それは、ある夜のこと。
三つ編みお下げのミニマム少女、一条 遥は、従者のリヒター・ペネトレイター同伴の買い物帰りに、ガラス砕ける大きな音を聞いた。
ガラスといっても瓶なんかが割れるような音ではないし――――いったい何事だよ。訝しみながら、音のした方向、薄暗い公園へ、そろりそろりと忍び寄ってみると、なんとそこには白いシャツを真っ赤に染めた女性に倒れてる女の子ふたりと、筋骨隆々な男性、ガラの悪そうなチンピラ男に地味なにーちゃん、それらを取り巻く、これまたガラの悪そうなギャラリーたち。
あらやだなんかただ事じゃなさそうだぞと、自前の買い物袋を置いて、全身の関節をほぐす。
戦闘準備。
傍らの騎士も、主の様子を見て戦闘態勢を整える。
問題はどっちが悪い人か、だが――――
視線を巡らせる。よしわかった、マッチョとチンピラが悪いやつ。判断材料:彼らの見た目と場の雰囲気。ついでにストリートファイトは犯罪です、決闘罪です、よい子はマネしちゃダメ、ゼッタイ。
と、いうわけで。
――――わたし、いいおんなのこ、やめます。
胸中にて、人生で何度目かの卒業宣言。そののちアイコンタクト、親指中指人差指でカウント開始。
さん、にー、いち、
「Go a head!!」
疾走、爆走、Let’s & Go!!
放ったドロップキック――――戦闘のプロをして人間バズーカとすら称されるそれは、地味メンの顔面向けて拳を振り下そうとしたマッチョの脇腹を確実にとらえた。大男の態勢がわずかに崩れる。というか、わずかに崩れただけ。とりあえず、その隙にリヒターが地味メンを救出。それを確認しながら身を起こし、制服のプリーツスカートについた砂を払い落とす。
「な、なんだこのガキ!?」
チンピラが吠え、ギャラリーのあいだにざわめきが広がる。
「あんたたちに名乗る名前は――――おっと」
それっぽい決め台詞を言おうとしたのだが、大男の攻撃によってそれは遮られた。
空気読めないなぁまったく。少し不機嫌になりつつも、攻撃はステップ踏んで華麗に回避。そんな大振りの攻撃じゃ当たりませんよ、と不敵に笑って挑発してみせるも、効果なし。いや、それどころか眉ひとつ動かさない、微動だにしない。
何かしらのリアクションがあってもいいんじゃないの? 人間にしては不自然である。
なんか人外みたいだし、こいつは任せるとリヒターに目配せして、ターゲット変更。すばやく、しなやかな動作で踵を返し、チンピラへと疾駆、そして肉薄。「えっ」と面食らうチンピラ野郎。まさか自分は安全だとでも思っていたのかアンポンタンと、うろたえる野郎の袖と襟を掴んで、投げる!
ちょうど同時に、リヒターも人外マッチョを上手いこと無力化していた。
「(ちょっと蹴ったら首が)取れました」
上手いこと、無力化していた。
「え、えーと……よくやった!」
ざわ、ざわ。どん引きするギャラリーを見て、あー、それはちょっとやりすぎなんじゃ……なんて思いつつも、まあいいかとサムズアップ。
「ありがとうございます」
ぺこりとおじぎ。かくして、たったふたりの学生によりストリートファイトはマッハで鎮圧されたのであった。
「まただ、また首を狙いやがって……はっ! よくよく見てみりゃあ、もしやてめぇが本当のBW……ブラック・ウィドウ!」
しばらくして、急襲してきたょぅι゛ょになすすべもなくブン投げられて目を点にしていたチンピラが起き上がり、とんちんかんなことを言い出した。
「はい?」
「え?」
誰ですかそいつは。疑問符を浮かべた遥とリヒターが顔を見合わせる。
「そのBH-Z4型のPRファイター、間違いねぇ! 絶対間違いねぇ! あっはっはっはっは! まさかBWのマスターがこんなガキだったとはな!」
――――いろいろと突っ込みたくなる点が多いがそんなことはどうでもいい。誰がガキやねん、あたしゃ18だよ! 高校3年生だよ!
ぐぎぎ……! 止めを刺してやりたい気持ちをぐっとこらえる。
「フン。いつもBWがマスターを連れずにファイトしている理由がわかったぜ。マスターがこんなガキじゃ、警察に補導されちまうもんな!」
ぐぎぎぎぎ……!
「それにしても、チビのくせに大層な自信だな! PRファイトじゃご法度の奇襲行為を、素顔を晒したまんまでやらかすなんてよ!」
プッチン。
「そったらてめー! 人が黙ってりゃズケズケベラベラ言いよってこのドサンピンが!! 念仏唱えろどちくしょ――――っ!!」
「落ち着いて下さい、一条先輩」
敵ノ殲滅ヲ最優先トスル、なんて文字カットインが出てきそうな勢いで突っ込んでいく遥を羽交い絞めにして引き止めたのは、小さな遥と同じくらいか、ちょっと低いくらいの――――赤い目の後輩、小野寺 識。
「どっから出てきたかわかんないけど離して識ちゃん! やつは生かしちゃおけない! ころす! ぶちころす!」
「どうどう。通り掛かっただけです」
「ぐるるるるる……! ぐるるるるるる……!」
識が体勢はそのまま、興奮する遥の頭を撫でてあやす。荒かった鼻息は、次第に静まっていって。
「一条先輩、リヒター、それと……其処の人達も。早い所此処から逃げた方が良い。騒ぎが大きく成り過ぎたらしい。警察が来る」
ちょっと冷静さを取り戻した遥。周囲を確認してみれば、蜘蛛の子を散らすように逃げていくギャラリーたちと、ちゃっかり逃走準備にかかってるチンピラ&大男。
「覚えていろよ! PRファイトのルールをやぶった罰はきっちり受けてもらうからな!!」
しかも素敵な捨て台詞つき。
「ぐぬぬ……! 次会ったらとっちめる! ぜったい!」
捨て台詞には捨て台詞で返すべし。ものすごく悔しげに吐き捨てると、リヒターに指示を飛ばす。
「逃げるよリヒター! そこに倒れてるふたり、お願い!」
「イエス・マイマスター」
「私は血塗れの彼女を」
識が自分の身長よりも大きな女性を軽々と抱き抱えた。“紅眼”という異能力者である彼女は、常人よりも遥かに身体能力が高い。だからこそ、こんな真似も可能なのだ。
「……人間にしては些か重いな」
「そこの男の人も!」
「え!? ちょっと待て、その警察はハルカが――――」
「え!? なに、呼んだ!?」
「え!? いや、呼んでない!」
「とにかく! ここは逃走、逃走!」
取り残されそうになっている地味めのにーちゃんの手を引っ張って、脱出。
もちろん、買い物袋は忘れずに。
三つ編みお下げのミニマム少女、一条 遥は、従者のリヒター・ペネトレイター同伴の買い物帰りに、ガラス砕ける大きな音を聞いた。
ガラスといっても瓶なんかが割れるような音ではないし――――いったい何事だよ。訝しみながら、音のした方向、薄暗い公園へ、そろりそろりと忍び寄ってみると、なんとそこには白いシャツを真っ赤に染めた女性に倒れてる女の子ふたりと、筋骨隆々な男性、ガラの悪そうなチンピラ男に地味なにーちゃん、それらを取り巻く、これまたガラの悪そうなギャラリーたち。
あらやだなんかただ事じゃなさそうだぞと、自前の買い物袋を置いて、全身の関節をほぐす。
戦闘準備。
傍らの騎士も、主の様子を見て戦闘態勢を整える。
問題はどっちが悪い人か、だが――――
視線を巡らせる。よしわかった、マッチョとチンピラが悪いやつ。判断材料:彼らの見た目と場の雰囲気。ついでにストリートファイトは犯罪です、決闘罪です、よい子はマネしちゃダメ、ゼッタイ。
と、いうわけで。
――――わたし、いいおんなのこ、やめます。
胸中にて、人生で何度目かの卒業宣言。そののちアイコンタクト、親指中指人差指でカウント開始。
さん、にー、いち、
「Go a head!!」
疾走、爆走、Let’s & Go!!
放ったドロップキック――――戦闘のプロをして人間バズーカとすら称されるそれは、地味メンの顔面向けて拳を振り下そうとしたマッチョの脇腹を確実にとらえた。大男の態勢がわずかに崩れる。というか、わずかに崩れただけ。とりあえず、その隙にリヒターが地味メンを救出。それを確認しながら身を起こし、制服のプリーツスカートについた砂を払い落とす。
「な、なんだこのガキ!?」
チンピラが吠え、ギャラリーのあいだにざわめきが広がる。
「あんたたちに名乗る名前は――――おっと」
それっぽい決め台詞を言おうとしたのだが、大男の攻撃によってそれは遮られた。
空気読めないなぁまったく。少し不機嫌になりつつも、攻撃はステップ踏んで華麗に回避。そんな大振りの攻撃じゃ当たりませんよ、と不敵に笑って挑発してみせるも、効果なし。いや、それどころか眉ひとつ動かさない、微動だにしない。
何かしらのリアクションがあってもいいんじゃないの? 人間にしては不自然である。
なんか人外みたいだし、こいつは任せるとリヒターに目配せして、ターゲット変更。すばやく、しなやかな動作で踵を返し、チンピラへと疾駆、そして肉薄。「えっ」と面食らうチンピラ野郎。まさか自分は安全だとでも思っていたのかアンポンタンと、うろたえる野郎の袖と襟を掴んで、投げる!
ちょうど同時に、リヒターも人外マッチョを上手いこと無力化していた。
「(ちょっと蹴ったら首が)取れました」
上手いこと、無力化していた。
「え、えーと……よくやった!」
ざわ、ざわ。どん引きするギャラリーを見て、あー、それはちょっとやりすぎなんじゃ……なんて思いつつも、まあいいかとサムズアップ。
「ありがとうございます」
ぺこりとおじぎ。かくして、たったふたりの学生によりストリートファイトはマッハで鎮圧されたのであった。
「まただ、また首を狙いやがって……はっ! よくよく見てみりゃあ、もしやてめぇが本当のBW……ブラック・ウィドウ!」
しばらくして、急襲してきたょぅι゛ょになすすべもなくブン投げられて目を点にしていたチンピラが起き上がり、とんちんかんなことを言い出した。
「はい?」
「え?」
誰ですかそいつは。疑問符を浮かべた遥とリヒターが顔を見合わせる。
「そのBH-Z4型のPRファイター、間違いねぇ! 絶対間違いねぇ! あっはっはっはっは! まさかBWのマスターがこんなガキだったとはな!」
――――いろいろと突っ込みたくなる点が多いがそんなことはどうでもいい。誰がガキやねん、あたしゃ18だよ! 高校3年生だよ!
ぐぎぎ……! 止めを刺してやりたい気持ちをぐっとこらえる。
「フン。いつもBWがマスターを連れずにファイトしている理由がわかったぜ。マスターがこんなガキじゃ、警察に補導されちまうもんな!」
ぐぎぎぎぎ……!
「それにしても、チビのくせに大層な自信だな! PRファイトじゃご法度の奇襲行為を、素顔を晒したまんまでやらかすなんてよ!」
プッチン。
「そったらてめー! 人が黙ってりゃズケズケベラベラ言いよってこのドサンピンが!! 念仏唱えろどちくしょ――――っ!!」
「落ち着いて下さい、一条先輩」
敵ノ殲滅ヲ最優先トスル、なんて文字カットインが出てきそうな勢いで突っ込んでいく遥を羽交い絞めにして引き止めたのは、小さな遥と同じくらいか、ちょっと低いくらいの――――赤い目の後輩、小野寺 識。
「どっから出てきたかわかんないけど離して識ちゃん! やつは生かしちゃおけない! ころす! ぶちころす!」
「どうどう。通り掛かっただけです」
「ぐるるるるる……! ぐるるるるるる……!」
識が体勢はそのまま、興奮する遥の頭を撫でてあやす。荒かった鼻息は、次第に静まっていって。
「一条先輩、リヒター、それと……其処の人達も。早い所此処から逃げた方が良い。騒ぎが大きく成り過ぎたらしい。警察が来る」
ちょっと冷静さを取り戻した遥。周囲を確認してみれば、蜘蛛の子を散らすように逃げていくギャラリーたちと、ちゃっかり逃走準備にかかってるチンピラ&大男。
「覚えていろよ! PRファイトのルールをやぶった罰はきっちり受けてもらうからな!!」
しかも素敵な捨て台詞つき。
「ぐぬぬ……! 次会ったらとっちめる! ぜったい!」
捨て台詞には捨て台詞で返すべし。ものすごく悔しげに吐き捨てると、リヒターに指示を飛ばす。
「逃げるよリヒター! そこに倒れてるふたり、お願い!」
「イエス・マイマスター」
「私は血塗れの彼女を」
識が自分の身長よりも大きな女性を軽々と抱き抱えた。“紅眼”という異能力者である彼女は、常人よりも遥かに身体能力が高い。だからこそ、こんな真似も可能なのだ。
「……人間にしては些か重いな」
「そこの男の人も!」
「え!? ちょっと待て、その警察はハルカが――――」
「え!? なに、呼んだ!?」
「え!? いや、呼んでない!」
「とにかく! ここは逃走、逃走!」
取り残されそうになっている地味めのにーちゃんの手を引っ張って、脱出。
もちろん、買い物袋は忘れずに。
♪ ♪ ♪
誰もいなくなり、すっかり静かになった夜の公園に、警官隊の足音が響く。
「遅かったか」
「ええ、そのようですわね」
そして遅れて現れる、コートを着た中年男性と、警官ばかりのむさっ苦しい空間には似つかわしくない、ふんわり巻き毛でブレザー姿のお嬢様。
「纏めてしょっ引いてやろうかと思ったんだがな」
足取りは掴めない事も無いが、如何せん数が多過ぎるんだよなぁ。と、溜め息を吐く中年おっさん。その息は、白い。
「しかし通報した本人も居ないとはな……拉致られたか?」
「気楽そうに言いますわね。大事件ではなくって?」
内容とは裏腹に楽天的な口調で呟くおっさんに、お嬢様は怪訝顔。一方おっさんは不敵な笑みを見せながら、
「そうか……君は此処に来てから日が浅いんだったな」
空を仰ぐ。
「昔から、この街にとって悪党はエサでしかないのさ……(キメ顔)」
「わけがわかりません」
「其の内判るさ」
コートを翻して、おっさんが踵を返す。
「撤収だ!」
「遅かったか」
「ええ、そのようですわね」
そして遅れて現れる、コートを着た中年男性と、警官ばかりのむさっ苦しい空間には似つかわしくない、ふんわり巻き毛でブレザー姿のお嬢様。
「纏めてしょっ引いてやろうかと思ったんだがな」
足取りは掴めない事も無いが、如何せん数が多過ぎるんだよなぁ。と、溜め息を吐く中年おっさん。その息は、白い。
「しかし通報した本人も居ないとはな……拉致られたか?」
「気楽そうに言いますわね。大事件ではなくって?」
内容とは裏腹に楽天的な口調で呟くおっさんに、お嬢様は怪訝顔。一方おっさんは不敵な笑みを見せながら、
「そうか……君は此処に来てから日が浅いんだったな」
空を仰ぐ。
「昔から、この街にとって悪党はエサでしかないのさ……(キメ顔)」
「わけがわかりません」
「其の内判るさ」
コートを翻して、おっさんが踵を返す。
「撤収だ!」
♪ ♪ ♪
一方そのころ、遥たちは。
「ふぅ、これくらい離れれば大丈夫かな?」
公園から離れた山にあるジャンク置き場で、一息ついていた。
「離れ過ぎではないでしょうか?」
比較的最近捨てられたとおぼしき冷蔵庫に腰掛けながら、識。
「でも隠れるにはもってこいじゃん?」
「マスター、ここではバリードに遭遇する危険性があります」
「バリードって関節あったっけ?」
「種類に依るかと……いやどう言う事ですか先輩」
「よし、関節があるやつが出てくることを祈ろう!」
「イエス・マイマスター」
「出て来ない事を祈るべきでは……?」
「おっとと、そんなことより。お兄さん、そこのお姉さんたち……大丈夫ですか?」
遥が憔悴しきった様子のにーちゃんに話しかける。
「小泉さんと桃子は大丈夫だと思うけど、ハルカは……」
「え? 私なら大丈夫ですけど」
「いや君じゃなくて……もしかして、君の名前も?」
「はい、一条 遥です」
「リヒター・ペネトレイターです」
「小野寺 識です」
何だこの流れは、と一瞬戸惑いを見せた識だが、とりあえず流れに乗ってみる。
「自己紹介ありがとう……僕は綾小路 真澄。見ての通り……ってわかんないか。ただの大学生だ。それと、彼女たちは――――」
綾小路は、ストリートファイトに巻き込まれるまでに至ったいきさつを語りだす。
「なるほど。つまり、そのブラックなんたらっていう有名なストリートファイターに間違えられて襲われたと」
「ああ……どうやらターゲットはハルカからリヒターさんに移ったみたいだけど」
「傍迷惑な話だな」
「まったくだよ」
綾小路、苦笑。
「とにかく、今はハルカの修理に小泉さんと桃子を休ませる場所を探さないと……」
「なら、近くにいいところがある……かも」
「ふぅ、これくらい離れれば大丈夫かな?」
公園から離れた山にあるジャンク置き場で、一息ついていた。
「離れ過ぎではないでしょうか?」
比較的最近捨てられたとおぼしき冷蔵庫に腰掛けながら、識。
「でも隠れるにはもってこいじゃん?」
「マスター、ここではバリードに遭遇する危険性があります」
「バリードって関節あったっけ?」
「種類に依るかと……いやどう言う事ですか先輩」
「よし、関節があるやつが出てくることを祈ろう!」
「イエス・マイマスター」
「出て来ない事を祈るべきでは……?」
「おっとと、そんなことより。お兄さん、そこのお姉さんたち……大丈夫ですか?」
遥が憔悴しきった様子のにーちゃんに話しかける。
「小泉さんと桃子は大丈夫だと思うけど、ハルカは……」
「え? 私なら大丈夫ですけど」
「いや君じゃなくて……もしかして、君の名前も?」
「はい、一条 遥です」
「リヒター・ペネトレイターです」
「小野寺 識です」
何だこの流れは、と一瞬戸惑いを見せた識だが、とりあえず流れに乗ってみる。
「自己紹介ありがとう……僕は綾小路 真澄。見ての通り……ってわかんないか。ただの大学生だ。それと、彼女たちは――――」
綾小路は、ストリートファイトに巻き込まれるまでに至ったいきさつを語りだす。
「なるほど。つまり、そのブラックなんたらっていう有名なストリートファイターに間違えられて襲われたと」
「ああ……どうやらターゲットはハルカからリヒターさんに移ったみたいだけど」
「傍迷惑な話だな」
「まったくだよ」
綾小路、苦笑。
「とにかく、今はハルカの修理に小泉さんと桃子を休ませる場所を探さないと……」
「なら、近くにいいところがある……かも」
♪ ♪ ♪
そしてたどり着いた、小さな整備工“リングダム・メカニズム”
取って付けたような場所にあるインターフォンのボタンを押す。
『はーい! リングダム・メカニズムです!』
スピーカーから、快活な女の子の声。リングダム・ファミリーが長女、ベル・リングダムだ。
「あ、もしもし一条です。ちょっと力借りたいんだけど、いいかな?」
『あ、遥じゃない! いいよいいよ! あがってあがって!』
シャッターをくぐっておじゃましまーす。
「いらっしゃ……ってどうしたのその人!?」
血まみれ――――実際は擬似血液だが――――の女性を見、肝を潰すベル。
「ちょっと色々有ってな。PRの応急修理を頼みたいんだが」
「PR――――プライベート・ロボットって一口に言っても、いろいろあるから……ちょっとバールに聞いてくる!」
たったかたー。靴音を響かせながら、ベルが奥へと消えていく。それを確認し、綾小路はその場にへたり込んだ。
「あぁ、よかった……なんとかなりそうだ……。ありがとう、君たちにはなんてお礼をしたらいいか」
「礼を言うには未だ早いですよ、綾小路さん。彼女が助かるとも限らない」
まるで死んだように眼を閉じているハルカを見下ろす識。懐から携帯端末を取り出して、BWの動画を検索・表示し、見比べる。
――――成る程。良く見てみれば、確かにBWの姿は彼女とリヒター・ペネトレイターによく似ている。チンピラ連中が見間違えるのも、まあ判らなくもない。
「識ちゃん、なに見てるの?」
「件のBWの動画です」
端末を渡す。しばし真剣に動画を凝視し、遥はこう言った。
「ぜんぜん違うなぁ……」
「え?」
「あ、見た目は似てるんだけど、ほら、ファイトスタイルがね?」
巻き戻して、戦闘の最初から。
画面内では、先ほど相対した人外マッチョとBWが戦っている。マッチョの攻撃を紙一重で回避するが、しかし攻撃はせず、会場が沸き出してから――――フィニッシュ。
「リヒターなら、初っ端から決めにいくもんね」
「イエス・マイマスター」
「だからさ、ファイトスタイルも確認しないで断定するなんて、セコンドとしておかしいと思うんだよねっ」
ぷんすか。似たような立場の人間として、遥には色々と言いたいことがあるようだ。
「準備できたわよー……ってなに怒ってるの遥」
「これこれ。そうかっかしておると、可愛い顔が台無しじゃよ」
そのおり、奥からベルと一緒に白い髭を蓄えた老人がやってきた。リングダム・メカニズムの大黒柱、バール・リングダムである。有名なメカマンの多いこの街において五指に入るほどの実力者であり、直せないものはないとすら言われている。
「じゃあバール、お願いね!」
「おまえはやらねーのかよ!?」
「ちょっとディー! いきなり出てこないでよ! あー、びっくりした!」
ツッコミを入れながら現れたのはディー・リングダム。リングダム・メカニズムの長男だ。
「ふぉっふぉっふぉ、せっかくお友達も来とることじゃしな。これくらい、わしひとりでパパっと解決じゃ」
「さっすがバール! 話がわかるー!」
「すぐにでも始めるとしようかの。さて、ここから先はちょいと子供には刺激が強すぎるでの。さあ、出て行った出て行った」
取って付けたような場所にあるインターフォンのボタンを押す。
『はーい! リングダム・メカニズムです!』
スピーカーから、快活な女の子の声。リングダム・ファミリーが長女、ベル・リングダムだ。
「あ、もしもし一条です。ちょっと力借りたいんだけど、いいかな?」
『あ、遥じゃない! いいよいいよ! あがってあがって!』
シャッターをくぐっておじゃましまーす。
「いらっしゃ……ってどうしたのその人!?」
血まみれ――――実際は擬似血液だが――――の女性を見、肝を潰すベル。
「ちょっと色々有ってな。PRの応急修理を頼みたいんだが」
「PR――――プライベート・ロボットって一口に言っても、いろいろあるから……ちょっとバールに聞いてくる!」
たったかたー。靴音を響かせながら、ベルが奥へと消えていく。それを確認し、綾小路はその場にへたり込んだ。
「あぁ、よかった……なんとかなりそうだ……。ありがとう、君たちにはなんてお礼をしたらいいか」
「礼を言うには未だ早いですよ、綾小路さん。彼女が助かるとも限らない」
まるで死んだように眼を閉じているハルカを見下ろす識。懐から携帯端末を取り出して、BWの動画を検索・表示し、見比べる。
――――成る程。良く見てみれば、確かにBWの姿は彼女とリヒター・ペネトレイターによく似ている。チンピラ連中が見間違えるのも、まあ判らなくもない。
「識ちゃん、なに見てるの?」
「件のBWの動画です」
端末を渡す。しばし真剣に動画を凝視し、遥はこう言った。
「ぜんぜん違うなぁ……」
「え?」
「あ、見た目は似てるんだけど、ほら、ファイトスタイルがね?」
巻き戻して、戦闘の最初から。
画面内では、先ほど相対した人外マッチョとBWが戦っている。マッチョの攻撃を紙一重で回避するが、しかし攻撃はせず、会場が沸き出してから――――フィニッシュ。
「リヒターなら、初っ端から決めにいくもんね」
「イエス・マイマスター」
「だからさ、ファイトスタイルも確認しないで断定するなんて、セコンドとしておかしいと思うんだよねっ」
ぷんすか。似たような立場の人間として、遥には色々と言いたいことがあるようだ。
「準備できたわよー……ってなに怒ってるの遥」
「これこれ。そうかっかしておると、可愛い顔が台無しじゃよ」
そのおり、奥からベルと一緒に白い髭を蓄えた老人がやってきた。リングダム・メカニズムの大黒柱、バール・リングダムである。有名なメカマンの多いこの街において五指に入るほどの実力者であり、直せないものはないとすら言われている。
「じゃあバール、お願いね!」
「おまえはやらねーのかよ!?」
「ちょっとディー! いきなり出てこないでよ! あー、びっくりした!」
ツッコミを入れながら現れたのはディー・リングダム。リングダム・メカニズムの長男だ。
「ふぉっふぉっふぉ、せっかくお友達も来とることじゃしな。これくらい、わしひとりでパパっと解決じゃ」
「さっすがバール! 話がわかるー!」
「すぐにでも始めるとしようかの。さて、ここから先はちょいと子供には刺激が強すぎるでの。さあ、出て行った出て行った」
♪ ♪ ♪
かくして工場を出た一行は今、母屋の居間にいた。
「へぇ~。人違いで襲われるなんて、迷惑な話だね……」
みかんを皆に配る、リングダム・ファミリーの末弟ウェル・リングダム。
「助けがほしいなら俺たちも手伝うぞ」
「うんうん、困ったときはお互い様っていうしねー」
「ありがとー。もしもの時はよろしくね」
ベルから受け取ったみかんのへたを遥が引っこ抜く、ぶちりと、そりゃもう豪快に。
「もしもの時、か……奴の捨て台詞が気掛かりだな」
みかんの皮を綺麗に剥きながら、識がぼそりと呟いた。
「報復とかしてきそうよね、そういう手合いは」
ベルが忌々しげに言ってから、スジつきのままのみかんの房をふたつ、一気に放り込んだ。
「そうそう! そこがめんどくさいんだよね!」
遥もみかんを半分ぱくりと食べる。
「報復か……警察は実害がないと動かないらしいし、しばらくは安心して生活できないなぁ……」
一方綾小路はみかんを食べる気にもなれないのか、机の上にそれを置いて深いため息をひとつ。
その時、居間の扉が開け放たれた。入ってきたのはバールと――――
「ハルカ!」
「ご心配をおかけして申し訳ありません、マスター」
「よかった……本当によかった……! ありがとうございます、バールさん!」
「ふぉっふぉっふぉ。お代はいらんよ。困ったときはお互い様じゃからの!」
バールの言葉に子供たちがうんうんと頷く。
「それよりも、さっき話しとった通り、これからのことを心配せんといかんのう」
「バール、聞いてたのかよ!?」
「遥ちゃんとベルの声がよく聞こえてのぉ……で、どうするんじゃ? ハルカちゃんを改造することはできるが」
「え!? 私を!?」
「いや遥のことじゃないでしょ!?」
「仮面ライダー 一条 遥は改造人間である!」
「ディーもふざけるのはやめなさいって!」
スパーン! ディーの頭にスリッパがクリーンヒット。
そんなドタバタを横目で見ながら、綾小路は言う。
「その選択は絶対にありえません。俺はハルカを危険な目には合わせたくないから」
「うむ、よく言った。それでこそ男の子じゃ」
照れ笑い。
「しかしそうなると、もしもの襲撃にどう対応するかが鍵だな」
「それならあたしにいい考えがあるわよ!」
指をパチンと鳴らしながら、ベル。彼女の視線の先には、リヒター・ペネトレイター。
「私に何か御用でしょうか、ベル・リングダム」
「ああ、なるほどね!」
遥も腕をポンと叩く。彼女の視線の先には、PR ハルカ。
「?」
「?」
ハルカとリヒターの頭上にドでかい疑問符が浮かんだ。
「入れ替わり作戦よ!」
「へぇ~。人違いで襲われるなんて、迷惑な話だね……」
みかんを皆に配る、リングダム・ファミリーの末弟ウェル・リングダム。
「助けがほしいなら俺たちも手伝うぞ」
「うんうん、困ったときはお互い様っていうしねー」
「ありがとー。もしもの時はよろしくね」
ベルから受け取ったみかんのへたを遥が引っこ抜く、ぶちりと、そりゃもう豪快に。
「もしもの時、か……奴の捨て台詞が気掛かりだな」
みかんの皮を綺麗に剥きながら、識がぼそりと呟いた。
「報復とかしてきそうよね、そういう手合いは」
ベルが忌々しげに言ってから、スジつきのままのみかんの房をふたつ、一気に放り込んだ。
「そうそう! そこがめんどくさいんだよね!」
遥もみかんを半分ぱくりと食べる。
「報復か……警察は実害がないと動かないらしいし、しばらくは安心して生活できないなぁ……」
一方綾小路はみかんを食べる気にもなれないのか、机の上にそれを置いて深いため息をひとつ。
その時、居間の扉が開け放たれた。入ってきたのはバールと――――
「ハルカ!」
「ご心配をおかけして申し訳ありません、マスター」
「よかった……本当によかった……! ありがとうございます、バールさん!」
「ふぉっふぉっふぉ。お代はいらんよ。困ったときはお互い様じゃからの!」
バールの言葉に子供たちがうんうんと頷く。
「それよりも、さっき話しとった通り、これからのことを心配せんといかんのう」
「バール、聞いてたのかよ!?」
「遥ちゃんとベルの声がよく聞こえてのぉ……で、どうするんじゃ? ハルカちゃんを改造することはできるが」
「え!? 私を!?」
「いや遥のことじゃないでしょ!?」
「仮面ライダー 一条 遥は改造人間である!」
「ディーもふざけるのはやめなさいって!」
スパーン! ディーの頭にスリッパがクリーンヒット。
そんなドタバタを横目で見ながら、綾小路は言う。
「その選択は絶対にありえません。俺はハルカを危険な目には合わせたくないから」
「うむ、よく言った。それでこそ男の子じゃ」
照れ笑い。
「しかしそうなると、もしもの襲撃にどう対応するかが鍵だな」
「それならあたしにいい考えがあるわよ!」
指をパチンと鳴らしながら、ベル。彼女の視線の先には、リヒター・ペネトレイター。
「私に何か御用でしょうか、ベル・リングダム」
「ああ、なるほどね!」
遥も腕をポンと叩く。彼女の視線の先には、PR ハルカ。
「?」
「?」
ハルカとリヒターの頭上にドでかい疑問符が浮かんだ。
「入れ替わり作戦よ!」
ロボスレ学園:ノリと勢いで交わる物語(前篇)
――――後篇につづく!
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