アグリット・ダリューグは、いつの間にか艦長席で、うたた寝をしていたようだ。
「…いかん」
しかし、艦長帽を深く被り腕を組んだ姿勢、普段から仏頂面のお陰で部下にはバレずに済んだ。
「…状況は?」
「はっ、現在、火星軍艦隊は月軌道上に展開、二時間後には交戦となります」
「本艦は間もなく戦闘となる、各員、戦闘配備だ」
「了解しました提督」
艦内が一気に慌ただしくなる。が、ブリッジの角に一人の少年が、ぼーっと外を眺めていた。
「…シュート」
少年は振り返る。顔に精気は全く無い。気だるそうな表情をアグリッドに向ける。
「…お前も早く持ち場に付け」
「時間まだあるんだろ?」
「…あるからなんだ?」
「…」
「…今のお前は私の部下だ。上官の命令は絶対だ」
「俺は、部下になった覚えもないし、ましてや軍人でもない」
「…なら何故、此処にいる?」
「そ、それは…」
「…戦うなら早くしろ。それでなければ帰れ」
放った言葉が空間を凍らせる。
「お、親父は、俺との再会がうれしくないのか?」
「…今は部下と上官だ」
「そんなの関係ないよ!家族を戦争に巻き込んで、兄貴まで死んで…死んじゃって」
「…シュート」
「…いかん」
しかし、艦長帽を深く被り腕を組んだ姿勢、普段から仏頂面のお陰で部下にはバレずに済んだ。
「…状況は?」
「はっ、現在、火星軍艦隊は月軌道上に展開、二時間後には交戦となります」
「本艦は間もなく戦闘となる、各員、戦闘配備だ」
「了解しました提督」
艦内が一気に慌ただしくなる。が、ブリッジの角に一人の少年が、ぼーっと外を眺めていた。
「…シュート」
少年は振り返る。顔に精気は全く無い。気だるそうな表情をアグリッドに向ける。
「…お前も早く持ち場に付け」
「時間まだあるんだろ?」
「…あるからなんだ?」
「…」
「…今のお前は私の部下だ。上官の命令は絶対だ」
「俺は、部下になった覚えもないし、ましてや軍人でもない」
「…なら何故、此処にいる?」
「そ、それは…」
「…戦うなら早くしろ。それでなければ帰れ」
放った言葉が空間を凍らせる。
「お、親父は、俺との再会がうれしくないのか?」
「…今は部下と上官だ」
「そんなの関係ないよ!家族を戦争に巻き込んで、兄貴まで死んで…死んじゃって」
「…シュート」
「今度は俺に軍人になれだって、そんなのおかしいじゃないか!?俺は兄さんの代わりじゃないんだ!俺は…ただ、親父にッ
シュートには見えていたのだ。
迫り来るアグリットの拳が。
だが、敢えてシュートはそれを避けなかった。
繰り出される鈍く重い拳が頬に叩き込まれる。
脳が大きく揺さぶられる。
一瞬、意識が遠のく。
そして、激痛が走る。
迫り来るアグリットの拳が。
だが、敢えてシュートはそれを避けなかった。
繰り出される鈍く重い拳が頬に叩き込まれる。
脳が大きく揺さぶられる。
一瞬、意識が遠のく。
そして、激痛が走る。
しかし、シュートは嬉しかった。
父が自分に対して感情的になったのはこの瞬間が初めて。
子供の頃、優秀だった兄に付きっきりだった父。シュートは、いつもその光景を眺めるだけだったのだ。
今、この時、父は自分を見てくれている。気に掛けてくれている。
シュートは嬉しくて仕方がなかった。
子供の頃、優秀だった兄に付きっきりだった父。シュートは、いつもその光景を眺めるだけだったのだ。
今、この時、父は自分を見てくれている。気に掛けてくれている。
シュートは嬉しくて仕方がなかった。
それが最初で最後の父から息子への修正だった。
「…ぐッ」
アグリットは殴った右手で口を押さえた。掌を開くと、唾液に赤色が入り交じる。
「提督!」
それまで横で傍観していた副官の大佐が駆け寄る。
「やはりまだお体が…」
「…気にするな。それより、“ソレ”をかた片づけろ。無理矢理にでもコクピットに放りこんどけ」
アグリッドは席に座り直し血を拭かぬまま仮眠を取ったのだった。
アグリットは殴った右手で口を押さえた。掌を開くと、唾液に赤色が入り交じる。
「提督!」
それまで横で傍観していた副官の大佐が駆け寄る。
「やはりまだお体が…」
「…気にするな。それより、“ソレ”をかた片づけろ。無理矢理にでもコクピットに放りこんどけ」
アグリッドは席に座り直し血を拭かぬまま仮眠を取ったのだった。