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「アークの覚醒」 後編 

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「ねぇ、お兄ちゃんそれで答えは出たのかな?咲と一緒に世界を救う?」

ハナバラと呼ばれた地。
メタトロニウスの起動実験で全てが焦土となった場所。
そして、黒峰潤也にとって全ての始まりとなった場所でもある。
まだ真昼だというのに太陽は雲に隠れ、空は暗く重々しく、時たま雷が走る。
その下で、2機の怨念機が対峙していた。
一方にいるのは漆黒の鋼で彩られた機械じかけの魔王。
その掌には因果を歪める至宝『ブリューナク』が握られており、その柄頭を大地に立てて構えて対面にいる大敵をその紅の双眼で睨みつけている。
もう一方にいるのは白銀の巨躯の天使。その体は魔王の数倍にも及ぶ大きさを持ち、その各部には芸術性を感じさせる意匠の装飾が施されており単なる兵器にとどまらない神聖さを感じさせた。

「答えるまでもない、最初から目的は一つ―――」

漆黒の魔王がその感情を押さえつけるようにして憎しみの声を吐き、その黒槍の矛先をメタトロニウスに向ける。

「――――父さんと母さんを殺したお前を殺すだけだ。」

それに対して白銀の天使は答える。

「そうか、交渉決裂ってわけだね。残念だよ、お兄ちゃんも咲の手で殺さないといけないだなんて…。」

そういって白銀の天使はその大釜を構える。

「―――ふざけるな。」

癪に障る。そう言わんばかりに不快そうに言う潤也。
潤也はリベジオンの翼を展開させ、炉に火を入れ叫ぶ。

「俺が、お前を殺すんだ!!!」

そしてリベジオンは紅の光を纏って突撃した。
メタトロニウスは動かず、その突撃するリベジオンを待ち構える。
2機が衝突する。発生するのはリベジオンから発生した紅の光とメタトロニウスから発生した紅の光のぶつかり合う。
そして2機から発せられた光は爆発するかのように周囲に広がった。



―アークの覚醒―  後編




「問題はだ、彼が勝てるのか?という点だよ、『道化師』」

世界政府地下に存在する会議室、そこは世界に暗躍する黒幕である『裏』の本拠地の1つでもある。
そこで『道化師』に尋ねたのは『現実主義者』と呼ばれる『裏』のメンバーの一人だった

「さてね、これから何がおこるか知らない僕にはわかりっ子ないことさ…。」

そう笑いながら『道化師』は自分の前にある机の上に足をあげて見上げるようにして天井から吊り下げられたモニターを見つめる。
そのモニターには今、ハナバラにて決戦している2機の怨念機の戦いの様子が映されていた。

「あら、でもあなたは先の事を知っているのでしょう?既に私達と違って人の域を超えているのだから…。」

そう尋ねたのは『貴婦人』である。

「やめてくれよ、マダム。僕は過去のことはいくらでも知っているけど未来のことは知らないんだ。僕の力はそこまで万能ではない。」
「あら、そうでしたの?何でも知ってるように振る舞うあなたのことですからすでにこの戦いの決着がどうなるかわかっているのだと思いましたわ…。」
「ふふ、そういう君はどう見るんだい?『貴婦人』、この勝負の行方を…。」

尋ねられた事を鼻で笑うようにして『貴婦人』は即答した。

「それは私の主が勝つでしょう。間違いなく。絶対に…。」
「主ねぇ。君もあの黒峰咲に心酔してる口なのかい?UHの統括者よ…。」

UHの統括者。そう言われた『貴婦人』は少し考えるようにして答えた。

「心酔というよりは驚嘆ですわね、『ダグザの大釜』を起動させる。そのような事が出来る精神力の持ち主がいるとは私は思いませんでしたから…。その願い信念の強さ、実際に会って私はいくた感じ入りましたの…。あなたのお気に入りの不出来なお兄さんと違ってね。」
「ひっどいなぁー、黒峰潤也は不出来なんかじゃないよ。あれほどの傑物他にはいないと思うぜ?」
「そう思っているのは、ここにいる5人の中ではあなただけだとは思いますわ…。そうね、『皮肉屋』あなたはどう思います。」

そう振られた皮肉屋と呼ばれる男は自分の無精髭を触りながら答える。

「今、この場で私個人の感情を廃して言えば、黒峰潤也が黒峰咲を上回る可能性は万に一つもないだろう。」

そう不本意そうに答える『皮肉屋』、それに面白そうに笑って

「あらあら、という事はあなたはあのどうしようもないガラクタに期待しているんです?」
「さてな、それが実るのが今か、それとも先なのかは知らんが…そうなってもらわねば困る理由はある。」
「先ねぇ…そんなものがあるのかなぁ…。」

そう言ったのは『鉄の処女』だった。
この『裏』最年少のメンバーでもあり第六機関の長でもある。

「ふん、君ほどこの戦いの結末に興味がない人間もいないだろうに…。」
「人間?この女がか?」
「あら、酷いな『皮肉屋』処女の秘密をそうやすやす語るんじゃないよ。」
「そうだぜ、『皮肉屋』、そうカリカリするのは器の小ささを周りに見せてるのと同じじゃないか!」

『鉄の処女』に便乗するようにして『道化師』が『皮肉屋』を煽る。

「貴様が…貴様が言うか…!」
「まあ、まあ、待ち給え…。」

そう、血走った眼で『道化師』を見ながら今にも飛びかからんとする『皮肉屋』を『現実主義者』は肩を叩き抑える。
その後、再びディスプレイに目を戻して

「とはいえ、この戦いが終わった時、それがCR計画が最後の段階に進む合図だ。それまではゆっくりこの特等席で観覧といこうじゃないか…。どちらが勝つか、それはもうわかりきった事ではあるがね…。」


―3―

リベジオンとメタトロニウス。
2機の呪怨結界がぶつかり合った事で周囲に放たれた紅の光は周囲にほとばしり土を舞い上げる。
その衝突から生まれる衝撃にリベジオンはそれに吹き飛ばされる。
衝撃はリベジオンの操縦席をも襲い、潤也は操縦席に頭を打った。

「―――っ、藍、被害状況は?」
「戦闘行動に支障なし、大丈夫だよ。潤也。」

そう答える藍の声に若干の震えが見える。

「今のは呪怨結界同士のぶつかり合いか?」
「うん、そうみたいだね。」

結界同士がぶつかりあいその結果、メタトロニウスの結界にリベジオンは吹き飛ばされたようだ。

「奴は微動だにしていないという事は流石に奴の方が強い怨念をまとっているということか…。」
「うん、エネルギー量にして大体リベジオンの5倍以上―――。」
「―――――っ。」

その言葉に潤也は絶句する。
かつて潤也達の両親が残した音声記録にて、黒峰咲はDSGCシステムへの適正が潤也よりも大きく高い事を示唆されていた。
だからこそDSGCシステムの怨念の力を引き出す適正においては黒峰咲は黒峰潤也を上回る。
その予想はついてはいた。だが、それでもその差を予想をこえた数値で見せつけられると続ける言葉がない。

「ど、どうする潤也。」

困ったように尋ねる藍。
絶望的な戦力差のある相手だと悟り、藍の声はいくばくか弱い。

「変わらない、戦うだけだ。」

そう強く意思を口にして一瞬胸中にわいた怯えの心を唇を噛みしめて封じ込める。

「でも、どうやって…普通にやってもこっちは触る事も…。」
「それは――――――」
「ところでさ―――」

黒峰咲は割り込むようにメタトロニウスのスピーカー越しに語りかけてきた。

「咲あんまり待つの好きじゃないんだよね、だからさ、咲からいくよ。」

あっけらかんとそう言った後、メタトロニウスはその手にもった巨大な鎌を地につける。

「咲の至宝『ダグザの大釜』、その力を見せてあげるね。」

そう唱えるようにいった後、メタトロニウスの手に持たれた鎌の先にある釜が開く。
それと同時にメタトロニウスの周囲の空間が歪みはじめる。

「何が起こっている!藍。」
「何これ…計器が全部めちゃくちゃになって…まさか周囲の物理法則をあの鎌で書き換えているの?そんな事が…。」

目の前の事が理解できずに叫ぶ潤也に驚きに言葉を失う藍。

「―――孕め、天柱。」

その言葉と共に、メタトロニウスの周囲には十数個の石柱が現れる。
その1つ1つが1kmは超えている巨大なものだった。

「あらたな物質を創造した!?あれがダグザの――――」

メタトロニウスは鎌を振り回し、指揮者のようにその棒の先をリベジオンの方に向ける。

「じゃあ、小手調べ、いっくよー!」

その言葉と共に石柱がリベジオンに向けて推力を帯びて放たれる。

「くそ、藍、呪怨結界は!」
「無理、あんなの受けたら呪怨結界を貫かれちゃう。」
「回避するしかないか!」

呪怨結界の弱点に大質量とせめぎ合った場合、その質量を消去しきれず一部がリベジオンに到達してしまうという弱点がある。
敵の石柱はリベジオンの呪怨結界で受けるにはあまりにも大きすぎた。
その為、潤也達がとれる手段は回避のみである。
リベジオンは翼を開き、紅の光を発しながら飛ぶ。
リベジオンが立っていた地点に次々と突き刺さる石柱、それは大地を深々とえぐっている。

「見るからに重そうだな…。」
「うん、くらったらリベジオンはひとたまりもないね。」

藍の感想に頷く潤也。無を有にするダグザの大釜。確かに恐ろしい力だ。あの機体はなんでも自分が思うものを作ってしまう事が出来る。

「だが、あの奴のダグザの大釜の力がこんなものを作るだけだとするならば…俺のブリューナクの方が―――」
「ブリューナクの方が勝っているとでもいいたいのかなぁ?」

そういったのは咲だった。

「因果を操るブリューナクの力は確かに凄い、派手だしね。でもね、それだけでダグザの大釜よりブリューナクの方がすぐれているなんて判断はいけないよ、兄ちゃん。そうやってすぐに侮るのは…ほら、次はさ、さっきの7倍の数だよ!!」

そう言うのと同時に出現する石柱。

「なっ…。」

再び絶句する潤也。それもその筈である。
石柱はメタトロニウスの側だけではなく、リベジオンの背後、側面、下方向、上方向の全てリベジオンの逃げ場をなくすように生成された。

(作る場所も自由自在だっていうのか…。)

再びメタトロニウスはその鎌を指揮棒のようにふる。

「藍!」
「うん、わかってる!!」

潤也が何を求めたか即座に藍は理解してそれを実行に移す。
既にリベジオンに退路はない。
絶対にその石柱のどれかはリベジオンの体を鋳潰す。
ゆえにリベジオンが取れる手は1手のみだった。

「因果固定!」

リベジオンの体に次々と石柱が命中する。
だが、命中した石柱と共に地上に落ちていくリベジオン。
通常であれば原型を留めないほどの衝撃を受けて潰されてしまっている筈である。
だが因果固定は自身の因果を止め、ありとあらゆる外的干渉に対して不変とする技である。
これによって落下していくなかでもリベジオンはその攻撃をうけた中でも受ける前と同じ状態を保っていた。
これこそがリベジオンの持つ絶対防御『因果固定』である。

「でも、その技は結構弱点多いよね、1つは燃費が悪かったり、もう1つは―――」

黒峰咲はダグザの大釜に再び石柱を1本創造させる。

「因果を止めてしまっているがゆえに使用中は意識がなくってしまう点だったりね。」

大地に衝突、それと同時に因果固定が解除される。
止まっていた意識が動き出す、その瞬間、その一瞬に生まれる隙。
その因果固定の致命的な隙を黒峰咲は見逃さない。
リベジオンに向けて放たれる石柱。

「藍、現状の―――――」

因果固定の解除、これによってもたらされる意識の朦朧。
それを振りはらうようにして潤也は藍に現状を尋ねる。

「潤也、避けて!!!!!」

叫ぶ藍の声。

「えっ―――」

何が起こっているのか把握し、潤也が目を見開いた瞬間、リベジオンに大きな衝撃が襲った。


―4―

機体が大きく揺れ、潤也は大きくバックシートに頭を打った。
衝撃に揺れる脳と視界、それを抑えるように自分の顔を手で掴むように覆う。
そしてふとその痛みから黒峰潤也はまだ自分が生きている事に気づいた。
絶対不可避の攻撃、それは確実にリベジオンを粉砕するにたる一撃だった筈だ。
であるならば、何故今己は生きているのか?
潤也は首を振りながら、ディスプレイを見る。
ディスプレイには依然として移るメタトロニウスの巨影。まだ、カメラは死んではいないようだ。

「藍…現状の報告を頼む。」

頭が鳴っているような感覚。DSGCシステムを作動させた直後に受けたせいもあってかいつもより耳鳴りも酷い。

「う、うん、潤也。右腕部を敵の石柱を受けて粉砕。それと共にブリューナクを喪失。それ以外は衝撃で計器類が悲鳴をあげてるけどリベジオンの動作に支障ないと思う。」
「どういう事だ。」

潤也は再びオーブ状の操縦桿を掴み、リベジオンを立ち上がらせようとする。
リベジオンは片膝をついて自らの身を起こした。
動作確認。左腕問題なし、右腕喪失のため反応なし、頭部問題なし、両脚部位、背部スラスター共に問題なし。
その現状を理解して、自分が何故今生きているのだろうという疑問がさらに生じる。
黒峰咲が因果固定の弱点、その決定的なチャンスでこんな仕損じを行うとは思えない。
つまり、これは――

「そ、外してあげたって事だよ。お兄ちゃん。」

なんとも楽しそうにメタトロニウスのスピーカー越しに告げる黒峰咲の声。

「どういうつもりだ…。」

立ち上がったリベジオンはその双眸でメタトロニウスを睨み問う。

「どういうつもり?『生きててうれしー』とかじゃなくてどういうつもりって言われてもなぁ…ほら、正直お兄ちゃんと咲の力の差ってティラノサウルスとミジンコみたいなものだから咲が本気だしたらすぐ戦いなんて終わってしまうでしょ?それってつまらないじゃない?」
「つまらないって…あの子何を…。」

そう当たり前のように言う咲に藍は言葉を失う。

「それにしこりがあるのって嫌じゃん。なになにすれば勝てた―とかなになにしとけば勝てた―ってそういうの咲後から言われるの大嫌いなんだよね。だからさ、お兄ちゃん。咲はお兄ちゃんの使う全ての手を無為にしてあげる。その上で殺せばそれは咲の完全勝利でしょ?誰もケチ付けない完璧な…そしたらお兄ちゃんも諦めがつくでしょ。」

さも当然のようにいう咲に潤也が抱いたのは苛立ちではなく恐怖だった。
今、黒峰潤也と黒峰咲が行っているのは殺し合いである。
命と命を賭けた戦い、どちらかがその全てを失うであろう戦い。
黒峰潤也はその賭けに勝つために必死にその生命力の限りを尽くして戦っている。
普通、戦いとはそういったものである筈である。
しかし、咲はそれを対して感じてもおらず平常心で楽しんでいる。
今までの戦いが遊戯だったかのように…。
その事実に潤也は強く恐怖した。

「だが―――」

舐めてくれているのならば僥倖だと潤也は思う。
確かに今の攻防だけでも自分の操るリベジオンと咲の操るメタトロニウスには大きな能力の差がある事はわかった。
もし最初から本気で殺す気で来られていたのならば、今の一撃で確実に黒峰潤也は死んでいただろう。
だが、それをしなかった、あまつさえ潤也のもつ術の全てを打破しようと宣言したのだ。
その油断、その隙にこそこの絶望的な戦力差を一撃をもってひっくり返す切り札がある。

「藍、ブリューナクを再創造するぞ。」
「でも、潤也もうそれでシステムのフル稼働は三回目だよ。」

藍は心配するように潤也にいう。
それもその筈である。黒峰潤也がDSGCシステムのフル稼働で自我を保てる最大回数は現状三回であると見ている。
つまり次の起動を行えば、それ以降のDSGCシステムの行使は限界を超えるという事に他ならない。
それは再びリベジオンが暴走し、そして最悪、潤也が―――

「構うな!」

潤也はそう叫ぶ。

「元よりここで捨てる気の命だ。この戦力差、限界を考えて勝てる相手じゃない…。」
「でも、潤也…。」
「藍、これは『命令』だ。」

心配して止めようとする藍に潤也は命令する。
藍は黒峰潤也の『命令』には逆らえない。彼女自身がそうなるように自身を作り替えてしまっている。

「了解しました。DSGCシステムフルドライブ。」

それと同時に来る怨念の洪水、潤也はそれに耐えてコードを入力する。
左腕に現れる因果を歪める黒槍。

「ブリューナク、再創造完了。」

それは正真正銘最後の一本である。これ以降ブリューナクを再構築するエネルギーはもう無い。
リベジオンは左手でそれを握って脇で抑えた後、迷いなくメタトロニウスに向けて飛ぶ。
このままメタトロニウスの攻撃を受け続ければ、潤也達は一撃すら加える前に全ての力を使い果たし敗北は必至である。
だからこそ、残る望みは残る力全てを使った短期決戦。
そう結論した潤也は迷わず即座に行動に移していた。

「藍、呪怨結界の全てをブリューナクの矛先に集めろ。」
「え、でもそれじゃ、リベジオンの守りは…。」
「どっちにしろ防戦になるだけで不利だ。奴の呪怨結界を貫くにはこちらの全ての呪怨結界を矛先に集めた一点突破それに賭ける。」
「―――わかった…。」

メタトロニウスの纏う呪怨結界の総エネルギー量はリベジオンのおおよそ5倍程度である。
そんなものと正面からぶつかればそれから放たれる斥力でリベジオンは再び吹き飛ばされて近づく事すら出来ない。
根本的に桁が違うのだ。それを破る為にはリベジオンの全ての呪怨結界を一箇所に集めた一点突破攻撃しかないと潤也は結論した。
無論、メタトロニウスがそれに対応して結界の厚みは攻撃される箇所だけ変えてくる可能性はある。
しかし、それはその分他の場所の呪怨結界が薄くなったという事に他ならない。
それを確認次第すぐに別の箇所を攻撃すればいい、別に敵に致命的なダメージを与えられる箇所である必要はない。
そのつま先一つにでもかすりさえすればいい。そうすれば、因果終焉で敵は因果の毒に冒されて滅ぶ。
メタトロニウスの常軌を逸した巨大さが逆に潤也達にとっては都合がよかった。
あれほど巨大な的であるのならば当てるのはそう難しい話ではない。
問題となるのは敵の迎撃であろうか、あの石柱の猛反撃をうける事は予想される。それをかい潜りながら敵に一矢を当てなければならない。

「藍、敵の呪怨結界のモニターは怠るなよ。」
「わかってる。敵、急上昇、逃げる気!」

メタトロニウスはその巨大な両翼を広げ、飛翔を開始する。

(思惑が読まれたか、いや、そもそもこれほどわかりやすいものもないか…。)

潤也は胸中でそう思い、下唇を噛む。しかし、もうこれしか自分たちには残された手はない。

(だが、逃がすものか!)

藍に指示をして、操縦桿を握るその両手に力が入る。
それからメタトロニウスは高度を1000m程度あげた所で止まった。

「いやね、お兄ちゃんが何を考えてるかわからなくもないんだけどね。じゃあ、返し手としてはこんなのが面白いかなって…。」

そういってメタトロニウスは再び鎌を振り回し、釜を開く。
迫るリベジオンとメタトロニウスの間の空間歪み、リベジオンの目の前に新たな物質が創造される。

「じゅ、潤也!」

それを見て悲鳴をあげる藍。

(はは、ふざけてやがる…。)

心の中で乾いた笑いをあげるしかない潤也。
リベジオンの正面に現れたのは横幅3kmを超える巨大な岩の塊だった。

「この距離だともう避けれないでしょ?ねぇ、どうする?お兄ちゃん。」

上空高く飛翔したメタトロニウスはリベジオンに向けて隕石を蹴り飛ばした。
隕石は紅の光を帯びて加速し、リベジオンへと迫る。

「じゅ、潤也!!因果固定を!!」

藍が因果固定を使うよう嘆願する。
潤也はそれを黙殺しながらオーブを操作した。それに従いリベジオンの各部が展開する。
紅の光が漏れだし、その全てがブリューナクに集約されていく。

「エクスキューショナーモード?潤也、それは!」
「構うな、やれ藍!」
「―――でも、潤也…。」

ためらいの声。
ここでそれを使うという事は、次の本体へもう一度DSGCシステムの完全駆動を要求されるという事である。
既に3回DSGCシステムを完全駆動させている。つまりは次からは黒峰潤也が自我を喪失する可能性がある危険域に到達するという事だ。

「やれ、『命令』だ…藍!」
「――――っ。」

目に貯まるものを堪えながら藍は命令に従いながら、「自分は一体何をしているのだろうか」と琴峰藍は思う。
潤也に生きていて欲しくて、潤也の為になりたくて自分の全てを差し出したというのに、これでは潤也を死地へと追いやっているだけではないだろうか?
自分がいなければ潤也はこんな事にならなかったのではないか?
一昨日自分に抱いた疑念が頭からついて離れない。
しかし、それについて考えている時間もなかった。
DSGCシステムの起動の終了。藍は潤也に声をかける。
すぐに潤也の声が返ってきて、安堵の息を吐く藍。
それと同時にブリューナクに因果終焉に必要なエネルギーが貯蓄される。
琴峰藍は眼前に見える隕石の因果情報を解析し、ブリューナクはその隕石の持つ因果を歪める弾を作り出し―――

「―――因果装填」

――――装填する!

「うおおおおお!!!」

雄叫びのような声をあげる潤也。
それは己が立ち向かう恐怖へ立ち向かう己への鼓舞か、それとも自身が体験した怨念の記憶を振り切る為の叫びか。
隕石との距離が短くなり、リベジオンはその手に持った魔槍を突き出す。
矛先が隕石の一部に食い込む。
その矛先から紅の光が流れだし、即座に隕石の全てを侵食し、その隕石が持ちうる始まりと終わり以外の因果の全てをなかった事にする。
隕石はその姿をなくし、リベジオンの眼前にいるのは全長50mを超える巨体を誇るメタトロニウスの姿。
それを確認して、潤也は下唇を噛みしめるようにした後、

「――――次弾装填。」

DSGCシステムを再び完全駆動させた。狙いはメタトロニウス本体への因果終焉の執行、それに必要なエネルギーを供給。

「潤也、やめて潤也!!!」

止めようとする藍の声。
既に限界を超えた駆動。いつまた怨念達に黒峰潤也が取り込まれてしまうかわからない。
そして今度取り込まれてしまったのならば、本当に戻ってこれなくなる可能性もある。

「『命令』だ、やれ、藍!!!」

そう命じる潤也。

(い、嫌だ…。そんな事をしたら潤也は…。)

藍は心中ではそう思うものの体はその思いと違えて、潤也の命令をその通りに遂行する。
リベジオンの各部から紅の光、怨念の吸収が始まる。
通算5度目のDSGCシステムの完全駆動である。

「あ、あぁ、あ…。アァァ。」

潤也から漏れる声にならない声。
精神が怨念たちの死の追体験にさらされて、数千もの怨念の声をその身に心に受ける。
声は震え途切れ、聞く方にも痛みを感じさせるような声だった。

「嫌だよ…こんなの嫌だよ…。」

リベジオンのDSGCシステムの完全駆動が終了する。

「――――ぐっ――――まだダ、まだ、おレの意識はつながっテいルルルル!!!」

ブリューナクの矛先をメタトロニウスに向けて突き出すリベジオン。

「へぇ、またシステムを起動したんだ、お兄ちゃん。でも、もう限界こえてるでしょ?それ?」

感心したようにそれを眺めるメタトロニウス。
リベジオンに残された全ての呪怨結界をブリューナクに集約、その力を持って強引にメタトロニウスの呪怨結界の突破を狙う。
ブリューナクの矛先で紅の光が渦を巻き螺旋を作る。
メタトロニウスの呪怨結界とブリューナクの矛先が衝突する。
全ての呪怨結界を収束したブリューナクはメタトロニウスの結界を抉るようにして食い込んでいく。
しかしメタトロニウスの呪怨結界は厚い。全ての力を一点集中してもなおリベジオンをブリューナクごと押し返そうとする。
操縦桿を握る潤也の手に力が入る。

「抜けロオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」

叫びに呼応するかにようにリベジオンから発せられた紅の光がさらに早く渦を巻く。
その衝撃をもってリベジオンはメタトロニウスの呪怨結界を突破した。

「う、嘘!」

黒峰咲は驚きに声をあげながらメタトロニウスは後方に下がらせリベジオンの攻撃への回避行動を取る。
しかし、メタトロニウスの巨体がこの時ばかりは完全に裏目に出ていた。的としてあまりに大きすぎたのである。
ブリューナクの矛先がメタトロニウスの右腕部に掠る。
普通ならば無傷と差し支えてもよいほどの損傷。しかし、それだけでも致命傷に変えてしまうのがブリューナクという至宝である。
因果終焉の毒がメタトロニウスの全身を駆け巡る。

「――――そんな、嘘、嘘嘘嘘!こんな所で敗れるわけには、まだ、アークにも達してないというのに…こんな所で…。」

咲の悲鳴がこだまする。
リベジオンは全ての力を使い果たし落下を始める。
しかし、その双眸は滅び行くメタトロニウスの姿を確かに捉えていた。

「やったよ…!潤也!」

潤也に呼びかける藍の声。
彼女にしてみれば既に決まった勝利の結果より気になるのは潤也の安否だった。
度重なるDSGCシステムの駆動、それは黒峰潤也を確実に蝕んでいる。
やがて黒峰潤也という人間の意識は怨念に染まり、怨念の完全なる代弁者となる。
それはもはや黒峰潤也ではなくなるという事だ。
全てが終わった、
もう潤也は戦わなくていい、こんな怨嗟の中に心を投げ入れて身を焼かなくてもいい。
だから、琴峰藍は願う。黒峰潤也の無事を…。

「潤也、大丈夫?潤也!」

声がコックピットに響く。

「あ…い…。」

途切れ途切れに返される声。
しかし、確かに潤也は藍の名前を呼ぶ。
その事実に藍は歓喜した。まだ潤也が自分の名前を呼んでくれる。

「潤也!勝ったんだよ、潤也!」

返される声に喜ぶように藍は潤也に勝利を報告する。

「勝っ……た?」

DSGCシステムの度重なる駆動により消耗し、朦朧とした意識の中でその言葉を噛みしめる。
求め続けた黒峰咲の殺害…それを成したという報告。

(―――勝った…勝ったのか…俺は黒峰咲を殺したのか…。)

あれほど望んだ復讐。それを果たしたというのに何の感慨もわかないのは何故だろう…。
意識が朦朧とした中での殺害だったゆえに実感がないのか…それとも復讐そのものに意味が無いと告げる真実なのか…。

――――いや、何かがおかしい。

いつも敵を倒した時に感じる感覚…相手の死の断末魔がDSGCシステムを通して黒峰潤也にフラッシュバックするそれがない。

(そんな、まさか――)

リベジオンに大きな衝撃が響く。

「えっ…」

藍が何が起こったのかわからず素っ頓狂な声をあげる。
潤也は顔を上げ、敵を見据える。
リベジオンの双眸のカメラがしていたのはリベジオンと同サイズの白い鋼機だった。

「ざーんねんでーした!」

聞き慣れた声を発しながら、白い鋼機は再びその足を振り上げてリベジオンに蹴りを加えリベジオンに再び衝撃が走る。
その衝撃を受けて加速し大地にぶつかるリベジオン、その衝撃で背部にあった両翼が粉砕する、
そして白い鋼機は背に生えた六枚の羽を羽ばたかせまた天高く飛翔し、腕を組みリベジオンを見下ろした。

(馬鹿…な、だがさっきの声は…)

黒峰咲の声。だが黒峰咲は因果終焉を受けてメタトロニウスごと死を迎えた筈である。
だというのにあれはなんだというのか?

「あ―――っ。」

その確認を取るために声をだそうとするが、上手く喉が動かず言葉が声にならない。
DSGCシステムの過負荷の影響だろうか?

「なんで生きているのか?この機体は何なのか?と聞きたいんだよね!お兄ちゃん!」

楽しそうに語りだす黒峰咲。

「そうだなぁ…しいていうならば、この機体が本当のメタトロニウスなんだよ。」
「本当のメタトロニウス?」

疑問を返したのは藍だった。
返答を返したのが潤也ではなく藍であることに少し不満そうにしながら咲は言葉を続ける。

「そうだよ、咲のそっくりさん。マトリョーシカって知ってるかな?お人形が空洞になっていてね、その空洞の中に外のお人形と同じお人形が入ってるの…。」
「それが一体…あっ…まさか…。」
「そそ、お兄ちゃん達が頑張って因果を終わらせたのはメタトロニウスの着ていた外装だったわけだよ。メタトロニウスそのものじゃないからね、本体であるこの機体は因果終焉の影響を逃れる事が出来た。すごいでしょ?」

藍はメタトロニウスを凝視する。その姿に藍は既視感を覚える。
何かに似ている…そう感じ結論を得るまでには遠くなかった。
細部は違うものの今、空からこちらを見下ろしているメタトロニウスはリベジオンと似ている。
リベジオンとメタトロニウスは兄弟機だという。お互いの機体に似ている所があってもおかしくはない。
その似た容姿は今メタトロニウスが本体だという言葉に説得力を持たせていた。
リベジオンとメタトロニウスで違う所があるとするならば背に生えた4枚の羽と、1つしかない瞳だろうか?

「まあ、何が言いたいのかというと、因果終焉も因果固定と同じでこうやって無駄撃ちさせられたらダメだよねーって事…いや、ほんとは隕石だけでそれを証明して外装を消させる気はなかったんだけどね、そこは流石お兄ちゃん!ああやって無理矢理せめてくるなんて咲驚いちゃったよ。」

そう宣言する咲。
潤也は残る力を振り絞り操縦桿を握ってリベジオンを立たせようとする。
それに気づき藍は静止の声をあげる。

「潤也、もう無理だよ!諦めようよ!このままじゃ潤也が死んじゃうよ。」

空から地表にたたきつけられたせいか、各部に異常が発生しており、機体が立ち上がろうとするときに右膝が折れ、そのままリベジオンは膝をつく。

「ま…だ…だ…。」

己の戦意を振り絞るように、自分を鼓舞するように声を絞り出して目に力を入れる。
咲はそれを見かねて

「あーあーあー、やめときなよお兄ちゃんもう限界でしょ?お兄ちゃんには無理なんだよ。ほら例えばさ、至宝を除けば、メタトロニウスとリベジオンはほとんど同スペックなんだ。なのに呪怨結界1つとってもこれだけ規模が違う。なんでだと思う?」

咲は返答を待つが返って来ない。それに少し不満そうにしながら

「あれかなお兄ちゃん、今システムの過負荷でまともに喋れないとかのあれなのかな…情けないなぁ。まあ、なんでかというとね、お兄ちゃんは至宝の能力を使う度にDSGCシステムを一時的に完全駆動させてエネルギーを組み上げて使ってるでしょ?井戸で水をくむみたいに…でも咲の場合はね根本から違うんだよ。咲はねこの戦いが始まってからずっとDSGCシステムを完全駆動させ続けてるんだよ。」

潤也はその言葉に戦慄し息を飲む。
とても信じられる話ではなかった。
DSGCシステムの短時間の駆動、それだけでも潤也は大きく消耗し精神は危うく怨念に乗っ取られかけている。
システムの駆動による怨念達の死の追体験というのはそれほど負担のかかる行為なのだ。
だというのに…咲は最初から今までずっと駆動させつづけていたというのか?あの怨念の中に今もなおその心を浸し続けているというのか?
違う、根本的に何から何までもが違いすぎる。

「これが出来ないお兄ちゃんはほら、才能というか適正がないんだよ。残念だけどね。咲がこの機体のパイロットに選ばれたのもお父さんが作った診断テストで抜群の評価だったからなんだって…。それにほら、コレができるからこそ咲の望みにやっと現実味が感じられるようになったでしょ?」

黒峰咲の望み。
それは至宝を用いた人類の不死化である。
人を殺し、至宝を探しだし、DSGCシステムで死んだ人間の魂を読み取り、不死の生物として新たに新生させる。
そうして世界から死を奪う。それが彼女の宿願だった。
その過程で自分の父と母を殺す必要があったのだと…どうせ最後には必ず生き返らせるのだから今死ぬ人の事は考えなくていいのだとそういった。
しかし、それを咲の口から聞いた潤也はそれを信じる事はできなかった。
DSGCシステムを1度駆動させただけでかかる多大な精神への負担、それを世界規模で行うと彼女は言ったのだ。そんなものとても出来るとは思えなかった。
そしてそんな叶わない望みの為に、一人よがりな大義を掲げ罪の意識もなく人を殺し続ける彼女を許す事などできなかった。
しかし、今の彼女はどうだろうか?
DSGCシステムの常時駆動、黒峰潤也にはとても耐えられないそれをして今もなお精神は平常を保っている。
いや、そもそも狂っているのかもしれないが…。

「ねぇ、お兄ちゃん。なんでさっきから致命的な攻撃を咲がしてないかわかるよね?」

立ち上がろうとするリベジオンをメタトロニウスは再び足蹴にして倒れさせる。

「咲は出来ればお兄ちゃんを殺したくないんだよ。出来るならば一緒に同じ夢を見てほしいと思ってる。」

メタトロニウスは地に倒れたリベジオンの頭部を何度も踏みつる。

「だから最後にもう一度だけ聞くね、お兄ちゃん。咲と一緒に行く気はない?」

潤也は理解した。咲は未だに手を取り合う事を望んでいる。
彼女の望みの為に全人類の抹殺と新生、そして至宝の収集その手伝いをすることを望んでいる。
だが、潤也にはそれを受け入れる事はできない。
決してそれは正しい事じゃない、そう思う。そして何よりもそんな望みの為に父と母を殺した黒峰咲が許せないから…。
1つを除いて考えられる全ての手は尽くした。
しかし、それはまるで効果はなく赤子の手をひねるかのように一蹴された。
残る手は1つ。
それを行えばおそらくは自分は死ぬだろう。
そう予感めいたものがある。けれどもはやこれにすがるしかこの状況を打破する手段はない。
潤也は最後の力を振り絞り喉から声を出す。

「あ…い…。」

そう呼びかける声に藍は言葉を返す。

「潤也?」

もはやまともに喋ることすらままならない主の声を聞き取ろうと耳を澄ませる藍。

「『命令』…だ、DSGCシス…テムを…起動させ…ろ…。」

そう命令を発した。

「えっ…。」

藍は最初耳を疑った、潤也が何をいったのかを…だってそれは…藍に潤也を殺せと言っているのに他ならないのだから…。

「―――っ、あ、いや、そんなの…。」

藍は、命令に従おうとする体に抵抗を試みる。
しかし、数秒後その抵抗もむなしく体はDSGCシステムを起動させようと動き…。

(い、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。)

心の中で悲鳴じみた声をあげる藍。
既に6度目、そしてもはや先の起動で奇跡的に自我を取り戻せただけの状態という状況でのDSGCシステムの起動。
それが招くものもはただ1つ。黒峰潤也という人間の心の死に他ならない。
それを理解していない黒峰潤也ではない。理解した上での命令、つまりそれは…意図的な暴走を見越した特攻策だった。

――――DSGCシステム起動。

藍の思いを無視するようにしてリベジオンの各部が展開する。

(止まって、止まってよ、止まってよ!!!!)

展開部から怨念の吸収を開始する。
紅の光がリベジオンに吸収され始め、その怨念達の思念が潤也の精神へと侵攻を開始し、そして――黒峰潤也の精神は完全にその全てを怨念に染め上げた。


「シネ、シネ、シネ、シネ、ナンデオマエハイキテイル?ユルセナイコロシテヤル!」

精神が殺意に染まる、全ての怨嗟を吐き出す、それに呼応するようにリベジオンの双眸が輝いた。
踏みつけようとするメタトロニウスの足を掴み投げ飛ばした。
メタトロニウスは翼を展開して宙で静止する。

「そうか、そこまでして…お兄ちゃんは咲を殺したいんだね…。」

視界が漆黒に染まる。見えるものは敵、敵、敵。
生きてるものがユルセナイ、なんで生きているのか?
僕は死んだのに、私は痛い思いしたのに、俺は辛い思いをたくさんしたのになんでオマエはそこでのうのうと生きているんだ。
許せない、殺す、殺す、殺す、殺す!
潤也の胸中をそういった思いが支配する。既に黒峰潤也であった筈の自我はなく怨念達の代弁者へと変貌を遂げている。
リベジオンの全身を紅の光が包む。全てが紅を纏った光の獣とかしていく。それはいつか見たリベジオン最大の攻撃形態、怨念の獣となる『魔獣纏衣』だった。
獣となったリベジオンはメタトロニウスに向けて音を超える速度で跳躍する
その手にもったブリューナクを今度こそメタトロニウスの体に直撃させる為に…次こそ完全に殺しきる為に…。
咲はメタトロニウスの機体内でそのリベジオンの痛々しい姿を見て、優しく微笑んで

「そう、じゃあ、受け入れてあげる。」

メタトロニウスは動かず、その一撃を受け入れ、そしてそのままリベジオンを抱きしめた。
メタトロニウスの本体に深々と突き刺さり因果終焉の毒が今度こそメタトロニウスの本体を駆け巡る。
末端から末端へとその全てを因果の毒が喰らい尽くす。
先とは違い今度こそメタトロニウスには絶対の死が訪れる。
そしてメタトロニウスは間違いなくこの時世界から消滅した。

「アハハハッハハハハハハハハハハ!」

獣のような笑い声をあげる潤也。それは誰の笑い声なのか、少なくとも潤也のものではないことは確かである。

「嘘だ、嫌だ、そんなの、そんな風になってほしくてわたしは潤也と一緒になったわけじゃ…。」

もはや黒峰潤也ではないものへと変貌しつつある潤也を見て、藍は後悔の涙に顔を濡らす。

(でも、これで…勝ったんだよね…潤也の望みは叶ったんだよね…。)

本望だった。そうであって欲しかった。せめてそうでないと報われないではないか…そういった思いが咲の胸中を支配する。
しかし、それすらも踏みにじる声が聞こえた。

「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんが咲に勝てない理由があるって前に言ったよね、その理由…今から教えてあげる。」

そこに響く黒峰咲の声。
殺した確かに殺した筈なのにその声が響く。

「其の釜は万物の誕生を司る。人は豊穣を望み、安寧を望み、そして暖かさを望む。これこそがこの世に生きとし生けるもの全ての望み。受胎せよ。『万物新生(サイクルリバース)』」

メタトロニウスが消滅した筈の空間が歪む。
それはあってはならない事だった、ありえてはならない事だった。
この世界に定められた神の摂理に背く許されざる禁忌。
しかしメタトロニウスの手に握られていたそれは一体なんであったか?
それは至宝『ダグザの大釜』万物の誕生を司り、無から有を作りだす創造の釜である。
光が起こる、光は少しづつ形をなしていき、そしてこの世に存在を定着させ実体を持つ。

「そ、そんな…。」

藍はその光景に震える。
潤也が命を賭して行ったこの攻撃、それすらあの敵には届かないというのか?
挑むべきではなかった。こちらに至宝さえあればチャンスはあるという考え。それが根本的な誤りであった事を藍は知る。
そしてそれはリベジオンの前に現れ、リベジオンを殴り飛ばす。
リベジオンは地表に衝突した後、その出現した機体を見上げる。
白銀の機体、リベジオンを瓜二つの外見を持つ鋼機『メタトロニウス』。
さきほど因果終焉によって死を迎えた機体そのものだった。

「馬鹿ナ!コロしタ、コロシタハズダ!」

潤也に住み着いた怨念達が叫ぶ。確かに殺した筈だと…。
因果終焉は絶対死の一撃例外はないのだと…。

「そうだね、メタトロニウスは確かに一度、確かに破壊された。因果ごとね。でも一度壊されたのならば新しく作ればいいだけの事なんだよ。ね、どう足掻いても勝てないでしょ?」
「ダガ、限界がアル筈ダ。貴様ガ限界ヲ迎エルマデ…。」

『ダグザの大釜』の再誕能力、それは至宝の行使つまりはリベジオンの因果終焉と同じ事をしてるのに他ならない。
ならば、いつかは限界が来る筈である。それまで因果終焉を叩き込み続ければ…。

「あーあのね…その限界なんていうのは来ないといっても、きっと納得してもらえないだろうしなー。しょうがないあんまり好きじゃないんだけど使うか…。」

そういうのと共にメタトロニウスの手元に鎌が現れる、鎌に取り付けられた鎌が開き…その鎌から金色の光が放たれメタトロニウスを覆いはじめた。

「『無を有にする』というのはね。無いものを作る力なんだ。『ダグザの大釜』はなんでも作ることが出来る、岩も柱も人も隕石、そして形のないエネルギーさえも…つまりね、この『ダグザの大釜』はね自身を動かすためのエネルギーすら自給自足で作りだす事が出来るんだよ。わかった?ま、こんなもの使ってるようじゃ咲の望みは叶わないから基本的に使わないけどね。」

その言葉に怒り食らう怨念達。決して死なぬ存在が目の前にいる。その事実は怨念達に到底受け入れられるものではなかった。
そして、その光景を目の当たりにして琴峰藍はこの戦いに初めから勝機などなかった事を理解した。
至宝『ブリューナク』と『ダグザの大釜』
この2つは相性が悪すぎるのだ。何度、ブリューナクによって死を与えたとしても、ダグザの大釜によってメタトロニウスは幾度もその姿を生まれなおさせる事が出来る。それは因果の新しい創造であり、因果終焉の無力化に他ならない。しかも必要なエネルギーは自給自足出来るため実質無尽蔵だ。
根本的な怨念機のスペックを引き出す能力だけでも絶望的なまでな差を見せつけられていたというのに至宝同士の相性までもが最悪となればこれは勝機がある戦いなどではなかった。
どんな不利な状況でも一刺しすれば勝ちを拾えるブリューナクの能力、それが潤也達に勝機を見誤らされたのである。

「じゃあ、そろそろ仕上げというこうか…。」

メタトロニウスの周囲に多数の石柱が出現し放たれる。
リベジオンはそれをかわしきれず直撃を受け、四肢を潰された。
そのままメタトロニウスはリベジオンに接近し、その鎌の先でリベジオンの左脇腹を刺した。
そこはリベジオンのDSGCシステムが搭載されている箇所でもあるDSGCシステムは破壊され機能を停止し『魔獣纏衣』が解ける。
纏衣が解けたリベジオンの瞳は光を失い、動作を停止する。

「あとは設計図を奪うだけかなぁ…そういえばお兄ちゃんがもってるんだっけ?お人形さんがもってるんだっけ?」

そう言いながらメタトロニウスはその鎌で胸部を切り裂いた後、操縦席をこじ開ける。
操縦席に座っているのは黒峰潤也だ。
目の焦点は定まっておらず、口からはヨダレがたれている。

「まあ、こうなっちゃうよね…こうなる前に終わらせたかったんだけどな…。」

少し残念そうに言う咲。

「――――さ…………き…。」

そう無意識にうわ言のようにいう潤也。
咲は、それを聞いて少しの沈黙の後

「あは、すごい、お兄ちゃん。あれだけの事をやってまだギリギリの所で自我を保ててるんだ…もうとっくに崩壊してるのかと思ったよ。これは誤算だなぁ、お兄ちゃんがすごいのは知ってたけどそれでも見くびってたよ。」

そう感嘆する声を聞いて驚く藍。

(潤也が…まだ生きてる?)

完全に潤也を喪失していたと思っていた藍に微かな希望が訪れる。

「でも、ごめんね。お兄ちゃん。そんなんじゃもう生きてるだけで辛いでしょ…。だから、咲が殺してあげるね。」

そういってメタトロニウスの鎌の矛先を潤也に向けて振り下ろそうとしたその時、―――

「待って!」

呼び止める声があった。
メタトロニウスは背部のサブブロックから這い上がってきたその声の主を一つ眼で捉える。
そこには黒峰咲と容姿がそっくりな少女がいた。
少女の目は泣きはらした後のせいか赤くなっていた。

「あら、そっくりさん。どうしたの?」

まるで今いたのを思い出したかのように語る咲。

「あなた、至宝が欲しいんでしょ?」
「そうだね、咲の望みのためには必要だから…。」
「ブリューナクの設計図ならわたしが持ってる。これをあなたにあげるから1つだけお願いを聞いて欲しいの…。」
「お願い?」
「うん、至宝を設計図を…わたしをあげるから潤也を殺さないで欲しい。」

少しの沈黙…。

「ねえ、そっくりさん、お兄ちゃんが今どんな状況になってるか知ってる?」
「潤也が?」
「そこから降りたら見れるから見てみなさいな…。」

そう言われて藍は操縦席のある胸部までおりる。
数時間ぶりの潤也との対面。
しかし、そこにいた潤也の姿は数時間前とは違う無残な姿に変わり果てていた。

「――――っ。」

喉からでかかる声をこらえて藍は潤也に背を向けて、メタトロニウスに対面になって言う。

「うん、これでも…潤也には生きていて欲しい…。」

出来る限りの勇気を振り絞って藍は言う。
それを受けて咲は考えるようにした後、

「―――そう、いいよ。咲も別にお兄ちゃんを殺すのは面白くないしね。」

と言った。
交渉が成立し、藍は安堵に胸を撫で下ろす。
これでわたしがどうなったとしても潤也だけは生きていく事が出来る。

「ねぇ、最後に潤也にお別れを言ってもいい?」
「いいよ、聞こえないだろうけど…2分あげる。」
「―――ありがとう。」

そう許可を得て、藍は潤也に近づいた。
潤也に近づく。血と火薬と焼けた肉の匂いがした。その発生源は潤也の右腕だった。
イーグルから取り付けられた腕輪が爆発し、潤也の腕を破損させたのだろう…。
原因は先のDSGCシステムの稼働か…目は焦点が定まらず眼球から血が流れだしている。
何かをいおうとよだれをたらした口がたまに魚のように動くが何を言っているのかは理解できない。
1つ確信をもっていえるとするならば、もう黒峰潤也は戦えるような体ではないだろうという事だった。
よく見ると潤也の体は震えている。
今も潤也の精神は極限の緊張状態にあるのかもしれない。
藍はその姿を見て、少し躊躇った後、潤也を抱きしめた。
震えを止めるように、安堵を覚えてもらえるように、研究所から助けてくれた時に自分にしてもらえたように…。

「ねぇ、潤也。わたしね。ずっと潤也に感謝していたんだ。研究所から潤也がわたしを助けだしてくれた時、潤也がわたしに暖かさを教えてくれた時…とっても嬉しかった。こんな事いうと潤也は不機嫌になってまた『そんな事を喜ぶな』とか怒るんだろうね。でもね、それに救われていたんだよ。」

琴峰藍がまだナンバーIと呼ばれていた頃、藍は研究の一環として様々な実験受けていた。
それは激痛を伴うものがほとんどであり、まともな神経をした人間であったならばすぐに狂ってしまうだろうものだった。
しかし、藍は生まれた頃から実験しか受けてこなかったが為にそれに耐える事ができた。
これが当たり前なのだと、これが生きている意味なのだと思った。
とある日、黒峰潤也とナンバーIは邂逅し救出される。その時、藍は初めて人の腕の中で抱きしめられるという経験をした。
その記憶と感触は藍にとって驚きであった。痛みが全てだと思っていた、辛いことが当たり前なのだと思っていた。
けれどその腕の暖かさがそうじゃないものがあると藍は知った。藍にとって潤也との邂逅は潤也が考える以上に特別なものだった。
それから潤也と行動を共にする内に、潤也がいつも苦しそうな顔をしているのに気づいた。
だから彼に救われて欲しい藍は思った。それはいつしか彼女の願いになっていた。
その為に彼女は彼女に考えられる全ての手段で潤也に尽くした。
全ては潤也に自分が抱きしめてもらった時のように幸せになって欲しい。そう願いを込めて…けれど、それが結果的に潤也を死地に追いやってしまった。
諦めようかとしていた潤也に至宝などという力を与えてしまい彼の退路を塞いでしまった。
わたしがいるから黒峰潤也は今のような状況に陥ってる。
今黒峰潤也をこんなにしたのはメタトロニウスでも黒峰咲でもUHでもない。間違いなく琴峰藍なのだと彼女は思う。
だからお別れをしなければならない。もう彼を苛まないように…彼一人で幸せを掴んでもらえるように…。
でも―最後にお礼だけは言っとかないと―――
そう思い藍は潤也の額に額を当てて言う。

「わたしを救ってくれてありがとう、わたしを必要としてくれてありがとう、わたしに意味をくれてありがとう。だから、あなたは生きてください。」

そういって潤也から額を離して藍はメタトロニウスに向かう。

「別れはすませた?」

咲が尋ねる。

「うん、我儘聞いてくれてありがとう。」
「そう、じゃあ、今度は咲の番だね。至宝はほしいけどあなたはいらないの…この意味わかるよね?」
「―――うん。」
「だからね――――」

メタトロニウスは藍に向けて右手を差し伸ばす。
藍は目をつむり静かにその手の中に身を委ねた。
そして、メタトロニウスの鋼の指先に藍の全身が埋まるように包んだ後、

「バイバイ、咲にそっくりなお人形さん。」

――――握りつぶした。
メタトロニウスの拳の中から果物を潰し果汁を絞りだしたかのように流れでる藍の血。
それは機体にしたたり落ちて溶けこんでいく。

「あは、あはははは、あははははははは!やったついに手に入れた!ついに2つ目を手に入れたよ!パパ、ママ!」

咲の歓喜の笑い声が響く。
メタトロニウスの姿が少しづつ変貌していく。
それは1機の怨念機が2つの至宝を持った為に起こる現象。
1機の怨念機が2つの至宝を行使できるようにダグザの大釜がメタトロニウスの体を最適化しているのだ。
6枚あった翼は8枚となり、指は槍先のように細くなり、肩部に禍々しさが増す。
それはもはや鋼機や怨念機を超えた存在への変貌ともいえる。
複数の至宝それを内蔵するという事はこの怨念機は至宝を内蔵する大きな箱となる事でもある。
そういった超越的な力をもった者を怨念機の概念設計を行った史竹孝三郎は超越神(アーク)と呼んだ。
ならば、このメタトロニウスもアークの名に相応しい。


―――――――――――――――――――――――――――――
遠くの東かららくだにまたがって旅する博士、ようやくユダヤの地
みそらに輝いた、星の光の不思議な導きで嬉しい知らせ
没薬乳香と黄金の宝物、主イエスに捧げ祝の印です。

                こども賛美歌「遠くの東から」より
――――――――――――――――――――――――――――――



――――――その日、リベジオンは完全な敗北をとげた。
そして、メタトロニウス・アークはゆるやかに覚醒した。

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