敵は5機の狗。
野獣のように鋭くどす黒い瞳はリベジオンを刺すように睨んでいる。
リベジオンを攻撃する機会を窺っているのだろう。
先の仲間がやられた事で狗達は1対1の戦闘ではリベジオンに勝ち目がない事を悟ったのだろう。
故に彼らが狙うのは5機全てでの一斉攻撃。
象徴的な武装であった黒槍を失ったリベジオンの武装はもはや紅の光を纏った己の拳のみである。
それは必壊の威力を持つが所詮二つの腕から放たれるものであり、同時に襲いかかる5体全てを相手にする事は出来ない。
2機は破壊されても3機はその機体に牙を突きたてる事ができるのだ。
リベジオンが翼を広げ、それらが届かぬ空へ逃げようとしても飛翔の際のラグで機体ごと喰い砕かれるだろう。
つまり質で圧倒的に劣っていても狗達は数の差から有利を取れるのである。
そのために、その有利を失わぬように狗達は一定の距離を保ちつつリベジオンを囲むように立ち回り機を待つ。
それに対して黒峰潤也の操るリベジオンはゆっくりと右腕を天につきあげる。
突き上げられた拳は固く握られており、その周囲には紅の光が纏わりつくように徘徊している。
じりじりと距離をつめる狗達。
一歩、また一歩と着実に自らの優位性を確実なものにしようと距離を狭める。
一歩、一歩、さらに一歩。
リベジオンは黒槍を失った事でリーチの短くなった事が災いし、必要以上の接近を許してしまう。
そうして狗達は立ち止った。
それは狗達にとっての絶好の位置。
狗達からすれば飛びかかればその牙でリベジオンの機体を貫ける距離であり、リベジオンからすれば、ギリギリその拳が届かない距離である。
先生攻撃を仕掛ければ、確実にその内の数機はリベジオンの機体を貫くだろう。
狗達は前足を地に踏み込み、延ばし、後ろ足を屈らせる。
そうして後ろ足のバネを使って飛びかか―――
その時だった、リベジオンが天に掲げた右腕の握られた拳を開いたのは…。
拳が開かれるのと同時に腕の周囲を徘徊していた紅の光は拡散するように広がりその周囲を一気に照らす。
それは極光と思えるほどの光を放ち、周囲を紅閃の世界に染める。
そしてその光りを発したと同時にリベジオンは動いた。
視界を閉ざされた狗達はそのリベジオンの動きを把握するのに遅れた
否、かつてリベジオンが対峙した他の鋼獣と比べれば動いたことを把握し反応したのは非常に速かったとも言えるだろう。
だが、それでもその一瞬の隙があれば黒峰潤也とリベジオンには十二分だった。
リベジオンの怨嗟の光を纏った拳が一機目の狗の胴体を貫通する。
それを投げ捨てるように二機目の体にぶつけ、それを投げた方へと駆ける。
破壊された同胞に視界を潰された狗は自らの身に何が起こっているのか理解する事が出来ない。
狗はそれを振り飛ばして、視界を取り戻す。
眼前に映るのは紅い瞳の漆黒の悪魔がその拳を振りかぶり、自らに振りおろそうとしている様。
そしてその拳は狗の頭を粉砕した。
既に周囲に光は無く、二機の狗はリベジオンを視認し、同時に上と下の二方向から飛びかかる。
リベジオンはその自らに向かってきた二機の狗の一機は頭蓋を掴まれ、もう一機は足で頭から踏みつけられその身を地に堕とした。
そして、リベジオンはその二機の狗の頭を握りつぶし、踏みつぶす。
あまりにも一瞬の事であった。
いくら質で勝ろうと数の有利はそれを超えていた筈である。
だが、なんという理不尽か、この怨嗟の魔王はたった一手でこの戦況を逆転させてしまったのだ。
そもそもの狗達のギリギリまでの射程を積めるような移動、慎重に慎重を重ね、万全の攻めを敷くための方策。
その一手の唯一の弱点。
つまりは全ての敵が一歩踏み出せば己の射程に入る程近い距離にいるという難点を見事に活用してみせたのだ。
残る狗は一機。
こうなってしまえば戦力の差は歴然だ。
もはや量と質の戦いは終わり、質と質の戦いへと移り変わる。
怨嗟の魔王は狗を容易く葬り去れるだけの能力を所持しており、狗はリベジオンを倒す術が無い。
狗にとっては絶体絶命とも言える状況であった。
リベジオンは止めを刺さんと悠々と歩を進める。
そうしてリベジオンの射程距離に狗が入り、リベジオンが止めを刺さんと腕を振り上げ――
その刹那、狗が咆哮した。
それは負ける者が発するような絶望の叫びでは無く、未だ戦意を失わず、勝つための咆哮。
機械がそのようなものを発するというのも可笑しな話だが、そのような気骨を感じさせられる咆哮である。
だが、それに構わずリベジオンは必壊の拳を振りおろした。
そうして、その拳が最後の狗の頭部に当たる寸前に――――
「潤也、後ろ!」
藍の声が響く。
それと同時に、大きな衝撃がリベジオンの機体を襲った。
拳を振りおろしていたリベジオンはその衝撃に対して踏み留まる事もできず力のまま横転する。
それを見た狗はすぐさまリベジオンから離れるように後方に飛んだ。
何が起こったのかもわからず、衝撃の際、頭を壁にぶつけた痛みを感じながら潤也は問いかける。
「藍、報告しろ、何があった!!」
機体が受けた衝撃で頭を壁に強くぶつけた個所を抑えながら潤也は藍に現状報告を求める。
「そ、それが…私にもよくわからないんだけれど、破壊した狗がリベジオンに向かって突撃してきたみたいなの…。
損傷に関しては衝撃は凄かったけれど背部にかすり傷程度だから安心して、この子は問題無く動くよ。」
「破壊した断片?俺が狗の破壊に失敗したという事か?」
ならば、納得のいく話だ。
鋼獣のコックピットは頭のあるのが大体だ。
というのも操縦者は頭部から電気神経で繋がり、鋼人一体を果たすのだが、鋼獣は生物を模した機体であり、
かつて鋼獣が作られていた頃、その脳となる搭乗者の乗り込む場所は頭部でなければならないという取り決めがあったらしい。
故に潤也は頭部に狙いを絞って狗達を破壊してきた。
だが、もし頭部に操縦席が無いイレギュラーだとしたらどうだ?
そもそもおそらくはあの狗達は遺物どころか、そのレプリカですら無く、まったく新しい機体であるのだから、
そのような取り決めを守らずに別の場所からコックピットの場所も変わっている可能性も無きにしも非ずだった。
しかし、その考えを藍は否定する。
「たぶん、それは違う。もし生きていたらDSGCシステムに怨念が探知されない筈。今、潤也が破壊した5機の狗達からは全て、怨念を確認しているよ。
つまりは潤也は確かにあいつらの操縦者を殺している。」
「ならば、何故あいつらは動いている?」
少し考えるような間をとって藍は答える。
「可能性の一つとし考えられるのは遠隔操作じゃないかな。
鋼獣で複座式なんてありえないし、おそらくはあの狗達には破壊された狗を動ける狗が遠隔操作で動かせるようになってるとか…。」
最後の一機だった狗の周りに頭を破壊された五機の狗が集まっている。
「確かに、その線で考えるのが妥当か…」
「でも、これならば、あんまり考える必要も無いよね、結局今あの群を操っている張本人をやっつけてしまえば、私達の勝ちだもの。」
再び狗が吠える。
それに呼応するように半壊した他の狗達が最後の狗の元に終結した。
「だが、話はそこまで簡単にはいかなそうだ。」
潤也は狗が次に行った行動を見てそう感想を述べる。
「え…でもこれって…。」
藍もそれを確認し戸惑いの声を上げた。
半壊した狗達がパーツに分解され、新たな存在へと自らを再構築し、兵装へと変化させたのだ。
そうして、最後の一体であった狗はそれを纏い自らの鎧と武器へと変化させていく…。
「あまりいい予感がしないな、さっさとやるぞ。」
リベジオンは右拳にエネルギーと化した怨念を纏わりつかせ、翼を広げ、宙に浮き低空飛行で狗に迫る。
右腕を振り上げ、高速でその距離を詰める。
その時、狗の方から空気が掃除機に吸い込まれるような音が鳴る。
その音に危険を覚え、潤也はすぐさま攻撃を中断しリベジオンを上昇させた。
それとほぼ同時にパシュンと間抜けな音が響き、リベジオンの後方にあった木々をぶち折っていく。
「え、今のって…。」
藍は再び驚きの声をあげる。
「空圧砲か!!!」
先の戦いでリベジオンの呪式結界を抜けてきた実体を持たない弾丸を打ち出す、砲銃。
それとまったく同じ原理の兵装を狗が使ってきたのだ。
狗の変化が終了する。
体は3割ほど大きさを増した5mほどの体となり背中には二本の巨砲と翼、尻尾は6つに分かれており、顔は縦に三等分して分かれており、全身に刺々しい甲冑のようなものを纏っている。
そして、その外観はそのなんとも言えない不釣り合いな歪さを感じさせていた。
「――キモッ!」
その姿を見た藍は短くかつ的確な感想を述べる。
潤也もまあ、大体は同感なのであまり突っ込まなかった。
言うなれば、とりあえず無理矢理武装を狗にくっ付けただけなのだ。
外観的美意識などまったくを無視し、とにかく武装と装甲を強化して出来た歪な存在。
それが今の狗だった。
狗は再び、リベジオンに向けて砲を発射する。
すぐさまリベジオンは射線からずれるように旋回し回避する。
発射される際になる、火薬の音が破裂する音がしない間抜けな発射音。
そうして実体を持たない弾丸がリベジオンの隣をかすめていく。
それを見て、潤也は空圧砲であると確信する。
「でも、ああいうのはあいつらには作らなさそうな代物だけれど…。」
藍の疑問も当然だ。
焔凰の熱線のような強力な武装を作れる彼らわざわざこのような兵器を作り装備させる必要があるだろうか?
ならば、何故あの狗はあのような兵装を持っているのか?と潤也は考える。
確かにあの空圧砲は対リベジオンへの手段としては有効だとは言える。
だが、所詮、空圧砲で与えられるダメージなどは雀の涙程度であり、機体に大きな衝撃を与えども機体に大きなダメージを与えるのは不可能だ。
だから先の鋼機部隊はそれをメインにもってくるのでは無く、それを起因とした攻撃を仕掛けてきたのだ。
空圧砲だけではリベジオンに大したダメージを与える事が出来ないと知っていたのだから…。
無論、異形と化した狗が行う攻撃が鋼機部隊と比較にならない程の威力を秘めた空圧砲であったならば、話は別だ。
だが、それは過大評価しても鋼機部隊が使ったものと同等の威力のものでしかなかった。
では、何故このような兵装をあの鋼獣は取りつけたのか…?
UHがこの機体の対策として取り付けた?否、それではあまりにお粗末な出来だ。
少なくとも地上の人間より高いテクノロジーを持つ人間たちがそのようなモノを作るとは思えない。
ならば、一体…。
「考えるだけ無駄だな…。」
そこで、潤也はその思案に関する思考を中断させた。
今、考えなければいけないのはあの狗をどうやって破壊するか?だ。
考えても即座に答えの出ない雑念に囚われていては勝てる勝負も勝てなくなってしまう。
「藍、一気にやるぞ。」
「了解。」
リベジオンは宙で身を翻し、狗に向けて突撃を開始する。
風を斬り、音を裂き、暴風の如く狗との距離を詰める。
狗は迎撃に空圧砲を撃つが、射線を読みきって降下してくるリベジオンは止められない。
あと数秒の間にリベジオンの右腕は狗の頭を掴むだろう。
だが、それで狗の攻撃は終わらない。
背のパーツをまた新しく変換し、新たな砲台を作りだす。
3、4、5、6、7、8、9、10。
全10門にも渡る空圧砲を即座に構成し、展開した。
そしてその10の砲門でリベジオンを迎撃する。
「ちっ。」
即座に潤也はリベジオンに降下をやめさせ上昇し狗から大きく離れる。
先ほどまでは二門であったが故に射線からずれ回避しやすかったが、今度は数が違う。
数が違うという事はそれだけ抜ける間が少ないという事だ。
例え、一発の威力は問題にならなくても空中であれを何発も受ける事はあまりに危険だ。
「なんなんだ、あれは!」
自らの体の構成を組み替えて戦う鋼獣だとでもいうのか?
だが、レプリカクラスでも無いのにそのような事が出来る鋼獣がいるのだろうかと潤也は思った。
「もう、あそこまでいくと要塞だね…あまりのキモさに目が痛くなるけれど…。」
背の多量の空圧砲を見た、藍が呆れるように言う。
もはや狗とすら呼べない四足歩行の異形が背中に背負っている砲は鋼機部隊が使っていた空圧砲が小型化したような印象を受ける代物だ。
実際、威力も彼らが使っていたのと比べると落ちていると潤也は感じていた。
だが、その分、数があり、それらの合計的な威力は彼らの空圧砲を大きく超えるだろう。
潤也は考える。
定石ならば、迎撃手段があるとは言え、こちらの方が有利なのだから、先ほど狗達が自分にやろうとしたように優位性を損なわずにじっくりとした攻めを行うのが理想だと言えるだろう。
だが、潤也には一つ懸念があった。
先ほどから頭痛が酷く、何度か意識を失いそうになっているのだ。
DSGCの過負荷の中にいた代償とでもいうべきか…度重なる負荷の中で潤也は疲労困憊の状態にあった。
見方によっては、この程度の代償でこれだけの力を得ているのだから破格の力とは言える。
だが、それは確実に潤也の精神をすり減らしていた。
「あまり、長くは持たないな。」
自己診断によって自分の状態を把握し、潤也はそう呟く。
ならば、長期戦になる事は望ましくは無い。
多少のリスクを犯そうと短期決戦。
これしか黒峰潤也がこの戦いに勝利する方法は存在しなかった。
だが、あの敵はあまりに異質だ。鋼獣枠から外れた存在だと言ってもいい。
性能的な差ではこちらが有利ではあるが、あの異質さが何故か潤也の心にわだかまりを残す。
先の機体の再構成による空圧砲の増加を見た今となっては、それを雑念だと振り切る事は潤也には出来なかった。
「藍、あれをどう見る?」
「うん、そうだね。とりあえず、一つ仮説は作ってみたけれど、まだ確信は持ててない感じかな。あともうひと押しあれば自信を持てるんだけれど…。」
「それは?」
潤也がその仮説を引き出そうと問いかける。
「うーん、まだ駄目、言えない、自信が持てない仮説だし、もし間違ってたら余計な先入観を抱かせるだけになっちゃうし、それが命取りになっちゃう事もあるから言えないよ。」
「―――言え。」
言葉に冷徹な重みを乗せて潤也は藍に迫る。
少し考えるような間をおいた後、藍は答えた。
この女は黒峰潤也には逆らえないのだ。
「あくまで、仮説として聞いてね。お願いだから…。」
「わかっている、さっさと言え。」
「たぶん、あれは他の機械のシステムを自身の中に取り込んで解析しそれを自分の中で再現できる鋼獣なんだと思う。あれが、機関の人たちを襲った時の事を思い出して、潤也…。奴らは普通の鋼獣がしない事をしていた筈でしょ…。」
少し考えた後、潤也は納得が言ったように答える。
「奴らは破壊した後も機体を喰らっていた…?」
「うん、それ、確かに獣ならば、殺した獲物を食べる事はあると思うけれど、仮にも機械の鋼獣がそんな事するなんて非合理的だと思うよね?
そもそもあれには人間が搭乗しているのだし…あの捕食行動には意味があったと考えるのが妥当なんじゃないかなと思うんだ。」
「つまり、あれはあの鋼機のシステムを自身の中に取り込む為の行動だったというわけか…。」
「だね、きっとあの空圧砲も持ってた機体の空圧砲を喰ったのか、
あの目の前で喰われた鋼機達の中にもデータがあったのかどっちかはわからないけれど、
自身に取り込んで自身の中でそのシステムを再現し兵装として自らにフォーマットさせたんだと思う。
この仮説がもし正しかったとしたら、とんでもテクノロジーにここに極まりだね。
だから自信が持てなかったんだけれど…まあ、この子に乗ってる私たちもそんな事は言えないか…。」
潤也は納得したように頷く。
「しかし、そうだとすると、一つ大きな問題点があるな。」
「問題点?」
「ああ、そうだ、奴の尻尾だよ、よく見ろ、何か思い出すことないか?」
「あの不釣り合いな、6本の尻尾のどこ・・・あっ!」
異形と化した狗の尾は6つあった。
単純な思考で考えるならば、6体が合一化したが故に6本の尻尾であるなどという考えに辿りつくだろう。
だが、もしそうでは無いとしたら?
あの6本の尻尾に意味があるとしたら…。
「―――焔凰の尾!?」
藍も潤也と同じ思考に辿りつく。
「でも、何時?少なくても焔凰はあいつらと戦ってブリューナクまで行使して塵芥残らず消滅した筈でしょ?一体、どこに取り込むべき破片があったというの?」
「あったよ。よく思い出せ。奴らの中でα5と呼ばれていた男が戦った時、焔凰は背負った輪を二つに割り半月輪として投擲した。そして、その半月輪は回収されていないんだ。」
藍ははっと息を呑む。
「奴らがもしそれを喰らい自身の中に取り込んでいたとするのならば、焔凰のシステムを模倣している可能性もあるかもしれない。それにこうだとすると色々納得がいく。」
「確かにそうだね、あの空圧砲だけでこの子に挑むのは余りに無謀だ、彼らがこの子の事をまったく知らないのならばともかく、目の敵のようにして追ってきている身の癖に、あんな玩具だけで戦おうなんてふざけてる。
でも、あれが牽制を主目的とした兵装であり、もう一つ、こちらを仕留める為の切り札を隠していたとするならば、確かにあの武装は有益な武装だとも言えるかもしれない。」
焔凰の熱線放射。
それもまた実体を持たない攻撃であり、リベジオンの防御を貫く兵装だ。
狗の尾は6本しかなく、焔凰の9本と比べると劣っているのは確かだが。
そもそも焔凰は何処にいるかわからないリベジオンを破壊する為にこの一帯を燃やしつくす程のエネルギーを貯める為、9本のチャージを必要としていたのでは無かったか?
今、この機体はあの狗の眼前に現れてしまっている。
ならば、9本も使う広域熱線放射など必要では無いのだ。
牽制の空圧砲でこちらの動きを止め、本命の熱線でこちらを仕留める。
それが、あの狗の勝ち筋。
暗くなってきた外景に漆黒の機体が溶け込み、意識して見なければわからなかったが、狗の尾の内5本に既に暗い光が宿っているように見える。
つまりはあと少しでチャージは完了し、もはやそれは当てるだけでいいという状況だ。
そしてそれはこの仮説が限りなく真実に近いのだという根拠になりうる物証であり、戦況に対する考え方を大きく変えざるおえない事柄である。
先ほど鋼機部隊が戦った時よりも状況は悪い。
狗は自らの射線にリベジオンを追いこみ、熱線を放射するつもりだろう。流石のリベジオンもあれを受けるのは危険だ。
故にすぐさま接近し、あれを破壊しなければならない。
だが、空圧砲の弾幕により、近づくのは容易では無く、射線から大きく外れるのも難しい。
それに潤也自身のコンディションも最悪だ。
時間が無い。
ならばどうすれば良い?
潤也は自問自答の末一つの結論にたどりつく。非常に危険な手段だ。
それは自分自身との戦いでもあり、そこまで自分を保てれば勝利は絶対的なものになるといえるだろう。
だが、それは万分の1の確率を願うようなモノだ。
しかし、選択の余地は無い。
もはやそれは策と呼べるほどのものですら無いが、時間が無い故にそれ以外の方法を模索する暇はない。
そんな雑念を持っていたのならば、それは反応を鈍らせ、決意を鈍らせ、相手に一瞬の隙を与えてしまう。
だから考えるのは今、思いついたそれをいかにして成功させるか、それのみ――
故にその一手をまず始めよう。
「藍、設計図を読み込め。ブリューナクの再構築をする。」
野獣のように鋭くどす黒い瞳はリベジオンを刺すように睨んでいる。
リベジオンを攻撃する機会を窺っているのだろう。
先の仲間がやられた事で狗達は1対1の戦闘ではリベジオンに勝ち目がない事を悟ったのだろう。
故に彼らが狙うのは5機全てでの一斉攻撃。
象徴的な武装であった黒槍を失ったリベジオンの武装はもはや紅の光を纏った己の拳のみである。
それは必壊の威力を持つが所詮二つの腕から放たれるものであり、同時に襲いかかる5体全てを相手にする事は出来ない。
2機は破壊されても3機はその機体に牙を突きたてる事ができるのだ。
リベジオンが翼を広げ、それらが届かぬ空へ逃げようとしても飛翔の際のラグで機体ごと喰い砕かれるだろう。
つまり質で圧倒的に劣っていても狗達は数の差から有利を取れるのである。
そのために、その有利を失わぬように狗達は一定の距離を保ちつつリベジオンを囲むように立ち回り機を待つ。
それに対して黒峰潤也の操るリベジオンはゆっくりと右腕を天につきあげる。
突き上げられた拳は固く握られており、その周囲には紅の光が纏わりつくように徘徊している。
じりじりと距離をつめる狗達。
一歩、また一歩と着実に自らの優位性を確実なものにしようと距離を狭める。
一歩、一歩、さらに一歩。
リベジオンは黒槍を失った事でリーチの短くなった事が災いし、必要以上の接近を許してしまう。
そうして狗達は立ち止った。
それは狗達にとっての絶好の位置。
狗達からすれば飛びかかればその牙でリベジオンの機体を貫ける距離であり、リベジオンからすれば、ギリギリその拳が届かない距離である。
先生攻撃を仕掛ければ、確実にその内の数機はリベジオンの機体を貫くだろう。
狗達は前足を地に踏み込み、延ばし、後ろ足を屈らせる。
そうして後ろ足のバネを使って飛びかか―――
その時だった、リベジオンが天に掲げた右腕の握られた拳を開いたのは…。
拳が開かれるのと同時に腕の周囲を徘徊していた紅の光は拡散するように広がりその周囲を一気に照らす。
それは極光と思えるほどの光を放ち、周囲を紅閃の世界に染める。
そしてその光りを発したと同時にリベジオンは動いた。
視界を閉ざされた狗達はそのリベジオンの動きを把握するのに遅れた
否、かつてリベジオンが対峙した他の鋼獣と比べれば動いたことを把握し反応したのは非常に速かったとも言えるだろう。
だが、それでもその一瞬の隙があれば黒峰潤也とリベジオンには十二分だった。
リベジオンの怨嗟の光を纏った拳が一機目の狗の胴体を貫通する。
それを投げ捨てるように二機目の体にぶつけ、それを投げた方へと駆ける。
破壊された同胞に視界を潰された狗は自らの身に何が起こっているのか理解する事が出来ない。
狗はそれを振り飛ばして、視界を取り戻す。
眼前に映るのは紅い瞳の漆黒の悪魔がその拳を振りかぶり、自らに振りおろそうとしている様。
そしてその拳は狗の頭を粉砕した。
既に周囲に光は無く、二機の狗はリベジオンを視認し、同時に上と下の二方向から飛びかかる。
リベジオンはその自らに向かってきた二機の狗の一機は頭蓋を掴まれ、もう一機は足で頭から踏みつけられその身を地に堕とした。
そして、リベジオンはその二機の狗の頭を握りつぶし、踏みつぶす。
あまりにも一瞬の事であった。
いくら質で勝ろうと数の有利はそれを超えていた筈である。
だが、なんという理不尽か、この怨嗟の魔王はたった一手でこの戦況を逆転させてしまったのだ。
そもそもの狗達のギリギリまでの射程を積めるような移動、慎重に慎重を重ね、万全の攻めを敷くための方策。
その一手の唯一の弱点。
つまりは全ての敵が一歩踏み出せば己の射程に入る程近い距離にいるという難点を見事に活用してみせたのだ。
残る狗は一機。
こうなってしまえば戦力の差は歴然だ。
もはや量と質の戦いは終わり、質と質の戦いへと移り変わる。
怨嗟の魔王は狗を容易く葬り去れるだけの能力を所持しており、狗はリベジオンを倒す術が無い。
狗にとっては絶体絶命とも言える状況であった。
リベジオンは止めを刺さんと悠々と歩を進める。
そうしてリベジオンの射程距離に狗が入り、リベジオンが止めを刺さんと腕を振り上げ――
その刹那、狗が咆哮した。
それは負ける者が発するような絶望の叫びでは無く、未だ戦意を失わず、勝つための咆哮。
機械がそのようなものを発するというのも可笑しな話だが、そのような気骨を感じさせられる咆哮である。
だが、それに構わずリベジオンは必壊の拳を振りおろした。
そうして、その拳が最後の狗の頭部に当たる寸前に――――
「潤也、後ろ!」
藍の声が響く。
それと同時に、大きな衝撃がリベジオンの機体を襲った。
拳を振りおろしていたリベジオンはその衝撃に対して踏み留まる事もできず力のまま横転する。
それを見た狗はすぐさまリベジオンから離れるように後方に飛んだ。
何が起こったのかもわからず、衝撃の際、頭を壁にぶつけた痛みを感じながら潤也は問いかける。
「藍、報告しろ、何があった!!」
機体が受けた衝撃で頭を壁に強くぶつけた個所を抑えながら潤也は藍に現状報告を求める。
「そ、それが…私にもよくわからないんだけれど、破壊した狗がリベジオンに向かって突撃してきたみたいなの…。
損傷に関しては衝撃は凄かったけれど背部にかすり傷程度だから安心して、この子は問題無く動くよ。」
「破壊した断片?俺が狗の破壊に失敗したという事か?」
ならば、納得のいく話だ。
鋼獣のコックピットは頭のあるのが大体だ。
というのも操縦者は頭部から電気神経で繋がり、鋼人一体を果たすのだが、鋼獣は生物を模した機体であり、
かつて鋼獣が作られていた頃、その脳となる搭乗者の乗り込む場所は頭部でなければならないという取り決めがあったらしい。
故に潤也は頭部に狙いを絞って狗達を破壊してきた。
だが、もし頭部に操縦席が無いイレギュラーだとしたらどうだ?
そもそもおそらくはあの狗達は遺物どころか、そのレプリカですら無く、まったく新しい機体であるのだから、
そのような取り決めを守らずに別の場所からコックピットの場所も変わっている可能性も無きにしも非ずだった。
しかし、その考えを藍は否定する。
「たぶん、それは違う。もし生きていたらDSGCシステムに怨念が探知されない筈。今、潤也が破壊した5機の狗達からは全て、怨念を確認しているよ。
つまりは潤也は確かにあいつらの操縦者を殺している。」
「ならば、何故あいつらは動いている?」
少し考えるような間をとって藍は答える。
「可能性の一つとし考えられるのは遠隔操作じゃないかな。
鋼獣で複座式なんてありえないし、おそらくはあの狗達には破壊された狗を動ける狗が遠隔操作で動かせるようになってるとか…。」
最後の一機だった狗の周りに頭を破壊された五機の狗が集まっている。
「確かに、その線で考えるのが妥当か…」
「でも、これならば、あんまり考える必要も無いよね、結局今あの群を操っている張本人をやっつけてしまえば、私達の勝ちだもの。」
再び狗が吠える。
それに呼応するように半壊した他の狗達が最後の狗の元に終結した。
「だが、話はそこまで簡単にはいかなそうだ。」
潤也は狗が次に行った行動を見てそう感想を述べる。
「え…でもこれって…。」
藍もそれを確認し戸惑いの声を上げた。
半壊した狗達がパーツに分解され、新たな存在へと自らを再構築し、兵装へと変化させたのだ。
そうして、最後の一体であった狗はそれを纏い自らの鎧と武器へと変化させていく…。
「あまりいい予感がしないな、さっさとやるぞ。」
リベジオンは右拳にエネルギーと化した怨念を纏わりつかせ、翼を広げ、宙に浮き低空飛行で狗に迫る。
右腕を振り上げ、高速でその距離を詰める。
その時、狗の方から空気が掃除機に吸い込まれるような音が鳴る。
その音に危険を覚え、潤也はすぐさま攻撃を中断しリベジオンを上昇させた。
それとほぼ同時にパシュンと間抜けな音が響き、リベジオンの後方にあった木々をぶち折っていく。
「え、今のって…。」
藍は再び驚きの声をあげる。
「空圧砲か!!!」
先の戦いでリベジオンの呪式結界を抜けてきた実体を持たない弾丸を打ち出す、砲銃。
それとまったく同じ原理の兵装を狗が使ってきたのだ。
狗の変化が終了する。
体は3割ほど大きさを増した5mほどの体となり背中には二本の巨砲と翼、尻尾は6つに分かれており、顔は縦に三等分して分かれており、全身に刺々しい甲冑のようなものを纏っている。
そして、その外観はそのなんとも言えない不釣り合いな歪さを感じさせていた。
「――キモッ!」
その姿を見た藍は短くかつ的確な感想を述べる。
潤也もまあ、大体は同感なのであまり突っ込まなかった。
言うなれば、とりあえず無理矢理武装を狗にくっ付けただけなのだ。
外観的美意識などまったくを無視し、とにかく武装と装甲を強化して出来た歪な存在。
それが今の狗だった。
狗は再び、リベジオンに向けて砲を発射する。
すぐさまリベジオンは射線からずれるように旋回し回避する。
発射される際になる、火薬の音が破裂する音がしない間抜けな発射音。
そうして実体を持たない弾丸がリベジオンの隣をかすめていく。
それを見て、潤也は空圧砲であると確信する。
「でも、ああいうのはあいつらには作らなさそうな代物だけれど…。」
藍の疑問も当然だ。
焔凰の熱線のような強力な武装を作れる彼らわざわざこのような兵器を作り装備させる必要があるだろうか?
ならば、何故あの狗はあのような兵装を持っているのか?と潤也は考える。
確かにあの空圧砲は対リベジオンへの手段としては有効だとは言える。
だが、所詮、空圧砲で与えられるダメージなどは雀の涙程度であり、機体に大きな衝撃を与えども機体に大きなダメージを与えるのは不可能だ。
だから先の鋼機部隊はそれをメインにもってくるのでは無く、それを起因とした攻撃を仕掛けてきたのだ。
空圧砲だけではリベジオンに大したダメージを与える事が出来ないと知っていたのだから…。
無論、異形と化した狗が行う攻撃が鋼機部隊と比較にならない程の威力を秘めた空圧砲であったならば、話は別だ。
だが、それは過大評価しても鋼機部隊が使ったものと同等の威力のものでしかなかった。
では、何故このような兵装をあの鋼獣は取りつけたのか…?
UHがこの機体の対策として取り付けた?否、それではあまりにお粗末な出来だ。
少なくとも地上の人間より高いテクノロジーを持つ人間たちがそのようなモノを作るとは思えない。
ならば、一体…。
「考えるだけ無駄だな…。」
そこで、潤也はその思案に関する思考を中断させた。
今、考えなければいけないのはあの狗をどうやって破壊するか?だ。
考えても即座に答えの出ない雑念に囚われていては勝てる勝負も勝てなくなってしまう。
「藍、一気にやるぞ。」
「了解。」
リベジオンは宙で身を翻し、狗に向けて突撃を開始する。
風を斬り、音を裂き、暴風の如く狗との距離を詰める。
狗は迎撃に空圧砲を撃つが、射線を読みきって降下してくるリベジオンは止められない。
あと数秒の間にリベジオンの右腕は狗の頭を掴むだろう。
だが、それで狗の攻撃は終わらない。
背のパーツをまた新しく変換し、新たな砲台を作りだす。
3、4、5、6、7、8、9、10。
全10門にも渡る空圧砲を即座に構成し、展開した。
そしてその10の砲門でリベジオンを迎撃する。
「ちっ。」
即座に潤也はリベジオンに降下をやめさせ上昇し狗から大きく離れる。
先ほどまでは二門であったが故に射線からずれ回避しやすかったが、今度は数が違う。
数が違うという事はそれだけ抜ける間が少ないという事だ。
例え、一発の威力は問題にならなくても空中であれを何発も受ける事はあまりに危険だ。
「なんなんだ、あれは!」
自らの体の構成を組み替えて戦う鋼獣だとでもいうのか?
だが、レプリカクラスでも無いのにそのような事が出来る鋼獣がいるのだろうかと潤也は思った。
「もう、あそこまでいくと要塞だね…あまりのキモさに目が痛くなるけれど…。」
背の多量の空圧砲を見た、藍が呆れるように言う。
もはや狗とすら呼べない四足歩行の異形が背中に背負っている砲は鋼機部隊が使っていた空圧砲が小型化したような印象を受ける代物だ。
実際、威力も彼らが使っていたのと比べると落ちていると潤也は感じていた。
だが、その分、数があり、それらの合計的な威力は彼らの空圧砲を大きく超えるだろう。
潤也は考える。
定石ならば、迎撃手段があるとは言え、こちらの方が有利なのだから、先ほど狗達が自分にやろうとしたように優位性を損なわずにじっくりとした攻めを行うのが理想だと言えるだろう。
だが、潤也には一つ懸念があった。
先ほどから頭痛が酷く、何度か意識を失いそうになっているのだ。
DSGCの過負荷の中にいた代償とでもいうべきか…度重なる負荷の中で潤也は疲労困憊の状態にあった。
見方によっては、この程度の代償でこれだけの力を得ているのだから破格の力とは言える。
だが、それは確実に潤也の精神をすり減らしていた。
「あまり、長くは持たないな。」
自己診断によって自分の状態を把握し、潤也はそう呟く。
ならば、長期戦になる事は望ましくは無い。
多少のリスクを犯そうと短期決戦。
これしか黒峰潤也がこの戦いに勝利する方法は存在しなかった。
だが、あの敵はあまりに異質だ。鋼獣枠から外れた存在だと言ってもいい。
性能的な差ではこちらが有利ではあるが、あの異質さが何故か潤也の心にわだかまりを残す。
先の機体の再構成による空圧砲の増加を見た今となっては、それを雑念だと振り切る事は潤也には出来なかった。
「藍、あれをどう見る?」
「うん、そうだね。とりあえず、一つ仮説は作ってみたけれど、まだ確信は持ててない感じかな。あともうひと押しあれば自信を持てるんだけれど…。」
「それは?」
潤也がその仮説を引き出そうと問いかける。
「うーん、まだ駄目、言えない、自信が持てない仮説だし、もし間違ってたら余計な先入観を抱かせるだけになっちゃうし、それが命取りになっちゃう事もあるから言えないよ。」
「―――言え。」
言葉に冷徹な重みを乗せて潤也は藍に迫る。
少し考えるような間をおいた後、藍は答えた。
この女は黒峰潤也には逆らえないのだ。
「あくまで、仮説として聞いてね。お願いだから…。」
「わかっている、さっさと言え。」
「たぶん、あれは他の機械のシステムを自身の中に取り込んで解析しそれを自分の中で再現できる鋼獣なんだと思う。あれが、機関の人たちを襲った時の事を思い出して、潤也…。奴らは普通の鋼獣がしない事をしていた筈でしょ…。」
少し考えた後、潤也は納得が言ったように答える。
「奴らは破壊した後も機体を喰らっていた…?」
「うん、それ、確かに獣ならば、殺した獲物を食べる事はあると思うけれど、仮にも機械の鋼獣がそんな事するなんて非合理的だと思うよね?
そもそもあれには人間が搭乗しているのだし…あの捕食行動には意味があったと考えるのが妥当なんじゃないかなと思うんだ。」
「つまり、あれはあの鋼機のシステムを自身の中に取り込む為の行動だったというわけか…。」
「だね、きっとあの空圧砲も持ってた機体の空圧砲を喰ったのか、
あの目の前で喰われた鋼機達の中にもデータがあったのかどっちかはわからないけれど、
自身に取り込んで自身の中でそのシステムを再現し兵装として自らにフォーマットさせたんだと思う。
この仮説がもし正しかったとしたら、とんでもテクノロジーにここに極まりだね。
だから自信が持てなかったんだけれど…まあ、この子に乗ってる私たちもそんな事は言えないか…。」
潤也は納得したように頷く。
「しかし、そうだとすると、一つ大きな問題点があるな。」
「問題点?」
「ああ、そうだ、奴の尻尾だよ、よく見ろ、何か思い出すことないか?」
「あの不釣り合いな、6本の尻尾のどこ・・・あっ!」
異形と化した狗の尾は6つあった。
単純な思考で考えるならば、6体が合一化したが故に6本の尻尾であるなどという考えに辿りつくだろう。
だが、もしそうでは無いとしたら?
あの6本の尻尾に意味があるとしたら…。
「―――焔凰の尾!?」
藍も潤也と同じ思考に辿りつく。
「でも、何時?少なくても焔凰はあいつらと戦ってブリューナクまで行使して塵芥残らず消滅した筈でしょ?一体、どこに取り込むべき破片があったというの?」
「あったよ。よく思い出せ。奴らの中でα5と呼ばれていた男が戦った時、焔凰は背負った輪を二つに割り半月輪として投擲した。そして、その半月輪は回収されていないんだ。」
藍ははっと息を呑む。
「奴らがもしそれを喰らい自身の中に取り込んでいたとするのならば、焔凰のシステムを模倣している可能性もあるかもしれない。それにこうだとすると色々納得がいく。」
「確かにそうだね、あの空圧砲だけでこの子に挑むのは余りに無謀だ、彼らがこの子の事をまったく知らないのならばともかく、目の敵のようにして追ってきている身の癖に、あんな玩具だけで戦おうなんてふざけてる。
でも、あれが牽制を主目的とした兵装であり、もう一つ、こちらを仕留める為の切り札を隠していたとするならば、確かにあの武装は有益な武装だとも言えるかもしれない。」
焔凰の熱線放射。
それもまた実体を持たない攻撃であり、リベジオンの防御を貫く兵装だ。
狗の尾は6本しかなく、焔凰の9本と比べると劣っているのは確かだが。
そもそも焔凰は何処にいるかわからないリベジオンを破壊する為にこの一帯を燃やしつくす程のエネルギーを貯める為、9本のチャージを必要としていたのでは無かったか?
今、この機体はあの狗の眼前に現れてしまっている。
ならば、9本も使う広域熱線放射など必要では無いのだ。
牽制の空圧砲でこちらの動きを止め、本命の熱線でこちらを仕留める。
それが、あの狗の勝ち筋。
暗くなってきた外景に漆黒の機体が溶け込み、意識して見なければわからなかったが、狗の尾の内5本に既に暗い光が宿っているように見える。
つまりはあと少しでチャージは完了し、もはやそれは当てるだけでいいという状況だ。
そしてそれはこの仮説が限りなく真実に近いのだという根拠になりうる物証であり、戦況に対する考え方を大きく変えざるおえない事柄である。
先ほど鋼機部隊が戦った時よりも状況は悪い。
狗は自らの射線にリベジオンを追いこみ、熱線を放射するつもりだろう。流石のリベジオンもあれを受けるのは危険だ。
故にすぐさま接近し、あれを破壊しなければならない。
だが、空圧砲の弾幕により、近づくのは容易では無く、射線から大きく外れるのも難しい。
それに潤也自身のコンディションも最悪だ。
時間が無い。
ならばどうすれば良い?
潤也は自問自答の末一つの結論にたどりつく。非常に危険な手段だ。
それは自分自身との戦いでもあり、そこまで自分を保てれば勝利は絶対的なものになるといえるだろう。
だが、それは万分の1の確率を願うようなモノだ。
しかし、選択の余地は無い。
もはやそれは策と呼べるほどのものですら無いが、時間が無い故にそれ以外の方法を模索する暇はない。
そんな雑念を持っていたのならば、それは反応を鈍らせ、決意を鈍らせ、相手に一瞬の隙を与えてしまう。
だから考えるのは今、思いついたそれをいかにして成功させるか、それのみ――
故にその一手をまず始めよう。
「藍、設計図を読み込め。ブリューナクの再構築をする。」
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