朽ちたビルの影に、四足の獣が一匹。
それを追う、武器を持った、人型ひとつ。
しばらくして、人型がその武器の引き金を引いた。
マズルフラッシュと、曳光弾。
炸薬によって吐き出される鋼の塊。
それらは一直線に四足の獣に殺到し、その躯をズタズタに引き裂く。
鮮血が飛び散る。儚い鳴き声を発して、四足の獣は事切れた。
しかしそんな事には見向きもせずに、そね人型は跳躍し、その場を去る。
「アルファ・スリーよりアルファ・ワンへ。“小型犬”を一匹仕留めました」
『了解。アルファ・フォウが小型犬三匹と交戦中です。アルファ・スリーはアルファ・フォウの援護に向かってください』
スピーカーから優しげな女性の声が指令を出す。
「アルファ・スリー、了解」
『アルファ・ワンは大型犬の陽動を開始します。非常時にはアルファ・ツーに指示を煽ってくださいね』
『うふふ』という声が聞こえてきた。……よくもまあ、戦闘中に笑えるものだ。それだけ場慣れしている、という事だろうか。
「了解」
回線を閉じる。
アルファ・スリー――――中村孝一は深呼吸をひとつすると、操縦桿を握り直した。
彼の搭乗するヒトガタ、“壱式”が跳躍する。
ヒトガタ――――所謂人の形をした機動兵器の事だ。
小型で運動性が高く、様々な地形を走破する事のできる二足歩行を可能にするバランサーにGキャンセラー、高度な人工知能や駆動系に採用された人工筋肉など、最新の技術が惜し気もなく投入された最新兵器であったのは既に半世紀以上前までの話である。
現在の地球には、おそらく以前ほど世界全体に影響を及ぼす事のできる国家は存在しないだろう。
全ては、“新生物”の出現により変わってしまった。
――――数十年前の話。
世界各地に複数の正体不明の物体が飛来したという。そして、そこから現れた未知の生物は街を、村を、ヒトを襲い、駆逐していった。
そして開かれた戦端。
辛うじて人類はそれに勝利したものの、それは世界に大きな傷を与えた。
人類の敵――――“新生物”
何の捻りも無い名前だが、これはこれでいいんじゃないかと孝一は思う。
わかりやすいのが一番いい。
それを追う、武器を持った、人型ひとつ。
しばらくして、人型がその武器の引き金を引いた。
マズルフラッシュと、曳光弾。
炸薬によって吐き出される鋼の塊。
それらは一直線に四足の獣に殺到し、その躯をズタズタに引き裂く。
鮮血が飛び散る。儚い鳴き声を発して、四足の獣は事切れた。
しかしそんな事には見向きもせずに、そね人型は跳躍し、その場を去る。
「アルファ・スリーよりアルファ・ワンへ。“小型犬”を一匹仕留めました」
『了解。アルファ・フォウが小型犬三匹と交戦中です。アルファ・スリーはアルファ・フォウの援護に向かってください』
スピーカーから優しげな女性の声が指令を出す。
「アルファ・スリー、了解」
『アルファ・ワンは大型犬の陽動を開始します。非常時にはアルファ・ツーに指示を煽ってくださいね』
『うふふ』という声が聞こえてきた。……よくもまあ、戦闘中に笑えるものだ。それだけ場慣れしている、という事だろうか。
「了解」
回線を閉じる。
アルファ・スリー――――中村孝一は深呼吸をひとつすると、操縦桿を握り直した。
彼の搭乗するヒトガタ、“壱式”が跳躍する。
ヒトガタ――――所謂人の形をした機動兵器の事だ。
小型で運動性が高く、様々な地形を走破する事のできる二足歩行を可能にするバランサーにGキャンセラー、高度な人工知能や駆動系に採用された人工筋肉など、最新の技術が惜し気もなく投入された最新兵器であったのは既に半世紀以上前までの話である。
現在の地球には、おそらく以前ほど世界全体に影響を及ぼす事のできる国家は存在しないだろう。
全ては、“新生物”の出現により変わってしまった。
――――数十年前の話。
世界各地に複数の正体不明の物体が飛来したという。そして、そこから現れた未知の生物は街を、村を、ヒトを襲い、駆逐していった。
そして開かれた戦端。
辛うじて人類はそれに勝利したものの、それは世界に大きな傷を与えた。
人類の敵――――“新生物”
何の捻りも無い名前だが、これはこれでいいんじゃないかと孝一は思う。
わかりやすいのが一番いい。
……さて、その戦争が残したもの――――ヒトガタの解説に戻るとしよう。
――――ヒトガタは人間の骨格を模した基本フレームの上に装甲を張り付けるタイプの機動兵器だ。基本フレームにはヒトの細胞を模倣したナノマシンで構成された人工筋肉が使われており、柔軟な動作が可能。
ナノマシンにより基本フレームはほぼメンテナンスフリーであり、装甲を付け変える事によってあらゆる状況に対応できる。
当時、対新生物戦においてもっとも戦果を上げた兵器であり、もっとも生産された兵器でもある。
それ故に戦後も大量のヒトガタが残され、それらは各集落の防衛に使われていた。孝一の乗る壱式もそのひとつだ。
――――ヒトガタは人間の骨格を模した基本フレームの上に装甲を張り付けるタイプの機動兵器だ。基本フレームにはヒトの細胞を模倣したナノマシンで構成された人工筋肉が使われており、柔軟な動作が可能。
ナノマシンにより基本フレームはほぼメンテナンスフリーであり、装甲を付け変える事によってあらゆる状況に対応できる。
当時、対新生物戦においてもっとも戦果を上げた兵器であり、もっとも生産された兵器でもある。
それ故に戦後も大量のヒトガタが残され、それらは各集落の防衛に使われていた。孝一の乗る壱式もそのひとつだ。
しばらく広い道路を進んでいると、脇道から壱式が一機、こちらに飛び込んできた。――――アルファ・フォウだ。
「中村か! 助かった!」
アルファ・フォウ――――坂口が安堵の叫びを上げる。
「坂口、状況はどうなってる」
物影に隠れ、現状の把握。
「状況つってもねぇ……。さっきまでワン公三匹に追い掛けられてて、応戦しつつ後退して、一匹仕留めた。左腕に若干の損傷。そんだけだよ」
やや投げやりな口調で坂口が言う。
「動けるか?」
「当たり前だろ! 俺を何だと思ってんだ!」
自信過剰で、ムードメーカー。簡単に言い表すならば、坂口祐介はそんな男だった。
「よし、なら一人でいけるな!」
「いや援護に来たんだろ!?」
「いや、それはお前の思い込みだ」
「いや助けろよ!?」
……と、こんな馬鹿げた会話を繰り広げている場合ではない。
レーダーを確認。確かにすぐ近くに二匹、いる。
「……弾はあといくつ残ってる」
「アサルトの弾がマガジン一個分」
「なら十分だ。行くぞ」
身を屈めながら、孝一と坂口の壱式が敵の眼前にその姿を曝した。
「中村か! 助かった!」
アルファ・フォウ――――坂口が安堵の叫びを上げる。
「坂口、状況はどうなってる」
物影に隠れ、現状の把握。
「状況つってもねぇ……。さっきまでワン公三匹に追い掛けられてて、応戦しつつ後退して、一匹仕留めた。左腕に若干の損傷。そんだけだよ」
やや投げやりな口調で坂口が言う。
「動けるか?」
「当たり前だろ! 俺を何だと思ってんだ!」
自信過剰で、ムードメーカー。簡単に言い表すならば、坂口祐介はそんな男だった。
「よし、なら一人でいけるな!」
「いや援護に来たんだろ!?」
「いや、それはお前の思い込みだ」
「いや助けろよ!?」
……と、こんな馬鹿げた会話を繰り広げている場合ではない。
レーダーを確認。確かにすぐ近くに二匹、いる。
「……弾はあといくつ残ってる」
「アサルトの弾がマガジン一個分」
「なら十分だ。行くぞ」
身を屈めながら、孝一と坂口の壱式が敵の眼前にその姿を曝した。
ヒトガタよりは小さいものの、その四肢を活かした機動力。
最高速度時速一七○キロメートルにも及ぶ犬型の新生物は当時の人類に脅威をもたらした。
人間とは膝を中心としたバネで方向転換をする。しかし犬は背骨を始めとした全身のバネを使い、人間とは比べ物にならない速度の切り返しをみせる。
――――しかし、たとえ機動性、運動性に富んでいたとしても、所詮は生物。非常事態には弱いのだ。ましてや、奴らは人間と違い単純な思考しか持ち合わせていない。つまり、この瞬間がチャンスであった。
二人は身を屈めたまま、全力で走る。
坂口の壱式が、ナイフを逆手に持ち、一匹に飛び掛かった。
不意を突かれた小型犬犬――――型新生物の脇腹にその刃が深々と突き刺さった。
そのまま火花と肉片、金属と肉が擦れる音を撒き散らしながら数メートルを滑っていき、坂口機は小型犬と近くのビルに激突する。
まったく、無茶なマニューバかましやがって。
孝一の脳裏にぷりぷり怒る小さな整備員の少女の顔が浮かんだ。
溜息をつきつつも、しかしその銃口は倒れた坂口機に向かう残りの一匹を捕える。
引き金に指を掛け、そして、
最高速度時速一七○キロメートルにも及ぶ犬型の新生物は当時の人類に脅威をもたらした。
人間とは膝を中心としたバネで方向転換をする。しかし犬は背骨を始めとした全身のバネを使い、人間とは比べ物にならない速度の切り返しをみせる。
――――しかし、たとえ機動性、運動性に富んでいたとしても、所詮は生物。非常事態には弱いのだ。ましてや、奴らは人間と違い単純な思考しか持ち合わせていない。つまり、この瞬間がチャンスであった。
二人は身を屈めたまま、全力で走る。
坂口の壱式が、ナイフを逆手に持ち、一匹に飛び掛かった。
不意を突かれた小型犬犬――――型新生物の脇腹にその刃が深々と突き刺さった。
そのまま火花と肉片、金属と肉が擦れる音を撒き散らしながら数メートルを滑っていき、坂口機は小型犬と近くのビルに激突する。
まったく、無茶なマニューバかましやがって。
孝一の脳裏にぷりぷり怒る小さな整備員の少女の顔が浮かんだ。
溜息をつきつつも、しかしその銃口は倒れた坂口機に向かう残りの一匹を捕える。
引き金に指を掛け、そして、
ボグチャッ。
それを引く前に、小型犬が臓物を撒き散らしながら吹き飛んだ。おそらく――――いや、考えるまでも無くあれは即死だろう。というか、
「オーバーキルだろ、今のは……」
『わざわざ弾を撒いて無駄にするより、一発で仕留めたほうがスマートだろう?』
スピーカーからは、凜とした女性の声。
「……聞こえてたんスか、副隊長」
『通信を切っていないお前が迂闊だっただけだろうに』
『うふふっ』と笑う。
「まあ、そうっスけど」
『……さて、会話など交わしている場合では無いな』
足音が近付いてくる。
数秒後、それは孝一の目前に荒々しく着地した。
衝撃で大地が揺れ、巻き上げられたコンクリート片がパラパラと音を立て、砂埃が舞う。
そして現れたのは孝一達の“壱式”の灰色とは違う、純白のボディ。顔の中心に備えられた赤い単眼が光る。そしてその肩には、巨大なライフル――――彼女用のカスタム機だ。
「アルファ・フォウ……坂口、立て!」
白い壱式が顔を上げ、坂口の壱式に向かって声を張り上げた。
「りょ、了解ッス!」
素早い動作で立ち上がる。
「……よし。アルファ・ワンが陽動に成功。犬の駆逐に成功したという報告が先程入った」
「じゃあ……」
「今日の仕事は終わりだ」
機嫌の良さそうな声。満面の笑みが目に見えるようだ。
「よっしゃあ! お仕事終りょ」
「調子に乗るな! アルファ・フォウ!」
「はいいっ!」
坂口機の背筋がぴんと伸びる。
「家に帰るまでが作戦だからな?」
「遠足かよ!」
激しく食いつく坂口。ハイエナかお前は。
「オーバーキルだろ、今のは……」
『わざわざ弾を撒いて無駄にするより、一発で仕留めたほうがスマートだろう?』
スピーカーからは、凜とした女性の声。
「……聞こえてたんスか、副隊長」
『通信を切っていないお前が迂闊だっただけだろうに』
『うふふっ』と笑う。
「まあ、そうっスけど」
『……さて、会話など交わしている場合では無いな』
足音が近付いてくる。
数秒後、それは孝一の目前に荒々しく着地した。
衝撃で大地が揺れ、巻き上げられたコンクリート片がパラパラと音を立て、砂埃が舞う。
そして現れたのは孝一達の“壱式”の灰色とは違う、純白のボディ。顔の中心に備えられた赤い単眼が光る。そしてその肩には、巨大なライフル――――彼女用のカスタム機だ。
「アルファ・フォウ……坂口、立て!」
白い壱式が顔を上げ、坂口の壱式に向かって声を張り上げた。
「りょ、了解ッス!」
素早い動作で立ち上がる。
「……よし。アルファ・ワンが陽動に成功。犬の駆逐に成功したという報告が先程入った」
「じゃあ……」
「今日の仕事は終わりだ」
機嫌の良さそうな声。満面の笑みが目に見えるようだ。
「よっしゃあ! お仕事終りょ」
「調子に乗るな! アルファ・フォウ!」
「はいいっ!」
坂口機の背筋がぴんと伸びる。
「家に帰るまでが作戦だからな?」
「遠足かよ!」
激しく食いつく坂口。ハイエナかお前は。
――――次回へ続くといいなぁ。
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