意志の話をしよう。
この世のありとあらゆる生物は意志の力を持っている。
それは強くあろうとする意志であり、生きようとする意思であり、夢を追う意志である。
ありとあらゆる生物の原動力はこの意志の力であるといっても過言ではない。そしてその意思の力こそが生物に進化する力を与え続けてきた。
猿が人になったのもその一例であるといえる。つまり意志の力こそが生物の力と呼ばれるものの根源であるといえる。
ありとあらゆる大業も意志の力を伴わなければ果たすことはできない。故に意志の力は強大なものであるといえた。
そして意志の力こそが唯一進化と呼ばれるモノへの指向性を持つ力なのだ。
一つの意思が少しづつ、その生態系を変化させていったようにその意思が一つの所に何千、何万と集まる事になるのならば、それは強大な力となる。
だが、この意志の力は形が無い力でもある、雲のように掴めないもので、あると理解は出来るのに、その理解は概念としか得ることが出来ず、触れる事など出来ない。
故に意志の力は人が持つものでありながら人が触れられぬ領域に存在する力だとも言えた。
ならば、その力は存在していようとも無いのと同義だといっても過言ではないだろう。
だが、もし、それを認識し、集め、現実に知覚でき干渉するエネルギーへと変換する事が出来るモノが存在しているとすれば、まったく新しいエネルギーを人は得る事に成功する事になる。
そして、怨嗟の魔王のDeep-seated grudge conversion system(怨念変換機関)はそれを可能にするシステムであった。
人が最も強い意志を発する時、それは自らの命が死と隣り合わせにある状況に他ならない。
自らの生命が死の危機に瀕した時、それを打破する為に人は強い意志の力を発揮する。
進化とは元来、その力の発揮の積み重ねで行われてきたものだとも言える。そして、それが最も濃く現世に残るのが怨念である。
魔王はそれを集め、この世ならざる力をこの世の力へと変換する。
故に怨嗟の魔王なのである。
人の最も強く、最も醜い部分が集成して存在する機体。
人の負の意志の権化とも言える。
そんな機体の中に青年、黒峰潤也はいた。
彼はその幾千幾万もの怨念を纏め上げる怨嗟の魔王の支配者である。
その強大な力を一人の意思で行使する権利を持ち、それを用いて己の目的の為に戦ってきた。
曰く、復讐。
彼が仇とするのは自らの家族を奪った存在である。
それを倒す為に黒峰潤也は今日まで戦ってきた。
そうして今、彼の目の前には敵がいる。
アンダーヘブンからの侵略者。
鋼獣(メタルビースト)。
彼は自らの目的の為、その怨念を率いて戦う。
これは黒峰潤也の後悔の物語である。
この世のありとあらゆる生物は意志の力を持っている。
それは強くあろうとする意志であり、生きようとする意思であり、夢を追う意志である。
ありとあらゆる生物の原動力はこの意志の力であるといっても過言ではない。そしてその意思の力こそが生物に進化する力を与え続けてきた。
猿が人になったのもその一例であるといえる。つまり意志の力こそが生物の力と呼ばれるものの根源であるといえる。
ありとあらゆる大業も意志の力を伴わなければ果たすことはできない。故に意志の力は強大なものであるといえた。
そして意志の力こそが唯一進化と呼ばれるモノへの指向性を持つ力なのだ。
一つの意思が少しづつ、その生態系を変化させていったようにその意思が一つの所に何千、何万と集まる事になるのならば、それは強大な力となる。
だが、この意志の力は形が無い力でもある、雲のように掴めないもので、あると理解は出来るのに、その理解は概念としか得ることが出来ず、触れる事など出来ない。
故に意志の力は人が持つものでありながら人が触れられぬ領域に存在する力だとも言えた。
ならば、その力は存在していようとも無いのと同義だといっても過言ではないだろう。
だが、もし、それを認識し、集め、現実に知覚でき干渉するエネルギーへと変換する事が出来るモノが存在しているとすれば、まったく新しいエネルギーを人は得る事に成功する事になる。
そして、怨嗟の魔王のDeep-seated grudge conversion system(怨念変換機関)はそれを可能にするシステムであった。
人が最も強い意志を発する時、それは自らの命が死と隣り合わせにある状況に他ならない。
自らの生命が死の危機に瀕した時、それを打破する為に人は強い意志の力を発揮する。
進化とは元来、その力の発揮の積み重ねで行われてきたものだとも言える。そして、それが最も濃く現世に残るのが怨念である。
魔王はそれを集め、この世ならざる力をこの世の力へと変換する。
故に怨嗟の魔王なのである。
人の最も強く、最も醜い部分が集成して存在する機体。
人の負の意志の権化とも言える。
そんな機体の中に青年、黒峰潤也はいた。
彼はその幾千幾万もの怨念を纏め上げる怨嗟の魔王の支配者である。
その強大な力を一人の意思で行使する権利を持ち、それを用いて己の目的の為に戦ってきた。
曰く、復讐。
彼が仇とするのは自らの家族を奪った存在である。
それを倒す為に黒峰潤也は今日まで戦ってきた。
そうして今、彼の目の前には敵がいる。
アンダーヘブンからの侵略者。
鋼獣(メタルビースト)。
彼は自らの目的の為、その怨念を率いて戦う。
これは黒峰潤也の後悔の物語である。
CR ―Code Revegeon― capter1 「Beelzebub of grudge」 THE MAIN STORY 後編
「潤也、聞こえてる?ねえ、潤也!」
鋼鉄に包まれた小さな一室の中、女性の声が木霊する。
「聞こえている。五月蝿いから喚くな。状況の報告だけをしろ。」
その声に心底、嫌々そうに白髪の青年、黒峰潤也は応えた。
「OSの再構築は60%までは完了。起動をさせるには単純にエネルギーが足りないみたい。」
「DSGCシステムはどうだ?」
「システムを起動するぐらいまでは出来るよ、この辺りは第三次世界大戦での戦場だったみたいだし、強い怨念も多いから半径10km程度の領域の思念を収束変換すれば、この子を戦闘機動させる事は出来るとは思う、ただ…。」
「なんだ?時間が無いんだ。あんまり勿体ぶった言い回しはするな。」
そう冷酷に言い放つ潤也に対し、女は少し怯えるような声で続けた。
「ご、ごめんね、潤也、ただ、潤也に言われた通り、負荷軽減システムの再構築を後回しにしたから、潤也にかかる負担は通常の50倍程度になると思う。
やっぱり、今のこの子じゃ無理だよ、潤也、ここは見捨てて離れようよ。それぐらいならば少量の怨念でも出来るから…。」
潤也の身を案じるように女は告げる。
だが、潤也はそれに呆れたような素振りを見せ、
「そんな事は命じた俺が一番わかっている。藍、お前の役目はこいつ動かせるようにし、戦えるようにし、勝てるようにする事だ、俺の心など案じる必要は無い。
お前はこいつの部品だ。部品がそんな事を心配するのは間違っているだろう?部品なら部品らしく、機体の為の歯車であれば良い。」
覚悟を決めるように、藍と呼ばれた女は言葉を返す。
「うん、わかってる。大丈夫、潤也の望むようにやってみせるから…。」
それを聞いた潤也は少しの呼吸の間をおいた後号令した。
「なら、行くぞ、DSGCシステム起動。」
「了解――収束領域を周囲10kmに設定、Deep-seated grudge conversion system起動。」
藍は機械的な口調でそれを読み上げる。
そしてそれはその鋼鉄の部屋の外で起こった。
鋼鉄の部屋を内蔵する漆黒の鋼機は体の各部を展開し始める。
それに連れられるように大地から、紅の光が浮かび上がる。
それは漆黒の鋼機、怨嗟の魔王が周囲10kmに存在している怨念を浮き上がらせたものだ。
そしてその怨念を吸い上げ自らの中で力へと変換し、機械仕掛けの魔王はそれを力とする。
「本当にいいんだよね?潤也。」
藍は不安げに潤也に再び問いかける。
それが潤也の怒りを買う事を知っていてなお、問いかけずにいられなかった。
今から行う事は潤也の精神を壊す可能性すらある。
普段の施行ですら、潤也にあれほどの負担をかけているのだ。
一歩間違えれば、黒峰潤也という一個体の精神を破壊してしまう可能性もある。
むしろ、その可能性は高い。
もし帰ってきたとしても、まともな精神状態でいる事は出来ないのではないのだろうか。
藍はそれだけはどうしても避けたかった。
だが、潤也は呆れたように、それでいて当たり前のように冷たく言い放つ。
「先も言ったはずだ、部品が人間の心配をするな。まがい物ならまがい物らしく、振る舞え。」
藍はそれに反す言葉を続けようとするが、それが無駄だと知って喉から出かけた言葉を飲み込む。
「――変換開始。」
魔王の中へと紅の光は収束される。
「――っ。」
そうして潤也の意識は暗闇に吸い込まれた。
鋼鉄に包まれた小さな一室の中、女性の声が木霊する。
「聞こえている。五月蝿いから喚くな。状況の報告だけをしろ。」
その声に心底、嫌々そうに白髪の青年、黒峰潤也は応えた。
「OSの再構築は60%までは完了。起動をさせるには単純にエネルギーが足りないみたい。」
「DSGCシステムはどうだ?」
「システムを起動するぐらいまでは出来るよ、この辺りは第三次世界大戦での戦場だったみたいだし、強い怨念も多いから半径10km程度の領域の思念を収束変換すれば、この子を戦闘機動させる事は出来るとは思う、ただ…。」
「なんだ?時間が無いんだ。あんまり勿体ぶった言い回しはするな。」
そう冷酷に言い放つ潤也に対し、女は少し怯えるような声で続けた。
「ご、ごめんね、潤也、ただ、潤也に言われた通り、負荷軽減システムの再構築を後回しにしたから、潤也にかかる負担は通常の50倍程度になると思う。
やっぱり、今のこの子じゃ無理だよ、潤也、ここは見捨てて離れようよ。それぐらいならば少量の怨念でも出来るから…。」
潤也の身を案じるように女は告げる。
だが、潤也はそれに呆れたような素振りを見せ、
「そんな事は命じた俺が一番わかっている。藍、お前の役目はこいつ動かせるようにし、戦えるようにし、勝てるようにする事だ、俺の心など案じる必要は無い。
お前はこいつの部品だ。部品がそんな事を心配するのは間違っているだろう?部品なら部品らしく、機体の為の歯車であれば良い。」
覚悟を決めるように、藍と呼ばれた女は言葉を返す。
「うん、わかってる。大丈夫、潤也の望むようにやってみせるから…。」
それを聞いた潤也は少しの呼吸の間をおいた後号令した。
「なら、行くぞ、DSGCシステム起動。」
「了解――収束領域を周囲10kmに設定、Deep-seated grudge conversion system起動。」
藍は機械的な口調でそれを読み上げる。
そしてそれはその鋼鉄の部屋の外で起こった。
鋼鉄の部屋を内蔵する漆黒の鋼機は体の各部を展開し始める。
それに連れられるように大地から、紅の光が浮かび上がる。
それは漆黒の鋼機、怨嗟の魔王が周囲10kmに存在している怨念を浮き上がらせたものだ。
そしてその怨念を吸い上げ自らの中で力へと変換し、機械仕掛けの魔王はそれを力とする。
「本当にいいんだよね?潤也。」
藍は不安げに潤也に再び問いかける。
それが潤也の怒りを買う事を知っていてなお、問いかけずにいられなかった。
今から行う事は潤也の精神を壊す可能性すらある。
普段の施行ですら、潤也にあれほどの負担をかけているのだ。
一歩間違えれば、黒峰潤也という一個体の精神を破壊してしまう可能性もある。
むしろ、その可能性は高い。
もし帰ってきたとしても、まともな精神状態でいる事は出来ないのではないのだろうか。
藍はそれだけはどうしても避けたかった。
だが、潤也は呆れたように、それでいて当たり前のように冷たく言い放つ。
「先も言ったはずだ、部品が人間の心配をするな。まがい物ならまがい物らしく、振る舞え。」
藍はそれに反す言葉を続けようとするが、それが無駄だと知って喉から出かけた言葉を飲み込む。
「――変換開始。」
魔王の中へと紅の光は収束される。
「――っ。」
そうして潤也の意識は暗闇に吸い込まれた。
怨念とは人が無念の最期を遂げた死者は生者に自らの思いを伝えようとし発生するものである。
徴兵され戦争で無念の死を遂げた者。
家族を強盗に目の前で殺され、失意の中殺された者。
愛する者も守ることができず自らの不甲斐なさを嘆き死んだ者。
その恨み、妬み、怒りを生者に伝えようとする。
それが俗に言う心霊現象の正体であった。
だが、思念体と現世の世界は隔離された世界でもあり、普通ならばそれはわずかに漏れ出た程度の影響しか与える事が出来ない。
しかし、怨嗟の魔王のDSGCシステムは怨念をエネルギーに変換する際に、その境界を消滅させてしまうのである。
DSGCシステムは概念である怨念を無理矢理エネルギーへと変換するシステムである。
その際に変換中の怨念がシステムから漏れだし、搭乗者を襲うという現象が起こる。
怨念とは強い意志体であり、己の最も憎むべきモノを永遠と繰り返し見続けるモノでもある。
境界を亡くした状態でそれと生者が接触すると、自らの未練を伝える為に、自らの死を五感を通じ感情の流れまで再現して、伝えようとするのだ。
見知らぬ死者の未練の死の追体験。
つまり搭乗者はシステムによって強大な力を得られるが、その代償としてその力の源である死者の死ぬ時の記憶を何度も体験する事になる。
人の死を感情の流れまで含めて再現する体験、つまり、搭乗者は生きながら何度も己の死を体験する。
死の時の痛み、生きていた時に最後に抱く感情が襲い掛かり、死に、蘇生し、また死ぬ。
つまるところこの機体の搭乗者はDSGCシステムを起動する度に何度も生きながら死んでいる。
これがDSGCシステムの持つ大きな問題点であった。
普段ならば、システムでかかる負担を軽減をしているのだが、先の戦いにおいて、怨嗟の魔王はOSを含むシステムの全削除と再構築という選択を余議なくされた。
これだけの短時間でシステムを再構築する事が出来たのは一重に機体に溶け込んで合一化した藍の力であり、それはそれで驚異的な事であったのだが、流石に全てを元通りにするには時間が足りなかった。
故に構築の優先順位を決める必要が出る事になる。
その際に、潤也は自らを保護するシステムを全て後回しにし、リベジオンを機動させるのに必要なものから構築させたのである。
だが、それがDSGCシステムの持つ危険性を大きく増大させてしまった。
そもそもこの現象を軽減するシステムを作動してなお、怨念は漏れ出し、搭乗者の精神を浸食するのだ。
故に、この状況でDSGCシステムを起動するという事は自殺行為であるとも言えた。
普通ならば精神が壊れてしまう可能性すらあるそれを今、黒峰潤也は行っている。
DSGCシステムでの力の変換が終わるまでの時間、彼は精神はその思念に晒される。
怨嗟の魔王に向けて光が収束する。
「DSGCシステムによるエネルギーの供給を開始、出力10%に到達、再起動。機関連結。CR-02起動。」
そうしてリベジオンの二つの瞳に再び紅の光が灯る。
そして即座に藍はDSGCシステムを停止させる。
「潤也、大丈夫?潤也!!」
悲痛な叫びをこめて藍は潤也に呼びかけた。
徴兵され戦争で無念の死を遂げた者。
家族を強盗に目の前で殺され、失意の中殺された者。
愛する者も守ることができず自らの不甲斐なさを嘆き死んだ者。
その恨み、妬み、怒りを生者に伝えようとする。
それが俗に言う心霊現象の正体であった。
だが、思念体と現世の世界は隔離された世界でもあり、普通ならばそれはわずかに漏れ出た程度の影響しか与える事が出来ない。
しかし、怨嗟の魔王のDSGCシステムは怨念をエネルギーに変換する際に、その境界を消滅させてしまうのである。
DSGCシステムは概念である怨念を無理矢理エネルギーへと変換するシステムである。
その際に変換中の怨念がシステムから漏れだし、搭乗者を襲うという現象が起こる。
怨念とは強い意志体であり、己の最も憎むべきモノを永遠と繰り返し見続けるモノでもある。
境界を亡くした状態でそれと生者が接触すると、自らの未練を伝える為に、自らの死を五感を通じ感情の流れまで再現して、伝えようとするのだ。
見知らぬ死者の未練の死の追体験。
つまり搭乗者はシステムによって強大な力を得られるが、その代償としてその力の源である死者の死ぬ時の記憶を何度も体験する事になる。
人の死を感情の流れまで含めて再現する体験、つまり、搭乗者は生きながら何度も己の死を体験する。
死の時の痛み、生きていた時に最後に抱く感情が襲い掛かり、死に、蘇生し、また死ぬ。
つまるところこの機体の搭乗者はDSGCシステムを起動する度に何度も生きながら死んでいる。
これがDSGCシステムの持つ大きな問題点であった。
普段ならば、システムでかかる負担を軽減をしているのだが、先の戦いにおいて、怨嗟の魔王はOSを含むシステムの全削除と再構築という選択を余議なくされた。
これだけの短時間でシステムを再構築する事が出来たのは一重に機体に溶け込んで合一化した藍の力であり、それはそれで驚異的な事であったのだが、流石に全てを元通りにするには時間が足りなかった。
故に構築の優先順位を決める必要が出る事になる。
その際に、潤也は自らを保護するシステムを全て後回しにし、リベジオンを機動させるのに必要なものから構築させたのである。
だが、それがDSGCシステムの持つ危険性を大きく増大させてしまった。
そもそもこの現象を軽減するシステムを作動してなお、怨念は漏れ出し、搭乗者の精神を浸食するのだ。
故に、この状況でDSGCシステムを起動するという事は自殺行為であるとも言えた。
普通ならば精神が壊れてしまう可能性すらあるそれを今、黒峰潤也は行っている。
DSGCシステムでの力の変換が終わるまでの時間、彼は精神はその思念に晒される。
怨嗟の魔王に向けて光が収束する。
「DSGCシステムによるエネルギーの供給を開始、出力10%に到達、再起動。機関連結。CR-02起動。」
そうしてリベジオンの二つの瞳に再び紅の光が灯る。
そして即座に藍はDSGCシステムを停止させる。
「潤也、大丈夫?潤也!!」
悲痛な叫びをこめて藍は潤也に呼びかけた。
この世のどこにでもあり、無限に存在する小宇宙の一つ。
そこは暗黒で満たされていた。
だがそれは静寂を持って作られた闇では無く。
怨嗟にまみれ、塗りつぶされた暗黒。
宇宙のような澄み切った清潔な闇では無く、悲痛な叫びが、嘆きが、怒りが跳梁跋扈し、充満する泥のような暗黒である。
その暗黒の中に黒峰潤也はいた。
既に黒峰潤也という一個体は怨嗟の魔王が集めた千もの怨念の中に混ざりつつあり、その個体の意思を失いかけていた。
この事態を黒峰潤也は想定していなかったわけでは無い。
だが、この魔王に乗ると決めた時、そしてその本質を理解した時、いつかそれと向き合わなければならない日が来ると黒峰潤也は理解していた。
この機体は搭乗者の心を壊す。
元来、力とは、それを扱うモノの心によって初めて意味を持つが、この機体の場合はその力自体が意思を持っており、搭乗者が力の支配者であろうとする事をさせなくしてしまう。
怨嗟の魔王。
禍々しい異名を持つ漆黒の鋼機。
これは搭乗者の精神を怨嗟で塗り替え、世界を滅ぼす魔王を作り上げてしまう機体だという事である。
力の傀儡となった者はその怨念たちの怒りのままに力を振う存在になり、鋼獣以上の災厄に身を落とす可能性すらあった。
黒峰潤也はそれをその類稀なる意志、決意、執念によって、そのような存在に堕ちるのだけは抑えて来ていた。
だが、幾度もの鋼獣との戦いに黒峰潤也の精神は限界に到達しつつあった。
そんな中で通常の50倍近くの怨念に精神が晒されたのである。
藍が持たないと思い、潤也を気遣ったのは至極当然の流れと言えた。
結果この始末。
黒峰潤也とよばれる精神は既に他の怨嗟に浸食されつくされていた。
怒れと怨念は言う。
殺せと怨念は言う。
誰一人としても生かすなと怨念は言う。
死者は生きる者を羨望の眼差しで見つめる。
何故、自分たちは死んでいるのに、彼らは生きているのだろうと…。
だから、生きる者、全てが許せず。
それら全てを奪おうとする。
自分たちはこんなにも不幸な最後を迎えたのに、何故、あいつらはあんなにも幸福そうに生きているのだろうかと…。
そんなモノに包まれながら、潤也の視界は闇に染まっていった。
そこは暗黒で満たされていた。
だがそれは静寂を持って作られた闇では無く。
怨嗟にまみれ、塗りつぶされた暗黒。
宇宙のような澄み切った清潔な闇では無く、悲痛な叫びが、嘆きが、怒りが跳梁跋扈し、充満する泥のような暗黒である。
その暗黒の中に黒峰潤也はいた。
既に黒峰潤也という一個体は怨嗟の魔王が集めた千もの怨念の中に混ざりつつあり、その個体の意思を失いかけていた。
この事態を黒峰潤也は想定していなかったわけでは無い。
だが、この魔王に乗ると決めた時、そしてその本質を理解した時、いつかそれと向き合わなければならない日が来ると黒峰潤也は理解していた。
この機体は搭乗者の心を壊す。
元来、力とは、それを扱うモノの心によって初めて意味を持つが、この機体の場合はその力自体が意思を持っており、搭乗者が力の支配者であろうとする事をさせなくしてしまう。
怨嗟の魔王。
禍々しい異名を持つ漆黒の鋼機。
これは搭乗者の精神を怨嗟で塗り替え、世界を滅ぼす魔王を作り上げてしまう機体だという事である。
力の傀儡となった者はその怨念たちの怒りのままに力を振う存在になり、鋼獣以上の災厄に身を落とす可能性すらあった。
黒峰潤也はそれをその類稀なる意志、決意、執念によって、そのような存在に堕ちるのだけは抑えて来ていた。
だが、幾度もの鋼獣との戦いに黒峰潤也の精神は限界に到達しつつあった。
そんな中で通常の50倍近くの怨念に精神が晒されたのである。
藍が持たないと思い、潤也を気遣ったのは至極当然の流れと言えた。
結果この始末。
黒峰潤也とよばれる精神は既に他の怨嗟に浸食されつくされていた。
怒れと怨念は言う。
殺せと怨念は言う。
誰一人としても生かすなと怨念は言う。
死者は生きる者を羨望の眼差しで見つめる。
何故、自分たちは死んでいるのに、彼らは生きているのだろうと…。
だから、生きる者、全てが許せず。
それら全てを奪おうとする。
自分たちはこんなにも不幸な最後を迎えたのに、何故、あいつらはあんなにも幸福そうに生きているのだろうかと…。
そんなモノに包まれながら、潤也の視界は闇に染まっていった。
――――――――――
―――――――――い
―は――――――――
―――――――――い
―は――――――――
それは微かな闇だった。
泥のような闇の中に紛れ込んだ泥の闇とは違う闇。
泥のような闇の中に紛れ込んだ泥の闇とは違う闇。
―――――を――――
――あ―――――――
――――――――た―
――あ―――――――
――――――――た―
幾千もの怨嗟の中で、微かな闇が必死に何か訴えている。
それが消えつつある潤也という存在を繋ぎとめている。
それが消えつつある潤也という存在を繋ぎとめている。
―――の――――――
―――――――け――
―――――――け――
それは決して潤也の意思では無い。
リベジオンがDSGCで取り込んだ怨念の一つ。
無念の死を遂げた、一つの意思。
リベジオンがDSGCで取り込んだ怨念の一つ。
無念の死を遂げた、一つの意思。
俺――――――――――
――――――助――――
――――人――――――
――――――助――――
――――人――――――
それは他の怨嗟にかき消されてしまいそうな小さな声だった。
だが、その意思は強いもので、純粋な願いでもあった。
その怨念は何度も一つの願いを伝え叶える事を望むのだ
それを発する怨念の死の瞬間が潤也の意識に流れこむ。
それはとある女性を愛した男だった。
その女の為に自分の弱さを偽り、その偽った自分を真実にしようとした男の最後だった。
腹部への牙の貫通。
それがその男の最後。
消えゆく男の意識の中で愛した女の泣き叫ぶ声が木霊していた。
男は何故自分はこんなにも弱いのだろうと思った、何故自分は彼女を救う程の力も無かったのだろうと思った。
だから、男は無念を残し怨念となった。その怨念が思う事はただ一つ。
『俺はあの人を助けたい。』
泣いて欲しくなどなかった。
尋常ならぬ理想を抱えて、生きていてほしかった。
例え彼女の心が自分に向いたりしなくてもいい。
ただ、彼女が彼女であれるように助けてやりたかった。
それが男の怨念だった。
その呪詛が潤也を泥のような暗黒から引きずりだそうとする。
だが泥のような暗黒は重い、ねばりつくように一度捕えた潤也の意識を離さない。
所詮、幾千もの怨念に一つの怨念では太刀打ちできないのだ。
だが、またそこに新たな怨念が現れる。
『なんかよ、あの人を泣かせるのは嫌なんだよなぁ…。』
怨念はそう告げて、潤也の体を引く。
それは強い意志だった。
そうして潤也を泥のような怨念から引き上げようと他の怨念たちが少しづつ集まっていく…そうしてそれは泥と同じ程の怨念となった。
潤也は自らの半身を泥から引き上げられ潤也に視界が戻る。
瞼についた泥を払いながら潤也は薄らと目を開いた。
取り戻した視界に映ったそれは怨念が自らを引き上げようする光景であり、怨念が自らを落とそうともする光景だった。
死に瀕した時に発する無念は恨みのみでは無い、自らの無念、自らが何かを成そうとして志半ばで倒れた時にも現れる。
恨みの怨念と無念の怨念。
その片方は自らの怒りの捌け口として潤也を求め、もう片方は自らの希望を載せて潤也を求める。
潤也はその二つが自分を引き合っているのを見て一つの思いを抱いた。
それは確固たる思いだ。
決して変わらぬ思いだ。
黒峰潤也であるが故の思いだ。
故に黒峰潤也はどのような状況に陥ろうとその思いを叫ぶだろう。
だが、その意思は強いもので、純粋な願いでもあった。
その怨念は何度も一つの願いを伝え叶える事を望むのだ
それを発する怨念の死の瞬間が潤也の意識に流れこむ。
それはとある女性を愛した男だった。
その女の為に自分の弱さを偽り、その偽った自分を真実にしようとした男の最後だった。
腹部への牙の貫通。
それがその男の最後。
消えゆく男の意識の中で愛した女の泣き叫ぶ声が木霊していた。
男は何故自分はこんなにも弱いのだろうと思った、何故自分は彼女を救う程の力も無かったのだろうと思った。
だから、男は無念を残し怨念となった。その怨念が思う事はただ一つ。
『俺はあの人を助けたい。』
泣いて欲しくなどなかった。
尋常ならぬ理想を抱えて、生きていてほしかった。
例え彼女の心が自分に向いたりしなくてもいい。
ただ、彼女が彼女であれるように助けてやりたかった。
それが男の怨念だった。
その呪詛が潤也を泥のような暗黒から引きずりだそうとする。
だが泥のような暗黒は重い、ねばりつくように一度捕えた潤也の意識を離さない。
所詮、幾千もの怨念に一つの怨念では太刀打ちできないのだ。
だが、またそこに新たな怨念が現れる。
『なんかよ、あの人を泣かせるのは嫌なんだよなぁ…。』
怨念はそう告げて、潤也の体を引く。
それは強い意志だった。
そうして潤也を泥のような怨念から引き上げようと他の怨念たちが少しづつ集まっていく…そうしてそれは泥と同じ程の怨念となった。
潤也は自らの半身を泥から引き上げられ潤也に視界が戻る。
瞼についた泥を払いながら潤也は薄らと目を開いた。
取り戻した視界に映ったそれは怨念が自らを引き上げようする光景であり、怨念が自らを落とそうともする光景だった。
死に瀕した時に発する無念は恨みのみでは無い、自らの無念、自らが何かを成そうとして志半ばで倒れた時にも現れる。
恨みの怨念と無念の怨念。
その片方は自らの怒りの捌け口として潤也を求め、もう片方は自らの希望を載せて潤也を求める。
潤也はその二つが自分を引き合っているのを見て一つの思いを抱いた。
それは確固たる思いだ。
決して変わらぬ思いだ。
黒峰潤也であるが故の思いだ。
故に黒峰潤也はどのような状況に陥ろうとその思いを叫ぶだろう。
「――巫山戯るな。」
お前たちの希望だと?お前たちの絶望だと?
そんなモノは知ったものか…俺は俺だ。
黒峰潤也だ!
これは俺だけの戦いであり、俺だけの苦難であり、俺だけの復讐だ。
俺は何かの希望になるために戦うような高尚な人間でもなければ、怒りに任せその捌け口として無差別に人を殺す程落ちぶれた人間でも無い。
俺が今、行おうとしているこれは誰かの為に、死んでいった者の為になどと大義を乗っけて行うようなものでは無い。
ただ、俺がそうしないと気が済まないからそうしようとしているだけだ。
そんなくだらない闘争なのだ。
そんなくだらない闘争でなくてはならないのだ。
そんなくだらない闘争を高尚な大義名分を背負い、意義のある闘争にする事など決して許されてはならないのだ。
だから、お前らの意志はいらない。
お前らの与えようとする希望も絶望も俺には必要ない。
この戦いに、俺の欲望以外は必要無い。
これは俺一人の戦いでなければならないのだ。
だから――
そんなモノは知ったものか…俺は俺だ。
黒峰潤也だ!
これは俺だけの戦いであり、俺だけの苦難であり、俺だけの復讐だ。
俺は何かの希望になるために戦うような高尚な人間でもなければ、怒りに任せその捌け口として無差別に人を殺す程落ちぶれた人間でも無い。
俺が今、行おうとしているこれは誰かの為に、死んでいった者の為になどと大義を乗っけて行うようなものでは無い。
ただ、俺がそうしないと気が済まないからそうしようとしているだけだ。
そんなくだらない闘争なのだ。
そんなくだらない闘争でなくてはならないのだ。
そんなくだらない闘争を高尚な大義名分を背負い、意義のある闘争にする事など決して許されてはならないのだ。
だから、お前らの意志はいらない。
お前らの与えようとする希望も絶望も俺には必要ない。
この戦いに、俺の欲望以外は必要無い。
これは俺一人の戦いでなければならないのだ。
だから――
「―――お前らの思念は邪魔だ!」
潤也は泥の宇宙から自らを引き上げようとしていた怨念を振りほどく、潤也の体は再び絶望が、怨嗟が渦巻く泥の怨念に沈んでいく。
だが、潤也は自らの力でそこから抜け出そうと足掻く。
泥はべたり付くように潤也の体を覆うとする。
そして、それから救い出そうと別の怨念は再び手を伸ばす。
だが、潤也はその手を再び振り払った。
希望の手は取らない、だからといって絶望に身を任せるつもりなど毛頭無い。
この暗闇、この怨念を自らの力で征服する。
ここは潤也の小宇宙である。潤也ただ一人だけが存在を許される精神世界である。故に自らの中に入り込んできた異物は排除しなければならない。
例え、それが自らのキャパシティを大きく超えた絶対的な物量だとしても、勝ち目のない戦いだったとしても…。
惨めだろうとなんだろうと足掻き続ける。
それこそが黒峰潤也だからだ。
その強固な意志は一つの奇跡を呼び込んだ。否、奇跡などでは無い。
奇跡とは偶然が重なり起こるモノ。
人の意など介さずに起こるモノ。
ならば、これは何だ?
それは人の強い意志が起こしえたモノだ。
人の強き思いが呼び起こしたモノだ。
即ち、必然。
黒峰潤也という男の宇宙に霧散していた多くの欠片が一つの場所に集まり始める。
それは怨念たちを寄りつかせぬ強い力を持って一個の個体として確立する。
そして黒峰潤也はその暗黒から抜け出す為に立ち上がった。
だが、潤也は自らの力でそこから抜け出そうと足掻く。
泥はべたり付くように潤也の体を覆うとする。
そして、それから救い出そうと別の怨念は再び手を伸ばす。
だが、潤也はその手を再び振り払った。
希望の手は取らない、だからといって絶望に身を任せるつもりなど毛頭無い。
この暗闇、この怨念を自らの力で征服する。
ここは潤也の小宇宙である。潤也ただ一人だけが存在を許される精神世界である。故に自らの中に入り込んできた異物は排除しなければならない。
例え、それが自らのキャパシティを大きく超えた絶対的な物量だとしても、勝ち目のない戦いだったとしても…。
惨めだろうとなんだろうと足掻き続ける。
それこそが黒峰潤也だからだ。
その強固な意志は一つの奇跡を呼び込んだ。否、奇跡などでは無い。
奇跡とは偶然が重なり起こるモノ。
人の意など介さずに起こるモノ。
ならば、これは何だ?
それは人の強い意志が起こしえたモノだ。
人の強き思いが呼び起こしたモノだ。
即ち、必然。
黒峰潤也という男の宇宙に霧散していた多くの欠片が一つの場所に集まり始める。
それは怨念たちを寄りつかせぬ強い力を持って一個の個体として確立する。
そして黒峰潤也はその暗黒から抜け出す為に立ち上がった。
「潤也、ねえ、お願いだから起きて!!」
声が聞こえる。
馴染み深い声だ。懐かしい声だ。優しい声だ。
―潤也、ねえ、潤也、早く起きてよ―
「―――いや、違う、お前じゃない。」
黒峰潤也は薄らとした意識の中で頭をふり強引に意識を呼び覚ました。
頭痛が酷い。
あれほどの怨念に精神を曝したのだから当然の事だと言えた。
「潤也、ああ、潤也、良かった、本当に良かった。このまま、戻って来れないんじゃないかと…ねえ、潤也、大丈夫だよね?」
馴染み深い声を持ち、それでいてその馴染み深い声の持ち主と別モノである彼女はそう言って自らの身を案じた。
その一挙一動、その全てがあいつと同じだ。
「黙れ、無駄口は叩くな。」
それが潤也にとって許せないものであった。
「あ、うん、ごめん。」
藍は素直に謝る、自らが潤也に嫌われている事を藍は自覚していた。
「状況報告。」
潤也は要件だけを言い催促する。
「再起動に必要な怨念は回収完了し再起動は完了、DSGCシステムの復旧も完了したよ、完全機動の5%程度の戦力は発揮できると思う。」
「そうか、俺が意識を失ってから何分ぐらいたった。」
「2分ぐらいかな。」
潤也は苦笑する。
あれほどの長い間、地獄にいたのに外では2分しか時間がたっていないと言うのか…。
しかし、それでも少し眠り過ぎたなと潤也は思う。
潤也はスクリーンで周りを見渡す。
さきほど、自らを捕獲し護送していた鋼機が次々と鋼獣の群れに破壊されていっている光景がそこには広がる。
「間に合わなかったか…。」
少しの落胆が潤也の声に籠る。
「うん、さっき二機目がやられた所、残るのは隊長の人の機体のみだね。」
スクリーンが四肢が破壊された鋼機に向けてズームされる。
「まあ、いい、あれだけでも生かして返そうか…。」
「それは憐みとか同情とかそういう感情から?」
藍の声に少量の悲嘆の声色が混じる。
「まさか、わかっているだろう?」
潤也は笑う。
「うん、そうだね。」
そうして潤也は操縦席にある二つのオーブを両手で握りしめた。
オーブは潤也の体内に埋め込まれたナノマシンを通じて潤也の脳から発せられる命令を受け取り、機体にその命令を伝える。
そうして、潤也は怨嗟の魔王を立ち上がらせた。
鋼獣の内の一機が第七機関の鋼機部隊、隊長機へと襲い掛かろうとする。
それに対して、潤也はすぐさま魔王を走らせた。
「藍、右腕に怨嗟を収束しろ。」
の右腕部の甲が展開されそこからエネルギーへと変換された紅の光が発生する。
それを螺旋を作り、魔王の機械仕掛けの右腕を覆う。
「収束完了――ソウル・アミュレット始動。」
藍がそう静かに告げる。
そうして、四肢をもがれ倒れている隊長機に迫る鋼獣一機をその拳の甲で殴り飛ばした。吹き飛ばされた鋼獣はすぐさま立ち上がる。
通常ならば、あのレベルの鋼獣など顔ごと吹き飛ばす威力を持つ拳撃なのだが、顔の半分を吹き飛ばした程度で済ませてしまった。
「流石にこのパワーだとダメージが低いな。」
「そうだね、それにこの程度の武装でも乱発は出来無さそう。」
眼前に映る敵は6体の鋼獣。四足に漆黒の巨躯、口には鋭い二本の牙。
見たことも無い型だが、おそらくはレプリカのレプリカ、つまりは量産型の狗どもの一種だろう。
だが、現状の怨嗟の魔王でこれを相手にするのはあまり分のいい勝負では無い。
今、怨嗟の魔王の性能は通常の戦闘機動時よりも低く、その最強の武装である『ルーの槍』を失っている状態にあるのだから…。
ならば、どうするか。
潤也にはあまりにも簡単な話だった。
「DSGCシステムを起動しろ。スペックをこいつをまともに使用できる程度までは引き上げる。」
「え、でも、今の潤也には――」
「――藍。」
潤也の身を案じる藍の言葉を刺すように潤也は告げる。
「ごめん、わかったよ。」
藍はその行為にどんな感情を抱いていようと潤也の決定に逆らう事は出来ない。
藍にとって黒峰潤也は己の全てであり支配者でもある。彼女にはそれ以外の選択肢を与えれていないのだ。
魔王の漆黒の機体の各部が展開し、再び怨念を集め始める。
完全に復旧したDSGCシステムは先ほど程、潤也の精神に侵食を行わないが、まったく影響を与えないというわけでは無い。
単に、怨念が濁流のように潤也に流れこまなくなるだけであり、確実に潤也の精神を浸食するのだ。
今までの戦いで耐性が付いているとは言え、先ほど心身をすり減らすような怨念に晒された潤也にそれをさせるのは非常に危険とも言えた。
「――っ。」
潤也は声にならない嗚咽を漏らす。
再び潤也の精神はあの二つの闇の狭間に置かれる。
先ほどよりはそれは重いものでは無かったが、精神的が先の起動時の浸食があった事もあり、危険性は先と同じ、悪く見れば先よりも悪いといえた。
怨念たちは潤也を求め、自らの願いを託そうとする。
だが、結果は同じだ。
黒峰潤也は決してそれを受け入れない。
そうして潤也は現実に戻ってくる。
奇跡は二度起こりはしないが、必然は何度でも起こる故に必然なのだ。
故に黒峰潤也という存在が破砕されるまで何度でも起こる。
「いけるよ、潤也。」
吸収したエネルギーを見、藍がそう潤也に伝えた。
そうして、怨嗟の魔王は四肢をもがれた隊長機の前に立つ。
潤也はスピーカーをオープンにしてその隊長に向けて語りかけた。
「あんたらは、こいつの事をブラックファントム(黒い亡霊)と読んでいたな。確かにあれは中々に的を得たネーミングだった。」
確かに面白いネーミングだ。
怨念は見方によっては霊とも言える。
霊を使い闘う機体、当たりでは無いが、遠くもない。
中々に面白いネーミングだと潤也は思っていた。
だが、この機体、怨嗟の魔王の本当の名前はそれでは無い。
「だがな、こいつの本当の名前はそうじゃない、こいつの本当の名前はな――」
自身の機体にその牙を突きたてようと迫りくる狗を殴り飛ばす。
先ほどと桁違いの力を纏ったその拳は狗の頭を粉々に砕いた。
そうして魔王は隊長機の前に立ち、潤也は言い放った。
「――リベジオンだ。」
辺りは既に暗闇に包まれ、夕日が沈み夜へと変わろうとしていた。
リベジオンと狗の戦いの幕が開けた。
声が聞こえる。
馴染み深い声だ。懐かしい声だ。優しい声だ。
―潤也、ねえ、潤也、早く起きてよ―
「―――いや、違う、お前じゃない。」
黒峰潤也は薄らとした意識の中で頭をふり強引に意識を呼び覚ました。
頭痛が酷い。
あれほどの怨念に精神を曝したのだから当然の事だと言えた。
「潤也、ああ、潤也、良かった、本当に良かった。このまま、戻って来れないんじゃないかと…ねえ、潤也、大丈夫だよね?」
馴染み深い声を持ち、それでいてその馴染み深い声の持ち主と別モノである彼女はそう言って自らの身を案じた。
その一挙一動、その全てがあいつと同じだ。
「黙れ、無駄口は叩くな。」
それが潤也にとって許せないものであった。
「あ、うん、ごめん。」
藍は素直に謝る、自らが潤也に嫌われている事を藍は自覚していた。
「状況報告。」
潤也は要件だけを言い催促する。
「再起動に必要な怨念は回収完了し再起動は完了、DSGCシステムの復旧も完了したよ、完全機動の5%程度の戦力は発揮できると思う。」
「そうか、俺が意識を失ってから何分ぐらいたった。」
「2分ぐらいかな。」
潤也は苦笑する。
あれほどの長い間、地獄にいたのに外では2分しか時間がたっていないと言うのか…。
しかし、それでも少し眠り過ぎたなと潤也は思う。
潤也はスクリーンで周りを見渡す。
さきほど、自らを捕獲し護送していた鋼機が次々と鋼獣の群れに破壊されていっている光景がそこには広がる。
「間に合わなかったか…。」
少しの落胆が潤也の声に籠る。
「うん、さっき二機目がやられた所、残るのは隊長の人の機体のみだね。」
スクリーンが四肢が破壊された鋼機に向けてズームされる。
「まあ、いい、あれだけでも生かして返そうか…。」
「それは憐みとか同情とかそういう感情から?」
藍の声に少量の悲嘆の声色が混じる。
「まさか、わかっているだろう?」
潤也は笑う。
「うん、そうだね。」
そうして潤也は操縦席にある二つのオーブを両手で握りしめた。
オーブは潤也の体内に埋め込まれたナノマシンを通じて潤也の脳から発せられる命令を受け取り、機体にその命令を伝える。
そうして、潤也は怨嗟の魔王を立ち上がらせた。
鋼獣の内の一機が第七機関の鋼機部隊、隊長機へと襲い掛かろうとする。
それに対して、潤也はすぐさま魔王を走らせた。
「藍、右腕に怨嗟を収束しろ。」
の右腕部の甲が展開されそこからエネルギーへと変換された紅の光が発生する。
それを螺旋を作り、魔王の機械仕掛けの右腕を覆う。
「収束完了――ソウル・アミュレット始動。」
藍がそう静かに告げる。
そうして、四肢をもがれ倒れている隊長機に迫る鋼獣一機をその拳の甲で殴り飛ばした。吹き飛ばされた鋼獣はすぐさま立ち上がる。
通常ならば、あのレベルの鋼獣など顔ごと吹き飛ばす威力を持つ拳撃なのだが、顔の半分を吹き飛ばした程度で済ませてしまった。
「流石にこのパワーだとダメージが低いな。」
「そうだね、それにこの程度の武装でも乱発は出来無さそう。」
眼前に映る敵は6体の鋼獣。四足に漆黒の巨躯、口には鋭い二本の牙。
見たことも無い型だが、おそらくはレプリカのレプリカ、つまりは量産型の狗どもの一種だろう。
だが、現状の怨嗟の魔王でこれを相手にするのはあまり分のいい勝負では無い。
今、怨嗟の魔王の性能は通常の戦闘機動時よりも低く、その最強の武装である『ルーの槍』を失っている状態にあるのだから…。
ならば、どうするか。
潤也にはあまりにも簡単な話だった。
「DSGCシステムを起動しろ。スペックをこいつをまともに使用できる程度までは引き上げる。」
「え、でも、今の潤也には――」
「――藍。」
潤也の身を案じる藍の言葉を刺すように潤也は告げる。
「ごめん、わかったよ。」
藍はその行為にどんな感情を抱いていようと潤也の決定に逆らう事は出来ない。
藍にとって黒峰潤也は己の全てであり支配者でもある。彼女にはそれ以外の選択肢を与えれていないのだ。
魔王の漆黒の機体の各部が展開し、再び怨念を集め始める。
完全に復旧したDSGCシステムは先ほど程、潤也の精神に侵食を行わないが、まったく影響を与えないというわけでは無い。
単に、怨念が濁流のように潤也に流れこまなくなるだけであり、確実に潤也の精神を浸食するのだ。
今までの戦いで耐性が付いているとは言え、先ほど心身をすり減らすような怨念に晒された潤也にそれをさせるのは非常に危険とも言えた。
「――っ。」
潤也は声にならない嗚咽を漏らす。
再び潤也の精神はあの二つの闇の狭間に置かれる。
先ほどよりはそれは重いものでは無かったが、精神的が先の起動時の浸食があった事もあり、危険性は先と同じ、悪く見れば先よりも悪いといえた。
怨念たちは潤也を求め、自らの願いを託そうとする。
だが、結果は同じだ。
黒峰潤也は決してそれを受け入れない。
そうして潤也は現実に戻ってくる。
奇跡は二度起こりはしないが、必然は何度でも起こる故に必然なのだ。
故に黒峰潤也という存在が破砕されるまで何度でも起こる。
「いけるよ、潤也。」
吸収したエネルギーを見、藍がそう潤也に伝えた。
そうして、怨嗟の魔王は四肢をもがれた隊長機の前に立つ。
潤也はスピーカーをオープンにしてその隊長に向けて語りかけた。
「あんたらは、こいつの事をブラックファントム(黒い亡霊)と読んでいたな。確かにあれは中々に的を得たネーミングだった。」
確かに面白いネーミングだ。
怨念は見方によっては霊とも言える。
霊を使い闘う機体、当たりでは無いが、遠くもない。
中々に面白いネーミングだと潤也は思っていた。
だが、この機体、怨嗟の魔王の本当の名前はそれでは無い。
「だがな、こいつの本当の名前はそうじゃない、こいつの本当の名前はな――」
自身の機体にその牙を突きたてようと迫りくる狗を殴り飛ばす。
先ほどと桁違いの力を纏ったその拳は狗の頭を粉々に砕いた。
そうして魔王は隊長機の前に立ち、潤也は言い放った。
「――リベジオンだ。」
辺りは既に暗闇に包まれ、夕日が沈み夜へと変わろうとしていた。
リベジオンと狗の戦いの幕が開けた。
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