創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

// 8/24/2024 14:40

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匿名ユーザー

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 // 8/24/2024 14:40

 その町は、既に閑散とした廃墟だった。
 広場の東側に朽ちたホテルがある以外、建物という建物はほぼ完全に崩壊していた。
 砂丘と高さ5mほどの切り立った、岩肌を露わにした小高い山以外に人が大挙して隠れられそうな場所もない。
 町の中で唯一の建物と呼べるそのホテルは、戦闘の後ずいぶんと長い間放置されていたらしく、あちこち崩れかかった煉瓦が顔を覗かせていた。
2階から上は壁面が完全に崩れており、鉄骨の柱だけが閑散とした林のようにそそり立っていた。1階部分はまだ大部分の壁が残っているものの、所々に大穴が開いており、風雨を凌げるかどうかも怪しいものだった。ぼろぼろになった漆喰が煉瓦にかろうじて張り付いている。
 クライヤホイールの砂塵も控えめに、ゆっくりと巡航速度で進入した二機の特務曹長を納めた甲冑は、ホテル駐車場の外れに止めてある車両群に用心深く近づいていった。

 やけに静かだった。
 電動モーター駆動のホイールが砂を踏む音だけ、妙に響いていた。

『Romeo11よりRomeoPapaへ。EFV4台とダンプトラックを確認。IRCSから対人対車両熱源反応無し。エンジン動作した形跡見あたず』
 念のために後部ハッチのイメージをFCSでロックしておく。
 機銃と連動したレーザー測距器と赤外線カメラを組み合わせたシステムは、その銃口を正確に車両後部に定めていた。EFVの4台は、ともハッチが開いたままになっており、赤外線カメラのからの情報では中で人が動いている気配はない。空気が淀んでいる。

 廃墟の外れ、砂丘の麓でブロックノイズ混じりのカメラ映像を端末で確認しながら、ウィンタースは慎重に指示を出す。
「ウェブスター、車両側面の部隊コードを確認しろ。HQに問い合わせる」
『Roger that』
確かに陸軍で使用しているEFVだった。張りぼての偽装などではない。隠蔽されていると思われた車両側面の部隊コードペイントも何ら細工された痕跡はなかった。
「HQ、こちらRomeo01、部隊コード確認、照合願う」
『HQ了解。照合作業に入る。引き続き警戒せよ』
「ウェブスター、ダンプの荷台は見えるか?」
『Affirmative.大型の円筒形の物体が二つ。片方は、どう見てもロケットモーターのノズルですな』
なんてこった、とウインタースは頭を抱えた。あまり当たって欲しくない予想が当たったようだ。ウェブスター機のカメラから送られてくる映像は、以前テレビにも紹介された中距離弾道弾の一部だった。
「ダンプトラックの運転席に人はいるか?」
「Negative.人っ子一人いません。子供がかくれんぼでもしてない限りは」
人の気配がない。ウィンタースは奇妙な感覚に苛まれた。少なくとも駐車場に駐まっているこれらの車両を運転した人間がいるはずだった。
 ウィンタースは端末のモニタから目を離し、先ほど装填した小銃を手に取り、ヘッドセットの固定具合を確かめながら続けた。
「リプトン、ホテルを探索するぞ。こちらに来て歩兵隊を護衛しろ。ウェブスターはミサイル周辺を引き続き警戒。ブル、ガルニア、出番だ。2班は内部を探索、その間3班はホテル周辺を警戒」
 待ってましたとばかり、狭いEFVの後部ハッチから矢継ぎ早に兵士が飛び出した。
「Move!Move!Move!」
 先任軍曹が訓練の時と同じように囃し立てる。

『Romeo01、こちらHQ、所属部隊判明。1年前のカブール戦闘で損失車両として処理された第23レンジャー大隊のものです。データ上、その車両は存在しないはずです』
「レンジャー?」
 戦闘中、すべての兵器が正しく運用管理できる状況であるとは限らない。行方不明になる車両や航空機も枚挙に暇がない。
その中でもとりわけ厄介なのが敵対勢力に鹵獲された場合だ。先のカブール戦闘でとあるレンジャー一個中隊が全滅の憂き目にあった事を思い出したウィンタースは、さらに思考を混乱させた。
 なぜ、全滅したレンジャーの車両がここにある…?
「中尉!」
 ガルニアが今か今かと待ち構えていた。我に返ったウインタースは気を取り直して目の前の兵士たちを一望した。
「待ち伏せがあると思え。リプトン機を先頭に立たせる。張り付いて離れるな」
「パンツみたいにくっつかせときやすぜ」
 ホテル正面にたどり着いたリプトン機の外部スピーカーから下品な言葉が流れる。
 低いモーター音とともに甲冑の足首が下ろされ、直立状態となる。正面は装甲車並みの40mmのアルミ装甲板、ちょっとやそっとの攻撃ではビクともしない。こういった作戦にはありがたい存在だった。
「くれぐれも床の強度に注意してください、曹長」
小隊長の横で小脇にカービン銃と携帯端末を抱えたスピアーズ少尉は念のための確認と忠告を繰り返した。
「さぁ野郎ども、行くぞ!」
 ランドルマンが大声で檄を飛ばした。

 全高2.3mの甲冑はまだ煉瓦造りの壁にボロボロになった木製の扉が辛うじてぶら下がっているホテルの入り口に堂々と乗り入れた。
頭部の複合センサーがフロントホールを警戒する。ランドルマンはその後を部下とともにゆっくりと付いていく。
「クラス2熱源なし…」
ホールは外と違って風がほとんどないため、足跡が発見できるかと期待していたがその目論見は外れたようだ。予想以上に隙間風が強い。
うっすらとつもった砂が、なめらかな曲線を描いている。その砂の曲線は今観ている目の前でも隙間風によって蠢いていた。
「まずは地下からだな」
ホールの奥、朽ちた2階行きの吹き抜け階段の底に、まだ原型を止めている地下行きの階段があった。
「音声解析」
甲冑は鎧であるだけでなく、人間の目や耳、鼻の延長である。可視光から赤外線領域までのダイナミックレンジを持ったコンポジションカメラ、指向性集音装置、そして化学兵器検出装置。
戦場で想定されるあらゆる危険を事前に察知し、先制して対処しなければならない。
階段から地下への視線の先は人間の目にはほとんど何も映らない暗闇だ。しかし光量増幅でリプトンにはその暗闇の中が手に取るようにわかる。
後に続くランドルマンたちも、事前に用意していた暗視装置のスコープをバイザーから下ろし、暗闇に備える。
「こちらRomeo11、地下に潜ります」
どす、どす、と重たい足音が繰り返される。階段の強度は1トンを超える重量に耐えているようだ。足跡には細かく砕けたコンクリートが散らばった。

階段を下りた突き当たりには倉庫か厨房にあるようなステンレス製の扉があった。その取っ手には二回りほどまだ新しい細手のチェーンが巻かれ、ぴったりと閉ざされていた。
ランドルマンが止まれの合図を手で送る。ただでさえ注意深い足音が一斉にかき消えた。
リプトンは音声解析グラフを凝視していた。風音に混じって、かすかに別の音が混ざっている。この扉の奥からだ。
人の声にも聞こえる。
リプトンは操縦桿から離した手で、後続のランドルマンに突入する旨を伝える。これぐらいの扉なら1トンもあるこの機体で簡単にぶち破れるだろう。
ランドルマンはリプトンの合図に頷くと、部下に壁際に寄るよう合図し、自身もセレクタを3点バーストにした銃口を扉に向けて待機した。

がごん!

リプトンの機体は肩から扉に突進し、鎖が軽く千切れ飛ぶ。はたして扉は簡単に破られた。真っ暗闇の中、クラス2熱源、多数、しかし、リプトンはそれが何なのかすぐさま理解できなかった。
「子供…?」

嗚咽。泣き声。投光器をつけると、床一面に見窄らしい姿の子供、子供、子供。座り込んでいる者、横になったまま動かない者、立ち上がって大声で泣いている者、様々だった。
地下厨房だと思われる10メートル四方の広い部屋には、かつて厨房だった頃の残骸に混じって、大勢の子供達が幽閉されていた。

「Romeo11よりRomeoPapaへ…子供です、たくさんの子供が…」
『状態を確認しろ、ユージーンと一緒にそちらに向かう。何人だ?』
「ざっと、20人は…います」
通信を聞いていたランドルマンは、ふと、その声が震えていることに気づいた。
「曹長、どうかしましたか」
小銃の代わりにマグライトを手にした軍曹は、倒れている子供に駆け寄り、健康状態を確認しながら尋ねた。
「いや、なんでもない。それより、子供たちの方はどうだ?」
「衰弱してますね。何日も食べていないようです」
「こちらRomeo11、糧食を持ってきてください。栄養失調状態です」
『わかった、ユージーンが指示を出す。それまで危篤者がいないか全員調べろ』
ランドルマンはバックパックからレーションの梱包を取り出し、ビスケットを探し出した。
倒れていた子供は、それを受け取ると、親の敵でもあるかのように貪った。
ランドルマンの部下たちも次々とバックパックを下ろし、レーションの包みを開け始めた。





「子供ですか?」
とスピアーズ。ウインタースも憤りを隠せなかった。
「…こんな所に子供を放り込んで、一体何を考えているんだ」
まったく訳がわからない。ミサイルと一緒に子供を運んだ?一体何のために?
EFVに備えてある非常用糧食に手をかけようとすると、衛生兵であるユージーン軍曹がそれを遮った。
「中尉、食料ですが、今は与えないでください。まずは彼らを運び出しましょう。栄養失調状態で急激に食物を与えすぎるとショック状態になる場合があります」
「わかった。とにかく運びだそう。ガルニア!」
ホテル周囲を部下とともに警戒していた軍曹は、すぐさま小隊長の元に走った。
「手伝ってくれ、中に20人ほど子供がいる。運び出して基地まで送るぞ」
「わかりました」
軍曹は一瞬事情が飲み込めなかったようだが、素直にそう返事すると自分の部下に集合するよう合図を送る。
「リーブゴット!伍長!通訳がいる、俺に付いてこい。PapaよりRomeo12、警戒人数が減るがしばらくここでの指揮をとれ。自分は子供の救出に向かう」
『Roger that.』
その返事を待たず、ウィンタースはユージーン、ガルニアと数名の部下を連れホテルの地下室に向かって駆けだした。
薄暗い階段を下りると大勢の子供が啜り泣く声が聞こえる。
「ブル!ランドルマン軍曹!」
「中尉、昏睡状態の子供が2名ほど、先に運び出してやってください」
「ユージーン、看てやれ」
マグライトを片手に無言で頷くと、ユージーンは倒れてまったく動かない子供を抱きかかえた。まだ10歳にも満たないだろう。瞼をこじ開け光を当てると虹彩が動く。まだ死んではいない。
「リーブゴット、事情を説明できそうな子供がいないか聞いてみろ」
それぞれが子供を抱きかかえ外に向かう。
ウインタースは目の前でぐったりと倒れている5歳ほどの子供を脇に抱えた。
その時だった。

大音響と共にウィンタースは不意に意識を失った。

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776 名前: 守護機兵Xガードナー [sage] 投稿日: 2009/10/22(木) 15:05:51 ID:mLqm2Dl7
第三話

 火星軍ベルゼリーン地球侵攻部隊副隊長ビーク・トライバには故郷に待つ恋人がいる。地球に来て早五年。一度たりとも忘れた事はない。
「エリーゼ…」
 銀色のロケットペンダントにはブロンドの綺麗な女性が写っていた。年齢は自分より一つ年下である。軍学校で知り合い恋人となったが、すぐ地球へと行くことになってしまった。だが彼女はそれでも待つ、と言ってくれたのだ。
『トライバ』
 隊長の声だ。
「はい!?何でありますか」
『また見てたのか?今は作戦中だ、山にぶつかってもしらんぞ』
 現在、我々は編隊を組みガードナー隊を追い西へ山岳地帯を移動中。下方を見ると荒れた岩肌がこちらを覗いているようだった。
「…すまない」
『副隊長だろうが、いつもの調子はどうした?』
 いかん、つい感傷にひたってしまった。顔をはたき気合い入れる。
「私はいつもの調子だ。隊長殿こそ突撃癖を直さないと早死にしますぜ?」
『その意気だ。我々は火星の独立の為なんとしても地球軍に勝たなければならない。それもあと少しだ気を引き締めていけ』
 隊長の激が飛ぶ。そうだ、何の為に遙々こんな所にやって来たと思ってるんだ。すべては、
「烈火なる母星の為に」
 久しぶりに乗った01に違和感はなかった。整備はちゃんとなされてる。一年前に演習で乗ったきり以来だった。
<誰かがピンチなら助けなくちゃ>
 ふと、兄の言葉がよぎった。何故?

 自分は何から逃げているのだろう。

 小さい頃のビジョンが見える。
「兄ちゃん…眼が痛いようぅ」
 兄と同じ眼の手術を受けた。軍が開発した義眼。それが何かは幼い自分には分からなかったが、すんなりと手術を受けさせてくれた。何でも兄と一緒がよかったのだ。
 そしてあの日、見えてしまった。兄が死ぬビジョンを。
 夢なんかじゃない。警告するように何度も繰り返し映し出される。
 兄にもこの事を伝えた。しかし泣きじゃくる自分をなだめるだけ。父にも伝えた。怪訝な顔をされた。
 そして、起こってしまった。
 兄の葬儀に父は出席しなかった。それからあってない。
 だからだろうか、兄を助けなかった父に、なにより予言していた自分に苛立っている。
「…痛ゥ」
 ビジョンが見える。あの日以来、先に起こる事が分かるようになった。それで逃げ延びてきた。
「四機のマシン…火星の侵攻軍か?」
 レーダーに機影は無い。だが分かる。必ず来る。
「…来た!」
「量産のギルガが三機に指揮官用のドライドか…クッ」
 敵機のライフルから放たれる弾丸が01に向かう。
「逃げられないか、ならッ!」
 反撃に出ようとする01。だが手持ちの武器は無い。手近にいるギルガに殴りかかる。
「こいつもくらぇーッ!」
 頭が吹っ飛ぶ。右腕の装甲が開き銃身が現れた。次に胸部を殴打しつつ射撃する。ギルガは煙を上げて谷底に墜落した。
 次にもう一機のギルガが01を襲う。光の槍の矛先が肩装甲をかすめた。
 01は下降してギルガの股間接を殴り上げる。
「まだ終わりじゃない!」
 腰からレーザーブレードを取り出す。蹴りを入れてよろけさせ、光の束をコックピットに向け振り下ろす。爆散。
『よくも部下達を、ゆるさん!』
 指揮官機のドライドが突貫する。
『隊長、うかつ過ぎます!此処は一旦引いた方が』
 副隊長ビークを無視して01へと向かう。相手は後ろを向いていた。
『もらったぁ!』
 大型の剣が襲う。だが、空間が湾曲し剣を弾いた。
『な、バリアだと?!』
 隙が出きた。全体を覆っていたバリアが左手に収束していく。そして、
『イリュージョンウォール・パァァァンチッ!』
 01の拳が隊長のドライドを貫いた。

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