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廻るセカイ-Die andere Zukunft- Episode19

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何もかもが翡翠色に包まれたこの"廻るセカイ"で、二本の刀の刀身が白銀に煌く。
茶色の装甲に×字を描くように刻まれた傷跡。シュタムファータァが、最初に食らわせた直撃であった。
一撃当てたところで慢心はしない。すぐさま刀を引き戻し、連撃を食らわせようと再び振り下ろす。
だがヴィオツィーレンもそう甘くはない。すぐさまシュタムファータァ目掛け蹴りを放ち、その勢いと共に距離を離される。

「ッ……!直撃を受けるなんて……!」

ヴィオツィーレンは相変わらず徒手空拳。先ほどまで幾重もの武器を召還していた姿からは到底想像できない姿だった。
恨めしそうに上空に佇む螺旋状の構造物を睨みつけた後、シュタムファータァを真っ正面から見据える。
シュタムファータァに翡翠色の粒子が収束していくように纏わり付いていく。そして、修復されていく白銀の装甲。
先ほどまでに受けた銃痕や傷跡が、徐々にではあるが癒えてきている。勿論、ヴィオツィーレンにはそんな変化などない。

「セカイの抑圧と吸収……道理で武器が出せなくなるはずだわ。さっきまでの空間演算の式では出せない。吸収と抑圧を計算して再演算する必要があるってことね」

おそらく"廻るセカイ"の能力は使用者以外が放出、使用した"セカイ"が段々と使用者に還元されていく力だ。
しかもそれはこの"界侵"内にいる間は常時吸収されている。つまり、武器を出すには"吸収されているセカイの量を計算に入れなければならない"。
吸収されている量も回復している速度も非常に微々たるものだし、そこまで脅威ではないが、厄介……というより面倒な力だ。
ヴィオツィーレンのように空間演算必要な力は全て再計算を求められる。それもその再計算中にも敵は攻撃してくるのだから。

「この戦い、私が勝ちます!」

シュタムファータァが白銀の双刀を構え、ヴィオツィーレンを両断せんと突進してくる。
対するヴィオツィーレンは相変わらず徒手空拳。リーチの差は勿論であるし、刃を拳で受け止められるはずもない。
先ほどまでとは違う、自信に満ちたシュタムファータァの言葉。その自信は"界侵"を発動できたことからも伺える。
諦めたかのように両手を下げるヴィオツィーレン。そのままシュタムファータァの白銀の刃は、容赦なく振り下ろされた。

「私は、間違ってたってことね……」

刃が振り下ろされる瞬間に、小さく、自分にしか聞こえないほどの声の小ささでヴィオツィーレンがそう呟いた。
そして振り下ろされた白銀の刃は、ヴィオツィーレンに届く少し手前で停止していた。見えない何かに、阻まれたかのように。
勿論シュタムファータァが自分で停止したわけではない。ヴィオツィーレンの態勢も先ほどと何ら変わりない。
そう、先ほどと何ら変わりはない。闘志と殺気を秘めたヴィオツィーレンの瞳も気迫も、変わってはいない。

「これはっ……"セカイの障壁"!?」

間違いない、これは極々一部のリーゼンゲシュレヒトのみが使える高等技法"セカイの障壁"。
自分の"セカイ"を前面に盾のように展開する技だが、使用にはとても複雑な空間演算が必要になる。
発動できたとしても、実戦で使えるレベルにまでするには相当な鍛錬が必要なはずだ。
"空間転移"に"セカイの障壁"。これが……ヴィオツィーレンというリーゼンゲシュレヒト……!

「アンタを嬲り殺すことだけを考えてた。あの子たちの苦しみをぶつけるだけを。でも、それはあの子たちにとって失礼だったわね」

ヴィオツィーレンが態勢を低くし、武器を持たずこちらに突進してくる。
徒手空拳。刀を持っている私の方が圧倒的に有利なはずなのに、背筋に寒気が走る。
咄嗟に私は全力で後方に跳躍した。武器があるといえど、懐に潜り込まれたら終わりだ。

「もうアンタを舐めない。遊ぶだなんてことはしない。本気で殺す」

その言語と共に、突進していたはずのヴィオツィーレンの姿が、私の目の前で一瞬にして消失した。
そして私の背後から襲い来る衝撃。それが"空間転移"による瞬間移動だということにすぐに気付く。
今、ヴィオツィーレンは再度使わないと言っていた"空間転移"を発動して攻撃した。
それは即ち、私を言葉通り"本気で殺す"と決めたということ。だが、だからといって、私だって負けるわけにはいかない。

「何で来ようと、私は!私の"廻るセカイ"は!」

刀を構え直しこちらから突進する。ヴィオツィーレンはそのまま徒手空拳でその場に立っている。
おそらくセカイの障壁で防ぐつもりなのだろうが、今度はそれこそ断ち切って見せる。
意識を集中させ、刀の刀身にセカイを込める。本気を出すといってもこうして防ぐ辺り余裕を見せているのだろう。
私はそのまま、障壁ごと両断せんと勢い良く刀を振り下ろし、刀身が透明な壁に当たる。
だが先ほどとは違い、刀身を受けた障壁からガラスにヒビが入るような音が聞こえた。そして、派手な音と共に障壁が砕け散る。
障壁を砕いた一瞬の喜びという名の心の隙。ヴィオツィーレンはそれを見逃すことはなかった。

「一度再演算すればアンタの界侵の力なんて、せいぜい身体に重りを付けられてるのと同じこと」

あまりにも愚かな自分に後悔するよりも早く、姿や気配も確認することなく後方目掛けて刀を振る。
その刀が切ったのは何も存在しない空間、そしてそれと同時に頭部に襲い来る凄まじい衝撃。
地面に為す術も無く勢い良く叩き付けられ、間髪入れず蹴り飛ばされ地面を転がっていく。
ヴィオツィーレンはわかっていたのだ。界侵を発動したことで勝ち誇っていた私が慢心していることを。
序盤の私なら障壁を砕いたときに喜ぶことなど有り得なかっただろう。相手は格の違う相手だ。
界侵を発動し一撃を当てたことですっかり慢心していた私は、瞬間的に手に入れた強さに酔っていたのだ。
だから、その慢心が生んだ喜びと油断につけ込まれる。行動は読まれて当たり前だ。

「くっ……!」

上体を起こし、一度態勢を立て直そうとそのまま後退する。そして、行動してから私は気付いた。
ヴィオツィーレンに、後退など意味がない。このリーゼンゲシュレヒトには、"距離など意味がない"ということを。
蹴り飛ばされ、さらに後退したはずの私のすぐ面前。距離にして1メートルの地点にヴィオツィーレンは立っていた。
これが、ヴィオツィーレンの本気。今まで武器を使っていたときですら私を痛め付けるだけの行為に過ぎなかったということか。
身体を横にし、正面と背後に刀を振り下ろす。だが、空間転移は発動されることはなかった。

「今の私に武器なんて必要ない。でも、手を抜くなんてことはしないわ」

単純な話だ。私の振り下ろす刀を見切って回避しただけ。ただそれだけのこと。
だが、ただそれだけのことで私の無防備な懐にヴィオツィーレンは入り込んでいた。回避など、間に合うはずもない。
鋭い肘打ちが私の腕に直撃し、刀を手からを落としてしまう。連撃は止まらず、頭部を掴まれそのまま顔面に膝蹴りを叩き込まれる。

「そんなっ……!私は……私はぁっ!」

無我夢中でもう片方の手に握られた刀を振り回す。この距離だ、一太刀でも当たることを願って。
だが、狙っても当たらない物が適当に振るわれた所で当たるはずもない。脚部に衝撃が走り、地面に倒れ伏す。
仰向けに倒れた私の上に馬乗りになるヴィオツィーレン。そして両腕の動きを封じられ、身動きができなくなる。
そして、そのまま私に振り下ろされる拳。激痛が走り、思わず叫び声を上げるが状況は変わるはずもない。
一撃で終わるわけもなく、抵抗も出来ない私に拳が叩き込まれていく。何度も何度も。その度に走る激痛。
白銀の装甲が陥没し、剥離し、破壊されていく。いつの間にか、"廻るセカイ"は消失していた。

「アンタには驚かされたわ。まさか、こんなに戦えるなんて思ってなかった。だから……終わりなさい」

馬乗りになっていたヴィオツィーレンが立ち上がり、軽やかに空中へと跳躍する。
この間に逃げよう、そう思ったが腕と足が動かない。いや、身体の中で動く場所が一切ない。
そして、そのまま曲線を描き空中から振り下ろされる、ヴィオツィーレンの回し蹴りが、私の胸部に直撃した。
凄まじい轟音と共に、急激に薄れ行く意識。セカイが、もう尽きはじめているのだ。
いくら私が膨大なセカイの量を持っていたとしても、あれだけの攻撃を受けていれば無くなるのも当然である。

「ヤスっ……ちさ……ん、私……は……っ」

真っ暗になっていく視界の中、手を伸ばそうとする腕も動かせず、その手を取る相手も目の前にはいなく。
最後に見たのは、こちらを冷徹に見下ろすヴィオツィーレンの姿だけだった。



ヴィオツィーレンは、リーゼンゲシュレヒトの姿を解くことなく崖に背を預けていた。
正直今は再召喚している余裕もない。それだけセカイを消耗している状態なのだ。
当然といえば当然の話だ。"抑圧と吸収"をされている状態であれだけ空間転移を乱発すれば、それだけ消費の量も尋常ではなくなる。
さらにセカイの障壁も二度使用している。結果的に勝利こそしたが、ヴィオツィーレンにとっては気持ちの良い勝利ではなかった。
本来ならば圧勝していても良かった相手。それが相手を痛め付けることに拘った結果が今のこれだ。
土壇場で相手が界侵を発現したイレギュラーなど言い訳にならない。これが普通の仕事だったら恥も恥だ。
だが、これは普通の仕事ではない。私の、私の家族の敵討ちだ。あの子たちの想いを晴らすための戦いだったのだ。

 目の前には先ほどまでの白銀の装甲に包まれた巨人の姿は見る影もない、空色の髪の少女が地面に横たわっている。
本来、リーゼンゲシュレヒトの核を破壊されたり、セカイを生存限界以上に消耗すれば粒子のように消えていくものだ。
だがシュタムファータァは人間の姿でそこに横たわっている。つまり、未だリーゼンゲシュレヒトとして死んでいるわけではないということ。
預けていた身体を起こし、横たわっているシュタムファータァの所まで歩いて行く。

「核を破壊し損ねた……でも、身体そのものが壊れてしまえば終わりよね」

いくらリーゼンゲシュレヒトと言えど人の姿であるならば、生命活動を保てない程に損傷すれば簡単に絶命する。
まして人の姿で、数メートルの巨人の一撃を食らって保っていられるリーゼンゲシュレヒトなど存在しない。
銃で吹き飛ばすことも出来る。剣で真っ二つにすることも、槌で押しつぶすことも出来る。
だが、シュタムファータァは。敵であるこのリーゼンゲシュレヒトだけは、自分自身の手で仕留めたかった。

「シロちゃん、クロちゃん……これで、全て」

握る拳に力を込める。この距離だ、外すことは万が一にも有り得はしない。
だが、その拳はシュタムファータァに対して振り下ろされることはなかった。
わざと外したわけでも、当たらなかったわけでも、シュタムファータァが消えたわけでもない。
私の拳はその場から動いていなかった。躊躇したわけではない。本能的に拳が止まったのだ。
何故ならば、振り下ろす瞬間、私のすぐ傍に弾丸が着弾したのだ。それも"セカイ"による弾丸が。

「終わりじゃないよ、ヴィオ姉!」

静かな海に響き渡るように澄み切った声が聞こえ、私はその言語の方を見上げる。
そこには、拳銃を構えた黒いリーゼンゲシュレヒトが立っていた。何故ここまで近付かれるまで気付かなかったのか。
だがそんなことは私の頭の中にはなかった。シュタムファータァのことすら今の私には考えられなかった。
耳のように長く延びた頭部の二本のバイザー。黒くリペイントされたGLOCK34。
そこに立っていたリーゼンゲシュレヒトは、間違いなく私の妹である、シュヴァルツそのものだった。

「クロちゃん!? な、え……?そんなっ!」

信じられない。目の前にある現実が。自分の生み出した都合の良い幻と言われた方が信じてしまうかもしれない。
だが、何度目を凝らしても目の前の最愛の妹の姿は、そのまま消えることなく私の前に在った。

「ヴィオ姉、私は生きてる。目の前にちゃんといる!セカイを感じれば嘘でも偽物でもないって、わかるでしょっ……」

それは、言われずともわかってる。ただ私がそれを信じられなかっただけ。
このセカイも、目の前の存在も、声も。全てが私の知るシュヴァルツと何一つ変わっているところはない。
何が何だかさっぱり私にはわからないが、死んでいたと思っていた彼女が今生きているのは確かなことだ。

「……うん。この温かいセカイは、間違いなく私の知ってるクロちゃん。でもじゃあ、何で、クロちゃんは私に銃を向けてるの……?」

そう、彼女が。私に対して銃を向けている。人を殺すため、物を破壊するための武器を私に対して構えている。
今まで喧嘩はしたことはあった。だが、当たり前のことに銃や刃物を向けられたことなんて一度もない。
だから余計に私は混乱している。彼女が何で、生きていたのに、私に銃を向けているのか。

「シュタムファータァから拳を引いてヴィオ姉。私だって、ヴィオ姉に銃口なんて向けたくない。でも今は、私がこうするしか思い付かないのっ!」

そう言われ、私が未だに拳を掲げていたままだということに気付く。
私の下で眼を瞑り動かない少女、先ほどまで戦っていたリーゼンゲシュレヒト、シュタムファータァ。
二人の―――仇と言われ、私は殺す任務を自ら請け負ったのだ。だから。

「でも、こいつはクロちゃんたちを……!」

こいつはヴァイスとシュヴァルツを殺……し、た……?いや、私はそう聞いて……。
書類もあった。正式な手続きもあった。それに、それに……私は任務を……。
何が何だかわからない。シュタムファータァは、彼女たちを殺したのではないのか?
もしそうでないのなら、何故そんなことをわざわざ?いや、それこそ本当に―――

「私は、目の前にいるっ!」

「っ……!」

一喝され、思わず身体が反応してしまう。シュヴァルツの怒鳴った声なんて、久々に聞いた。
彼女にとっては、それほど必死になってまで私に訴えかけたいことなのだろう。

「ねぇ、ヴィオ姉。話をしよう? これじゃあ、悪い方に向かうだけだよ。私だって……辛いよ」

「……クロちゃん。生きててすごく嬉しい。状況がよくわからないけど、二人がいてくれるならそれでいいの」

シュヴァルツがこちらに向けていた銃を下げる。向けられていた殺気も同時に無くなっていった。
辛い想いをしているのだろう。私も辛い。何故私たちがこうして銃を向けあわなければならないのか。
……そう、私は。こんな状況を、こんな状況になった原因を、断たなければならないのだから……!

「でも、これはどっちにしろ仕事なの。私は、二人と一緒にいるためには、こいつを殺さなきゃいけないっ!」

私はシュタムファータァ目掛けて再び拳を振り上げる。シュヴァルツが声を上げる。
そうして振り下ろされた拳。だが、それは、再度シュタムファータァに届くことはなかった。
拳の前を通り過ぎていった銃弾。海面に銃弾が直撃し、水しぶきが上がる。

「止まってください、お姉様っ!」

背後から聴こえる声。感じるセカイ、気配と存在。
シュヴァルツと同じ、私がとても愛した家族の一人。

「シロちゃん!?」
「シロっ!」

純白の装甲に機体色と同じカラーの狙撃銃を構えたリーゼンゲシュレヒトが崖の上に立っていた。
リーゼンゲシュレヒト・ヴァイス。シュヴァルツの姉にして、私の妹。大事な家族。
そしてシュヴァルツと同じように、銃口はこちらに向けられたままだった。

「シロちゃん……。クロちゃんがいてくれたからそうだと思ってたけど、良かった。生きてて……」

「私も嬉しいです。……ですが、お姉様は少し錯乱してます。いつものお姉様なら、今の状況から何かがおかしいってこ
とに気付いてるはずですっ!」

私が、錯乱している……?そんな、そんなことはない。
だって、私は任務を忠実に果たそうとしているだけなのだ。それが錯乱しているだなんて……。
私が考えている間にも、ヴァイスの必死な叫びは続く。

「大体の事情は知ってます。革命派のデータベースでは私とクロは戦死扱いになってることも、それが理由でヴィオ姉がここに来たことも!シュタムファータァが、私たちを殺したということになってることもっ!」

「そう!だから私は……!」

二人を殺した、シュタムファータァを殺そうと。それが私の任務なんだから―――!
そんな私の声を遮るように、ヴァイスはありったけの思いを込め叫んだ。

「ここまで聞いてなんでわからないんですかお姉様っ!私たちを殺したのはシュタムファータァじゃない、革命派です! お姉様は、騙されただけですっ!」

「私が……騙されてた……?」

「シュタムファータァたちは、敵だった私たちを助けてくれて、革命派に帰れなくなった私たちに手を差し伸べてくれたっ……!だから、私とクロは今、彼女を助けたいし、他ならぬヴィオ姉に命の恩人を殺して欲しくないですっ!」

ヴァイスの叫びで、私の中の全てが崩れていく。
もう駄目だ。言い訳なんて出来ない。ここまで言われたら、自分の中で否定し続けることなんて出来はしない。
―――私は、間違っていた。騙されていたのだ。

「……ぁ……あ……」

「ヴィオ姉!」

「お姉様!」

二人の私を呼ぶ声。シュタムファータァに向けていた拳は、いつの間にか力が抜け、地面を向いていた。
もう戦う意志などない。私はリーゼ化を解き、今までの鬱憤を全て晴らすかのように叫ぶ。

「っ!あああああもう何が何だかっ!エーヴィヒカイト!どうせアンタも生きてて近くにいんでしょ!?1から10まで全部説明しなさいよッ!」





ヴィオツィーレンの叫び声が聴こえる。悲痛な叫び声ではなく、どこか吹っ切れたような声。
それを聴いて思わず安堵の溜め息を吐く。その姿を見て、隣りに立っていたイェーガーは軽く笑いながら口を開いた。

「な?オレの言う通り、なんとかなったろうが」

「オレたちは行くなってお前が言ったときは不安で仕方なかったけど……結果的に上手く収まったみたいでマジで良かったぜ……」

ここは三人のリーゼンゲシュレヒトが舌戦を繰り広げていた浜辺から少し離れた道路。
あの後、イェーガーの車で揺籃に到着したオレたちはすぐヴィオツィーレンの所に駆け付けようとした。
だが、ヴァイスに続いて向かおうとしたオレの肩をイェーガーが掴み、彼女一人で行かせろ、と言ったのだった。
オレは納得いかなかったが、イェーガーの手を振り払えるほどオレは強くない。言葉に従わざるを得なかったのだ。

「まだまだお前は餓鬼だなぁ。あーいうのはな、姉妹水入らずで話させた方が絶対上手くいくんだよ。家族の喧嘩に、他人が首突っ込むもんじゃねぇってこった」

「……今回は言い返さねぇよ」

―――姉妹水入らず、か。家族の言葉ってのは、どうやらどんな武器よりも強力らしい。
必死に訴えた言葉は相手の心の深くに入り込み、固まった心や概念を打ち砕く。
そしてそれは、オレがその場に居たら上手くいかなかったかもしれない。
総合戦闘能力最強と謳われたリーゼンゲシュレヒトでも、家族の涙と叫びには勝てなかったということだった。
……一つ癪なのが、それを敵であるイェーガーに諭されたということだが。

「じゃあオレは行くけど、お前はどうするんだよ、イェーガー」

オレもここでボーッとしているワケにはいかない。決着したのなら待っている意味などないのだから。
死んでいないとはいえシュタムファータァのことも心配ではある。
それに、あの目覚めたらしい新しい力の話も聞かなければならない。

「着いていくわきゃねぇだろ。オレはお前たちの敵だぜ。今回助けたのもシュタムファータァがお前なしで負けんのが気にくわなかっただけだしな」

ま、そう答えるとは思っていた。オレたちはアイツの狩りの獲物だ。
シュタムファータァだけではなく、獲物にはオレも含まれている。というより、セット扱いなのだ。
そのセットが揃ってない状態の獲物を勝手に取られるのがこいつには我慢ならなかっただけだろう。
まぁ、それにしても肩入れしすぎだろうとは思ってしまうが。

「わかった。……でも帰んのは待ってくれよ。オレも帰らなくちゃいけねぇし」

「港の駐車場で日没まで待ってやる。過ぎたら勝手に帰るからな」

「ああ、助かる」

そしてイェーガーは車に乗り、オレは浜辺に向かって走りだした。


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