創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

~第一話~

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匿名ユーザー

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かつて『世界』は、金属でできた丸い卵であったと伝え聞く。
卵から孵化して飛び立った『世界』は、何よりも眩く輝く炎を心臓に、中に浮かぶ岩を喰らいながら
成長を続け、果てなき旅を続けているのだそうだ。

 我が故郷に伝わる御伽話の類だが、学者である私からすれば何とも荒唐無稽で馬鹿馬鹿しい。
「孵化して飛び立つ」というのは鳥や虫に多くみられる生態であるが……虫は全ての種類が大きく
ても1ゼクマ以上にはならず、鳥であっても最大級のもので4ゼクマを越すものはない。
 その程度のサイズに、私が今歩いている8ゼクマ四方の幅と少なく見積もっても50000ゼクマは
あろう通路が収まる訳が無い。こんな与太を真面目に信じるのは、無知な輩か頭の固い神官ども
だけだろう。
 とはいえ、『世界』が成長を続けているという話は嘘ではないようだ。故郷を一人で旅立ち広域
調査を初めて約1000周期、その間に私は、大規模変動の痕跡を何度か確認していた。恐らく、
変化する事を成長と表現したのだろう。

 通路を抜け、木々の生い茂る区画へと入った。久しぶりにまともな食事が出来そうだが、その前に
調査をしなければならない。

「天井までの距離はおおよそ40ゼクマ……面積はここからでは見当もつかないな。
 ん?この区域には上方の区域と繋がる穴があるのか」

 調査の結果を金属板に刻んでいく。私はこうやって通路や区画を移動してその記録を取っている。
『世界』の真実を知る為に。

 私の両親は神官であった。時代遅れのライヴァ神の教義を信じるのは構わないが、学者である
私に学問を捨て神官を継ぐようにと、これまでに一度も会った事もない許嫁まで用意し、即座に
婚姻の儀を済ませようと迫ってきたので、腹が立ってその日の内に広域調査に出た。
 ライヴァ神の戒律は、御神体を中心とした9区画から出ることを禁じている。故にその外までは
誰も追ってはこられなかった。
 それからはずっと一人で活動を続けてきた。孤独を感じない事もないが、神官なんかになるよりは
充実した日々を送れている。

 調査活動を一時中止し、食料になりそうな物を探す。ひび割れた配管が水源の川と、それに沿う
ように並び立つ木々。魚か木の実か虫辺りが得られそうだ。天井の照明灯が完全に消えて真夜中に
なる前に、最低でも今周期分の食糧くらいは確保しておきたい。

「……何だ?」

 とりあえず川に入ろうとした私の目に、土に埋もれた奇妙な存在が入ってきた。

「人!? ……いや、違うか」

 一瞬、死体かと思ったソレは人に良く似た人形であった。鎧を纏った美しい女性のように見えるが、
全体に苔が生えており、穴のあいた胴体からは、金属の管がいくつも伸びていた。おそらくは金属を
彫って作った像だろう。故郷でも何度か見た事がある。そんなものを死体と間違え驚いてしまった
事を恥じながら、立ち去ろうとした、すると……

『He ich bin Sie!!』

 動物の鳴き声の様な奇妙な音。慌てて周囲を見回すが、動くものは何もない。

『Ehi io sono Lei!!』

 再び聞こえた謎の鳴き声。先程とは鳴き方が大分違う。しかし今度はハッキリと場所が分かった。
足元の人形からだ。

『Eh soy usted!!』

 なるほど。どうやら人が近付くと反応して音を鳴らすからくりのようだ。昔、学者仲間がそんな
玩具を作っていた事があった。しかし、どういった原理なのだろうか? 興味を持ち手を伸ばした
私に……

『オイ、オ前!!』
「喋った!?」

 突如人形が、話しかけてきた。

『ナルホド……コノ言語系ナラ意思疎通ガ可能ナヨウダナ……』
「何者だ!? どこに隠れている!?」

 どこかこちらの位置が見える場所から、こっそりと人形を動かしている者がいるようだ。再び周囲
を見渡す。人形から声が聞こえるのは、音を反響させる筒のような道具を使っているに違いない。

『呑ミ込ミノ悪イ馬鹿カ……サッキカラ目ノ前ニイル』
「何だと! 学者である私に対して失礼な!!」

 周囲には、人どころか動物の気配すらない。消去法で考えるなら、やはり喋っているのは、この
人形という事になるが……

『無知ノ間抜ケ相手ニ、口デ説明スルノハ面倒ダ。証明シテ見セヨウ……我ノ腹カラ出テイル赤イ
 ケーブル……縄ヲ繋ゲテクレ』
「赤……?この一番太いのか?」

 人形の人を馬鹿にしたような言い方は、学者である私の自尊心を傷付けた。だが、それよりも
興味本位が私を動かす。もしかしたら、これまでにない大発見の可能性もあるのだ。

「どうやって結べばいい? 綱の結び方だけでも23通り知っているから、どうやればいいのか
 迷ってしまって……」
『阿呆ガ。結ブノデハナク、綱ノ金属面ヲ合ワセルダケデ良イ……トットトヤレ!』
「クッ……これでいいか……ッ!?」

 合わせた縄の接触面から火花が飛び散る。それと同時に、目の前の人形が震えだした。

『戦闘ノダメージデ真ッ先ニ自己修復機能ガ落チタノハ厄介ダッタガ……機能停止前ニ、コンナ
区画ニ知性体ガ通ルトハ実ニ運ガ良イ……自己修復機能・最大』

 地面を割って伸びた何かが、私の頭を捉える。ソレが人形の右腕であると気付いたと同時に、
頭に痛みが走った。

「うおっ!?」
『言語野構成情報入手。言語系ノ最適化……完了」

 慌てて手を振りほどき、距離を取る。だが人形はこちらの様子を気にすることなく、土を跳ねのけて
立ち上がる。胴体にあった穴はいつの間にか消え失せていた。
 直立した人形の姿は、思った以上に小柄だった。2.5ゼクマほどで、3ゼクマほどの私よりも頭一つ
背が低い。

「修復率85.37%。現状ではこれ以上の修復は不可能か……続いて簡易表面洗浄に移行」

 再び人形の全身が振動し、その身体に付いていた土や泥、苔の類を吹き飛ばす。飛んできた土に
驚き、顔を背けた後で目を開くと、そこに立っていたのは美しい女性だった。 

「簡易表面洗浄完了……まだ部分的に土っぽいな。後で川の水でも使って超音波洗浄でもすれば
 いいか」

 深い藍色の長い髪と、氷雪のように白い金属の鎧を纏った姿は、まるで御伽話に出てくる神の
使いにも思えた。口をポカンと開いたまま動かなくなっている私に、彼女は頬笑みながら手を伸ば
してきた。

「さてと……まずは自己紹介だ。我が名はミラビィ・T-158996。お前の名は?」

 目の前にあるミラビィの手。それが何を示すのかよく分からない。話の流れからすると、相手へ
の挨拶の様だが……

「わ、私はヴァンドリー・ガンルー・ザルクーガー。ザルガと呼んでくれ」

 とりあえず彼女を真似て、同じように手を出し出す。互いに相手に片手を伸ばしたまま、しばしの
時が流れ……

「この手は?」

 私は沈黙に耐えられなくなり、彼女に聞いた。

「知らないのか? 握手。こうやって互いの手を握る挨拶の方法だ」

 そういって、彼女は私の手を握った。金属で出来ているはずだが、妙に軟らかく、温かく感じた。

「なるほど、聞いた事もない挨拶だが……悪い気分はしない」

 何度か上下に動かした後、ミラビィは手を離した。その時の手の感触と、

「……お前達は、こういう状況で、どういう方法で挨拶するんだ?」
「互いに口を大きく開いて、歯を見せ合う」
「へぇ……」

 私の答えを聞いた時の何とも言えない表情が、その周期中、頭を離れなかった。

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