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第二話『これが……戦車兵だ』

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 すぅっ……と息を大きく吸って、はあっと吐き出す。
 特に緊張している訳ではない。ただひろしは昔から出撃前はこれを行っていたため、いつの間にか癖になっている様だった。
 ひろしは被っているヘルメットを脱ぎ、その傷だらけの面を見つめながら、このヘルメットの本当の持ち主を思い出していた。
 僅か10歳で強制徴兵されたひろしの最初のパートナーであり、そしてひろしにとって最初の戦友だった。
 先程の呼吸もその戦友から、『出撃前の生きて帰るためのおまじない』と称して教えてもらったものである。
 だが、その戦友は――――
 と、外で大音量のマイクの声が鳴り響き、ひろしは思い出す事を中断した。
 脱いだヘルメットを乱暴に被ると、ひろしは自身の愛機『TM-008 タンクマキナ』を大観衆のいるフィールド内に進ませた。
 今は依頼の最中である。昔の事は後回しにして気持ちを切り替えたひろしはふてぶてしく呟く。
「……俺の欲求を少しは満たしてくれんのかなァ……エースさんよ」



鮮血のTank soldier
第二話『これが……戦車兵だ』


 ルートビア・メッコールは自身のカスタマイズしたGEA、『X1近距離特化型カスタム』のコックピットの中で息巻いた。
「ハッ、相手は旧式の『タンクマキナ』一機かよ。ほとんど動かない的を撃ちぬくのはオレにとっちゃ子供のお遊び以下だって!」
 今日このバトルに勝てばルートビアは『コロッセオ』通算10勝目を迎える。
 『コロッセオ』では、ルートビアのような通算9勝の人間はほとんど居ない。なぜなら、みんな敗北しているからだ。
 ルートビアがしようとしているのは『リアルバトル』といって、実弾を使った実戦の為、一発でも当たればドカン!である。
 その為殆どやりたがる人がおらず、残った手練れ達だけの戦いだった。しかし、それも段々相打ちや傷が元で死ぬのが多くなったり、
不可解な失踪で居なくなる為に『リアルバトル』を盛り上げる、と言う理由で引っ張ってこられたのが、『THE 模擬戦』と言う
模擬弾を使ったスペシャルな模擬戦のエースであるルートビアだった。
 『コロッセオ』の運営はルートビアをどうしても10勝させたいらしく、あからさまに確実に勝てる相手を選んでくれている。
 ルートビアは特徴的なクセっ毛をくるくるしながらあと少しで手に入るモノの事を考え、思わずニヤリとした。
「さぁて、サッサと始めようぜ!」
 ルートビアの声と共に『X1近距離特化型カスタム』の黄色いツインアイが発光する。
 『X1近距離特化型カスタム』をフィールドに進ませる。
 フィールドはすでに前の試合の片付けが終わり、正面には無骨な鉄の塊が鎮座していた。
 そして、『X1近距離特化型カスタム』が入ったのを確認して男の声が響き渡る。
『両者準備が整ったようだァ!さあ、本日最後の戦いを始めるぞォ!スリー!』
(先手必勝でいきなりあのガラクタの頭を潰してやる……後はゆっくり嬲り殺せば終わりだ!!)
『ツー!』
 ルートビアは『X1近距離特化型カスタム』の脚部のスラスターを全開に開き、背部のリュックサックと呼ばれるバーニア
をブーストさせた。前進するのを押さえつけるためのストッパーがギリギリと軋んでいくのがコックピット越しでもよく分かる。
『ワン!』
(今だ!ストッパー解除ッ!)
『開始だああああああ!!!』
「うおおおおおおおおっ!!!」
 裂帛の気合いと共にレバーを押し込んだルートビアの体に強烈なGが襲い掛かる。しかし元軍人で、6年前の
第4次スーパーロボt……世界大戦の時から『X1』に乗っているルートビアには慣れと言っていい程の物にしか感じられなかった。
 弾丸の如く正面の『タンクマキナ』に突っ込んで行く『X1近距離特化型カスタム』の、敵機を圧壊させる、と言うどこかの
トンデモ進化マシーンの導きだした答えのようなコンセプトの為に作られた、異常な程に肥大な腕の右腕を大きく振りかぶらせる。
「テメェみたいな戦車兵の時代はなぁ、とっくの昔に終わってんだよォ! つーことで、オレ様がオレ様判断でテメェをギッタギタにしてやる! 
え? この時代遅れの旧式もろともな!」
 敵機が目の前にいると言うのに微動だにしない敵機に向けて外部スピーカーで挑発する。動かないのは怖気づいているのか、あるいは見下しているのか。
ルートビアはどちらでも良かった。なぜかというと彼は、兎に角戦車と戦車兵が大嫌いだからである。理由は未だ謎に包まれている。いわゆる迷宮入りだ。
 最大加速した『X1近距離特化型カスタム』があっという間に『タンクマキナ』の目の前に到達する。躍動する機体が人間の様に拳を振り上げ、そして振り落す。
 ――もらったっ!
 そう思った次の瞬間、機体がバランスを崩してグラリ、と揺れる。そして、そのままドン!と何かの上に落下した。
「ぐおっっっ!?」
 強烈な衝撃がコックピットを襲う。
 ルートビアはモニターに打ち付けた頭をヘルメット越しにさする。←特に効果は無いのでよいこのみんなは注意してね!
「痛ってぇ……一体何が起きたんだうおおおお!?」
 機体を起き上がらせようとレバーを持った瞬間右側に衝撃が走り、サイドのサブモニターに被弾箇所が表示される。
「野郎、下からっ!?」
 ルートビアは慌てて地面らしき物を蹴って後ろへ避難する。
 目の前の『タンクマキナ』は、何一つ変わっていない様に見えたがルートビアはすぐに気が付いた。
「簡易変形機構だと……! この野郎ォ、このオレをナメやがって!!」
 そう。敵の『タンクマキナ』は戦車形態と呼ばれる、全高を少し小さくする形態への変形機構を使って頭部を狙う『X1近距離特化型カスタム』
の攻撃を避けた上に利き腕の方の右腕だけを狙って破壊したのだ。
 まるで、目標がバレバレだ。と言わんばかりに。
 残っているのは左腕と両足のみ。
 ここでこんな、戦車野郎にやられて死ぬわけにはいかない。が、ルートビアはすでにこの『タンクマキナ』を破壊しなければ気が済まなくなっていた。
「貴様ァ……オレが誰だか分かってんのか!? 『コロッセオ』のエース、ルートビア・メッコールだ! 軍人の頃は100回以上の出撃をこなし、
ここでは9戦負け無しのスペシャル様なんだよ!」
 ……さすがにその9戦が『THE 模擬戦』での勝利数だとは口が裂けても言えなかった。
 再び最大出力をもって敵機に殴り掛かる。それしか、ルートビアは敵を破壊する方法が見つからなかった。
 接近する『X1近距離特化型カスタム』を前にして、ようやく『タンクマキナ』が動きを見せた。
 背部から、長距離砲撃用安定テールユニットを出して地面に突き刺す。それだけであった。
 狙い撃ちするのか。それとも何か別の事をするのか。
 それも、完全に逆上したルートビアには関係なくなっていたのだが。
 再び『タンクマキナ』の前にやってきた『X1近距離特化型カスタム』。そのとき、
「今だっ!」
 ルートビアは前に出していた左腕を先程より手前で少し引く。すると、予想外の行動に敵機に動揺の色が見えた。そのままの勢いで右足を『タンクマキナ』に叩きつける。
 ――今度こそっ!
 が、ルートビアの目の前で『タンクマキナ』は素早く砲塔を『左』に向けた。そして、ドンッ!!と主砲を発射したのである。勢いよく『タンクマキナ』が
長距離砲撃用安定テールユニットを軸にして、発射の勢いでグルン!!と回る。
 必殺の蹴りを避けられた『X1近距離特化型カスタム』が再度、バランスを崩し始める。
「のわあああああ!?」
 そこへ、一回転して戻ってきた『タンクマキナ』が背後に現れる。そして――
 主砲を使って勢いよく『X1近距離特化型カスタム』はホームランされた。姿勢制御バーニアを噴かす暇なくフィールドの壁に衝突する。
「ふざ……けるなっ……ふざけんじゃねええええええ!」
 壁から飛び出し、プライドをかなぐり捨ててルートビア・メッコールはなりふり構わず『X1近距離特化型カスタム』を敵機に突っ込ませる。
 その『X1近距離特化型カスタム』に向けて敵機が無造作に両腕の固定武装であるマシンガンを発射する。
「オレはっ!」
 弾丸が左腕を打ち抜き、爆砕させる。
「スペシャルでっ!」
 弾丸が辛うじて引っ付いていた右腕を完全に破壊する。
「負けなしでっ!」
 弾丸が、ペイントの施された『X1近距離特化型カスタム』の頭部を首から破壊する。
「模擬戦なんだよォォォォォォォォおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
 両腕と、頭部を無くした『X1近距離特化型カスタム』は旧式の『タンクマキナ』に一回の攻撃すら与えられずにバランスを崩して倒れ伏した。
 『Error』としか表示されないモニターを殴りつけ、ルートビアは茫然としていた。
 と、不意に敵機からの一方的な通信が送られてくる。


『これが……戦車兵だ。地獄に落ちても忘れるな。』


 そして、次の瞬間。
 『タンクマキナ』の両腕のマシンガンが残った胴体に向けて全ての弾丸を吐き出した。







「さっすがはひろしーーー!止めの刺し方がえげつないね!」
 もみあげ三つ編み少女ロンメルはパイロットスーツから着替え、赤いタンクトップに作業用のズボンをはいた赤毛の少年――ひろしを出迎えていた。
 ひろしは退屈そうに頭をボリボリ掻くと、「うっせえ。誰がひろしだコラ」と適当に返事を返していた。
 ロンメルは、ひろしのパイロットスーツの入った紙袋を両手で持ち上げてフラフラしながらも、先を歩くひろしの後を追いかける。
 ひろしは、カウンターに寄って今回ののファイトマネーとロンメルが事前に賭けていた金額×100倍程の金を受け取ってロンメルにわたす。
「ねーねー。バイトだいはー?」
 地上に上がるエレベーターの中でロンメルがひろしに質問する。
「……高校生以下にゃ払えねーからタダ働きだ」
 そして、むすっとした顔をしたロンメルと、顔に真新しい引っ掻き傷を付けたひろしがエレベーターのある建物から出る。
 と、すぐそこに二人の少女がひろし達を待っていた。
「ひろしーーー!なんで私じゃなくてロリメル連れて行ったのーーー!」
 薄い茶髪で長い髪を後ろで纏めたポニーテールのロンメルより胸のふくらみがある少女がひろしに抱きつく。
 それを見たロンメルが額に青筋を発たせて少女に紙袋を投げつける。
「誰がロリメルだってぇ? ルーデルのスツーカオタクが!」
 ポニーテールの少女――ルーデルが飛んできた紙袋を拳銃で迎撃した。ロンメルの髪を、弾丸が数本散らしていく。
「危ないわっ!!」
「心配無用。威嚇用のゴム弾だから」
 至近距離での発砲は死に至ります。
「死ぬわっ!!」
「え? これって不意打ちに対応するための訓練じゃないの?」
「今訓練してないからっ!! てかそんな訓練ないからっ!!」
 ロンメルはすでに泣きそうになっていた。
 そんな中、ロングの黒髪で右目に眼帯をつけた少女が読んでいたサー・ベイジル・ヘンリー・リデル=ハートの『戦略論』から目を上げて呟く。
「パイロットスーツ……」
 おでことおでこをぶつけ合い、がるるるる!と唸り声を上げていたロンメルとルーデルがロングヘアーの少女――ヘイヘの言葉を聞いて唸るのを止める。
そして、彼女たちの後ろには穴の開いた赤いパイロットスーツを持ったひろしが立っていた。
「コラ待てこのクソガキ共!!!!!!」
「「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!」」
 ひろしとロンメル達の追いかけっこを見ながらヘイヘは呟いた。
「平和……」
 そんなヘイヘの後ろを、一台の救急車が通って「オレはーーーー!ルートビア・メッコ「患者を押さえてて!」と言う会話が聞こえたが、ヘイヘは特にコメントしなかった。

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