――――――――――――――――――――
屋上での京介の問いに祈は
「事情を説明するためにこれから私に同行して欲しい」
と、今朝、京介が身体に視線を向けたときの年相応の潔癖な反応とは違い、落ち着いた表情で返答をした。
そして今は祈が呼び出した黒塗りのゴツい乗用車で移動しているところだ。
地味なスーツを身につけた体格のいい男性を間に挟んで、後部座席に京介と祈が座っている。
学園を出た車はオフィス関係が集まっている地区に向かっている。
どうやら光司からの情報通り、用件の内容は本当に『SOUMA』関係らしい。
(これだけ大袈裟な出迎えで新薬の実験台とかだったら笑えるよなー)
窓の外を眺めながらそんなことを考えていると、
「物部さん」
祈が声をかけてきた。
振り向くと、間に人を挟んでいる為、やや身を乗り出すようにして祈がこちらに視線を向けている。
「何か用かい?春日さん」
「いえ……、詳しい内容を説明していないのに、ご協力頂けたのは何故なのか、教えて頂ければと。
今朝の様子では協力して頂けるとは思っていませんでした」
「ん?……あぁ、手紙の内容は知らないのか」
そう言って京介はズボンの尻ポケットから先程祈に渡された封筒を取り出し、
「読んでみ」
無造作に突き付ける。
「……はい」
丁寧な手付きで取り出された一枚の便箋、そこには、
―この手紙を持参した人物の命令に必ず従うこと。
―辞退する事も疑問を差し挟む事もしてはならない。
―何があろうとも命令を全うすること。
それだけが書かれていた。
「…………これが、理由ですか?」
「そ。それが理由」
しばらく手元の便箋と京介の顔を見比べるように視線を往復させていた祈だったが、
「……分かりました。有り難うございます」
そう言って元通りにした封筒を京介に返した。
「いえいえ」
軽く応じて封筒を再びしまう京介。
(……やっぱり見くびられたか)
上手く隠してはいたが、視線と声に僅かに軽蔑の響きが現れていた。
朝の言動と今の手紙の内容から
『十代後半にもなって、年下の女の子には強い態度を取るクセに、父親から頭ごなしに命令されて唯々諾々と従う人間』
と判断されたのだろう。
(性差別主義者のファザコン、しかも男。……表現してみると最低な部類の人間だよなー)
手紙の差出人は京介の保護者だ。
屋上で読んだ時も、書かれていた内容について京介の頭に浮かんだのは、
(字の勢いから見ると元気そうだな)
という感想ともう一つ、
(俺の使い道がようやく決まったのか。良かったなぁ、ホントに)
少しだけ皮肉が混じった『父親』に対する労いの気持ちだった。
「事情を説明するためにこれから私に同行して欲しい」
と、今朝、京介が身体に視線を向けたときの年相応の潔癖な反応とは違い、落ち着いた表情で返答をした。
そして今は祈が呼び出した黒塗りのゴツい乗用車で移動しているところだ。
地味なスーツを身につけた体格のいい男性を間に挟んで、後部座席に京介と祈が座っている。
学園を出た車はオフィス関係が集まっている地区に向かっている。
どうやら光司からの情報通り、用件の内容は本当に『SOUMA』関係らしい。
(これだけ大袈裟な出迎えで新薬の実験台とかだったら笑えるよなー)
窓の外を眺めながらそんなことを考えていると、
「物部さん」
祈が声をかけてきた。
振り向くと、間に人を挟んでいる為、やや身を乗り出すようにして祈がこちらに視線を向けている。
「何か用かい?春日さん」
「いえ……、詳しい内容を説明していないのに、ご協力頂けたのは何故なのか、教えて頂ければと。
今朝の様子では協力して頂けるとは思っていませんでした」
「ん?……あぁ、手紙の内容は知らないのか」
そう言って京介はズボンの尻ポケットから先程祈に渡された封筒を取り出し、
「読んでみ」
無造作に突き付ける。
「……はい」
丁寧な手付きで取り出された一枚の便箋、そこには、
―この手紙を持参した人物の命令に必ず従うこと。
―辞退する事も疑問を差し挟む事もしてはならない。
―何があろうとも命令を全うすること。
それだけが書かれていた。
「…………これが、理由ですか?」
「そ。それが理由」
しばらく手元の便箋と京介の顔を見比べるように視線を往復させていた祈だったが、
「……分かりました。有り難うございます」
そう言って元通りにした封筒を京介に返した。
「いえいえ」
軽く応じて封筒を再びしまう京介。
(……やっぱり見くびられたか)
上手く隠してはいたが、視線と声に僅かに軽蔑の響きが現れていた。
朝の言動と今の手紙の内容から
『十代後半にもなって、年下の女の子には強い態度を取るクセに、父親から頭ごなしに命令されて唯々諾々と従う人間』
と判断されたのだろう。
(性差別主義者のファザコン、しかも男。……表現してみると最低な部類の人間だよなー)
手紙の差出人は京介の保護者だ。
屋上で読んだ時も、書かれていた内容について京介の頭に浮かんだのは、
(字の勢いから見ると元気そうだな)
という感想ともう一つ、
(俺の使い道がようやく決まったのか。良かったなぁ、ホントに)
少しだけ皮肉が混じった『父親』に対する労いの気持ちだった。
――――――――――――――――――――
出発から20分程して『SOUMA』わだつみ支社前に車が到着した。
ビルの前で待機していた、これも地味なスーツの男性が扉を開け、祈、男性、京介の順に車から降りる。
「では物部さん、こちらへ」
地味スーツの男と共に先に立って促そうとする祈だったが、
「え、俺の荷物は?」
と、京介が立ち止まった。
「……こちらで保管しておきます。用件が済み次第お返ししますので」
何を言い出すのか、とこちらを振り返った祈に自分の願いを口にする。
「木刀だけでも」
「……申し訳ありませんが、これから向かう場所には持ち込めませんので」
それに対して祈は小さく息を吐くと、京介の願いを婉曲な表現で退けた。
「了解。悪かったね」
謝罪の言葉を口にして祈達の後に続く。
自動ドアを潜り、ロビーを抜けてしばらく歩き、奥まった場所にある扉の前へ。
網膜と掌紋、二つの生体認証と暗証番号による鍵をを武中が解除し、扉を開けて二人を中に促す。
扉を潜ると短い通路があり、その通路の先にはエレベーターの扉らしき物が一つだけ設置されている。
祈、京介、そして武中と並んで、扉の前に立つ。
今度は祈が二種類の生体認証と暗証番号入力を行い、扉を開く。
その場の全員が乗り込んだところで、
「では、『跳びます』。お気を付けて」
そう告げた祈は、通常のエレベーターであれば階数ボタンの位置にあるパネルに触れ、小さく何事かを呟いた。
ビルの前で待機していた、これも地味なスーツの男性が扉を開け、祈、男性、京介の順に車から降りる。
「では物部さん、こちらへ」
地味スーツの男と共に先に立って促そうとする祈だったが、
「え、俺の荷物は?」
と、京介が立ち止まった。
「……こちらで保管しておきます。用件が済み次第お返ししますので」
何を言い出すのか、とこちらを振り返った祈に自分の願いを口にする。
「木刀だけでも」
「……申し訳ありませんが、これから向かう場所には持ち込めませんので」
それに対して祈は小さく息を吐くと、京介の願いを婉曲な表現で退けた。
「了解。悪かったね」
謝罪の言葉を口にして祈達の後に続く。
自動ドアを潜り、ロビーを抜けてしばらく歩き、奥まった場所にある扉の前へ。
網膜と掌紋、二つの生体認証と暗証番号による鍵をを武中が解除し、扉を開けて二人を中に促す。
扉を潜ると短い通路があり、その通路の先にはエレベーターの扉らしき物が一つだけ設置されている。
祈、京介、そして武中と並んで、扉の前に立つ。
今度は祈が二種類の生体認証と暗証番号入力を行い、扉を開く。
その場の全員が乗り込んだところで、
「では、『跳びます』。お気を付けて」
そう告げた祈は、通常のエレベーターであれば階数ボタンの位置にあるパネルに触れ、小さく何事かを呟いた。
『ブンッ』
その呟きが終わると同時に一瞬、エレベーター特有の浮遊感とは違う、『ずれる』ような感覚を京介は覚えた。
そして祈は扉を開き、先に立って歩き出すと、
「こちらへどうぞ」
と首だけを振り向けて京介を促した。
「はいはい、と」
(……何だ今の?)
先程の感覚を不思議がりながら、京介は祈の後を追い、背後に武中が続く。
乗り込んだときと同じような短い通路を通り、祈が開けた扉を抜けると、
「うぉ……」
眼前に巨大な空間が広がっていた。
そして祈は扉を開き、先に立って歩き出すと、
「こちらへどうぞ」
と首だけを振り向けて京介を促した。
「はいはい、と」
(……何だ今の?)
先程の感覚を不思議がりながら、京介は祈の後を追い、背後に武中が続く。
乗り込んだときと同じような短い通路を通り、祈が開けた扉を抜けると、
「うぉ……」
眼前に巨大な空間が広がっていた。
――――――――――――――――――――
それを表現するとしたら巨大な縦穴だった。
しかし左右、上下、奥行き、全てが桁違いの距離で構成された縦穴そのものよりも、縦穴の中に存在する『それ』が京介の目を引きつけた。
(何だ……これ)
思わず、縦穴の内側に張り出したキャットウォークの手すりから乗り出すようにして、それを凝視する。
真正面に見える『それ』の形状が頭の中の想像と一致すると、京介の視線は徐々に下降していく。
京介の視線の先、『それ』に沿って設置されている足場ではツナギ姿の人影が幾つもキビキビとした動きで作業をしている。
視線が縦穴の底に辿り着くと、そこでもフォークリフト等の作業用車両と人間が走り回っている。
どうやらこの縦穴は『それ』の整備場兼格納庫であるらしい。
(それにしても……)
京介は視線を元の高さに戻すと、こちらの反応を待っているらしい祈に顔を向け、問いかける。
「……春日さん、これってもしかして……」
「えぇ、予想されている通りの物かと」
「巨大ロボット……だよなぁ」
そして再び『それ』-巨大ロボットを今度は細部まで眺める。
尖鋭的な装甲に覆われた、胴体部に比して大きめな腕と脚。
流線的な曲線を描く胴体。
肩や腰を中心に、全身の可動部に装着された、プレートを何枚も重ねた様な形状の追加装甲。
当世具足の兜をより細身に洗練させたような頭部と前立てにあたる位置から両側頭部を通り、後方に突き出した二本の角。
顔面部分の形状は人間のそれと等しいらしく、二つの目と鼻から顎までを覆うフェイスプレートで構成されている。
各所に黒いラインが入った、赤黒い巨大なロボットに思わず魅入られる京介。
(でけー……)
巨大さ、力強さに対する、単純だが圧倒的な畏怖の感情が湧き上がってくる。
「……俺への用件て、このロボットに関係あるの?」
ロボットを見据えたまま、問うてくる京介に祈は、
「一番下でこちらの責任者が待っていますので、そこでお話しします。リフトで降りますのでこちらへ」
そう告げて再び先に立って歩き出す。
(こちらの責任者……?あぁ、作業員が足りないのか)
これだけ巨大な物を整備するのに人手は幾らあっても足りないだろう。
意外に顔が広い保護者が、『SOUMA』の知り合いに将来の就職も含めたアルバイトを斡旋して貰った。
理由はこんなところだろう。
(こんな物作ってるなんてニュースでもやってないし、やっぱり機密とかなんだろうなー)
等と思考しながら、祈のあと武中と共に続いてリフトへ乗り込み縦穴の底へ。
「驚かれないのですね」
「え?あぁロボット見たのに?充分驚いてるって」
「そうですか……?」
二十年以上前に機械式の強化装甲服が正式に戦場に投入された時にはネット上で、
「なにこれまじSFw」「科学の進歩SUGEEEEEEE!」「これならもうすぐ巨大ロボとか出来そうじゃね?w」
「日本人が作るだろjk」「変形合体するヤツなw」「なんというパワーレンジャーwww」
【以上意訳】
などと話題になったと光司から教えられた事があったが、まさか現実にロボットが存在するとは思っても見なかった。
(驚いたのと興奮してるので心臓バクバクいってるもんなー)
驚いているように見えないのは顔の造作と糸目の所為だと京介は思う。
(ん?でもこんなでかいロボット何に使うんだ?)
新しく湧いた疑問に頭を捻っていると、リフトが最下層に到着した。
しかし左右、上下、奥行き、全てが桁違いの距離で構成された縦穴そのものよりも、縦穴の中に存在する『それ』が京介の目を引きつけた。
(何だ……これ)
思わず、縦穴の内側に張り出したキャットウォークの手すりから乗り出すようにして、それを凝視する。
真正面に見える『それ』の形状が頭の中の想像と一致すると、京介の視線は徐々に下降していく。
京介の視線の先、『それ』に沿って設置されている足場ではツナギ姿の人影が幾つもキビキビとした動きで作業をしている。
視線が縦穴の底に辿り着くと、そこでもフォークリフト等の作業用車両と人間が走り回っている。
どうやらこの縦穴は『それ』の整備場兼格納庫であるらしい。
(それにしても……)
京介は視線を元の高さに戻すと、こちらの反応を待っているらしい祈に顔を向け、問いかける。
「……春日さん、これってもしかして……」
「えぇ、予想されている通りの物かと」
「巨大ロボット……だよなぁ」
そして再び『それ』-巨大ロボットを今度は細部まで眺める。
尖鋭的な装甲に覆われた、胴体部に比して大きめな腕と脚。
流線的な曲線を描く胴体。
肩や腰を中心に、全身の可動部に装着された、プレートを何枚も重ねた様な形状の追加装甲。
当世具足の兜をより細身に洗練させたような頭部と前立てにあたる位置から両側頭部を通り、後方に突き出した二本の角。
顔面部分の形状は人間のそれと等しいらしく、二つの目と鼻から顎までを覆うフェイスプレートで構成されている。
各所に黒いラインが入った、赤黒い巨大なロボットに思わず魅入られる京介。
(でけー……)
巨大さ、力強さに対する、単純だが圧倒的な畏怖の感情が湧き上がってくる。
「……俺への用件て、このロボットに関係あるの?」
ロボットを見据えたまま、問うてくる京介に祈は、
「一番下でこちらの責任者が待っていますので、そこでお話しします。リフトで降りますのでこちらへ」
そう告げて再び先に立って歩き出す。
(こちらの責任者……?あぁ、作業員が足りないのか)
これだけ巨大な物を整備するのに人手は幾らあっても足りないだろう。
意外に顔が広い保護者が、『SOUMA』の知り合いに将来の就職も含めたアルバイトを斡旋して貰った。
理由はこんなところだろう。
(こんな物作ってるなんてニュースでもやってないし、やっぱり機密とかなんだろうなー)
等と思考しながら、祈のあと武中と共に続いてリフトへ乗り込み縦穴の底へ。
「驚かれないのですね」
「え?あぁロボット見たのに?充分驚いてるって」
「そうですか……?」
二十年以上前に機械式の強化装甲服が正式に戦場に投入された時にはネット上で、
「なにこれまじSFw」「科学の進歩SUGEEEEEEE!」「これならもうすぐ巨大ロボとか出来そうじゃね?w」
「日本人が作るだろjk」「変形合体するヤツなw」「なんというパワーレンジャーwww」
【以上意訳】
などと話題になったと光司から教えられた事があったが、まさか現実にロボットが存在するとは思っても見なかった。
(驚いたのと興奮してるので心臓バクバクいってるもんなー)
驚いているように見えないのは顔の造作と糸目の所為だと京介は思う。
(ん?でもこんなでかいロボット何に使うんだ?)
新しく湧いた疑問に頭を捻っていると、リフトが最下層に到着した。
――――――――――――――――――――
リフトから降りたところで祈は、「ここでお待ち下さい」とだけ告げて、奥の方に行ってしまった。
どうやら責任者を呼びに行ったらしい。
直立不動な武中に見張られながら、京介は改めて巨大ロボを見た。
(あ、親指がある)
上から見たときはよく分からなかったが、足の先端内側部分は色が分けられ大きく張り出している。
そして視線を上に向ける。
(……ホントでかいよなー)
ビルを見上げた事なら何度もあるが、それが人に近い形をしているということに感覚が追いつかない。
飽きずにロボットを眺めていると、
「ぼーず、そんなにコイツが気に入ったか?」
と、錆を含んだ低い声がかけられた。
振り向くと、丸レンズのサングラスをかけたツナギ姿の人物が立っており、
「俺が技術部長のディルク・ズィルバー・丹羽(にわ)だ。宜しく頼む」
自己紹介をしながらサングラスを外し、右手を差し出してきた。
「あ、初めまして。物部・京介です」
自己紹介を返しつつ手を握り返し、目の前の人物―丹羽を観察する。
小柄な祈よりも更に低い身長だが、広い肩とそこらの格闘家等とは比べ物にならない筋肉を備えた厚みのある身体。
彫りの深い顔立ちに青灰色の瞳、顔の下半分を覆う灰色の立派な髭。
頭には幾何学模様の入ったバンダナを巻いており、そこから見える髪も髭と同じ灰色だ。
と、そこまで観察した京介は奇妙な特徴を見つけた。
(あれ?)
サングラスのツルが掛かっている耳、その先端が尖っているのだ。
(……珍しい形してるなぁ)
そう感想を抱きながら視線を丹羽の顔に戻した京介に、技術部長は小さく笑いながら耳を摘んでみせる。
「こいつぁ、俺の親父様からの遺伝でな。……で、どうだ?フツヌシを見た感想は」
片方の眉を上げてそう尋ねてくる丹羽に、
「え……あのロボットの名前って、フツヌシ、なんですか?」
京介は戸惑った様子で言葉を返す。
「そうだ。この国の剣神にして武神、経津主神(ふつぬしのかみ)から戴いた名前だ。……聞かなかったのか?」
「……え、えぇ。ちょっと聞き忘れてまして……」
訝しげな丹羽に対して言葉を濁す京介。
「えーと、それで俺はどんな作業をすればいいんですか?先ずは見習いからでしょうけど……」
手を放しながら誤魔化すように尋ねる京介に対して、丹羽は顎髭を撫でながら眉を顰める。
「……やっぱ何か、行き違いがあるみてぇだな?」
「え?」
「物部さん、お待たせしました」
疑問の声を上げた京介に、声がかけられた。
声がした方向に顔を向けると、声をかけてきた祈と、その隣に軍服のような詰め襟の制服を着た初老の男性が立っていた。
男性は真っ直ぐ京介に近付くと、軽く頭を下げ、真面目な表情で口を開いた。
「初めまして、物部・京介君。私がここの長を勤めている若本・正成(わかもと・まさなり)だ。所用で少し遅れてしまった。申し訳ない」
「初めまして……えーと、若本さん。それで、俺、いや私は何の為に呼ばれたんでしょうか?」
会釈を返し、問いかけてくる京介に、若本は真面目な表情のままその言葉を告げた。
「物部・京介くん。君にフツヌシの操縦者になって貰いたい」
「……え?」
告げられた言葉の内容を理解し切れず間の抜けた声を出す京介。そこに、
「お願いします。フツヌシの操縦者として、私達に力を貸して下さい」
横合いから言葉を重ねた祈が頭を下げた。
数瞬の沈黙。
「………………俺が、ロボットのパイロットに?」
予想を遙かに越える、それどころか全く別方向の役目を提示され、完全に狼狽した京介はその場にいる人間から目を逸らし、思わず『フツヌシ』を見上げる。
だが、剣神の名を持つ鋼の巨人に自分の混乱を解決する答えが示されている筈も無く、
「……嘘だろ……」
『フツヌシ』を見上げたまま、京介は呆然と呟いた。
どうやら責任者を呼びに行ったらしい。
直立不動な武中に見張られながら、京介は改めて巨大ロボを見た。
(あ、親指がある)
上から見たときはよく分からなかったが、足の先端内側部分は色が分けられ大きく張り出している。
そして視線を上に向ける。
(……ホントでかいよなー)
ビルを見上げた事なら何度もあるが、それが人に近い形をしているということに感覚が追いつかない。
飽きずにロボットを眺めていると、
「ぼーず、そんなにコイツが気に入ったか?」
と、錆を含んだ低い声がかけられた。
振り向くと、丸レンズのサングラスをかけたツナギ姿の人物が立っており、
「俺が技術部長のディルク・ズィルバー・丹羽(にわ)だ。宜しく頼む」
自己紹介をしながらサングラスを外し、右手を差し出してきた。
「あ、初めまして。物部・京介です」
自己紹介を返しつつ手を握り返し、目の前の人物―丹羽を観察する。
小柄な祈よりも更に低い身長だが、広い肩とそこらの格闘家等とは比べ物にならない筋肉を備えた厚みのある身体。
彫りの深い顔立ちに青灰色の瞳、顔の下半分を覆う灰色の立派な髭。
頭には幾何学模様の入ったバンダナを巻いており、そこから見える髪も髭と同じ灰色だ。
と、そこまで観察した京介は奇妙な特徴を見つけた。
(あれ?)
サングラスのツルが掛かっている耳、その先端が尖っているのだ。
(……珍しい形してるなぁ)
そう感想を抱きながら視線を丹羽の顔に戻した京介に、技術部長は小さく笑いながら耳を摘んでみせる。
「こいつぁ、俺の親父様からの遺伝でな。……で、どうだ?フツヌシを見た感想は」
片方の眉を上げてそう尋ねてくる丹羽に、
「え……あのロボットの名前って、フツヌシ、なんですか?」
京介は戸惑った様子で言葉を返す。
「そうだ。この国の剣神にして武神、経津主神(ふつぬしのかみ)から戴いた名前だ。……聞かなかったのか?」
「……え、えぇ。ちょっと聞き忘れてまして……」
訝しげな丹羽に対して言葉を濁す京介。
「えーと、それで俺はどんな作業をすればいいんですか?先ずは見習いからでしょうけど……」
手を放しながら誤魔化すように尋ねる京介に対して、丹羽は顎髭を撫でながら眉を顰める。
「……やっぱ何か、行き違いがあるみてぇだな?」
「え?」
「物部さん、お待たせしました」
疑問の声を上げた京介に、声がかけられた。
声がした方向に顔を向けると、声をかけてきた祈と、その隣に軍服のような詰め襟の制服を着た初老の男性が立っていた。
男性は真っ直ぐ京介に近付くと、軽く頭を下げ、真面目な表情で口を開いた。
「初めまして、物部・京介君。私がここの長を勤めている若本・正成(わかもと・まさなり)だ。所用で少し遅れてしまった。申し訳ない」
「初めまして……えーと、若本さん。それで、俺、いや私は何の為に呼ばれたんでしょうか?」
会釈を返し、問いかけてくる京介に、若本は真面目な表情のままその言葉を告げた。
「物部・京介くん。君にフツヌシの操縦者になって貰いたい」
「……え?」
告げられた言葉の内容を理解し切れず間の抜けた声を出す京介。そこに、
「お願いします。フツヌシの操縦者として、私達に力を貸して下さい」
横合いから言葉を重ねた祈が頭を下げた。
数瞬の沈黙。
「………………俺が、ロボットのパイロットに?」
予想を遙かに越える、それどころか全く別方向の役目を提示され、完全に狼狽した京介はその場にいる人間から目を逸らし、思わず『フツヌシ』を見上げる。
だが、剣神の名を持つ鋼の巨人に自分の混乱を解決する答えが示されている筈も無く、
「……嘘だろ……」
『フツヌシ』を見上げたまま、京介は呆然と呟いた。
――――――――――――――――――――
「詳しい事情は階上で話そうか。ここでは作業の邪魔になる」
呆然としている京介に若本はそう言い、丹羽に軽く頭を下げる。
「丹羽部長。では少し失礼します」
「おう。色々説明しなきゃならんモノがあっから、終わったらぼーず連れてきてくれよ?」
丹羽はそう答え、作業に戻るのかその場を後にした。
「では物部くん、付いてきてくれ。承諾するにも拒否するにも、こちらの事情を説明しなければ判断出来ないだろう」
「…分かりました」
京介の返事を聞いた若本は、控えていた武中に軽く頷くと先頭に立って歩き始めた。
前を行く若本の動きを観察した京介は、ただ歩いている、その後姿の隙の無さに軽く衝撃を受けた。
(武術家……か?いや、何か違う……)
先程顔を合わせたときも、銀縁の丸眼鏡に力強そうな顎のライン、短く切り揃えられた髪という外見から精悍な印象を受けたが、左頬の刃物で付けられた様な傷といい、どこか普通ではなさそうな雰囲気がある。
大股に歩く若本の後を祈と京介が追うのを確認して、武中はその場を立ち去った。
若本を先頭に3人は、電動らしい作業用車両の通行帯を避けて壁に沿って移動し、先ほどリフトから降りた場所とは別の場所まで移動する。
「少し待ってくれ」
立ち止まった若本が壁の一カ所を軽くノックすると、壁が展開し、その奥に上方へ続く階段が現れた。
「ここを上がってエレベーターを2回程乗り継げば応接室だ。では行こうか」
そう言って階段を上り始めた若本に祈と、
(…背後で扉が閉まるのって怖いよなー)
壁が元通りに閉じるのを見届けた京介が続いた
呆然としている京介に若本はそう言い、丹羽に軽く頭を下げる。
「丹羽部長。では少し失礼します」
「おう。色々説明しなきゃならんモノがあっから、終わったらぼーず連れてきてくれよ?」
丹羽はそう答え、作業に戻るのかその場を後にした。
「では物部くん、付いてきてくれ。承諾するにも拒否するにも、こちらの事情を説明しなければ判断出来ないだろう」
「…分かりました」
京介の返事を聞いた若本は、控えていた武中に軽く頷くと先頭に立って歩き始めた。
前を行く若本の動きを観察した京介は、ただ歩いている、その後姿の隙の無さに軽く衝撃を受けた。
(武術家……か?いや、何か違う……)
先程顔を合わせたときも、銀縁の丸眼鏡に力強そうな顎のライン、短く切り揃えられた髪という外見から精悍な印象を受けたが、左頬の刃物で付けられた様な傷といい、どこか普通ではなさそうな雰囲気がある。
大股に歩く若本の後を祈と京介が追うのを確認して、武中はその場を立ち去った。
若本を先頭に3人は、電動らしい作業用車両の通行帯を避けて壁に沿って移動し、先ほどリフトから降りた場所とは別の場所まで移動する。
「少し待ってくれ」
立ち止まった若本が壁の一カ所を軽くノックすると、壁が展開し、その奥に上方へ続く階段が現れた。
「ここを上がってエレベーターを2回程乗り継げば応接室だ。では行こうか」
そう言って階段を上り始めた若本に祈と、
(…背後で扉が閉まるのって怖いよなー)
壁が元通りに閉じるのを見届けた京介が続いた
――――――――――――――――――――
若本の後について歩くこと数分、扉に『第二応接室』と書かれた部屋の前に一行はたどり着いた。
「さぁ、入ってくれ。すぐにお茶を持って来させ……」
扉を開けながら喋っていた若本の言葉がそこで止まった。
「?」
固まっている若本の肩越しに応接室の中を覗くと、大きめのテーブルとソファが数脚置かれており、
ソファの一つに座った十代に入って間もないと思われる白髪の少女が、両手で持った大きなどら焼きにかぶりついているところだった。
入り口で固まっているこちらに気づいた少女は口の中のどら焼きをよく噛んでから飲み込むと
「遅かったのぅ若本。茶と茶菓子は先に貰っておるぞ」
そう言って、持っていたどら焼きを自分の皿に置き、お茶を取り上げて一啜り。
「遅れて申し訳ありません。……それでは二人とも入ってくれ」
頭を下げる若本に京介は疑問の視線を向ける。
(……こんな小さな子に敬語?)
祈に続いて室内に入り、それぞれがソファに腰を下ろす中、京介は白髪を右サイドで束ねた少女を観察する。
視線に気づいたのか、黒のライダースジャケットに白いマオカラーシャツと褪色したジーンズという服装の少女は、茶碗を持ったまま、中性的な美貌の中でも目立つツリ目気味の目を真っ直ぐ京介に向け、口を開いた。
「久しぶりだな、ちび助。元気そうでなによりだ」
「ちび、助?」
微笑みながら放たれたその言葉に京介は戸惑いを覚えたが、
(初対面の年上にどういう呼び方を……って、あれ?)
記憶の中に、その呼び方に引っかかるものがあった。だがそれが意識されるよりも早く、
「ほれ」
白髪の少女が茶碗を京介に投げ放った。
「さぁ、入ってくれ。すぐにお茶を持って来させ……」
扉を開けながら喋っていた若本の言葉がそこで止まった。
「?」
固まっている若本の肩越しに応接室の中を覗くと、大きめのテーブルとソファが数脚置かれており、
ソファの一つに座った十代に入って間もないと思われる白髪の少女が、両手で持った大きなどら焼きにかぶりついているところだった。
入り口で固まっているこちらに気づいた少女は口の中のどら焼きをよく噛んでから飲み込むと
「遅かったのぅ若本。茶と茶菓子は先に貰っておるぞ」
そう言って、持っていたどら焼きを自分の皿に置き、お茶を取り上げて一啜り。
「遅れて申し訳ありません。……それでは二人とも入ってくれ」
頭を下げる若本に京介は疑問の視線を向ける。
(……こんな小さな子に敬語?)
祈に続いて室内に入り、それぞれがソファに腰を下ろす中、京介は白髪を右サイドで束ねた少女を観察する。
視線に気づいたのか、黒のライダースジャケットに白いマオカラーシャツと褪色したジーンズという服装の少女は、茶碗を持ったまま、中性的な美貌の中でも目立つツリ目気味の目を真っ直ぐ京介に向け、口を開いた。
「久しぶりだな、ちび助。元気そうでなによりだ」
「ちび、助?」
微笑みながら放たれたその言葉に京介は戸惑いを覚えたが、
(初対面の年上にどういう呼び方を……って、あれ?)
記憶の中に、その呼び方に引っかかるものがあった。だがそれが意識されるよりも早く、
「ほれ」
白髪の少女が茶碗を京介に投げ放った。
――――――――――――――――――――
「!」
並はずれた速度で眼前に迫る茶碗を京介は反射的に右腕で跳ね上げると、上体を前傾させつつテーブルの縁を掴み、
「フッ!」
立ち上がると同時に一気にテーブルをひっくり返し、更に少女に向かって蹴り飛ばす。
「キャッ!?」
祈が小さく悲鳴を上げるが、京介はそれを意識しない。
ソファとテーブルが激突する音を確認しつつ更に追撃を行おうとしたが、
「!」
瞬時に背後を振り返りつつ、ブレザーの内ポケットから錘を仕込んだ万年筆を抜き出し投げ放った。
しかし、
「!?」
いつの間にか京介が座っていたソファの背後に立っていた少女は、投じられた万年筆を右手の人差し指と中指、その二本だけで挟み止めてしまった。
それを見た京介は、ソファの背に手を置き、その手を軸としてソファを跳び越えながら右の足刀蹴りを放つが、
「反応はまぁまぁだな。結構、結構」
少女は緊迫感の全くない声で呟きながら、自分の喉を狙う京介の蹴り足に、握り直した先程の万年筆を添えるように触れさせた。
「え?」
その瞬間、どの様な力が加えられたのか、京介の視界が急激に回転し、
「グッ……!」
そして背中から床に叩き付けられた。
辛うじて受け身が間に合ったが、それでも息が乱れ京介の動きが止まる。
「これで詰み、だな」
そう告げて、少女は屈み込み、万年筆の先端を京介の喉元、頸動脈の位置に浅く食い込ませる。
ちなみに左手には食べかけのどら焼きが保持されていた。
「余り伸びておらんぞ、ちび助?修練を怠っているのではあるまいな?」
立ち上がりながら万年筆を京介の胸元に放り、不満そうな表情でどら焼きにかぶりつく少女。
(この冗談みたいな技のキレ……それにこの口調……まさか?)
上体を起こし、京介はどら焼きを頬ばっている白髪の少女を見上げる。
「……いや、そんな筈は……」
「……んく……ふぅ、どうしたちび助。……まだ分からんのか?」
どら焼きを食べ終えた少女が片眉を持ち上げ、京介を軽く睨む。
「仕方のない奴だな。……これで分かるか?」
少女が右手で自分の顔を軽く撫でる。
「な!?」
京介が驚きの声を上げた。
白髪の少女が服装をそのままに、70年程年齢を重ねた老婦人に変化していた。
「せ、先生!?」
「そう。私だよ、ちび助」
先程まで少女だった老婦人はそう言って、京介を見下ろしたままニヤリと笑みを浮かべた。
並はずれた速度で眼前に迫る茶碗を京介は反射的に右腕で跳ね上げると、上体を前傾させつつテーブルの縁を掴み、
「フッ!」
立ち上がると同時に一気にテーブルをひっくり返し、更に少女に向かって蹴り飛ばす。
「キャッ!?」
祈が小さく悲鳴を上げるが、京介はそれを意識しない。
ソファとテーブルが激突する音を確認しつつ更に追撃を行おうとしたが、
「!」
瞬時に背後を振り返りつつ、ブレザーの内ポケットから錘を仕込んだ万年筆を抜き出し投げ放った。
しかし、
「!?」
いつの間にか京介が座っていたソファの背後に立っていた少女は、投じられた万年筆を右手の人差し指と中指、その二本だけで挟み止めてしまった。
それを見た京介は、ソファの背に手を置き、その手を軸としてソファを跳び越えながら右の足刀蹴りを放つが、
「反応はまぁまぁだな。結構、結構」
少女は緊迫感の全くない声で呟きながら、自分の喉を狙う京介の蹴り足に、握り直した先程の万年筆を添えるように触れさせた。
「え?」
その瞬間、どの様な力が加えられたのか、京介の視界が急激に回転し、
「グッ……!」
そして背中から床に叩き付けられた。
辛うじて受け身が間に合ったが、それでも息が乱れ京介の動きが止まる。
「これで詰み、だな」
そう告げて、少女は屈み込み、万年筆の先端を京介の喉元、頸動脈の位置に浅く食い込ませる。
ちなみに左手には食べかけのどら焼きが保持されていた。
「余り伸びておらんぞ、ちび助?修練を怠っているのではあるまいな?」
立ち上がりながら万年筆を京介の胸元に放り、不満そうな表情でどら焼きにかぶりつく少女。
(この冗談みたいな技のキレ……それにこの口調……まさか?)
上体を起こし、京介はどら焼きを頬ばっている白髪の少女を見上げる。
「……いや、そんな筈は……」
「……んく……ふぅ、どうしたちび助。……まだ分からんのか?」
どら焼きを食べ終えた少女が片眉を持ち上げ、京介を軽く睨む。
「仕方のない奴だな。……これで分かるか?」
少女が右手で自分の顔を軽く撫でる。
「な!?」
京介が驚きの声を上げた。
白髪の少女が服装をそのままに、70年程年齢を重ねた老婦人に変化していた。
「せ、先生!?」
「そう。私だよ、ちび助」
先程まで少女だった老婦人はそう言って、京介を見下ろしたままニヤリと笑みを浮かべた。
――――――――――――――――――――
「七上(ななかみ)顧問……こういう事は時と場所を選んでください」
文句を言いながら京介と一緒にテーブルやソファを並べ直す若本。
「いや、済まん。ちび助が今どの程度なのか急に確認したくなってなぁ」
老婦人から再び元の姿に戻り、真っ先に直させたソファで胡座をかいている少女。
「それにしても……先生がここまで非常識な存在だったとは……」
並べ終わったソファに腰を下ろし、呟く京介。
「………………」
テーブルに若本の秘書らしき女性が持ってきたお茶と茶菓子を無言で並べる祈。
少女-京介は老婦人の姿でしか面識がなかったが―七上・桔梗(ななかみ・ききょう)は京介の武術の師匠であり、京介は幼い頃からその教えを受けてきた。
といっても桔梗が道場を構えていたという訳ではなく、京介の実家に時折フラリと現れ、滞在している間に京介を鍛えていたという話なのだが。
「そろそろ説明をお願いできますか、先生?」
「よかろう。では最低限必要な知識からいくぞ?」
促された桔梗は一つ頷くと、な京介の事を考えてか、簡単な言葉で説明を始めた。
―この世界には神や悪魔など、神話や伝説、伝承などで語られているモノが現実として存在する。
―それらの中には人間に害を為す存在も少なくない。
―その害を為すモノから人間を守るため、魔術に代表される特殊な才能や技術をもった人間が作った集団が世界中に存在する。
―その内の一つに若本や祈、桔梗が所属している日本国守護機関『御劔(みつるぎ)』がある。
そこまで聞いたところで京介は手を挙げて話を止め、桔梗に質問をする。
「どうして誰もその事を知らないんですか?」
「魔術を含めた、世界の裏側の技術やら何やらは、ある種の才能を必要とする物が多い。
そしてその才能を持つ者は少なく、少数派は多数派に必ず弾圧されるからだ。
人間は少しでも『違う』と認識した者を徹底的に排除しようとするからな。皮膚の色、言語、文化、信仰……あぁ、これ以上は愚痴になるか。
ヒトに仇為す存在については、そんなモノが存在する事が知られれば簡単に混乱と暴走が起きる。
故に、これらの事実が知られない様に、我々は長い時間をかけてこの体制を作り上げたのだ」
「はぁ…成る程…」
「次はフツヌシについての説明だ」
京介が一応の納得をしたのを見て、桔梗は説明を続ける。
―フツヌシはその分類を対大型異存在用兵器・神格式大甲冑という。
―簡単に言うと、御神体を通して汲み出した経津主神の霊力で動くロボット。
―竜や巨人といった大型の異存在(架空の存在とされていたモノの総称)や大規模な霊的災害(自然災害として扱われる物の中にはこれが幾つか混じっている)に対処するために造られた。
―制御及び操作系に古神道の術式を応用したシステムが使われているので、巫覡(ふげき)―巫女、神官等の神を祀り神意を伝える者―としての能力を持った者が操縦者として必要。
操縦者についての説明に話がいくと、京介は親しい者でなければ分からないほど僅かに眉を顰め、
「……先生、何故俺が選ばれたんですか?」
自分の師に静かに問いかけた。それに対して桔梗は、
「候補者は何人もいるが、大半は手が塞がっておってな。都合が付く中でちび助が一番適当な人材だったからだ」
お茶を啜りながら淡々と答えを返す。
「…成る程。納得できました」
桔梗の返答を聞いた京介は頷き、
(消去法か。まぁ、俺には相応しいかな)
と、心中で呟いた。
文句を言いながら京介と一緒にテーブルやソファを並べ直す若本。
「いや、済まん。ちび助が今どの程度なのか急に確認したくなってなぁ」
老婦人から再び元の姿に戻り、真っ先に直させたソファで胡座をかいている少女。
「それにしても……先生がここまで非常識な存在だったとは……」
並べ終わったソファに腰を下ろし、呟く京介。
「………………」
テーブルに若本の秘書らしき女性が持ってきたお茶と茶菓子を無言で並べる祈。
少女-京介は老婦人の姿でしか面識がなかったが―七上・桔梗(ななかみ・ききょう)は京介の武術の師匠であり、京介は幼い頃からその教えを受けてきた。
といっても桔梗が道場を構えていたという訳ではなく、京介の実家に時折フラリと現れ、滞在している間に京介を鍛えていたという話なのだが。
「そろそろ説明をお願いできますか、先生?」
「よかろう。では最低限必要な知識からいくぞ?」
促された桔梗は一つ頷くと、な京介の事を考えてか、簡単な言葉で説明を始めた。
―この世界には神や悪魔など、神話や伝説、伝承などで語られているモノが現実として存在する。
―それらの中には人間に害を為す存在も少なくない。
―その害を為すモノから人間を守るため、魔術に代表される特殊な才能や技術をもった人間が作った集団が世界中に存在する。
―その内の一つに若本や祈、桔梗が所属している日本国守護機関『御劔(みつるぎ)』がある。
そこまで聞いたところで京介は手を挙げて話を止め、桔梗に質問をする。
「どうして誰もその事を知らないんですか?」
「魔術を含めた、世界の裏側の技術やら何やらは、ある種の才能を必要とする物が多い。
そしてその才能を持つ者は少なく、少数派は多数派に必ず弾圧されるからだ。
人間は少しでも『違う』と認識した者を徹底的に排除しようとするからな。皮膚の色、言語、文化、信仰……あぁ、これ以上は愚痴になるか。
ヒトに仇為す存在については、そんなモノが存在する事が知られれば簡単に混乱と暴走が起きる。
故に、これらの事実が知られない様に、我々は長い時間をかけてこの体制を作り上げたのだ」
「はぁ…成る程…」
「次はフツヌシについての説明だ」
京介が一応の納得をしたのを見て、桔梗は説明を続ける。
―フツヌシはその分類を対大型異存在用兵器・神格式大甲冑という。
―簡単に言うと、御神体を通して汲み出した経津主神の霊力で動くロボット。
―竜や巨人といった大型の異存在(架空の存在とされていたモノの総称)や大規模な霊的災害(自然災害として扱われる物の中にはこれが幾つか混じっている)に対処するために造られた。
―制御及び操作系に古神道の術式を応用したシステムが使われているので、巫覡(ふげき)―巫女、神官等の神を祀り神意を伝える者―としての能力を持った者が操縦者として必要。
操縦者についての説明に話がいくと、京介は親しい者でなければ分からないほど僅かに眉を顰め、
「……先生、何故俺が選ばれたんですか?」
自分の師に静かに問いかけた。それに対して桔梗は、
「候補者は何人もいるが、大半は手が塞がっておってな。都合が付く中でちび助が一番適当な人材だったからだ」
お茶を啜りながら淡々と答えを返す。
「…成る程。納得できました」
桔梗の返答を聞いた京介は頷き、
(消去法か。まぁ、俺には相応しいかな)
と、心中で呟いた。
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説明が一段落したと判断した京介が、最前から気になっていた話題を切り出した。
「…では先生について、なんですが」
「おう、何でも訊いて良いぞ」
ソファの上で胡座をかいたまま頷く桔梗。京介は何から質問するのかを考え、先ず一番驚いた部分から尋ねることにした。
「では、先程の早変わりは…魔術、なんですか?」
半信半疑といった様子で尋ねる京介に、
「まぁ初歩的な幻覚の術だな」
桔梗は軽く答える。
「とすると先生は魔術師、なんですか?」
「私か?ふむ……」
今度の問いに桔梗は視線を天井に向け、そしてどら焼きを取り上げて一囓り。考えながらしばらくモグモグと口を動かし、飲み込む。そして、
「術師と名乗れる程の術式を修めとる訳ではないからなぁ。……平たく言うなら、少しばかり突き抜けただけの武術家、だな」
今まで考えたことも無かったのか、首を捻りながら返答した。
「少し、ですか」
「うむ」
(魔術なんかを使えて、『少しばかり』、ねぇ)
そして京介は自分にとって最大の違和感の原因を尋ねるべく、口を開いた。
「…えぇと、どうしてさっきから子供の姿のままなんですか?年甲斐もない格好に化けるのは…」
ビシッ!
「ぐぉ!?な、何が!?」
質問直後に何の前触れもなく、突然額に不可視の衝撃を受けて慌てる京介。
その京介に冷ややかな視線を向けながら、桔梗はいつの間にか京介に向けていた右掌を下ろす。
「騒ぐなちび助。只の遠当てだ」
「とお……えぇ!?」
※『遠当て』―無手で間合いの外にいる敵に攻撃を加える技。氣を用いた遠距離攻撃とも言われる、武術の中でも迷信に分類される技。
桔梗は小さく息を吐きながら、弟子の質問に答える。
「師に向かって失礼な言い草だな、ちび助。勘違いしとる様だが、老人の姿の方が幻覚だぞ?」
「……はい!?」
「あれは……私が数えで12、いや13の年、だったか?お袋様の手伝いで山に入ったら山崩れに遭ってな。死の一厘手前まで行った所為か、意識が戻った時には神通力を会得しておった」
「………………」
「それ以来肉体的には老いておらん。……まぁそれから色々あって、現在に至る、という訳だ」
今まで師事していた老婦人が、明らかに自分より年下の外見に激変し、さらにその激変後の姿が本当の師だという。
小さからぬ衝撃に判断力が低下していた京介は、その時頭に浮かんでいた疑問をそのまま口に出してしまった。
「……先生は、今お幾つ…?」
ズドムッ!
「カッ……ア……」
質問を最後まで言わせず、京介の鳩尾に先程よりも強い『遠当て』が炸裂する。
呼吸困難に陥り、ソファの上で腹部を押さえて悶絶する弟子を桔梗は、
「おなごに年を尋ねるとは礼儀がなっておらんぞ、ちび助」
満面の笑顔―但し目は笑っていない―で優しく諭した。
「…では先生について、なんですが」
「おう、何でも訊いて良いぞ」
ソファの上で胡座をかいたまま頷く桔梗。京介は何から質問するのかを考え、先ず一番驚いた部分から尋ねることにした。
「では、先程の早変わりは…魔術、なんですか?」
半信半疑といった様子で尋ねる京介に、
「まぁ初歩的な幻覚の術だな」
桔梗は軽く答える。
「とすると先生は魔術師、なんですか?」
「私か?ふむ……」
今度の問いに桔梗は視線を天井に向け、そしてどら焼きを取り上げて一囓り。考えながらしばらくモグモグと口を動かし、飲み込む。そして、
「術師と名乗れる程の術式を修めとる訳ではないからなぁ。……平たく言うなら、少しばかり突き抜けただけの武術家、だな」
今まで考えたことも無かったのか、首を捻りながら返答した。
「少し、ですか」
「うむ」
(魔術なんかを使えて、『少しばかり』、ねぇ)
そして京介は自分にとって最大の違和感の原因を尋ねるべく、口を開いた。
「…えぇと、どうしてさっきから子供の姿のままなんですか?年甲斐もない格好に化けるのは…」
ビシッ!
「ぐぉ!?な、何が!?」
質問直後に何の前触れもなく、突然額に不可視の衝撃を受けて慌てる京介。
その京介に冷ややかな視線を向けながら、桔梗はいつの間にか京介に向けていた右掌を下ろす。
「騒ぐなちび助。只の遠当てだ」
「とお……えぇ!?」
※『遠当て』―無手で間合いの外にいる敵に攻撃を加える技。氣を用いた遠距離攻撃とも言われる、武術の中でも迷信に分類される技。
桔梗は小さく息を吐きながら、弟子の質問に答える。
「師に向かって失礼な言い草だな、ちび助。勘違いしとる様だが、老人の姿の方が幻覚だぞ?」
「……はい!?」
「あれは……私が数えで12、いや13の年、だったか?お袋様の手伝いで山に入ったら山崩れに遭ってな。死の一厘手前まで行った所為か、意識が戻った時には神通力を会得しておった」
「………………」
「それ以来肉体的には老いておらん。……まぁそれから色々あって、現在に至る、という訳だ」
今まで師事していた老婦人が、明らかに自分より年下の外見に激変し、さらにその激変後の姿が本当の師だという。
小さからぬ衝撃に判断力が低下していた京介は、その時頭に浮かんでいた疑問をそのまま口に出してしまった。
「……先生は、今お幾つ…?」
ズドムッ!
「カッ……ア……」
質問を最後まで言わせず、京介の鳩尾に先程よりも強い『遠当て』が炸裂する。
呼吸困難に陥り、ソファの上で腹部を押さえて悶絶する弟子を桔梗は、
「おなごに年を尋ねるとは礼儀がなっておらんぞ、ちび助」
満面の笑顔―但し目は笑っていない―で優しく諭した。
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「さて、取り敢えず説明はこれ位にしておくか。……どうだ、ちび助?考えは決まったかな?」
「ゲホッ……えぇ、決まりました。…ですが」
師の問いかけに、なんとか呼吸を整え返事をする京介。
「ん?何だ?」
「適性試験とか、そういうのはいいんですか?……買った品物が不良品だったら意味無いですよね?」
弟子の言葉に桔梗は首を捻り、
「ふむ、……そうだな。どうだ、若本?ちび助を試してみるか?」
若本に尋ねる。尋ねられた方の若本は左手で顎を撫でながら思考し、今度は京介に話を振る。
「そうですな……物部君、ライフルや拳銃を扱った経験はあるかね?」
「…ありません、一般人なもので」
逆の返答が来ると予想していたのか、若本は桔梗を振り返る。
「おや?教えていなかったのですか、顧問?」
「私はあくまで“武術”の師匠だったからな。余計なことは出来ない」
どら焼きに手を伸ばしながら答える、見た目少女。
(……銃器まで使えるんですか、先生)
内心で呆れる京介を余所に、若本と桔梗の間で話が進んでいく。
「成る程……では顧問。魔導甲冑用のシミュレーターで、近接武装のみの吉兼を使って動きのテストをしてみるというのは?」
「それで問題なかろう。シミュレータールームは空いているかな?」
「今の時間でしたら……えぇ、問題ありません」
「動きを見るからには相手が必要だな……誰か手の空いている部隊員がいたか?」
「でしたら、僭越ながら私がお相手を」
「ふむ……手加減は無用だぞ?」
「顧問のお弟子さんにそんな非礼はしません。“真面目”にやらせて頂きます」
「よし、決まりだな。…では、祈!」
話が纏まった所で、桔梗が今まで話題の外にいた祈を呼んだ。
「は、はい!」
慌てて返事をする祈に桔梗は京介を指し示しながら、
「済まないが、ちび助をシミュレータールームまで案内してやってくれ」
と、頼んだ。
「…はい。分かりました」
祈はチラリと京介を一別すると、桔梗に頭を下げ、承諾した。桔梗はそれに頷きを返し、京介を促す。
「ではちび助、シミュレーターの細かい説明は向こうでするから、取り敢えず移動するぞ」
「分かりました」
京介は素早く立ち上がり、扉に向かうが、
「……あぁ、そうだ。もう一つ」
桔梗がそれを呼び止めた。すぐに振り返り、師の方を向く京介。
「はい、何ですか先生?」
桔梗はテーブルの弟子が座っていた場所を一瞥すると、
「そのどら焼きだが、食べないなら私にくれないか?この店の味は私の好みなんだ」
と、年相応な―この場合子供っぽいと言うべきかどうなのか―微笑みを浮かべながら強請(ねだ)ったのだった。
「ゲホッ……えぇ、決まりました。…ですが」
師の問いかけに、なんとか呼吸を整え返事をする京介。
「ん?何だ?」
「適性試験とか、そういうのはいいんですか?……買った品物が不良品だったら意味無いですよね?」
弟子の言葉に桔梗は首を捻り、
「ふむ、……そうだな。どうだ、若本?ちび助を試してみるか?」
若本に尋ねる。尋ねられた方の若本は左手で顎を撫でながら思考し、今度は京介に話を振る。
「そうですな……物部君、ライフルや拳銃を扱った経験はあるかね?」
「…ありません、一般人なもので」
逆の返答が来ると予想していたのか、若本は桔梗を振り返る。
「おや?教えていなかったのですか、顧問?」
「私はあくまで“武術”の師匠だったからな。余計なことは出来ない」
どら焼きに手を伸ばしながら答える、見た目少女。
(……銃器まで使えるんですか、先生)
内心で呆れる京介を余所に、若本と桔梗の間で話が進んでいく。
「成る程……では顧問。魔導甲冑用のシミュレーターで、近接武装のみの吉兼を使って動きのテストをしてみるというのは?」
「それで問題なかろう。シミュレータールームは空いているかな?」
「今の時間でしたら……えぇ、問題ありません」
「動きを見るからには相手が必要だな……誰か手の空いている部隊員がいたか?」
「でしたら、僭越ながら私がお相手を」
「ふむ……手加減は無用だぞ?」
「顧問のお弟子さんにそんな非礼はしません。“真面目”にやらせて頂きます」
「よし、決まりだな。…では、祈!」
話が纏まった所で、桔梗が今まで話題の外にいた祈を呼んだ。
「は、はい!」
慌てて返事をする祈に桔梗は京介を指し示しながら、
「済まないが、ちび助をシミュレータールームまで案内してやってくれ」
と、頼んだ。
「…はい。分かりました」
祈はチラリと京介を一別すると、桔梗に頭を下げ、承諾した。桔梗はそれに頷きを返し、京介を促す。
「ではちび助、シミュレーターの細かい説明は向こうでするから、取り敢えず移動するぞ」
「分かりました」
京介は素早く立ち上がり、扉に向かうが、
「……あぁ、そうだ。もう一つ」
桔梗がそれを呼び止めた。すぐに振り返り、師の方を向く京介。
「はい、何ですか先生?」
桔梗はテーブルの弟子が座っていた場所を一瞥すると、
「そのどら焼きだが、食べないなら私にくれないか?この店の味は私の好みなんだ」
と、年相応な―この場合子供っぽいと言うべきかどうなのか―微笑みを浮かべながら強請(ねだ)ったのだった。
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