少女機甲録(仮) 4
アスファルト舗装された道路に重い足音を響かせながら、10体ものワーム・タイプCたちの突進が始まる。
始めはゆっくりと、そして次第に加速がつくと共に踏み鳴らす足音がドラムかティンパニを連打するような音の洪水になる。
もはや震わせるのは大気と鼓膜だけではない。
道路を伝わり、軽度の地震かと錯覚するような振動が周囲の家屋さえ揺らし、窓ガラスをガタガタとゆらす。
それは中世の重騎兵のランスチャージにも、あるいは象の群れの行進にも似ている。
4mと数十トンの巨体が鳴り響かせるそれは、立ちはだかるもの全てを押しつぶし蹂躙するだろう死の突進だ。
始めはゆっくりと、そして次第に加速がつくと共に踏み鳴らす足音がドラムかティンパニを連打するような音の洪水になる。
もはや震わせるのは大気と鼓膜だけではない。
道路を伝わり、軽度の地震かと錯覚するような振動が周囲の家屋さえ揺らし、窓ガラスをガタガタとゆらす。
それは中世の重騎兵のランスチャージにも、あるいは象の群れの行進にも似ている。
4mと数十トンの巨体が鳴り響かせるそれは、立ちはだかるもの全てを押しつぶし蹂躙するだろう死の突進だ。
その突進を前にして、二本の脚で立つ機士は一歩も揺るがない。
暴風に立ち向かう勇者のように、40ミリ機関砲を構えて射撃姿勢を取っている。
窮屈な操縦室の中では、パイロットが汗をかきながらヘルメットと一体化したHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示されている照準を見つめている。
グリップを握る手はわずかに震えている。 緊張のためか、あるいは畏れ。
タイプCの胴体の先端に突き出されたツノに刺し貫かれれば、機士の装甲なんて無いも同然だ。
最大時速50kmで突入してくる質量の固まりは、生身の人間に対する10tトラックの衝突に近いものがある。
パイロットはトリガーボタンの安全ロックを解除する。
タイプCは1kmの距離。 まだ遠い。
およそ30秒後には500mだが、それでも遠い。
ギリギリまでひきつけるのだ。 相手がトップスピードに到達したその時こそが、攻撃のチャンスだから。
暴風に立ち向かう勇者のように、40ミリ機関砲を構えて射撃姿勢を取っている。
窮屈な操縦室の中では、パイロットが汗をかきながらヘルメットと一体化したHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示されている照準を見つめている。
グリップを握る手はわずかに震えている。 緊張のためか、あるいは畏れ。
タイプCの胴体の先端に突き出されたツノに刺し貫かれれば、機士の装甲なんて無いも同然だ。
最大時速50kmで突入してくる質量の固まりは、生身の人間に対する10tトラックの衝突に近いものがある。
パイロットはトリガーボタンの安全ロックを解除する。
タイプCは1kmの距離。 まだ遠い。
およそ30秒後には500mだが、それでも遠い。
ギリギリまでひきつけるのだ。 相手がトップスピードに到達したその時こそが、攻撃のチャンスだから。
400m。 まだ少し遠い。
タイプCの接近する速度に反比例して、1秒を感じる長さが嫌になるほどに長い。
300m。 あともう少しだけ遠い。
逃げ出したくなる。 あるいはトリガーを押したくなる。
だが、耐える。 あと少しだけ踏みとどまれば、それで終わるのだから。
…200m。
タイプCの接近する速度に反比例して、1秒を感じる長さが嫌になるほどに長い。
300m。 あともう少しだけ遠い。
逃げ出したくなる。 あるいはトリガーを押したくなる。
だが、耐える。 あと少しだけ踏みとどまれば、それで終わるのだから。
…200m。
「今だ!!」
トリガーを押し込むと同時に機士の抱える40ミリ機関砲の先端から誘導レーザーが照射され、同時に後方の味方砲兵…82式機士から発射された誘導ミサイルが
照射されたレーザーの反射を受け取り、その照射目標に向かって上昇から下降へと放物線を描いて飛翔、いわゆるトップアタックでタイプCの胴体上部に命中してゆく。
同時に、別の82式機士から発射された榴弾の雨がやはり放物線を描きタイプCの足元に着弾、6本の太い脚を破砕してゆく。
上方からの思いもかけない攻撃、そして脚を破壊された事により10体のタイプCは次々と転倒し、最大速度のままの勢いで派手に道路とキスを交わしながら路面を破壊してゆく。
ある個体は回転しながら家屋に突っ込み、またある個体は仲間に追突されて、さらに別の先に倒れた仲間の体にぶつかって止まる。
まるで、玉突き事故を見ているような光景だった。
攻撃開始から30秒もしないうちに、国道上は青い体液を撒き散らして横たわるタイプCたちの死骸と瓦礫がオブジェとして配置され、沈黙していた。
突進の騒音も、ミサイルや砲弾の着弾の喧騒も、静まり返っている。
照射されたレーザーの反射を受け取り、その照射目標に向かって上昇から下降へと放物線を描いて飛翔、いわゆるトップアタックでタイプCの胴体上部に命中してゆく。
同時に、別の82式機士から発射された榴弾の雨がやはり放物線を描きタイプCの足元に着弾、6本の太い脚を破砕してゆく。
上方からの思いもかけない攻撃、そして脚を破壊された事により10体のタイプCは次々と転倒し、最大速度のままの勢いで派手に道路とキスを交わしながら路面を破壊してゆく。
ある個体は回転しながら家屋に突っ込み、またある個体は仲間に追突されて、さらに別の先に倒れた仲間の体にぶつかって止まる。
まるで、玉突き事故を見ているような光景だった。
攻撃開始から30秒もしないうちに、国道上は青い体液を撒き散らして横たわるタイプCたちの死骸と瓦礫がオブジェとして配置され、沈黙していた。
突進の騒音も、ミサイルや砲弾の着弾の喧騒も、静まり返っている。
『生体反応…0
敵性反応…0
敵性反応…0
敵 沈黙を確認
我方損害…0
敵方損害…10
敵方損害…10
評価 Aプラス
戦闘状況 オワリ
シミュレーションプログラム 終了します
このソフトは防衛省技術研究部が開発・作成しました』
HMDに以上の文字列が表示され、やがて『シャトアウトします』の文字と自衛軍のロゴの表示の数秒後、画面がブラックアウトした。
シミュレーションによる訓練が終了し、背中のほうでプシュ、という音を立てて操縦室のロックが解除される。
背もたれとなるシートごと、背部装甲が解放されで暗く狭い操縦室内に光と清涼な空気が入ってくる。
麗美はヘルメットに挿入されていたUSBコードを外し、操縦室から出てハンガーに下りるとその重くて暑苦しいヘルメットも脱いで一息ついた。
背もたれとなるシートごと、背部装甲が解放されで暗く狭い操縦室内に光と清涼な空気が入ってくる。
麗美はヘルメットに挿入されていたUSBコードを外し、操縦室から出てハンガーに下りるとその重くて暑苦しいヘルメットも脱いで一息ついた。
「お疲れ。 前より手際が良くなってるじゃない? 攻撃のタイミングも理想どおりだったし」
麗美に、有理がタオルを手渡す。 ありがとう、と一言添えてから麗美は清潔なタオルを受け取り、汗だらけの髪を拭いた。
今、麗美が体験したのはあらかじめ状況をプログラムされたシミュレーション訓練である。 本物の戦闘ではない。
だが、操縦室内で感じるタイプCの突進音、地面の振動、ミサイルの飛翔音、榴弾の炸裂の衝撃は、まるで本物の戦場に立っていると錯覚させるほどに、リアルだ。
発達したバーチャルリアリティ体感技術はシミュレーションソフトにそこまでの戦場臨場感をもたらす事に成功したが、同時に体験者の受ける緊張やストレスも大きい。
大きいからこそ、訓練に現実感が伴ない、効果が出るという意見もある。
今、麗美が体験したのはあらかじめ状況をプログラムされたシミュレーション訓練である。 本物の戦闘ではない。
だが、操縦室内で感じるタイプCの突進音、地面の振動、ミサイルの飛翔音、榴弾の炸裂の衝撃は、まるで本物の戦場に立っていると錯覚させるほどに、リアルだ。
発達したバーチャルリアリティ体感技術はシミュレーションソフトにそこまでの戦場臨場感をもたらす事に成功したが、同時に体験者の受ける緊張やストレスも大きい。
大きいからこそ、訓練に現実感が伴ない、効果が出るという意見もある。
「さすがに三回もやれば、慣れてくるしね…。 要は、「正解」となる結果を出せばいいんでしょ? 訓練って。
コンピューターゲームとか、学校の試験と同じね。 この場合はこういう行動をすべきって、あらかじめ解が用意されてる。
あとはその通りにやるだけでしょ?」
コンピューターゲームとか、学校の試験と同じね。 この場合はこういう行動をすべきって、あらかじめ解が用意されてる。
あとはその通りにやるだけでしょ?」
そう不適に笑って余裕を見せる麗美だが、その顔には若干の緊張と疲労が見て取れる。
10分間程度のシミュレーションとはいえ、心身に少なからず負担を受けるものなのだ。
麗美が行ったシミュレーション内容は、数日前に玲が新しい訓練メニューとして追加したもので、機士のパイロットは一人ずつ順番に何度も繰り返してこれを受けている。
状況はほぼ同じ。 突進してくるワーム・タイプCをギリギリまで引き付け、レーザー照射による誘導を受けた味方の砲撃によって仕留める。
手順そのものは、以前玲たちの87式が囮になって敵を誘い込み、一網打尽にするという物と同じである。
違うのは、今度は囮役は麗美たち歩兵班も体験するということだ。
10分間程度のシミュレーションとはいえ、心身に少なからず負担を受けるものなのだ。
麗美が行ったシミュレーション内容は、数日前に玲が新しい訓練メニューとして追加したもので、機士のパイロットは一人ずつ順番に何度も繰り返してこれを受けている。
状況はほぼ同じ。 突進してくるワーム・タイプCをギリギリまで引き付け、レーザー照射による誘導を受けた味方の砲撃によって仕留める。
手順そのものは、以前玲たちの87式が囮になって敵を誘い込み、一網打尽にするという物と同じである。
違うのは、今度は囮役は麗美たち歩兵班も体験するということだ。
麗美は今回と合わせて既に三度、この訓練を受けた。
一度目はレーザー照射のタイミングが早くて失敗、打ち漏らしたタイプCの何体かにひき潰された。
二度目は逆にタイミングが遅くて、タイプCを撃破はしたものの、転倒してそのままの勢いで転がってくるタイプCの巨体に衝突され、自分も玉突き事故に巻き込まれて大破した。
流石に二度も失敗を繰り返せば、麗美とて学習する。
シミュレーションの状況は毎回同じで、タイプCの突撃速度は必ず一定なのだ。
決まった状況で決まった行動をして、決まったタイミングで攻撃する、それだけでいい。
一度目はレーザー照射のタイミングが早くて失敗、打ち漏らしたタイプCの何体かにひき潰された。
二度目は逆にタイミングが遅くて、タイプCを撃破はしたものの、転倒してそのままの勢いで転がってくるタイプCの巨体に衝突され、自分も玉突き事故に巻き込まれて大破した。
流石に二度も失敗を繰り返せば、麗美とて学習する。
シミュレーションの状況は毎回同じで、タイプCの突撃速度は必ず一定なのだ。
決まった状況で決まった行動をして、決まったタイミングで攻撃する、それだけでいい。
だが、麗美以外の歩兵班はというと、そのタイミングが掴めず悪戦苦闘している。
シミュレーションソフトの与えるあまりにもリアルな迫力に、焦ったりパニックを起こして操縦ミスをすることもしばしばだ。
以前のシミュレーションでは、玲と咲也が囮役と一手に担うだけ、麗美たちはただ決められた地点で待つだけだったのだから、いざ敵の矢面に立たされる状況になると勝手が違うのは仕方が無い。
それでも、比較的要領のいい麗美はどうにか、シミュレーション攻略のコツを掴み始めたようだ。
自然、態度や発言にも余裕が生まれてくる。
が、しかし、そんな麗美に玲が釘を刺すような発言をする。
シミュレーションソフトの与えるあまりにもリアルな迫力に、焦ったりパニックを起こして操縦ミスをすることもしばしばだ。
以前のシミュレーションでは、玲と咲也が囮役と一手に担うだけ、麗美たちはただ決められた地点で待つだけだったのだから、いざ敵の矢面に立たされる状況になると勝手が違うのは仕方が無い。
それでも、比較的要領のいい麗美はどうにか、シミュレーション攻略のコツを掴み始めたようだ。
自然、態度や発言にも余裕が生まれてくる。
が、しかし、そんな麗美に玲が釘を刺すような発言をする。
「ま、今回のはそういう設定だけどね。 でも、訓練には決まった正解が存在しないものだってあるけど?
思考力や判断力を求められるようなのは、ある状況下と制限下で、一から作戦や行動を組み立てて正解を導き出さないといけない。
それが本当に正しいのか、もっと効率のいい方法は無かったのか、もっと損害を抑える勝ち方はなかったのか、それが最善だったのか…
成績優秀な麗美中隊長には、そういう「幹部教育向け」の高度なシミュレーションを組んであげたほうがいい? 次からそうする?」
思考力や判断力を求められるようなのは、ある状況下と制限下で、一から作戦や行動を組み立てて正解を導き出さないといけない。
それが本当に正しいのか、もっと効率のいい方法は無かったのか、もっと損害を抑える勝ち方はなかったのか、それが最善だったのか…
成績優秀な麗美中隊長には、そういう「幹部教育向け」の高度なシミュレーションを組んであげたほうがいい? 次からそうする?」
「やめてよそういう意地悪! 私まだ何が正しくてとか指揮官としてとか、作戦立てるとか、そういうのまだ勉強して無いんだから!」
玲がニヤニヤしながらそんな事をいいだすので、麗美がやや泣きそうな顔になりながらうーうー!と唸って抗議する。
有理はそれを見て苦笑する。 麗美は最近、訓練や座学には人一倍熱心であるが、まだ「歩兵としての基礎」の域を出ていない。
自信とやる気を付けて貰うのはいい事だが、調子に乗られて努力や成長を怠られても困る。
ちょっと伸びるたびに、誉めると同時に「あんたには、まだまだ目指す上があるのよー?」と背中を叩く事も忘れない。
意地悪教官も、生徒も、大変だな、とその辺の事情を由香里経由で知らされている有理は思った。
有理はそれを見て苦笑する。 麗美は最近、訓練や座学には人一倍熱心であるが、まだ「歩兵としての基礎」の域を出ていない。
自信とやる気を付けて貰うのはいい事だが、調子に乗られて努力や成長を怠られても困る。
ちょっと伸びるたびに、誉めると同時に「あんたには、まだまだ目指す上があるのよー?」と背中を叩く事も忘れない。
意地悪教官も、生徒も、大変だな、とその辺の事情を由香里経由で知らされている有理は思った。
プシュ、という音がして82式の背部装甲が解放される。
昇降タラップをゆっくりと踏みしめて、麗美と同様汗だらけの頭になった真璃が下りてきた。
昇降タラップをゆっくりと踏みしめて、麗美と同様汗だらけの頭になった真璃が下りてきた。
「…無理だこんなの。 何回やってもタイプCの何割かが生き残って前衛が死んじゃうし。
ミサイルも榴弾も、発射から着弾まで時間が空きすぎるんだよ、レーザー照射が始まってから撃ったんじゃ間に合わない」
ミサイルも榴弾も、発射から着弾まで時間が空きすぎるんだよ、レーザー照射が始まってから撃ったんじゃ間に合わない」
「そこをまでわかってるなら、後は答えも出来てるものじゃないの?
どうせ攻撃する地点は決まってるのだし、タイプCの速度や着弾までの時間を計算して、榴弾の効力射のタイミングを合わせるとか、
あらかじめミサイルを発射して空中で待機させておくとか。 初李はそうやってるけど?」
どうせ攻撃する地点は決まってるのだし、タイプCの速度や着弾までの時間を計算して、榴弾の効力射のタイミングを合わせるとか、
あらかじめミサイルを発射して空中で待機させておくとか。 初李はそうやってるけど?」
有理は真璃にもタオルを渡し、こぼす愚痴に対して的確なアドバイスを行う。
真璃は苦笑いしながら「数学は苦手なんだぜ」と返した。
砲兵班、真璃や初李が行っているのは麗美のシミュレーションのシチュエーションを入れ替えたもので、
囮役となっている87式や89式を死なせないように、タイプCを砲撃によって撃破するという目標設定になっている。
難易度は少々高めに設定されており、出現するタイプCの数も多い。
真璃は当初、遠距離から的確にタイプCを狙撃して潰していく方法を取っていたが、流石に間に合わないので教科書どおりの広範囲面制圧に切り替えた。
100発100中の砲1門があっても、無数の敵は倒せないと学んだのだ。
真璃は苦笑いしながら「数学は苦手なんだぜ」と返した。
砲兵班、真璃や初李が行っているのは麗美のシミュレーションのシチュエーションを入れ替えたもので、
囮役となっている87式や89式を死なせないように、タイプCを砲撃によって撃破するという目標設定になっている。
難易度は少々高めに設定されており、出現するタイプCの数も多い。
真璃は当初、遠距離から的確にタイプCを狙撃して潰していく方法を取っていたが、流石に間に合わないので教科書どおりの広範囲面制圧に切り替えた。
100発100中の砲1門があっても、無数の敵は倒せないと学んだのだ。
「ま、実戦とかあるいは複数共同でのシミュレーションの時は、計算とか数値の設定は初李にまかせないさい。
真璃は射撃の成績で82式の担当に選ばれたんだから、積極的に活躍してもらう時は直接照準射撃が必要になるときでいいから。
大口径砲、撃ちたいんでしょ?」
真璃は射撃の成績で82式の担当に選ばれたんだから、積極的に活躍してもらう時は直接照準射撃が必要になるときでいいから。
大口径砲、撃ちたいんでしょ?」
「撃っていいの!?」
玲の言葉に思わず顔を輝かせて反応する真璃。
実際、彼女の得意技能分野は綿密な計算とタイミングを計ってスケジュールどおりに攻撃を行う砲兵というよりも、
歩兵に属する狙撃兵のものに合致していると、適性試験の結果が出ている。
しかし、生身の歩兵…17~18世紀まで存在した猟兵・狙撃兵といった兵科は機士で戦う時代になってから既に消滅しており、
かろうじて砲兵の運用・任務の中に組み込まれているのみだ。
しかも直接照準で砲弾が真っ直ぐ飛ぶ砲は、機士同士の戦争にはさほど大口径高威力のものは必要ないのである。
機士は確かに、生身の歩兵の携行できる火器では太刀打ちできない装甲防御力を持つが、それでも30ミリ以上の砲ならば充分胸部正面装甲を貫徹する。
腕や脚を破壊するのにも20ミリ以上あれば充分であり、それゆえに歩兵型機士の武装のサイズも決定された。
そして、小銃が単発のものからフルオートできるアサルトライフルに変わったように、一発一発狙って撃つよりもより多くの弾幕を展開したほうが有利である。
こうした理由から、歩兵型機士の戦闘は「掃射」が主なものになり「狙撃」は消えた。
しかし、砲兵の分野では、砲兵型にしか運用できない90ミリ以上の大口径砲による遠距離(3~5km)直接射撃はニーズがあったため、
狙撃は砲兵の仕事となったのである。
とくに、誘導ミサイルが誕生する前は砲兵のロングレンジ射撃は戦場の花形であった。
一定の条件下では騎兵型や歩兵型は砲兵型に接近する間すら与えられず、一方的に撃破されたため、これに対抗できるのも同様の砲兵型だけという時代すら生んだ。
(歩兵型や騎兵型の装備する砲でも砲兵の距離まで届かない事は無いのだが、遠すぎるため威力が減退し有効弾にならなかった)
実際、彼女の得意技能分野は綿密な計算とタイミングを計ってスケジュールどおりに攻撃を行う砲兵というよりも、
歩兵に属する狙撃兵のものに合致していると、適性試験の結果が出ている。
しかし、生身の歩兵…17~18世紀まで存在した猟兵・狙撃兵といった兵科は機士で戦う時代になってから既に消滅しており、
かろうじて砲兵の運用・任務の中に組み込まれているのみだ。
しかも直接照準で砲弾が真っ直ぐ飛ぶ砲は、機士同士の戦争にはさほど大口径高威力のものは必要ないのである。
機士は確かに、生身の歩兵の携行できる火器では太刀打ちできない装甲防御力を持つが、それでも30ミリ以上の砲ならば充分胸部正面装甲を貫徹する。
腕や脚を破壊するのにも20ミリ以上あれば充分であり、それゆえに歩兵型機士の武装のサイズも決定された。
そして、小銃が単発のものからフルオートできるアサルトライフルに変わったように、一発一発狙って撃つよりもより多くの弾幕を展開したほうが有利である。
こうした理由から、歩兵型機士の戦闘は「掃射」が主なものになり「狙撃」は消えた。
しかし、砲兵の分野では、砲兵型にしか運用できない90ミリ以上の大口径砲による遠距離(3~5km)直接射撃はニーズがあったため、
狙撃は砲兵の仕事となったのである。
とくに、誘導ミサイルが誕生する前は砲兵のロングレンジ射撃は戦場の花形であった。
一定の条件下では騎兵型や歩兵型は砲兵型に接近する間すら与えられず、一方的に撃破されたため、これに対抗できるのも同様の砲兵型だけという時代すら生んだ。
(歩兵型や騎兵型の装備する砲でも砲兵の距離まで届かない事は無いのだが、遠すぎるため威力が減退し有効弾にならなかった)
真璃が大口径砲に拘るのも、そのような砲兵の輝かしい功績があった事に一員する。
函館戦争においても明治新政府軍と幕府軍残党は五稜郭要塞において砲兵同士による激しい戦闘を行い、地元の歴史を知る真璃にとってはそれは憧れなのだ。
函館戦争においても明治新政府軍と幕府軍残党は五稜郭要塞において砲兵同士による激しい戦闘を行い、地元の歴史を知る真璃にとってはそれは憧れなのだ。
「まあ…真璃が今のプログラムをクリアできるようになったら次はタイプDを混ぜた編成で、全体で対抗砲撃の訓練をやるから、
その時は90ミリでも105ミリでも、好きな砲を装備していいけどね。 今は、当面の目標に専念して?」
その時は90ミリでも105ミリでも、好きな砲を装備していいけどね。 今は、当面の目標に専念して?」
「ほんとだな? 約束するな? やったあ!」
砲が撃てる、となると真璃は嬉しくなってすぐ側にいた有理に抱きついた。
有理が赤くなって驚き、「ちょ、ちょっと真璃! 落ち着いて!」と抗議するが、有頂天となっている真璃の耳には届かない。
やれやれ、と玲は苦笑いしながらため息を付いた。
餌を真璃の目の前にぶら下げて、釣るようで悪いがこれで当人がやる気を出してくれるなら安いものだ。
第4中隊は全体的にどうも、訓練に対する意欲というかモチベーションが足りない。
一人一人を宥めたり煽てたり条件を提示したりして、積極的に訓練に身が入るようにしてもらうのは中々に骨が折れると玲は思った。
有理が赤くなって驚き、「ちょ、ちょっと真璃! 落ち着いて!」と抗議するが、有頂天となっている真璃の耳には届かない。
やれやれ、と玲は苦笑いしながらため息を付いた。
餌を真璃の目の前にぶら下げて、釣るようで悪いがこれで当人がやる気を出してくれるなら安いものだ。
第4中隊は全体的にどうも、訓練に対する意欲というかモチベーションが足りない。
一人一人を宥めたり煽てたり条件を提示したりして、積極的に訓練に身が入るようにしてもらうのは中々に骨が折れると玲は思った。
「むっきー! どうしても勝てない! 敵が強すぎるよ!! どうしてもっと簡単な訓練にしないのさー!?」
「散乃ちゃん、簡単にしちゃったら訓練にならないってば…」
シミュレーションの目標が達成できず、いかにも不機嫌そうな声と、それを宥める声が聞こえてくる。
見ると、難易度の高さに何度挑んでもクリアできないゲームに苛立つ子供のような散乃を前に大ちゃんと由香里が困ったような顔をしているのが見えた。
見ると、難易度の高さに何度挑んでもクリアできないゲームに苛立つ子供のような散乃を前に大ちゃんと由香里が困ったような顔をしているのが見えた。
「今度はあっちか…」
誰も彼もが問題を抱え、先は長い。
玲はまた一つため息をつく。 しかし、残された時間の余裕は第4中隊を待っていてはくれなかった。
玲はまた一つため息をつく。 しかし、残された時間の余裕は第4中隊を待っていてはくれなかった。
同日
北斗市防衛線 第28連隊第1中隊防衛陣地
北斗市防衛線 第28連隊第1中隊防衛陣地
アスファルト舗装された道路に重い足音を響かせながら、100体ものワーム・タイプCたちの突進が始まる。
始めはゆっくりと、そして次第に加速がつくと共に踏み鳴らす足音は無数の大砲を連続で全力射撃しているかのような轟音の嵐となる。
そして震わせるのは大気と鼓膜だけではない。
道路を伝わり、強度の地震かと錯覚するような恐ろしい振動が周囲の家屋を激しく襲い窓ガラスが各所で割れ落ちる。
それはまるで津波だ。 全てを飲み込み、押し流す濁流だった。
4mと数十トンの巨体が鳴り響かせるそれは、立ちはだかるものを容赦なく押しつぶし蹂躙するだろう死の突進だ。
始めはゆっくりと、そして次第に加速がつくと共に踏み鳴らす足音は無数の大砲を連続で全力射撃しているかのような轟音の嵐となる。
そして震わせるのは大気と鼓膜だけではない。
道路を伝わり、強度の地震かと錯覚するような恐ろしい振動が周囲の家屋を激しく襲い窓ガラスが各所で割れ落ちる。
それはまるで津波だ。 全てを飲み込み、押し流す濁流だった。
4mと数十トンの巨体が鳴り響かせるそれは、立ちはだかるものを容赦なく押しつぶし蹂躙するだろう死の突進だ。
その突進を前にして、機士用の塹壕に下半身を埋めて待ち構える数十台の89式とそのパイロット達は
大型ハリケーンに脅える子供のように、できるだけ姿勢を縮こまらせながら40ミリ機関砲を構えて射撃姿勢を取っている。
窮屈な操縦室の中では、パイロットが汗をかきながらヘルメットと一体化したHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示されている照準を見つめている。
グリップを握る手は誰しも明らかにに震えている。 緊張のためであり、あるいは恐怖のために。
大型ハリケーンに脅える子供のように、できるだけ姿勢を縮こまらせながら40ミリ機関砲を構えて射撃姿勢を取っている。
窮屈な操縦室の中では、パイロットが汗をかきながらヘルメットと一体化したHMD(ヘッドマウントディスプレイ)に表示されている照準を見つめている。
グリップを握る手は誰しも明らかにに震えている。 緊張のためであり、あるいは恐怖のために。
砲兵の効力射はさっきからひっきりなしに降り注いでいるというのに、タイプCたちの突進の勢いは少しも揺らぐ事が無い。
背に、足元にロケット弾や榴弾の直撃を受け、事前に仕掛けた地雷が炸裂し、多くの仲間が脚を千切り飛ばされて倒れても、
それを尚上回る数のタイプCが後ろからやってきて、死骸を乗り越え、勢いを殆ど殺すことなく真っ直ぐに進軍してくるのだ。
明らかに、火力が足りなかった。 後方で全力射撃を継続している砲兵の82式は27台、無人制御の自走榴弾砲は20門。
さらに仕掛けた大型地雷は300個、それでも、ワームの全力の突撃を阻止するのに全く数が不十分なのだ。
背に、足元にロケット弾や榴弾の直撃を受け、事前に仕掛けた地雷が炸裂し、多くの仲間が脚を千切り飛ばされて倒れても、
それを尚上回る数のタイプCが後ろからやってきて、死骸を乗り越え、勢いを殆ど殺すことなく真っ直ぐに進軍してくるのだ。
明らかに、火力が足りなかった。 後方で全力射撃を継続している砲兵の82式は27台、無人制御の自走榴弾砲は20門。
さらに仕掛けた大型地雷は300個、それでも、ワームの全力の突撃を阻止するのに全く数が不十分なのだ。
残り距離が1km地点に到達した段階で、89式の40ミリ機関砲が一斉に火を吹く。
曳光弾が先頭のワーム集団に浴びせられてゆき、何体かを瞬く間に倒したが、勢いは止まらない。
何度も弾倉を交換し、途切れることなく弾幕を形成し、砲身が焼け付き始めるまで阻止射撃を行ったが、大洪水のようなタイプCの
突撃行動を食い止める事は叶わなかった。
曳光弾が先頭のワーム集団に浴びせられてゆき、何体かを瞬く間に倒したが、勢いは止まらない。
何度も弾倉を交換し、途切れることなく弾幕を形成し、砲身が焼け付き始めるまで阻止射撃を行ったが、大洪水のようなタイプCの
突撃行動を食い止める事は叶わなかった。
直前になって胴体前面のツノを地面スレスレまで低く構え、衝突と同時に闘牛のように振り上げた一体のタイプCに胸部装甲を
貫かれた89式が塹壕から弾き飛ばされ、後方に大きく吹っ飛んで道路上に投げ出される。
その隣の戦友、別の89式もタイプCのタックルを食らって右腕を肩の付け根からもぎ取られ、塹壕内に押し倒された。
太い足に頭部を踏みつけられ、操縦室内で装甲ごと押しつぶされる者、腹部装甲を貫かれてさらに突き刺されたまま脇の建物に
叩き付けられる者、跳ね飛ばされて転び、その上を通過する数十匹のタイプCに次々と踏みつけられ轢き殺される者、
一度跳ね飛ばされた後に別のタイプCに突き刺される者、阿鼻叫喚の地獄が彼らを襲っていた。
彼ら第1中隊の兵士たちは操縦室の中で圧死したり、胴体を串刺しにされるなどして機士の機体を自らの棺として殺されていった。
タイプCが防衛陣地を蹂躙し、通過して行った後に生き残っている機体は殆ど無く、運良く生き残っていた兵士も
その後にタイプAやタイプBを護衛として随伴させたタイプDたちの群れに踏み潰されるか、特に悲惨なものは腕や脚を破損し
身動きの出来ない状態で脱出もままならずタイプAによって装甲を引き剥がされで機士から引きずり出され、その触手と牙で直接体を引き千切られた。
貫かれた89式が塹壕から弾き飛ばされ、後方に大きく吹っ飛んで道路上に投げ出される。
その隣の戦友、別の89式もタイプCのタックルを食らって右腕を肩の付け根からもぎ取られ、塹壕内に押し倒された。
太い足に頭部を踏みつけられ、操縦室内で装甲ごと押しつぶされる者、腹部装甲を貫かれてさらに突き刺されたまま脇の建物に
叩き付けられる者、跳ね飛ばされて転び、その上を通過する数十匹のタイプCに次々と踏みつけられ轢き殺される者、
一度跳ね飛ばされた後に別のタイプCに突き刺される者、阿鼻叫喚の地獄が彼らを襲っていた。
彼ら第1中隊の兵士たちは操縦室の中で圧死したり、胴体を串刺しにされるなどして機士の機体を自らの棺として殺されていった。
タイプCが防衛陣地を蹂躙し、通過して行った後に生き残っている機体は殆ど無く、運良く生き残っていた兵士も
その後にタイプAやタイプBを護衛として随伴させたタイプDたちの群れに踏み潰されるか、特に悲惨なものは腕や脚を破損し
身動きの出来ない状態で脱出もままならずタイプAによって装甲を引き剥がされで機士から引きずり出され、その触手と牙で直接体を引き千切られた。
この日、それまで長らく持ちこたえていた北斗市防衛線は陣地の一画を食い破られてワームの機動突撃部隊に突破され、
ワームの進撃を止める事の出来なくなった他の防衛陣地も大きく後退を余儀なくされる。
阻むものの居なくなったワーム群は北斗市中心部を完全占領、大きな損害を受けた第28連隊はこれまでで最大と言える苦境に立つことになった。
ワームの進撃を止める事の出来なくなった他の防衛陣地も大きく後退を余儀なくされる。
阻むものの居なくなったワーム群は北斗市中心部を完全占領、大きな損害を受けた第28連隊はこれまでで最大と言える苦境に立つことになった。
続く
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