重なり合う、視線と視線。目と、目。初めての面識ということもあり、二つの眼は動く事無く、互いをじっと、見つめている。
片方は大きくて丸く、純真さと誠実さを秘めた黒い瞳、もう片方は、淡い琥珀色で、見ていると吸い込まれそうなほどに澄んだ瞳。
時が止まったような錯覚を覚えながらも、黒い瞳の少女、一条遥は、琥珀色の瞳の少女に、自らの名前を教える。
片方は大きくて丸く、純真さと誠実さを秘めた黒い瞳、もう片方は、淡い琥珀色で、見ていると吸い込まれそうなほどに澄んだ瞳。
時が止まったような錯覚を覚えながらも、黒い瞳の少女、一条遥は、琥珀色の瞳の少女に、自らの名前を教える。
「一条……一条、遥です」
少女は遥の返答に小さく頷くと、代わりに自らの名前を、遥に伝える。
「一条遥……覚えやすい名前ね。私はリシェル」
「リシェル・クレサンジュ。貴方も、本が好きなの?」
遥はリシェルの問いに正直戸惑う。ただ本を拾うのを手伝い、謝って立ち去ろうとしたが、まさか質問されるとは思わなかったからだ。
それに過失はおそらく自分にある。ここで答えずに隆昭達の元に戻ると、後で確実に心の中がもやもやする。遥の性格上、心にしこりを残すような選択はしたくないのだ。
というか、と遥は思う。何を迷っているのだろう、私は。単純な質問だ。本は好きか、否か。なら思ったままに答える以外無いだろう。
数秒ほど迷った挙句、遥は至極正直に、リシェルに質問の答えを返す。
それに過失はおそらく自分にある。ここで答えずに隆昭達の元に戻ると、後で確実に心の中がもやもやする。遥の性格上、心にしこりを残すような選択はしたくないのだ。
というか、と遥は思う。何を迷っているのだろう、私は。単純な質問だ。本は好きか、否か。なら思ったままに答える以外無いだろう。
数秒ほど迷った挙句、遥は至極正直に、リシェルに質問の答えを返す。
「……そこそこ、ですね。好きな本は料理の本とか……かな?」
リシェルは遥の返答にふむふむと小声で呟くと、テンションの起伏は変わらないものの、先ほどより少し明るい声で言った。
「料理かぁ……私はあまり読まないかなぁ。小説とか伝記とか、そういう物語が読める本が好き。あ、そうだ」
顔に微笑みを浮かべたリシェルが、両手に積んでいる本を、床に置いてあるショルダーバックの上に乗せると、ショルダーバックの中を探して、一冊の本を引き出した。
微笑んでいるリシェルに、遥はまたもぼんやりとした感覚に陥る。
窓から差し込んでくる陽だまりが照らすリシェルの姿は、どう表現したらいいのか分からないが、現実感がとても薄い。
幻想的でかつ、儚げで今にも消えてしまいそうな、そんな雰囲気を遥はリシェルからヒシヒシと感じている。例えるならそう……酷い例えだが幽霊の様な。
窓から差し込んでくる陽だまりが照らすリシェルの姿は、どう表現したらいいのか分からないが、現実感がとても薄い。
幻想的でかつ、儚げで今にも消えてしまいそうな、そんな雰囲気を遥はリシェルからヒシヒシと感じている。例えるならそう……酷い例えだが幽霊の様な。
「どうしたの?」
「あ……と、ごめんなさい! なんかこう、眠気が……」
「あ……と、ごめんなさい! なんかこう、眠気が……」
リシェルの声に、遥はハッと我に返る。先程からどうも変だ。白昼夢を見ているみたい。まだ眠っているのか、私は?
ピシャリと両頬を叩いて寝ぼけている目を覚ましリシェルに向き直ると、リシェルは遥にさっき引き出した本を差し出していた。
ピシャリと両頬を叩いて寝ぼけている目を覚ましリシェルに向き直ると、リシェルは遥にさっき引き出した本を差し出していた。
遥は小さく首を捻りながら、その本を受け取る。相当読み込んだのか、壮丁がかなりボロボロで、かなりの頁の角に、折られた後が見える。
本の表紙には、可愛らしくデフォルメ調に描かれた男の子と女の子の絵が、今にも走りだしそうなポーズを取っていて、児童小説かな? と遥は思う。
かなり分厚く、300ページ以上はありそうな本だ。開いて読んでみると、1頁にビッシリと文字が書かれており少しくらくらする。
本の表紙には、可愛らしくデフォルメ調に描かれた男の子と女の子の絵が、今にも走りだしそうなポーズを取っていて、児童小説かな? と遥は思う。
かなり分厚く、300ページ以上はありそうな本だ。開いて読んでみると、1頁にビッシリと文字が書かれており少しくらくらする。
「……この本はどんな本なんですか?」
間抜けな質問だとは思いつつ、遥はリシェルに本の事を聞いた。
反応があった事に嬉しかったのか、リシェルは幾分顔を綻ばすと、遥の質問に答える。
反応があった事に嬉しかったのか、リシェルは幾分顔を綻ばすと、遥の質問に答える。
「この美しい世界で……って名前の小説」
窓の外から見える、清々しい青空と太陽を見上げながら、リシェルは言葉を紡ぐ。
「昔から愛読してる本でね、表紙に描かれてる二人が大冒険しながら、この世界にある一番綺麗な物を探すって話なの。
ダイヤモンドとか、色んな花が咲いてるお花畑とか世界を回りながら色々な綺麗な物に出会うんだけど、どれもこれも一番じゃなくて……
最後に二人がその一番綺麗な物と出会うんだけど、私、その結末にすごく感動してね。暇な時はずっと読んでるんだ。飽きないから」
ダイヤモンドとか、色んな花が咲いてるお花畑とか世界を回りながら色々な綺麗な物に出会うんだけど、どれもこれも一番じゃなくて……
最後に二人がその一番綺麗な物と出会うんだけど、私、その結末にすごく感動してね。暇な時はずっと読んでるんだ。飽きないから」
「そういう内容なんですか……ありがとうございます」
失礼ではあるが外見的なイメージから、遥はリシェルが内気というかあまり喋るタイプじゃない気がしていた。
しかし一度話しだすと、リシェルは饒舌に本の内容を語りだした。それも本の内容を話すのが楽しくてたまらないといった、そんな口調で。
だけどどうしようか……本の内容を聞いたが良いが、その後の会話が浮かばない。私も好きな本について話した方が良いのだろうか。
とは言え何時も読んでいるような本なんて直ぐに浮かばない。何でも良いから会話の糸口を……と思った矢先。
しかし一度話しだすと、リシェルは饒舌に本の内容を語りだした。それも本の内容を話すのが楽しくてたまらないといった、そんな口調で。
だけどどうしようか……本の内容を聞いたが良いが、その後の会話が浮かばない。私も好きな本について話した方が良いのだろうか。
とは言え何時も読んでいるような本なんて直ぐに浮かばない。何でも良いから会話の糸口を……と思った矢先。
「用件終わりましたー」
後ろから声がして遥が振りむくと、用事が終わったのだろう、1階に降りてきた隆昭とメルフィーが、歩きながら声を掛けてきた。
ナイスタイミングだと心の中でグッジョブを出しながらも、直ぐに遥は二人をリシェルにどう紹介すればいいのかに迷う。
……と思ったが別に友達……はアレだ、親戚って事にしておけば問題無いだろう。リシェルも、隆昭とメルフィーもお互いを不思議そうな目で見つめている。
遥は咳払いをすると、リシェルに近くまで来た隆昭とメルフィーの事を紹介する。
ナイスタイミングだと心の中でグッジョブを出しながらも、直ぐに遥は二人をリシェルにどう紹介すればいいのかに迷う。
……と思ったが別に友達……はアレだ、親戚って事にしておけば問題無いだろう。リシェルも、隆昭とメルフィーもお互いを不思議そうな目で見つめている。
遥は咳払いをすると、リシェルに近くまで来た隆昭とメルフィーの事を紹介する。
「私の親戚の、鈴木君とメルフィーちゃん。ちょっと一緒に買い物しててね。別々に行動してたの」
遥の説明に一寸二人は戸惑ういながらも、リシェルの姿を見、直ぐに理解する。
「初めまして、メルフィー・ストレインと言います」
「鈴木隆昭です! 宜しくお願いします」
「鈴木隆昭です! 宜しくお願いします」
今まで見せなかった様なやけに爽やかな笑顔を振りまきながら自己紹介する隆昭。その目は明らかにリシェルに見惚れている。
それを生類を憐れむ様なジト目でみるメルフィー。飽きれているのか、それとも別の感情なのか目には一言では言えない複雑な感情が浮かんでいる。
遥はメルフィーの機転の良さと、意外に空気が読める隆昭を少しばかり見直す。
それを生類を憐れむ様なジト目でみるメルフィー。飽きれているのか、それとも別の感情なのか目には一言では言えない複雑な感情が浮かんでいる。
遥はメルフィーの機転の良さと、意外に空気が読める隆昭を少しばかり見直す。
リシェルは遥の紹介と、二人の自己紹介に何回か頷くと、二人に小さく頭を下げた。
「私、リシェル・クレサンジュ。一条さんとはちょっと色々あって、ね」
「えぇ、色々……」
「えぇ、色々……」
リシェルはそう言って遥と眼を合わすと、クスクスと笑った。遥もつられて、クスクスと笑う。そんな二人に、疑問符を浮かべる隆昭とメルフィー。
まだ出会ったばかりで友達にもなっていないが、不思議な事に遥は、リシェルに強い興味を惹かれていた。
その理由はリシェルが雰囲気、外見共に、今まで出会ってきた人達とは全く違うタイプだからなのと、何と言えばいいのだろう。
まだ出会ったばかりで友達にもなっていないが、不思議な事に遥は、リシェルに強い興味を惹かれていた。
その理由はリシェルが雰囲気、外見共に、今まで出会ってきた人達とは全く違うタイプだからなのと、何と言えばいいのだろう。
リシェルとは、必ずどこかで大きく関わり合う。それがどんな事かは全く分からないけど、遥はその予感が間違いでは無いと確信しているからだ。
その時、腹の虫が大声を鳴らした。誰が鳴らしたのか……と思うが、分かりやすいくらい顔を赤くして、隆昭が目を掌で隠している。
女子3人を目の前にして、この行動は少し、いや、結構恥ずかしい。3人は別に笑いはしない。メルフィーはまだジト目ではあるが。
女子3人を目の前にして、この行動は少し、いや、結構恥ずかしい。3人は別に笑いはしない。メルフィーはまだジト目ではあるが。
「その……すみません。デリカシー無くて」
恥ずかしさから顔を俯かせる隆昭に、気にしないで良いよとフォローを入れながら遥は明るい笑顔で、リシェルに言った。
「丁度良いから、お昼にしようか。リシェルさんも一緒にどうかな?」
ビューティフル・ワールド
the gun with the knight and the rabbit
「パラべラム!」
青空を切り裂くが如く伸びていく、白と黒の陰陽を彷彿とさせる光が、女性の放り投げた聖書に向かって一点に集中していく。
女性を囲んでいた野良オートマタ達はその光に怯み、体勢を低めながら徐々に後退りする。空中で白黒の閃光を放つ聖書を、満足げな表情で眺める女性。
やがて光が聖書を覆い、雷の様な轟音を鳴らして四散する。散らばった光は、少しづつ集まりだし、再構築されていく。
女性を囲んでいた野良オートマタ達はその光に怯み、体勢を低めながら徐々に後退りする。空中で白黒の閃光を放つ聖書を、満足げな表情で眺める女性。
やがて光が聖書を覆い、雷の様な轟音を鳴らして四散する。散らばった光は、少しづつ集まりだし、再構築されていく。
構築されていく過程で、光は次々とパーツを成型していく。その形は腕や、脚や、頭部や、胴体。
一つ一つのパーツが確固たる形となり、合体し合う。別々だったパーツが一つの形となり、空中で浮かぶ。
それはゆっくりと、女性を守る様に仁王立ちの恰好で地上へと降りて行き、着地。その姿を、野良達の前に現す。
一つ一つのパーツが確固たる形となり、合体し合う。別々だったパーツが一つの形となり、空中で浮かぶ。
それはゆっくりと、女性を守る様に仁王立ちの恰好で地上へと降りて行き、着地。その姿を、野良達の前に現す。
オートマタ
それ――――――否、それは自動人形と呼ばれる、この世界において人間と共存関係を組むロボットの一種にして、正式名称は―――――――アンシェイル。
それ――――――否、それは自動人形と呼ばれる、この世界において人間と共存関係を組むロボットの一種にして、正式名称は―――――――アンシェイル。
アンシェイル・エグザス。その圧倒的な存在感と威圧感に、明らかに空気が一変する。異常なほどに張り詰めた、重い、空気。
オートマタの中でも大型に属するレオ―ネ型を超える、7メートルの巨体。黒き全身を彩る、両腕と脚部の太く大きな白いライン。
ヘ―シェンやリヒタ―の様な生命感を感じさせるカメラアイとは極端に位置する、自らを兵器でかつ機械であると認識させるように点滅する、バイザーから鈍く光る紫色のカメラアイ。
大きさに見合う、曲線を描いたどっしりとした胴体に、見るからに重装甲な直線的なデザインが覆う脚部。そして十字型のバイザーが特徴的な、円柱型の頭部。
ヘ―シェンやリヒタ―の様な生命感を感じさせるカメラアイとは極端に位置する、自らを兵器でかつ機械であると認識させるように点滅する、バイザーから鈍く光る紫色のカメラアイ。
大きさに見合う、曲線を描いたどっしりとした胴体に、見るからに重装甲な直線的なデザインが覆う脚部。そして十字型のバイザーが特徴的な、円柱型の頭部。
しかし特徴的な部分はそこだけではない。
十字型に入ったラインを毒々しく、かつ赤く光らせる、大きな両肩に、その下から伸びる金剛像を思わせる重圧で生物的な印象を抱かせる両腕。
両手のダイヤ型の甲には、両肩と同じく、十字型のライン。光はしないものの、強烈かつ鮮明な赤色。
神威とは別の意味で、アンシェイルはオートマタとは思えない、そんなオートマタだ。
十字型に入ったラインを毒々しく、かつ赤く光らせる、大きな両肩に、その下から伸びる金剛像を思わせる重圧で生物的な印象を抱かせる両腕。
両手のダイヤ型の甲には、両肩と同じく、十字型のライン。光はしないものの、強烈かつ鮮明な赤色。
神威とは別の意味で、アンシェイルはオートマタとは思えない、そんなオートマタだ。
<マスター、ご命令を>
その図体と合う、重くて低く、迫力に満ちた男性の声で、アンシェイルがマスターである女性に指示を求める。
光に怯んだものの、野良達は敵対相手であるアンシェイルを襲うべく、じりじりと距離を縮めてくる。
女性は琥珀色の目を野良達に向けて、長考しているのか口元を押さえていた。
が、何故か専用のケースを取り出すと慎重にコンタクトレンズを取り出しながら、返答する。飽いているのか、全く興味がない淡々とした声で。
光に怯んだものの、野良達は敵対相手であるアンシェイルを襲うべく、じりじりと距離を縮めてくる。
女性は琥珀色の目を野良達に向けて、長考しているのか口元を押さえていた。
が、何故か専用のケースを取り出すと慎重にコンタクトレンズを取り出しながら、返答する。飽いているのか、全く興味がない淡々とした声で。
「よく見りゃ野良じゃないか。考える必要皆無。適当に」
<了解した>
コンタクトレンズを目に入れ、女性は再び蒼い目に戻る。腕を組み、背後の建造物に背を付けてさほど興味の無さそうな目を、アンシェイルと野良達に向ける。
女性とほぼ同時に、アンシェイルは太い両腕を組んだ。野良達は、アンシェイルの行動に疑問を持ったのか、顔を見合す。
もしやあの状態から攻撃してくるのだろうか。それとも何か策があるのか。何にせよ―――――――仕掛ける他無い。
女性とほぼ同時に、アンシェイルは太い両腕を組んだ。野良達は、アンシェイルの行動に疑問を持ったのか、顔を見合す。
もしやあの状態から攻撃してくるのだろうか。それとも何か策があるのか。何にせよ―――――――仕掛ける他無い。
野良の一機が、アンシェイルへと疾走する。野良とは言えオートマタ。その二脚は走るたびに深く地面を抉っており、蹴られたらタダじゃ済まないだろう。
だが、アンシェイルに攻撃の意思は見られない。両腕を組んだまま、野良を見据えているだけだ。否、アンシェイルは小さな声で、呟いた。
だが、アンシェイルに攻撃の意思は見られない。両腕を組んだまま、野良を見据えているだけだ。否、アンシェイルは小さな声で、呟いた。
<展開>
アンシェイルがそう呟いた瞬間、背部から布の様な赤い物体が左右に広がった。その物体は大きく伸縮していきながら地面に接触し、風に靡いて波の様に寄せては返す。
野良は突然現れたそれに驚きながらも、走る事を止めない。頭部に一撃でも入れる事が出来ればこちらが有利という貧相な考えで、野良オートマタは動いている。
生き物の様に伸縮するその物体は、前面まで伸びてアンシェイルを護る様に胸部で重なり合い、ぐるりとアンシェイルの体を覆う。
物体の裏には、物体が射出している極細のワイヤーが大量に、甲の赤十字に繋がれている。
生き物の様に伸縮するその物体は、前面まで伸びてアンシェイルを護る様に胸部で重なり合い、ぐるりとアンシェイルの体を覆う。
物体の裏には、物体が射出している極細のワイヤーが大量に、甲の赤十字に繋がれている。
アンシェイルを覆っているその物体はまるで―――――――マントの様だ。西洋の吸血鬼が体を隠す、あの気障なマントを彷彿とさせる。アンシェイルが組んでいる両腕を、解く。
女性の口元に、僅かに笑みが浮かぶ。両足で地面を抉り飛ばして、野良が飛び跳ねて、アンシェイルへと飛び膝蹴りを放つ。
このままアンシェイルの頭部に向かってダメージが与えられる―――――――――――筈、だった。
このままアンシェイルの頭部に向かってダメージが与えられる―――――――――――筈、だった。
右足を足元から太股に掛けて全て失った野良が、その場に派手な転倒音を出しながら仰向けになる。驚愕し、アンシェイルを見上げる、野良。
少し時間を戻そう。
野良が飛んだ瞬間、アンシェイルが右手を大きく振り払った。野良に向けて攻撃を加える為に。
すると背部のマントが左右に分離し、右側のマントが瞬時にアンシェイルの右腕に群がると――――――瞬時に右腕を、龍の頭部へと形を変えたのだ。
アンシェイルが右腕を伸ばすと、野良の様な下級のオートマタにはまず、認識できないほどの速さでその頭部が大口を開けて、野良オートマタの右足を、喰らう。
一片の欠片も残さず、龍の頭部は右足を装甲はおろか、内部機関まで消滅させてしまった。僅かなマナの粒子が、空中へと風に吹かれて舞う。
すると背部のマントが左右に分離し、右側のマントが瞬時にアンシェイルの右腕に群がると――――――瞬時に右腕を、龍の頭部へと形を変えたのだ。
アンシェイルが右腕を伸ばすと、野良の様な下級のオートマタにはまず、認識できないほどの速さでその頭部が大口を開けて、野良オートマタの右足を、喰らう。
一片の欠片も残さず、龍の頭部は右足を装甲はおろか、内部機関まで消滅させてしまった。僅かなマナの粒子が、空中へと風に吹かれて舞う。
右足を失った野良は、その場から逃げようと必死になって這いつくばる。アンシェイルは無言のまま、左腕を野良へと向けた。
左側のマントが左腕へと群がり、二体の龍の頭部が現れる。両腕を野良に向け、喰らう。胴体を、脚を、腕を、頭部を。
そこには、何も残らない。只、攻撃の余波で抉られた地面、だけだ。野良を喰らい尽した龍の頭部が波が引く様に解けていき、背部へと戻り、再びマントへと形を変える。
左側のマントが左腕へと群がり、二体の龍の頭部が現れる。両腕を野良に向け、喰らう。胴体を、脚を、腕を、頭部を。
そこには、何も残らない。只、攻撃の余波で抉られた地面、だけだ。野良を喰らい尽した龍の頭部が波が引く様に解けていき、背部へと戻り、再びマントへと形を変える。
凄まじい惨状を目の当たりにした他の野良達が、すぐさま逃げ出す為に踵を返す、が。
<逃がすと思うか?>
マントが8本の笹に分離すると、先端が錨型の刃へと変化し、尻尾の様に曲がるとアンシェイルを飛び越えて野良達へと襲いかかる。
その刃は野良達の頭部を正確に貫くと、軽々と空中へと野良達を持ち上げる。頭部を貫かれた事により、抵抗は不可能。
その刃は野良達の頭部を正確に貫くと、軽々と空中へと野良達を持ち上げる。頭部を貫かれた事により、抵抗は不可能。
女性が建造物から背を離し、アンシェイルの元へと持ち上げられている野良達を、憐れむ目で見上げながら歩く。
一瞬にして野良達を葬ったアンシェイルだが、驚くべき事にこの戦いで、アンシェイルは一歩も動いていない。
全て、自在に形を変えるマント―――――――――――いや、アンシェイルが所有する唯一の武器、エウェスが行った事だ。
一瞬にして野良達を葬ったアンシェイルだが、驚くべき事にこの戦いで、アンシェイルは一歩も動いていない。
全て、自在に形を変えるマント―――――――――――いや、アンシェイルが所有する唯一の武器、エウェスが行った事だ。
「楽にしてやれ、エグザス」
<了解した>
<了解した>
女性がそれを見、手を上げて指を、鳴らした―――――――――――――――。
「あぁ、寝みぃ……」
全てのオートマタを球体化させて旅行カバンにしまい、ライオネルは眠そうにあくびをして目を擦った。
リシェルが帰ってくるまで特にする事も無い。ターゲットであるリヒト・エンフィールドの事を探るのも何となく億劫。
一眠りするか。立ち上がり胸を掻きながら、着替えるために二階へと上がろうと歩きだす。と。
リシェルが帰ってくるまで特にする事も無い。ターゲットであるリヒト・エンフィールドの事を探るのも何となく億劫。
一眠りするか。立ち上がり胸を掻きながら、着替えるために二階へと上がろうと歩きだす。と。
<鍛錬に出る。主が帰って来る頃に戻る>
壁際で作業を見ていた神威が、ライオネルにそう伝えて日本刀を右手に召還する。
ライオネルは煙草を取り出し一本口に咥えると、気の無い返事をする。
ライオネルは煙草を取り出し一本口に咥えると、気の無い返事をする。
「おう、行って来い」
瞬間。ガレージの中に無遠慮にも、何者かが堂々と入ってくる。今日、オートマタを貸してほしいという予約は無い。
つまりだ、招かれざる客である事は容易に想像がつく。めんどくさそうに煙草をしまって、ライオネルは招かれざる客へと目を向ける。
つまりだ、招かれざる客である事は容易に想像がつく。めんどくさそうに煙草をしまって、ライオネルは招かれざる客へと目を向ける。
先頭を歩くのは、真っ白いスーツに真っ白い帽子を被った男。下劣な成金趣味であろう、指に派手な装飾の指輪をいくつも嵌めて、耳には金色のピアス。
その後ろには、服の上からでもハッキリ分かるほどにガタイの良い、各々で短機関銃を携帯している黒服の4人の男。
その後ろには、服の上からでもハッキリ分かるほどにガタイの良い、各々で短機関銃を携帯している黒服の4人の男。
そしてその後ろ、様々な形相を呈した、5機のオートマタ。装備、外見からして、野良では無い事はわかる。しかしどことなく、一流とは思えない。
それぞれの名前が装甲に刻まれており、両手にサブマシンガンを持っているのはアーチェ。銃身が黒光りするライフルを持っているのはハヴェ。
逆手持ちで刀を二刀流しているのはムラサ、最も大きな重火器であろう、バズーカ砲を担ぐのはバウム、最後に全身に手榴弾を思わせる武装を施している、アルの5機だ。
それぞれの名前が装甲に刻まれており、両手にサブマシンガンを持っているのはアーチェ。銃身が黒光りするライフルを持っているのはハヴェ。
逆手持ちで刀を二刀流しているのはムラサ、最も大きな重火器であろう、バズーカ砲を担ぐのはバウム、最後に全身に手榴弾を思わせる武装を施している、アルの5機だ。
どこからか葉巻を取り出し、黒服に火を点けさせて一服すると、男は甲高い声でライオネルに言い放った。
「俺の弟を殺っちまったらしいな。あぁ? ライオネル・オルバーよぉ!」
そう言いながら葉巻を地面に落して踏み潰し、男は被っている帽子を外した。
根性がひん曲がっている事を端的に示す、小さな目。威勢の無い、口元に生えたちょび髭。バランスが合っていない大きな鼻。
周りの男達より明らかに小さい身長差と、雰囲気からして小物全開だ。しかしよく見るとこの男、誰かによく似ている。
根性がひん曲がっている事を端的に示す、小さな目。威勢の無い、口元に生えたちょび髭。バランスが合っていない大きな鼻。
周りの男達より明らかに小さい身長差と、雰囲気からして小物全開だ。しかしよく見るとこの男、誰かによく似ている。
全身から漂う、下衆の匂い……。そう、リヒトが取引を完膚なきまでに破壊し、なおかつライオネルによって頭部を潰されて、制裁された男―――――――。
男の名はバラモス・フレーン。
名が語る様に、グスタフ・フレーンの血縁関係であり、グスタフの兄に位置する人物である。
名が語る様に、グスタフ・フレーンの血縁関係であり、グスタフの兄に位置する人物である。
この兄弟、裏社会では弟は人身売買、兄は武器商人(この中には無論、オートマタも入る)のエキスパートとしてかなり名が知られており、迂闊に手を出せば死ぬとまで言われている。
しかし裏社会以前に外の情報―――――――それこそ、ターゲットに関する情報以外に何の関心も無いライオネルは、あろう事かそのフレーン兄弟の弟と部下を殺害。
この事に怒り狂ったバラモスが必ずライオネルに報復を行うだろうと噂が流れていたが、どうやらその日が今日になってしまったようだ。
しかし裏社会以前に外の情報―――――――それこそ、ターゲットに関する情報以外に何の関心も無いライオネルは、あろう事かそのフレーン兄弟の弟と部下を殺害。
この事に怒り狂ったバラモスが必ずライオネルに報復を行うだろうと噂が流れていたが、どうやらその日が今日になってしまったようだ。
二本目の葉巻を吸って、意地の悪い笑みを浮かべながらバラモスは自分では含蓄があると思っているのか、勿体ぶった口調でライオネルに話し掛ける。
「俺の弟はぁ……この世界じゃちょっとした……人間だったんだよ。多くの部下の生活を支えて、どんな汚い仕事でもしっかりとこなす……とても良い奴だった」
感情を込めて弟を殺された事に対する怒りを込めているのだろうか、ライオネルは知った事じゃないと大あくびをする。
「お前みたいな底辺には分からんだろうがぁ……弟はなぁ、色んな人間の人生を背負ってるんだよ。それも10人20人じゃない……100人単位のな。
その弟が……あぁ弟が……お前の様なハイエナにも劣るド畜生に殺されちまうなんて……俺は世の中の無情さを呪う。
だがいくら世を呪っても弟は帰らん。だから俺が弟とぉ! その弟を支えにしていた奴らの為にてめぇを殺」
その弟が……あぁ弟が……お前の様なハイエナにも劣るド畜生に殺されちまうなんて……俺は世の中の無情さを呪う。
だがいくら世を呪っても弟は帰らん。だから俺が弟とぉ! その弟を支えにしていた奴らの為にてめぇを殺」
「神威、俺上で寝てっから、こいつら纏めてぶった斬っとけ。処理は後で俺がする」
バラモスの話を完全に無視して、ライオネルは頭を掻きながらひらひらと手を振って、2階へと上がる階段を昇りだす。手に何か握られているようだが、よく見えない。
神威は返答せず、日本刀を持ったまま、その場に立っている。動く様子もなければ、戦闘態勢も取っていない。
神威は返答せず、日本刀を持ったまま、その場に立っている。動く様子もなければ、戦闘態勢も取っていない。
バラモスの額にいくつもの太い青筋が奔る。激怒すると青筋が出来るのは遺伝の様だ。
バラモスは静かに両手を上げる。後ろの4人が短機関銃をライオネルに向けて固定し、トリガーに指を絡ませる。
その後ろで各個の武器を構えて、戦闘態勢を取る5機。神威は何もしない。何もしないが―――――――――――。
バラモスは静かに両手を上げる。後ろの4人が短機関銃をライオネルに向けて固定し、トリガーに指を絡ませる。
その後ろで各個の武器を構えて、戦闘態勢を取る5機。神威は何もしない。何もしないが―――――――――――。
<――――――――――人間は?>
バラモス達に聞こえない――――――しかし、ライオネルにはしっかりと聞こえる声で、神威がそう聞いた。
ライオネルは立ち止まると、神威に僅かに顔を向けて、神威にだけ聞こえる声で、答える。
ライオネルは立ち止まると、神威に僅かに顔を向けて、神威にだけ聞こえる声で、答える。
「須らく」
<――――――――――御意>
「殺せぇぇぇぇぇぇェぇ!!」
バラモスが怒号を上げて、上げている両手をライオネル目がけて振り下ろす。黒服達が狙いを定めて、引き金を引く。
ライオネルは一歩、一歩階段を昇っていく。その間に、口元をニヤつかせながら。
ライオネルは一歩、一歩階段を昇っていく。その間に、口元をニヤつかせながら。
瞬間、神威がその場から姿を消す。無音。その場にいる者は誰も、神威の消失に気づかない。ライオネルを、除いて
地面に乾いた音を立てながら、軽機関銃の砲身が乾いた音を立てて、地面に落ちていく。放たれた銃弾はライオネルに当たる事無く、周囲に弾痕を作っただけだ。
バラモス達の周囲に漂う、瞬き光る紅い粒子。4人はおろか5機も、バラモスさえ、今何が起こっているのかが、理解できない。
5機の背後に佇んだ神威が、日本刀を振り下ろし、空気を切った、その時。
バラモス達の周囲に漂う、瞬き光る紅い粒子。4人はおろか5機も、バラモスさえ、今何が起こっているのかが、理解できない。
5機の背後に佇んだ神威が、日本刀を振り下ろし、空気を切った、その時。
悲鳴、号泣、絶叫。
4人の両腕が、鮮血を噴出させながらバラバラに輪切りとなって落ちていく。両腕を斬られた事による出血で、赤黒い水溜りとなっていく地面。
天を仰ぎ、嘔吐しながら地面を転がりまわる4人。目には既に生気は無く、4人全員、そのまま意識を失った。
このまま死ぬのも時間の問題だろう。バラモスは茫然と血の海を見つめていたが、事態を把握したのか息を荒くして狼狽しながら尻餅をつき、5機に絶叫する。
天を仰ぎ、嘔吐しながら地面を転がりまわる4人。目には既に生気は無く、4人全員、そのまま意識を失った。
このまま死ぬのも時間の問題だろう。バラモスは茫然と血の海を見つめていたが、事態を把握したのか息を荒くして狼狽しながら尻餅をつき、5機に絶叫する。
「場、馬鹿、馬鹿野郎! 俺を、俺を早く守れ!」
<―――――――光陰>
日本刀を突き付け、神威が粒子を放出しながらバラモスに向かって踏み出す。しかし踏み出す瞬間を、認識する事は出来ない。
神威はマナを放出しながら高速で移動する。音も、気配も、なおかつ存在さえも消して、神威はバラモスを殺害するべく突進する。
神威はマナを放出しながら高速で移動する。音も、気配も、なおかつ存在さえも消して、神威はバラモスを殺害するべく突進する。
だが、その攻撃は二本の刀によって阻まれた。
今まさに突き刺さんとする神威の日本刀を、ムラサがバラモスの前に立ち、刀で日本刀を上下に挟んで、食い止めている。
激しい火花を散らしながら共鳴するかの如くぶつかり合う、刃と刃。神威とムラサのカメラアイが、近距離で睨み合う。
今まさに突き刺さんとする神威の日本刀を、ムラサがバラモスの前に立ち、刀で日本刀を上下に挟んで、食い止めている。
激しい火花を散らしながら共鳴するかの如くぶつかり合う、刃と刃。神威とムラサのカメラアイが、近距離で睨み合う。
<早く逃げろ! 死にたいのか!>
ムラサの言葉にバラモスはガクガクと首を上下させると、急いで立ち上がり、出口へと走っていった。
途端、神威の姿が煙の様に消えた。またも姿を消す、神威。しかしムラサは気付いている。その場を動かず、ただその時を、待つ。
途端、神威の姿が煙の様に消えた。またも姿を消す、神威。しかしムラサは気付いている。その場を動かず、ただその時を、待つ。
<俺にまやかしは……通じん!>
体を反転させながらしゃがむ。上部数ミリを、二体の神威が凄まじいスピードで日本刀を振りぬく。どちらも残像……か。
刀を構えなおして立ち上がり、気配を探ろうとするが、一切の気配も感じない。空中に漂っている紅い粒子からここに居る事だけは、分かる。
しかしここには神子……はいない。あのライオネルという男も、神子かは知らないがこの場からはいなくなった。
何れマナが尽きた時、その時にお前を仕留めてやろう。と、アーチェの姿が見えた。奴の姿を捉える事が出来たのだろうか? 声を掛ける。
刀を構えなおして立ち上がり、気配を探ろうとするが、一切の気配も感じない。空中に漂っている紅い粒子からここに居る事だけは、分かる。
しかしここには神子……はいない。あのライオネルという男も、神子かは知らないがこの場からはいなくなった。
何れマナが尽きた時、その時にお前を仕留めてやろう。と、アーチェの姿が見えた。奴の姿を捉える事が出来たのだろうか? 声を掛ける。
<アーチェ!>
遅、かった。
気付いた時には、ムラサの首元を、日本刀が突き刺していた。アーチェを模った影がうっすらと消え去り、代わりに―――――――――。
途切れそうな意識の中で、ムラサは思い出す。アーチェの姿をしていた――――――神威が、此方に向かって突っ込んでくるのを。こいつは……何だ?
気付いた時には、ムラサの首元を、日本刀が突き刺していた。アーチェを模った影がうっすらと消え去り、代わりに―――――――――。
途切れそうな意識の中で、ムラサは思い出す。アーチェの姿をしていた――――――神威が、此方に向かって突っ込んでくるのを。こいつは……何だ?
<貴……様……>
<陽炎を見破ったのは見事だ。だが悪いな。私は分身を作るだけでなく、他人を装う事も出来る>
<―――――――――幻惑>
神威はそのまま、日本刀を振り切ると、流れる様にムラサの頭部を切断した。愚鈍な音を立てて、ムラサの頭部が落ちる。
切断面には一切のブレも無く、感嘆する程に美しく斬られている。力無く、ムラサの胴体が崩れ落ちる。再び、光陰。
切断面には一切のブレも無く、感嘆する程に美しく斬られている。力無く、ムラサの胴体が崩れ落ちる。再び、光陰。
<そ……こかぁ!>
ムラサが倒された音を感じ、本物のアーチェがサブマシンガンの引き金を引いて、その音の方向へと乱射する。
しかし幾ら乱射しようが、弾痕が無造作に出来ていくだけで、神威を捉える事は全く出来ない。薬莢ばかりが無駄に消費され、空気を灰色に染める。
やがて一方のサブマシンガンが弾切れを起こした。アーチェは舌を打ってそれを投げ捨てる。と、聞こえてくる、音。
しかし幾ら乱射しようが、弾痕が無造作に出来ていくだけで、神威を捉える事は全く出来ない。薬莢ばかりが無駄に消費され、空気を灰色に染める。
やがて一方のサブマシンガンが弾切れを起こした。アーチェは舌を打ってそれを投げ捨てる。と、聞こえてくる、音。
黒服達の死体によって作られた血だまりを踏む音。地面に目を向けると、血によって作られる、足跡。
何故こんな簡単な事に気づかない……アーチェは自らの歯がゆさを感じながら、その足跡を追う。足跡は自分の方に向かっ……。
まさか。アーチェが上を見上げると、日本刀を両手持ちして、落ちてくる、神威。構えからして振り下ろす事で一刀両断でもしようと考えているのか。
だが……サブマシンガンを両手で構えて、スコープ越しに神威を狙い撃つ。距離からしても、状況からしても、此方が圧倒的に有利だ。その刀ごと、粉砕してやる。
何故こんな簡単な事に気づかない……アーチェは自らの歯がゆさを感じながら、その足跡を追う。足跡は自分の方に向かっ……。
まさか。アーチェが上を見上げると、日本刀を両手持ちして、落ちてくる、神威。構えからして振り下ろす事で一刀両断でもしようと考えているのか。
だが……サブマシンガンを両手で構えて、スコープ越しに神威を狙い撃つ。距離からしても、状況からしても、此方が圧倒的に有利だ。その刀ごと、粉砕してやる。
<空中なら……避けられまい!>
<――――――――――――三日月>
サブマシンガンごと、神威はアーチェを左右に一刀両断する。引き金を引く間など、無い。
アーチェを葬った際の日本刀の軌道は綺麗な弧を描いており、尚且つ、バリアを張る暇も与えないほどに、早い。
ゆらりと立ち上がり、神威は右手に日本刀を持ちなおすと、その先に見える、二体へと視線を送る。
アーチェを葬った際の日本刀の軌道は綺麗な弧を描いており、尚且つ、バリアを張る暇も与えないほどに、早い。
ゆらりと立ち上がり、神威は右手に日本刀を持ちなおすと、その先に見える、二体へと視線を送る。
<う……嘘だろ?>
<アーチェとムラサが……こんなに、早く……?>
<アーチェとムラサが……こんなに、早く……?>
呆然か、驚愕か。残り3機の内の2機、ハヴェとアルが、立ち竦んで此方に歩いてくる神威を見ている。その脚は、後退しようかと考えているのか、少しづつ後ずさっている。
それに気付いたバウムが、2機に向かって声を張り上げる。しかしその声には、どうしようもない焦りが滲んでいる。
それに気付いたバウムが、2機に向かって声を張り上げる。しかしその声には、どうしようもない焦りが滲んでいる。
<何をやってる貴様ら! 早く戦え!>
<だ、だがバウム! 奴はあまりにも規格外すぎる! あんな無茶苦茶な奴にどう戦えばいい!?>
<どちらにしろ戦わなきゃ死ぬぞ! 早くしろ!>
<だ、だがバウム! 奴はあまりにも規格外すぎる! あんな無茶苦茶な奴にどう戦えばいい!?>
<どちらにしろ戦わなきゃ死ぬぞ! 早くしろ!>
<―――――――――――そうだ、戦え。それが、機械人形の存在意義だ>
そう言いながら神威が日本刀を逆手持ちする。一歩、二歩と、確実に、三機と神威の距離は縮まっていく。
<か……勝手にしやがれ! 俺は逃げる! 無理だ!>
アルが後退りしながら神威から距離を取り続ける。一方、二機はその場から動こうとはしない。逆に――――――――――。
<……どうせ死ぬなら、一発喰らわしてやる!>
<俺たちを、舐めるなぁぁぁぁぁぁ!>
<俺たちを、舐めるなぁぁぁぁぁぁ!>
ハヴェとバウムが叫びながら神威に向かって武器を向けて、引き金を、引いた。
<うおぉぉぉぉぉぉぉ!!>
<―――――――――――――空蝉>
光陰を発動しながら、神威がまず、バウムが放ったバズーカ砲より射出された砲弾を上下に切断する。
偶然にも斬られた砲弾は、そのまま出入り口から外へと飛んでいく。日本刀を構えたままバウムの腹部を、斬る。
最初からハヴェなど眼中に無い。ライフルは当る筈もなく、日本刀を持ちなおし、ハヴェの頭部を、斬る。
偶然にも斬られた砲弾は、そのまま出入り口から外へと飛んでいく。日本刀を構えたままバウムの腹部を、斬る。
最初からハヴェなど眼中に無い。ライフルは当る筈もなく、日本刀を持ちなおし、ハヴェの頭部を、斬る。
出入り口近くで着弾した砲弾が爆発して、神威の背後で爆風が巻き起こる。
軽く地面が揺れるが、何の反応も見せず、静かに日本刀を振り下ろし、神威は残った一機へと体を向ける。
軽く地面が揺れるが、何の反応も見せず、静かに日本刀を振り下ろし、神威は残った一機へと体を向ける。
3分も経たずに、バラモスの部下はオートマタ一機を残して全て沈んだ。ボスであるバモラスの姿はとっくの昔に消えている。
どこに行ったのかなどは考えるまでも無いだろう。追いつめられたアルが、土下座をし、頭を下げて必死に命乞いをする。
どこに行ったのかなどは考えるまでも無いだろう。追いつめられたアルが、土下座をし、頭を下げて必死に命乞いをする。
<なぁ……頼むよ。俺はただ……ただ、雇われただけなんだ。その、何だ……>
神威は無言のまま、歩く。
<頼む、頼むから助けてくれ! 俺はまだ……死にたくないんだよ!>
神威は落ちているハヴェのライフルを、アル目がけて蹴り付ける。
アルの手元に滑り込む、ライフル。アルは頭を上げ―――――――固まる。
アルの手元に滑り込む、ライフル。アルは頭を上げ―――――――固まる。
<戦え>
<それを持ち、私と戦え。私を……愉しませろ>
カメラアイの奥から見える、ドス黒く輝く、殺意。神威の体を纏う、全身から放出される紅いマナが、凄まじく燃えたぎる業火に見える。
その迫力に気圧されたのか、アルは立ち上がり、ライフルを―――――――――――取らない。腰部の手榴弾をもいでピンを抜くと、地面に叩きつけた。
辺り一面を覆う、真っ白い煙。アルは全ての装備を捨てて、出入り口へと足早に去っていく。
辺り一面を覆う、真っ白い煙。アルは全ての装備を捨てて、出入り口へと足早に去っていく。
<馬鹿が。誰が死ぬために戦うかっつーの>
これだけの煙だ、そう易々と自分を見つけられる訳がない。神威……最初はどうせ見かけ倒しの三流だとは思っていた。
しかし、その考えはどう考えても間違いであった事に、アルはホトホト後悔する。こんな任務、受けるんじゃないかった。
しかし、その考えはどう考えても間違いであった事に、アルはホトホト後悔する。こんな任務、受けるんじゃないかった。
誇張でも何でも無く、アレは化物だ。強いとか弱いとか、そういうレベルじゃない。
オートマタの規格を遥かに飛び越えてやがる。もう二度と、奴には関わりたくない。絶対に。
オートマタの規格を遥かに飛び越えてやがる。もう二度と、奴には関わりたくない。絶対に。
辛くもガレージ内から脱出する。
爆発によって出来た深い凹凸にビビりながらも、眩しい太陽が自分を祝福している様に感じてアルは歓喜に満ちる。
さて、このままここから逃げ出して適当な所で――――――――――――。
爆発によって出来た深い凹凸にビビりながらも、眩しい太陽が自分を祝福している様に感じてアルは歓喜に満ちる。
さて、このままここから逃げ出して適当な所で――――――――――――。
<―――――――――突破>
<え?>
<え?>
次の瞬間、アルの腹部目がけて、日本刀が背部まで突き抜けるほどに深く突き刺さる。
自分に何が起こっているかも分からないまま、アルはガレージの真ん中まで突き飛ばされた。目の前でカムイの姿が消えて、アルは両ひざを付く。
気付けば周りを囲む、8機の神威。右を向こうが、左を向こうが、救いは、無い。
自分に何が起こっているかも分からないまま、アルはガレージの真ん中まで突き飛ばされた。目の前でカムイの姿が消えて、アルは両ひざを付く。
気付けば周りを囲む、8機の神威。右を向こうが、左を向こうが、救いは、無い。
<……嘘……だって……>
何か言おうとした瞬間、8体の神威によって、アルは腹部に日本刀を突き刺されると、頭上高くに持ち上げられた。
既に意識は切れても良い筈だが、残酷な事にはっきりと、自分に何が起こっているかが理解できている。
既に意識は切れても良い筈だが、残酷な事にはっきりと、自分に何が起こっているかが理解できている。
頭上で日本刀を構えて落ちてくる、神威の姿が見え―――――――――――――。
<―――――――――――蜃気楼>
息を荒げながら必死な形相で、バラモスは森の中を走る。オートマタを一機飼ってるとは聞いたが、あんなイカれてる奴だとは思わなかった。
常々ライオネルはやばいという噂は耳に挟んでいたが、一笑に付していたのだ。どうせどっかの馬鹿が、尾ひれを付けた噂を流していると。
常々ライオネルはやばいという噂は耳に挟んでいたが、一笑に付していたのだ。どうせどっかの馬鹿が、尾ひれを付けた噂を流していると。
違った。本気でライオネルはやばい。いや、ライオネルというか、奴が飼っているオートマタがやばすぎる。
グスタフがどっちに殺されたかは知らないが、あれほどのオートマタを飼っている奴に挑むなんて方が間違っていたんだ。
……だが何にせよこうやって無様ながらも逃げ果せる事が出来た。待ってろ、ライオネル・オルバー。この仕返しは必
グスタフがどっちに殺されたかは知らないが、あれほどのオートマタを飼っている奴に挑むなんて方が間違っていたんだ。
……だが何にせよこうやって無様ながらも逃げ果せる事が出来た。待ってろ、ライオネル・オルバー。この仕返しは必
バラモスの頭部を、冷めきった銃弾が貫いた。近くの木々が、バラモスの血によって汚らしく染まり、バラモスは地面に突っ伏した。
正確に頭部から額に掛けてぶち込まれた銃弾によって、バラモスはライオネルに仕返しする事無く、その幕を閉じた。
正確に頭部から額に掛けてぶち込まれた銃弾によって、バラモスはライオネルに仕返しする事無く、その幕を閉じた。
「ふぅ……」
ライオネルはバラモスが死んだことを確認すると、義手を下して、狙撃用に改造したライフル銃を床に置いた。義手とはいえ、立ったままの狙撃はキツイ。
決して刃向かった者に容赦はしない。それがライオネルの流儀だ。故にトドメはしっかりと決めさせて貰う。
バラモスにしろ、グスタフにしろ。この兄弟の最大の不幸は、只、一つ。
決して刃向かった者に容赦はしない。それがライオネルの流儀だ。故にトドメはしっかりと決めさせて貰う。
バラモスにしろ、グスタフにしろ。この兄弟の最大の不幸は、只、一つ。
ライオネルを、敵に回した事、ただそれだけだ。
煙草を取り出し一本、口に咥えて火を点ける。小さな充足感を感じながら、ライオネルは呟いた。
煙草を取り出し一本、口に咥えて火を点ける。小さな充足感を感じながら、ライオネルは呟いた。
「早く戦いて―な……赤毛の、坊主」
<灰は灰に……塵は、塵に>
アンシェイルがそう呟くと、野良達を突き刺していたエウィスの先端が、風船のように膨らむ。同時に野良達の体が上から赤くなっていき――――――――。
エウィスが破裂した瞬間、野良達も四散する。しかし残骸は残らない。ただ、マナが漂うだけだ。
元から、野良オートマタ等いなかったかのように、静寂を取り戻す。
エウィスが破裂した瞬間、野良達も四散する。しかし残骸は残らない。ただ、マナが漂うだけだ。
元から、野良オートマタ等いなかったかのように、静寂を取り戻す。
<お疲れ、エグザス>
女性がそう言うと、アンシェイルは光となって四散し、聖書へと戻る。女性はそれを拾い、しまう。
「目的地は遠いな……」
蒼い空を見上げ、一言。
「まぁ……良いか」
「ご飯?」
「この近くに美味しい定食屋さんがあるんです。良かったらどうかなって」
「この近くに美味しい定食屋さんがあるんです。良かったらどうかなって」
そう言って遥はリシェルの返答を待つ。リシェルはうーんと悩みながら、申し訳なさそうな表情で、三人に聞いた。
「私も……一緒で良いの? 何か私が入っちゃ喋りにくくなるんじゃない?」
「大丈夫ですよ! 多分弾みます、会話!」
何故か隆昭が自信ありげにリシェルにそう言う。その様を、ジト目で見るメルフィー。
隆昭の言葉に頷きながら、遥がリシェルに言う。
何故か隆昭が自信ありげにリシェルにそう言う。その様を、ジト目で見るメルフィー。
隆昭の言葉に頷きながら、遥がリシェルに言う。
「これも何かの機会だと思って。ほら、一期一会って言葉もあるし」
遥の言葉に隆昭とメルフィーが頷く。リシェルは迷う様な動作を見せながらも、そっと顔を上げて頷いた。
「分かった。あ、でもその前に」
そう言いながらショルダーバックの上に置いた本を持って、言った。
「この本、買ってからね」
第 9 話
獰猛
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