創作発表板 ロボット物SS総合スレ まとめ@wiki

ep.2

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ParaBellum

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だれでも歓迎! 編集
A226
<<A226よりAWACS 聞こえるか?>>

A226…。
これは俺の作戦コードだ。
コールサインはどうも馴染めなくてな。
結局最後までこれだった。

AWACS
<<A226 感度良好、用件を言ってくれ>>

まず俺は交戦前規定通り、
UAV(※1)による敵機体のスキャンを最優先にした。
殆どの場合はこれで機体の判別が可能で、
機体が判れば何が目的かは大体予想がついたからだ。

A226
<<敵機体の詳細が知りたい。エリアA11 B9 C101に広域型UAVを飛ばしてくれ>>

AWACS
<<了解。…UAVを射出した、しばらく待機しろ>>

A226
<<了解>>

俺は指で部隊に合図を送ると
UAVの結果を待った。

間もなくして
AWACSから送られて来た情報。
その内容に俺は耳を疑った。

AWACS
<<A226 敵の機体コードが判明した>>

AWACS
<<機体コードはフェリス>>

AWACS
<<主兵装はドライブと思われる>>

AWACS
<<繰り返す、敵機体はフェリス・ドライブ>>


A226
<<……………本気かよ>>

一瞬の沈黙。
きっと隊の誰もが言葉を失っただろう。

フェリスにドライブ…。
今思えば最初から出し抜かれてたのかも知れないな。
聴いた瞬間に度肝を抜かれたよ。

ちなみに、
フェリスってのは偵察用の超軽量機体でとにかく軽い。
機動性を優先するが故に装甲は紙みたいなもんで、
射撃はともかくあの機体で格闘なんて自殺行為そのものだ。
それがどうだ、
主兵装はドライブって結果が返ってきやがった。
ドライブってのは強襲用アサルト兵装だ。
おかげで若い頃に訓練学校で出会った、
上半身裸で突っ込んでくるサワダとか言うカミカゼ野郎を思い出した。
足りない分は気合で何とかってな。
実際、精神論で勝てると思ってるのか?
この火力の差を縮めてまで?
ったく、
セオリーなんて通用しない相手にまた出会っちまった。
俺はそう思った。
そうさ、心から思ったね。

こんな厄介な相手が今年のクリスマスプレゼントかと思うと運命を呪いたくもなるさ。

機体コードは判った。
敵はフェリス・ドライブ。
偵察機体に強襲装備って事は奴に逃げる気は無い。
正面からこちらに挑むってのも嫌いじゃない。
それは賞賛に値するだろう。
後はパイロット次第って事…か。
俺は体の底から湧き上る高揚感と恐怖で体が震えた。
そして、
どんな奴と戦っても感じ得なかった感覚をその時に味わった。
そう神経の全てが研ぎ澄まされていくあの感じだ。
やっぱり似た者同士って言うやつなんだろうな。
部隊の奴らも同じ感覚を味わったと聞いた。

不謹慎かも知れないが胸が嫌というほど高鳴るんだ。
奴との戦いを急かす様にな。
知ってるか?
そういう時は体も気を利かせるのか視界が異様なほど良くなる。
瞳孔が開いてるっていうのかね、
何でも見える、暗闇なんて関係ないそんな感じさ。
体のセンサーもやばいくらいに冴えてて、
どんな気配も逃す気がしなかった。
極稀に、…いや一生に一度会えるか会えないかの強敵出現ってな。
そう思わせる要素を奴は十分に持っていた。
ほんと安易にそう思えたよ。

俺はAWACSからの情報を照合しながら短いブリーフィングを始めた。
野営地として使用していた場所は背が高く幹の太い木々が密集している。
樹海とまではいかなかったが、かなりの密林には違いなかった。
奴を迎え撃つには絶好の場所だ。
しかし相手の目的が判らないままどうやって迎え撃つってんだ?
残念だがこれじゃあ迎え撃ちようが無い。
網を張るにも今回のエリアじゃ広過ぎだ。
何でそんな広い土地に野営地を設けたかって?
上層部のアホ共が俺のヘマを理由に見せしめとして勝手に飛ばしたんだよ。
俺の趣味に森林浴なんて優雅な項目はないからな。
だけどここは警戒地域でもなければ奴らが進行してくるルートでもない。
言ってしまえば国境から離れたただの森だ。
流刑の地には丁度良いんだろう。
まあ、
情勢的にも終戦間近だったし上の連中も安心しきってたんだろう。
なんせ領地の90%以上を俺達エイジスが握ってたからな。
セスレンの軍隊じゃこちらの包囲網を突破するのは不可能に近い。
そんな時に本営が突然襲撃される!
なんてのもまずあり得ない。
これから忙しくなる中央部に俺みたいな面倒を起こす輩は居させたくなかったんだろうさ。
この判断が後に大変な事になるってのに。
…いや違うな、
実際にはもうなってたんだ。

っと話がズレた、
本題に戻そう。

まあこんな状況で、
こちらが適当に動けば各個撃破されかねない。
奴からすれば獲物が自分から歩いて来るんだ。
木の隙間から狙えばそれですむ。
こちらがやりたい事をやられるだけさ。
さらに奴は何らかのステルス機能を装備していた。
AWACSからの情報以降奴の姿が見当たらないんだ。
ほんとイレギュラーな場所に、
イレギュラーな奴が来ちまった。

単体で乗り込んで来た上に目的不明。
一機だけってのは余裕の表れってやつなのかね。
ちょっとイラついたぜ。
それに対して俺の隊は4人。
俺の他にトム、ジェリー、ブルだ。
ん?
どこかで聞いた名前だって?
そりゃそうさ、子供の頃に見たアニメからそのまま借用した。
発表したときは凄いブーイングの嵐だったぜ。
そこはそれ、命名権は隊長の特権ってやつで押さえ込んだがな。

今回の戦いは4対1。
これを卑怯と思う奴は論外だな。
今は風車が回る騎士様の時代じゃねぇ。
まして仮想敵と暢気に撃ち合うFPSゲームでもない。
戦いにおいて絶対的戦力で相手を叩くのは当たり前だからな。
さらに今回の相手は特別だ。
奴に4人で勝てるのか?
少し、ほんの少しだ。
俺は内心でそう思ってた。

様子見を兼ねて俺達はツーマンセルで行動を開始した。
遠距離戦闘は考えて無かった。
無難な中・近距離用装備で向かったよ。
狙撃用の兵装なんてかったるい物を俺の隊で持ってる奴はいなかった。
左の時計周りが俺とブル。
右の反時計周りがトムとジェリーだ。
AWACSの出した到着予測エリアに近づいた時、
俺は通信をオープンにするよう命令した。
それと同時に全員のメインスクリーンに交戦規定が表示された。
色々と規約があったが、
うちの国は先手必勝がモットーだった。

俺達は狭い森の中をV字に近い隊形でゆっくりと回った。
何せレーダーにも映らない相手だ、慎重にもなる。
そして、
レーダーに不明のノイズが乗り始めやがったんだ。

jerry
<<予測エリアに到着。周りに気配はありません>>

一番乗りはジェリーだった。
辺りは静かなままだ。
俺達以外の機動音は聞こえない。
それでも俺とブルは警戒しながら現場へと向かった。

俺は全員がレーダーに映る距離を保って辺りを見渡した。
デカイ木ばかりで何も見えやしない。
サーマルで覗いた感じも変化なしだ。
俺達の熱源が煌々と映るだけだった。
ノイズの量は増えつつあったが…。
現場近くに到着する頃、隊形は自然とスクエアとなっていた。
100m前後の間隔はあっただろう。
この距離なら何があっても援護は可能だ。

居ないか…。
まあ、そうだろう。
コンピュータ通りの予測地点に現れるほどチープな相手じゃない。
俺は顎に手を当てると奴の行動を考え始めた。
だがな、
考えてわかるような相手じゃなかった。
奴はすでに俺の予想を上回る行動に出ていたんだ。

jerry
<<ん、なんだ?超近距…、0m反応!? ど…なっ、わ…>>

通信が途切れた瞬間だった。
車が潰れる様な音に続いて鈍い金属音が数発鳴り響く。
あたりが一気に明るくなると地響きと共に爆発が起きた。
モニターにはその爆発が映し出される。
ジェリーの方角だ。
サブモニタに映る部隊リストからはジェリーの名前が消えた。
俺たちの乗るウォーカーには搭乗員の心拍を計る計器が付いてる。
降りてる時は動作しないのはもちろんだがやられたときもこれが消えちまう。
それによってある事がわかるのさ、あんたにもわかるだろう?
動力源にはリアクター搭載とまでは行かないが大量の圧縮燃料を使う。
高出力の駆動機関を動作させる為には驚くくらいのエネルギーが要る。
それが爆発するんだからな凄まじい光景さ。

通信から僅か数秒の出来事だった。
奴は何の反応も残さずにジェリーを殺った。
後に聞こえた金属音は何だ…?。
何にやられたっていうんだ。
熱源が強過ぎて識別出来ない。
レーダーにも移動反応は皆無だった。

tom
<<ジェリー! おいジェリー応答しろ!!>>

耳をつんざくようなトムの叫びがスピーカーから聞こえた。
それに続いて聞こえる乾いた銃声はトムの持つカービンだろう。
乱射気味でないところを見ると冷静でいられたようだ。
しかし、あの爆発ではもう…。
残念だがそう思うしかない。

tom
<<226!ジェリーがやられたっ!他の詳細は不明だ!>>

tom
<<奴は突然上空から現れた!上方の木々に注意してくれ!>>

通信後、数発の発射音が聞こえると辺りは再び静けさを取り戻す。
ジェリーがやられた方からは生木の焼ける音が聞こえる。

ちくしょう。
メインアームの中で俺は拳を握り締めた。
早い、
早すぎる。
まさかこんなに早く一人がやられるとは…、
俺は思ってもいなかった。

機体も奇抜なら行動も奇抜ときた。
軽装機体ならではかどうかは知らんが、
実際に奴はサルの真似事をしてみせたんだ出来ない芸当じゃないんだろう。
ステルスの性能も異常な効き方だ。
一度集まらないと今度はトムがやばい。
一瞬でジェリーを沈める相手だ。
さすがに1対1じゃ分が悪すぎる。

A226
<<tom 辺りを警戒しながらA11E2へ戻れ。こちらも向かう>>

その場所は森を抜けた先にある小さな空き地だ。
大きな岩山もあり背後を取られる心配は無い。
前方には大小の木々がありその隙間を使えば盾にはなるだろう。
相手の行動を見て行動するには最適な場所だ。
俺はブルと共にいつもとは違う場所を警戒しながら進んだ。
森の木々に嫌な威圧感を感じた。
風のざわめきが悪魔のささやきにも聞こえた。
得体の知れない何かが迫ってくるそんな感じだ。

俺達は完全に奴の気迫に飲まれていた。
思い起こせば焦ってただけかもしれない。
だとしてもだ、
一度立て直さないと一気に畳み掛けられちまう。
嫌なことは立て続けと言われるからな。

俺は嫌な気分を払拭しようと大きく息を吸い込んだ。
その時だった。

bull
<<226 2…の方向、アンノウ…>>

ブルからノイズ交じりの警戒通信が届く。
その内容に全神経が研ぎ澄まされる。
例えられない視界が目の前に広がる。
夜とは思えないほど辺りが鮮やかに見える。
そして、気づけばレーダー機器が効いちゃいない。
目に頼り過ぎたか逆に機器の不調に気づくのが遅れた。
ジェリーが殺られた辺りだろう。
通信ノイズの感じからも小域のECMを掛けられたようだ。
チマチマと本当に厄介な相手だ。
しばしの沈黙の後、ブルの警戒は解かれる。
ブルが見たのは動物か何かだろう。
こういう時にサーマルレーダーが使えないのは致命的だ。
俺とブルは警戒しながら森の中を進んだ。
間もなくすると森が開け俺達とトムは無事に合流を果たした。
そのときはほんとホッとしたよ。
3機と2機じゃ火力が雲泥の差になっちまう。
当時の俺はこんな事を考えていた。

…まったく、
俺が平凡なエース以上になれないのはこう言う甘さなんだろう。
聞いてくれ。
本来、多対少で戦闘に入った場合、各個撃破がセオリーだ。
展開したところをうまくあしらって個々を消していく。
方法は様々だが地道に削っていく戦法だ。

だけど今回は違った。

奴は最初にジェリーを殺った時点でこちらの兵装を見極めていたんだ。
ミドルからヘビーの重量機体ってな。
事実、カスタムしてようとも俺の基礎はヘビー仕様で、
隊のやつらは全員ミドル機体のカスタムだった。
通して言える事は足が遅い。
まあ、俺のは早かったが一人だけ早くてもスタンドプレイ以外に意味は無い。
迎え撃つ俺達が圧倒的な優位性を持ってても良いんだがな。
孤立無援でレーダーも効かないとなっちゃぁ、流石に動けない。
ほら、昔の映画であったろう。
エイリアン一匹を迎え撃つつもりが逆にやられちまうってやつがさ。
それと同じさ、得体の知れない相手に隊形を崩せばそこから一瞬で崩壊しちまう。
個々に動けばそれこそ各個撃破の餌食さ。
俺が行ってる間に他の二人をやっちまいそうな相手だ。

最悪な状況で最悪な相性を引っさげちまった。
奴の目的は最初から俺達をこの一箇所に集める事だったのさ。
それだけでしかなかったんだよ。
一人殺られて判断が鈍ってた…。
なんてな、素人まがいの言い訳すらしちまいたくなる状況だったぜ。

そう言って冷めたコーヒー飲み干すと、
カーティスは大きなため息をついた。

で、どんな作戦だったかって?
俺がその時思っていたのは速い足を使ってこちらを殲滅する。
たったこれだけの事だ。
木の間から撃たれたら足を使ってるかどうかなんてわからんが、
立ち止まって撃つ馬鹿は居ないだろう。
マズルの光で場所がバレちまうからな。
一人時間差じゃないが奴の足の速さならそれが可能だ。

…まあ。
結果的には足だけじゃなかったところもある。
今の彼の顔は
認めたくは無いが認めざる得ないといった表情か。
私は徐々にフェリスと言われる機体のパイロットにも
興味を持ち始めていた。

しかしだ!
考えても見ろ1対3の状況下でだぞ?
地形の効果は五分だ。
圧倒的な差になるのは奴の足の速さだけだろう?
今回はジェリーの時の様な不意打ちにも対応出来る。
…はずだ。
普段なら。

空のコーヒーカップを持ち力説を始めるカーティス。
テンションの上がり下がりが激しい。
だんだん彼の言葉が言い訳っぽく聞こえ始めたと思うのは私だけだろうか。

一箇所に固めて足で翻弄するなんて普通の状況では到底有り得ない。
いや、普通じゃなくても有り得ないな。
奴の動かすフェリスだからこそ可能としたんだ。
俺はそう思いたい、思わないと納得がいかないからな。

「…ふむ。」

これはある意味褒めていると言っても良いだろう。
彼の中でフェリスのパイロットが色々と特別なのは十分にわかる。
しかし、それだけなのだろうか…。
私は頭の中で何かが引っかかっていた。
何と言えばいいのだろうか、
…まあそのうち自分でも気づくだろう。
今は彼の話を聞くことが先決だ。

カップにコーヒーを注ぎながら彼は話を続ける。

さらに辺りは高い木々が乱立していて上からの攻撃も考えられた。
木の間に僅かな動きがあっただけでも銃口を向けた。
隊の息遣いが聞こえるほど俺達の神経は張り詰めていたんだ。
こんな状況でも余裕はあったんだぜ?
今度はこちらが奴を迎え撃つんだからな。
ビビッてばかりいられるかってんだ。
一応勝算だってあったしな。

補足

(※1)
UAV - 無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle)の略。
   本作品で登場するスキャン用UAVは使い捨てでミサイル形状の射出されるタイプの為、
   現場まで行くのは速いが細かい操作は殆ど受け付けないと言った感じです。
   (大雑把な誘導は可能とします)
   したがってプレデターのように操作して動き回るタイプでは無いです。
   そもそも航空機として扱われて無いので雰囲気としてとらえていただけると幸いです。

(※2)
先進国オリュンポス 
   士郎正宗氏の漫画「アップルシード」に登場する科学の発展した仮想の国家です。
   氏の描く漫画が好きなのもありますが、
   作品に登場するLM(ランドメイト)と言われるパワードスーツが
   ウォーカーのイメージに一番しっくりくるので技術協力と言う曖昧な設定で登場です。
   パロディ以外ではどうやっても出来ない設定ですね…。


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