創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

■Prologue:The Encounter World

最終更新:

fctinfbl

- view
だれでも歓迎! 編集
 一条遥は19歳で、大学生1年生で、そして今は7月中旬だった。つまり大学生活初めてのテスト期間が目前に迫った時期だ。
 というわけで遥は今、大学の図書館でレポートを書くための資料集めをしていた。
 しかしこの資料集めというのが、なかなかどうしてめんどくさい。
 別に資料を見つけるまではいいのだが、例えば資料が高いところにあった場合、身長の低い遥では脚立を使っても資料に手が届かないことが多々ある――――というか、今の状況がまさにそれだ。苦戦なう。
 必死に手を伸ばすが、あと一歩のところで届かない。身長が足りない。
 なにせ遥の身長は144cm、大体小学校5年生くらいだ。ついでに童顔だし、胸もまっ平ら……じゃなくて控えめ。今年で14歳になる妹は慎重170cm以上のボン・キュッ・ボンッだというのに。
 まったくもって世の中というのは不公平である。
 だが今は世の中の不公平を恨んでも仕方ない、仕方ないのだ。
 再度資料に手を伸ばす。しかしその手は微妙に届かない。
 跳べば届くかもしれないが、それで足を滑らせたりして転落するのは嫌だ。高いところとお化けこわい。
 精一杯背伸びして、もう一度。あ、指引っかかった。
これはいける、そう思って背表紙に指を掛けたその刹那。びくり。突如として少女の背筋に寒気が走る。
 そしてそのまま体勢を崩し、資料と一緒に脚立から落下。
「いった!」
 おしり打った。いたい。
 一体なんなの。打ちつけたおしりを擦りながら、顔を上げると、そこには信じられない光景があった。
「え、なに、これ……」
 本来なら自分と一緒に床に叩きつけられているはずの資料が、空中でぴたりと静止していた――――まるで、時間が止まってしまったみたいに。


肉体系! 魔法少女 フィジカルはるか!
■Prologue:The Encounter World


 突如襲来した“非常識”に目を丸くする遥の耳に、何かが飛び込んでくる。
「う……歌……?」
 それは、なんだか聞き覚えのある歌。何だったか……むかし、信号が青になったら流れていた歌だ。
 姿の見えない歌い手の、透きとおったソプラノは美しいが、同時に聞く者を不安にさせるような妖しさを秘めていた。
 こわくなって、窓の外を見る。
 空が暗い、雲が紅い。
 さっきまで青かったのに、さっきまで白かったのに。
 まるで別の世界に来てしまったようだ。
 ――――そういえばこの歌、神隠しがどうのこうのって噂があったような……。
 遥はぞっとする。もしかして、自分はその神隠しに遭ってしまったのではないか。
 歌声が、不安と恐怖のアンプリファイアになる。
 やだ。
 やだやだ。
 やだやだやだやだ。
 おばけとかでたらどうしよう。
 こわい。
 さみしい。
 だれかたすけて。
 少女の目尻に涙が浮かんだ、そのとき、であった。
 爆発音。
 今度は何!? 半泣きの状態で音がした方へ首を向ける。
 機械の龍がいた。
 黒髪の女がいた。
 龍は八つの首を、女は刀をもっていた。
 八つ首の龍と、刀をもった女が戦っていた。
 女は自由自在に宙を駆け、龍の首を切り落とす。その光景は、よくできたゲームや映画に似ていた。
 ――――もしかすると、私は夢を見ているのかもしれない。
遥は思考する。脚立から落ちたときに後頭部あたりを打ったんだ。それで夢を見ているんだ、きっと。
 頬を抓る。
 痛覚は、確かにあった。
「夢じゃ、ない……」
<ええ、これは現実です>
 凛。鈴の音が響く。
<ようやく見つけました、私の……マスター>
「誰!? おばけ!? どこにいるの!?」
 きょろきょろと辺りを見渡せど、そこに人の影はない。ああ、やっぱり神隠しなのか。神隠しに遭ってしまったのか。遥の目尻から涙があふれる。
<足元をご覧ください、マスター>
 恐る恐る、言われたとおりに足元を見ると、
 凛。首に鈴をつけた黒毛の仔猫が、真っ赤な目でこちらを見上げていた。
「……ねこ、ちゃん?」
<申し遅れました。私、リヒター・ペネトレイターと申します>
 凛。仔猫が恭しく頭を垂れた。
「あ、いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」
 遥も慌ててお辞儀を返す。その体勢のまま思考して、彼女が改めて現状の異常性に気付くまで、数秒。
「……って、しゃべった! ねこがしゃべった!? 化け猫!?」
<化け猫ではありません、機械人形<オートマタ>です>
「おまた……?」
 ――――なにを言っているのかさっぱりわからんちん。
<説明は後ほど……それよりも、ここに留まっていては危険です。はぐれオートマタが賢者の石を狙って襲撃してくるかもしれない>
「ケンちゃんの石……?」
 ――――なにを言っているのかやっぱりわからんちん。とりあえずここに留まっているとヤバいのは理解したが。
 既に遥の心から、恐怖と不安は消え去っていた。自分以外にも誰かがいる、ひとりじゃない。それは凄く心強いことだ。たとえそれが、仔猫だったとしても。
<ついてきてください>
 黒猫がとてとて歩きだしたので、遥もそれに続く。
「で、どこいくの?」
<とにかく今はここから離れます。そして可能ならば“八咫烏の巣”に救援の以来を――――>
 答えになってないよ。遥がそう言おうとした、その瞬間。天地がひっくり返るような轟音と共に、図書館の天井が崩れ落ち、何かが部屋に落下してきた。砂埃と本が舞い上がり、数瞬の間、遥の視界が塞がれる。
「……ッ!? 今度はなんなの!?」
<……既に気取られていましたか……あれがはぐれオートマタです>
 視界が晴れ、何が降りてきたのかが判別できるようになると、遥はそれを見て短い悲鳴を上げた。
「ちょっ……想像してたのと違う! なにこのデカいの!?」
<はぐれオートマタです>
 それはさっき聞いた。
 一つ目の巨人が腕を振り上げた。緩慢な動きだったが、遥は恐怖で足がすくんで動けない。
 ――――死ぬんだろうか? 自分は。こんなところで、わけのわからない現象に巻き込まれて、わけのわからないやつに殺されて、そんなので私の人生終了でいいんだろうか?
 巨人が腕を振り下ろすさまがスローモーションに見える。
 ――――たった19年しか生きてないのに、やりのこした事もたくさんあるのに、死んじゃうなんて、それでいいんだろうか?

問:なんか突然人生を強制終了させられそうですが、あなたは本心からこれでいいと思いますか?

答:
「い・い・わ・け、あるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バックステップ。寸前で圧殺を免れると、振り下ろされた巨腕に飛び乗り、駆け上がる。そして勢いを殺すことなく、頭を踏み台にして巨人の開けた穴から上の階へと跳躍する。そのまま振り返ることなく猛ダッシュ。
「ねこちゃん、いる!?」
<はい、ここに>
 足元から声。どうやらしっかりついてこれているようだ。
「あのはぐれメタルだかなんだかって、なんでねこちゃんと違うの!?」
<私も元々はあのような姿だったのですが、諸事情により現在はこの形態を取らざるを得ない状態にまで追いやられてしまい――――>
「変身してやっつけられないの!?」
<はい……申し訳ありません>
 図書館と大学棟の3号館を繋ぐ渡り廊下へと出ると、遥は渡りの手摺りに足を掛ける。
――――ここは2階だけど……ええい、ままよ!
 飛び降りてショートカット。衝撃は上手く受け流す。
 校舎の陰に隠れつつ、大学の外へと出ようとした時、遥の身体が凍りついた。
 視界いっぱいに広がる、ひしめく鋼の巨体――――大学の出入り口はすべて、おびただしい数のはぐれオートマタに取り囲まれていた。
 その数、ざっと30。
<馬鹿な……多すぎる>
 今まで平静を保っていた仔猫の声にも、確かな焦りが浮かんできた。
「……ねこちゃん、なにか手はないの!? この状況を打破する手は!?」
<……ひとつだけ、あります>
 じりじりと、着々と、距離を詰め、追い詰めていく30の巨体。
「それは!?」
<私と契約して、魔法少女に――――>
 黒猫の言葉は、突如として放たれた銃声によって掻き消された。
 空気を裂いて飛来した大口径の銃弾は、先頭にいた3機の腕や頭部をもぎ取り、周囲に金属片を撒き散らす。
<一般人……? 戦場に迷い込んだか>
 金色の破壊神が、ハスキーボイスを発しつつ、荒々しく着地した。九本の尾を持った、神々しい狐の魔人。細身の体形は女性的だが、両腕と尾に保持された銃器は不釣り合いなほどゴツい。
 その狐の肩から、黒いロングヘアの少女がゆっくりと降下してくる。
「だ、だれ……?」
 狐のハスキーボイスと対照的なウィスパーボイスで、遥の呟きに少女が答えた。
「私ですか? 私は――――」
 ふわりと着地。
「ただの、魔法少女です」
 少女は懐から黄金色に輝く宝石を取り出し、天へとかざす。
 そして、囁くようにこう言った。


「Si Vis Pacem――――Para Bellum」


 To be continued...■









■次回予告―玉藻・ヴァルパイン

 ミッションを説明する。
 守屋大学周辺に突如出現したはぐれオートマタの群れを排除するだけの、ごくシンプルな作戦だ。数は多いが所詮は有象無象、魔法少女の敵ではない。
 だが、気を抜くなよ。詳細は不明だが、周辺地域で超大型の鋼獣と所属不明の魔法少女が目撃されたという情報がある。本当なら厄介な話だ。
 いささかキナ臭いミッションだが、“欠片”を稼ぐ絶好の機会だ。
 わたしとおまえならできるさ。
 準備はできているな?
 では、いくぞ。

■Mission:01 Red Ride2―オートマタ殲滅

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー