蛍光灯に照らされた部屋に、空気を切る音が響く。
ジャブを素早く2回、フックを1回。素早く後ろに体を引いて、回し蹴り。
もう何度目かもわからないその動きを終え、私はスポーツドリンクを口にした。
私はすでにシンブレイカー搭乗用の、例のじゃらじゃらと装飾と飾り布のついたスーツを身につけていた。
汗だくの顔をタオルで拭いて椅子に腰を下ろす。壁の時計に目をやると、もうすぐ午前11時だった。
(『×』はいつも昼間にやってくる……)
私の神経は張りつめていた。
そのとき、テーブルの上に置かれたスマートフォンが振動する。素早く通話ボタンを押し、耳に当てた。
「志野さん、準備はよろしいですか」
だしぬけに高天原の声。
「高天原さん、回復したんですか」
「ええもう、すっかり全快です。準備の方は?」
相変わらず魔学医療のでたらめさには舌を巻く思いだった。
「スーツは着たよ。今から転送準備する」私は立ち上がり、部屋の真ん中のワープ装置の中心に立った。
「準備できたよ」
「それでは息を止めて、じっとしてくださいね。10秒後に転送開始します」
「成功率は?」
「92.66%です」
「ぞっとしないね」
「信頼してください」
「うん、お願い」
私は転送された。
ジャブを素早く2回、フックを1回。素早く後ろに体を引いて、回し蹴り。
もう何度目かもわからないその動きを終え、私はスポーツドリンクを口にした。
私はすでにシンブレイカー搭乗用の、例のじゃらじゃらと装飾と飾り布のついたスーツを身につけていた。
汗だくの顔をタオルで拭いて椅子に腰を下ろす。壁の時計に目をやると、もうすぐ午前11時だった。
(『×』はいつも昼間にやってくる……)
私の神経は張りつめていた。
そのとき、テーブルの上に置かれたスマートフォンが振動する。素早く通話ボタンを押し、耳に当てた。
「志野さん、準備はよろしいですか」
だしぬけに高天原の声。
「高天原さん、回復したんですか」
「ええもう、すっかり全快です。準備の方は?」
相変わらず魔学医療のでたらめさには舌を巻く思いだった。
「スーツは着たよ。今から転送準備する」私は立ち上がり、部屋の真ん中のワープ装置の中心に立った。
「準備できたよ」
「それでは息を止めて、じっとしてくださいね。10秒後に転送開始します」
「成功率は?」
「92.66%です」
「ぞっとしないね」
「信頼してください」
「うん、お願い」
私は転送された。
研究所に着くと、そこには高天原と例の外国人が待ちかまえていた。
私はびっくりして身構えたが、彼は腕を組んで私を見下ろすだけで、何も言葉を発しない。
私は高天原に視線を飛ばした。彼は神妙な面持ちで頷き、言った。
「志野さん、彼と話をつけました」
そう言って彼はマイケルを見る。彼は相変わらずけわしい表情だ。
「……ひとつ、君に訊きたい」
彼は私に向けてそう言った。
「君はなぜ戦っている? 惰性か……それとも自身の意思か」
私は彼を睨み返す。
「自分の意思だよ」
「本当か? 周りが戦いを強要するから、それに順応するために適当な理由をあとづけしたんじゃないのか?」
「うるさいよ、あんた」
私が強くそう言い放つと、マイケルはわずかに目を細めた。高天原はひどく驚いていた。
「いきなり出てきて、なんなの。私たちの戦いに口を挟まないでくれる?」
「……やはり正義のために、お前を殺すか」
「正義正義うっさいよ!」
私は彼の顔を指し、声を張り上げた。
「私には償わなければいけない罪は何もないっ!!」
私の叫びはさして広くないその部屋に反響し、かき消える。
部屋に沈黙がおりた。
その沈黙は一瞬のようにも、とてつもなく長い時間にも感じられた。
私は男の青い目を睨み、彼もまた冷ややかに見つめ返した。
やがて彼がなにか納得したように目を開き、それから細め、口端を吊り上げる。
「……なるほど、そういうことか」
彼はひとりで頷き、高天原に向きなおる。
「所長代理、やったのは誰だ?」
「……調査中です」
「絞ることもできていないのか?」
「……すべての『×』を倒したのちに本格的な調査を行う予定です」
「なるほどな。それまではシンブレイカーは必須であるからな。理解した」
「ちょっと、なんの話ですか?」
私は高天原に訊いた。
彼は私をチラリと見ただけだった。
「監査官、ご理解いただけましたか」
「なぜ本人に教えないのか、それだけが疑問だったが、これではしかたないな」
「だからなんの――」
「志野真実だったか」
マイケルはこっちを見た。
「とりあえず、今回の『×』との戦いは認めてやろう。
だがしかし、その次の『×』がやってくるまでに全ての真実を掴め。
これが私たちフリーメイソンのできる最大の譲歩だ」
「そんなの、いったいなんの権利があって」
「そして残念なことにそれ以上議論する余裕は無いようだ」
男は懐中時計を確認してそう言った。
「『×』が来た」
直後、部屋に聞き覚えのある警報が鳴り響く!
「第5の『×』、出現! 所員は持ち場についてください!」
高天原が腕にはめた端末の画面を見つつ叫んだ。
同時に部屋の中にいた数人の他の職員たちが慌ただしく扉から出ていく。
私は身を強ばらせて、マイケルを見る。彼は落ち着いた様子で私を見下ろしている。
「さぁ、戦え。君の勝利を祈っているよ」
「……さっきまで私を殺そうとしていたくせに」
「無理が通れば道理は引っ込むべきものなのか、それを確かめたくなったのだよ」
理解できず、私は黙った。
「志野さん!」
高天原が私の腕を引く。
「急いでください。シンブレイカーの起動にはあなたの魂が必要です」
「……わかったよ」
私は腕を払い、扉へと足を向けた。
マイケルは不敵に笑っていた。その表情の向こうに悪意とも好奇心ともとれるような複雑な感情を見て、
私の心はざわざわとした不安に包まれた。
私はびっくりして身構えたが、彼は腕を組んで私を見下ろすだけで、何も言葉を発しない。
私は高天原に視線を飛ばした。彼は神妙な面持ちで頷き、言った。
「志野さん、彼と話をつけました」
そう言って彼はマイケルを見る。彼は相変わらずけわしい表情だ。
「……ひとつ、君に訊きたい」
彼は私に向けてそう言った。
「君はなぜ戦っている? 惰性か……それとも自身の意思か」
私は彼を睨み返す。
「自分の意思だよ」
「本当か? 周りが戦いを強要するから、それに順応するために適当な理由をあとづけしたんじゃないのか?」
「うるさいよ、あんた」
私が強くそう言い放つと、マイケルはわずかに目を細めた。高天原はひどく驚いていた。
「いきなり出てきて、なんなの。私たちの戦いに口を挟まないでくれる?」
「……やはり正義のために、お前を殺すか」
「正義正義うっさいよ!」
私は彼の顔を指し、声を張り上げた。
「私には償わなければいけない罪は何もないっ!!」
私の叫びはさして広くないその部屋に反響し、かき消える。
部屋に沈黙がおりた。
その沈黙は一瞬のようにも、とてつもなく長い時間にも感じられた。
私は男の青い目を睨み、彼もまた冷ややかに見つめ返した。
やがて彼がなにか納得したように目を開き、それから細め、口端を吊り上げる。
「……なるほど、そういうことか」
彼はひとりで頷き、高天原に向きなおる。
「所長代理、やったのは誰だ?」
「……調査中です」
「絞ることもできていないのか?」
「……すべての『×』を倒したのちに本格的な調査を行う予定です」
「なるほどな。それまではシンブレイカーは必須であるからな。理解した」
「ちょっと、なんの話ですか?」
私は高天原に訊いた。
彼は私をチラリと見ただけだった。
「監査官、ご理解いただけましたか」
「なぜ本人に教えないのか、それだけが疑問だったが、これではしかたないな」
「だからなんの――」
「志野真実だったか」
マイケルはこっちを見た。
「とりあえず、今回の『×』との戦いは認めてやろう。
だがしかし、その次の『×』がやってくるまでに全ての真実を掴め。
これが私たちフリーメイソンのできる最大の譲歩だ」
「そんなの、いったいなんの権利があって」
「そして残念なことにそれ以上議論する余裕は無いようだ」
男は懐中時計を確認してそう言った。
「『×』が来た」
直後、部屋に聞き覚えのある警報が鳴り響く!
「第5の『×』、出現! 所員は持ち場についてください!」
高天原が腕にはめた端末の画面を見つつ叫んだ。
同時に部屋の中にいた数人の他の職員たちが慌ただしく扉から出ていく。
私は身を強ばらせて、マイケルを見る。彼は落ち着いた様子で私を見下ろしている。
「さぁ、戦え。君の勝利を祈っているよ」
「……さっきまで私を殺そうとしていたくせに」
「無理が通れば道理は引っ込むべきものなのか、それを確かめたくなったのだよ」
理解できず、私は黙った。
「志野さん!」
高天原が私の腕を引く。
「急いでください。シンブレイカーの起動にはあなたの魂が必要です」
「……わかったよ」
私は腕を払い、扉へと足を向けた。
マイケルは不敵に笑っていた。その表情の向こうに悪意とも好奇心ともとれるような複雑な感情を見て、
私の心はざわざわとした不安に包まれた。
曇天の女木戸市は薄暗く、太陽を遮る厚い雲の壁が街を灰色に染めていた。
街中の影はますます濃くなり、それに恐れをなしたのか、それとも何かを察知したのか、
街の人通りは少なかった。
人けの無い灰色の街はまるで亡霊の歩く廃墟のようで、
どことなくこの世ならざる雰囲気を醸し出している。
……その中心に影は立っていた。
影は10メートルはゆうにあるであろう人型で、肥満症のようなシルエットだった。
太い両腕にはそれぞれに細長い紐状の処刑用具――『鞭』を持っている。影は遠くに見える、
街の中心の白いドームを見つめてじっとしていた。
影は待っているのだ。
自らを打ち倒そうとする巨人を。
そしてそれを真正面から叩き潰すそのときを。
ドームの天井が複雑にスライドし、蓮の花のように開く。
その中心から姿を現したのは白銀の鎧に身を包んだ巨大な戦士だ。
街中の影はますます濃くなり、それに恐れをなしたのか、それとも何かを察知したのか、
街の人通りは少なかった。
人けの無い灰色の街はまるで亡霊の歩く廃墟のようで、
どことなくこの世ならざる雰囲気を醸し出している。
……その中心に影は立っていた。
影は10メートルはゆうにあるであろう人型で、肥満症のようなシルエットだった。
太い両腕にはそれぞれに細長い紐状の処刑用具――『鞭』を持っている。影は遠くに見える、
街の中心の白いドームを見つめてじっとしていた。
影は待っているのだ。
自らを打ち倒そうとする巨人を。
そしてそれを真正面から叩き潰すそのときを。
ドームの天井が複雑にスライドし、蓮の花のように開く。
その中心から姿を現したのは白銀の鎧に身を包んだ巨大な戦士だ。
私は深く息を吐き、前方の怪物を見据えた。
2週間ぶりのコクピット内の異空間の高さが少し恐ろしかったが、
闘争心はたやすくその恐怖を吹き飛ばす。
「よし、行く」
静かにそう呟き、腕を持ち上げて腰をわずかに落とし、闘いの構えをとった。
シンブレイカーも連動して同じ構えをとる。
高天原からの通信があった。
「精神リンクに異常はないようですね。志野さん、何か問題ありますか?」
「今回の『×』は?」
「恐らく『鞭打ち』でしょう。広い間合いに気をつけてください。まずはカオスマンで様子を見ますね」
私は頷く。と同時に視界の端をかすめて黒い影が『×』に向かって立ち並ぶビルの上を疾走していく。
カオスマンだ。私は彼が天照耕平という名前で、私の恋人であった人物であることを思い出し、
思わず引き止めようと声を出しかけたが、それをぐっとこらえる。
同時にひとつの疑問が頭に浮かぶ。
(彼はいつカオスマンになったのだろう……?)
きっとそれはとても重要なことなんだ。なぜだかわからないが、そう直感した。
しかし私は頭を振ってその考えを脳から蹴り出した。
ダメだ、集中しなければ。
私は改めて彼の軌道を目で追った。
カオスマンは建物の屋上を蹴り、フェンスを踏み台にして高く跳躍する。
彼の見すえる数百メートル先には周囲のビルよりも高くあり、周囲を威圧する異形の黒い影が
静かに立っている。影には大きな動きは無く、ただはち切れそうな体の側面にだらりと垂らした腕を
わずかに揺らしているだけだ。
『×』はカオスマンの接近にもなんら反応を示さない。気づいていないのか、
もしくは眼中に無いのかはわからないが、そのためにますます不気味だ。
ビルの壁を蹴ったカオスマンは背中の刀を抜き放ち、その刀身を紅く輝かせる。
彼は三角飛びのように複数のビル壁を素早く蹴り、目にもとまらぬスピードで『×』に襲いかかり――
――消失した。
その光景を見ていた誰もが理解できていなかった。今の今まで調子よく空中を疾走し、
ついに打倒すべき怪物に接敵した戦士が一瞬にして全員の視界から消えたのだ。
全ての人間は混乱するよりも思考停止し、しばし呆けた。
さなか、一際早く正気を取り戻して叫んだのは指令室の高天原頼人だった。
「カオスマンを緊急回収ぅ!」
彼の叫びにハッとして、私を含む周囲の職員たちも我にかえり、状況を理解しようとする。
「カオスマン精神バイタル低下! 映像キャッチ、出します!」
続いて誰かの報告があった。直後指令室の水晶とコクピットの空間に像が浮かぶ。
その像を見て理解した瞬間、私は全身が粟立った。
カオスマンは空中を浮遊していた。四肢に力は無く、全身がだらりとしている。
顔は仮面で隠されているために見えないが、おそらく意識は無いと思われた。
しかし何よりも私たちを驚愕させたのは、浮遊する彼の向こうに見える背景だった。
彼の背景には何やら白いもやのようなものが一面にあって、
そのさらに向こう側には途方もなく巨大な、緑と灰色の何かがあるのがもやの小さな切れ目から
覗くことができる。
私の血の気が引いたのは、その正体に気づいたときだった。
あれは山だ。それと街だ。女木戸市だ。
カオスマンは、この街の上空、雲の向こうにいる!
「志野さん、警戒してください!」
高天原が言った。
「おそらく『×』の攻撃です。一体どうやって彼をあそこまで――」
「方法特定」
女性の声が割り込んだ。因幡命だ。
「映像をスローにしたら一発だ。
答えは単純、カオスマンは鞭の一撃であそこまで吹き飛ばされたんだよ」
「そんなまさか!」
私は思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
「鞭の先端の速度は音速を越えるから、それがジャストに当たったなら、
考えられなくもないよ。サイズ差もあるし」
「ということは、この『×』の攻撃はかなり正確であるということですね」
高天原が冷静に分析する。
「それとバッドなニュースがもう1つ」
因幡が続けた。
「カオスマンをワープで回収するのは不可能。
範囲外だし、落下して範囲に入るころには速すぎて捉えられない」
「じゃあ仕方ありませんね」
「えっ?」
「諦めましょう」
高天原がさらりと言ってのけた。
「でも、それじゃ彼が!」
私がそう言うと高天原は落ち着いた調子で返す。
「肉体は魂の容れ物に過ぎませんよ、壊れたら修理すればいい。
彼の魂は別のところに保管してありますし……それより集中してください」
そう言ってのける高天原の声の冷たさに、私は普段の彼のイメージからかけ離れた非情な一面を
見た気がして、つばを呑み込む。
「『×』が移動を始めたよ、こっちに向かってる」
因幡の声がした。
見ると、たしかに『×』はこちらに歩みを進めていた。
一歩一歩体を大きく左右に揺らして歩くそのさまは邪悪だった。
たしかに今は耕平のことばかりを気にかけている場合じゃない。
私はシンブレイカーの腰の破罪刀に手をかけつつ、すり足でにじり寄る。
「アスファルトが駄目になるな」とマイケルのぼやきが聞こえたが無視した。
『×』はその虚ろな目でこちらを見ていた。私はそれをまっすぐに見つめ返し、
腰を落とし、足を曲げて地面を踏みしめる。
「……行きます! 」
次の瞬間、私はアスファルトをまき散らして道路を蹴り、
刀を抜き放ちながら『×』にまっすぐに突っ込んだ。
小細工はするだけ無駄だ。見えないほど速い攻撃なんか避けられないに決まっている。だったら――
(真正面から受けきってやるッ!)
シンブレイカーは抜いた刀の切っ先を下げたまま怪物に突進していく。
高天原たちが大声で「それはいけない」と静止してくるが、
そんなことよりも『×』がカオスマンにした攻撃の酷さに対する憤りのほうが勝った。
しかし直後、額に衝撃!
シンブレイカーは足を前方に投げ出して、天を仰いで道路に倒れた。
思わず手放した刀がくるくると宙を舞って道路わきに突き刺さる。
私も同様にコクピットの中で仰向けに倒れ、打ち付けた後頭部と、
転倒の原因になった激痛の正体を確かめようと額に手をやる。さらなる激痛があり、
眉間を何かぬるぬるしたものが伝う感覚があった。
(嘘でしょ……鞭で額を割られた……!)
くらくらする頭で状況を知り、ぞっとする。
私自身が感じるダメージはシンブレイカーが受けたものよりかなり軽減されているはずなのに――
私は立ち上がる。シンブレイカーも立ち上がった。
『×』は目の前に立っていて、両腕の鞭をブラブラと揺らしている。
私は腕でガード姿勢をとりつつ様子をうかがう。ふと通信の向こう側が騒がしいことに気がついた。
「志野さん、今すぐ後退してください!」
高天原の声だった。
「いや、まだ行ける!」
私がそう返すと、高天原はさらに強い口調になる。
「お願いです! 後退を!」
「まだ行けるって!」
「額の弱点が剥き出しなんですよ!?」
シンブレイカーの額に弱点があるなんて正直初耳だったが、そういうことならしかたないだろう。
「わかったよ……」
無理やり自分を抑えて、ガードを崩さずにじりじりと後ろ歩きで後退を始める。
だが『×』がそれを黙って見過ごすわけがなかった。
一瞬だった。足首に何かが絡みつく感触があった直後、
シンブレイカーの14メートルはある巨体がグイと引っ張られて再び転倒し、
そのまま『×』に引っ張られはじめたのだ。
「額の文字を守って!」
高天原が叫ぶ。私は反射的にその声に従った。
凄まじい振動と砂埃を上げながら巨人は『×』の目の前まで再び引き摺り戻される。
『×』のもう片腕に握られた鞭が振り下ろされてシンブレイカーを打ち付けた。
撒き散らされる砂とともに腕の装甲が弾き飛ばされるのが見える。
私は想像をはるかに越える痛みに歯を食いしばりつつ、『×』が腕を振り上げたときの一瞬の隙を突いた。
自由な方の足を振り上げ、つま先の先端の光のブレードを『×』の突き出た腹に突き刺し、
縦に大きく裂く!
『×』は絶叫し、腹からコールタールのようにドロドロとした黒い液体を噴出させる。
私はすぐさま足の鞭を切断し、『×』に背を向けて走り出した。
研究所の前で振り返ると、離れた場所で『×』が腹の傷を押さえているのが見える。
私はシンブレイカーの状態を確認した。
シンブレイカーは頭部装甲と両腕の装甲が完全に砕かれ、白い砂の地肌が剥き出しになっていた。
私は巨人の額に何やら数個のアルファベットが刻まれていることをそこで初めて知ったが、
その単語は私が知らないものだった。
「後退したけど、どうすればいいの」
私は訊いたが返事が無い。よく耳をすますとどうやら高天原はマイケルと話しているようだった。
会話の内容は聞き取れず、私はこんなときに悠長な、と少し不快になる。
「志野さん、おまたせしました」
やっと高天原がマイクを持った。
「で、どうすんの」
「シンブレイカーを捨てます」
「え?」
私はいきなりのことに少し驚く。
「やっと許可が下りました……今からあなたが乗るゴーレムはシンブレイカーではありません」
「ちょ、どういうこと?」
「私のあとに唱えてください!『我に咎なし 汝に罪なし』!」
「わ、我に咎なし、汝に罪なし!」
わけがわからないが、とにかく指示に従う。
『×』はすでに再生を終え、じりじりとこちらに迫ってきている。
「『我は浄化の焔を従え 清き刃にて切り開く』!」
「我は浄化の焔を従え、清き刃にて切り開く!」
「『己が未来と運命を』!」
「己が未来と運命を――!?」
そのとき、近づいた『×』の鞭がシンブレイカーの腹を直撃する!
巨人は体を折り曲げ、片膝を突いた。
同じ姿勢の私は喉の奥に熱いものがこみ上げるのを呑み込みながら、高天原の次の言葉を受け取った。
そして口元を拭い、あらん限りの大声で叫ぶ!
2週間ぶりのコクピット内の異空間の高さが少し恐ろしかったが、
闘争心はたやすくその恐怖を吹き飛ばす。
「よし、行く」
静かにそう呟き、腕を持ち上げて腰をわずかに落とし、闘いの構えをとった。
シンブレイカーも連動して同じ構えをとる。
高天原からの通信があった。
「精神リンクに異常はないようですね。志野さん、何か問題ありますか?」
「今回の『×』は?」
「恐らく『鞭打ち』でしょう。広い間合いに気をつけてください。まずはカオスマンで様子を見ますね」
私は頷く。と同時に視界の端をかすめて黒い影が『×』に向かって立ち並ぶビルの上を疾走していく。
カオスマンだ。私は彼が天照耕平という名前で、私の恋人であった人物であることを思い出し、
思わず引き止めようと声を出しかけたが、それをぐっとこらえる。
同時にひとつの疑問が頭に浮かぶ。
(彼はいつカオスマンになったのだろう……?)
きっとそれはとても重要なことなんだ。なぜだかわからないが、そう直感した。
しかし私は頭を振ってその考えを脳から蹴り出した。
ダメだ、集中しなければ。
私は改めて彼の軌道を目で追った。
カオスマンは建物の屋上を蹴り、フェンスを踏み台にして高く跳躍する。
彼の見すえる数百メートル先には周囲のビルよりも高くあり、周囲を威圧する異形の黒い影が
静かに立っている。影には大きな動きは無く、ただはち切れそうな体の側面にだらりと垂らした腕を
わずかに揺らしているだけだ。
『×』はカオスマンの接近にもなんら反応を示さない。気づいていないのか、
もしくは眼中に無いのかはわからないが、そのためにますます不気味だ。
ビルの壁を蹴ったカオスマンは背中の刀を抜き放ち、その刀身を紅く輝かせる。
彼は三角飛びのように複数のビル壁を素早く蹴り、目にもとまらぬスピードで『×』に襲いかかり――
――消失した。
その光景を見ていた誰もが理解できていなかった。今の今まで調子よく空中を疾走し、
ついに打倒すべき怪物に接敵した戦士が一瞬にして全員の視界から消えたのだ。
全ての人間は混乱するよりも思考停止し、しばし呆けた。
さなか、一際早く正気を取り戻して叫んだのは指令室の高天原頼人だった。
「カオスマンを緊急回収ぅ!」
彼の叫びにハッとして、私を含む周囲の職員たちも我にかえり、状況を理解しようとする。
「カオスマン精神バイタル低下! 映像キャッチ、出します!」
続いて誰かの報告があった。直後指令室の水晶とコクピットの空間に像が浮かぶ。
その像を見て理解した瞬間、私は全身が粟立った。
カオスマンは空中を浮遊していた。四肢に力は無く、全身がだらりとしている。
顔は仮面で隠されているために見えないが、おそらく意識は無いと思われた。
しかし何よりも私たちを驚愕させたのは、浮遊する彼の向こうに見える背景だった。
彼の背景には何やら白いもやのようなものが一面にあって、
そのさらに向こう側には途方もなく巨大な、緑と灰色の何かがあるのがもやの小さな切れ目から
覗くことができる。
私の血の気が引いたのは、その正体に気づいたときだった。
あれは山だ。それと街だ。女木戸市だ。
カオスマンは、この街の上空、雲の向こうにいる!
「志野さん、警戒してください!」
高天原が言った。
「おそらく『×』の攻撃です。一体どうやって彼をあそこまで――」
「方法特定」
女性の声が割り込んだ。因幡命だ。
「映像をスローにしたら一発だ。
答えは単純、カオスマンは鞭の一撃であそこまで吹き飛ばされたんだよ」
「そんなまさか!」
私は思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。
「鞭の先端の速度は音速を越えるから、それがジャストに当たったなら、
考えられなくもないよ。サイズ差もあるし」
「ということは、この『×』の攻撃はかなり正確であるということですね」
高天原が冷静に分析する。
「それとバッドなニュースがもう1つ」
因幡が続けた。
「カオスマンをワープで回収するのは不可能。
範囲外だし、落下して範囲に入るころには速すぎて捉えられない」
「じゃあ仕方ありませんね」
「えっ?」
「諦めましょう」
高天原がさらりと言ってのけた。
「でも、それじゃ彼が!」
私がそう言うと高天原は落ち着いた調子で返す。
「肉体は魂の容れ物に過ぎませんよ、壊れたら修理すればいい。
彼の魂は別のところに保管してありますし……それより集中してください」
そう言ってのける高天原の声の冷たさに、私は普段の彼のイメージからかけ離れた非情な一面を
見た気がして、つばを呑み込む。
「『×』が移動を始めたよ、こっちに向かってる」
因幡の声がした。
見ると、たしかに『×』はこちらに歩みを進めていた。
一歩一歩体を大きく左右に揺らして歩くそのさまは邪悪だった。
たしかに今は耕平のことばかりを気にかけている場合じゃない。
私はシンブレイカーの腰の破罪刀に手をかけつつ、すり足でにじり寄る。
「アスファルトが駄目になるな」とマイケルのぼやきが聞こえたが無視した。
『×』はその虚ろな目でこちらを見ていた。私はそれをまっすぐに見つめ返し、
腰を落とし、足を曲げて地面を踏みしめる。
「……行きます! 」
次の瞬間、私はアスファルトをまき散らして道路を蹴り、
刀を抜き放ちながら『×』にまっすぐに突っ込んだ。
小細工はするだけ無駄だ。見えないほど速い攻撃なんか避けられないに決まっている。だったら――
(真正面から受けきってやるッ!)
シンブレイカーは抜いた刀の切っ先を下げたまま怪物に突進していく。
高天原たちが大声で「それはいけない」と静止してくるが、
そんなことよりも『×』がカオスマンにした攻撃の酷さに対する憤りのほうが勝った。
しかし直後、額に衝撃!
シンブレイカーは足を前方に投げ出して、天を仰いで道路に倒れた。
思わず手放した刀がくるくると宙を舞って道路わきに突き刺さる。
私も同様にコクピットの中で仰向けに倒れ、打ち付けた後頭部と、
転倒の原因になった激痛の正体を確かめようと額に手をやる。さらなる激痛があり、
眉間を何かぬるぬるしたものが伝う感覚があった。
(嘘でしょ……鞭で額を割られた……!)
くらくらする頭で状況を知り、ぞっとする。
私自身が感じるダメージはシンブレイカーが受けたものよりかなり軽減されているはずなのに――
私は立ち上がる。シンブレイカーも立ち上がった。
『×』は目の前に立っていて、両腕の鞭をブラブラと揺らしている。
私は腕でガード姿勢をとりつつ様子をうかがう。ふと通信の向こう側が騒がしいことに気がついた。
「志野さん、今すぐ後退してください!」
高天原の声だった。
「いや、まだ行ける!」
私がそう返すと、高天原はさらに強い口調になる。
「お願いです! 後退を!」
「まだ行けるって!」
「額の弱点が剥き出しなんですよ!?」
シンブレイカーの額に弱点があるなんて正直初耳だったが、そういうことならしかたないだろう。
「わかったよ……」
無理やり自分を抑えて、ガードを崩さずにじりじりと後ろ歩きで後退を始める。
だが『×』がそれを黙って見過ごすわけがなかった。
一瞬だった。足首に何かが絡みつく感触があった直後、
シンブレイカーの14メートルはある巨体がグイと引っ張られて再び転倒し、
そのまま『×』に引っ張られはじめたのだ。
「額の文字を守って!」
高天原が叫ぶ。私は反射的にその声に従った。
凄まじい振動と砂埃を上げながら巨人は『×』の目の前まで再び引き摺り戻される。
『×』のもう片腕に握られた鞭が振り下ろされてシンブレイカーを打ち付けた。
撒き散らされる砂とともに腕の装甲が弾き飛ばされるのが見える。
私は想像をはるかに越える痛みに歯を食いしばりつつ、『×』が腕を振り上げたときの一瞬の隙を突いた。
自由な方の足を振り上げ、つま先の先端の光のブレードを『×』の突き出た腹に突き刺し、
縦に大きく裂く!
『×』は絶叫し、腹からコールタールのようにドロドロとした黒い液体を噴出させる。
私はすぐさま足の鞭を切断し、『×』に背を向けて走り出した。
研究所の前で振り返ると、離れた場所で『×』が腹の傷を押さえているのが見える。
私はシンブレイカーの状態を確認した。
シンブレイカーは頭部装甲と両腕の装甲が完全に砕かれ、白い砂の地肌が剥き出しになっていた。
私は巨人の額に何やら数個のアルファベットが刻まれていることをそこで初めて知ったが、
その単語は私が知らないものだった。
「後退したけど、どうすればいいの」
私は訊いたが返事が無い。よく耳をすますとどうやら高天原はマイケルと話しているようだった。
会話の内容は聞き取れず、私はこんなときに悠長な、と少し不快になる。
「志野さん、おまたせしました」
やっと高天原がマイクを持った。
「で、どうすんの」
「シンブレイカーを捨てます」
「え?」
私はいきなりのことに少し驚く。
「やっと許可が下りました……今からあなたが乗るゴーレムはシンブレイカーではありません」
「ちょ、どういうこと?」
「私のあとに唱えてください!『我に咎なし 汝に罪なし』!」
「わ、我に咎なし、汝に罪なし!」
わけがわからないが、とにかく指示に従う。
『×』はすでに再生を終え、じりじりとこちらに迫ってきている。
「『我は浄化の焔を従え 清き刃にて切り開く』!」
「我は浄化の焔を従え、清き刃にて切り開く!」
「『己が未来と運命を』!」
「己が未来と運命を――!?」
そのとき、近づいた『×』の鞭がシンブレイカーの腹を直撃する!
巨人は体を折り曲げ、片膝を突いた。
同じ姿勢の私は喉の奥に熱いものがこみ上げるのを呑み込みながら、高天原の次の言葉を受け取った。
そして口元を拭い、あらん限りの大声で叫ぶ!
「抜刀! 浄罪の剣、シンブレイバーッ!!」
――直後、女木戸市の中心に天からの閃光が突き刺さった。それは目も眩むほどにまばゆい光柱であり、
街を覆う灰色の雲海を突き抜け、一迅の風とともに吹き飛ばす。
『×』は太陽の光に目を細めた。そしてその瞬間、『×』の上半身が横に回転した。
上半身と下半身が分断されていた。ふたつに分かたれたそれぞれのパーツはしかも次の瞬間に
さらに無数の黒い塊に分断される。その傷口はただれ、切り分けられた直後に発火した。
炎に包まれる『×』。その中で唯一『×』の片腕だけが自ら発火部位を切り捨てて大通りを逃げ出していた。
『×』の腕は敵から距離をとると、肘から先をニュっと伸ばして鞭のかたちにし、
腕の途中に目玉を新たに作り上げて、敵を見た。
その瞳には先程までの白い巨人は写っていなかった。
女木戸市の中心に立つ巨人は鎧をまとった巨人でなく、もはや剣そのものだった。
両足のスネの装甲には身の丈ほどの無骨なデザインの大剣が接続されており、
刃の淵が紅く発光している。両腕の外側にも同じかたちの少し小さめの剣がついていて、
それらの刃はひじ側に向かって伸びていた。
全身を覆っていた装甲は大きく削られ、代わりに古代ローマの戦士のような腰布がベルトと鋲で
素肌に直接留められている。頭部全体を覆うマスクの正面にも刃がついていて、シルエットは一本角の鬼のようだ。
肩の付け根からは魔学を用いた重力軽減装置が頭の後方を通るアーチを描いていて、
曲線の途中から後方へ放射状に広がった四枚の板状の機械は古代の神仏の図像に見られる後光のようでもある。
力強く、神々しい剣士。浄罪の刃を全身に身につけたその姿はそう形容された。
街を覆う灰色の雲海を突き抜け、一迅の風とともに吹き飛ばす。
『×』は太陽の光に目を細めた。そしてその瞬間、『×』の上半身が横に回転した。
上半身と下半身が分断されていた。ふたつに分かたれたそれぞれのパーツはしかも次の瞬間に
さらに無数の黒い塊に分断される。その傷口はただれ、切り分けられた直後に発火した。
炎に包まれる『×』。その中で唯一『×』の片腕だけが自ら発火部位を切り捨てて大通りを逃げ出していた。
『×』の腕は敵から距離をとると、肘から先をニュっと伸ばして鞭のかたちにし、
腕の途中に目玉を新たに作り上げて、敵を見た。
その瞳には先程までの白い巨人は写っていなかった。
女木戸市の中心に立つ巨人は鎧をまとった巨人でなく、もはや剣そのものだった。
両足のスネの装甲には身の丈ほどの無骨なデザインの大剣が接続されており、
刃の淵が紅く発光している。両腕の外側にも同じかたちの少し小さめの剣がついていて、
それらの刃はひじ側に向かって伸びていた。
全身を覆っていた装甲は大きく削られ、代わりに古代ローマの戦士のような腰布がベルトと鋲で
素肌に直接留められている。頭部全体を覆うマスクの正面にも刃がついていて、シルエットは一本角の鬼のようだ。
肩の付け根からは魔学を用いた重力軽減装置が頭の後方を通るアーチを描いていて、
曲線の途中から後方へ放射状に広がった四枚の板状の機械は古代の神仏の図像に見られる後光のようでもある。
力強く、神々しい剣士。浄罪の刃を全身に身につけたその姿はそう形容された。
私はコクピットの中であっけにとられていた。
いったいぜんたい何が起こったのかわからない。私は一歩も動いていないはずなのに、
シンブレイカーではない巨人の胸にいる。私は高天原に説明を求めた。
「『シンブレイバー』です」
彼の自信満々な声がするが、さっぱりわからない。
「シンブレイカーを対『×』用に、ワープを用いて換装しました。
これは完全に対『×』戦闘用サンドゴーレムです!」
「保安用や一部の例外を除いて、魔学を用いて純粋な兵器を作ることはフリーメイソンの規則違反だ」
マイケルのぶすっとした声がする。
「許可をくださってありがとうございます」
「私は何も見ていないし聞いていない」
「完全な、対『×』用兵器……?」
私は送られてきたシンブレイバーのデータを確認した。
両足に2本の大剣と両腕に2本の剣が装備されたその立ち姿は正面から見ると漢字の『炎』のようだ。
誤って自分を斬ってしまいそうでこわい、と漏らすと高天原の解説が入った。
「4本の剣はそれぞれが柄と刃の接続部でおじぎするように可動します。
コンピュータがシンブレイバーの姿勢を判断して刃の角度を自動変更し、
絶対に他のパーツに干渉したりさせません」
それを聞いて試しに足を持ち上げてみる。すると大剣の刃がぐいと前方に倒れ、動きの邪魔をしないでくれた。
「なるほど」
「同様に攻撃動作の際にも自動的に刃の角度が変更され、なるべく敵に当たるようにします。
志野さん、どちらかの足の剣を抜いてみてください」
私は右足を持ち上げ、スネに接続されている大剣の柄を掴み、足との接続を外す。
アーチ型に湾曲した柄には丈夫な呪布が巻かれていてよく手に馴染んだ。
大剣は見た目に反して軽く、びっくりしたが、それは両の肩から頭部後方でつながった重力軽減装置の
おかげだと高天原が解説した。
大剣を構える。刃のふちは紅く発光していて、腕に装備されている同じ形状の剣も合わさってまるで
腕自体が巨大な刃のように見える。
「さて解説はこのくらいにして、志野さん」
高天原が言った。
「来ますよ」
私はあらためて『×』を見すえた。腕だけになった怪物は解説の間も再生を続けていて、
すでに上半身までを形作っていた。そして胸の下、
腹以下にはくらげの触手のように無数の鞭が垂れ下がっている。
「もう原型ないね」
私は大剣を構えた。どのように斬るべきだろうか。そんなことに悩んでいると『×』が動きを見せた。
『×』は地面に突いた両腕を長く伸ばし、足の役目もさせていた。
その状態で『×』は腹をこちらに向け、断面から生えるムチをいくつも伸ばし、
こちらの動きを封じようと手足を狙ってきた。
からみついてきたそれらの鞭はしかしシンブレイバーの四肢の刃が自動で切断する。
唯一無防備な右足は自力で防御した。
そして刃から発せられる、傷口を焼く浄化の炎に『×』が身をよじって怯むのを私は見逃さなかった。
やるなら今だ、と私は大剣を地面と水平に構えて『×』に向かって駆けだした!
その姿を見ていたマイケルは「中世の騎士のランスのようだ」と感想をこぼす。
高天原は部下に炎の出力を上げるように指示をした。
剣の刃から燃え上がった炎は一気に大きくなり、巨大な槍の穂先のようなかたちなって『×』を貫く!
「まだまだァ!」
そのまま刃をかえし、斬り上げた。
『×』の身体は大きく引き裂かれつつ、空中高くに放られる。
炎は怪物の真ん中の大穴からじわじわと広がっていたが、
怪物が再び自身の一部を分離させて復活しようとするそぶりを斬り上げた肩越しに見てとった私は
反射的に地面を蹴っていた。
巨人が空高く跳躍した。
私は大剣をさらに上空に放り投げた。間髪入れずそれぞれ反対側の腕についている剣をとり、
大剣同様に燃え上がる刃のそれを空中で『×』の両肩に投げ刺した。
そのまま身体をひねり空中回し蹴りのモーション。すると足の大剣が柄と刃のつけ根で倒れて
『×』の身体を効率よく袈裟斬りにする。すかさず私は片手を上げて、落下してきたさっきの大剣の柄を
再び掴んだ。
いったいぜんたい何が起こったのかわからない。私は一歩も動いていないはずなのに、
シンブレイカーではない巨人の胸にいる。私は高天原に説明を求めた。
「『シンブレイバー』です」
彼の自信満々な声がするが、さっぱりわからない。
「シンブレイカーを対『×』用に、ワープを用いて換装しました。
これは完全に対『×』戦闘用サンドゴーレムです!」
「保安用や一部の例外を除いて、魔学を用いて純粋な兵器を作ることはフリーメイソンの規則違反だ」
マイケルのぶすっとした声がする。
「許可をくださってありがとうございます」
「私は何も見ていないし聞いていない」
「完全な、対『×』用兵器……?」
私は送られてきたシンブレイバーのデータを確認した。
両足に2本の大剣と両腕に2本の剣が装備されたその立ち姿は正面から見ると漢字の『炎』のようだ。
誤って自分を斬ってしまいそうでこわい、と漏らすと高天原の解説が入った。
「4本の剣はそれぞれが柄と刃の接続部でおじぎするように可動します。
コンピュータがシンブレイバーの姿勢を判断して刃の角度を自動変更し、
絶対に他のパーツに干渉したりさせません」
それを聞いて試しに足を持ち上げてみる。すると大剣の刃がぐいと前方に倒れ、動きの邪魔をしないでくれた。
「なるほど」
「同様に攻撃動作の際にも自動的に刃の角度が変更され、なるべく敵に当たるようにします。
志野さん、どちらかの足の剣を抜いてみてください」
私は右足を持ち上げ、スネに接続されている大剣の柄を掴み、足との接続を外す。
アーチ型に湾曲した柄には丈夫な呪布が巻かれていてよく手に馴染んだ。
大剣は見た目に反して軽く、びっくりしたが、それは両の肩から頭部後方でつながった重力軽減装置の
おかげだと高天原が解説した。
大剣を構える。刃のふちは紅く発光していて、腕に装備されている同じ形状の剣も合わさってまるで
腕自体が巨大な刃のように見える。
「さて解説はこのくらいにして、志野さん」
高天原が言った。
「来ますよ」
私はあらためて『×』を見すえた。腕だけになった怪物は解説の間も再生を続けていて、
すでに上半身までを形作っていた。そして胸の下、
腹以下にはくらげの触手のように無数の鞭が垂れ下がっている。
「もう原型ないね」
私は大剣を構えた。どのように斬るべきだろうか。そんなことに悩んでいると『×』が動きを見せた。
『×』は地面に突いた両腕を長く伸ばし、足の役目もさせていた。
その状態で『×』は腹をこちらに向け、断面から生えるムチをいくつも伸ばし、
こちらの動きを封じようと手足を狙ってきた。
からみついてきたそれらの鞭はしかしシンブレイバーの四肢の刃が自動で切断する。
唯一無防備な右足は自力で防御した。
そして刃から発せられる、傷口を焼く浄化の炎に『×』が身をよじって怯むのを私は見逃さなかった。
やるなら今だ、と私は大剣を地面と水平に構えて『×』に向かって駆けだした!
その姿を見ていたマイケルは「中世の騎士のランスのようだ」と感想をこぼす。
高天原は部下に炎の出力を上げるように指示をした。
剣の刃から燃え上がった炎は一気に大きくなり、巨大な槍の穂先のようなかたちなって『×』を貫く!
「まだまだァ!」
そのまま刃をかえし、斬り上げた。
『×』の身体は大きく引き裂かれつつ、空中高くに放られる。
炎は怪物の真ん中の大穴からじわじわと広がっていたが、
怪物が再び自身の一部を分離させて復活しようとするそぶりを斬り上げた肩越しに見てとった私は
反射的に地面を蹴っていた。
巨人が空高く跳躍した。
私は大剣をさらに上空に放り投げた。間髪入れずそれぞれ反対側の腕についている剣をとり、
大剣同様に燃え上がる刃のそれを空中で『×』の両肩に投げ刺した。
そのまま身体をひねり空中回し蹴りのモーション。すると足の大剣が柄と刃のつけ根で倒れて
『×』の身体を効率よく袈裟斬りにする。すかさず私は片手を上げて、落下してきたさっきの大剣の柄を
再び掴んだ。
「シンブレイバー・煉獄連断ッ!」
なぜか高天原が叫んだ。
振り下ろした大剣により『×』はさらに分断され、
小さくなった破片はもはや炎から逃れる術をもっていなかった。
私は着地する。重力軽減装置のおかげで衝撃は軽い。
そして久しぶりにあの言葉を叫ぶ。
「『鞭打ち』、滅却おわり!」
振り下ろした大剣により『×』はさらに分断され、
小さくなった破片はもはや炎から逃れる術をもっていなかった。
私は着地する。重力軽減装置のおかげで衝撃は軽い。
そして久しぶりにあの言葉を叫ぶ。
「『鞭打ち』、滅却おわり!」