創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第二話-鋼と古兵-(はがねとふるつわもの)

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匿名ユーザー

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 応接室を出て歩くこと数分、祈の後に続き廊下を歩いていると、すれ違う職員達の中に白衣姿の者が多くなってきた。
 祈に尋ねると研究室や実験室が設置されているという区画に入ったのだという。
 (……ロボットを所持している秘密組織で研究や実験……新兵器とか?)
 等と緊張感の無い感想を抱く京介。
 前を歩く、祈の形のいい小さな後頭部を見るともなしに見ながら、先程の桔梗から受けた説明を反芻する。
 ―実在する幻想
 ―自衛の為の特殊な人間が作った組織
 ―神の力で動く巨大ロボット
 (……あれ?というか驚きすぎて肝心な事何一つ訊いてなかったな)
 詳しいことを何一つ質問できていなかった事に漸く気づいた京介は右手で頭を掻く。
 (どうするかな……後で改めて訊けばいいか……あ、そういえば)
 自分の前を歩く人物も関係者だった事に思い至る。
 先程の場に同席していたということは、少なくともフツヌシに関して重要な人物なのだろう。尋ねない手は無い。
 (この子にも訊きたいことあったしな。……さて)
 「春日さん、ちょっといいかな?」
 京介は足を止めて祈に声をかけた。


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 「……何でしょうか?」
 足を止めて振り返った祈に、京介は軽い調子のまま話を続ける。
 「またちょっと質問があるんだけど」
 その言葉に祈は軽く嘆息すると、
 「今度は何ですか?私に分かる範囲でなら答えますから、質問は歩きながらでお願いします」
 前方に向き直り、再び歩き出した。
 「はいはい、っと。では先ず一つ目ソウマってミツルギの子会社みたいなもの、でいいのかな?」
 京介は祈の後を追いながら一つ目の質問を口にする。
 「……というよりも、御劔の世間向けの顔、といったところです。御劔は元々は国家の一機関でしたが、戦後に半官半民の形態になり、その後完全に国家とは距離を置く形になりました。……表向きは、ですが」
 質問を受けた祈は、左手を持ち上げ、人差し指を立てながら淡々と説明をしていく。
 「それによって、当然国家予算をそのまま使うことは出来なくなりましたが、元国家機関という縁で受け取ることが出来る少なくない補助金と、
 一企業としての身軽さで魔術を始めとした特殊な技術を活用して、普通の企業より半歩進んだ業績を上げて来ることが出来ました」
 「そして、この国を護るのに必要なだけの資金力、技術力、設備、人員……それらを揃え、維持する為に行ってきた企業活動の結果が現在のソウマグループという訳です」
 立て板に水といった具合の祈の説明に、へー、と気の抜けた相槌を打つ京介。
 「そういうことだったのか……有り難う。んじゃ二つ目、春日さんがあの手紙持ってきたけど、『鹿島』の人達とは知り合い?」
 二番目の質問に、祈は訝しげな表情で一瞬振り返ったが、すぐに前に向き直る。
 「え?えぇ、貴方のご実家である鹿島のお家も御劔の協力者の一つですので、御当主とは会談で何度かお会いしています。あのお手紙は今回の件で、若本とお願いに上がった際にお預かりしました」
 それを聞いた京介の口角が、傍目には分からない程度に僅かに持ち上がる。
 「……成る程」
 (実家、ね)
 京介の口調に何かを感じたのか、祈が振り返ってきたが、
 「どうされました?」
 その時には京介の表情は元に戻っていた。
 「いやー、何て言うか、そちらと俺、お互いに知らないことが多そうだなー、と。では三つ目、フツヌシはいつ頃造られたのか?」
 その質問を聞いた祈は立ち止まり、
 「……何故、そんな事を?」
 ハッキリと表情に不審の色を浮かべて首だけでなく身体ごと京介に向き直る。
 (まぁ当然の反応だよなー。何の脈絡もない質問だし、不審に思われて当然だけど)
 正面から向けられる強い視線に、京介は大げさに眉を立てて、
 「いや、だって巨大ロボットだよ!?男としては詳しい話を色々知りたいんだよ!!」
 大きく手を広げてオーバーアクションで力説する。
 「………………」
 「………………」
 一瞬その場を沈黙が支配した。
 余りにもわざとらしい京介の態度に毒気を抜かれたのか、祈は溜め息を吐きながら
 「……フツヌシの建造開始が4年前、完成には半年ほど掛かりました」
 呆れた様子で口にした。
 それを聞いた京介は両手を広げた間抜けなポーズのまま、
 (ふーん、成る程……これは当たったかな?)
 自分の中の予想が間違っていないらしい、という感触を得ていた。
 そこで京介は漸く体勢を戻し、殊更にのんびりとした声を出す。
 「へー。それじゃつい最近なんだねー。じゃあ最後にもう一つだけ質問」
 「……今度は何ですか?」
 呆れた様子で京介を促す祈。
 「春日さんってフツヌシ関係でどんな事してんの?あの場に居たんだから無関係ってことはないよね?」
 京介の問いは、先程までとは違い、本当に何の意図もなくただ好奇心から出た物だったが、
 「私は……、フツヌシの副操縦士です」
 予想外な祈の答えに、京介は阿呆のように口を開けた驚きの表情を浮かべることになった。


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 「………………助!ちび助!聞いているのか!?」
 「あ、え?……はい、聞いてませんでした」
 先程の祈との会話を思い出していた京介は正直に答える。
 「……そういう場合は、少しは申し訳なさそうにしろ。では、もう一度最初から説明するぞ?いいかちび助、コイツはシミュレーターと言っても少々変わっている」
 京介はシミュレータールームの内部に並べられた筐体の一つに乗り込み、入り口から上体を突っ込んだ桔梗の説明を受けていた。
 「シミュレーターなんて物は初めて見たので、他との違いが分かりませんが……、どうやって操縦するんですか?」
 シートに座り、ベルトで身体を固定した京介が、結構な余裕のある筐体の内部を見回す。
 大型のディスプレイや計器や、キーボード等が備わっているが、操作をするために必要と思われる操縦桿の類が見あたらない。
 「先ずシートにしっかりと身体を預けろ。……いいか?では肘掛けに手を置いて……丁度親指の位置にボタンがあるだろう?それを左右同時に押し込め」
 「……同時に、と」

 カシュン。

 「ん?」
 空気が抜けるような軽い音と共に脛が円筒状らしい何かに覆われ、その何かに足を固定される感触。
 再び同じ音がして、今度は肘掛けに置いた両方の下腕部が、迫り出してきた樹脂製らしいカバーに覆われ、これも固定される。
 「頭を真っ直ぐにしておかないと危ないぞ?」
 「え?あ、はい。……おお?」
 京介が頭をヘッドレストに沿わせた瞬間、ヘッドレストの裏側から現れたHMDが京介の頭部の上半分をすっぽりと覆う。
 今の京介の状況は椅子に両手足と頭を固定されており、その様子は
 「……電気椅子、ですか?」
 余り見た目がいい物ではない。
 京介の呟きにくすくすと笑いながら桔梗が言葉を返す。
 「私も最初に見たときはそう思ったよ」
 HMDに覆われた京介の視界には、明滅しながら回転する三つの光点が見え、両耳と接しているヘッドホンらしき部分からは微かに波音に似た音が聞こえている。
 「後は表示される手順通りに操作を進めれば手続きが終わるから、私は外で待っているぞ」
 「……ぐるぐる回ってる光以外に何も見えませんよ?」
 「初期設定に時間がかかっているのだろう。不自由だろうが、そのまま少し待っていろ。ではまた後でな」
 「……はい先生」
 そのまま入り口が閉じられた音がして、聞こえてくるのはヘッドホンからの波音だけになった。
 「………………」
 (うん、手持ち無沙汰だ)
 どうやって時間を潰そうかと考え始めたが、チャイムの様な軽い電子音と共に視界に文字が表示された。
 ―虹彩パターン登録完了
 「ん?」
 ―幽精(アストラル)パターン登録完了
 ―生命値(バイタル)正常
 ―機体設定に移行します
 (何だ?)
 と思考している間に光点だけだった映像に変化が生じた。


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 今まで暗かった視界を慣らすように徐々に光量が上がっていき、光点が消えて、替わりに別なモノが表示された。
 (ロボット……か。フツヌシとは随分違うな)
 俯瞰した状態でロボットの3Dモデルがゆっくりと回転している。
 西洋兜の目庇(まびさし)に似たゴーグルとフツヌシとはデザインが違うフェイスプレート。
 流線型と曲線を多用したスマートな装甲。
 フツヌシが力強さを感じさせるのに比べて、シンプルで細身なその外見は、敏捷性や器用さを感じさせる。
 と、ロボットを観察しているとヘッドホンから桔梗の声が聞こえてきた。
 《どうだ?時正を見た感想は》
 「トキマサ、って名前なんですか?このロボット」
 (あれ?さっき先生が話してたのってそんな名前だったかな?)
 《そう。十九式魔導甲冑『時正』。御劔で所有している量産型魔導甲冑の次期主力機だ》
 「へぇー、量産型の機体ですか。えーと、この画面から何をすれば?」
 《時正は今は丸腰の状態だ。右上に『設定』のアイコンがあるだろう?先ずはそれを選べ》
 「……手、使えないんですが。どうやって選べと」
 《手は必要ないぞ。『このアイコンを選ぶ』そう考えるだけでいい》
 「……考える、ですか」
 (また非常識な……えーと、こうかな)
 視界右上にあるアイコンに意識を向けた。
 その瞬間画面が一瞬で切り替わり、京介は自分自身が白い空間に立っていることに気が付いた。


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 「……え?」
 周囲を首を回して確認する。
 濃い灰色の床は一面格子模様が刻まれ、それが地平線、というか消失点まで広がっている。
 そしてそれ以外は左右も上方も全ての空間が白く、目に付く物は何もない。
 (何か、距離感がおかしくなりそうだな……)
 思わず目頭を押さえようとした京介は、そこで漸く、先程まで椅子に固定されていた自分が立っていることを訝しく思ったが、
 「……何だこれ」
 目に飛び込んできた『それ』に、完全に意識が奪われた。
 『それ』を凝視しながら裏返し、表返し、また裏返す。
 「ロボットの……手?」
 金属で作られた五指と掌。
 手掌側は滑り止めの為か所々が樹脂で覆われ、関節部は樹脂と金属製の繊維状皮膜で保護されている。
 自分が手を動かすたびに金属製の手は同じ動きを取る。と言うより
 「ロボットに……なってる……?」
 混乱している間もなく、眼前に様々な武器が表示された無数の情報ウィンドウが展開される。
 「うぉ!?……何だ?」
 驚きから思わず声を上げた所に、再び桔梗の声が耳に入ってくる。
 《武器は表示されたか?ちび助》
 「……表示はされましたけど……これってどういう状況なんですか?」
 《ふむ?何か問題でもあるのか?》
 「ロボットに『乗ってる』んじゃなくて『なってる』っていうのは、俺の中ではかなりの問題なんですが」
 《あぁ、憑依機構か。事前に説明はしなかったが、今お前が体験している通りの物だ。大雑把に言うと精神を身体から抜き出して機体に取り憑かせているのだよ》
 「……ロボって操縦桿とかペダルで動かすイメージだったので、かなり驚きました」
 そう告げると桔梗は、
 《いきなり手動でこの手の物を動かせというのも無理な話だろう?それでは試験にならん》
 笑みを含んだ口調でこう返してきた。
 (……見透かされてるな、これは)
 《試験を受けると言った以上、手を抜くことは許さん。全力で戦え》
 「……了解しました、先生。……ところでこの後の操作は?」
 《積載制限に気を付けて、好きな武器と防具を選べばいい。……あぁ、その前にこれをやっておかないとな》
 「?……何ですか」
 《何、時正の扱い方を『覚えて』貰うだけだ》
 「マニュアルか何かですか?」
 《それでは覚えるのにも馴れるのにも時間が掛かりすぎる。……余り気分が良い物ではないが、まぁ我慢するんだな》
 「え?それって……」

 ヴン!

 「!?」
 熱湯のような何かが勢いよく頭の中に入ってくる感覚。
 (なんだ!?……うぁ)
 そのお湯から水分だけが急激に蒸発し、残った熱が『記憶』という形を取っていく。
 「……成る程」
 (確かにこれは『気分が良くない』、な。何だこの変な感じ……)
 見てもいない、聞いてもいない記憶をただ『知っている』という感覚。
 (……『学習する』っていう手順を踏んでいないだけで、こんなに変な感じがするモノなのか……)
 しかし『覚えた』記憶―スラスターに関する出力の調整や使用する場合の姿勢、通信に関しての対象の切り替えや公式周波への合わせ方等、時正の操縦に関する一切合切は、普通に覚えたその他の記憶となんら変わりなく自分の物として認識できている。
 「……凄いですね、これ。これも魔術ってことですか?先生」
 《というよりはそこから派生した技術だな。では、取り敢えず半刻(一時間)、機体操作と武装の習熟に時間を取る。その後は若本と試合ってもらうぞ?》
 「一時間、ですか。……努力します」
 《うむ、結構。では通信を切るぞ》
 (適当に終わらせる訳にはいかなくなったか。……まぁ、精々励むとしますかね)


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