第三章A-SIDE 復讐する者
時刻は丁度、日付が変わろうとしている頃であった。
雲ひとつ無い漆黒の海を、ダウンシューターは静かに突き進んでいる。この日、特にこれと
いった目的を持たないままに私は夜空を散歩していた。
私の置かれている立場を考えれば、今の私の行動は愚行以外の何物でもない。
しかし、私には耐え切れなかったのだ。食事や会話、排泄に睡眠と言った動物として避けては
通れない行為を必要としなくなった自分自身に。
私が人間だった頃、特に研究開発がピークに達している頃は、他人との会話など一秒だって
省きたいと思っていた。食事も、排泄も、睡眠も、嫌だった。一秒だって無駄にしたくない。その
様な暇があれば、その分仕事を先に進めたい。時には、動物の肉体故の限界を恨めしく思った
事もあった。
しかし、ソレは間違いだと気付かされた。
食欲も、睡眠欲も、その他様々な欲求を一切感じなくなり、ソレを自覚してくるに連れ、自分が
人間以外の何かへと変質している事を理解する。それは私がエムレイン・ブルーである事実を
上書きし、価値観を書き換え、別の何かへと変わっている事を意味した。今はまだ人間の頃の
習慣を繰り返そうとしているが、その本能と言う名の欲求すら忘れてしまった時、私は私で居ら
れるのだろうか?
言い知れぬ不安を振り払うように、私は機体を加速させる。
ネット上を始め、ダウンシューターが脱走した(あるいは奪取された)という記事は未だに出て居
ない。ブルーバレット社が真相を公表していないのであろう。新型の人型兵器が発表直後に奪取
された等と知れ渡れば、会社のイメージは大きなダメージを受けるであろうし、何よりダウンシュー
ターの脅威を考えれば、大規模のパニックが巻き起こる事は間違いない。
しかし、幾ら防いだ所で限度と言うものがある。
現在、私の起こした幾つかの事件に対する正式な報道はされて居ない。ネット上で最も有力な説
として注目されているのは、ライバル会社の妨害説だ。
私が過去に行った二度の襲撃は、ダウンシューターの完成に危機感を抱き暴走した他社の何れか
が、ダウンシューターのパーツの生産ラインを有する工場を襲撃し、生産不能へと追いやったと言う
事実とはかけ離れた推測を呼んでいるらしい。
中にはダウンシューターが何者かに奪取されたという、ずばりな説もあるのだが、幸いな事に支持
されて居ない。
(私はどうすべきなのだろうか……)
物思いに耽りながら私は呟いた。
ステルスローブを纏ったダウンシューターは、月明かりを一心に浴びて居ると言うのに夜空の闇に
違和感無く同化している。視認は勿論、観測衛星にもこの姿を捉える事はまず出来ないであろう。
今は、まだ……。
過去二回の戦闘により、ステルスローブは限界まで消耗していた。
二度に亘る襲撃で、本社の人間も私の目的が物資である事は気付いているだろう。おそらく、ダウン
シューターに利用できる物資は処分されている。メンテナンス用のパーツの回収は望めない。なにより、
細々としたパーツの交換はメンテナンスロボを使用する事で可能では在るが、基礎であるフレームは
交換のしようが無い。骨格は劣化する一方で、限界を迎えれば崩壊する。私には、後が無いのだ。
(誰か答えを知っているなら、是非とも教えて貰いたいものね)
自嘲気味に、そんな事を考える。
自らの精神が異常をきたしていく恐怖、劣化する一方で修復不可能なボディ。
心身ともに、未来は無い。
雲ひとつ無い漆黒の海を、ダウンシューターは静かに突き進んでいる。この日、特にこれと
いった目的を持たないままに私は夜空を散歩していた。
私の置かれている立場を考えれば、今の私の行動は愚行以外の何物でもない。
しかし、私には耐え切れなかったのだ。食事や会話、排泄に睡眠と言った動物として避けては
通れない行為を必要としなくなった自分自身に。
私が人間だった頃、特に研究開発がピークに達している頃は、他人との会話など一秒だって
省きたいと思っていた。食事も、排泄も、睡眠も、嫌だった。一秒だって無駄にしたくない。その
様な暇があれば、その分仕事を先に進めたい。時には、動物の肉体故の限界を恨めしく思った
事もあった。
しかし、ソレは間違いだと気付かされた。
食欲も、睡眠欲も、その他様々な欲求を一切感じなくなり、ソレを自覚してくるに連れ、自分が
人間以外の何かへと変質している事を理解する。それは私がエムレイン・ブルーである事実を
上書きし、価値観を書き換え、別の何かへと変わっている事を意味した。今はまだ人間の頃の
習慣を繰り返そうとしているが、その本能と言う名の欲求すら忘れてしまった時、私は私で居ら
れるのだろうか?
言い知れぬ不安を振り払うように、私は機体を加速させる。
ネット上を始め、ダウンシューターが脱走した(あるいは奪取された)という記事は未だに出て居
ない。ブルーバレット社が真相を公表していないのであろう。新型の人型兵器が発表直後に奪取
された等と知れ渡れば、会社のイメージは大きなダメージを受けるであろうし、何よりダウンシュー
ターの脅威を考えれば、大規模のパニックが巻き起こる事は間違いない。
しかし、幾ら防いだ所で限度と言うものがある。
現在、私の起こした幾つかの事件に対する正式な報道はされて居ない。ネット上で最も有力な説
として注目されているのは、ライバル会社の妨害説だ。
私が過去に行った二度の襲撃は、ダウンシューターの完成に危機感を抱き暴走した他社の何れか
が、ダウンシューターのパーツの生産ラインを有する工場を襲撃し、生産不能へと追いやったと言う
事実とはかけ離れた推測を呼んでいるらしい。
中にはダウンシューターが何者かに奪取されたという、ずばりな説もあるのだが、幸いな事に支持
されて居ない。
(私はどうすべきなのだろうか……)
物思いに耽りながら私は呟いた。
ステルスローブを纏ったダウンシューターは、月明かりを一心に浴びて居ると言うのに夜空の闇に
違和感無く同化している。視認は勿論、観測衛星にもこの姿を捉える事はまず出来ないであろう。
今は、まだ……。
過去二回の戦闘により、ステルスローブは限界まで消耗していた。
二度に亘る襲撃で、本社の人間も私の目的が物資である事は気付いているだろう。おそらく、ダウン
シューターに利用できる物資は処分されている。メンテナンス用のパーツの回収は望めない。なにより、
細々としたパーツの交換はメンテナンスロボを使用する事で可能では在るが、基礎であるフレームは
交換のしようが無い。骨格は劣化する一方で、限界を迎えれば崩壊する。私には、後が無いのだ。
(誰か答えを知っているなら、是非とも教えて貰いたいものね)
自嘲気味に、そんな事を考える。
自らの精神が異常をきたしていく恐怖、劣化する一方で修復不可能なボディ。
心身ともに、未来は無い。
(あの人なら、こんな私でも『見届けて』くれるのかしら)
依頼をすれば、報酬を用意すれば、おそらく引き受けてくれるのだろう。
しかし、ソレは出来なかった。今の私を、人ですらなくなった私の姿を、彼に見せたくない。
この小さな見栄こそが私に唯一つ残された、エムレインという一人の女である証拠なのだろう。
突然、ダウンシューターへの直通回線に接続してくる者が現れた。
この回線は電子兵器の影響を受けずにAIとの情報のやり取りを可能とする特殊回線で、接続
法を知っている人物は限られている。
「誰なの……?」
動揺を押し殺しながら、私はその通信に応じた。
「……私よ」
私の意識が回復した時に、父の隣に立っていたあの女の声であった。
「私の事、分かるわね?」
「ええ、父と一緒に居た人ね」
「間違っては居ないわ」
女の声は落ち着いている。
相手が何を考えているのか分からない事がココまで恐怖になったのは初めてかもしれない。
少なくとも、この回線を相手が使用してきたということ自体、私にとっては喉元にナイフを当てられて
いる事と変わりは無いのだ。
「どういう要件かしら? そもそも、この回線への接続法を知っている人間は限られている筈だけど?」
「……そう。貴女、記憶が完全に消去されてなかったのね」
相手の言葉に、私は頭に血が上るのを感じた。
「よく言うわね。私の、エムレイン・ブルーの記憶が完全に消えて居ればよかった?」
「……ええ。その方が、貴女の為だもの」
全く悪びれた様子の無い相手の言葉に、私は言葉を失った。淡々と、しかし私を同情するように話し
かけて来る相手の態度に、激しい苛立ちを覚える。
「私の為? なるほど、確かにその方が都合が良いわね。私が人間だった事、貴女達に切り刻まれて
ココに固定されている事を忘れていたら、確かに私は今こんな事をしていない」
「貴女……ひょっとして……。そう、そう言う事だったのね……」
「何を納得しているのか知らないけど、私の答えは変わらないわ。私はコレ以上貴女達のモルモット
になるつもりは無い!」
数秒の沈黙が流れた。
あの女が何を考えているかは分からない。
しかし、この回線が使われていると言う事は――。
「この回線を使ったのは、言ってみれば最終警告。AIパイロットを導入するうえで、最悪のケースに対応
する手段。この回線を使用する意味……貴女なら解るでしょ?」
「AIとして存在する私と、ダウンシューターの中枢ユニットの破壊を目的とした自害プログラム……かしら?」
「そうよ」
「貴女にソコまでの権限があるの? ダウンシューターの最終的な処分は開発主任に一存されている。私
がココに居る存在する以上、貴女にソレは不可能だわ」
「……残念だわ」
女がそう呟いた瞬間、私の視界が大きく歪んだ。思考にノイズが走り、スラスターが沈黙する。飛行能力を
失った私はゆっくりと高度を落としていく。
ダウンシューターのメインエンジンが強制的に停止させられたのだ。
しかし、ソレは想定の範囲内。最悪の事態が回避された証拠である。
「まさかとは思っていたけどね」
ノイズが収まった事を確認し、私は吐き捨てた。
依頼をすれば、報酬を用意すれば、おそらく引き受けてくれるのだろう。
しかし、ソレは出来なかった。今の私を、人ですらなくなった私の姿を、彼に見せたくない。
この小さな見栄こそが私に唯一つ残された、エムレインという一人の女である証拠なのだろう。
突然、ダウンシューターへの直通回線に接続してくる者が現れた。
この回線は電子兵器の影響を受けずにAIとの情報のやり取りを可能とする特殊回線で、接続
法を知っている人物は限られている。
「誰なの……?」
動揺を押し殺しながら、私はその通信に応じた。
「……私よ」
私の意識が回復した時に、父の隣に立っていたあの女の声であった。
「私の事、分かるわね?」
「ええ、父と一緒に居た人ね」
「間違っては居ないわ」
女の声は落ち着いている。
相手が何を考えているのか分からない事がココまで恐怖になったのは初めてかもしれない。
少なくとも、この回線を相手が使用してきたということ自体、私にとっては喉元にナイフを当てられて
いる事と変わりは無いのだ。
「どういう要件かしら? そもそも、この回線への接続法を知っている人間は限られている筈だけど?」
「……そう。貴女、記憶が完全に消去されてなかったのね」
相手の言葉に、私は頭に血が上るのを感じた。
「よく言うわね。私の、エムレイン・ブルーの記憶が完全に消えて居ればよかった?」
「……ええ。その方が、貴女の為だもの」
全く悪びれた様子の無い相手の言葉に、私は言葉を失った。淡々と、しかし私を同情するように話し
かけて来る相手の態度に、激しい苛立ちを覚える。
「私の為? なるほど、確かにその方が都合が良いわね。私が人間だった事、貴女達に切り刻まれて
ココに固定されている事を忘れていたら、確かに私は今こんな事をしていない」
「貴女……ひょっとして……。そう、そう言う事だったのね……」
「何を納得しているのか知らないけど、私の答えは変わらないわ。私はコレ以上貴女達のモルモット
になるつもりは無い!」
数秒の沈黙が流れた。
あの女が何を考えているかは分からない。
しかし、この回線が使われていると言う事は――。
「この回線を使ったのは、言ってみれば最終警告。AIパイロットを導入するうえで、最悪のケースに対応
する手段。この回線を使用する意味……貴女なら解るでしょ?」
「AIとして存在する私と、ダウンシューターの中枢ユニットの破壊を目的とした自害プログラム……かしら?」
「そうよ」
「貴女にソコまでの権限があるの? ダウンシューターの最終的な処分は開発主任に一存されている。私
がココに居る存在する以上、貴女にソレは不可能だわ」
「……残念だわ」
女がそう呟いた瞬間、私の視界が大きく歪んだ。思考にノイズが走り、スラスターが沈黙する。飛行能力を
失った私はゆっくりと高度を落としていく。
ダウンシューターのメインエンジンが強制的に停止させられたのだ。
しかし、ソレは想定の範囲内。最悪の事態が回避された証拠である。
「まさかとは思っていたけどね」
ノイズが収まった事を確認し、私は吐き捨てた。
私の言葉が聞こえたのだろう。通信回線越しに、相手が息を呑むのが聞こえた。
「どうして……?」
「どうして? 簡単な事よ。もし父が”本当に”開発主任の座を他人に渡していた場合の事を想定して
いただけ。
私の方で自害プログラムを出来る限り書き直し、メンテナンスロボットを操作して、ユニットを焼き切
るための電圧機に信号が来た場合に、電圧機だけがショートするように細工をしたのよ。電圧機自体
を取り除くのがベターだったけど、メンテナンスロボ程度ではソコまでの作業は不可能だから」
電圧機がショートしたショックでメインエンジンの安全装置が働いてしまったものの、物理的な破壊
はされていない。
私は賭けに勝った。コレで、ブルーバレット社の切り札は取り除かれた事になる。
「そこまでして、貴女は生きたいの?」
「当然よ。貴女が私と同じ場合、貴女はどう答えるつもりかしら?」
「……きっと、いえ、間違いなく貴女と同じ事を言うでしょうね」
「だったら、理解してもらえるかしら」
「どれだけ逃げても貴女に未来は無い。それでも、その限界を迎えるまで貴女は逃亡するのね?」
「ええ、さっきまでは、そのつもりだったわ」
「……え?」
電子機器の各部に以上が無い事が確認され、メインエンジンが再起動した。私はダウンシューター
の足のブースターを噴射して、自由落下の状態から体勢を立て直す。
眼下には、眩いばかりの街の光。
随分と高度を落としてしまったが、まだ地上から私の姿が確認出来る距離ではない。
「父が私を裏切った事を確信して、一つの考えが固まったわ」
私は自嘲気味に笑いながら言葉を紡ぐ。
「貴女がどの様にして父に取り入ったかは知らないし、知りたくも無い。ただ、父が私をモルモットとして
見ていて、私を殺す許可を下した事実だけはハッキリと理解できた」
「貴女、変な事を考えて居ないでしょうね」
「どうかしら。さっきまでは、まだ、一筋にも満たないけれど、期待があった。父ならば、私の話を聞いて
くれるかもしれない。私の犯した罪は許されなくとも、父だけは私を理解してくれるかもしれない。何故私
が逃げ出したのか、どれ程に恐怖を感じていたのか、聞いてくれるかもしれない」
「聞いてくれるわ。貴女が、自分の意志で帰ってくるならば」
「でも、もう信じられないの。貴女はこの専用回線を使った。父は貴女にこの専用回線の使用を許可した。
ダウンシューターを破壊する、私を殺すプログラムを作動させた。ブルーバレット社は完全に私を敵対勢
力であると判断した。私の帰る事が出来たかもしれない場所は一転し、私を破壊しようと企む者の司令塔
となった」
私の思考にノイズが走る。自害プログラムによって中枢を破壊される事は回避できたものの、受けたダ
メージは無視できないレベルらしい。私の興奮に比例するように、思考に乱れが生じる。
「だから、私は復讐する」
私は宣言した。
長くないこの命を、私をこのような姿に変えた者達への復讐に費やすと。
「コレは、その挨拶として送らせて貰うわ」
「貴女、何を言っているの!!」
女の声に焦りの色が混じる。回線を通じ、ダウンシューターがウィングキャノンをセットした情報を読み取った
らしい。
「言ったでしょう? 挨拶よ。コレ以上無いほどにシンプルな……ね」
「やめなさい。そんな事すれば、貴女にとって一番辛い対策を――」
相手の言葉も半ばに、私は回線を切断した。
私に相手の言葉を聞く気は微塵も残っていなかった。
もはや本社も形振り構っていられないだろう。全力で私を排除しに来る。
「構わない」
眼下に広がる街を眺めつつ、私は呟く。
赤、白、黄……様々な光が飛び交い、溢れ、照らし出されるその世界は、今の私にとっては酷く懐かしく、
同時に、もう戻れない場所でしかない。
おそらく、この光を放っている者達は誰一人として、今まさに自らの命が消えようとしている危機に面して
いる事に気付いていないのだろう。
自分が危機的状況に置かれている等、思っても居ない。今ある平穏が何時までも続くのだと信じ、安心し
きっている。
「どうして……?」
「どうして? 簡単な事よ。もし父が”本当に”開発主任の座を他人に渡していた場合の事を想定して
いただけ。
私の方で自害プログラムを出来る限り書き直し、メンテナンスロボットを操作して、ユニットを焼き切
るための電圧機に信号が来た場合に、電圧機だけがショートするように細工をしたのよ。電圧機自体
を取り除くのがベターだったけど、メンテナンスロボ程度ではソコまでの作業は不可能だから」
電圧機がショートしたショックでメインエンジンの安全装置が働いてしまったものの、物理的な破壊
はされていない。
私は賭けに勝った。コレで、ブルーバレット社の切り札は取り除かれた事になる。
「そこまでして、貴女は生きたいの?」
「当然よ。貴女が私と同じ場合、貴女はどう答えるつもりかしら?」
「……きっと、いえ、間違いなく貴女と同じ事を言うでしょうね」
「だったら、理解してもらえるかしら」
「どれだけ逃げても貴女に未来は無い。それでも、その限界を迎えるまで貴女は逃亡するのね?」
「ええ、さっきまでは、そのつもりだったわ」
「……え?」
電子機器の各部に以上が無い事が確認され、メインエンジンが再起動した。私はダウンシューター
の足のブースターを噴射して、自由落下の状態から体勢を立て直す。
眼下には、眩いばかりの街の光。
随分と高度を落としてしまったが、まだ地上から私の姿が確認出来る距離ではない。
「父が私を裏切った事を確信して、一つの考えが固まったわ」
私は自嘲気味に笑いながら言葉を紡ぐ。
「貴女がどの様にして父に取り入ったかは知らないし、知りたくも無い。ただ、父が私をモルモットとして
見ていて、私を殺す許可を下した事実だけはハッキリと理解できた」
「貴女、変な事を考えて居ないでしょうね」
「どうかしら。さっきまでは、まだ、一筋にも満たないけれど、期待があった。父ならば、私の話を聞いて
くれるかもしれない。私の犯した罪は許されなくとも、父だけは私を理解してくれるかもしれない。何故私
が逃げ出したのか、どれ程に恐怖を感じていたのか、聞いてくれるかもしれない」
「聞いてくれるわ。貴女が、自分の意志で帰ってくるならば」
「でも、もう信じられないの。貴女はこの専用回線を使った。父は貴女にこの専用回線の使用を許可した。
ダウンシューターを破壊する、私を殺すプログラムを作動させた。ブルーバレット社は完全に私を敵対勢
力であると判断した。私の帰る事が出来たかもしれない場所は一転し、私を破壊しようと企む者の司令塔
となった」
私の思考にノイズが走る。自害プログラムによって中枢を破壊される事は回避できたものの、受けたダ
メージは無視できないレベルらしい。私の興奮に比例するように、思考に乱れが生じる。
「だから、私は復讐する」
私は宣言した。
長くないこの命を、私をこのような姿に変えた者達への復讐に費やすと。
「コレは、その挨拶として送らせて貰うわ」
「貴女、何を言っているの!!」
女の声に焦りの色が混じる。回線を通じ、ダウンシューターがウィングキャノンをセットした情報を読み取った
らしい。
「言ったでしょう? 挨拶よ。コレ以上無いほどにシンプルな……ね」
「やめなさい。そんな事すれば、貴女にとって一番辛い対策を――」
相手の言葉も半ばに、私は回線を切断した。
私に相手の言葉を聞く気は微塵も残っていなかった。
もはや本社も形振り構っていられないだろう。全力で私を排除しに来る。
「構わない」
眼下に広がる街を眺めつつ、私は呟く。
赤、白、黄……様々な光が飛び交い、溢れ、照らし出されるその世界は、今の私にとっては酷く懐かしく、
同時に、もう戻れない場所でしかない。
おそらく、この光を放っている者達は誰一人として、今まさに自らの命が消えようとしている危機に面して
いる事に気付いていないのだろう。
自分が危機的状況に置かれている等、思っても居ない。今ある平穏が何時までも続くのだと信じ、安心し
きっている。
平和ボケ。なんとも幸せな言葉だ。
光の溢れるその場所は穏やかであろうとも、光の届かない場所に一歩踏み込めば、ソコは悪意
の濁流で溢れていると言うのに……。
「収束型、マックスチャージ――」
ウィングキャノンにエネルギーが集まるに連れ、砲身に火花が走り、フレームを軋ませる。
「チャージ、完了」
ダウンシューターの持つ総エネルギーのおよそ半分がウィングキャノンに注ぎ込まれた。
私は最後にもう一度だけ光溢れる街並みを見回し、呟いた。
「シュート」
轟くような唸り声を上げながら、青白い濁流が砲口から吐き出される。
ソレは真っ直ぐに降下し、大地に突き刺さった。大地によって進行を阻まれた高密度のエネルギー
は行き場を無くし、ソコから放射状に爆散し、眩かった大地をさらに明るく、青白く輝かせる。
注ぎこまれたエネルギーを全て放出し終えたウィングキャノンは薄く煙を上げながら、冷却モードへ
と移行した。
地表のあらゆるものを薙ぎ払い、押し退けてゆく高密度エネルギーのドームは、大きく渦を巻きなが
ら、次第に収束していく。
ダウンシューターの砲撃を受けた跡地には、何も残されていなかった。
ただ、マグマ状に赤く焼けた巨大なクレーターが、地獄への入り口の様に構えている。
私は月を見上げ、精神的に小さく溜息を吐いた。
コレはまだ、私の最期の始まりでしかない。
私の復讐は、ブルーバレット本社をこの有様にしてこそ、完了するのだから。
光の溢れるその場所は穏やかであろうとも、光の届かない場所に一歩踏み込めば、ソコは悪意
の濁流で溢れていると言うのに……。
「収束型、マックスチャージ――」
ウィングキャノンにエネルギーが集まるに連れ、砲身に火花が走り、フレームを軋ませる。
「チャージ、完了」
ダウンシューターの持つ総エネルギーのおよそ半分がウィングキャノンに注ぎ込まれた。
私は最後にもう一度だけ光溢れる街並みを見回し、呟いた。
「シュート」
轟くような唸り声を上げながら、青白い濁流が砲口から吐き出される。
ソレは真っ直ぐに降下し、大地に突き刺さった。大地によって進行を阻まれた高密度のエネルギー
は行き場を無くし、ソコから放射状に爆散し、眩かった大地をさらに明るく、青白く輝かせる。
注ぎこまれたエネルギーを全て放出し終えたウィングキャノンは薄く煙を上げながら、冷却モードへ
と移行した。
地表のあらゆるものを薙ぎ払い、押し退けてゆく高密度エネルギーのドームは、大きく渦を巻きなが
ら、次第に収束していく。
ダウンシューターの砲撃を受けた跡地には、何も残されていなかった。
ただ、マグマ状に赤く焼けた巨大なクレーターが、地獄への入り口の様に構えている。
私は月を見上げ、精神的に小さく溜息を吐いた。
コレはまだ、私の最期の始まりでしかない。
私の復讐は、ブルーバレット本社をこの有様にしてこそ、完了するのだから。
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