DSワールド
『海賊は海賊か?』
―――海賊。
惑星改造期(開拓期)で各地を荒らしまわった武装集団。政府が惑星改造に手いっぱいなのをいいことに、惑星改造船を強奪し、己の欲望の赴くままに悪事を働いた者達。
一般での認識はそうであろう。
現代に蘇った海賊として創作家の想像力を掻き立て、映画まで制作された。小説やゲームなどでも魅力的な素材として扱われている。
浪漫というスパイスを多量に含んだ事実だからであろうか。
一方で、海賊という烙印の陰に存在した、彼らの真実はあまり語られない。
彼らは一枚岩ではない。金銭目当ての者だけではない。
ネオアースに埋葬された神秘を解き明かそうとしたものもいれば――無政府主義者、分離主義者、過激思想家も存在したのである。
宗教問題も絡んでくる。新しい星がいかに宗教的な蠱惑を有するかは、語るまでもなかろう。
彼らを称する単語として、海賊は不適当である。適当なのは何か。それはテロリストである。
政府がそれらを一纏めに“海賊”としたのには理由があるという。
解答は単純明快―――人類を分裂させるわけにはいかなかったらであろう。
ただでさえ人類は惑星改造期で大勢の死人を出しているのである。
分離して争えば作業は遅延し、氷の惑星で壊死を待つばかりになってしまう。地球を失い、第二の地球までも失うことは許されなかった。
ならば彼らを一枚岩としてひとくくりにして、一致団結しなくてはならない。
政府の思惑は成功した。
海賊はやがてその数を減らしていき、惑星改造が成功した現代では小銃片手に輸送船の襲撃を繰り返すちんけな存在に成り果てた。
では―――……彼ら“海賊”の言い分はなんだったのだろうか。
最大の海賊と称され、のちに自ら政府軍に協力体制をとり、なおかつ戦力に組み込まれることを良しとした裏切り者『テンニーン騎士団』の頭領は自伝に書き残している。
―――政府を打倒するには私のやり方は賢いように思えた。
―――しかし、我々は急ぎ過ぎた。
―――本当にこの方法が正当なのか、私には分からなくなったのだ。
―――仲間割れで人類が自滅するのは良く聞く話だが、我々の行為はまさにそれではないのか?
これは、開拓期初期の氷の世界で死闘を繰り広げた兵士達の一ページである。
第二地球歴22年 ■月■日 ■■領域
衛星軌道上――。
移民船団のそれらと比較してスマートを極めたような船が重力を無視して惑星に接近していた。
極端に接近したり速度を失うと重力に引かれて落ちてしまうはずであるというのに、その船は限界を越えて接近し、速度を逆噴射によって殺したのにも関わらず落下しなかった。
これは、抗重力機関と呼ばれる重力子の働きを阻害する機構によってもたらされたものである。
本来、星の重力から脱出するにはぐるぐると渦巻くようにして速度を稼がなくてはいけないのを、最短距離である一直線で離脱することすら可能とする、超科学の産物である。
ただし重力と言う頸木から解放されると、今度は慣性の法則に従って外宇宙に飛び出してしまうので、機関出力を緩め、スラスターの噴射と併用して低軌道に居座る。あとは機関の作動に任せればよい。
その船は宇宙船にありがちなゴテゴテとした装備を一切排除した、弾丸そのものの形状をしていた。
スラスターに限って露出させてあったが、その他の部位は鏡面のように艶やかで、凹凸がない。窓も無い。そして全てが科学の守りによって覆われていた。
第二地球政府軍標準装備のパルスレーザーや、ミサイル装備ですら、ステルス性を考慮してハッチの中に収納されていた。
申し訳ない程度に記された第二地球政府軍の文字がその船の所属を伝えるだろうか。
その船の名前をシュライク(百舌鳥)と言った。
彼女は、今まさに戦闘準備に移っていたのだった。
――艦内。
生粋の船生まれの船育ちのその男性―――ジョナサンは、艦外カメラからの映像をじっくりと見つめていた。
アジア系の顔立ちであるが、肌が白く、赤みある髪の毛と相成って、出身地が分かりにくい。それもそのはず。彼は混血なのだから。
白と青の惑星。資料で見る地球のそれとはまるで違う姿。温暖化ガスや炭素材の散布や太陽光の鏡面誘導や造海流作業や熱爆弾投下でもなかなか気温の上がらない冷蔵庫。これでも、温度は上がっているのだ。移植当初の殺人的極寒と比べればの話であるが。
人類の希望。移住先。新天地。どれも耳触りのいい言葉に聞こえるが、氷と水だけの地の球に過ぎない。現段階では。
惑星改造という途方もない作業は大勢の死人を出し続けている。にも関わらず海賊と呼ばれる阿呆共は妨害するのである。
挙句、作業に必要な船まで強奪するなどやりたい放題。
環境に適応するために遺伝子まで弄らざるを得ないまで死人が出ているというのに、海賊のやることと言ったら過激なことばかり。
主義主張など関係無かった。
今の彼にすべきことは、大気圏の向こうで悠々と船に踏ん反り返っている粗大ゴミを処理して、奪い返すことだ。
外部映像を切り替えてブリーフィングを呼び出す。機械的に再生されるそれを何度も頭に叩き込む。作戦は簡単だ。
大気圏に飛び込んで上空から船に強襲をかけるのだ。
まず船で接近して最適な位置をとり、次に突入殻で大気圏に突入し、分離した後は船に襲い掛かる。以上である。
本来であれば船で大気圏に突入して攻撃を仕掛けるべきなのであるが、惑星改造船クラスの船舶を撃沈してしまうのは許可できない。
ならば奪還するしかなく、船のように小回りが利かないのはただの的になりかねない。戦闘機も同様である。奪還には向かない。
そこで今回の作戦に投入されることになったのが、彼の着込んでいるメカニカルスーツである。
原型を船外活動用の宇宙服に端を発するそれは、地上における作業をスムースに遂行する為に改良がくわえられたものを戦闘用に転用したものである。
全高3m。間接操縦ではなく、本人の肢体を機械が包み込む方式。動力は電池。装備は人間用のものを採用してある他、装備を自在に変更できる。
後にこのスーツはロボット重機の基礎となり、外殻機になり、潜水機となるが別のお話。
いよいよ作戦開始時間が近づいてきた。
船がくるりと一回転して、突入殻の切り離しに最適な姿勢をとった。化学スラスターと電気スラスターの光が瞬く。音は無い。真空という海に音は存在しえない。
彼と隊員らを乗せた突入殻が射出シークエンスに移った。
先方をきったのは三発のミサイルであった。
ミサイルはハッチが開くや電磁推進で宇宙に投げ込まれた。独楽のように回転しつつ突入角度を見定めると、後尾から青炎を噴射して大気の井戸に突っ込んでいった。
海賊たちに対抗する余地はない。惑星改造船を弄り倒したところで所詮は素人集団の改造したゲテモノ。秒速5kmを越える高速移動体を迎撃するだけの装備は無い。
ミサイルの周囲の空気がプラズマ状態となり明るく輝いて隕石と化す。そして電子機器の正確無比な誘導により、空中に浮かんだ惑星改造船を取り囲むようにして落下した。
次の瞬間、弾頭が船と同高度で炸裂した。
強大な電磁波が三方向から発生し、不可視の津波となりて襲い掛からん。
武装の誘導用レーダーを管制するコンピューターが機能不全に落ち込む。防衛用のドロイドが動かなくなった。
望遠カメラも機器の不調で動作不良に陥った。海賊達は混乱し、船中で走りまわる。
惑星改造船だけあって主機能は保たれているが、後付の装備の大半が死んだ。
―――EMP弾頭。
膨大な電磁パルスを発生させる兵器であり、治安維持用として開発された非殺傷兵器である。欠点は核弾頭並みにコストがかかることである。
物資不足が問題化する開拓期においては量産できる代物ではない。別の手段が必要となるであろう。
次は彼らの仕事だ。ミサイル発射から数秒後には船から殻が離れていた。回転はスラスターで制御され、正しい突入角度をとる。重力が体を抱く。体液が下という概念に身を引かれ始めた。
彼は無線に声を張り上げた。
そして己のシートベルトが緩んでいないことを祈った。
『各機、ケツの穴に力を入れろ!』
第二地球政府軍の名目上の中隊は(数が小隊規模)、大気の積載へと飛び込んでいった。
彼は続いて叫んだ。
『ホーク中隊エントリィィー!!』
突入殻が火に包まれた。
鷲は舞い降りたのだ。
EMPの先制攻撃から立ち直った海賊たちは、己の船から発信した航空機を呼び戻そうと躍起になっていた。
つい数時間前に襲撃に向かわせた最中に攻撃を受けて、機動性を失ったも同然だったのだ。
しかし、思わぬ反撃を受けて航空機隊が苦戦しており、帰還には時間がかかると判明するや、行動は早かった。
各員が武器を手にして、上空から来るであろう敵を迎え撃とうとする。機銃を手動で稼働させて狙いをつける者もいた。
殺気漂う中、それはやってきた。
『パージ!』
上空でパラシュートが開き減速すれば、殻が爆砕ボルトによって二つに分離して、中身を吐き出す。ジェット機構を背中と腹に抱えたメカニカルスーツ中隊が上空から惑星改造船に向かって舞い降りた。
惑星改造船はまるで小島のように見えた。大きく、広く、無骨で、海賊たちに改造されてもなお異様な存在感は失われていなかった。
姿勢制御兼放熱用の翼は弄られてすらいなかった。
着陸予定地点を機械が教えてくれた。誘導マーカーに従いジェットを偏向する。
機体も隠れるほどの噴煙を伴い、複合素材のスーツが速度を落としつつ、ランダムにふらついて敵の射線を躱す。
中隊は、海賊より海賊的に襲撃に成功したのだった。
一斉に火器が火を噴き、寒空からやってきた中隊を迎える。
熱烈なキッスに一機が食われ空中で制御を失うとあらぬ方向に流れていくが、他の機は無事に『着艦』した。
機銃が吠えて海賊達を薙ぎ払う。警告などしない。
海賊たちの武器は対人用であり、スーツの装甲を貫通するに至らないが、中にはロケット砲を担いで者までおり、船に複数積まれているコンテナに隠れながら射撃を浴びせかけてくる。
安価な武器が高価な兵器を破壊できないというのは、都合の良い幻想である。
ロケット砲に耐えるだけの装甲をスーツは実現できていない。
ジョナサンは味方に的確に指示を出しながら、航空機用のハッチから内部に潜入するべく射撃を継続した。銃身が過熱してくると、地面に落ちている金属などを投げつける。スーツの投擲の威力は常軌を逸している。少なくとも二人を昏睡させた。
仲間が出入り口を封じたのを合図に、彼らは一斉に航空用ハッチに取り付いて操作せんとした。
『駄目だ、こいつは言うことを聞きませんですぜ』
操作盤を弄っていた中東風の中年男が首を振って合図した。彼は高い工作技術を持っている。仲間たちはコンテナを壁替わりに配置して、敵の接近に警戒している。
ジョナサンは仕方がなさそうに機体の手を振ると、男に指示した。
『花火と洒落込むぞ。汚い花火だ』
男は爆薬を仕掛けた。操作を受け付けないのであればこじ開けるほかにない。
人間用の出入り口は狭すぎて、攻撃を避ける隙間すらないので、航空機用ハッチを使う手はずになっていたのである。
プラスチック爆薬をぺたぺた楽しく張り付けて離れる。重い衝撃と炸裂がハッチを吹き飛ばす。
各員はハッチの残骸を取り除くと、海賊から奪った分も合わせて手りゅう弾を大量に投げ込んだ。
数秒後、ハッチから衝撃が噴出した。
『突入!』
ジョナサンは機銃を連射しつつジェット機構とスーツの脚力を併用した下降に移った。後から各員が続く。
ハッチの下で待ち受けていた老人を機銃で蜂の巣にしてやり、スーツで踏みつぶす。嫌な感触。肉から骨が突き出た。
見遣ることもなく射撃を続行して、まさか来るとは思っていなかったという顔の海賊2人を殺害する。
スーツを操作してセンサー感度を引き上げれば、おもむろに格納庫にあった小型航空機のエレベーター操作盤を拳で叩き壊す。
航空機は壊さない。もったいないから。
各員は扉を天井ごと破壊しながら侵攻する。
机で作られた即席のバリケードなど機銃で貫通して向こう側の海賊をも殺す。
攻撃は迅速に実行された。時に室内で禁止されていたジェット推進すら行って。
惑星改造船は巨大で全長数kmに及ぶことすらある。彼らの部隊は少人数であったために完全なる制圧は不可能である。
そこで動力中枢と船のコントロールの奪還を目指すのだ。
彼らは二手に分かれ、ジョナサン率いるチームは船のメインコンピューターに接続できるエリアへと急行した。元より船は政府の管轄下であり、制御を取り戻すのは、政府側の彼らにとって難しいことではない。
「政府の犬め!」
『犬は犬でも死神犬だってことだ……床を味わえ』
金切り声を上げて無謀にも通路のど真ん中で自動小銃を乱射する男に、すいと機銃を上げて点射した。
よろめいて床に頭を叩きつける。血が流れ、広がっていく。
床は血の味になった。
ジョナサンは機銃の弾数を確認しつつやりきれない気分を隠せないでいた。
開拓で人類が大変な時に殺し合いしている場合ではなかろう。子供だって分かる。砂場で城を作ろうと頑張っているのに、喧嘩が始まったら完成するものもしないのだと。
海賊の血気溢れるパワーを開拓に注ぐことができたら、それだけの人命が無駄に損なわれないで済むのか。
軍人としての仕事はやるが、これ以上未亡人を増やしたくないとも思っていた。
好き好んで殺して殺されて理想の社会が作れるものか―――ジョナサンはいつも思うのだ。
だが、鉛弾に対して言葉では温すぎる。暴力に勝る力は所詮暴力でしかないのだから。
ジョナサンはさらに進もうとして、正面からの鉄の嵐に通路の曲がり角に釘付けにされた。仲間が後ろに付き、射撃の切れ間を狙って機銃を撃ち放つ。一人を倒したが、次の者が銃座についてしまう。
絶え間ない弾幕を形成する武器が狭い通路で猛威を振るっているのだ。
壁を弾丸が削り、粉塵が立つ。
ジョナサンはスーツが壁から出ないように気を配りつつ、機銃の冷却を待っていた。傍らのスーツに語りかける。
『―――ち。正面、ヘヴィーマシンガンだ。突破できるか』
『無理ですね。口径は20mm。関節部やセンサー部の耐えられる威力をこえています』
『そうか。俺がこの場を保持する。天井を抜け』
『ラジャー』
短く指示をすると、ジョナサンの背後についていた男二人がすっと場を離れた。
ジョナサンは機関銃の切れ間に向かって機銃を撃ち、隠れた。弾が通路の壁を削っていく。
室内で運用するには強力過ぎるそれが弾痕を量産していった。
『リフォームが必要だな』
『がっしゃんがっしゃん撃ってからに分別を知らんようで。仕置きが必要ですな』
『同感だ』
ジョナサンともう一人の隊員は、徐々に集まってきた海賊連中の激しい銃火に立ち向かわなければならなかった。
多くは小銃であり、装甲を貫通できなかったが、ロケット砲や対物小銃が混じりだすと、さすがにどうにもならず、虎の子のレーザーガンまで使用する羽目になった。
海賊の多くが薄着(防弾着ではないという意味で)であり、レーザーは容易く彼の皮膚を貫通した。
問題は電力と銃身がもたないことである。
機銃弾も乏しくなり始め、ジョナサンは後退も視野に入れた。
『まだか!』
『遅くなりました!』
ジョナサンが無線にどなった直度、ヘヴィーマシンガンの真上の天井が崩れ、複数のスーツが天使のように降臨した。
馬力を活かして床を抜いたのだ。
たまらず銃座は制圧され、残った海賊達が至近距離から銃撃を浴びせるが、スーツが倒れるよりも先に鉄板をも曲げる腕力が炸裂した。
制圧。骨が折れた。二重の意味で。
『さて――諸君。これより我々の時間だ』
ジョナサンが無線からの報告を聞き、隊の紳士らに宣言した。
次の瞬間、船の照明が切れた。電力の掌握に成功したのだ。スーツが自動で暗視装置を準備した。緑かかった映像が視界を覆う。
空調も停止して、船は放っておけば冷蔵庫同然となる。酸素も不足するであろう。海賊たちは降参せざるを得なくなる。
そういうことだ。例えメインコンピューターが彼らの手中にあっても、物理的な破断はどうしようもなかろう。
あとはメインコンピューターを落とせば、船は落ちたも同然である。
仕上げに船ごと政府軍の元に運んでやればよい。船は都合の良い檻というわけである。
『ちゃっちゃと終わらすぞ』
ジョナサンはさっそく一歩を踏み出した。
かくして惑星改造船の奪還作戦は成功に終わったが、コストがかかり過ぎることが指摘された。宇宙船の移動、ミサイル、突入殻の準備、人員の配置などである。スーツの運用費用もばかにならない。通常の作戦と比較して、べらぼうな値段がかかった。
作戦で死亡したのは一人であった。
彼は不幸にも降下時に射撃を受けてしまい姿勢を崩して船に叩きつけられた。意識不明になったところ集中砲火を浴びて船から転落。
海に落ちた。死亡は明らかだった。
戦果が完全ではなかったことも批判の対象となった。
惑星改造船の攻略にはより安価な航空機による強襲降下が適切であると報告された。
スーツは歴史の波に埋もれて採用されることは無かった。
だが、戦った彼らの記録は今でも閲覧することができる。
【終】
『海賊は海賊か?』
―――海賊。
惑星改造期(開拓期)で各地を荒らしまわった武装集団。政府が惑星改造に手いっぱいなのをいいことに、惑星改造船を強奪し、己の欲望の赴くままに悪事を働いた者達。
一般での認識はそうであろう。
現代に蘇った海賊として創作家の想像力を掻き立て、映画まで制作された。小説やゲームなどでも魅力的な素材として扱われている。
浪漫というスパイスを多量に含んだ事実だからであろうか。
一方で、海賊という烙印の陰に存在した、彼らの真実はあまり語られない。
彼らは一枚岩ではない。金銭目当ての者だけではない。
ネオアースに埋葬された神秘を解き明かそうとしたものもいれば――無政府主義者、分離主義者、過激思想家も存在したのである。
宗教問題も絡んでくる。新しい星がいかに宗教的な蠱惑を有するかは、語るまでもなかろう。
彼らを称する単語として、海賊は不適当である。適当なのは何か。それはテロリストである。
政府がそれらを一纏めに“海賊”としたのには理由があるという。
解答は単純明快―――人類を分裂させるわけにはいかなかったらであろう。
ただでさえ人類は惑星改造期で大勢の死人を出しているのである。
分離して争えば作業は遅延し、氷の惑星で壊死を待つばかりになってしまう。地球を失い、第二の地球までも失うことは許されなかった。
ならば彼らを一枚岩としてひとくくりにして、一致団結しなくてはならない。
政府の思惑は成功した。
海賊はやがてその数を減らしていき、惑星改造が成功した現代では小銃片手に輸送船の襲撃を繰り返すちんけな存在に成り果てた。
では―――……彼ら“海賊”の言い分はなんだったのだろうか。
最大の海賊と称され、のちに自ら政府軍に協力体制をとり、なおかつ戦力に組み込まれることを良しとした裏切り者『テンニーン騎士団』の頭領は自伝に書き残している。
―――政府を打倒するには私のやり方は賢いように思えた。
―――しかし、我々は急ぎ過ぎた。
―――本当にこの方法が正当なのか、私には分からなくなったのだ。
―――仲間割れで人類が自滅するのは良く聞く話だが、我々の行為はまさにそれではないのか?
これは、開拓期初期の氷の世界で死闘を繰り広げた兵士達の一ページである。
第二地球歴22年 ■月■日 ■■領域
衛星軌道上――。
移民船団のそれらと比較してスマートを極めたような船が重力を無視して惑星に接近していた。
極端に接近したり速度を失うと重力に引かれて落ちてしまうはずであるというのに、その船は限界を越えて接近し、速度を逆噴射によって殺したのにも関わらず落下しなかった。
これは、抗重力機関と呼ばれる重力子の働きを阻害する機構によってもたらされたものである。
本来、星の重力から脱出するにはぐるぐると渦巻くようにして速度を稼がなくてはいけないのを、最短距離である一直線で離脱することすら可能とする、超科学の産物である。
ただし重力と言う頸木から解放されると、今度は慣性の法則に従って外宇宙に飛び出してしまうので、機関出力を緩め、スラスターの噴射と併用して低軌道に居座る。あとは機関の作動に任せればよい。
その船は宇宙船にありがちなゴテゴテとした装備を一切排除した、弾丸そのものの形状をしていた。
スラスターに限って露出させてあったが、その他の部位は鏡面のように艶やかで、凹凸がない。窓も無い。そして全てが科学の守りによって覆われていた。
第二地球政府軍標準装備のパルスレーザーや、ミサイル装備ですら、ステルス性を考慮してハッチの中に収納されていた。
申し訳ない程度に記された第二地球政府軍の文字がその船の所属を伝えるだろうか。
その船の名前をシュライク(百舌鳥)と言った。
彼女は、今まさに戦闘準備に移っていたのだった。
――艦内。
生粋の船生まれの船育ちのその男性―――ジョナサンは、艦外カメラからの映像をじっくりと見つめていた。
アジア系の顔立ちであるが、肌が白く、赤みある髪の毛と相成って、出身地が分かりにくい。それもそのはず。彼は混血なのだから。
白と青の惑星。資料で見る地球のそれとはまるで違う姿。温暖化ガスや炭素材の散布や太陽光の鏡面誘導や造海流作業や熱爆弾投下でもなかなか気温の上がらない冷蔵庫。これでも、温度は上がっているのだ。移植当初の殺人的極寒と比べればの話であるが。
人類の希望。移住先。新天地。どれも耳触りのいい言葉に聞こえるが、氷と水だけの地の球に過ぎない。現段階では。
惑星改造という途方もない作業は大勢の死人を出し続けている。にも関わらず海賊と呼ばれる阿呆共は妨害するのである。
挙句、作業に必要な船まで強奪するなどやりたい放題。
環境に適応するために遺伝子まで弄らざるを得ないまで死人が出ているというのに、海賊のやることと言ったら過激なことばかり。
主義主張など関係無かった。
今の彼にすべきことは、大気圏の向こうで悠々と船に踏ん反り返っている粗大ゴミを処理して、奪い返すことだ。
外部映像を切り替えてブリーフィングを呼び出す。機械的に再生されるそれを何度も頭に叩き込む。作戦は簡単だ。
大気圏に飛び込んで上空から船に強襲をかけるのだ。
まず船で接近して最適な位置をとり、次に突入殻で大気圏に突入し、分離した後は船に襲い掛かる。以上である。
本来であれば船で大気圏に突入して攻撃を仕掛けるべきなのであるが、惑星改造船クラスの船舶を撃沈してしまうのは許可できない。
ならば奪還するしかなく、船のように小回りが利かないのはただの的になりかねない。戦闘機も同様である。奪還には向かない。
そこで今回の作戦に投入されることになったのが、彼の着込んでいるメカニカルスーツである。
原型を船外活動用の宇宙服に端を発するそれは、地上における作業をスムースに遂行する為に改良がくわえられたものを戦闘用に転用したものである。
全高3m。間接操縦ではなく、本人の肢体を機械が包み込む方式。動力は電池。装備は人間用のものを採用してある他、装備を自在に変更できる。
後にこのスーツはロボット重機の基礎となり、外殻機になり、潜水機となるが別のお話。
いよいよ作戦開始時間が近づいてきた。
船がくるりと一回転して、突入殻の切り離しに最適な姿勢をとった。化学スラスターと電気スラスターの光が瞬く。音は無い。真空という海に音は存在しえない。
彼と隊員らを乗せた突入殻が射出シークエンスに移った。
先方をきったのは三発のミサイルであった。
ミサイルはハッチが開くや電磁推進で宇宙に投げ込まれた。独楽のように回転しつつ突入角度を見定めると、後尾から青炎を噴射して大気の井戸に突っ込んでいった。
海賊たちに対抗する余地はない。惑星改造船を弄り倒したところで所詮は素人集団の改造したゲテモノ。秒速5kmを越える高速移動体を迎撃するだけの装備は無い。
ミサイルの周囲の空気がプラズマ状態となり明るく輝いて隕石と化す。そして電子機器の正確無比な誘導により、空中に浮かんだ惑星改造船を取り囲むようにして落下した。
次の瞬間、弾頭が船と同高度で炸裂した。
強大な電磁波が三方向から発生し、不可視の津波となりて襲い掛からん。
武装の誘導用レーダーを管制するコンピューターが機能不全に落ち込む。防衛用のドロイドが動かなくなった。
望遠カメラも機器の不調で動作不良に陥った。海賊達は混乱し、船中で走りまわる。
惑星改造船だけあって主機能は保たれているが、後付の装備の大半が死んだ。
―――EMP弾頭。
膨大な電磁パルスを発生させる兵器であり、治安維持用として開発された非殺傷兵器である。欠点は核弾頭並みにコストがかかることである。
物資不足が問題化する開拓期においては量産できる代物ではない。別の手段が必要となるであろう。
次は彼らの仕事だ。ミサイル発射から数秒後には船から殻が離れていた。回転はスラスターで制御され、正しい突入角度をとる。重力が体を抱く。体液が下という概念に身を引かれ始めた。
彼は無線に声を張り上げた。
そして己のシートベルトが緩んでいないことを祈った。
『各機、ケツの穴に力を入れろ!』
第二地球政府軍の名目上の中隊は(数が小隊規模)、大気の積載へと飛び込んでいった。
彼は続いて叫んだ。
『ホーク中隊エントリィィー!!』
突入殻が火に包まれた。
鷲は舞い降りたのだ。
EMPの先制攻撃から立ち直った海賊たちは、己の船から発信した航空機を呼び戻そうと躍起になっていた。
つい数時間前に襲撃に向かわせた最中に攻撃を受けて、機動性を失ったも同然だったのだ。
しかし、思わぬ反撃を受けて航空機隊が苦戦しており、帰還には時間がかかると判明するや、行動は早かった。
各員が武器を手にして、上空から来るであろう敵を迎え撃とうとする。機銃を手動で稼働させて狙いをつける者もいた。
殺気漂う中、それはやってきた。
『パージ!』
上空でパラシュートが開き減速すれば、殻が爆砕ボルトによって二つに分離して、中身を吐き出す。ジェット機構を背中と腹に抱えたメカニカルスーツ中隊が上空から惑星改造船に向かって舞い降りた。
惑星改造船はまるで小島のように見えた。大きく、広く、無骨で、海賊たちに改造されてもなお異様な存在感は失われていなかった。
姿勢制御兼放熱用の翼は弄られてすらいなかった。
着陸予定地点を機械が教えてくれた。誘導マーカーに従いジェットを偏向する。
機体も隠れるほどの噴煙を伴い、複合素材のスーツが速度を落としつつ、ランダムにふらついて敵の射線を躱す。
中隊は、海賊より海賊的に襲撃に成功したのだった。
一斉に火器が火を噴き、寒空からやってきた中隊を迎える。
熱烈なキッスに一機が食われ空中で制御を失うとあらぬ方向に流れていくが、他の機は無事に『着艦』した。
機銃が吠えて海賊達を薙ぎ払う。警告などしない。
海賊たちの武器は対人用であり、スーツの装甲を貫通するに至らないが、中にはロケット砲を担いで者までおり、船に複数積まれているコンテナに隠れながら射撃を浴びせかけてくる。
安価な武器が高価な兵器を破壊できないというのは、都合の良い幻想である。
ロケット砲に耐えるだけの装甲をスーツは実現できていない。
ジョナサンは味方に的確に指示を出しながら、航空機用のハッチから内部に潜入するべく射撃を継続した。銃身が過熱してくると、地面に落ちている金属などを投げつける。スーツの投擲の威力は常軌を逸している。少なくとも二人を昏睡させた。
仲間が出入り口を封じたのを合図に、彼らは一斉に航空用ハッチに取り付いて操作せんとした。
『駄目だ、こいつは言うことを聞きませんですぜ』
操作盤を弄っていた中東風の中年男が首を振って合図した。彼は高い工作技術を持っている。仲間たちはコンテナを壁替わりに配置して、敵の接近に警戒している。
ジョナサンは仕方がなさそうに機体の手を振ると、男に指示した。
『花火と洒落込むぞ。汚い花火だ』
男は爆薬を仕掛けた。操作を受け付けないのであればこじ開けるほかにない。
人間用の出入り口は狭すぎて、攻撃を避ける隙間すらないので、航空機用ハッチを使う手はずになっていたのである。
プラスチック爆薬をぺたぺた楽しく張り付けて離れる。重い衝撃と炸裂がハッチを吹き飛ばす。
各員はハッチの残骸を取り除くと、海賊から奪った分も合わせて手りゅう弾を大量に投げ込んだ。
数秒後、ハッチから衝撃が噴出した。
『突入!』
ジョナサンは機銃を連射しつつジェット機構とスーツの脚力を併用した下降に移った。後から各員が続く。
ハッチの下で待ち受けていた老人を機銃で蜂の巣にしてやり、スーツで踏みつぶす。嫌な感触。肉から骨が突き出た。
見遣ることもなく射撃を続行して、まさか来るとは思っていなかったという顔の海賊2人を殺害する。
スーツを操作してセンサー感度を引き上げれば、おもむろに格納庫にあった小型航空機のエレベーター操作盤を拳で叩き壊す。
航空機は壊さない。もったいないから。
各員は扉を天井ごと破壊しながら侵攻する。
机で作られた即席のバリケードなど機銃で貫通して向こう側の海賊をも殺す。
攻撃は迅速に実行された。時に室内で禁止されていたジェット推進すら行って。
惑星改造船は巨大で全長数kmに及ぶことすらある。彼らの部隊は少人数であったために完全なる制圧は不可能である。
そこで動力中枢と船のコントロールの奪還を目指すのだ。
彼らは二手に分かれ、ジョナサン率いるチームは船のメインコンピューターに接続できるエリアへと急行した。元より船は政府の管轄下であり、制御を取り戻すのは、政府側の彼らにとって難しいことではない。
「政府の犬め!」
『犬は犬でも死神犬だってことだ……床を味わえ』
金切り声を上げて無謀にも通路のど真ん中で自動小銃を乱射する男に、すいと機銃を上げて点射した。
よろめいて床に頭を叩きつける。血が流れ、広がっていく。
床は血の味になった。
ジョナサンは機銃の弾数を確認しつつやりきれない気分を隠せないでいた。
開拓で人類が大変な時に殺し合いしている場合ではなかろう。子供だって分かる。砂場で城を作ろうと頑張っているのに、喧嘩が始まったら完成するものもしないのだと。
海賊の血気溢れるパワーを開拓に注ぐことができたら、それだけの人命が無駄に損なわれないで済むのか。
軍人としての仕事はやるが、これ以上未亡人を増やしたくないとも思っていた。
好き好んで殺して殺されて理想の社会が作れるものか―――ジョナサンはいつも思うのだ。
だが、鉛弾に対して言葉では温すぎる。暴力に勝る力は所詮暴力でしかないのだから。
ジョナサンはさらに進もうとして、正面からの鉄の嵐に通路の曲がり角に釘付けにされた。仲間が後ろに付き、射撃の切れ間を狙って機銃を撃ち放つ。一人を倒したが、次の者が銃座についてしまう。
絶え間ない弾幕を形成する武器が狭い通路で猛威を振るっているのだ。
壁を弾丸が削り、粉塵が立つ。
ジョナサンはスーツが壁から出ないように気を配りつつ、機銃の冷却を待っていた。傍らのスーツに語りかける。
『―――ち。正面、ヘヴィーマシンガンだ。突破できるか』
『無理ですね。口径は20mm。関節部やセンサー部の耐えられる威力をこえています』
『そうか。俺がこの場を保持する。天井を抜け』
『ラジャー』
短く指示をすると、ジョナサンの背後についていた男二人がすっと場を離れた。
ジョナサンは機関銃の切れ間に向かって機銃を撃ち、隠れた。弾が通路の壁を削っていく。
室内で運用するには強力過ぎるそれが弾痕を量産していった。
『リフォームが必要だな』
『がっしゃんがっしゃん撃ってからに分別を知らんようで。仕置きが必要ですな』
『同感だ』
ジョナサンともう一人の隊員は、徐々に集まってきた海賊連中の激しい銃火に立ち向かわなければならなかった。
多くは小銃であり、装甲を貫通できなかったが、ロケット砲や対物小銃が混じりだすと、さすがにどうにもならず、虎の子のレーザーガンまで使用する羽目になった。
海賊の多くが薄着(防弾着ではないという意味で)であり、レーザーは容易く彼の皮膚を貫通した。
問題は電力と銃身がもたないことである。
機銃弾も乏しくなり始め、ジョナサンは後退も視野に入れた。
『まだか!』
『遅くなりました!』
ジョナサンが無線にどなった直度、ヘヴィーマシンガンの真上の天井が崩れ、複数のスーツが天使のように降臨した。
馬力を活かして床を抜いたのだ。
たまらず銃座は制圧され、残った海賊達が至近距離から銃撃を浴びせるが、スーツが倒れるよりも先に鉄板をも曲げる腕力が炸裂した。
制圧。骨が折れた。二重の意味で。
『さて――諸君。これより我々の時間だ』
ジョナサンが無線からの報告を聞き、隊の紳士らに宣言した。
次の瞬間、船の照明が切れた。電力の掌握に成功したのだ。スーツが自動で暗視装置を準備した。緑かかった映像が視界を覆う。
空調も停止して、船は放っておけば冷蔵庫同然となる。酸素も不足するであろう。海賊たちは降参せざるを得なくなる。
そういうことだ。例えメインコンピューターが彼らの手中にあっても、物理的な破断はどうしようもなかろう。
あとはメインコンピューターを落とせば、船は落ちたも同然である。
仕上げに船ごと政府軍の元に運んでやればよい。船は都合の良い檻というわけである。
『ちゃっちゃと終わらすぞ』
ジョナサンはさっそく一歩を踏み出した。
かくして惑星改造船の奪還作戦は成功に終わったが、コストがかかり過ぎることが指摘された。宇宙船の移動、ミサイル、突入殻の準備、人員の配置などである。スーツの運用費用もばかにならない。通常の作戦と比較して、べらぼうな値段がかかった。
作戦で死亡したのは一人であった。
彼は不幸にも降下時に射撃を受けてしまい姿勢を崩して船に叩きつけられた。意識不明になったところ集中砲火を浴びて船から転落。
海に落ちた。死亡は明らかだった。
戦果が完全ではなかったことも批判の対象となった。
惑星改造船の攻略にはより安価な航空機による強襲降下が適切であると報告された。
スーツは歴史の波に埋もれて採用されることは無かった。
だが、戦った彼らの記録は今でも閲覧することができる。
【終】