第七話「竜宮 零」
月軌道上に浮かぶ火星侵攻軍の要塞基地〈バスティオン〉
十年前、地球軍の月奪還作戦にて火星軍の砦となったこの要塞は、現在も侵攻軍の大事な補給基地として稼働している。
ビーク・トライバは新しく手に入ったマシンに複雑な思いを抱いていた。
XG隊との戦いの後、ビークの乗った艦は修理と補給を受けに宇宙へ上がっていた。自分の機体の修理をさせてもらえると思っていたが、何かの手違いでドライドを手に入れる事になってしまったのだ。
それまでの愛機には愛着があった。が、軍では新しい兵器の開発が進んでおり、今の機体は古く、時代遅れらしい。指揮官機であったドライドさえ旧式扱いだったのだ。もちろん抗議もしたが、
「…そんな旧式、修理してる暇なんて無いですよ。それに、あんなデカイ刀持たすなんて無茶もいい所だ」
と、言われてしまった。
ビークはデッキを見下ろせるカフェテラスでコーヒー牛乳を飲みながら作業を眺めていた。
「あんたまだミルク無しじゃ飲めないんだぁ?」
不意に頭を小突かれる。振り向くと立っていたのは利発そうな女性。日焼けした褐色の肌、鋭い眼付き、かなり短くした切りそろえた赤髪の女軍人だった。
「えっと…もしかしてリヴァ・ティニーか?」
「oh!正解、よく気が付いたね?」
満面の笑みのリヴァ。ビークは少し困惑気味だ。
「火星の士官学校であって以来、五年ぶりだな?あの頃はもっと髪が長かったよな」
「まぁね、決意の現れって奴?所で何見てたの?」
「ん?あぁ…アレだよ」
ビークは巨大な刀を背負った機体を指さす。
「あ!アレってディン・マルコー隊長のドライドだよね?アタシ、あの刀を造った工房に付いていった事あるから分かるよ。でも隊長の機体って黒じゃなかったっけ」
「…」
「あ…ごめん」
沈黙が流れる。
「…最後まで戦士だった」
「面倒見の良かったよね、アタシしょっちゅう怒られてたけど」
リヴァの頬に涙が伝う。訓練生時代には沢山世話になった。その師に恩返しも出来なってしまった。思い出を語り虚空を見つめるリヴァの横顔を見つめるビーク。ふと、目線がいく。
「リヴァ、その額の絆創膏どうした?」
微妙に髪に隠れて見えなかったが彼女の額にクマ柄の絆創膏が張られていた。
「あ、コレ?この間、新型のテストでぶつけちゃって…今の隊長がくれた物なんだ」
「そうか?やけにファンシーだなあ、と思って…どう言う隊長だ?」
「それがさぁ~もの凄いカッコいい人でさ、何と言うか儚げと言うか…腕も確かなんだよ!」
「そうか…それは良かったな」
「あ、もしかして妬いてんの?ビークってアタシの事ぉ好きだったんだぁ~!」
「バ、バカを言うな!俺は何時でもエリーゼ一筋だ!」
首に掛けていたロケットを取り出し印籠の様に見せつける。
「でも、連絡なんて取れないでしょ?火星と地球じゃ」
「毎日メールは送ってる!」
「でも火星、地球間じゃ時差がでるからねぇ…届くのは一週間?一ヶ月?一年?…もしかして浮気されてるかも!」
「エリーゼはそんな女じゃない!」
「あっそ…好きにすれば良いじゃない?地球で一生野垂れ死ね!」
不穏な空気の中、一人の男が近づいてきた。
「ティニー中尉、もうすぐ作戦の時間だ。ブリーフィングルームへ」
内容と反比例した何処か頼りなさそう声だった。
「隊長!」
リヴァは一転、猫を被った様な可愛らしい声で返事をした。
(こいつが、隊長?)
ビークは困惑した。
最初は弱々しくも感じた。だがそれは違った。
童顔には見えるが高身長で、白髪。左眼には眉から頬に掛かる大きな傷跡があった。
「…記憶が無いんだ」
男の第一声だった。
「あ、いや…そんなまじまじと見つめるもんだから、もしかしたら自分を知ってるのかと思ってね?」
白髪の青年は申し訳なさそうに言った。
「すまない…俺は貴方を初めてみる」
「そうか、じゃあ自己紹介だね。僕は竜宮 零特務大尉…と言ってもこの名前が本当かは分からないけどね」
そう言って零は制服のポケットから一枚の写真を取り出す。
所々破れたりしている焼け焦げた跡があった。
写真には零ともう一人、幼い少年が写っていた。二人とも楽しそうに笑っている。
日付は、CC110.02.21.
五年前の日付。裏には掠れた字でこう書かれていた。
『レイ…リュ…グの誕生日…撮…た人…ルーナ…』
月軌道上に浮かぶ火星侵攻軍の要塞基地〈バスティオン〉
十年前、地球軍の月奪還作戦にて火星軍の砦となったこの要塞は、現在も侵攻軍の大事な補給基地として稼働している。
ビーク・トライバは新しく手に入ったマシンに複雑な思いを抱いていた。
XG隊との戦いの後、ビークの乗った艦は修理と補給を受けに宇宙へ上がっていた。自分の機体の修理をさせてもらえると思っていたが、何かの手違いでドライドを手に入れる事になってしまったのだ。
それまでの愛機には愛着があった。が、軍では新しい兵器の開発が進んでおり、今の機体は古く、時代遅れらしい。指揮官機であったドライドさえ旧式扱いだったのだ。もちろん抗議もしたが、
「…そんな旧式、修理してる暇なんて無いですよ。それに、あんなデカイ刀持たすなんて無茶もいい所だ」
と、言われてしまった。
ビークはデッキを見下ろせるカフェテラスでコーヒー牛乳を飲みながら作業を眺めていた。
「あんたまだミルク無しじゃ飲めないんだぁ?」
不意に頭を小突かれる。振り向くと立っていたのは利発そうな女性。日焼けした褐色の肌、鋭い眼付き、かなり短くした切りそろえた赤髪の女軍人だった。
「えっと…もしかしてリヴァ・ティニーか?」
「oh!正解、よく気が付いたね?」
満面の笑みのリヴァ。ビークは少し困惑気味だ。
「火星の士官学校であって以来、五年ぶりだな?あの頃はもっと髪が長かったよな」
「まぁね、決意の現れって奴?所で何見てたの?」
「ん?あぁ…アレだよ」
ビークは巨大な刀を背負った機体を指さす。
「あ!アレってディン・マルコー隊長のドライドだよね?アタシ、あの刀を造った工房に付いていった事あるから分かるよ。でも隊長の機体って黒じゃなかったっけ」
「…」
「あ…ごめん」
沈黙が流れる。
「…最後まで戦士だった」
「面倒見の良かったよね、アタシしょっちゅう怒られてたけど」
リヴァの頬に涙が伝う。訓練生時代には沢山世話になった。その師に恩返しも出来なってしまった。思い出を語り虚空を見つめるリヴァの横顔を見つめるビーク。ふと、目線がいく。
「リヴァ、その額の絆創膏どうした?」
微妙に髪に隠れて見えなかったが彼女の額にクマ柄の絆創膏が張られていた。
「あ、コレ?この間、新型のテストでぶつけちゃって…今の隊長がくれた物なんだ」
「そうか?やけにファンシーだなあ、と思って…どう言う隊長だ?」
「それがさぁ~もの凄いカッコいい人でさ、何と言うか儚げと言うか…腕も確かなんだよ!」
「そうか…それは良かったな」
「あ、もしかして妬いてんの?ビークってアタシの事ぉ好きだったんだぁ~!」
「バ、バカを言うな!俺は何時でもエリーゼ一筋だ!」
首に掛けていたロケットを取り出し印籠の様に見せつける。
「でも、連絡なんて取れないでしょ?火星と地球じゃ」
「毎日メールは送ってる!」
「でも火星、地球間じゃ時差がでるからねぇ…届くのは一週間?一ヶ月?一年?…もしかして浮気されてるかも!」
「エリーゼはそんな女じゃない!」
「あっそ…好きにすれば良いじゃない?地球で一生野垂れ死ね!」
不穏な空気の中、一人の男が近づいてきた。
「ティニー中尉、もうすぐ作戦の時間だ。ブリーフィングルームへ」
内容と反比例した何処か頼りなさそう声だった。
「隊長!」
リヴァは一転、猫を被った様な可愛らしい声で返事をした。
(こいつが、隊長?)
ビークは困惑した。
最初は弱々しくも感じた。だがそれは違った。
童顔には見えるが高身長で、白髪。左眼には眉から頬に掛かる大きな傷跡があった。
「…記憶が無いんだ」
男の第一声だった。
「あ、いや…そんなまじまじと見つめるもんだから、もしかしたら自分を知ってるのかと思ってね?」
白髪の青年は申し訳なさそうに言った。
「すまない…俺は貴方を初めてみる」
「そうか、じゃあ自己紹介だね。僕は竜宮 零特務大尉…と言ってもこの名前が本当かは分からないけどね」
そう言って零は制服のポケットから一枚の写真を取り出す。
所々破れたりしている焼け焦げた跡があった。
写真には零ともう一人、幼い少年が写っていた。二人とも楽しそうに笑っている。
日付は、CC110.02.21.
五年前の日付。裏には掠れた字でこう書かれていた。
『レイ…リュ…グの誕生日…撮…た人…ルーナ…』
「ルーナ…女の名か?」
「誰なんだろね?もしかして僕の彼女だったりするのかな?」
零のその言葉に何故かリヴァがムッとする。
「これしか手がかりは無い。でもほら、この時期ってスフィア落としの真っ最中らしいじゃない?その時の生き残りかも、って救助された時に言われたよ。それで火星で治療とリハビリを受けて今に至ると…」
「だが待て、貴方が火星側の人間である証拠があるのか?生き残りといっても地球の人間かもしれないぞ?」
核心を突く。
得体の知れない青年。もしかすりと地球から送り込まれたスパイかもしれない、そうビークは思っていた。
「大体、そんな人間が何故パイロットを、しかも隊長にまでなっている?おかしくないか!」
「それは…」
「どうなんだ?説明は出来るのか、あぁ?!」
どもる零の胸ぐらを掴み、ビークの追及は続く、が。
「いいかげんにしてっ!」
その叫びがビークの言葉を遮った。
「…何だよリヴァ」
「彼…隊長の過去を詮索しないでちょうだい」
「何故だ?こいつはスパイかもしれないだろ!」
乾いた音が響く。ビークの頬に熱い感覚。
「地球にいて何も知らないくせに偉そうに言わないで!隊長は私達の仲間、それでいいじゃない!別に記憶なんか無くたって、素性が分からないといけないの?!」
リヴァは顔を涙でグシャグシャにして悲痛な声で怒鳴る。
「リヴァ、もういいんだ…ウゥ」
零は頭を押さえ床にしゃがみ込む。
「大丈夫!レイ…!」
「心配しないで、すぐ収まるから。それに信用は行動で示す…だから安心して」
零はリヴァの肩に掴まり立ち上がる。
「そうだ、ビーク君…君は本日付けで少佐に就任だそうだ…おめでとう。新たにトライバ隊として君に部下が付く」
「誰なんだろね?もしかして僕の彼女だったりするのかな?」
零のその言葉に何故かリヴァがムッとする。
「これしか手がかりは無い。でもほら、この時期ってスフィア落としの真っ最中らしいじゃない?その時の生き残りかも、って救助された時に言われたよ。それで火星で治療とリハビリを受けて今に至ると…」
「だが待て、貴方が火星側の人間である証拠があるのか?生き残りといっても地球の人間かもしれないぞ?」
核心を突く。
得体の知れない青年。もしかすりと地球から送り込まれたスパイかもしれない、そうビークは思っていた。
「大体、そんな人間が何故パイロットを、しかも隊長にまでなっている?おかしくないか!」
「それは…」
「どうなんだ?説明は出来るのか、あぁ?!」
どもる零の胸ぐらを掴み、ビークの追及は続く、が。
「いいかげんにしてっ!」
その叫びがビークの言葉を遮った。
「…何だよリヴァ」
「彼…隊長の過去を詮索しないでちょうだい」
「何故だ?こいつはスパイかもしれないだろ!」
乾いた音が響く。ビークの頬に熱い感覚。
「地球にいて何も知らないくせに偉そうに言わないで!隊長は私達の仲間、それでいいじゃない!別に記憶なんか無くたって、素性が分からないといけないの?!」
リヴァは顔を涙でグシャグシャにして悲痛な声で怒鳴る。
「リヴァ、もういいんだ…ウゥ」
零は頭を押さえ床にしゃがみ込む。
「大丈夫!レイ…!」
「心配しないで、すぐ収まるから。それに信用は行動で示す…だから安心して」
零はリヴァの肩に掴まり立ち上がる。
「そうだ、ビーク君…君は本日付けで少佐に就任だそうだ…おめでとう。新たにトライバ隊として君に部下が付く」
カツ…カツ…
「名前は、ジェイミー・グリンガー」
カツ…カツ…
「…ジェイミー?」
カツ…カツ…カツッ
ビークは振り返った。そこには一人の男が居た。虚ろな目、オールバックにした銀髪、そして、
「地球軍の制服…」
そう異様な雰囲気を放つ男が着ている服装は紛れもなく地球軍の物。が、所々アレンジして裾などを破かれている。
「彼は僕の命を助けてくれた恩人で、元地球軍の兵士だった男だ」
「…兵士っつって傭兵だ、貰えるモンがあったから居たまでの事…でアンタが隊長さん?ヨロシクゥ?」
握手を求めてきた。ビークも手を出す。
「こ、こちらこそよろしく…ジェイミーって言うからてっきり女かと思ったよ」
「…あ?」
次の瞬間、ビークの右手の指があらぬ方向へと曲げられていた。
「ぐっ!?何を…!」
「竜宮さんよぅオレァ言ったはずだぁジェイミーの名は捨てた今のオレの名はジェイド・オーバーな?魂の名って奴だよ?わかる?」
ジェイミーはビークを突き飛ばした。ビークは痛む右手を押さえ唸る。
「すまないジェイド気を付ける」
ビークの情けない状態にリヴァは見向きもしない。
「ったくよ、ま、そう言う事だ、ヨロシクゥ?」
「地球軍の制服…」
そう異様な雰囲気を放つ男が着ている服装は紛れもなく地球軍の物。が、所々アレンジして裾などを破かれている。
「彼は僕の命を助けてくれた恩人で、元地球軍の兵士だった男だ」
「…兵士っつって傭兵だ、貰えるモンがあったから居たまでの事…でアンタが隊長さん?ヨロシクゥ?」
握手を求めてきた。ビークも手を出す。
「こ、こちらこそよろしく…ジェイミーって言うからてっきり女かと思ったよ」
「…あ?」
次の瞬間、ビークの右手の指があらぬ方向へと曲げられていた。
「ぐっ!?何を…!」
「竜宮さんよぅオレァ言ったはずだぁジェイミーの名は捨てた今のオレの名はジェイド・オーバーな?魂の名って奴だよ?わかる?」
ジェイミーはビークを突き飛ばした。ビークは痛む右手を押さえ唸る。
「すまないジェイド気を付ける」
ビークの情けない状態にリヴァは見向きもしない。
「ったくよ、ま、そう言う事だ、ヨロシクゥ?」
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