もこれを逃したら後が無い。だから…!
「うぉぉおぉぉおぉぉぉ!!!!」
譲二は意識を失いそうな自分を鼓舞する為に雄たけびをあげる。
機体に衝撃が走る。天狼がアインツヴァインを押し倒したのだ。グレネード弾の直撃を受けてなお、天狼はその爆発の中を直進してきたのだろう。
そして、今、その前足でアインツヴァインの体を捕らえたのだ。
天狼はその大きな口を開く。ゴーグルに映るのは数多の鋼機を破壊してきた天狼の牙。
その大きな牙がアインツヴァインの胴体目がけて襲い掛かかった。
譲二はとっさにまともに機能しなくなったアインツヴァインの左腕を天狼の口に突き入れ、噛ませ、捧げる事で胴体への攻撃を回避する。
左腕全壊の報告がゴーグルに入る。だが、胴体をやられて行動不能になる事を鑑みれば壊れた腕の代償など安いものだ。
譲二はそれに目もくれずアインツヴァインに右腰からバイブレーションナイフを引き抜かせた。
天狼は喰いちぎった左腕を投げ捨て再びその毒牙を体に向ける。
だが、遅い!
左腕を喰いちぎり捨てるという天狼の一挙一動、その一瞬の隙さえあれば、それは十分すぎるほどの反撃のチャンスとなる。
アインツヴァインは右手に握ったバイブレーションナイフを天狼の胸元に突き刺した。
その刀身はジジジが金属を割くような音が響かせ、火花を散らしながら鋼獣の体を蹂躙する。
天狼の悲鳴じみた声が響く。
「そのまま、いけぇぇぇ!!!!!!!!」
刀身が根元まで突き刺さる。
そして、アインツヴァインは大きな衝撃と共に吹き飛ばされた。








何が起こったのか…譲二は薄れ行く景色の中で確認しようとする。
鋼獣のコアを破壊した際の爆発の余波で自分が吹き飛ばされたのか、それとも――なのか確認しなければならない。
もはや見えるものはぐちゃぐちゃだ。
自分でもよくこんな状態で意識を保っていられていると関心する。
何かがこちらにゆっくりと動いてきているのが見える。
色は白色だろうか…銀色なのかもしれないが、よくわからないがとにかく白をベースとした色だ。
全体的な輪郭はおそらくは人型では無い、四足歩行なのが特徴的で背中には二つの突起のようなものがある。
突起の先はギザギザだ。まるで本当はその先に何かがあったかのように山と谷を繰り返している。
「は…はは。」
そこまで認識して、声にならない声で譲二は笑った。
それが何を意味するかを理解したからだ。
なんだよ、ここまでしても駄目なのかよ。
心の中で愚痴を言う。譲二は振り向き、右腕に握られたバイブレーションナイフを見る。
握られていたナイフは柄だけが存在しており、刀身があるはずの部分が消滅していた。
ナイフの刀身は鋼獣の装甲を突き抜けて、根元まで刺さったのでは無い。根元まで削られたのだ。
もはや体は動かなかった。今の戦闘行動で自分の全てを出し切ってしまった。もう指一本もまともに動かない。
例え、機体が動いても秋常譲二という一人の人間はもはや動きようが無い。いや、むしろここまで動いた事が奇跡と言えるのだろう。
天狼は罪を犯した咎人を裁く処刑人のようにゆっくりと自分の方に歩を進めてくる。
やはり『彼ら』は正しかったのだろうと譲二は薄れゆく意識の中で思う。ディールダインを採用し、スペックを5倍まで底上げした所で、あのアンノウンに敵うわけが無かったのだ。
その為、彼らはブラックファントムを鹵獲するという策に出る事になった。襲われる街を生け贄として捧げ、ブラックファントムをおびき出し、全戦力をつぎ込みあの機体を捕縛する。
だが、譲二はそれだけは、S-21をそんな作戦だけに使う事だけは認めたくは無かった。彼女も、そんな事をさせる為にこの機体を作るのに粉骨砕身で挑んだのでは無いのだから…。
金属音、天狼がその前足を機体にかけたのだろう。
これが結末だ。最初からわかっている事ではあった。こうなるのは必然であった。だが、それを変えたかった。この機体ならば鋼獣を撃破することが出来る事を証明したかった。
目から涙が流れているのがわかる。
あまりに未練だ。この体が動けば、せめてこの体が動けば、奴にもう一泡吹かせてやるぐらいは出来たのかもしれないのに…。
すまない、アインツヴァイン。俺が弱いばかりに、俺が不甲斐無いばかりにお前は破壊される。本当にすまない。

その時――だった。
再び大きな音がスピーカーから聞こえてきたのだ。
何かが転げるような音と、何かが大地に着地する大きな音。
そしてその後、あの天狼の咆哮が聞こえた。
だが音がやけに遠い。さきほどまであんな近くにいた筈なのに…。
何が起こったのかと薄れゆく意識の中、最後の力を振り絞って、譲二はそれを見る。
もはや大きな輪郭でしかわからないが、それが何かなど譲二にはすぐにわかった。
歯軋りする。譲二の中に言い様の無い怒りの炎が灯る。それは嫉妬に近いものだ。
そこには所属不明の黒い鋼機、単独で鋼獣を複数の破壊した唯一にして悪魔のような機体。『彼ら』がブラックファントムと呼称するそれが天狼と対峙していた。
そして、その光景を見た後、秋常譲二の意識は闇に落ちた。

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  • 今見るとアインツヴァイン初回から酷使されてますねwそしてリベジオンきたあぁぁぁぁぁ! - 遅筆 2011-08-03 22:45:42

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