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「ヒューマン・バトロイド」クリスマス

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「で、アンタは何者だ?こんな所まで潜入してきて、何が目的だ?」
南太平洋中立国家群防衛隊詰所にて、リクは裏口から侵入しようとしていた不審者を拘束していた。
「それにしても……派手だな。そんなどぎつい赤い服で侵入とは……」
侵入者は赤い服を着た老人だった。
「いや……ワシはプレゼントを届けに来ただけ――」
「配達員がわざわざバレないようにこっそりと裏口から来る訳あるか」
老人はリクの前で正座させられて項垂れている。
「本当にプレゼントを届けに来ただけじゃ!ワシはサンタクロースなんじゃ!」
「サンタクロース?何だそれ?」
リクは首をかしげる。
今まで生きてきた中でサンタクロースという単語をリクは聞いた事が無かったからだ。
それはリクが戦場か研究所という閉鎖された環境でしか生活した事がないせいだった。
「サンタクロースを、知らんのか?」
「とりあえず、真夏の熱帯夜に現れる分厚く着こんだ不審者なんて知らない」
そう、クリスマスである今現在の南半球の季節は"夏"だ。
そういう意味でも老人は不審者だ。
「で、サンタクロースってのは何だ?」
「ふむ……リク君よ。随分と難儀な生き方をしておるようじゃのう……サンタクロースを知らんのも無理はあるまい」
老人は傍らの袋からいくつかの子供向け絵本を取り出した。
「まずはサンタクロースを知ってもらわんと話も始まらん。これを読むといい」
リクは渋々受け取り読み始める。
絵本にはクリスマスの温かな家族と子供にプレゼントを配るサンタクロースの話が描いてある。
「……理解した。で、アンタは自分がサンタクロースだとでも言うつもりか?」
「証拠を見せた方がいいかのう?」
老人が懐から取り出した笛を吹くと鈴の音が聞こえてきた。
リクが空を見るとトナカイがソリを引きながら空から降りてきた。
「無線接続でグラビレイト起動、立体式戦略盤で解析開始」
リクは非現実的な光景に思わず解析を開始する。
「夢の無い子供じゃのう……普通ならここで「わ~い!サンタさんだ~!」と喜ぶ筈なのに……」
リクは老人に向き直りブレインチップから記憶を探ろうとする。しかし……
「反応無し!?アンタ、ブレインチップを入れてないのか!?」
現在の世界でのブレインチップの普及率は99%。
そんな1%と出会う確率はそう高くない。
「サンタはクリスマスだけ存在すれば充分じゃ。そんな文明の利器まで必要とせんのじゃよ」
リクは溜息と共に肩の力を抜く。
「……なんかアホらしくなってきた。行っていいぞ、爺さん」
「それはありがた――ぐぎゃ!?」
サンタは立ち上がろうとして倒れた。
「い、いかん。ぎっくり腰じゃ……」

ヒューマン・バトロイド クリスマス特別編 サンタクロース=不法侵入者

目標は目の前の家、2階の東側の窓が子供部屋だ。
リクはサンタから手渡された予備のサンタ服と袋、そしてヒゲを装着している。
「対象は……寝ているな」
目の前の子供が望む物が出てくるという袋から箱を取り出す。
そっと枕元にプレゼントを設置、証拠を残さない様に立ち去る。
「あと……12軒か」
リストを見ながら溜息をつく。
ぎっくり腰で動けないサンタの代わりにプレゼントを配るリク。
普段の戦場で死をばら撒く姿とは真逆だ。
次々にリクはプレゼントを配り終えていく。
「侵入成功、対象は……っ!?」
起きている。
こちらを丸い目で見ている。
沈黙が流れる。

「さ、サンタさん?」
「え?あ、ああ、サンタクロースだ」
「わ~い!サンタさんだ~!」
本当にこんな反応するんだなと思いつつ、子供を黙らせなければと焦る。
「静かにしなさい、バレると厄介だから……」
「サンタさんはホントにいたんだぁ~!」
「だから静かに……」
「すごいすご~い!」
「……黙れクソガキ」
子供はリクの殺気に泡を吹いて気絶する。
子供をベッドに寝かせてプレゼントを置く。
次の年からこの子供にとってクリスマスがトラウマになるのは、また別のお話。
「あと4軒……同じ場所だな……あれ?」
名前に見覚えがある。
ラウル・グリット、シエル・ファーニール、リリ・ウィール、ミキ・レンストル。
紛れもない仲間の名前だった。


ラウルの部屋は汚い。
別に汚れてはいないが、工具や機械部品が散らばり過ぎている。
当の本人は新装備の設計中に寝てしまったようで、端末の明かりだけがともっている。
「ラウルのプレゼントは……なんだ、この紙……設計図を完成させろ?」
つまりラウルの代わりに設計図を仕上げればいいのだろうか?
「仕方ない……」
机に突っ伏すラウルをベットに運び、代わりに設計図を弄る。
既に後は細部を詰めるだけになっている。
リクは20分ほど作業すると部屋を出て行った。


「リリのプレゼントは……また紙か。彼女を膝枕しろ、ね……意味が分からない」
女性の部屋に踏み込むのに若干の罪悪感を感じながらリリのベットに近づく。
リリの部屋は小ざっぱりとした部屋だった。
料理、特に菓子作りをよくやるためか甘い香りもする。
「リリ、リリ?」
「ぅぁ……リク?」
リリは寝ぼけているらしい。
これなら誤魔化す手間が省ける。
「膝枕してやろう」
「うー、ん?ああ、夢か。よし、頼んだ!」
ベットに腰かけたリクの膝にリリの重みを感じる。
(意外と髪が綺麗だな……)
そう思っていると気付いたらリリの髪を撫でていた。
いつもはポニーテールになっている髪が指の隙間を滑る。
膝の上のリリは顔を緩めて幸せそうに眠った。
20分ほどそうした後、リクはそっとリリの頭を元の枕に乗せなおして立ち去った。


シエルの部屋はすごく汚い。
ラウルの部屋より汚かった。
端末用の機械部品のほかに食料品の袋や雑誌などが大量に積まれている。
「ガサツだな……」
袋の中には小さな箱、端末用の追加メモリのようだ。
「欲しい物も女らしくない……」
とりあえずカモフラージュにその箱を雑誌の間に浅く埋めておいた。
これなら見つけても疑問が少なくて済むだろう。


最後にミキの部屋に向かう。

袋からプレゼントを取り出そうとするが袋からは何も出てこない。
「あれ?なんでだ?」
「やぁ、リク君。お疲れじゃったのう」
サンタがミキの部屋の前に立っている。
「ミキのプレゼントが出てこないんだが?」
「大丈夫、これを届ければいい」
サンタが渡してきたのは軽いクリスマス料理とワイン。
「アイツ、酒に弱いんだが?」
「サンタ特製のワインじゃから大丈夫。ほら着替えて」
「あ、ああ……」
上から羽織っているだけのサンタ服を脱いで料理を受け取る。
「では、メリークリスマス。君にも、彼女にも、皆に幸せが訪れますように」
にっこりとほほ笑んで消滅した。
「……もう何があっても驚かない」
そう呟いたリクはミキの部屋をノックした。
部屋のドアが開いてミキが顔を出す。
「リク?こんな時間にどうしたの?」
「いや……ちょっと料理を貰ってな……オレじゃ食いきれないから持ってきた」
苦し紛れないい訳でミキに料理を渡そうとする。
「わ、私と?二人で?」
「あ、ああ……そうなるな」
しかし予想以上にミキは食い付いた。
そのせいで思わず一緒に食べる事を了承してしまった。
「そう……二人で……あ、上がって!」
リクから料理を受け取るとミキは部屋の奥に歩いて行き、リクもそれに続いた。
「しかし、これは手が込んでるわね……誰から貰ったの?」
「あー、なんかぎっくり腰の老人を助けたらお礼に貰った」
「へぇ……でも変な感じ。クリスマスなのに気温は暑いし、暑いのに典型的なクリスマス料理だし」
クスクスとミキは笑う。
つられてリクも笑う。
「乾杯でもするか?」
「私がお酒弱いの知ってる?」
「酔わない酒なんだとよ」
二つのグラスに綺麗な色の赤ワインが注がれる。
「じゃあ、メリークリスマス」
「メリークリスマス」
グラスの澄んだ音にまぎれて、鈴の音と老人の笑い声が聴こえた気がした。


ミキの願いは実は毎年変わらない。
それは大切な人とクリスマスを過ごす事。
つまりそれは去年までは家族と、今年はリクと一緒に、という事だ。
ではリクの願いは?
――それは暗い願いを持つリクの中に純粋に浮かんだ明るい願い。
サンタから渡された絵本にあった様な、暖かいクリスマスを過ごす事だった。
サンタクロースがリクの前に現れたのは、もしかしたらただの偶然ではないのかもしれない。
「願わくば、戦争しか知らない彼に人並みの幸せが訪れますように」
そんな風に願った2人の少女への答えなのかもしれない。




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