創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

~第二話~

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匿名ユーザー

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「身体が自由に動くのは本当に久々だ! 実に素晴らしい!」

 満面の笑みを浮かべ、嬉しそうにクルクルと踊るミラビィ。5周ほど回転すると、何か思い付いた
様に動きを止め、私の方を向いた。

「そうだ! こういう状況下で助けられた場合は、何かひとつ……或いはみっつ、どんな願いでも
 叶えてやるのが礼節だったな…… ザルガ、お前は何か叶えたい願いがあるか? ひとつかみっつ、
 我が力で叶えてやろう」

 何というか、大雑把な申し出だった。願いを叶えるといってもどういった事をどこまでやれるのか?
そもそもひとつだけなのか? みっつまでは可能なのか? などと考えている間に、

「大概の事はできるぞ。欲しい物を強奪する、気に入らない奴らを跡形もなく消し飛ばす、そうそう
 簡単にお前に逆らう者が出ないように力を見せつけ事も可能だ!」

 彼女はえらく物騒な事を言い始めた。

 まず、ミラビィはいったい何者なのか? 人間でない事は確かだが、人間と殆ど変わらない姿をして
会話が可能な人形を作った者がいるという話は聞いた事が無い。
 御伽話の神の使いか、或いは人を堕落に誘う魔性の類か……いや、それらは非現実的な発想だ。
学者として認めるわけにはいかない。少し考えた後、私はある答えを出した。

「叶えて欲しい願いがひとつある……この『世界』が何であるのかを教えてくれ」

 私の願いに、彼女が不思議そうに首をかしげた。

「私は学者で、『世界』が何なのかを知りたくて広域調査をしている。いくつかの区画を移動し、そこで
 見た事柄を記録し続けているが、私は何一つ理解できていない……なので、私は君に教えを請い
 たいのだ」
 
 私は逆立ちをしながら両足の膝を曲げ、足の裏をくっつける姿勢を取った。

「その体勢は」
「私の故郷において、もっとも深い謝罪や請願の意を表す礼式だ。『逆願い』という」
「そうか……誠意は伝わってきた。もう普通に立ってくれ」

 その言葉を受けて、私は元通りに立ち、手に付いた土を払う。

「最初に言っておくが……我々は多くの区画で行動するに辺り、相応に多くの知識を蓄えている。だが、
 全てを知っている訳ではないぞ?」
「少なくとも君は、私よりも物を知っている。ならば教わる価値は大いにあるだろう」

 真っ直ぐに向けた私の視線に、ミラビィは納得したような、呆れたような顔をした。

「まずは君が何者であるのか、そこから話してくれないだろうか」
「理解した」

 そう言って彼女は、表面が割れて平たくなっている岩に腰掛けた。まずは彼女が何者であるか知る所からだ。

「大雑把に説明するだけでも、大分長くなる……丸1日くらいは掛かるか。お前も適当に腰掛けろ」
「丸1日?」

 私は、少し離れた位置に倒れていた木の幹に腰掛ける。同時に、金属板を取り出し、聞き慣れぬ単語の
意味を問う。ミラビィは上を指差した。

「天井に照明灯があるだろう。アレが点灯して消灯して、また点灯するまでの時間の事だな」
「なるほど、1周期と同じか……」

 一つ一つ、知識を増やしていく。私がやる事は、いつだってそんな内容だった。


「我々は管理部広域支配反対派所属、第3種変換型戦闘実行体だ」
「もう一度頼む」

 ミラビィが語った彼女の素性は、聞き取るのも厄介な単語が多く並んでいた。

「今ので理解ができないのであれば、恐らく説明するだけ無駄だ。適当に戦闘実行体である事だけ
 覚えられれば上等だろう」

 引っ掛かるものいいではあったが、反論はできそうにない。彼女は面倒臭そうに首筋をさすっていた。

「……そもそも、戦闘実行体とは?」
「大雑把に言うと兵士のようなものだ。人の代わりに戦う兵隊人形といったところか」
「兵士?兵隊?」

 またも聞き慣れぬ単語だ。

「大雑把に説明すると、戦闘行為を生業とした職種で……」
「ああ、対人猟師の類か」

 人を狩る人……と言っても、重区画法違反を犯した者達のみであるが、彼らの大半は高い戦闘技術を持つ。
それを代行する人形、といった所なのだろうか?

「お前の住んでいた区画では、戦争というものは無いのか?」

 ミラビィは不愉快そうに眉をしかめながら、髪を弄り始めた。何か気に障るような聞き返し方をしてしまった
のだろうか?

「……知らない単語だ」
「戦争という概念が無いのか……まあ、小規模な区画の文化ならばそういったケースもあるか……………うぅ!」
「どうかしたのか!?」

 彼女が目を見開き、勢い良く立ち上がる。

「もう我慢できん。これ以上は無理だ!」
「な……まだ、少ししか話を聞いていないのだが!?」
「お前の願いどおりに、説明はきちんと続ける……だが、その前にだ!」

 鬼気迫る彼女の表情。戦闘実行体というのが本当に対人漁師のような存在ならば、私の命が危ないかも
しれない。

「洗浄……水浴びさせてくれ! 身体に残った微量の土が不愉快でしょうがない!」

 思わず、木から滑り落ちて頭を打ち掛けた。

 ミラビィの唐突な提案に、私も照明灯が消える前に食糧を用意したかったので同意する事にした。続きは
それらが終わった後だ。

 川の最上流では、割れた配管から水が滝のように流れ出ている。ミラビィはそこで、まるで夕立の雨水を
被るように行水をしていた。全裸で。
 戦闘実行体と言っても、私達人と殆ど変わらない姿。水をはじく薄桃色の肌。違いがあるとすれば、全身に
まるで繋ぎ目のような線が入っているのと、小さな穴がいくつか開いている事くらいだ。
 ちなみに私がそれを知っているのは、たまたま、偶然、運悪く、一糸纏わぬ彼女の姿が視界に入ってしまった
だけで、自らの意思で凝視してはいない。学問の神に誓って。
  ミラビィが脱いだ鎧と、その下に着ていた黒い無駄にぴっちりとして身体の線が出る服は、彼女から
少し離れた所で、まるで魚のように泳ぎ回っている。勝手に動いて洗われているだけでなく『超音波洗浄』なる技に
よって、その周囲の水がえらく泡立っていた。
 私はその下流で、『超音波洗浄』に巻き込まれて気絶した魚を捕獲していた。釣りや漁をする手間は省けたが
何とも奇妙な気分だ。5匹目の腹を上に向けたまま流れてきた魚を捕まえて袋に入れる。

「ああ、さっぱりした!」

 どうやら、彼女の水浴びは終わったようだ。ざぶざぶと音を立てながら近付いてくる。

「ザルガ、食糧収集終わったか?」
「ああ……これだけ捕まえれば十分に……ッ!?」

 彼女の方を向き、私は驚愕した。先程までと同じく、何一つ着ていない姿のままだったのだ。
 目線が自動的に、こちらに向けられた意地の悪そうな笑顔の下……二つの膨らみを追ってしまい、慌てて背を向けた。
激しい動機に、一瞬だけ周囲の音が聞こえなくなる。

「い、異性に肌を隠さずに見せるなどと……恥ずかしくないのかァ!?」

 私は学者として生きる事を決めてから、色欲の類は勉学の邪魔になると、女性と付き合ったりする事無く、むしろ
極力近付かないようにしてきた。なので、こういった状況下に対しての耐性が無く、精神的に余裕のある対応は
不可能に近かった。赤面し、川の水を沸騰させるのではないかというほどに体温を上げた私は、えらく滑稽に見えるだろう。

「我々、戦闘実行体に羞恥という概念はない!! 装甲を全てパージした姿を目視された程度、だから何だという!!」

 その理解不能の自信がたっぷりの言葉と共にポーズでも決めたのか、ばしゃんと大きな水音が鳴った。

「そういった説明はいい! は、早く服を着ろ!!」
「まあまあ、硬い事を言うな、ザルガよ……」

 笑いながら近付いてくるミラビィ。私の背中に、二つの球形の物が押し付けられる。

「生命であるのならば、己の中に沸き起こる衝動には正直であるべきだ」
「いいい、いい加減にッ……!?」

 振り払おうとした腕が空を切る。私の目に移ったのは、黒い服を着て、柑橘類と思われる果物を二つ手に持って
私に向けているミラビィの姿だった。

「これが『からかう』という行動だったな……なかなか愉快だ!」

 そういって指を鳴らすと、白い鎧が宙を舞い、彼女に装着されていった。

「第一装甲も第二装甲も我々の身体の一部でな。どちらもこうやって短時間の着脱が可能だ。お前が背を向きなおした
 直後に纏った」

 どういう理屈か想像もできない技術。本来ならば、それを知れた事に歓喜するべきなのだろうが……

「………………」
「安心しろ、そうそう何度もやらん。こういう悪戯は、やり過ぎるとすぐに反応が鈍くなるらしいからな」

 睨みつける私に背を向け、彼女は心底楽しそうに川から上がっていった。

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