創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

Villetick Jumble・第1話

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「聞こえてますか?」

……多分。

「ならそのまま聞いてください」

いや、こっちからの質問は無し?

「あまり時間を取れません。でも、どうしても伝えなければならないんです」

てか、君は誰?その……耳はコスプレ?

「そんな話は後です。私は未来のあなた達からメッセージを預かっています」

未来?メッセージ?ちょっと待ってくれ、意味が……ん?'達'?

「未来は、巨大ロボによる戦闘が娯楽として流行していました。しかしその巨大ロボを戦争に使う事に目を付けた悪しき者達によって世界が過酷な戦争に突入したんです。そしてある時、時空に歪みが生まれ、その歪みを掌握しようと彼等が行動し始めたんです」

いや……情報が多くて分からないんだが……

「その巨大ロボの開発に関わっていたのはあなた達。厳密にはあなた達をそそのかした……」

俺が関わっていた?いや、'達'って事は複数か?

「……すいません、今はこれ以上時間がありません」

おい、ちょっと待ってくれ!重要な部分が何も……

「ヴィルティック」

え?

「それがあなた達の機体で、私達の希望です」



「待てって!意味が分からな――」
「意味が分からないのは貴方でしょ!さっさと起きなさいこのバカ!」

ゴスッという鈍い音が俺の頭で響いた。



Villetick Jumble
connect 1:Separation-分岐点-



「いてぇ……」

生徒会の会議中に寝てしまった俺――鈴木隆昭は会長であるところの氷室ルナに辞典の背表紙で殴られた頭を、腫れていないか確認しながら家路を歩く。
気付けば寝ていたのだが何か凄く気になる夢を見た気がした。あの夢はなんだったんだろうか?

あの朧げに見えた狐耳の女は――

「おーい!ってどうした、隆昭?」

そんな時、俺に近付いてきたのは草川大輔。
俺の友人で飛び抜けた阿保だ。

「会議で寝ちまって会長にぶん殴られたんだよ……マジいてぇ……」
「バッカ、お前それはご褒美じゃねぇかよ!」
「400ページ以上ある辞典という名の凶器による一撃でもか?」

この通り、無類の女好きで軟派な性格の奴は会長もありらしい。ドMかよ……
だがそんな腐れ縁の阿保だが、話していて飽きない奴でもある。
くだらないバカ話で盛り上がりつつ歩いていた俺達。
最近は放課後も、想像以上に人使いが荒い会長の元で生徒会書記(雑用)として働いていた為、こうして息抜きの様な会話が出来る事自体が嬉しくて仕方ない。
そのせいだろうか?さっきまで頭の中の大部分を占めていた夢の事も頭の隅に追いやられている。

「すみません、草川大輔さんと鈴木隆昭さんですよね?」

ここで、その夢に出て来たのとそっくりな狐耳の女と遭遇するまでは。

「へ?そうですけど?」

草川がほとんど反射的に答える。
だが俺は一切の声が出せずにいた。
その女は背が高く、顔も美人で、スタイルも完璧だ。
髪は氷室と同じ銀色、そして謎の狐耳。
まさしく夢の中で、俺に未来について話していった女だった。

「トランスインポート」

その女は懐から取り出したカードに呟く。するといきなりカードが携帯電話ほどの大きさの機械になった。
そのマジックのようで明らかにマジックでないと直感的に分かる、そんな光景に草川ですら呆然としている。

「お、おい、隆昭。この美人マジシャンはお前の知り合いか?」
「え?あ、いや……わかんねぇ」

夢では見たが実際はこれが初対面、この場合はどちらでカウントすべきか?
いや、カウントしたら普通に変人だろう。夢で会ったなんて草川みたいなアホだって言うわけ無い。

「……なぁ、俺あの子を夢で見たんだが……これって、運命?」
「言いやがった!?」

まさかの不意打ちに思わず叫んでしまう。
あまりにもふざけすぎだと、ツッコミをいれようとして気付く。

草川も……あの女に夢で会っている?

「待て、お前もあの夢見たのか!?」

草川は眼を見開いてそう問い掛けた俺を見る。
そこには確実に意味が通じた上で驚いている表情がうかんでいる。
つまり、俺と同じ夢を草川も見ていたという事になるんだろう。

「は?てことはお前も!?」

草川の言葉はワンテンポ遅れながら返ってきたが、俺はそれに頷くしか出来なかった。
あまりの驚きがそれ以上の行動を起こすだけの思考を残さなかったからだ。

「60年前の草川大輔氏と鈴木隆昭氏と確認しました」

そう言った女に俺達は驚く。
女を見るとさっきまであった機械はカードに戻っている。
そして彼女は綺麗なお辞儀をした。

「はじめまして、メルフィー・ストレインと申します」

つられてこっちも頭を下げる。自己紹介を返した方がいいんだろうか?
いや、彼女は俺達の名前を知っているから必要無いのか?

「今日はお二人にお願いがあって参りました。すでに夢で会った時に少し話しましたが……」

慌てすぎて頭の中が空回りする俺にも、浸透するようにその声は届いて、俺の脳も落ち着いていく。
そうして彼女、メルフィーはまっすぐな眼で俺達を見た。
まるで縋るように、願うように、信じているように。

「私と一緒に……未来を救って下さい」

  ◇

一人の男が路地裏を歩いている。
その服装は夏なのに黒いコートを着ていて明らかに怪しい。
路地裏にも係わらず足取りに迷いは無く、まるでビルの壁を透かして目的地が見えているかのようだった。
その男の前から一人のパトロール中の警察官が歩いてくる。
警察官は男の姿を見て近付いていく。

「ちょっといいですか?外人さん?珍しいね」

男は警察官の声に立ち止まる。
怪しい男の外見から職務質問を行おうとしているようだ。

「何か身分証明できる物持ってます?」

男は懐に手を突っ込んであるものを取り出した。
それは一枚のカード。
警察官が怪訝な顔をしてそれを見る。
そこからは一瞬の早業、男の手にいつの間にか握られた拳銃が警察官に突き付けられて乾いた音を立てる。
胸から赤黒い血を流しながら倒れ込む警察官に視線も向けずに、カードを変化させた拳銃を元に戻しながら立ち去る。
まるでその死に意味を見出だせないかのように。

「さて、確か彼女は…遥ノ市にいるんだっけ」

男は迷いなく進む。
彼にとっての敵を討つため。

「待っているといい。すぐに――」

ニヤリと口の端を吊り上げ、美形の顔を歪ませる男。
嗜虐的かつ恍惚とした表情が男の端正な容姿に浮かぶ。
男が最後になんと言ったかは風にさらわれて聞き取れない。

  ◇

これはどういう状況だ?
現在の居場所は俺の家、俺と草川の前にメルフィーがいる。
落ち着いて話を聞きたかったが、1番近くて落ち着ける場所は俺の家だった。
そのため、仕方なく俺はメルフィーと名乗った謎の女と草川を家に上げた。

「つまり、未来はそのイルミナスにメチャクチャにされたって事でいいか?」

メルフィーは草川の言葉に頷く。
一応の事情――ブレイブ・グレイブのブームから時空の歪みが出来るまで――を聞き、そしてカードからのホログラムで見て、やっとメルフィーが言った事が未来の出来事だと理解できた。
それにここまでの技術を見せられて未来の事を否定出来る程、俺は頑なでもない。

「で、未来を救うのにこの時代に?」
「私は父とその友人達がイルミナスから隠れて造った新型のアストライル・ギアを手渡され、父に言われた通りの方法で歪みを渡り、この時代のあなたたちを探していました」
「ちょっと待ってくれ。なんで俺達なんだ?俺も草川もただの学生だぞ?」
「父は……父はその理由を私には話していません。ですが、父は貴方達なら未来を変える事が出来ると、救う事ができると、そう言っていました」

メルフィーはしっかりとした口調で強く言った。だが言葉には焦りが篭っているように思えた。
いや、実際ここで断られてしまう事が未来の滅亡――俺達に救えるかどうかは別にして――に直結しているのだから当たり前だろう。

「お願いします。あなたたちの力で、未来を――私の世界を、救ってください。もう――大切な人を、失いたくないんです」

正直突拍子が無さすぎると言うか、荒唐無稽というか正直信じろっていう方が無理だ。
だがメルフィーの姿を見ていると、今までの話を否定する気にはなれない。

「俺は……」

その時、草川が口を開いた。
草川の顔はいつもの様なふざけた雰囲気は微塵もなく、真面目な顔で呟く。
数える程にも見たことの無い草川の顔に驚きが隠せない。

「無理だよ。そんな話をされても、そんな重い未来を背負うなんて……一介の学生の俺には出来ると思えない」

弱々しい言葉が草川を吐く。
今まで一度だって見たこと無いような表情に俺は唖然とする。
何時だってこいつは脳天気で、馬鹿で、騒がしい。
こんなに弱々しい草川は、言っては悪いが正直気味悪い。

「ダメ……ですか?」

メルフィーは眼を潤ませて草川を見詰める。
その眼を見て俺はふと思い出した。
草川が以前力説していた事、熱が入り過ぎて最終的に教壇での演説になった草川の好み。

「いや、やる。やらなきゃならないならやってやるよ」

――女性の上目遣いの破壊力を。

溜息をつくしか無い。
その溜息にはやっぱりどこまで行っても草川は草川だという意味も、奴が決意を先に固めてくれた事に対する安堵の意味も込められている。

「お前、今絶対上目遣いで墜ちただろ?」
「い、いやー、こんな眼を見せられたら受けなきゃ男じゃないだろ?」

一応気まずさは感じているのか頭を掻いている。
グダグダとツッコミを入れたりボケたりする俺達を見てメルフィーはプッと吹き出す。

「あ、すいません……お二人のやり取りがおかしくって、つい……」

少し縮こまるメルフィーはまだ笑い続けていて、その笑顔に俺は見とれていた。
多分草川もそうだと思う。
今まで常に緊張感を漂わせていた表情とはまた違う綺麗さがあった。

「あの……隆昭さんはどうしますか?」
「へ?あ、あぁ……」

不意にメルフィーに声をかけられて俺は一瞬だけ吃った。
だがそれは悩んでいたからではない。
むしろ答え自体は既に出ている。
そのための覚悟も草川のおかげで決まった。

「俺もやるよ。アンタの父親が俺達にしか出来ないって言ったなら俺達がやるしかないもんな。それに草川みたいなアホだけじゃ心配になるしさ」
「おい、隆昭。そりゃどういう意味だよ!お前だってただの空気じゃねえか!」
「何だと!?草川、お前は俺を怒らせた!」

気にしていた事を言われて、メルフィーの前にも係わらず騒がしく草川に殴り掛かる。
多分、この時の俺達はこんなよく分からない事に巻き込まれても何も変わらない事を確かめたかっただけなのかもしれなかった。

  ◇

5分後、ケンカと口論の応酬を続け、思った以上に体力を消耗した事で不安もあまり感じなくなった。
ふと、5分もほったらかしにしてしまったメルフィーの反応を見ると、何故か暗い表情を浮かべていた気がした。
少しだけ涙も見えたような……

「メルフィーちゃん?大丈夫か?」
「え?どうかしましたか?」

俺が声を掛けるとまるでさっきまでの表情が嘘のようにメルフィーは笑っていた。
そこに違和感を感じて聞いてみようとしたが、そこに玄関が開く音がした。

「ヤバい、お袋だ……」
「……おいおい、マジか?」

隆昭のお袋さんが帰宅してきたらしい。
俺がいるだけならどうとでも言える。だが、俺達二人の組合せにメルフィーが混じると……
とりあえず隆昭にだけ責任をなすりつけて、俺は無関係を装うか……ってアレ、メルフィー?何処に行ったんだ?

「あら!隆昭のお友達なの!ごめんなさいねぇ、何の用意もしてなくて」
「いえいえ、私の方こそ突然お邪魔してしまい、すみませんでした」

何故かメルフィーが、隆昭のお袋さんと仲良く談笑しながらリビングに戻ってきた。
いつの間にかうちの学校の制服に着替えてるし、狐耳もキレイサッパリ無くなってる。
あれ、消せる物だったのか……

「あら、草川君も来てたの?」
「お、お邪魔してます……」
「すいません、私が二人に勉強を手伝って欲しいって無理を言ったんです……」
「いやいや、私も隆昭だけで大丈夫なのかしらー?なんて思ってたのよ。でも、草川君もいるなら心配いらなさそうよね」

何か、気付けばメルフィーの雰囲気が一変してる。
さっきまでの歳不相応な落ち着きは鳴りを潜めて、年相応の柔らかな笑みやしおらしさが出て来ている。
女って恐いな、おい……

「それにしても一人で日本で留学なんて、凄い行動力だねぇ。ホントに家の馬鹿息子がご迷惑をおかけしてないかと心配だわ」

隆昭の言われようも酷いが、何より気になったのは"留学"の二文字。
これはつまり……

「いえ、隆昭君にもいつも助けられてます。凄くいい人で……あ、いけない、もうこんな時間!」

メルフィ―がそう言って、隆昭のお袋さんに頭を下げた。隆昭のお袋さんはメルフィーに対して特に疑念は抱いていないようだった。

「それでは失礼します。また隆昭君にお勉強を教えて貰いに来ても良いですか?」
「えぇ、何時でもいらっしゃい!今度は何かお菓子でも用意しとかないとね……。隆昭、メルフィ―ちゃんを送っていきなさい。女の子一人じゃ危ないから」
「え?……あ、あぁ」
「あ、俺もそろそろ帰ります。お邪魔しました」

  ◇

既に時刻は6時過ぎ、少し外は薄暗い。
今回は隆昭さんのお母さんをごまかして事なきを得たが、今度からは気をつけなきゃ……

「なあ、メルフィー。それってうちの学校の制服だよな?どこで手に入れたんだ?てか、いつ着替えたんだ?」

ああ、そういえば説明してなかったや……
やっぱり取り繕っても私って抜けてるな……
とりあえず右肩を叩いて元の服に戻す。
二人とも眼を見開いてる、やっぱりビックリさせちゃうよね……

「これはトランスインポートと言って、一つの物体に別の物体を圧縮して、必要な時に転送する技術です。この服もそうですが、さっきのカードやホログラムも同じ技術を使っています」
「へ、へぇ……未来の技術って凄いんだな……」

隆昭さんは少しほうけている。今日の話の情報量はかなりのものだ、この反応も仕方ないと思う。
あ、そうだ、転入について話しておかないと……

「えっと……明日から私もお二人の護衛のために遥ノ川高校で、お二人のクラスに留学生として転入します」

一応学生証を見せながら言ってみたけど、反応はそれぞれ違った。
隆昭さんは今にも頭を抱えそうな顔をしているし、草川さんは今にも踊りだしそうな顔をしている。ビックリするぐらい対極的。

「……そうか。それじゃあ明日から、たn」
「大歓迎だって!明日からよろしく!」

やっぱりこの二人は面白い。
全く性格が真逆なのに、何でこんなに相性がピッタリなんだろう?

「それと、これ……」

頭の通信機――狐耳をインポートする。

〈聞こえますか?これは脳波を感知する通信機で、擬似的なテレパシーです。これで緊急時には連絡をしますからお願いします〉
「……俺、君みたいな狐耳、持ってないんだけど」
〈大丈夫です。私のこれが通信する人を認知すれば、その人と通信出来るようになりますので。それにお二人もこの通信機を介して会話できます。喋りたい事を念じて下さい〉
〈……こうか?〉
〈おぉ、すげぇな……〉

二人ともちゃんと会話出来ているようだ。
これなら心配もいらないと思う。

〈あ、そうだ、メルフィーちゃん。俺達に対してはタメ口でいいぜ?同年代だし、明日からクラスメートなんだろ?〉

草川さんがにこやかにそう言った。
どうしようか?未来の二人を知っているから、個人的に少しばかり抵抗がある。

〈……私はこのままでいいです。母からこの様な喋り方をするように教育されたので。でも……〉

でも、少しならいいかもしれない。

〈呼び捨てにして、構わないでしょうか?隆昭さんは隆昭、草川さんは……大輔と〉

〈むしろそう読んでくれた方がいいって!〉
〈お前、少し強引過ぎないか?〉
〈何言ってんだよ、お前も呼び捨てにするんだっての〉
〈うっ……分かってるよ……宜しくな、メルフィー〉

やっぱり、若い時から変わらずに面白いみたい。
平和な日常と同じ事を、戦場でも変わらずに繰り返せたお父さん達は凄い。……でも。

〈じゃあ、私は帰ります。明日からもお願いしますね?隆昭、大輔〉

少しだけ早足。そうしなければ見られるから。
大輔にはさっき一度見られた。ごまかしきれたかは微妙だけど。

私は、歩きながら涙を流す。

いくら取り繕っても私は抜けてるし、涙もろい。
今だって涙が止まらない。
二人は気付いているんだろうか?私が彼等を騙している事に。

  ◇

遥ノ市で最も高いビルの屋上でその男は日が落ち、夜に染まった遥ノ市を見下ろす。
男の顔に表情は浮かばず、先程の警官を殺した時と何一つ変わらぬ感情―――無が張り付いている。
男の姿は季節外れの黒いコート、彼の髪が夜風に靡く。
人差し指と中指でカードを挟み、男はカードに呟く。

「さて、この時代の彼等。どれだけの力を持っているのかな?」

男はその日初めての表情と感情―――笑みと狂喜を浮かべた。

「まぁ、どれだけ強くてもやることは変わらないか――」

その先の言葉は、今度はハッキリと世界に出力された。

「――すぐに殺してあげよう、草川大輔」



To be continued...




  次回予告

転入してきたメルフィーを巡り、隆昭と草川はそれぞれ危機的状況に追い込まれる。

喪盟の追求から逃げる草川、会長の脅迫をやり過ごす隆昭。

そんな中、現れた悪魔――オルトロック・ベイスンがメルフィーの罪をこじ開ける。



次回、Transition



そのカードを引く時、そこに正しさはあるか?






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