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創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

第二話-鋼と古兵-(はがねとふるつわもの)(Bパート)

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――――――――――――――――――――


 《用意はいいか?ちび助》
 「―っと。大丈夫です、先生」
 僅かなノイズの後に入った桔梗からの通信に、京介は手にしていた武器を納めながら答える。
 視界の隅では一時間にセットしたタイマーの表示が丁度ゼロになり、アラームが鳴り出した。
 「不安だらけですが、やれるだけの備えはしました」
 意識を向けてアラームを止め、あれこれと悩みながら装備を調えた機体の全体図を視界に表示させる。
 機体色は一番最初に表示された物を選んだだけの、ツヤ消しの暗緑色。
 右腰に、Eダガーを納めた追加装甲兼用の大型ホルダー。
 左腰には脇差と太刀の近接用ブレードが二種類。
 追加装甲を取り付け、ややゴツくなった機体に羽織った、インバネス(ケープ付きのノースリーブーコート)型の装甲服。
 背部にスラスターの補助として取り付けた小型の安定翼。
 積載制限までにはまだ余裕があり、動いてみた感じでもバランスは悪くなかった。
 (さて、鬼が出るか蛇が出るか……出来ればどっちも出て欲しくないけど)
 何しろ先程『覚えた』機体の操作についても不安が残る。
 『知って』はいても『馴れて』いない今の状態では、思わぬミスをしそうだからだ。
 《良いだろう。では場所を移すぞ》
 「はい、先生」

 返事を返した直後、周囲の風景が切り替わった。
 ――――――――――――――――――――


 「……おぉ」
 目の前に広がる光景に思わず感嘆の声が漏れる。
 突き抜けるような青い空。
 その色とは対照的な、高低差の激しい赤い大地。
 「……グランドキャニオン、かな?」
 手近な断崖絶壁の表面に見える地層に視線を向けながら、合衆国にある国立公園の名前を口にする。
 独り言のつもりだったが、その言葉に返事が返ってきた。
 《正確には、峡谷に見られる地形の特徴を再現した、訓練用の空間だ》
 「成る程。えーと……若本さんは?」
 周囲を見回すが、若本の機体は見あたらない。
 《あぁ、それなんだがな。ただ正面からやり合うのも面白味が薄いと思って、少し趣向を変えてみた》
 「え?それってどういう……ん?」
 問い返しても答えは無く、代わりに一つの座標データが送られてきた。
 《今送った座標に柱が一本立ててある。それを破壊すればちび助の勝ちだ。どうだ?面白そうではないか?》
 面白がるような笑みを浮かべているのが伺える声音で問いかけてくる桔梗。
 それに対して京介は少しの間沈黙し、
 「………………当然若本さんが妨害してくる、と」
 予想される障害を口に出す。
 《当然だろう》
 何をいってるんだ、と言わんばかりの返答に、
 「あー、今からテストを取り止めるというのは……」
 京介は無駄と分かっている事を口に出してみるが、案の定、
 《無しだ》
 「……やっぱり。……了解しました、先生」
 一言の下に断られ、思わず肩を落とした京介は、
 (……大事になったなー。……余計なこと言い出した俺の自業自得だけど)
 心の中で愚痴をこぼした。

 ――――――――――――――――――――


 桔梗にスタート地点から送り出されて数分、京介は機体のホバー機能を使い移動していた。
 少し前傾し、腰を落とした姿勢で疾走を続けながら、京介は自分が少しはしゃいでいるのを自覚していた。
 (さっきも思ったけど、これって楽しいよなー)
 スキーに似た感覚で平地を走れるこの機能は、自分で自転車を漕ぐ時とも、竜意のバイクにタンデムさせて貰った時とも違う爽快感を与えてくれる。
 (それに……この時正も凄過ぎるな……。身体が軽いし、力は強いし、動きの精度も高い)
 ―まさに『理想の肉体』、だな。
 そんな事を考えながら、晴天の下、広大な大地を思う存分走れる快感に浸る京介。
 だがしかし、これは遊びではなく『試験』であり、そのような悠長な状況がいつまでも続くはずが無かった。

 甲高く響く突然の警告音

 「!?」
 その警告音の意味を思い出すよりも早く、聞こえてきた噴射音に頭を上げると、こちらに向かってくる物体が十個ほど。
 鈍く輝く金属製らしいそれは、それぞれがバラバラな軌道を描きながらも確実にこちらを補足しているらしく、京介に向かってくる。
 円柱状の形状と背後に尾を引く噴射炎。
 そして現在の状況を鑑みると、その正体は意外と簡単に導き出された。
 「ミサイル、だよねぇ……」
 (……あぁ、そういえばさっきの警告音はロックオンされた時のヤツだったっけ……)
 等と妙に落ち着いてしまった頭で京介が思考している間にも、円柱の群れは飛翔を続け、京介に迫り、
 「あ」

 着弾。

 そして轟音。

 ――――――――――――――――――――


 シミュレータールーム内に設置されている大型スクリーンに、ミサイルの爆発シーンが映し出されると、
 「ハァ……」
 祈は軽く溜め息を吐き、目を伏せた。
 その様子に桔梗は悪戯小僧めいた表情を一瞬浮かべると、殊更に真面目な表情を作り、祈に声をかける。
 「どうした祈?」
 「……いえ、特に何も」
 「私に気を遣う必要は無いぞ、祈。どうだ?ちび助を見た感想は」
 桔梗に促された祈は気が進まない様子ではあったが、
 「……正直に言わせて頂ければ、何故顧問が推薦されたのかが、全く分かりません」
 今までの鬱憤もあったのか、彼女にしては珍しく苛立たしげな表情で批判の言葉を口にした。
 祈の態度と発言に、呆気にとられた表情を浮かべた桔梗だったがそれは一瞬で、
 「ハハハ!随分手厳しいな?」
 すぐに愉快そうな笑みを浮かべ、笑いながら問い返した。
 まだ苛立ちが収まらないのか、
 「人格的には尊敬出来ませんし、せめてフツヌシを預けられるだけの力量を備えているかと期待したのですが。……ミサイル程度でこの様子では」
 祈は溜まっていたものを一気に吐き出すように、しかし抑えた語調で言葉を返した。
 桔梗がそれに返答するよりも早く、祈は頭を下げ、
 「では私はこれで失礼します。あとは皆様で彼の判断をなさって下さい」
 それだけを口にして、踵を返し、シミュレータールームを後にしようとする。
 「ふむ、色々言いたい事はあるようだが、結論を出すのは少し早いようだぞ?」
 その背中に、気楽そうな口調で桔梗が声をかける。
 「え?」
 振り向いた祈に、桔梗は指で大型スクリーンを指し示す。
 祈が画面に見た物、それは暗緑色の装甲を土埃で汚し、右手に脇差を持った時正が、土煙と爆煙の名残を纏い付かせながら着弾地点を後にする姿だった。
 ――――――――――――――――――――


 (……危なかった……)
 落とした速度を再び上げながら、脇差を鞘に納める京介。
 視界の隅に表示されている機体のダメージ表示を確認すると、全部位が青表示のまま、損害無しを示している。
 先程の爆風で衝撃を受けたので少しは損傷があったかと心配したが、追加した装甲が役に立っているようだ。
 (どうにか凌げたな……というかどこから撃ってきた?)
 視線をミサイルが来た方向へ向け目を凝らすと、自動で補正が掛かり、黒い蜘蛛のような機影が三つ、それぞれ別の切り立った断崖にいるのが確認できた。
 それとほぼ同時に、
 「……ってまた来るか!?」
 再びの警告音に京介は思わず愚痴を吐き出す。
 そして先程の攻撃の時と同じように、3つの物体から射出されるミサイルの群れ。
 「くそっ!」
 先程と同じ方法で対処すべく、ミサイルの群れを注視したまま、意識の一部を内側に向け、その『スイッチ』を入れる。

 同時に、世界がその動きを遅くした。

 視界に映る風景はそのままに、その中で動く物全てがその速度を減じている。
 勿論京介自身の動きも例外ではない。

 魔導甲冑には元々『搭乗者の感覚を加圧する』=『機械が持つ処理能力によって搭乗者の感覚を最適化する』という機構が組み込まれている。
 これによって、生身とは大きさも重さも違う機体を生身の肉体同様に動かすことが出来る訳であるが、最新型である十九式時正の場合、そのシステムに特殊な改良が施されている。
 それは任意での加圧レベルの上昇。
 加圧された知覚と思考速度によって1秒を何倍にも引き延ばす事が可能となるのである。
 但し、長時間や連続の使用は処理するハードウェアである脳に多大な負担が掛かり、最悪の場合その機能に問題が生じる可能性が高い。

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 (数は十八、速度は先程と変わらず、こちらとの距離は充分……よし!)
 先程試した京介の加圧限界は4倍加圧で5秒間、つまり1秒経過する間の主観時間は4秒間となり、限界まで使用すると5秒間経過する間の主観時間は20秒間へと引き延ばされる。
 先程は5秒間まで使用してしまったが、今回は距離的な余裕があるため加圧は3秒間。そして時正の演算機能の補佐を受けて、ギリギリまでミサイル群の位置や軌道を分析する。
 軽く頭痛を感じ始めたのと同時に視界隅のカウント表示がゼロになり、加圧が解除された。

 途端に世界がその速度を取り戻し、ミサイル群が京介に向かって飛来する。

 (先ずは……!)

 ―七上流歩法『風舞(かざまい)』の変形、『旋(つむじ)』

 速度を落とさず、予備動作を廃した連続の方向転換を行い、相手を攪乱する歩法である。
 最も京介は桔梗から教わったそれをまだ完全には会得出来て折らず、未だ高速の連続フェイントとでも言うべきレベルでしかないが。
 しかしそれでも単純な追尾機能しか持たないミサイル相手には充分らしく、こちらを見失って地面に着弾する物、空中でお互いに接触し爆発する物が続出する。
 そして機体に迫ってきた物だけを、抜き出した太刀を峰に返し、刀身でミサイルに触れ、押すようにしてその軌道を反らしていく。
 先程は加減に失敗して案外近くで爆発させてしまったが、今度は上手くいったようだ。
 (クロスボウの矢とは勝手が違ったけど、コツが掴めれば出来ない事もないか……さて、次だ)
 桔梗から受けた修行を思い返しながら、太刀を納め、再加速。
 一気に一番近い敵がいる崖の下まで距離を詰め、跳躍を行い壁面に右脚をかける。
 今までの速度を殺さないように、壁面を蹴り付け、機体性能にまかせて駆け上がった。
 壁面から足が離れそうになるたびに、スラスターを使って機体の姿勢を制御しつつ、大きなストライドで垂直に近い壁面を疾駆していく。
 登坂が終わり、空中に飛び出した機体をスラスターで姿勢を調整して崖の上に着地。
 同時に、再び太刀を抜き放ち、青眼に構える。

 ――――――――――――――――――――


 対峙するのは先程確認した機影の一つ。
 時正の胸部程度の全高を持つそれの形状は、遠目には蜘蛛と見えたが、こうして近くで見ると蠍の形状の方が近いだろうか。
 尻尾の替わりにミサイルコンテナを搭載し、巨大な鋏を備えた鋼の蠍が、崖を背にしたこちらに向けて、右側の鋏を振り上げ、突き込んで来た。
 背後は崖、前方からは突き込まれる戯画化されたような巨大な鋏。
 左右のどちらかに逃げても、次の動作で突き込んだ鋏でそのまま薙ぎ払われるか、もう片方の鋏で追撃される恐れがある。
 逃走方向は上に跳ぶか下へ屈んでやり過ごすか。

 (……いける)

 そして京介はその方向へ躊躇無く動く。
 それは上下のどちらでもなく―前方。
 構えを左の脇構えに変えつつ半身になり、右前方へ身を飛ばす。
 高速で鋏とすれ違うそのタイミングで脇構えの太刀を振り上げる。
 金属同士が擦れ合う音が一度響き、突き出された蠍の鋏が支えを失ったように地面へと接触する。
 (浅かったか……)
 可動部である関節を狙ったが両断するまでには至らなかった。
 (鋏の大きさに腰が引けて間合いが狂ったか)
 手応えでそう判断しながら、京介は振り上げた太刀をそのまま翻し、蠍の頭部目掛けて振り下ろそうとする、が。

 その時京介の右手側から僅かに金属音が響いた。

 京介が広角視認用の側頭部の視覚素子を起動させるよりも早く、高熱源体反応の警告音が響き、

 内蔵されていた砲口を展開した左手側の鋏から、柱のような熱線が放射された。

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 複合センサーを備えた頭部の至近で起こった爆発を、一瞬光学センサーを閉じてやり過ごした多脚戦闘車両「鋏甲(はさみかぶと)」のAIは周囲の索敵を開始した。
 索敵の理由は、敵機の一撃により、万全の状態で無くなった右腕を巻き込む形で左腕の攻撃モジュールを起動し攻撃を行ったが、爆発の規模を分析したところ時正が爆発した形跡がなかった為だ。
 索敵範囲を上方へ移動させた片腕の鋏甲―Aグループの1番目として『A-1』のコードを割り振られている―は、跳躍の頂点から落下を始めた敵機を発見し、
 [11001101011100110001011―]
 他2体の鋏甲へと行動指針を通信。
 データの遣り取りをする一瞬の沈黙の後、3体の鋏甲は腕部に内蔵された熱線砲を展開。
 両腕が揃っている鋏甲A-2、A-3の内A-2が片方の腕を空中の敵機に向け、熱線を発射。
 熱反応を感知していたらしい敵機は、スラスターを噴射させて強引にこちらの攻撃を回避。
 しかしA-1にとって敵機の回避能力は、先程までのミサイルへの対処の様子で既に予測の範囲内であり、
 [0110―]
 3体の鋏甲は一斉にミサイルを発射し、更に空中の敵機を追いつめる。
 敵機はスラスターで強引な移動を連続で行い回避するが、飛行能力を持たない機体では当然その動きにも限界があり、
 [1101―]
 3体の放つ弾幕の内の数発が命中し、回避行動をしかけていた動きが止まる。
 [―1001]
 敵機が動き出し体勢を立て直そうとしている隙に、3体は熱線砲のエネルギーをチャージ。
 回避行動を取りかけた敵機に、5条の熱線を撃ち込んだ。

 ――――――――――――――――――――


 機体の数カ所に熱線を受けた敵機が弾き飛ばされ、落下を開始する。
 損害状況を確認するため、A-1は敵機体に各種センサーを向け、探査を開始。
 [1101011―]
 探査の結果は

 ―敵機体の損傷:軽微 戦闘続行:可能

 僅かな時間の後、それに気付いたA-1だったが、他の2体に通信を送る判断を下すよりも早く、突如敵機が姿勢制御用スラスターを噴射させ反転。
 熱線の砲撃を受けていた間も保持していた太刀を、頭部の右脇に立てるようにして両手で構え、背部のスラスターを噴射させ、こちらに向かって直進してくる。
 [001100―]
 他の2体に指示を送りつつ迎撃としてこちらが放った熱線を、敵機はスラスターで強引な方向転換を2回行い、機体にかすらせながらも直撃を回避。
 そして敵機は、破壊され、攻撃の死角になっていた右腕の前に着地すると同時に、重力加速とスラスターの推力を上乗せした斬撃をこちらの機体中枢めがけ振り下ろす。
 [―00111011―]
 その動きに応じて熱線砲の砲身を敵機体に向けるが、熱線が砲口から発射されるよりも一瞬早く、機体に凄まじい衝撃を受け中枢部が破損。
 無数のエラーコードがA-1の電脳内をかけめぐり、
 [―00…101……10…]
 ノイズが走り始めた光学センサーに、振り下ろした太刀を戻し、他の2機へと向かって跳躍する敵機体を映しながら、A-1はその機能を停止した。
 ――――――――――――――――――――


 跳躍とスラスターを併用して熱線を回避しながら2機目の蠍モドキとの間合いを計る。
 2発の熱線を避けたところで、太刀の柄から左手を外し、右腰のホルダーからEダガーを2本抜き出し、左手を振り上げる動きで1本を、間髪入れず振り下ろす動きでもう1本を擲つ。
 Eダガーは狙いを外さず、追撃の熱線を放とうとしていた蠍モドキの両腕にそれぞれ突き立ち、
 (『爆ぜろ!』)
 起爆信号として設定しておいたキーワードを思考。
 同時に『爆発』の術式が起動し、突き立ったEダガーの刀身から、熱と衝撃が一瞬で球状に広がり、熱線砲にダメージを与える。
 (破壊出来たかどうかは分からないけど……!)
 「……隙は出来た」
 両手で持ち直した太刀で着地しざまの斬撃を、先程の爆発で装甲にダメージが入っていた蠍モドキの左腕に叩き込む。
 超硬合金と鋼を使用し錬金加工を施した刀身に、重量軽減のための『浮揚』と切れ味を増す『鋭き刃』の魔術を術式付与(エンチャント)した太刀は、蠍モドキの装甲を物ともせずに両断、その鋏を斬り飛ばした。
 重量は軽減されていても刀身自体の質量は変化していないので、「振る時は軽いが止めるときは重い」という癖のある武器だが、
 (……兜割りを普通に出来るようなモンだよなぁ、これ。まさに達人気分)
 その威力は使い辛さを差し引いても余りある。
 (……って危な!)
 そして先端を失った左腕を跳び越えて突き込まれてきた右の鋏を回避。
 それに対して蠍モドキは後退しつつ心地旋回のような動きで体勢を変え距離を取る
 そして再度熱線を放とうとするが、京介は既に蠍モドキの動きに合わせて頭部に密着するように間合いを詰めており、蠍モドキに右半身を向けるようにして、熱線射出の為に伸ばされた右腕を断ち切った。
 両腕を失った蠍モドキに、京介は更に追撃する。
 太刀の柄から放した右手で脇差を抜き、脚を踏み換え頭部へ正対する動きをそのまま踏み込みとして、脇差での斬撃を蠍モドキの頭部へと送る。
 しかし、両手で振るう時よりも間合いが広がる片手切りとはいえ、脇差では刀身の長さが足りない。
 当然、斬撃は空を切る、
 ――――――――――――――――――――


 筈だったが、

 ――――――――――――――――――――


 (『刃よ』!)
 京介はEダガーの時とは別のキーワードを思考。
 脇差の刀身から青白い光が吹き出し、収束し、光の刃を形成する。
 刀身それ自体は太刀と同じ物だが、そこに付与されているのは、魔力の刀身を形成する『魔剣』と光の属性を付与する『光刃』の術式。
 (こんなアニメ武器があるとは……)
 「ねっ!」
 エネルギーの刃が蠍モドキの装甲を焼き切り、そのまま中身を焼いて下へと抜ける。
 僅かな間を置いて、2体目の蠍モドキが力を失い、腹を地面に落とし始めるのを確認しつつ
 「…っと!」
 跳躍。
 一瞬の差で最前まで京介が立っていた場所を熱線が通過し、蠍モドキの残骸を巻き込んで爆発する。
 (―っ!足先熱かったぞ今!?)
 上昇中の機体をスラスターを使って強引に地面に降り立たせ、脇差を元に戻し鞘に収めながら、爆煙の名残を煙幕として別方向へ移動。
 (気付いてなかったら危なかったよなぁ……)
 1体目との戦闘で抱いた疑問は2体目との戦闘で確信に変わった。
 この蠍モドキ達はお互いを攻撃しないような設定になっているらしい。
 1体に密着していれば同士討ちを恐れて他の機体は攻撃をしてこず、おかげで1対1の戦いに持ち込めた。
 (残りは1体、まだ気を抜くなよー、俺)
 そう自分に言い聞かせながら、京介は3体目の蠍モドキに向かって大きく跳躍した。

 ――――――――――――――――――――


 「……いつもながら間抜けだねぇ、俺は」
 最前に思考していた事を思い出し、思わず愚痴が零れる。
 (気を抜くな、って言い聞かせて置いてこれだから)
 地面に転がっていた機体を起こし、インバネスの裾を払いながらそちらを向く。
 結構な距離を置いて確認出来るのは、爆発し、炎上する蠍モドキの残骸。
 (一番最初にヒントは出てたのになぁ……)
 先程までの、3体目との戦闘を回想する。

 滞空時間の短い低角度の跳躍で、左後方から奇襲を試みた京介に対し、鋏甲は左腕だけを向けて熱線を放つ。
 斬撃の動きに入っていた京介は強引にスラスターを噴射させ、熱線を辛うじて回避。
 京介が次の動きを見せる前に、鋏甲は反転、後退し、ミサイルコンテナの発射口を開く。
 間髪入れずにミサイルが発射され、丁度地面に足を着けた京介に6発のミサイルが殺到する。

 (そう、ここでまた『加圧』を使った)

 ミサイル軌道の分析を終えた京介は、着地の反動を殺すことなく、重心自体を移動させる体裁きによって、速度を保ったままスラスターを併用しての再跳躍を行った。
 今度の跳躍はほぼ地面すれすれの更に低い角度で、その分距離が長い。

 (で、着地してすぐに『旋』を使って接近)

 2条の熱線をギリギリで回避しつつ円を描くように鋏甲へ接近し、左側の脚を2本、振り下ろしから切り返しの連撃で切断。
 巨大な脚部を斬る為に動きを止めた京介を、鋏甲は左腕で薙ぎ払おうとするが、突然脚部を失った為に体勢を崩し、薙ぎ払いが京介まで届かずに止まってしまう。
 京介はそのまま無防備になった左腕に斬撃を送り込み、鋏を関節部分から叩き斬る。

 (ここだ。……やっと蠍モドキの動きに馴れて、機動力と武器の片方を奪って調子に乗ってたんだろうなぁ)

 更に追撃を加えようとした京介の耳に、ミサイルの発射音が届いた。
 視線をミサイルコンテナに向けると、“真上を向いた”ミサイルコンテナから更にミサイルが4連続で発射される。

 (ロックされた警告音が聞こえなかったから、『何故そんな事をするのか』っていう疑問に気を取られた)

 そして打ち出されたミサイルはその進行方向を“下方”』へと変える。

 (ネズミを捕まえられないなら、建物ごと薬品で燻蒸してしまえばいい、っていう話で)

 3体目の鋏甲が放った30発のミサイルは、自機を含めた周辺へ破壊の雨となって降り注いだ。

 ――――――――――――――――――――


 (最初のヤツが、動かなくなった手を巻き込んで攻撃した時に気付くべきだったなぁ。機能が低下すれば『切り捨てる』っていう選択肢を取れるようになるって事を)
 次の動作を念頭に置いて動く、等という考えを置き去りにしてひたすら全力で逃げた事で、何とか生命を拾えたようだ。
 「………………」
 周囲を警戒するが、特に攻撃や動体の反応は無い。
 どうやらこの近辺にいる敵はこいつらだけだった様だ。
 「痛ぅー……死ぬかと思った」
 そこで漸く太刀を納めながら、一人ごちる。
 必死になって動き続けたことで、どうにかスタート直後にゲームオーバーという、桔梗に恥を掻かせる事態は避けることが出来た。
 (ホント、全部ギリギリだったよなぁ……)
 実際に、空中でミサイルを避けきれず数発を纏めて喰らった時は、一瞬思考が止まり、無防備な状態で熱線を受けてしまった。
 5基の熱線砲の直撃を受けた京介の機体が無事だった理由、その一つはインバネス自体が一つの『呪符』としてのシステムを備えており、その術式が『エネルギーを減衰させる力場の形成』だったということにある。
 つまりこの場合、鋏甲の熱線はインバネスから展開された力場によってエネルギーを減衰され、装甲服と装甲板によって阻まれたのだ。
 もう一つは砲撃を受けた部位だ。
 もし一カ所に集中砲火を受けたり、防御力の低い関節部に受けていれば、こうして動くことも出来なくなっていただろう。
 (最初の妨害でこの有様か……我ながら無様だねぇ)
 改めて損傷状況を呼び出す。
 左前腕部、右下腿部が黄色、上背部左側、左腰部、左大腿部が緑色の表示に変化している。
 確かに痛みが強いのは左手首の上と右脹ら脛で、左肩胛骨周辺と左腰の脇腹付近、左太股の外側の痛みは鈍い。
 (左手と右足は次まともに攻撃を受ければ動かせなくなる、って所か。用心してかないと)
 「はぁ……参るなぁ」
 移動を再開しながら、更に激しくなるであろう妨害を想像し、溜め息と愚痴をこぼす京介だった。

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