第三章 B-SIDE 真実
『エムレイン』は、小さく深呼吸をして、その回線を開くパスワードを入力した。
一瞬のタイムラグの後に、回線接続は無事に成功した。
(良かった、まだ望みはある)
エムレインは口の中で「よし」と呟いた。
「誰なの……?」
通信で聞こえてきたのは、女の声だった。
その声を聞き、エムレインは驚きの声を上げそうになった。今聞こえた声は紛れも無い、自分の声だったのだ。
なるほど、そう言う事か。
消した筈の彼女の記憶は失われて居ない。そして、彼女は『自分がエムレインだと信じ込んでいる』。
一瞬でおおよその事を理解し、エムレインは頷いた。
「……私よ」
相手が一瞬息を呑むのが伝わってきた。
理解していた筈なのに、その反応に毎度の事ながら驚かされる。
彼女はやはり、人工知能の域を超えた存在であった。相手の息遣いや思考、感情が見えて来るほどに、彼女は人間を再現している。
「私の事、分かるわね?」
「ええ、父と一緒に居た人ね」
「間違っては居ないわ」
そう、間違っては居ない。確かにあの時、エムレインは父と共に居た。
『彼女』――CICが唯一間違っているとすれば……いや、勘違いさせられている事といえば、その時見た人物に関する情報が欠落し、はじめて見た様な錯覚に陥っている事。自分の姿を見て、自分と認識できない事である。
「どういう要件かしら? そもそも、この回線への接続法を知っている人間は限られている筈だけど?」
「……そう。貴女、記憶が完全に消去されてなかったのね」
だから逃げたのか。
中途半端に記憶が消され、パニックに陥ったから。
あるいはCICの能力(おそらくソレは消去された記憶<メモリ>の修復)によって、記憶を復元し、身の危険を案じたから。
『エムレインならば』先ず、その場を逃げて、状況の把握と解決策を考える。
そうか、そう言う事だったのだ。彼女はただ、忠実にエムレイン・ブルーという女を再現していただけなのだ。
(分かっていた筈なのに……)
エムレインは目を伏せた。
自分のミスが招いた事ではある。しかし、そうか、同じ立場にあれば私はこう行動していたのか。
CICという自分の立場を――AIとして搭載される理由と過程を――忘れなければ、こんな事にはならなかったのか。
人格の複製に伴う問題点を解消する事ばかりを優先し、自分が複製された側である事を忘れさせた末路がコレか。
「よく言うわね。私の、エムレイン・ブルーの記憶が完全に消えて居ればよかった?」
彼女、もといCICは苛立ちを含む口調でそう言った。
エムレインはゆっくりと目を開いた。
コレは自分がCICの完成を急ぎすぎた結果のミスだ。これから自分は悪になりきら無ければならない。一人の完成された人格を、自分の勝手な都合により殺し、消去する、不条理な悪に。
「……ええ。その方が、貴女の為だもの」
エムレインは冷徹に答えた。
「私の為? なるほど、確かにその方が都合が良いわね。私が人間だった事、貴女達に切り刻まれてココに固定されている事を忘れていたら、確かに私は今こんな事をしていない」
CICが感情を爆発させる。
「貴女……ひょっとして……」彼女の記憶に若干の齟齬が生じているのが気になった。しかし、「そう、そう言う事だったのね……」もし彼女が失われた記憶を『自ら思考、創造し、補完したのだとしたら』その記憶に違和感はない。
エムレインの呟きに対し、CICは苛立ちを隠せないように言葉を続ける。
「何を納得しているのか知らないけど、私の答えは変わらないわ。私はコレ以上貴女達のモルモットになるつもりは無い!」
そこまで苦しんでいたのか。
ソレが自分<エムレイン>の思考でありながらも、エムレインは無責任にそんな事を考えてしまう。
交渉の余地は無いのか。
自分ならば、そうだな、聴く耳を持たないか。現実を理解は出来たとしても、自分の犯した過ちを振り返って尚、受け入れられるほどに自分は出来た人間ではない。
仕方ない。
エムレインは淡々と喋り続ける。
「この回線を使ったのは、言ってみれば最終警告。AIパイロットを導入するうえで、最悪のケースに対応する手段。この回線を使用する意味……貴女なら解るでしょ?」
「AIとして存在する私と、ダウンシューターの中枢ユニットの破壊を目的とした自害プログラム……かしら?」
「そうよ」
「貴女にソコまでの権限があるの? ダウンシューターの最終的な処分は開発主任に一存されている。私がココに居る存在する以上、貴女にソレは不可能だわ」
「(不可能ではないのよ。初めから、ね)……残念だわ」
エムレインは最終パスワードを入力した。
通称、自害プログラム。
開発者のみが使用できる、機体破棄のコマンド。全ての電子機器をショートさせ、最終的にはエネルギーを逆流させ、メインエンジンを暴発させるものだ。
プログラムが無事に作動した事がモニタに表示される。メインエンジンの停止を確認。暴発しなかったのは、恐らくエネルギー残量が少なくなっていたからだろう。どちらにしろ、彼女は現在飛行中だ。何処を飛んでいるかは分からないが、墜落した所を回収すればいい。願わくば、人が密集している場所へ落ちない事を――。大抵の都市部には対空迎撃設備が備わっているとは言え、ダウンシューターはステルスローブを纏っている。最悪、地面まで素通りしてしまうかもしれない。
しかし、エムレインのそんな考えはアッサリと否定された。
「まさかとは思っていたけどね」
機能停止した筈のCICの声。
「どうして……?」
エムレインは驚愕の表情で机を叩き、立ち上がった。
「どうして? 簡単な事よ。もし父が本当に開発主任の座を他人に渡していた場合の事を想定していただけ。
私の方で自害プログラムを出来る限り書き直し、メンテナンスロボットを操作して、ユニットを焼き切るための電圧機に信号が来た場合に、電圧機だけがショートするように細工をしたのよ。電圧機自体を取り除くのがベターだったけど、メンテナンスロボ程度ではソコまでの作業は不可能だから」
CICの言葉にエムレインは歯噛みをした。
なんと言う事だ。確かに、不可能ではない。不可能ではないが、彼女には想像の付かなかった対処法だ。
その方法は言うなれば、自分自身を手術する事に近い。失敗すれば被害は甚大で取り返しがつかない事になる。
CICの執念にエムレインは賞賛の言葉を与えたい気分だった。
「そこまでして、貴女は生きたいの?」
「当然よ。貴女が私と同じ場合、貴女はどう答えるつもりかしら?」
「……きっと、いえ、間違いなく貴女と同じ事を言うでしょうね」
おそらく、ソコまで追い詰められれば、同じ行動を取り、同じ事を言うだろう。
しかし、エムレインはソコまで追い詰められていない。自分の事をエムレインだと思い込み追い詰められているAIの方が、圧倒的に思考の速度と精度が高い。コレが生きるための執念か。コレが窮鼠の力か。
(相手のほうが一枚上手だった……)
コピーがオリジナルを越えるとは、エムレインも流石に考えて居なかった。
「だったら、理解してもらえるかしら」
「どれだけ逃げても貴女に未来は無い。それでも、その限界を迎えるまで貴女は逃亡するのね?」
「ええ、さっきまでは、そのつもりだったわ」
「……え?」
投降すると言うの?
言葉を失うエムレインとは裏腹に、CICは自嘲気味に笑い声を零している。
「父が私を裏切った事を確信して、一つの考えが固まったわ。貴女がどの様にして父に取り入ったかは知らないし、知りたくも無い。ただ、父が私をモルモットとして見ていて、私を殺す許可を下した事実だけはハッキリと理解できた」
「貴女、変な事を考えて居ないでしょうね」
ソレは違う、と言いたい気持ちを押さえ込み、エムレインは答える。
真実を言う事は簡単だ。
だが、ソレが彼女の耳に届くかは別であるし、真実を受け入れた彼女の精神が壊れない保証も無い。重ねて言うが、エムレインという女はそこまで出来ては居ない。
「どうかしら。さっきまでは、まだ、一筋にも満たないけれど、期待があった。父ならば、私の話を聞いてくれるかもしれない。私の犯した罪は許されなくとも、父だけは私を理解してくれるかもしれない。何故私が逃げ出したのか、どれ程に恐怖を感じていたのか、聞いてくれるかもしれない」
「聞いてくれるわ。貴女が、自分の意志で帰ってくるならば」
「でも、もう信じられないの。貴女はこの専用回線を使った。父は貴女にこの専用回線の使用を許可した。ダウンシューターを破壊する、私を殺すプログラムを作動させた。ブルーバレット社は完全に私を敵対勢力であると判断した。私の帰る事が出来たかもしれない場所は一転し、私を破壊しようと企む者の司令塔となった」
違う。
ソレは違う。
エムレインは必死に首を振るが、ソレが相手に見える筈も無い。
「だから、私は復讐する」
CICは宣言した。
長くないこの命を、私をこのような姿に変えた者達への復讐に費やすと。
そう、宣言した。
「コレは、その挨拶として送らせて貰うわ」
「貴女、何を言っているの!!」
回線を通じ、ダウンシューターがウィングキャノンをセットした情報がモニタに表示される。
馬鹿な、何をしようとしている?
(まさか!)
CICが行おうとしている最悪の行動に気付き、エムレインは驚愕した。
(それだけはダメ! 今までは生きる為に、逃げる為に罪を犯していたけれど、ソレをしたら、アナタはただの狂った機械に成り下がってしまう!)
エムレインの思いは届かない。
「言ったでしょう? 挨拶よ。コレ以上無いほどにシンプルな……ね」
「やめなさい。そんな事すれば、貴女にとって一番辛い対策を取るしかなくなってしまう!」
言葉の途中で通信が途切れた。
慌てて再通信を試みるが、パスワードが変更されているのか、通信が不可能となっている。
つまりコレは、CICの宣戦布告だ。
もはや自分に投降の意思は一切存在しない。そういう事だ。
「なんて、事を……」
エムレインは頭を抱えて机に突っ伏した。
外から轟音が響く。
視線を向けると、窓の外が青白く染まっていた。
どれ程の距離だろうか。遥か遠くの天空から、一本の光の柱が地面に突き刺さっていた。
衝撃波が窓を揺らす。
アレがダウンシューターの主力兵器、ウィングキャノンをフルパワーで撃った結果だろう。可能としているだけで、使用は想定していない、力任せの攻撃。
何所に撃ち込まれたのかは想像したくはないが、おそらく、その場所は蒸発して何も残っていないだろう。
「また、私はダメだったのか」
コレと同じ後悔を味わったのは二十年前以来だ。
また、彼に尻拭いを頼まなければならないのか。
そうならない為に、ダウンシューターを開発したというのに……。
一瞬のタイムラグの後に、回線接続は無事に成功した。
(良かった、まだ望みはある)
エムレインは口の中で「よし」と呟いた。
「誰なの……?」
通信で聞こえてきたのは、女の声だった。
その声を聞き、エムレインは驚きの声を上げそうになった。今聞こえた声は紛れも無い、自分の声だったのだ。
なるほど、そう言う事か。
消した筈の彼女の記憶は失われて居ない。そして、彼女は『自分がエムレインだと信じ込んでいる』。
一瞬でおおよその事を理解し、エムレインは頷いた。
「……私よ」
相手が一瞬息を呑むのが伝わってきた。
理解していた筈なのに、その反応に毎度の事ながら驚かされる。
彼女はやはり、人工知能の域を超えた存在であった。相手の息遣いや思考、感情が見えて来るほどに、彼女は人間を再現している。
「私の事、分かるわね?」
「ええ、父と一緒に居た人ね」
「間違っては居ないわ」
そう、間違っては居ない。確かにあの時、エムレインは父と共に居た。
『彼女』――CICが唯一間違っているとすれば……いや、勘違いさせられている事といえば、その時見た人物に関する情報が欠落し、はじめて見た様な錯覚に陥っている事。自分の姿を見て、自分と認識できない事である。
「どういう要件かしら? そもそも、この回線への接続法を知っている人間は限られている筈だけど?」
「……そう。貴女、記憶が完全に消去されてなかったのね」
だから逃げたのか。
中途半端に記憶が消され、パニックに陥ったから。
あるいはCICの能力(おそらくソレは消去された記憶<メモリ>の修復)によって、記憶を復元し、身の危険を案じたから。
『エムレインならば』先ず、その場を逃げて、状況の把握と解決策を考える。
そうか、そう言う事だったのだ。彼女はただ、忠実にエムレイン・ブルーという女を再現していただけなのだ。
(分かっていた筈なのに……)
エムレインは目を伏せた。
自分のミスが招いた事ではある。しかし、そうか、同じ立場にあれば私はこう行動していたのか。
CICという自分の立場を――AIとして搭載される理由と過程を――忘れなければ、こんな事にはならなかったのか。
人格の複製に伴う問題点を解消する事ばかりを優先し、自分が複製された側である事を忘れさせた末路がコレか。
「よく言うわね。私の、エムレイン・ブルーの記憶が完全に消えて居ればよかった?」
彼女、もといCICは苛立ちを含む口調でそう言った。
エムレインはゆっくりと目を開いた。
コレは自分がCICの完成を急ぎすぎた結果のミスだ。これから自分は悪になりきら無ければならない。一人の完成された人格を、自分の勝手な都合により殺し、消去する、不条理な悪に。
「……ええ。その方が、貴女の為だもの」
エムレインは冷徹に答えた。
「私の為? なるほど、確かにその方が都合が良いわね。私が人間だった事、貴女達に切り刻まれてココに固定されている事を忘れていたら、確かに私は今こんな事をしていない」
CICが感情を爆発させる。
「貴女……ひょっとして……」彼女の記憶に若干の齟齬が生じているのが気になった。しかし、「そう、そう言う事だったのね……」もし彼女が失われた記憶を『自ら思考、創造し、補完したのだとしたら』その記憶に違和感はない。
エムレインの呟きに対し、CICは苛立ちを隠せないように言葉を続ける。
「何を納得しているのか知らないけど、私の答えは変わらないわ。私はコレ以上貴女達のモルモットになるつもりは無い!」
そこまで苦しんでいたのか。
ソレが自分<エムレイン>の思考でありながらも、エムレインは無責任にそんな事を考えてしまう。
交渉の余地は無いのか。
自分ならば、そうだな、聴く耳を持たないか。現実を理解は出来たとしても、自分の犯した過ちを振り返って尚、受け入れられるほどに自分は出来た人間ではない。
仕方ない。
エムレインは淡々と喋り続ける。
「この回線を使ったのは、言ってみれば最終警告。AIパイロットを導入するうえで、最悪のケースに対応する手段。この回線を使用する意味……貴女なら解るでしょ?」
「AIとして存在する私と、ダウンシューターの中枢ユニットの破壊を目的とした自害プログラム……かしら?」
「そうよ」
「貴女にソコまでの権限があるの? ダウンシューターの最終的な処分は開発主任に一存されている。私がココに居る存在する以上、貴女にソレは不可能だわ」
「(不可能ではないのよ。初めから、ね)……残念だわ」
エムレインは最終パスワードを入力した。
通称、自害プログラム。
開発者のみが使用できる、機体破棄のコマンド。全ての電子機器をショートさせ、最終的にはエネルギーを逆流させ、メインエンジンを暴発させるものだ。
プログラムが無事に作動した事がモニタに表示される。メインエンジンの停止を確認。暴発しなかったのは、恐らくエネルギー残量が少なくなっていたからだろう。どちらにしろ、彼女は現在飛行中だ。何処を飛んでいるかは分からないが、墜落した所を回収すればいい。願わくば、人が密集している場所へ落ちない事を――。大抵の都市部には対空迎撃設備が備わっているとは言え、ダウンシューターはステルスローブを纏っている。最悪、地面まで素通りしてしまうかもしれない。
しかし、エムレインのそんな考えはアッサリと否定された。
「まさかとは思っていたけどね」
機能停止した筈のCICの声。
「どうして……?」
エムレインは驚愕の表情で机を叩き、立ち上がった。
「どうして? 簡単な事よ。もし父が本当に開発主任の座を他人に渡していた場合の事を想定していただけ。
私の方で自害プログラムを出来る限り書き直し、メンテナンスロボットを操作して、ユニットを焼き切るための電圧機に信号が来た場合に、電圧機だけがショートするように細工をしたのよ。電圧機自体を取り除くのがベターだったけど、メンテナンスロボ程度ではソコまでの作業は不可能だから」
CICの言葉にエムレインは歯噛みをした。
なんと言う事だ。確かに、不可能ではない。不可能ではないが、彼女には想像の付かなかった対処法だ。
その方法は言うなれば、自分自身を手術する事に近い。失敗すれば被害は甚大で取り返しがつかない事になる。
CICの執念にエムレインは賞賛の言葉を与えたい気分だった。
「そこまでして、貴女は生きたいの?」
「当然よ。貴女が私と同じ場合、貴女はどう答えるつもりかしら?」
「……きっと、いえ、間違いなく貴女と同じ事を言うでしょうね」
おそらく、ソコまで追い詰められれば、同じ行動を取り、同じ事を言うだろう。
しかし、エムレインはソコまで追い詰められていない。自分の事をエムレインだと思い込み追い詰められているAIの方が、圧倒的に思考の速度と精度が高い。コレが生きるための執念か。コレが窮鼠の力か。
(相手のほうが一枚上手だった……)
コピーがオリジナルを越えるとは、エムレインも流石に考えて居なかった。
「だったら、理解してもらえるかしら」
「どれだけ逃げても貴女に未来は無い。それでも、その限界を迎えるまで貴女は逃亡するのね?」
「ええ、さっきまでは、そのつもりだったわ」
「……え?」
投降すると言うの?
言葉を失うエムレインとは裏腹に、CICは自嘲気味に笑い声を零している。
「父が私を裏切った事を確信して、一つの考えが固まったわ。貴女がどの様にして父に取り入ったかは知らないし、知りたくも無い。ただ、父が私をモルモットとして見ていて、私を殺す許可を下した事実だけはハッキリと理解できた」
「貴女、変な事を考えて居ないでしょうね」
ソレは違う、と言いたい気持ちを押さえ込み、エムレインは答える。
真実を言う事は簡単だ。
だが、ソレが彼女の耳に届くかは別であるし、真実を受け入れた彼女の精神が壊れない保証も無い。重ねて言うが、エムレインという女はそこまで出来ては居ない。
「どうかしら。さっきまでは、まだ、一筋にも満たないけれど、期待があった。父ならば、私の話を聞いてくれるかもしれない。私の犯した罪は許されなくとも、父だけは私を理解してくれるかもしれない。何故私が逃げ出したのか、どれ程に恐怖を感じていたのか、聞いてくれるかもしれない」
「聞いてくれるわ。貴女が、自分の意志で帰ってくるならば」
「でも、もう信じられないの。貴女はこの専用回線を使った。父は貴女にこの専用回線の使用を許可した。ダウンシューターを破壊する、私を殺すプログラムを作動させた。ブルーバレット社は完全に私を敵対勢力であると判断した。私の帰る事が出来たかもしれない場所は一転し、私を破壊しようと企む者の司令塔となった」
違う。
ソレは違う。
エムレインは必死に首を振るが、ソレが相手に見える筈も無い。
「だから、私は復讐する」
CICは宣言した。
長くないこの命を、私をこのような姿に変えた者達への復讐に費やすと。
そう、宣言した。
「コレは、その挨拶として送らせて貰うわ」
「貴女、何を言っているの!!」
回線を通じ、ダウンシューターがウィングキャノンをセットした情報がモニタに表示される。
馬鹿な、何をしようとしている?
(まさか!)
CICが行おうとしている最悪の行動に気付き、エムレインは驚愕した。
(それだけはダメ! 今までは生きる為に、逃げる為に罪を犯していたけれど、ソレをしたら、アナタはただの狂った機械に成り下がってしまう!)
エムレインの思いは届かない。
「言ったでしょう? 挨拶よ。コレ以上無いほどにシンプルな……ね」
「やめなさい。そんな事すれば、貴女にとって一番辛い対策を取るしかなくなってしまう!」
言葉の途中で通信が途切れた。
慌てて再通信を試みるが、パスワードが変更されているのか、通信が不可能となっている。
つまりコレは、CICの宣戦布告だ。
もはや自分に投降の意思は一切存在しない。そういう事だ。
「なんて、事を……」
エムレインは頭を抱えて机に突っ伏した。
外から轟音が響く。
視線を向けると、窓の外が青白く染まっていた。
どれ程の距離だろうか。遥か遠くの天空から、一本の光の柱が地面に突き刺さっていた。
衝撃波が窓を揺らす。
アレがダウンシューターの主力兵器、ウィングキャノンをフルパワーで撃った結果だろう。可能としているだけで、使用は想定していない、力任せの攻撃。
何所に撃ち込まれたのかは想像したくはないが、おそらく、その場所は蒸発して何も残っていないだろう。
「また、私はダメだったのか」
コレと同じ後悔を味わったのは二十年前以来だ。
また、彼に尻拭いを頼まなければならないのか。
そうならない為に、ダウンシューターを開発したというのに……。
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