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第一章「始動」-遭遇と命令-(上)

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第一章「始動」-遭遇と命令-


 物部・京介(ものべ・きょうすけ)は目を覚ました。
 「んぅ~……ふぅ」
 身体を伸ばしながら目覚まし時計を見ると、いつも通りセットしたタイマーまで少し間がある。
 (さて、と……)
 布団から出た京介は、机の上に置かれたペットボトルを手に取ると、半分程残っていたミネラルウォーターを一気に呷った。
 喉を落ちていく水は生温いが、寝起きで水分を失っていた身体には美味く感じられる。
 一つ息をついてからペットボトルを机に置き、タオルケットと敷き布団を適当に畳んで開いたままになっているクローゼットの下段に押し込む。
 一度背筋を伸ばしてから、寝間着のTシャツとトランクスのままフローリングの床に腰を下ろし、日課の柔軟運動を始める。
 最初は動かす力を小さく、角度を浅く。身体が馴れ始めたら徐々に大きく、深くしていく。
 身体が暖まり、こわばっていた身体がほぐれて少しずつ汗が浮き始める
 腰を下ろし、両方の足首を反対側の太股に乗せた結跏趺坐の状態で、上下から背中に回した両手の指を肩胛骨辺りでしっかりと組み合わせる。
 脚を百八十度開き、上体を伏せて床につける。
 その他にも様々な動きを試し、最後に反らした中指が手首に付くことを確認してから立ち上がる。
 壁に立てかけてあった太めの長い木刀を取り上げ、青眼の構えを取る。
 そして目を閉じ、イメージする。
 素手で、ナイフで、金属バットで、こちらを狙ってくる暴漢達を。
 実際には身体を動かさず、イメージの中で攻撃を防ぎ、避け、無力化出来るギリギリのラインで木刀を振るう。
 イメージしていた暴漢五人を叩き伏せたところで目を開き、床に放り出していた竹刀袋を拾い上げ木刀を納める。
 椅子の背から取り上げたフェイスタオルで汗を拭いながら時計を見ると、いつも運動を終える時間になっていた。
 朝食は夕べの残り物である大根の味噌汁と夕べ作っておいた握り飯(中二個)ですませる。
 着ている物とタオルを洗濯機に叩き込み、シャワーと歯磨きを済ませ、制服に着替え、姿見の前で身だしなみをチェック。
 いつも通り、中肉中背で平凡な男子学生が映り込んでいる。
 顔立ちも悪くはないが良くもない、平凡そのものだ。
 特徴と言えるのは、元々目が細いのに半分瞼を閉じている所為で閉じているように見える位か。
 (……若者らしさが無いな)
 まぁ見苦しくはないか、と一人ごちて
 鞄を肩に掛け木刀入りの竹刀袋を手に取り玄関へ。
 足首まで紐があるタイプのスニーカーを履き、ドアノブに手を掛ける。
 そして誰もいない八畳の部屋に、
 「行ってきます、と」
 声を掛けて部屋を出た。

 ――――――――――――――――――――

 海上都市「わだつみ」
 政府の提案により首都近郊の海上に建造された人工の都市である『第二十四区』。
 複数の企業体によって運営されているこの都市は「技術革新」をテーマに様々な化学・科学的な研究を推奨しており、また技術者や研究者を育成する為の学術機関をも備えている―
 と、表現すると近未来的な印象を受けるが、
 (実際済んでる人間からするとあんまり変わらないよな、普通の街と)
 それどころか、
 (植物多いし、一部以外人混み少ないし、なんかノンビリするよなー。田舎って程じゃないけど)
 地方出身者の京介にとっては大変過ごしやすい街である。
 都市建設当初から建っていた風格すらあるアパートから、徒歩十分ほどで最寄りの停留所に着く。
 しばらく待っていると、時間通りに路面電車がやってきたので他の乗客に続いていつもの車両に乗り込む。
 社内を見渡すと、いつものように見知った顔が手を上げた。
 なるべく人にぶつからないように、その相手の元に移動する。
 「お早う、キョウスケ」「よぅ、京の字」
 友人の挨拶に
 「お早ぅ。コーシ、リュウ」
 こちらも挨拶を返した。
 先に声を掛けてきた小柄な銀縁眼鏡の少年が羽村・光司(はむら・こうじ)、後の方の赤褐色の長髪を後頭部で括った大柄な少年が志藤・竜意(しどう・たつおき)
 どちらも『学園』の高等部に越境入学したときからの友人だ。
 ちなみに竜意の言う「京の字」は彼だけが使っているあだ名で、その由来は「なんとなくサムライっぽいから」だそうだ。
 (……まぁ木刀持ち歩いてればなー)
 挨拶のあとはいつも通りそのまま雑談に流れる。
 締め切りの近い課題や次の試験、先日放送された総合格闘技の試合や人気アーティストの新譜や新作ゲーム等々。
 大人からは「他愛もない」と表されそうな、だが本人達にとっては重要な情報のやり取り。
 そうこうしている内に電車は『学園』最寄りの停留所に到着。
 『私立帝陵学園』
 大学部と高等部を併設する、この海上都市でも珍しい大規模な教育施設の一つである。
 京介達が他の学生と一緒に電車から降り、学園の校門に向かっていると、
 (……?)
 違和感を感じた京介が急に足を止めた。
 「あれ?」「どうしたんだ?」
 「いや……」
 周囲を確認した京介の視界の中、その少女は真っ正面から京介を見据えていた。

 ――――――――――――――――――――

 視線が音を立ててかち合った、少なくとも京介はそう感じた。
 そのまま少女は京介に向かい大股で歩いてくる。
 「何だ?京の字に用でもあるのか?」
 「またあれじゃない?彼氏がキョウスケにボコられたから謝れとか何とか」
 「……人を暴力好きみたいに言わんでくれ。それだったらリュウも同罪だろ?」
 カツアゲやら強引なナンパやら、そういったもめ事に遭遇した場合、関わらないように顔を背けて通り過ぎる。
 それが大抵の人間が取る行動だが、京介達、特に京介と竜意は積極的に関わるタイプであり、それが喧嘩沙汰に発展することも少なくない。
 その場合、大抵は当人同士の中で決着が付いた時点で収まるのだが、稀に周囲の人間が関わってくることもあったので、光司もそう予想したのだが、
 (……違うな、これは)
 目の前に立った少女の目を見て、京介は光司の予想が外れているのを理解した。
 そこには敵意も怒りも憎しみも無く、
 (品定め、か)
 こちらを見極めようという意思しか見あたらない。
 それにしても印象的な外見の少女だ。
 腰辺りまである、艶のある黒髪。
 前髪は眉に掛からない程度に、両脇の髪は頬の辺りで真っ直ぐに切り揃えられているため、髪色とも相まって和風な印象だ。
 小作りな顔立ちは可愛らしい、と形容すべきなのだろうが、身に纏っている凛とした雰囲気と目力の強さで、何処か神秘的な雰囲気さえある。
 170を少し越えている京介の顎程までしかない小柄な身長だが、手足が長く、バランスが良い体型の為、こうして目の前に立たれるまで、ここまで小柄だとは気付かなかった。
 それに、
 (……結構ある、かな)
 京介の目線が、顔から下がって首もとから下を確認したのに気付いたのか、少女のやや太めな眉根に皺が寄った。
 不快さを隠さない険のある声音-それでも滑らかなアルトの声が京介にかけられる。
 「……物部・京介さんですね」
 「いいえ違います」
 そして京介は即答で否定を返した。
 「………………」
 その返答に少女は固まり、
 「………………」「………………」
 友人二人は呆れ顔で苦笑した。

――――――――――――――――――――

 「ふざけて、いるんですか?」
 「いや、いきなり名前確認されてもな。先ずそっちが名乗ってからだろ普通」
 苛立たしげな表情でこちらを見上げてくる少女に、淡々と返す京介。
 睨み合いになりかけたところで、竜意が割って入った。
 「おいおい、京の字。講義が始まるぜ?早く教室いかねーと」
 少女の方に笑顔を向けた竜意は
 「それからそっちのお嬢さんもだ。積もる話なら暇な時にしようぜ。昼休みにはコイツ付き合わせるから」
 と、勝手に約束をして話を強引に纏める。
 「おい……」
 「さぁ授業授業」
 と言いつつ京介の手首を掴んで強引に連れて行く竜意。
 京介の背中を睨んでいる少女に光司が声をかける。
 「ゴメンね。キョウスケってちょっと変わってるから」
 光司の言葉に少女はため息を吐く。
 「ちょっと、ですか」
 「……あー、昼休みまでには宥めておくよ。学食で待ち合わせということで」
 困った表情で頬を掻く光司に少女は、
 「いいえ、放課後に屋上に来て頂くようにお伝え願えますか?出来ればお一人で」
 綺麗な姿勢で一礼すると、校舎に向かっていった。
 その後ろ姿を見送った光司は詰めていた息を吐き出す。
 「……はー、圧倒された。さて、さて、取り敢えず情報収集からか……面白い話だといいな」
 不謹慎な独り言を呟きつつ、光司は文庫本サイズの携帯端末を取り出し、素早く操作をしながら自分も教室に向かった。

午前中の授業が終わり、昼休み。
 「はいはーい、情報収集の結果はっぴょーう!」
 「おー、いつも通り仕事早ぇなコウ!」
 「……また学内ゴシップから集めてきたのか」
 ややテンションの高い光司とニヤニヤと笑っている竜意、そして困惑に眉を寄せる京介。
 「だって放課後呼び出しだよ?しかも二人っきりだよ!?これはアレの可能性が大!!」
 「いやー、とうとう京の字にも春が来たか~。お父さんは嬉しいぞぉ?」
 「アレって……あとリュウに育てられた覚えはない」
 周囲に迷惑にならない程度の音量で騒ぐ友人達。
 「敵を知り、己を知れば百戦危うからず!」
 「あのお嬢さんの事を知っておけば、その後の展開もスムーズに行くということだな!」
 「………………」
 からかっているだけなのは分かっているので、ツッコミも止めて日替わりランチ(本日は豚生姜焼き定食)を食べる作業に戻る。
 「ノリ悪いよ?キョウスケ」「そういうとこが、京の字の欠点だよな」
 「もう良いから……。コーシ、俺に教えたい事だけ送ってくれ」
 「分かったよ、それじゃ……」
 えーと、と前置きして光司は端末を操作し、京介の端末にデータを送る。

――――――――――――――――――――

 生姜焼きに添えられたキャベツの千切りを口に運びながら、左手で携帯端末を取り出しメール欄を操作。
 光司から送られてきた、箇条書きになったデータをスクロールさせていく。
 名前:春日・祈(かすが・いのり)
 年齢:16
 所属:高等部・普通科・1-F
 成績:極めて優秀
 身体能力:かなり高い
 素行:問題なし
 友人:多い(特定のグループ等には属していない)
 恋人:学園に入学時から現在までは無し(それ以前は確認出来ず)
 身長:152cm 体重:44kg
 スリーサイズ:79:55:81
 「……おい?……最後の方のは何だ?」
 「これくらいの個人情報なら簡単に手に入るんだよ?……ってまぁ嘘だけど」
 因みにこれが参考資料ねー、とアイドル系サイトのアドレスを送ってくる光司
 「本当に、冗談だよな?」
 「ん?キョウスケ知りたいの?じゃあ5分待ってね」
 「待て」
 「はいはい、冗談はこれくらいにしとこうね-。んで……これが本命」
 そして新しいメールが送られてくる。
 備考:『SOUMA』の関係者?
    企業への実地研修に行った生徒が『SOUMA』のビルに出入りする姿を目撃。
    学園近辺で『SOUMA』の社用車から降りる姿を目撃した者あり。
 「ふぅん……ソウマ、な」
 重工業から医療技術まで、関わっていない分野は無いと言われる程の超巨大企業グループ『SOUMA』。
 『わだつみ』を運営する企業の中でも実質トップと目されている企業であり、帝陵学園の出資者の一人でもあるが、
 「ソウマの関係者が一体何の用だ……?」
 心当たりが全く無い。
 「そりゃお前ぇ、アレだろ」「アレだよね」
 「……もうそのネタいいから」
 「ん~、それ意外だとしたら……スカウトとかじゃね?」
 出資者である企業が優秀な学生に在学時から声をかけるのは『わだつみ』ではよくある事だが、
 「座学も選択した実技も、成績良くないからそれはないなぁ」
 自分の能力を鑑みて、竜意の意見に苦笑で返す。
 「……まぁ取り敢えず会ってみるか。放課後に屋上だっけ?」
 「そそ。まぁ頑張ってねキョウスケ!」「赤飯炊いといてやるからな!」
 「………………」
 友人の冗談を聞き流し、豆腐とワカメの味噌汁を啜る。
 呼び出されたといっても元々関わりのない学生同士、それほど深刻な事情が出てくる筈がないのだが、
 (……無い筈だよな?)
 京介は何故か背中にのし掛かるような不安を感じていた。

――――――――――――――――――――

 ―放課後。
 最後の講義が終わった所で教師に手伝いを頼まれてしまった。
 (……まぁいいか)
 今朝の少女-春日・祈の事が一瞬頭に浮かんだが、気にせず教師の後に付いていく。
 三十分程して用事が終わり、お茶をご馳走するという教師の誘いを断って屋上に向かった。
 階段を上がりながらとりとめのない思考を巡らす。
 (帰ってた方が面倒が無くていいよなー)
 朝、自分の目の前に立ち、身長差を気にもせずこちらの目を真っ直ぐに見据えてきた表情を思い出す。
 あの手の表情は苦手だ。
 今すぐUターンして帰ってしまいたいが、光司が約束してしまった以上すっぽかすことは出来ない。
 遅れた事については、
 (まぁ仕方ない)
 見知らぬ下級生との約束より教師の心証の方が大事だ。
 何の取り柄もない人間としては、細かいところで点数を稼がないとあっという間にジリ貧になってしまう。
 そんなことを考えている内に屋上に続く扉前に到着。
 (どうかいませんように)
 そう願いながら扉を押し開ける。
 すると、まだ高い日差しの中、落下防止用の金網の近くに立っている春日・祈が、こちらに振り向くところだった。
 (あー……やっぱ居たのか)
 友人達が言っていたような状況だったら緊張より期待と昂揚が勝っている所だが、
 (竜意や光司じゃないんだから)
 それ以外の可能性が遙かに高いことを自覚している京介にとっては、真逆な緊張に晒されている状況だ。
 だがいつまでも屋上の入り口で立ち止まっている訳にもいかない。
 ゆっくりと歩を進めて、屋上の端に立つ春日・祈の1メートル程手前で足を止める。
 「来たけど、用件は?」
 問いかけた京介に対して春日・祈は
 「……これを」
 一通の封筒を差し出した。
 「……?」
 受け取り、差出人を見る。
 「………………」
 封筒の頭をちぎり、中を探ると、出てきたのは一枚の便箋。
 便箋を広げ、そこに記された数行の文章に目を通した京介は、封筒を戻すと、目の前の少女に問いかけた。
 「……用件を言ってくれ。俺は何をすればいい?」

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