足下の砂利を踏み鳴らして、私は星の少ない夜空を見上げた。
かなたに見えるはずの下弦の月は雲の向こうに姿を隠している。
その様がまるで都市の光から逃げているように見えて、私は生まれてはじめてこの街に良くない感情を抱いた。
畑の真ん中の自販機コーナーでは3台の自動販売機が薄ぼんやりと周囲を照らしている。
道路を挟んだ向かい側には駐車場があったが、今は自動車の姿は1台もなかった。
視線を横にやると、道路からこの自販機コーナーを隠すようにそびえ立つ大きな貸看板の裏側が目に入る。
(この看板があったから、私が飛び出すのに気づけなかったんだな……)
私は道路の左右を見渡して、自動車の気配が無いことを確認してからその真ん中に立った。
スマートフォンのライトで足下を照らすと、アスファルトの真ん中に引かれた白線が闇に浮かぶ。
そこに私はかすかな変色のあとを認めたが、よほど注意深く見なければ気づかないだろうと思った。
私の体から流れ出た血液はすっかりあの時降っていた夕立に洗い流されてしまったのだ。
私はどういうわけかひどく鮮明にその情景が想像できた。
その直後私は遠方からのエンジン音を聞き、あわてて駐車場へと避難する。
ややあって、猛スピードのミニバンが数台道路を駆け抜けていった。
側面に貼られた派手なステッカーや悪趣味な車体の色から察するに、
ときどき町外れで見かける暴走グループだろう。もしかしたら私を撥ねたのも彼らのうちの1台だったのかも
しれないが、確かめる術は無かった。
私は彼らの騒音が聞こえなくなるまで待って、それからあらためて周囲を見渡す。
……静かな場所だった。
子供のころから通っていた場所だった。
小学生のころ、初恋の人とやってきた場所だった。
中学のころ、部活の大会で負けて、ひとりで泣いた場所だった。
高校のころ、将来のことを考えるためによく通った場所だった。
そして、私はここで死んだんだ。
私は目をつぶる。
私は昼間の八意との会話を思い出していた。
かなたに見えるはずの下弦の月は雲の向こうに姿を隠している。
その様がまるで都市の光から逃げているように見えて、私は生まれてはじめてこの街に良くない感情を抱いた。
畑の真ん中の自販機コーナーでは3台の自動販売機が薄ぼんやりと周囲を照らしている。
道路を挟んだ向かい側には駐車場があったが、今は自動車の姿は1台もなかった。
視線を横にやると、道路からこの自販機コーナーを隠すようにそびえ立つ大きな貸看板の裏側が目に入る。
(この看板があったから、私が飛び出すのに気づけなかったんだな……)
私は道路の左右を見渡して、自動車の気配が無いことを確認してからその真ん中に立った。
スマートフォンのライトで足下を照らすと、アスファルトの真ん中に引かれた白線が闇に浮かぶ。
そこに私はかすかな変色のあとを認めたが、よほど注意深く見なければ気づかないだろうと思った。
私の体から流れ出た血液はすっかりあの時降っていた夕立に洗い流されてしまったのだ。
私はどういうわけかひどく鮮明にその情景が想像できた。
その直後私は遠方からのエンジン音を聞き、あわてて駐車場へと避難する。
ややあって、猛スピードのミニバンが数台道路を駆け抜けていった。
側面に貼られた派手なステッカーや悪趣味な車体の色から察するに、
ときどき町外れで見かける暴走グループだろう。もしかしたら私を撥ねたのも彼らのうちの1台だったのかも
しれないが、確かめる術は無かった。
私は彼らの騒音が聞こえなくなるまで待って、それからあらためて周囲を見渡す。
……静かな場所だった。
子供のころから通っていた場所だった。
小学生のころ、初恋の人とやってきた場所だった。
中学のころ、部活の大会で負けて、ひとりで泣いた場所だった。
高校のころ、将来のことを考えるためによく通った場所だった。
そして、私はここで死んだんだ。
私は目をつぶる。
私は昼間の八意との会話を思い出していた。
「私は死んでいた……」
私が同じ言葉をただ繰り返すたびに、八意はていねいに頷いてくれていた。
私は彼が用意した椅子に腰かけ、湯気のたつ紅茶のマグカップを両手で持っている。
「いきなり全てを理解しようとしても、貴様の頭では無理だろう。ひとつずつ、確実にだ」
そんなふうに言う八意はこちらに背を向けたまま薬学台の上で怪しげな薬品を調合している。
私にはそれが彼なりの優しさなんだと理解した。
「私は死んでいた」
「ああそうだ」
八意はまた静かにそう言った。
私は紅茶をすする。体が温まるとともに血管が広がって、しびれた脳がリラックスしていくのがわかった。
「じゃあ……」
私は静かに疑問を口にした。
「今ここにいる私は……誰なんだ……」
「考えるまでもないだろう」
八意は調合した液体を丸フラスコから直接ぐいと飲み、顔をしかめる。
「酸味が強すぎたな……考えるまでもなく、今そこにいる貴様は、志野真実だ」
「証拠はあるんですか」
私が睨みつけると、八意は手をわきわきといやらしく動かす。
「自身が真に自身であるということの証明は誰にもできやしないさ。ただ私が保証する。
医学的に見れば貴様は完全に健康体であるし、遺伝子学的に見ればDNAの塩基配列は
志野真実と100%一致している」
「でも……」
「貴様はあのとき、あの場所で、死んだ。
それはなによりも貴様自身が確信しているのだろう?」
私は頷き、しかしすぐに頭を振った。
「でもそれなら、今ここにいる私の説明がつかない」
「難しく考えすぎだ」
八意はあきれたように言うと、薬学台から別のフラスコを手にとり、薬品を注ぐ。
「死んだ人間が今ここで喋っているのなら、きっとそいつは生き返ったのだろうさ。
『バタリアン』を観たことは?」
「ゾンビってことですか……? そんな非現実的な――」
私がそう言った直後、ばん、と弾ける音がして、肉塊と化した八意のそばの物陰から新たな八意司が現れる。
「『非現実的な――』なんだって?」
私は口をつぐみかける。
「で、でも、いくら魔学でもそんなこと……」
すると八意は不愉快そうに眉を潜めた。
「魔学は『魂』『精神』『肉体』を自在に操る技術だぞ!
どうして死者の復活程度のことができないことがあろうか!」
「じゃあ、私を蘇らせたのは誰なんですか!」
自分で言ってハッとした。
八意は軽くため息をつき、それから同情するような目でこちらを見る。
私は耐えかねて視線を落とした。
「……そんなの、ひとりしかいないじゃないか……」
私は自分に向かってそう言った。
耕平だ。
あの時点で私と魔学のつながりはそこしかない。
「じゃあ、耕平は、私のことがショックで……?」
「証拠は無いぞ」
八意は試すような視線を向けてきた。
私は首を振る。
「思い当たる節はあります」
「ほぅ?」
「確認したいんですが……『死んだ人を蘇らせる』だなんて、やっぱり、
まともなことじゃないですよね? 」
「ああそうだ。この宇宙が始まって、最初の生命が誕生してから一度も破られたことのないルールだ。
それに反するなんて、ろくなコトじゃあない」
「でも耕平はその方法を知っていた……いや、そのために知ったんだ。
ここの資料庫の禁書棚にある本で」
私はいつだったか、天照研究所の資料室の奥にある極秘資料室に侵入したときのできごとを思い出していた。
禁書棚に納められていた異様な本、『三千大千世界外法総覧』。
『外法』……きっとあれに死者を生き返らせる方法が記されていて、耕平はそれを読んだんだ。
部屋の入り口の扉を開けるのに必要なパスコードを知るために、私があの部屋で撮った過去の写真に
写っていたあの手は耕平の手だったんだ。高天原の説明はそれをごまかすためのウソだったんだ。
――高天原さんはどうしてウソをついたんだろう――?
(そんなの決まってる)
私は再び目を伏せる。
(『実はあなたはすでに死んでいて、今のあなたは魔学によって復活させられたゾンビなんです』なんて、
本人に言えるわけないじゃないか。
私にさとられないために。だから天照研究所の人たちは耕平の話題を避けていたんだ)
思い返すとそうとしか思えなかった。
高天原も因幡も天照恵もマイケルも、みんな最初から全て知っていたんだ。
なのにあえて黙っていたのは――
「――もしも私が何も知らないまま全ての『×』を倒していたら、全ては隠蔽されていた……?」
「そうなったはずだ。君には天照耕平なんて恋人はいなかったし、彼によって現世に呼び戻されもしていない、
ただの平凡な女子大学生として生活を続けることになっていただろう。
そして天照恵はそれを望んでいた」
「そんなの!」
「それが一番貴様を魔学に関わらせない方法だったのだ」
八意はメガネを指で押し上げた。
「魔学の危険性を誰よりも理解している天照恵の立場からすれば、重要な事実を隠蔽してでも、
全てを丸くおさめる方法をとるだろうよ」
「……そのために天照研究所は私の記憶を奪ったんですか……!?」
私は腹が立ってきていた。つまり私は天照研究所の勝手な都合のために頭の中をいじられて、
過去を奪われたというのか。
だが八意は顔の前で指を左右に振る。
「解を導くにはまだ早いぞ」
私は彼をぎっと睨む。八意は先程薬品を注いだフラスコを掲げ、照明に透かして色を確認しつつ言った。
「ここでひとつ忘れていることがある」
「それはなんですか」
「『×』についてだ」
彼はフラスコを傾け、薬品を飲み干した。
「うむ、美味い……ここまで話せば、いくらカンの悪い貴様でもうすうす気づいているとは思うが、
『×』がこの街に現れた理由も解っているだろう」
私はゆっくりと頷いた。
「『私が生き返った』から……『×』が前に言っていた『償え』って言葉は、
そういうことだったんですね」
「ではあらためて確認しよう!」
八意は私を指さし、ポーズをきめる。
「いまさらあらためて説明する必要もないだろうが、『×』は『罰』であり、
この世界のルールをねじ曲げたことに対する世界の報復である!
ならば訊こう、志野真実、貴様が犯した『罪』とはなんだ!?」
「それは――」
言葉にしようとして、詰まった。
私はまだ正確な理解をしていない。
『×』は『罪』への『罰』だ。それはいい。
じゃあ、私の犯した罪とはなんだ?
(『死者を生き返らせること』が罪ならば、罰せられるべきは生き返った私じゃなく、
生き返らせるまじないをした耕平のほうじゃないのか……?
私は巻き込まれただけで、悪くないんじゃないのか……?
それともまさか――)
「――『生きていること』それ自体が『罪』なんですか……?」
自分の声が震えていることに気づいた。
そんなこと、認められない。認めたくない。
しかし八意は言った。
「そのとおりだ」
「……ひどいよ! 」
私は叫んでいた。
両の瞳にまた涙が溢れ出し、冷めた紅茶のマグカップが指から滑り落ち、
床にぶつかって重い音を立てる。ぶちまけられた紅茶がブーツと床を濡らした。
「私だって……望んで生き返ったわけじゃないのに……!」
「じゃあ死にたかったのか?」
「それは……そんなわけない」
「『死ぬより生きるほうがマシ』程度か?」
「なんなんですか……! さっきから、八意さん……!」
「答えろ」
その言葉のあまりの冷たさに私は八意がいつの間にか私の味方でなくなっていることを知った。
彼は真顔だった。
両手を白衣のポケットにつっこみ、眼鏡の奥の瞳には、いつもの常軌を逸しているがキラキラと輝く光は
無い。ただ無感情な、まるで路傍の石でも見るような視線だ。
(いや違う――)私は思った。
彼は見定めようとしているのだ。
今まで天照研究所が私に対してしてきたことが、果たしてどのような結果を生み出したのかを。
私はつばを飲み込み、彼の瞳を見返した。
「私は……」
「最初の天照恵が貴様に何と問いかけたか、覚えているか?」
八意はそう言った。私は覚えていた。
「『もし、この先の人生に、死ぬよりもつらい、無数の苦難しか待ちうけていないとしても――』」
「『――それでも貴様は人生を戦うか?』」
そう問いかける八意の声を聞きながら、私は理解した。
あのとき――私がベッドで目覚め、天照恵と初めて出会ったとき――彼女が私にした質問。
あれが分水嶺だったんだ。
もしあそこで私が『いいえ』と答えたら、天照恵と高天原頼人は私を再び眠らせていたに違いない。
そうなれば全ては丸くおさまっていたのだ。女木戸市に『×』が襲来することもなく、
私は死神の予定表通り、あの道路で不幸な死を迎えたことにされていたはずだ。
しかし私は『はい』と答えた。だから天照研究所は――
「……あ……ああ、あああ……」
私の両目にはさっきよりも一段と熱い涙が溜まっていた。
私は理解し、理解したために胸中に湧き上がるある想いに耐えられなかったのだ。
それは『感謝』だった。
天照恵は私が生きる意思を示したために、研究所をあげて『×』と戦う決意をしたのだ。
莫大な私財を投じ、実の息子を改造人間にして、法に触れるギリギリのところを進みながら、
自分たちの属している組織を敵に回すばかりか、自分の身を文字通り燃やし尽くして、
それでも私を助けてくれていたんだ。
(どうしてそこまで――?)
分かりきっていた。
私が天照耕平の恋人であり、魔学の犠牲者であるからだ。
彼女も『罪』を償おうとしていたんだ――それも、私のために。
そうか。
全ての人間は最初からそのために行動していたんだ。
天照恵、天照耕平……高天原頼人、因幡命、八意司……
「……あり……がとう……」
私はなんとか椅子から立ち上がり、八意の前に正座をした。
「ありがとう……ございます……!」
そしてそのまま深く頭を下げた。これ以上下げられないのが歯がゆかった。
感謝の念はいくら言葉にしても、床に身を投げ出しても尽きなかった。
私は涙を流し続け、そして感謝し続け、今までの非協力的な振る舞いを謝罪した。
そして「顔を上げろ」との八意の声に視線を持ち上げると、目の前にずいと何かが差し出される。
それは湯気のたつ液体が入ったマグカップだった。
両手で受け取ると、それで暖かみが指から全身へと駆け抜けて、涙を吹き飛ばす。
八意は笑っていた。
「さぁ答えろ」
彼は私が液体を飲み干し、立ち上がるのを待って言った。
「『もし、この先の人生に、死ぬよりもつらい、無数の苦難しか待ちうけていないとしても、
それでも貴様は人生を戦うか?』」
私は目元を手の甲で拭い、ニッと笑ってみせた。
「人生なんだから……戦いますよ、当然!」
私が同じ言葉をただ繰り返すたびに、八意はていねいに頷いてくれていた。
私は彼が用意した椅子に腰かけ、湯気のたつ紅茶のマグカップを両手で持っている。
「いきなり全てを理解しようとしても、貴様の頭では無理だろう。ひとつずつ、確実にだ」
そんなふうに言う八意はこちらに背を向けたまま薬学台の上で怪しげな薬品を調合している。
私にはそれが彼なりの優しさなんだと理解した。
「私は死んでいた」
「ああそうだ」
八意はまた静かにそう言った。
私は紅茶をすする。体が温まるとともに血管が広がって、しびれた脳がリラックスしていくのがわかった。
「じゃあ……」
私は静かに疑問を口にした。
「今ここにいる私は……誰なんだ……」
「考えるまでもないだろう」
八意は調合した液体を丸フラスコから直接ぐいと飲み、顔をしかめる。
「酸味が強すぎたな……考えるまでもなく、今そこにいる貴様は、志野真実だ」
「証拠はあるんですか」
私が睨みつけると、八意は手をわきわきといやらしく動かす。
「自身が真に自身であるということの証明は誰にもできやしないさ。ただ私が保証する。
医学的に見れば貴様は完全に健康体であるし、遺伝子学的に見ればDNAの塩基配列は
志野真実と100%一致している」
「でも……」
「貴様はあのとき、あの場所で、死んだ。
それはなによりも貴様自身が確信しているのだろう?」
私は頷き、しかしすぐに頭を振った。
「でもそれなら、今ここにいる私の説明がつかない」
「難しく考えすぎだ」
八意はあきれたように言うと、薬学台から別のフラスコを手にとり、薬品を注ぐ。
「死んだ人間が今ここで喋っているのなら、きっとそいつは生き返ったのだろうさ。
『バタリアン』を観たことは?」
「ゾンビってことですか……? そんな非現実的な――」
私がそう言った直後、ばん、と弾ける音がして、肉塊と化した八意のそばの物陰から新たな八意司が現れる。
「『非現実的な――』なんだって?」
私は口をつぐみかける。
「で、でも、いくら魔学でもそんなこと……」
すると八意は不愉快そうに眉を潜めた。
「魔学は『魂』『精神』『肉体』を自在に操る技術だぞ!
どうして死者の復活程度のことができないことがあろうか!」
「じゃあ、私を蘇らせたのは誰なんですか!」
自分で言ってハッとした。
八意は軽くため息をつき、それから同情するような目でこちらを見る。
私は耐えかねて視線を落とした。
「……そんなの、ひとりしかいないじゃないか……」
私は自分に向かってそう言った。
耕平だ。
あの時点で私と魔学のつながりはそこしかない。
「じゃあ、耕平は、私のことがショックで……?」
「証拠は無いぞ」
八意は試すような視線を向けてきた。
私は首を振る。
「思い当たる節はあります」
「ほぅ?」
「確認したいんですが……『死んだ人を蘇らせる』だなんて、やっぱり、
まともなことじゃないですよね? 」
「ああそうだ。この宇宙が始まって、最初の生命が誕生してから一度も破られたことのないルールだ。
それに反するなんて、ろくなコトじゃあない」
「でも耕平はその方法を知っていた……いや、そのために知ったんだ。
ここの資料庫の禁書棚にある本で」
私はいつだったか、天照研究所の資料室の奥にある極秘資料室に侵入したときのできごとを思い出していた。
禁書棚に納められていた異様な本、『三千大千世界外法総覧』。
『外法』……きっとあれに死者を生き返らせる方法が記されていて、耕平はそれを読んだんだ。
部屋の入り口の扉を開けるのに必要なパスコードを知るために、私があの部屋で撮った過去の写真に
写っていたあの手は耕平の手だったんだ。高天原の説明はそれをごまかすためのウソだったんだ。
――高天原さんはどうしてウソをついたんだろう――?
(そんなの決まってる)
私は再び目を伏せる。
(『実はあなたはすでに死んでいて、今のあなたは魔学によって復活させられたゾンビなんです』なんて、
本人に言えるわけないじゃないか。
私にさとられないために。だから天照研究所の人たちは耕平の話題を避けていたんだ)
思い返すとそうとしか思えなかった。
高天原も因幡も天照恵もマイケルも、みんな最初から全て知っていたんだ。
なのにあえて黙っていたのは――
「――もしも私が何も知らないまま全ての『×』を倒していたら、全ては隠蔽されていた……?」
「そうなったはずだ。君には天照耕平なんて恋人はいなかったし、彼によって現世に呼び戻されもしていない、
ただの平凡な女子大学生として生活を続けることになっていただろう。
そして天照恵はそれを望んでいた」
「そんなの!」
「それが一番貴様を魔学に関わらせない方法だったのだ」
八意はメガネを指で押し上げた。
「魔学の危険性を誰よりも理解している天照恵の立場からすれば、重要な事実を隠蔽してでも、
全てを丸くおさめる方法をとるだろうよ」
「……そのために天照研究所は私の記憶を奪ったんですか……!?」
私は腹が立ってきていた。つまり私は天照研究所の勝手な都合のために頭の中をいじられて、
過去を奪われたというのか。
だが八意は顔の前で指を左右に振る。
「解を導くにはまだ早いぞ」
私は彼をぎっと睨む。八意は先程薬品を注いだフラスコを掲げ、照明に透かして色を確認しつつ言った。
「ここでひとつ忘れていることがある」
「それはなんですか」
「『×』についてだ」
彼はフラスコを傾け、薬品を飲み干した。
「うむ、美味い……ここまで話せば、いくらカンの悪い貴様でもうすうす気づいているとは思うが、
『×』がこの街に現れた理由も解っているだろう」
私はゆっくりと頷いた。
「『私が生き返った』から……『×』が前に言っていた『償え』って言葉は、
そういうことだったんですね」
「ではあらためて確認しよう!」
八意は私を指さし、ポーズをきめる。
「いまさらあらためて説明する必要もないだろうが、『×』は『罰』であり、
この世界のルールをねじ曲げたことに対する世界の報復である!
ならば訊こう、志野真実、貴様が犯した『罪』とはなんだ!?」
「それは――」
言葉にしようとして、詰まった。
私はまだ正確な理解をしていない。
『×』は『罪』への『罰』だ。それはいい。
じゃあ、私の犯した罪とはなんだ?
(『死者を生き返らせること』が罪ならば、罰せられるべきは生き返った私じゃなく、
生き返らせるまじないをした耕平のほうじゃないのか……?
私は巻き込まれただけで、悪くないんじゃないのか……?
それともまさか――)
「――『生きていること』それ自体が『罪』なんですか……?」
自分の声が震えていることに気づいた。
そんなこと、認められない。認めたくない。
しかし八意は言った。
「そのとおりだ」
「……ひどいよ! 」
私は叫んでいた。
両の瞳にまた涙が溢れ出し、冷めた紅茶のマグカップが指から滑り落ち、
床にぶつかって重い音を立てる。ぶちまけられた紅茶がブーツと床を濡らした。
「私だって……望んで生き返ったわけじゃないのに……!」
「じゃあ死にたかったのか?」
「それは……そんなわけない」
「『死ぬより生きるほうがマシ』程度か?」
「なんなんですか……! さっきから、八意さん……!」
「答えろ」
その言葉のあまりの冷たさに私は八意がいつの間にか私の味方でなくなっていることを知った。
彼は真顔だった。
両手を白衣のポケットにつっこみ、眼鏡の奥の瞳には、いつもの常軌を逸しているがキラキラと輝く光は
無い。ただ無感情な、まるで路傍の石でも見るような視線だ。
(いや違う――)私は思った。
彼は見定めようとしているのだ。
今まで天照研究所が私に対してしてきたことが、果たしてどのような結果を生み出したのかを。
私はつばを飲み込み、彼の瞳を見返した。
「私は……」
「最初の天照恵が貴様に何と問いかけたか、覚えているか?」
八意はそう言った。私は覚えていた。
「『もし、この先の人生に、死ぬよりもつらい、無数の苦難しか待ちうけていないとしても――』」
「『――それでも貴様は人生を戦うか?』」
そう問いかける八意の声を聞きながら、私は理解した。
あのとき――私がベッドで目覚め、天照恵と初めて出会ったとき――彼女が私にした質問。
あれが分水嶺だったんだ。
もしあそこで私が『いいえ』と答えたら、天照恵と高天原頼人は私を再び眠らせていたに違いない。
そうなれば全ては丸くおさまっていたのだ。女木戸市に『×』が襲来することもなく、
私は死神の予定表通り、あの道路で不幸な死を迎えたことにされていたはずだ。
しかし私は『はい』と答えた。だから天照研究所は――
「……あ……ああ、あああ……」
私の両目にはさっきよりも一段と熱い涙が溜まっていた。
私は理解し、理解したために胸中に湧き上がるある想いに耐えられなかったのだ。
それは『感謝』だった。
天照恵は私が生きる意思を示したために、研究所をあげて『×』と戦う決意をしたのだ。
莫大な私財を投じ、実の息子を改造人間にして、法に触れるギリギリのところを進みながら、
自分たちの属している組織を敵に回すばかりか、自分の身を文字通り燃やし尽くして、
それでも私を助けてくれていたんだ。
(どうしてそこまで――?)
分かりきっていた。
私が天照耕平の恋人であり、魔学の犠牲者であるからだ。
彼女も『罪』を償おうとしていたんだ――それも、私のために。
そうか。
全ての人間は最初からそのために行動していたんだ。
天照恵、天照耕平……高天原頼人、因幡命、八意司……
「……あり……がとう……」
私はなんとか椅子から立ち上がり、八意の前に正座をした。
「ありがとう……ございます……!」
そしてそのまま深く頭を下げた。これ以上下げられないのが歯がゆかった。
感謝の念はいくら言葉にしても、床に身を投げ出しても尽きなかった。
私は涙を流し続け、そして感謝し続け、今までの非協力的な振る舞いを謝罪した。
そして「顔を上げろ」との八意の声に視線を持ち上げると、目の前にずいと何かが差し出される。
それは湯気のたつ液体が入ったマグカップだった。
両手で受け取ると、それで暖かみが指から全身へと駆け抜けて、涙を吹き飛ばす。
八意は笑っていた。
「さぁ答えろ」
彼は私が液体を飲み干し、立ち上がるのを待って言った。
「『もし、この先の人生に、死ぬよりもつらい、無数の苦難しか待ちうけていないとしても、
それでも貴様は人生を戦うか?』」
私は目元を手の甲で拭い、ニッと笑ってみせた。
「人生なんだから……戦いますよ、当然!」
私は理解した。
『×』の襲来の理由も、その目的も、天照研究所の人々がひた隠しにしてきたことも。
全ては私の死とその復活が原因であり、全ての物事と人物はそのために動いていたんだ。
「だが、はたして本当にそうかな?」
八意の声に私は顔を上げた。
地下の研究室は相変わらず薄暗く、今外が何時であるのか見当がつかない。
ずいぶん長いことここにいるような気がしていたが、本当はそこまで経っていないのかも。
私はまだヒリヒリする目元をさすった。
「なんのことですか」
「気づかないのか?」
彼はそう言いつつ、椅子に腰かけて何かの紙束に目を通している。
少し無言の間があって、八意は舌打ちした。
「この資料は落丁だ。また印刷しなければ」
「……八意さん」
私は私の声の疲労の色を自覚していた。きっとひどい顔をしていたのだろう。
私の顔をちらりと見た八意は椅子から立ち上がった。
「紅茶だけでは不充分か? チョコレートとクッキーのどっちだ? いや、両方か」
彼は近くのデスクの中からチョコチップクッキーの箱を取り出し、中身を皿に出した。
それを私の近くの台の上に置く。
「私は焼きプリンだ」
そう言って八意は足元の小さな冷蔵庫から焼きプリンのカップとスプーンを取り出す。
その仕草はまるで小さな子どものようで、私は頬がゆるんだ。
「おいちい!」
焼きプリンを頬張る八意を見て、私もチョコチップクッキーをつまむ。優しい甘さだった。
「八意さん」
私はクッキーを嚥下し、再び声をかけた。八意は振り向く。
「なんだね?」
「まだ、何かあるんですか」
「貴様は気づかないのか?」
彼はまた焼きプリンをひとくち。
「『×』襲来の理由は得た。原因も理解した。だがそれだけだ。
それだけでは説明になっていない。
……まだ理解できないという顔だな。思い返してみたまえ。貴様は今日、
そもそもどうして吾輩のスーパー研究室へ来たのだ?」
私は「あっ」と声をあげた。
「そうだ、忘れてた」
うっかりしていた。
そもそも私がここへ来たのは『×』襲来の原因を知るためじゃない。
「私の記憶を奪った人を探しにきたんだ」
私は私の過去の記憶と、それを失った原因を探るためにここへきたのだった。
今日ここで突きつけられた衝撃の事実の連続で、そのことをすっかり見失ってしまっていた。
「そうだろう?」
「でもそれって天照研究所じゃないんですか?
私が自分の、その、死んだことを思い出さないために……」
しかしそう言いながら、私はその言葉がおかしいことに気がついた。
脳裏に昨日の天照病院での因幡命の言葉がよぎる。
(『私たちは何もしていない』)
「まさか……」
私は額を手のひらで抑えた。
「天照研究所じゃ、ない……? 」
「考えてもみたまえ」
八意は焼きプリンを食べ尽くしていた。
「無理矢理な理由をでっち上げて納得させるより、最初から理由を理解してくれていたほうが、
人を納得させるのは簡単だろう。
天照研究所にとっては、むしろ覚えていてくれたほうが都合がよかったのだ」
驚いた。
「じゃあ、なんで私の記憶が……?」
震える声でそうたずねる。
八意は言った。
「それは『罰』だよ。
ただし、貴様への罰ではないがな」
私は訊き返す。
「貴様の記憶が失われて一番つらいのは誰か?」
私は少し考える。
八意は言った。
「この世の理まで破って、それでも助けた相手が自分のことをこれっぽっちも覚えていないなんて、
ひどい話だ」
「じゃあ、耕平……!?」
私の記憶が無いのは耕平に対する『罰』だったのか。
私は想像する。タブー中のタブーまで犯して助けた大切な相手が、
自分のことを知らない人を見る目で見てきたら……。
「ひどいな……それって」
八意と同じ感想が漏れた。世界のルールはこんなにも残酷な罰を与えてくるものなのか。
摂理に反して生きる存在にはその命を奪いにかかり、失われた恋人を求めた存在にはその関係性を奪う。
残酷だけど、こんなにも釣り合った報いは無いのかもしれない。
でも、それじゃあ……
「カオスマンは?」
私は彼に訊いた。
八意は満足げに頷き、メガネの位置をなおす。
私は耕平がカオスマンになったのは、てっきり私を蘇らせた責任をとってのことだと思っていた。
でなければ、私とのデートの翌日――時間にして12時間程度――であそこまで様子が変わるわけがない。
というか、そう考えなければ、魂と身体を分離させられ、天照耕平個人としての特徴を奪われた
戦闘マシーンにされるなんていう非人道的な行為は、今までの天照研究所の方針からは矛盾するような気がした。
それに天照耕平は天照恵の実の息子だ。そんな残酷な仕打ち、とても彼女にできるわけがない。
「今まで耕平はカオスマンとして活躍していたんですか?」
八意は首をふる。
「身体改造自体は、貴様と知りあうずっと前からされていた。しかしそれだけだ。
彼は『天照耕平として』魔学のトラブルシューティングを担当していた」
「じゃあ、なぜ彼はカオスマンに?」
八意はまた首を振った。
「それがわからないのだよ」
その返答に私はひどく驚き、目を丸くした。まさか彼にわからないことがあるだなんて思いもしなかったためだ。
八意は私のそんな様子を見て、顔の前で指を左右に振った。
「訂正しよう。『私以外の全員はわかっていない』。」
「八意さんは?」
「もちろん知っている。だがしゃべる気は無いぞ。理由はシンプル」
彼はにやりと笑った。
「それでは君が『真実』に到達できない」
「まさか!」
私は衝撃のあまり大きな声を出していた。
「これでも『真実』じゃないんですか!?」
「ああそうだ」
私は足から力が抜けるのを感じ、唖然としていた。
てっきり、今までの話が私が今まで追い求めていた『真実』なのだと、そう思っていた。
「これ以上……いったいなにが……?」
「それを知るにはまだピースが足りない」
八意はそう言った。
「もう一度だ」
彼は優しい声だった。
「もう一度、今までの物語をふりかえってみたまえ。それでもダメなら……」
「ダメなら……?」
「前に進もうとせずに、周りを見渡してみるのもいいかもな」
『×』の襲来の理由も、その目的も、天照研究所の人々がひた隠しにしてきたことも。
全ては私の死とその復活が原因であり、全ての物事と人物はそのために動いていたんだ。
「だが、はたして本当にそうかな?」
八意の声に私は顔を上げた。
地下の研究室は相変わらず薄暗く、今外が何時であるのか見当がつかない。
ずいぶん長いことここにいるような気がしていたが、本当はそこまで経っていないのかも。
私はまだヒリヒリする目元をさすった。
「なんのことですか」
「気づかないのか?」
彼はそう言いつつ、椅子に腰かけて何かの紙束に目を通している。
少し無言の間があって、八意は舌打ちした。
「この資料は落丁だ。また印刷しなければ」
「……八意さん」
私は私の声の疲労の色を自覚していた。きっとひどい顔をしていたのだろう。
私の顔をちらりと見た八意は椅子から立ち上がった。
「紅茶だけでは不充分か? チョコレートとクッキーのどっちだ? いや、両方か」
彼は近くのデスクの中からチョコチップクッキーの箱を取り出し、中身を皿に出した。
それを私の近くの台の上に置く。
「私は焼きプリンだ」
そう言って八意は足元の小さな冷蔵庫から焼きプリンのカップとスプーンを取り出す。
その仕草はまるで小さな子どものようで、私は頬がゆるんだ。
「おいちい!」
焼きプリンを頬張る八意を見て、私もチョコチップクッキーをつまむ。優しい甘さだった。
「八意さん」
私はクッキーを嚥下し、再び声をかけた。八意は振り向く。
「なんだね?」
「まだ、何かあるんですか」
「貴様は気づかないのか?」
彼はまた焼きプリンをひとくち。
「『×』襲来の理由は得た。原因も理解した。だがそれだけだ。
それだけでは説明になっていない。
……まだ理解できないという顔だな。思い返してみたまえ。貴様は今日、
そもそもどうして吾輩のスーパー研究室へ来たのだ?」
私は「あっ」と声をあげた。
「そうだ、忘れてた」
うっかりしていた。
そもそも私がここへ来たのは『×』襲来の原因を知るためじゃない。
「私の記憶を奪った人を探しにきたんだ」
私は私の過去の記憶と、それを失った原因を探るためにここへきたのだった。
今日ここで突きつけられた衝撃の事実の連続で、そのことをすっかり見失ってしまっていた。
「そうだろう?」
「でもそれって天照研究所じゃないんですか?
私が自分の、その、死んだことを思い出さないために……」
しかしそう言いながら、私はその言葉がおかしいことに気がついた。
脳裏に昨日の天照病院での因幡命の言葉がよぎる。
(『私たちは何もしていない』)
「まさか……」
私は額を手のひらで抑えた。
「天照研究所じゃ、ない……? 」
「考えてもみたまえ」
八意は焼きプリンを食べ尽くしていた。
「無理矢理な理由をでっち上げて納得させるより、最初から理由を理解してくれていたほうが、
人を納得させるのは簡単だろう。
天照研究所にとっては、むしろ覚えていてくれたほうが都合がよかったのだ」
驚いた。
「じゃあ、なんで私の記憶が……?」
震える声でそうたずねる。
八意は言った。
「それは『罰』だよ。
ただし、貴様への罰ではないがな」
私は訊き返す。
「貴様の記憶が失われて一番つらいのは誰か?」
私は少し考える。
八意は言った。
「この世の理まで破って、それでも助けた相手が自分のことをこれっぽっちも覚えていないなんて、
ひどい話だ」
「じゃあ、耕平……!?」
私の記憶が無いのは耕平に対する『罰』だったのか。
私は想像する。タブー中のタブーまで犯して助けた大切な相手が、
自分のことを知らない人を見る目で見てきたら……。
「ひどいな……それって」
八意と同じ感想が漏れた。世界のルールはこんなにも残酷な罰を与えてくるものなのか。
摂理に反して生きる存在にはその命を奪いにかかり、失われた恋人を求めた存在にはその関係性を奪う。
残酷だけど、こんなにも釣り合った報いは無いのかもしれない。
でも、それじゃあ……
「カオスマンは?」
私は彼に訊いた。
八意は満足げに頷き、メガネの位置をなおす。
私は耕平がカオスマンになったのは、てっきり私を蘇らせた責任をとってのことだと思っていた。
でなければ、私とのデートの翌日――時間にして12時間程度――であそこまで様子が変わるわけがない。
というか、そう考えなければ、魂と身体を分離させられ、天照耕平個人としての特徴を奪われた
戦闘マシーンにされるなんていう非人道的な行為は、今までの天照研究所の方針からは矛盾するような気がした。
それに天照耕平は天照恵の実の息子だ。そんな残酷な仕打ち、とても彼女にできるわけがない。
「今まで耕平はカオスマンとして活躍していたんですか?」
八意は首をふる。
「身体改造自体は、貴様と知りあうずっと前からされていた。しかしそれだけだ。
彼は『天照耕平として』魔学のトラブルシューティングを担当していた」
「じゃあ、なぜ彼はカオスマンに?」
八意はまた首を振った。
「それがわからないのだよ」
その返答に私はひどく驚き、目を丸くした。まさか彼にわからないことがあるだなんて思いもしなかったためだ。
八意は私のそんな様子を見て、顔の前で指を左右に振った。
「訂正しよう。『私以外の全員はわかっていない』。」
「八意さんは?」
「もちろん知っている。だがしゃべる気は無いぞ。理由はシンプル」
彼はにやりと笑った。
「それでは君が『真実』に到達できない」
「まさか!」
私は衝撃のあまり大きな声を出していた。
「これでも『真実』じゃないんですか!?」
「ああそうだ」
私は足から力が抜けるのを感じ、唖然としていた。
てっきり、今までの話が私が今まで追い求めていた『真実』なのだと、そう思っていた。
「これ以上……いったいなにが……?」
「それを知るにはまだピースが足りない」
八意はそう言った。
「もう一度だ」
彼は優しい声だった。
「もう一度、今までの物語をふりかえってみたまえ。それでもダメなら……」
「ダメなら……?」
「前に進もうとせずに、周りを見渡してみるのもいいかもな」
夜風が頬をなでた。生温かく、まとわりつくようだった。
真夜中の駐車場のどこを見渡しても、ここでかつて耕平が彼のバイクとともに、
道路に転がる私の姿を眺めていた痕跡は無かった。
彼はいったいどんな気持ちで私の死を目の当たりにしていたのだろう。
どのように私を蘇らせる決意を固めたのだろう。彼は解っていたはずだ。それがどれほど重い罪で、
そのためにどれほど重い罰を受けなければならないのか。
……もし、私が逆の立場だったならどうしただろう。
「決まってるじゃないか……」
私は闇に溶ける道路の果てを睨んでつぶやいた。
「助ける方法が目の前にあるのに、使わないなんてありえない……!」
当たり前の話だった。
誰かを助ける方法があるのに、それを用いないのは『悪』に違いない。
たとえそれが禁じられた方法であっても。
そのときとある疑念が、ふ、と頭をよぎった。
(じゃあ、天照研究所は『悪』なのか?)
「そんなわけがない」
私のその言葉は夜闇にかききえた。
真夜中の駐車場のどこを見渡しても、ここでかつて耕平が彼のバイクとともに、
道路に転がる私の姿を眺めていた痕跡は無かった。
彼はいったいどんな気持ちで私の死を目の当たりにしていたのだろう。
どのように私を蘇らせる決意を固めたのだろう。彼は解っていたはずだ。それがどれほど重い罪で、
そのためにどれほど重い罰を受けなければならないのか。
……もし、私が逆の立場だったならどうしただろう。
「決まってるじゃないか……」
私は闇に溶ける道路の果てを睨んでつぶやいた。
「助ける方法が目の前にあるのに、使わないなんてありえない……!」
当たり前の話だった。
誰かを助ける方法があるのに、それを用いないのは『悪』に違いない。
たとえそれが禁じられた方法であっても。
そのときとある疑念が、ふ、と頭をよぎった。
(じゃあ、天照研究所は『悪』なのか?)
「そんなわけがない」
私のその言葉は夜闇にかききえた。